【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係るクリンカ細骨材の製造方法は、
セメント原料を焼成する工程(a)と、
前記工程(a)で焼成された前記セメント原料を冷却する工程(b)と、
前記工程(b)を経て生成されたクリンカを、所定範囲内の分級点を基準に粗粒と微粒に分級する工程(c)と、
前記工程(c)で得られた前記粗粒を粉砕して、粉砕微粒を得る工程(d)と、
前記工程(c)の実行時に生成された、前記微粒よりも粒径の細かい第一分級微粉を、石膏を含む材料と共に混合してセメントを得る工程(e)と、
前記工程(c)で得られた前記微粒、及び前記工程(d)で得られた前記粉砕微粒を混合した混合物からクリンカ細骨材を得る工程(f)とを有することを特徴とする
【0016】
コンクリート用の細骨材を製造する際には、JISなどの規格によって定められた粒度分布を満たす必要がある。一般的に、細骨材とは、10mm網の篩を全量通過し、更に、5mm網の篩を質量で85%以上通過する骨材(およそ5mm未満の骨材)とされる。このため、当該規格を満足するように上記の分級点が設定される。一例として、分級点を4mm〜6mmの範囲内で設定することができ、より詳細には5mmとすることができる。
【0017】
工程(c)において上記の分級点より径が小さいものとして分級された微粒は、細骨材としての規格を満たす大きさである。また、工程(c)において上記の分級点より径が大きいものとして抽出された粗粒は、工程(d)によって粉砕されることで、工程(c)で得られる微粒と同様の粒径を有する粒子(粉砕微粒)となる。更に、セメントクリンカ中に内包されたフリーライムも粉砕されることで、微粒及び粉砕微粒表面に現れてくる。よって、これらの微粒及び粉砕微粒は、細骨材として利用することができる。
【0018】
一方、工程(c)の分級処理によって、粒度の細かい微粉(第一分級微粉)が不可避的に得られる。この微粉には、工程(c)で分級されることで得られた微粒よりもCaOが多く含まれる。このため、この微粉をセメントに利用することで、高い強度を示すセメントを得ることができる。また、フリーライムもこの微粉に多く含まれており、微粒及び粉砕微粒の含有量は相対的に少ない。より詳細には、工程(e)において、石膏を含む材料と共に第一分級微粉を混合することでセメントを得ることができる。なお、フリーライムが微粉に多く含まれやすい点、及びフリーライムを多く含む微粉によれば強度発現性が高い点については、例えば上記特許文献2に記載されている。
【0019】
つまり、上記方法によれば、細骨材を生成するためにセメントクリンカに対して分級処理を行いつつ、この処理の過程で生じる微粉についてはセメントとして活用できる。
【0020】
前記工程(b)は、エアークエンチングクーラによる冷却工程であり、
前記(e)は、前記第一分級微粉と共に、前記エアークエンチングクーラの冷却風導入口から抽出されたスピレージが混合されるものとしても構わない。
【0021】
エアークエンチングクーラは、冷却風導入口から冷却空気を上方に導入しつつ、焼成後のセメント原料を急激に冷却する目的で用いられる装置である。この冷却の過程で、冷却風導入口から下方に一部の冷却物が落下する場合がある。この冷却物(以下、「スピレージ」と呼ぶ。)は、エアークエンチングクーラの出口側より抽出されたクリンカよりも急激に冷却されて得られたものであり、CaO含有率も高く、高い強度を示す。このため、このスピレージを工程(e)の混合・粉砕処理で利用することで、強度の高いセメントを実現できる。また、このスピレージを細骨材の原料に用いないことで、細骨材に含まれるフリーライムの含有量を低下できる。
【0022】
前記のように、セメントクリンカ(以下、単に「クリンカ」と略記することがある。)は、セメント原料が焼成され、その後冷却されることによって生成される。ここで、クリンカは、セメント原料の焼成処理によって、C
3S、C
2S、C
3A及びC
4AFのセメント化合物を主成分とする粒子の集合体である。なお、本明細書において、「C
3S」、「C
2S」、「C
3A」、「C
4AF」なる表記は、いずれもセメント化学分野で汎用的に用いられている略記号であり、それぞれは、3CaO・SiO
2、2CaO・SiO
2、3CaO・Al
2O
3、4CaO・Al
2O
3・Fe
2O
3に対応する。
【0023】
焼成及び冷却を経て生成されたクリンカには、上記セメント化合物を構成せず未反応のまま遊離された生石灰が不可避的に存在する。これは、フリーライム(f.CaO)と呼ばれる。
【0024】
セメントクリンカは、セメントとして利用される場合には、石膏及び混合材が添加された状態で、仕上げミルによって平均粒径10μm程度にまで微粉砕される。
【0025】
「発明が解決しようとする課題」の項で上述したように、クリンカを骨材に利用する場合、細骨材であってもその粒径は1mm〜5mm程度と粗いため、コンクリートの練り混ぜ工程後においても骨材内部には依然としてフリーライムが存在し得る。このため、コンクリートが硬化した後であっても時間の経過と共に、骨材内部に水分が浸透して残存するフリーライムに対して水和反応が生じ、コンクリートが膨張する懸念がある。
【0026】
しかし、上記の方法によれば、予めCaO含有率の高いスピレージが除去された後に、工程(c)で得られた微粒、及び工程(d)で得られた粉砕微粒によって細骨材が生成されるため、細骨材に含まれるフリーライムの含有率を低下することができる。
【0027】
更に、細骨材にフリーライムが多く含まれていると、含有率に応じてコンクリートの凝結時間にばらつきが生じてしまう。この方法によれば、細骨材に含まれるフリーライムの含有率が低下されるため、従来の細骨材を利用してコンクリートを製造する場合とほぼ同等の時間でコンクリートを凝結できるため、従来と同様の方法にてコンクリートの品質管理が行える。
【0028】
前記工程(f)は、前記混合物に対してエージング処理を行う工程(f1)を有するものとしても構わない。
【0029】
上記方法によれば、前記混合物に含まれているフリーライムを消石灰等に変化させることができるため、コンクリートに膨張が生じることのない細骨材を生成できる。この工程(f1)としては、前記混合物に対して水、CO
2ガス、排ガス等と反応させる方法が採用できる。
【0030】
前記工程(f)は、前記混合物に対して固結防止処理を行う工程(f2)を有するものとしても構わない。
【0031】
セメントクリンカは水硬性を有するため、このクリンカによって生成された細骨材を保管していると、大気中の水分を吸収することで水和物を生成し、細骨材同士が固結する現象を生じる場合がある。これに対し、上記の方法によれば、固結防止処理が施された状態で細骨材が得られるため、仮に屋外に保管されたとしても、固結の進展を抑制する効果が得られる。
【0032】
この固結防止処理としては、前記混合物に対して非水硬性の骨材や微粉を混合する方法を利用することができる。
【0033】
上記方法において、分級処理は複数回実行することも可能である。
【0034】
例えば、前記工程(c)は、
前記クリンカを、第一粗粒と前記微粒に分級する工程(c1)と、
前記粗粒に対して粒径を小さくする予粉砕処理を行う工程(c2)と、
前記工程(c2)で得られた予粉砕物を、第二粗粒と前記微粒に分級する工程(c3)とを有し、
前記工程(d)は、前記第二粗粒を粉砕する工程であり、
前記工程(f)は、前記工程(c1)及び前記工程(c3)で得られた前記微粒から前記クリンカ細骨材を生成する工程であるものとしても構わない。
【0035】
このとき、前記工程(e)は、前記工程(c1)又は前記工程(c2)の少なくとも一方で得られた前記第一分級微粉から、前記セメントを得る工程であるものとしても構わない。
【0036】
また、工程(d)の後に再度分級処理を行うものとしても構わない。すなわち、
前記クリンカ細骨材の製造方法は、
前記工程(d)で得られた生成物を、残余粗粒と前記微粒に分級する工程(g)を有し、
前記工程(d)は、前記工程(g)で得られた前記残余粗粒を、前記工程(c)で得られた前記粗粒と共に粉砕する工程であり、
前記工程(e)は、前記工程(g)の実行時に生成された、前記微粒よりも粒径の細かい第二分級微粉が、前記第一分級微粉と共に混合される工程であるものとしても構わない。
【0037】
なお、上記の方法によって得られたクリンカ細骨材は、コンクリート又はモルタルとして共用終了後に回収され、再びセメント原料として利用することができる。すなわち、このセメント原料を用いてセメントクリンカを製造することが可能である。
【0038】
すなわち、本発明に係るセメントクリンカの製造方法は、
上述した方法によって前記クリンカ細骨材を得る工程と、
セメントと、前記工程(f)で得られた前記クリンカ細骨材と、粗骨材とを混合して、コンクリートを製造する工程(h1)と、
前記工程(h1)で得られた前記コンクリートの共用終了後に、前記粗骨材を分離する工程(i)と、
前記工程(i)で得られた残留物をセメントクリンカ原料として焼成する工程(j1)とを有するものとしても構わない。
【0039】
また、本発明に係るセメントクリンカの製造方法は、
上述した方法によって前記クリンカ細骨材を得る工程と、
セメントと、前記工程(f)で得られた前記クリンカ細骨材とを混合して、モルタルを製造する工程(h2)と、
前記工程(h2)で得られた前記モルタルの共用終了後に、前記モルタルをセメントクリンカ原料として焼成する工程(j2)とを有するものとしても構わない。
【0040】
上記のセメントクリンカの製造方法において、工程(h1)又は工程(h2)で用いられるセメントとしては、本発明に係るクリンカ細骨材の製造方法における工程(e)で得られたセメントを採用しても構わないし、他のセメント工場で得られたセメントを採用しても構わない。
【0041】
また、上記のセメントクリンカの製造方法において、工程(j1)又は工程(j2)に係る焼成工程は、本発明に係るクリンカ細骨材の製造方法の工程(a)とすることもできるし、クリンカ細骨材を得ることを目的としない一般的なセメント製造時に実行されるセメントクリンカ焼成工程とすることもできる。