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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-154201(P2021-154201A)
(43)【公開日】2021年10月7日
(54)【発明の名称】培養液調整装置、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 19/00 20060101AFI20210910BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20210910BHJP
   B01D 71/36 20060101ALI20210910BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20210910BHJP
   B01D 61/00 20060101ALI20210910BHJP
   C02F 1/20 20060101ALI20210910BHJP
   C12M 1/04 20060101ALI20210910BHJP
【FI】
   B01D19/00 H
   C02F1/44 A
   B01D71/36
   B01D69/00
   B01D61/00
   C02F1/20 A
   C12M1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2020-55886(P2020-55886)
(22)【出願日】2020年3月26日
(71)【出願人】
【識別番号】000106760
【氏名又は名称】CKD株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅
【テーマコード(参考)】
4B029
4D006
4D011
4D037
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029BB01
4B029CC01
4B029DB16
4D006GA32
4D006GA35
4D006KB14
4D006MA03
4D006MA31
4D006MB10
4D006MC30
4D006MC44
4D006PB62
4D006PB64
4D006PC80
4D011AA17
4D011AD06
4D037AA01
4D037BA23
(57)【要約】
【課題】培養液調整装置において、ガス交換部からの培養液の漏れを抑制しつつ、培養液中の気体濃度を調整するのに必要な時間を短縮する。
【解決手段】培養液調整装置では、培養液が流れる第1流路(64)と気体が流れる第2流路(55)とが、ガス交換膜(70)を介して隣接している。培養液調整装置は、培養液の中の気体の濃度を調整する。ガス交換膜は、繊維状の疎水性材料により膜状に形成され、粒子を内部で捕捉することが可能である。培養液調整装置では、第1流路から第2流路へ培養液が漏れ出さない範囲で、第1流路の内部の培養液の圧力が、第2流路の内部の気体の圧力よりも高く設定される。
【選択図】 図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養液が流れる第1流路と気体が流れる第2流路とが、ガス交換膜を介して隣接しており、前記培養液の中の前記気体の濃度を調整する培養液調整装置であって、
前記ガス交換膜は、繊維状の疎水性材料により膜状に形成され、粒子を内部で捕捉することが可能であり、
前記第1流路から前記第2流路へ前記培養液が漏れ出さない範囲で、前記第1流路の内部の前記培養液の圧力が、前記第2流路の内部の前記気体の圧力よりも高く設定される、培養液調整装置。
【請求項2】
前記第1流路が形成された第1部材において、前記ガス交換膜と接する部分が前記ガス交換膜の表面の凹凸に食い込むことにより、前記第1部材と前記ガス交換膜とが接合されている、請求項1に記載の培養液調整装置。
【請求項3】
前記第2流路が形成された第2部材において、前記ガス交換膜と接する部分が前記ガス交換膜の表面の凹凸に食い込むことにより、前記第2部材と前記ガス交換膜とが接合されている、請求項1又は2に記載の培養液調整装置。
【請求項4】
前記第1流路において前記ガス交換膜に接する部分は、分岐せずに前記ガス交換膜に沿って複数回屈曲している、請求項1〜3のいずれか1項に記載の培養液調整装置。
【請求項5】
水を貯留する水容器を備え、
前記水容器の内部の水を通過させた前記気体が前記第2流路に流される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の培養液調整装置。
【請求項6】
前記第1流路が形成された第1部材、前記第2流路が形成された第2部材、及び前記ガス交換膜は、合成樹脂により形成されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の培養液調整装置。
【請求項7】
前記第1部材及び前記第2部材は、ポリスチレンにより形成され、
前記ガス交換膜は、PTFEにより形成されている、請求項6に記載の培養液調整装置。
【請求項8】
前記ガス交換膜の厚さは、0.4[mm]〜0.6[mm]である、請求項1から7のいずれか1項に記載の培養液調整装置。
【請求項9】
培養液が流れる第1流路と気体が流れる第2流路とが、ガス交換膜を介して隣接しており、前記培養液の中の前記気体の濃度を調整する培養液調整装置を製造する方法であって、
前記ガス交換膜は、疎水性材料である第1合成樹脂により形成されており、
前記第1流路が形成された第1部材は、前記第1合成樹脂の融点よりも融点の低い第2合成樹脂により形成されており、
前記ガス交換膜は、繊維状の前記第1合成樹脂により膜状に形成され、粒子を内部で捕捉することが可能であり、
前記第1部材において前記ガス交換膜と接する部分を溶融させて前記ガス交換膜の表面の凹凸に侵入させて凝固させることにより、前記第1部材と前記ガス交換膜とを接合する、培養液調整装置の製造方法。
【請求項10】
前記第2流路が形成された第2部材は、前記第2合成樹脂により形成されており、
前記第2部材において前記ガス交換膜と接する部分を溶融させて前記ガス交換膜の表面の凹凸に侵入させて凝固させることにより、前記第2部材と前記ガス交換膜とを接合する、請求項9に記載の培養液調整装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養液中の気体濃度を調整する培養液調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガス交換部と接触する第1流路と、ガス交換部と接触し、ガス交換部を介して第1流路と対向する部分をもつ第2流路とを備え、第1流路に二酸化炭素と酸素を含む液体を流し、第2流路に細胞培養液を流し、細胞培養液の酸素と二酸化炭素の濃度を調整する培養液調整装置がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4807358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1のガス交換部は、液体中の気泡を取り除く手段として、膜を貫通した多数の孔が形成されたメンブレンフィルタを備えている。メンブレンフィルタでは、孔の直径は濃度を調整するガス成分よりも遙かに大きく、液体の送液圧力が表面張力を上回るとメンブレンフィルタの孔に液体が浸入して漏れる。これに対して、特許文献1に記載のガス交換部は、疎水性材料からなるガス透過層を備えている。ガス透過層は、メンブレンフィルタに形成され、メンブレンフィルタの孔を通して液体が移動せずに液体に含まれるガス成分だけが移動できる隙間を形成している。
【0005】
しかし、ガス交換部がメンブレンフィルタに加えて上記ガス透過層を備える場合、酸素及び二酸化炭素(気体)がガス交換部を透過する速度が低くなり、細胞培養液(培養液)の酸素及び二酸化炭素の濃度を調整するのに必要な時間が長くなる。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、培養液調整装置において、ガス交換部からの培養液の漏れを抑制しつつ、培養液中の気体濃度を調整するのに必要な時間を短縮することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための第1の手段は、
培養液が流れる第1流路と気体が流れる第2流路とが、ガス交換膜を介して隣接しており、前記培養液の中の前記気体の濃度を調整する培養液調整装置であって、
前記ガス交換膜は、繊維状の疎水性材料により膜状に形成され、粒子を内部で捕捉することが可能であり、
前記第1流路から前記第2流路へ前記培養液が漏れ出さない範囲で、前記第1流路の内部の前記培養液の圧力が、前記第2流路の内部の前記気体の圧力よりも高く設定される。
【0008】
上記構成によれば、培養液が流れる第1流路と気体が流れる第2流路とが、ガス交換膜を介して隣接している。このため、第2流路からガス交換膜を介して第1流路へ気体を透過させることができ、培養液の中の気体の濃度を調整することができる。
【0009】
ここで、ガス交換膜は、繊維状の疎水性材料により膜状に形成され、粒子を内部で捕捉することが可能である。すなわち、メンブレンフィルタがフィルタの表面で粒子を捕捉する表面捕捉(完全捕捉)の特性を有するのに対して、上記ガス交換膜は粒子を内部で捕捉する内部捕捉の特性を有する。
【0010】
表面捕捉の特性を有するメンブレンフィルタでは、孔の一方の開口から侵入した培養液が、孔の他方の開口から漏れ出しやすい。このため、メンブレンフィルタでは、孔の直径を大きくすることができず、培養液中の気体の濃度を調整するのに必要な時間が長くなる。メンブレンフィルタが特許文献1のガス透過層を備える場合は、培養液中の気体の濃度を調整するのに必要な時間がさらに長くなる。
【0011】
これに対して、内部捕捉の特性を有する上記ガス交換膜では、膜の表面だけでなく膜の内部でも培養液の侵入を抑制することができる。このため、繊維状の疎水性材料同士の隙間を大きくすることができ、培養液中の気体の濃度を調整するのに必要な時間を短縮することができる。そして、ガス交換膜は、繊維状の疎水性材料により形成されているため、培養液を弾きやすい。したがって、繊維状の疎水性材料同士の隙間を大きくしたとしても、培養液がガス交換膜の内部へ浸入すること、ひいては培養液がガス交換膜から漏れ出すことを抑制することができる。よって、ガス交換膜からの培養液の漏れを抑制しつつ、培養液中の気体濃度を調整するのに必要な時間を短縮することができる。
【0012】
さらに、第1流路から第2流路へ培養液が漏れ出さない範囲で、第1流路の内部の培養液の圧力が、第2流路の内部の気体の圧力よりも高く設定される。このため、培養液中の気泡を、ガス交換膜を介して第2流路へ排出することができる。
【0013】
第2の手段では、前記第1流路が形成された第1部材において、前記ガス交換膜と接する部分が前記ガス交換膜の表面の凹凸に食い込むことにより、前記第1部材と前記ガス交換膜とが接合されている。こうした構成によれば、第1部材とガス交換膜との接合に接着剤を使用する必要がないため、培養液が接着剤により汚染されることを抑制することができる。なお、こうした構成は、ガス交換膜の融点よりも融点の低い材料により第1部材を形成し、第1部材においてガス交換膜と接する部分を溶融させてガス交換膜の表面の凹凸に侵入させて凝固させることにより実現することができる。
【0014】
第3の手段では、前記第2流路が形成された第2部材において、前記ガス交換膜と接する部分が前記ガス交換膜の表面の凹凸に食い込むことにより、前記第2部材と前記ガス交換膜とが接合されている。こうした構成によれば、第2部材とガス交換膜との接合に接着剤を使用する必要がないため、第2流路を流れる気体、ひいては培養液が接着剤により汚染されることを抑制することができる。なお、こうした構成は、ガス交換膜の融点よりも融点の低い材料により第2部材を形成し、第2部材においてガス交換膜と接する部分を溶融させてガス交換膜の表面の凹凸に侵入させて凝固させることにより実現することができる。
【0015】
第4の手段では、前記第1流路において前記ガス交換膜に接する部分は、分岐せずに前記ガス交換膜に沿って複数回屈曲している。こうした構成によれば、培養液調整装置が大型化することを抑制しつつ、第1流路においてガス交換膜に接する部分の長さを長くすることができ、培養液がガス交換膜を介して第2流路内の気体に接する時間を長くすることができる。さらに、第1流路においてガス交換膜に接する部分は、ガス交換膜に沿って複数回屈曲しているため、第1流路内で培養液が撹拌され、培養液中に気体を溶解させやすくなる。したがって、第1流路を培養液が流れる間に、培養液中の気体濃度を上昇させやすくなる。
【0016】
第2流路を流れる気体が乾燥している場合、培養液の水分がガス交換膜を介して第2流路へ蒸発するおそれがある。
【0017】
この点、第5の手段では、水を貯留する水容器を備え、前記水容器の内部の水を通過させた前記気体が前記第2流路に流される。こうした構成によれば、簡易な構成により、第2流路を流れる気体に加湿することができ、培養液の水分が蒸発することを抑制することができる。
【0018】
ガスによる滅菌方法は、比較的低コストで実施することができるとともに、ガス交換膜の内部まで滅菌することができる。しかし、滅菌に用いるガスは、金属を腐食する性質を有することが多く、金属部材に対して用いることが制限される。
【0019】
この点、第6の手段では、前記第1流路が形成された第1部材、前記第2流路が形成された第2部材、及び前記ガス交換膜は、合成樹脂により形成されている。合成樹脂は、滅菌に用いるガスにより腐食されにくい。したがって、第1流路、第2流路、及びガス交換膜を、ガスにより低コストで滅菌することができるとともに、ガス交換膜の内部まで滅菌することができる。
【0020】
具体的には、第7の手段のように、前記第1部材及び前記第2部材は、ポリスチレンにより形成され、前記ガス交換膜は、PTFEにより形成されている、といった構成を採用することができる。こうした構成によれば、ガス交換膜を形成するPTFEの融点よりも、融点の低いポリスチレンにより第1部材及び第2部材を形成することができる。
【0021】
具体的には、第8の手段のように、前記ガス交換膜の厚さは、0.4[mm]〜0.6[mm]である、といった構成を採用することができる。こうした構成によれば、厚さが最大で0.1[mm]程度のメンブレンフィルタと比べて、ガス交換膜の厚さが十分に厚い。このため、繊維状の疎水性材料同士の隙間を大きくしたとしても、培養液がガス交換膜の内部へ浸入すること、ひいては培養液がガス交換膜から漏れ出すことを抑制することができる。
【0022】
第9の手段は、
培養液が流れる第1流路と気体が流れる第2流路とが、ガス交換膜を介して隣接しており、前記培養液の中の前記気体の濃度を調整する培養液調整装置を製造する方法であって、
前記ガス交換膜は、疎水性材料である第1合成樹脂により形成されており、
前記第1流路が形成された第1部材は、前記第1合成樹脂の融点よりも融点の低い第2合成樹脂により形成されており、
前記ガス交換膜は、繊維状の前記第1合成樹脂により膜状に形成され、粒子を内部で捕捉することが可能であり、
前記第1部材において前記ガス交換膜と接する部分を溶融させて前記ガス交換膜の表面の凹凸に侵入させて凝固させることにより、前記第1部材と前記ガス交換膜とを接合する。
【0023】
一般に、疎水性材料により形成されたガス交換膜は、極性が低く、他の部材と接合しにくい。
【0024】
この点、上記工程によれば、ガス交換膜は、疎水性材料である第1合成樹脂により形成されており、第1流路が形成された第1部材は、第1合成樹脂の融点よりも融点の低い第2合成樹脂により形成されている。そして、第1部材においてガス交換膜と接する部分を溶融させてガス交換膜の表面の凹凸に侵入させて凝固させることにより、第1部材とガス交換膜とを接合する。したがって、第1部材とガス交換膜とを、物理的構造により接合することができるため、疎水性材料である第1合成樹脂により形成されたガス交換膜を、第1部材と接合することができる。さらに、第1部材とガス交換膜との接合に接着剤を使用する必要がないため、培養液が接着剤により汚染されることを抑制することができる。
【0025】
第10の手段では、前記第2流路が形成された第2部材は、前記第2合成樹脂により形成されており、前記第2部材において前記ガス交換膜と接する部分を溶融させて前記ガス交換膜の表面の凹凸に侵入させて凝固させることにより、前記第2部材と前記ガス交換膜とを接合する。
【0026】
上記工程によれば、第2流路が形成された第2部材は、上記第2合成樹脂により形成されている。そして、第2部材においてガス交換膜と接する部分を溶融させてガス交換膜の表面の凹凸に侵入させて凝固させることにより、第2部材とガス交換膜とを接合する。したがって、第2部材とガス交換膜とを、物理的構造により接合することができるため、疎水性材料である第1合成樹脂により形成されたガス交換膜を、第2部材と接合することができる。さらに、第2部材とガス交換膜との接合に接着剤を使用する必要がないため、第2流路を流れる気体、ひいては培養液が接着剤により汚染されることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】培養液調整装置を示す模式図。
図2】平衡状態における酸素体積比と溶存酸素濃度と温度との関係を示すグラフ。
図3】平衡状態における二酸化炭素体積比の自然対数値とpHと温度との関係を示すグラフ。
図4】酸素流量テーブルを示す図。
図5】二酸化炭素流量テーブルを示す図。
図6図1のVI−VI線断面図。
図7】第1部材の平面図。
図8】第1部材の下部斜視図。
図9】第2部材の上部斜視図。
図10】第2部材の下部斜視図。
図11】目標DOを変化させた場合のDO比を示すタイムチャート。
図12】酸素流量、開始DO、終了DO、及び目標DOを示す表。
図13】培養液流量と実測DOとの関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、細胞を培養する培養液中の気体濃度を調整する培養液調整装置に具現化した一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0029】
図1に示すように、培養液調整装置10は、制御ユニット11、水容器20、ガス交換ユニット50、培養容器30、ポンプ31,32等を備えている。
【0030】
制御ユニット11は、マスフロコントローラ(MFC)12,13,14、継手15、操作部16、表示部17、マイクロコンピュータ(MC)18等を備えている。
【0031】
MFC12(第1流量調整部)には、酸素ボンベ41からの酸素が、レギュレータ(調圧弁)45により所定圧力に調整されて供給される。MFC13(第2流量調整部)には、二酸化炭素ボンベ42からの二酸化炭素が、レギュレータ46により所定圧力に調整されて供給される。MFC14(第3流量調整部)には、窒素ボンベ43からの窒素(不活性ガス)が、レギュレータ47により所定圧力に調整されて供給される。すなわち、MFC12,13,14には、互いに等しい所定圧力の酸素,二酸化炭素,窒素がそれぞれ供給される。MFC12,13,14は、それぞれ酸素,二酸化炭素,窒素の流量を調整する。MFC12,13,14によるガス流量の調整状態は、MC18により制御される。
【0032】
MFC12,13,14により、それぞれ流量の調整された酸素,二酸化炭素,窒素は継手15で合流する。継手15は、MFC12,13,14にそれぞれ接続された配管12a,13a,14aを配管15aに接続している。すなわち、継手15(混合部)により、MFC12,13,14からそれぞれ供給される酸素,二酸化炭素,窒素が混合されて、それらの混合ガス(気体)が配管15aへ供給される。
【0033】
配管15aは、0.2〜0.5[μm]の孔径を有する滅菌ろ過フィルタ15bに接続されている。混合ガスは、滅菌ろ過フィルタ15bを通過することでクリーンな状態になる。滅菌ろ過フィルタ15bと、滅菌水(水)を貯留する水容器20とは、配管15cで接続されている。詳しくは、配管15cの下端は、水容器20に貯留された水の水面よりも下に位置している。すなわち、配管15cは、水容器20に貯留された水の中に混合ガスを供給するように、水容器20に接続されている。また、水容器20には、配管21の第1端(一端)が接続されている。詳しくは、配管21の下端は、水容器20に貯留された水の水面よりも上に位置している。すなわち、配管21の第1端は、水容器20において水よりも上の部分の混合ガスを排出するように、水容器20に接続されている。これにより、水容器20の内部の水を通過させた混合ガスが、ガス交換ユニット50のガス流路(第2流路)に流される。
【0034】
配管21の第2端(他端)は、ガス交換ユニット50のガス導入部52に接続されている。ガス導入部52からガス交換ユニット50の内部へ導入された混合ガスは、ガス交換ユニット50の内部を流れる培養液L1とガス交換を行う。ガス交換後の混合ガスは、ガス導出部53からガス交換ユニット50の外部へ排出される。ガス導出部53には、配管22が接続されている。ガス導入部52及びガス導出部53は、ルアースリップ式(テーパ状)になっており、それぞれ配管21,22を容易に接続及び取り外し可能になっている。配管22を介して、培養液調整装置10の外部へ混合ガスを排出してもよい。又は、培養容器30の気密性が低い場合は、配管22を介して培養容器30の気相部へ混合ガスを供給してもよい。その場合、混合ガスは培養容器30の隙間を通って外部へ排出される。なお、ガス交換ユニット50の詳細については後述する。
【0035】
ガス交換ユニット50の内部には、緩衝溶液である培養液L1が流れている。培養液L1に添加する試薬としては、例えば重炭酸塩等、pH6〜8の範囲において遊離してpH緩衝機能を有するものを採用することができる。重炭酸塩としては、重炭酸ナトリウム(炭酸水素ナトリウム)、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウム等を採用することができる。その他、培養液L1には、細胞が活動するために必要な養分として、血清、アミノ酸、ビタミン、糖類等が添加されている。なお、培養液L1には、pHを目視で確認するためにフェノールレッド等の指示薬が添加されている。
【0036】
ガス交換ユニット50の培養液導出部63には、配管25を介してポンプ31が接続されている。ポンプ31(第1送出部)には、配管26を介して培養容器30(培養部)が接続されている。ポンプ31は、配管25を通じてガス交換ユニット50内の培養液L1を吸入し、培養液L1を配管26を通じて培養容器30へ吐出する。すなわち、ポンプ31は、ガス交換ユニット50から培養容器30へ培養液L1を送出する。
【0037】
培養容器30内には、培養液L2が貯留されている。培養液L2(培地)は、培養する細胞を含んでいる。この細胞としては、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、細菌、酵母、真菌等を採用することができる。また、細胞は、複数個の細胞からなる組織や、複数種の細胞からなる組織であってもよい。そして、培養容器30において培養液L2により細胞が培養され、細胞の活動により培養液L2の溶存酸素濃度DO及びpHが変化する。
【0038】
培養容器30には、配管27を介してポンプ32が接続されている。ポンプ32(第2送出部)には、配管28を介してガス交換ユニット50の培養液導入部62が接続されている。培養液導入部62及び培養液導出部63は、ルアースリップ式(テーパ状)になっており、それぞれ配管28,25を容易に接続及び取り外し可能になっている。ポンプ32は、配管27を通じて培養容器30内の培養液L2を吸入し、培養液L2を配管28を通じてガス交換ユニット50へ吐出する。すなわち、ポンプ32は、培養容器30からガス交換ユニット50へ培養液L2を送出する。培養液導入部62からガス交換ユニット50の内部へ導入された培養液L2(L1)は、ガス交換ユニット50の内部を流れる混合ガスとガス交換を行う。
【0039】
配管26には、培養容器30に供給される培養液L1の溶存酸素濃度DOを検出する酸素濃度センサ91、培養液L1のpHを検出するpHセンサ92、及び培養液L1の温度を検出する温度センサ93が取り付けられている。
【0040】
制御ユニット11の操作部16は、ダイヤルやスイッチ等により構成されている。操作部16は、培養液L1の溶存酸素濃度DOの目標値及びpHの目標値をユーザが入力する際に操作される。操作部16の操作により入力された溶存酸素濃度DOの目標値及びpHの目標値は、MC18へ出力される。
【0041】
表示部17は、液晶ディスプレイ等により構成されており、溶存酸素濃度DOの目標値[ppm]、溶存酸素濃度DOの検出値[ppm]、pHの目標値、pHの検出値、温度の検出値[℃]、酸素の流量[mL/min]、二酸化炭素の流量[mL/min]、混合ガスの全体流量[mL/min]等を表示する。表示部17の表示状態は、MC18により制御される。
【0042】
制御ユニット11は、SDカード19(記憶媒体)を挿入する挿入部を備えている。MC18は、挿入部に挿入されたSDカード19にデータを書き込んだり、SDカード19に書き込まれたデータを読み込んだりする。詳しくは、MC18は、溶存酸素濃度DOの目標値、酸素濃度センサ91により逐次検出される溶存酸素濃度DO、pHの目標値、pHセンサ92により逐次検出されるpH、温度センサ93により逐次検出される温度T等を、所定の周期でSDカード19に書き込む。
【0043】
MC18(流量設定部)は、CPU、ROM、RAM、入出力インターフェース等を備えるマイクロコンピュータである。MC18は、培養容器30に供給される培養液L1の溶存酸素濃度DO及びpHを目標値に制御すべく、MFC12,13,14を制御する。
【0044】
図2は、培養液L1と混合ガスとでガス交換が行われて平衡した状態において、混合ガスにおける酸素体積比と、培養液L1の溶存酸素濃度DOと、培養液L1の温度Tとの関係を示すグラフである。培養液L1の溶存酸素濃度DOは、混合ガスの酸素分圧に応じて変化する。そして、混合ガスにおける各ガスの圧力が所定圧力で等しく且つ混合ガスの全体体積(全体流量)が一定であれば、各ガスの分圧は各ガスの体積(流量)に比例する。このため、混合ガスにおける酸素体積比が大きくなるほど、溶存酸素濃度DOが高くなっている。詳しくは、溶存酸素濃度DOは、混合ガスにおける酸素体積比に比例している。また、培養液L1に対する酸素の溶解量は、温度Tに応じて変化する。詳しくは、温度Tが高くなるほど、培養液L1に対する酸素の溶解量が少なくなり、溶存酸素濃度DOが低くなっている。
【0045】
図3は、培養液L1と混合ガスとでガス交換が行われて平衡した状態において、混合ガスにおける二酸化炭素体積比の自然対数値と、培養液L1のpHと、培養液L1の温度Tとの関係を示すグラフである。二酸化炭素が培養液L1に溶解することで水素イオンが発生するため、培養液L1のpHは混合ガスの二酸化炭素分圧に応じて変化する。そして、混合ガスにおける各ガスの圧力が所定圧力で等しく且つ混合ガスの全体体積(全体流量)が一定であれば、各ガスの分圧は各ガスの体積(流量)に比例する。このため、混合ガスにおける二酸化炭素体積比が大きくなるほど、pHが小さくなっている。詳しくは、pHの減少量は、混合ガスにおける二酸化炭素体積比の自然対数値の増加量に比例している。また、培養液L1に対する二酸化炭素の溶解量は、温度Tに応じて変化する。詳しくは、温度Tが高くなるほど、培養液L1に対する二酸化炭素の溶解量が少なくなり、pHが大きくなっている。
【0046】
図4は、図2のグラフに基づいて、培養液L1の溶存酸素濃度DOが平衡した場合の各溶存酸素濃度DOと混合ガスにおける酸素の各流量と各温度Tとの関係を規定した酸素流量テーブルを示す図である。例えば、温度T1において溶存酸素濃度DO1(例えば1ppm)で平衡する場合の酸素流量は流量RO11であり、温度Tmにおいて溶存酸素濃度DOn(例えば20ppm)で平衡する場合の酸素流量は流量ROnmである。流量RO11から流量ROn1へ順に大きくなっており、流量RO11から流量RO1mへ順に大きくなっている。そして、流量ROnmが最も大きくなっている。なお、図2の3つのグラフに含まれていない条件の流量ROは、それらのグラフの間を比例補間することにより算出されている。
【0047】
図5は、図3のグラフに基づいて、培養液L1のpHが平衡した場合の各pHと混合ガスにおける二酸化炭素の各流量と各温度Tとの関係を規定した二酸化炭素流量テーブルを示す図である。例えば、温度T1においてpH1(所定のpH値、例えば6.9)で平衡する場合の二酸化炭素流量は流量RC11であり、温度TmにおいてpHn(所定のpH値、例えば7.9)で平衡する場合の二酸化炭素流量は流量RCnmである。流量RC11から流量RCn1へ順に小さくなっており、流量RC11から流量RC1mへ順に大きくなっている。そして、流量RC1mが最も大きくなっている。なお、図3の3つのグラフに含まれていない条件の流量RCは、それらのグラフの間を比例補間することにより算出されている。
【0048】
そして、MC18は、溶存酸素濃度DOの目標値及び温度Tに基づいて、酸素の流量を設定する。例えば、溶存酸素濃度DOの目標値DOn及び温度Tmであれば、温度Tmにおいて溶存酸素濃度DOnが平衡する場合の酸素の流量ROnmに酸素の流量を設定する。
【0049】
同様に、MC18は、pHの目標値及び温度Tに基づいて、二酸化炭素の流量を設定する。例えば、pHの目標値pHn及び温度Tmであれば、温度TmにおいてpHnが平衡する場合の二酸化炭素の流量RCnmに二酸化炭素の流量を設定する。
【0050】
MC18は、上記に基づいて酸素の流量及び二酸化炭素の流量を設定し、所定流量(例えば200[mL/min])から、設定された酸素の流量及び設定された二酸化炭素の流量を引いて、窒素の流量を設定する。そして、MC18は、設定された酸素の流量、二酸化炭素の流量、及び不活性ガスの流量になるように、MFC12,13,14をそれぞれ制御する。
【0051】
その後、MC18は、溶存酸素濃度DO及びpHが平衡してそれぞれ目標値DOn及び目標値pHnになるまで、その状態を所定時間t維持する。所定時間tは、例えば30[min]である。
【0052】
図6は、図1のガス交換ユニット50のVI−VI線断面図である。ガス交換ユニット50は、第1部材61、第2部材51、及びガス交換膜70を備えている。
【0053】
第1部材61は、ポリスチレン(熱可塑性樹脂、合成樹脂)により、矩形板状(板状)に形成されている。ポリスチレンの耐熱温度は70〜90[℃]であり、ポリスチレンの融点は100[℃]である。第1部材61の上面には、培養液流路64が形成されている。培養液流路64(第1流路)において、幅:深さ=4:1である。培養液流路64は、ガス交換膜70の下面に接している。培養液流路64は、図7の平面図に示すように、分岐せずにガス交換膜70に沿って複数回屈曲している。すなわち、培養液流路64は、ガス交換膜70に沿って蛇行している。培養液流路64は、対向して平行に延びる複数の平行部64aを備えている。隣り合う平行部64aは、壁部65によって区画されている。壁部65は、直線状に延びながら屈曲する突条(突出部)として設けられている。壁部65の上部には、他の部分よりも突出する上部突部65aが設けられている。上部突部65aは、壁部65の上部の中央に沿って、他の部分よりも狭い幅で上方に突出している。また、図8の下部斜視図及び図6に示すように、第1部材61の下部には、格子状のリブ67(突起部分)が形成されている。
【0054】
ガス交換膜70は、繊維状のPTFE(Poly Tetra Fluoro Ethylene、合成樹脂、疎水性材料)により、第1部材61の形状に対応した矩形膜状(膜状)に形成されている。PTFEの耐熱温度は−100[℃]〜260[℃]であり、PTFEの融点は327[℃]である。ガス交換膜70は、繊維状のPTFEを膜状に成形することで形成されている。ガス交換膜70の厚さは、0.2[mm]〜0.8[mm]であり、望ましくは0.4[mm]〜0.6[mm]であり、本実施形態では0.5[mm]である。ガス交換膜70は、フィルタの機能を有しており、粒子を内部で捕捉することが可能である。すなわち、メンブレンフィルタがフィルタの表面で粒子を捕捉する表面捕捉(完全捕捉)の特性を有するのに対して、ガス交換膜70は粒子を内部で捕捉する内部捕捉の特性を有する。ガス交換膜70が捕捉可能な粒子の径(最小径)は、2[μm]である。なお、メンブレンフィルタの厚さは、一般的に0.1[mm]以下である。
【0055】
第1部材61とガス交換膜70とは、熱溶着により接合されている。詳しくは、板状のヒータの上にガス交換膜70を置いて、ガス交換膜70を250[℃](PTFEの耐熱温度上限よりも低い所定温度)まで加熱する。ガス交換膜70の周囲にスペーサ(冶具)を配置する。ガス交換膜70に位置を合わせて、ガス交換膜70に第1部材61の壁部65の上部突部65aを押し当てる。これにより、上部突部65aを溶融させる。スペーサは、上部突部65aが溶融する一方、壁部65の上部において上部突部65a以外の部分がガス交換膜70に当たる前に、スペーサが第1部材61の外縁部(所定部)に当たる厚さで形成されている。第1部材61の外縁部をスペーサに当てた後、上部突部65aを凝固させる。その結果、第1部材61において、上部突部65aがガス交換膜70の表面の凹凸に食い込むことにより、第1部材61とガス交換膜70とが接合される。すなわち、第1部材61においてガス交換膜70と接する部分を溶融させてガス交換膜70の表面の凹凸に侵入させて凝固させることにより、第1部材61とガス交換膜70とを接合する。
【0056】
第2部材51は、ポリスチレンにより、第1部材61の形状に対応した直方体状に形成されている。第2部材51の最も大きい面(一面)は開口している。第2部材51の内部は、混合ガスが流れるガス流路55になっている。図9の上部斜視図に示すように、上記ガス導入部52と上記ガス導出部53とは、対角に配置されている。また、図10の下部斜視図及び図6に示すように、第2部材51の下部には、格子状のリブ57(突起部分)が形成されている。
【0057】
第1部材61と第2部材51とは、超音波溶着(振動溶着)により接合されている。詳しくは、図6に示すように、第1部材61の外縁部61aと第2部材51の外縁部51aとを当接させて加圧した状態で、超音波振動を加えて摩擦熱により外縁部61a,51aを溶融させて接合する。
【0058】
このようにして製造されたガス交換ユニット50において、培養液が流れる培養液流路64と混合ガスが流れるガス流路55とは、ガス交換膜70を介して隣接している。
【0059】
ガス交換ユニット50は、培養液調整装置10に組み付けられる前に滅菌される。ガスによる滅菌方法(ガス滅菌)は、比較的低コストで実施することができるとともに、ガス交換膜70の内部まで滅菌することができる。しかし、滅菌に用いるガスは、金属を腐食する性質を有することが多く、金属部材に対して用いることが制限される。例えば、過酸化水素ガスは、鋳鉄や黄銅を腐食する。この点、第1部材61、第2部材51、及びガス交換膜70は、ポリスチレン及びPTFEにより形成されている。ポリスチレン及びPTFE(合成樹脂)は、滅菌に用いるガスにより腐食されにくい。そこで、ガス交換ユニット50を過酸化水素ガスにより滅菌する。
【0060】
図11は、目標DO(溶存酸素濃度)を変化させた場合のDO比=実測DO/目標DOを示すタイムチャートである。図4のテーブル及び各目標DOに基づいて、図12(1)〜(4)に示すように、酸素の流量を設定している。ここでは、二酸化炭素の流量を10[mL/min]で一定とし、酸素、二酸化炭素、及び窒素の合計流量を200[mL/min]で一定としている。培養液の流量は、数[mL/min]以下であり、例えば0.14[mL/min]である。培養液の圧力は、数十[kPa]以下であり、例えば6.0[kPa]である。酸素、二酸化炭素、及び窒素の混合ガスの圧力は、培養液の圧力6.0[kPa]よりも低く設定されている。換言すれば、培養液流路64からガス流路55へ培養液が漏れ出さない範囲で、培養液流路64の内部の培養液の圧力が、ガス流路55の内部の混合ガスの圧力よりも高く設定されている。
【0061】
図12(1)では、開始DOが4.49[ppm]であり、目標DOを7.00[ppm]に設定した後、30分でDO比が0.96になった後、DO比が0.98になっている。図12(2)では、開始DOが6.86[ppm]であり、目標DOを4.70[ppm]に設定した後、8.2分でDO比が1.04になった後、DO比が1.00になっている。図12(3)では、開始DOが4.72[ppm]であり、目標DOを3.70[ppm]に設定した後、6.7分でDO比が1.04になった後、DO比が1.01になっている。図12(4)では、開始DOが3.75[ppm]であり、目標DOを2.35[ppm]に設定した後、13.3分でDO比が1.04になっている。このように、目標DOをいずれに変化させた場合においても、30分以内で実測DOが目標DOに略到達(DO比が0.96〜1.04に到達)している。
【0062】
図13は、図12(2)の条件において、培養液流量を増加させて平衡状態になった場合の実測DOを示している。培養液流量を0.26[mL/min]まで増加させても、実測DOは4.60[ppm]〜4.70[ppm]で略一定となっている。
【0063】
以上詳述した本実施形態は、以下の利点を有する。
【0064】
・内部捕捉の特性を有するガス交換膜70では、膜の表面だけでなく膜の内部でも培養液の侵入を抑制することができる。このため、繊維状の疎水性材料(PTFE)同士の隙間を大きくすることができ、培養液中の酸素の濃度を調整するのに必要な時間を短縮することができる。そして、ガス交換膜70は、繊維状の疎水性材料により形成されているため、培養液を弾きやすい。したがって、繊維状の疎水性材料同士の隙間を大きくしたとしても、培養液がガス交換膜70の内部へ浸入すること、ひいては培養液がガス交換膜70から漏れ出すことを抑制することができる。よって、ガス交換膜70からの培養液の漏れを抑制しつつ、培養液中の酸素濃度(二酸化炭素濃度)を調整するのに必要な時間を短縮することができる。
【0065】
・培養液流路64からガス流路55へ培養液が漏れ出さない範囲で、培養液流路64の内部の培養液の圧力が、ガス流路55の内部の混合ガスの圧力よりも高く設定されている。このため、培養液中の気泡を、ガス交換膜70を介してガス流路55へ排出することができる。
【0066】
・培養液流路64が形成された第1部材61において、ガス交換膜70と接する部分(上部突部65a)がガス交換膜70の表面の凹凸に食い込むことにより、第1部材61とガス交換膜70とが接合されている。こうした構成によれば、第1部材61とガス交換膜70との接合に接着剤を使用する必要がないため、培養液が接着剤により汚染されることを抑制することができる。
【0067】
・培養液流路64は、分岐せずにガス交換膜70に沿って複数回屈曲している。こうした構成によれば、培養液調整装置10が大型化することを抑制しつつ、培養液流路64においてガス交換膜70に接する部分の長さを長くすることができ、培養液がガス交換膜70を介してガス流路55内の混合ガスに接する時間を長くすることができる。さらに、培養液流路64は、ガス交換膜70に沿って複数回屈曲しているため、培養液流路64内で培養液が撹拌され、培養液中に酸素(二酸化炭素)を溶解させやすくなる。したがって、培養液流路64を培養液が流れる間に、培養液中の酸素濃度(pH)を上昇(低下)させやすくなる。
【0068】
・ガス流路55を流れる混合ガスが乾燥している場合、培養液の水分がガス交換膜70を介してガス流路55へ蒸発するおそれがある。この点、培養液調整装置10は、水を貯留する水容器20を備え、水容器20の内部の水を通過させた混合ガスがガス流路55に流される。こうした構成によれば、簡易な構成により、ガス流路55を流れる混合ガスに加湿することができ、培養液の水分が蒸発することを抑制することができる。
【0069】
・培養液流路64が形成された第1部材61、ガス流路55が形成された第2部材51、及びガス交換膜70は、合成樹脂により形成されている。合成樹脂は、滅菌に用いるガスにより腐食されにくい。したがって、培養液流路64、ガス流路55、及びガス交換膜70を、ガスにより低コストで滅菌することができるとともに、ガス交換膜70の内部まで滅菌することができる。
【0070】
・ガス交換膜70の厚さは、0.4[mm]〜0.6[mm]である。こうした構成によれば、厚さが最大で0.1[mm]程度のメンブレンフィルタと比べて、ガス交換膜70の厚さが十分に厚い。このため、繊維状の疎水性材料同士の隙間を大きくしたとしても、培養液がガス交換膜70の内部へ浸入すること、ひいては培養液がガス交換膜70から漏れ出すことを抑制することができる。
【0071】
・一般に、疎水性材料により形成されたガス交換膜70は、極性が低く、他の部材と接合しにくい。この点、ガス交換膜70は、疎水性材料であるPTFE(第1合成樹脂)により形成されており、培養液流路64が形成された第1部材61は、PTFEの融点よりも融点の低いポリスチレン(第2合成樹脂)により形成されている。そして、第1部材61において上部突部65aを溶融させてガス交換膜70の表面の凹凸に侵入させて凝固させることにより、第1部材61とガス交換膜70とを接合している。したがって、第1部材61とガス交換膜70とを、物理的構造により接合することができるため、疎水性材料であるPTFEにより形成されたガス交換膜70を、ポリスチレンにより形成された第1部材61と接合することができる。
【0072】
・第1部材61の壁部65とガス交換膜70とを熱溶着すると、壁部65が凝固した後に応力が残留して第1部材61及びガス交換膜70が反りやすくなる。この点、第1部材61の下部には、格子状のリブ67が形成されている。したがって、第1部材61の剛性を高くすることができ、第1部材61及びガス交換膜70が反ることを抑制することができる。
【0073】
・ユーザは、操作部16を操作することで、溶存酸素濃度DOの目標値及びpHの目標値を入力することができる。そして、MC18により、溶存酸素濃度DOを目標値にするための酸素の流量、pHを目標値にするための二酸化炭素の流量、及び窒素の流量が設定される。このため、ユーザは、操作部16を操作して溶存酸素濃度DOの目標値及びpHの目標値を入力するだけで、培養液L1の性質を自動的に目標値に調整することができる。
【0074】
図13に示すように、培養液流量を増加させた場合であっても、実測DOが略目標DOで一定となるように制御することができる。なお、ガス交換膜70に代えて、メンブレンフィルタを用いた場合は、酸素がメンブレンフィルタを透過する速度が低くなるため、培養液流量を増加させるほど、実測DOが目標DOよりも低くなる。メンブレンフィルタが特許文献1のガス透過層を備える場合は、酸素がメンブレンフィルタを透過する速度がさらに低くなる。
【0075】
・ガス交換ユニット50は、安価で製造することができるため、使い捨てにすることができる。
【0076】
・培養液調整装置10は、複数のガス交換ユニット50、及び複数の培養容器30を備えていてもよい。その場合であっても、ガス交換ユニット50を低コストにすることができるため、培養液調整装置10のコストを抑制することができる。
【0077】
なお、上記実施形態を、以下のように変更して実施することもできる。上記実施形態と同一の部分については、同一の符号を付すことにより説明を省略する。
【0078】
・第2部材51とガス交換膜70とが接する構成とし、第2部材51においてガス交換膜70と接する部分を溶融させてガス交換膜70の表面の凹凸に侵入させて凝固させることにより、第2部材51とガス交換膜70とを接合してもよい。これにより、第2部材51において、ガス交換膜70と接する部分がガス交換膜70の表面の凹凸に食い込むことにより、第2部材51とガス交換膜70とが接合される。こうした工程によれば、第2部材51とガス交換膜70とを、物理的構造により接合することができるため、疎水性材料であるPTFE(第1合成樹脂)により形成されたガス交換膜70を、ポリスチレン(第2合成樹脂)により形成された第2部材51と接合することができる。さらに、第2部材51とガス交換膜70との接合に接着剤を使用する必要がないため、ガス流路55を流れる混合ガス、ひいては培養液が接着剤により汚染されることを抑制することができる。
【0079】
・第1部材61及び第2部材51を金属により形成し、第1部材61と第2部材51とを接着剤により接合することもできる。また、第1部材61と第2部材51とを、ねじ等により締結することもできる。
【0080】
・混合ガスの全体流量である所定流量は、200mlに限らず任意に設定することができる。その場合、所定流量に応じて、図4の酸素流量テーブル、及び図5の二酸化炭素流量テーブルを作成し、所定流量から、設定された酸素の流量及び設定された二酸化炭素の流量を引いて、窒素の流量を設定すればよい。
【0081】
・不活性ガスとして、窒素に代えてアルゴンやヘリウムを用いることもできる。
【0082】
・第1部材61及び第2部材51を形成する第2合成樹脂として、PC(polycarbonate)や、PMMA(polymethyl methacrylate)を採用することもできる。また、第1部材61と第2部材51とを、異なる材料により形成することもできる。
【0083】
・ガス交換膜70を形成する疎水性材料(第1合成樹脂)として、PFA(四フッ化エチレンとパーフルオロアルコキシエチレンとの共重合体)や、FEP(テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体)を採用することもできる。
【0084】
・培養液流路64を、分岐する形状にしたり、屈曲しない形状にしたりすることもできる。
【0085】
・水容器20を省略することもできる。
【符号の説明】
【0086】
10…培養液調整装置、20…水容器、30…培養容器、50…ガス交換ユニット、51…第2部材、55…ガス流路(第2流路)、61…第1部材、64…培養液流路(第1流路)、70…ガス交換膜。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13