【実施例】
【0021】
中分子ヘパリニルアミノ酸誘導体の製造
(1)中分子ヘパリンの調製
通常のヘパリンを酵素分解法、亜硝酸分解法、過酸化水素分解法などの常法により解重合した後に、例えば、限外濾過などの分画手段を用いて分画したもので、平均分子量が8,500〜9,500の画分からなる。
【0022】
例えば、ヘパリンを水に溶解し、陽イオン交換樹脂を加えてpH3.30〜3.40とした後、濾過する。濾液に過酸化水素水を加え、加圧加熱して解重合する。加熱終了後、反応液に水酸化ナトリウム水溶液を加えて、限外濾過を繰り返して分子量分画を行う。エタノールによる再結晶を行い、中分子ヘパリンを得る。
【0023】
(2)中分子ヘパリニルアミノ酸誘導体の調製
前述の中分子ヘパリンを、例えば、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩を用いてカルボキシル基をエステル化した後、上記アミノ酸のエステル体を加えて中分子ヘパリニルアミノ酸エステルとし、さらにアルカリ条件下で加水分解して中分子ヘパリニルアミノ酸を得る。
例えば、中分子ヘパリンを水に溶解し、pH4.75に調整後、対応するアミノ酸エステル塩酸塩(中分子ヘパリンに対するモル比、1:100)を加える。
【0024】
さらに、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(中分子ヘパリンに対するモル比、1:50)の水溶液を徐々に加え、約4時間攪拌反応させた後、水および臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム水溶液をアンモニウム塩の沈澱物が生じなくなるまで加える。
次いでこの沈澱物を分離後、沈澱物にヨウ化ナトリウムのエタノール溶液を加える。攪拌後、濾過し、沈澱物をエタノールで再結晶して、白色粉末の中分子ヘパリニルアミノ酸エステルを得る。
【0025】
このエステルに水酸化ナトリウム水溶液を加え、窒素気流下、0〜5℃にて長時間攪拌する。反応液を酢酸でpH5に調整後、濾過し、濾液にエタノールを加えて、白色粉末の中分子ヘパリニルアミノ酸を得る。
【0026】
本発明の医薬組成物には、中分子ヘパリンまたは中分子ヘパリニルアミノ酸誘導体を有効成分として、通常の方法により製剤化し、注射剤、経口剤、外用剤、座剤、経皮吸収剤などとして投与することができる。
例えば以下のような投与法によって投与されるが、その投与量あるいは投与速度は、通常本剤投与後、全血凝固時間または全血活性化部分トロンボプラスチン時間を測定しつつ、年齢、症例、適応領域あるいは目的によって決定される。
【0027】
例えば、静脈内点滴投与法では、中分子ヘパリンまたは中分子ヘパリニルアミノ酸誘導体の5,000〜50,000ヘパリン単位に相当する量を5%ブドウ糖注射液、生理食塩液またはリンゲル液1,000mlで希釈し、1分間に20〜30滴前後の速度で静脈内に点滴投与する。
【0028】
また、静脈内間歇注射法では、中分子ヘパリンまたは中分子ヘパリニルアミノ酸誘導体の5,000〜50,000ヘパリン単位に相当する量を4〜8時間毎に静脈内に注射する。皮下注射・筋肉内注射法では、1回5,000〜10,000ヘパリン単位に相当する量の中分子ヘパリニルアミノ酸誘導体を4時間毎に皮下注射または筋肉内注射する。
【0029】
体外循環時(血液透析・人工心肺)における使用において、人工腎では各患者の適正使用量は透析前のヘパリン感受性試験の結果に基づいて算出されるが、全身ヘパリン化法の場合、通常透析開始に先だって、1,000〜3,000ヘパリン単位に相当する量の中分子ヘパリニルアミノ酸誘導体を投与し、透析開始後は、1時間あたり500〜1,500ヘパリン単位に相当する量を持続的に、または1時間毎に500〜1,500ヘパリン単位に相当する量を間歇的に追加する。局所ヘパリン化法の場合は、1時間あたり1,500〜2,500ヘパリン単位に相当する量を持続注入する。また、人工心肺灌流時では、術式・方法によって異なるが、150〜300ヘパリン単位/kgに相当する量を投与し、更に体外循環時間の延長に応じて適宜追加投与する。
【0030】
経口投与用の医薬組成物である場合は、500〜2,000ヘパリン単位に相当する量の中分子ヘパリンまたは中分子ヘパリニルアミノ酸誘導体を1日1〜数回服用する。
外用剤の医薬組成物である場合は、100〜500ヘパリン単位に相当する量の中分子ヘパリンまたは中分子ヘパリニルアミノ酸誘導体を含む軟膏などとして製剤化され、適量を1日1〜数回塗擦またはガーゼなどに延ばして貼付する。
座剤の場合は、1,000〜4,000ヘパリン単位に相当する量の中分子ヘパリンまたは中分子ヘパリニルアミノ酸誘導体を1日1〜2回肛門または膣に適用する。
経皮吸収剤の場合は、1,000〜4,000ヘパリン単位に相当する量の中分子ヘパリンまたは中分子ヘパリニルアミノ酸誘導体を1日1〜2回胸部、上腹部、背部、上腕部または大腿部に適用する。
【0031】
実施例1
抗がん剤オキサリプラチン誘起アロディニア(神経障害性疼痛)に対する中分子ヘパリンおよび中分子ヘパリニルフェニルアラニンの抑制作用
実験方法
機械的痛覚閾値の測定はup−down法を用いたvon Frey試験により行った。0.008、0.02、0.04、0.07、0.16、0.4、0.6および1.0gの8種類の強度の異なるフィラメントを使用しマウスの足底にフィラメントが軽く曲がる程度に6秒間押しつけて刺激し、マウスが逃避反応を示すか否かを観察した。フィラメントによる刺激は強度の小さいものから始め、刺激に対して反応が無い場合は、1つ強い強度のフィラメントで再度刺激した。反応がみられた場合は、30秒の間隔をあけて1つ弱い強度で刺激した。測定は、はじめて反応があったところから5回行い50%閾値を算出した。
中分子ヘパリン(MMWH)および中分子ヘパリニルフェニルアラニン(MMWH−F)を2.5mg/kgの用量で腹腔内投与し、その1時間後にオキサリプラチン(OHP)を腹腔内投与した。痛覚閾値は、OHP投与2時間後から1時間毎に6時間後まで、その後は、1、3、5および7日に測定した。
結果を
図1に示す。
【0032】
図1に示されるように、OHPの腹腔内投与(−●−)は投与2時間後から痛覚閾値を低下させ投与7日後まで低い値を維持した。MMWHの2.5mg/kgの前投与(−□−)は、この痛覚閾値の低下を抑制した。これに対してMMWH−Fの2.5mg/kgの前投与(−■−)は、この痛覚閾値の低下を強く抑制し、その作用はOHP腹腔内投与7日後まで持続した。
【0033】
実施例2
未分画ヘパリン、中分子ヘパリンおよび中分子ヘパリニルフェニルアラニンの血液凝固因子XaおよびIIa(トロンビン)の阻害作用(抗Xaおよび抗IIa活性)
実験方法
合成基質法により未分画ヘパリン、中分子ヘパリンおよび中分子ヘパリニルフェニルアラニンの抗Xaおよび抗IIa活性を測定した。結果を
図2および
図3に各々示す。
図2に示されるように、未分画ヘパリン(HE、−○−)と比較して、MMWH(−□−)の抗Xa活性は低い傾向を示した。また、MMWH−F(−■−)は、HE、MMWHと比較して遙かに低い抗Xa活性を示した。
また、
図3に示されるように、HE(−○−)と比較して、MMWH(−□−)は抗IIa活性がより低い傾向を示し、MMWH−F(−■−)は抗IIa活性を全く示さなかった。
【0034】
血液凝固は多くの凝固因子の連鎖反応によりフィブリンが生成され止血を行う重要な機構である。どの血液凝固因子を阻害しても血液凝固を抑制することができるが、IIaを直接阻害すると出血リスクが高くなることが知られている。ヘパリンの抗凝固作用のメインのターゲット分子はXaおよびIIaであるが、抗凝固作用と出血リスクの関係を示す指標として、抗Xa/抗IIa活性比が用いられる。一般に、未分画ヘパリンの抗Xa/抗IIa活性比は1/1であるのに対して、MMWH−Fは、抗Xa活性は有するが、抗IIa活性はほとんどない(今回の実験では10,000μg/mL以上)。このことから、MMWH−Fは、血液抗凝固作用は有するが、出血リスク低いと考えられる。
これらの実験結果から、MMWHおよびMMWH−Fは、マウスに抗がん剤であるオキサリプラチンを投与することにより誘起される痛覚閾値の低下(アロディニア)を抑制し、抗IIa活性が著しく減弱していたことから出血リスクが極めて低い神経障害性疼痛治療薬となることが示された。