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特開2021-155334中分子ヘパリンまたは中分子ヘパリンのアミノ酸誘導体を含む医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-155334(P2021-155334A)
(43)【公開日】2021年10月7日
(54)【発明の名称】中分子ヘパリンまたは中分子ヘパリンのアミノ酸誘導体を含む医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/727 20060101AFI20210910BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20210910BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210910BHJP
   A61K 31/282 20060101ALN20210910BHJP
【FI】
   A61K31/727
   A61P25/04
   A61P43/00 121
   A61K31/282
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-88052(P2018-88052)
(22)【出願日】2018年5月1日
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(71)【出願人】
【識別番号】000238201
【氏名又は名称】扶桑薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】川畑 篤史
(72)【発明者】
【氏名】西川 裕之
【テーマコード(参考)】
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA27
4C086NA06
4C086NA14
4C086ZA08
4C086ZC75
4C206AA01
4C206JB16
4C206NA06
4C206NA14
4C206ZA08
4C206ZC75
(57)【要約】
【課題】疼痛を予防または治療すると同時に出血リスクが極めて低い疼痛治療薬を提供すること。
【解決手段】平均分子量8,500〜9,500を有する中分子ヘパリン、またはその中分子ヘパリンのアミノ酸誘導体を有効成分とする、抗凝固作用が抑制された疼痛の予防用または治療用の医薬組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均分子量8,500〜9,500を有する中分子ヘパリン、またはその中分子ヘパリンのアミノ酸誘導体を有効成分とする、抗凝固作用が抑制された疼痛の予防用または治療用の医薬組成物。
【請求項2】
中分子ヘパリンのアミノ酸誘導体が、平均分子量8,500〜9,500を有する中分子ヘパリンと、一般式:NH2CH(R1)COOR2
[式中、R1は、
・H;
・アミノ酸のα−アミノ基のNおよびα位のCと共にピロリジン環を形成するか;または、
・OHで置換されていてもよいフェニル、OH、NH2、SH、SCH3、COOH、CONH2、グアニジノ、インドリルおよび1H−イミダゾリルからなる群から選ばれる基で置換されていてもよい低級アルキルであり、R2は、Hまたは低級アルキルである]で示されるアミノ酸誘導体がカルボキシル基にアミド結合してなる化合物である、請求項1に記載の疼痛の予防用または治療用の医薬組成物。
【請求項3】
中分子ヘパリンのアミノ酸誘導体が中分子へパリニルフェニルアラニンまたは中分子へパリニルフェニルアラニンアルキルエステルである、請求項2に記載の疼痛の予防用または治療用の医薬組成物。
【請求項4】
疼痛が神経障害性疼痛である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の疼痛の予防用または治療用の医薬組成物。
【請求項5】
疼痛が抗がん剤由来の疼痛である、請求項4に記載の疼痛の予防用または治療用の医薬組成物。
【請求項6】
疼痛がオキサリプラチン由来の疼痛である、請求項5に記載の疼痛の予防用または治療用の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中分子ヘパリンまたは中分子へパリンのアミノ酸誘導体を有効成分として含む、疼痛予防用または治療用の医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
がんの化学療法における副作用として抹消神経障害による痺れや痛みが高頻度でみられる。この化学療法時にみられる痛みは神経障害性疼痛に分類され、難治性である。現在、抗がん剤による抹消神経障害を含む神経障害性疼痛の治療薬としてプレガバリン(商品名 リリカ)が承認されているが、奏功率が十分でなく、重度のふらつきなどの副作用発現が多くみられ、神経障害性疼痛の発現が原因で化学療法の中止や抗がん剤の種類の変更に迫られる場合がある。これらのことから、有効性が高い神経障害性疼痛の予防薬および治療薬の開発が望まれている。
【0003】
一方、ヘパリンは、強い血液抗凝固活性を有しており、汎発性血管内血液凝固症候群(DIC)の治療、種々の血栓塞栓症(静脈血栓症、心筋梗塞症、肺塞栓症、脳塞栓症、四肢動脈血栓塞栓症、術中・術後の血栓塞栓症など)の治療および予防のほか、血液透析・人工心肺などの体外循環装置使用時や血管カテーテル挿入時または輸血および血液検査の際などにおける血液凝固の防止に用いられている。
【0004】
しかし、ヘパリンは抗Xaおよび抗トロンビン(IIa)活性に基づく強力な血液抗凝固作用を有することから、血液凝固時間の延長に伴う出血傾向の増悪という重篤な副作用がある。また、脂質分解作用による高中性脂肪血症や遊離脂肪酸増加、低HDL血症、あるいは長期連用による血小板減少症の発症も知られている。
【0005】
以上のように、ヘパリンをはじめとする血液抗凝固剤は、出血傾向の増大という重篤な副作用などが発現するおそれがあるものの、特に、血液透析・人工心肺などの体外循環装置使用時の血液凝固防止には欠かせない薬剤であり、また、代替すべき適当な他の薬物もないことから、ある程度の危険性を承知の上で、使用せざるを得ないのが現状であった。
【0006】
一方、ヘパリンは前述の血液抗凝固活性の他に、リポ蛋白リパーゼ活性化作用、抗血小板凝集作用、血圧低下作用、抗補体作用、がん転移抑制作用および肥満細胞からの脱顆粒阻害作用などの多くの生理活性を有することが知られている。しかしながら、血液抗凝固活性に伴う出血傾向があまりに強いため、血液抗凝固目的以外に用いることはできなかった。
【0007】
本発明者らは、出血傾向などの副作用の少ない血液抗凝固剤について検討した結果、ヘパリンを解重合して平均分子量8,500〜9,500の中分子ヘパリンの画分を採取し、さらにこの中分子ヘパリンをアミノ酸誘導体化した化合物がこの出血傾向を軽減する目的を達成することを見出し、それらの物質についてすでに特許権を取得している(特許文献1)。
【0008】
また、本発明者らは、中分子へパリンのアミノ酸誘導体に、血液抗凝固活性、腎メサンギウム細胞増殖抑制活性、がん転移抑制活性、補体活性化抑制活性、肺水腫抑制活性、腎疾患治療効果、ラジカルスカベンジャー活性およびアレルギー抑制効果があることを見出し、それらの物質を含む医薬組成物についてもすでに特許権を取得している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4047945号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
今回、本発明者らは、かかる中分子ヘパリンおよび中分子ヘパリンのアミノ酸誘導体が、上記した効果に加えて、疼痛を予防または治療する効果、特に神経障害性の疼痛、さらに特には抗がん剤に由来する神経障害性の疼痛を予防または治療する効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、平均分子量8,500〜9,500を有する中分子ヘパリン、またはその中分子ヘパリンのアミノ酸誘導体(以下、「中分子へパリニルアミノ酸誘導体」という場合がある)を有効成分とする、血液抗凝固作用が抑制された疼痛の予防用または治療用の医薬組成物を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の中分子ヘパリニルアミノ酸誘導体は、疼痛を予防および治療するとともに、本来ヘパリンが有している各種の生理活性を損なうことなく血液抗凝固作用を抑制し出血傾向を軽減することができるため、骨髄抑制により血小板が減少し、出血傾向に陥りやすいがん化学療法時にみられる抹消神経障害による痺れや痛みに対しても有効に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】抗がん剤オキサリプラチン誘起痛覚過敏に対する中分子ヘパリンおよび中分子へパリニルフェニルアラニンの抑制作用を示すグラフを示す。
図2】中分子ヘパリンおよび中分子へパリニルフェニルアラニンの抗Xa活性を示すグラフを示す。
図3】中分子ヘパリンおよび中分子へパリニルフェニルアラニンの抗IIa活性を示すグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、平均分子量8,500〜9,500を有する中分子ヘパリンまたは中分子ヘパリニルアミノ酸誘導体を有効成分とする、血液抗凝固作用が抑制された疼痛の予防用または治療用の医薬組成物を提供するものである。
【0015】
本発明の医薬組成物に含まれる中分子ヘパリニルアミノ酸誘導体は、平均分子量8,500〜9,500を有する中分子ヘパリンと、一般式:
NH2CH(R1)COOR2
[式中、R1は、
・H;
・アミノ酸のα−アミノ基のNおよびα位のCと共にピロリジン環を形成するか;または、
・OHで置換されていてもよいフェニル、OH、NH2、SH、SCH3、COOH、CONH2、グアニジノ(NH2C(=NH)NH−)、インドリルおよび1H−イミダゾリルからなる群から選ばれる基で置換されていてもよい低級アルキルであり;
2は、Hまたは低級アルキルである]で示されるアミノ酸誘導体とが中分子ヘパリンのアミノ基またはカルボキシル基とアミノ酸誘導体のカルボキシル基またはアミノ基との間でアミド結合した化合物である。
【0016】
本発明の中分子ヘパリニルアミノ酸誘導体のアミノ酸は、好ましくは天然のアミノ酸であるか、より好ましくは芳香環を有するアミノ酸、特に好ましくはフェニルアラニンおよびチロシンである。
【0017】
本発明の中分子ヘパリニルアミノ酸誘導体には、抗凝血活性および腎メサンギウム細胞増殖抑制活性、がん転移抑制活性、補体活性化抑制活性、肺水腫抑制活性、腎疾患抑制活性、ラジカルスカベンジャー活性および肥満細胞からの脱顆粒阻害作用を示すことが確認されている。
【0018】
本発明で用いる中分子ヘパリンは、解重合ヘパリンの平均分子量8,500〜9,500の画分をいう。最小分子量が4,500、最大分子量12,500であり、分子量5,000〜10,000が中分子ヘパリン中70%以上のものをいう。
【0019】
また、本発明の中分子ヘパリニルアミノ酸誘導体で用いるアミノ酸は、合成物、天然物を問わずアミノ基とカルボキシル基を有する化合物であれば特に制限はないが、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、トリプトファン、プロリンなどのα−アミノ酸またはその誘導体類が好適に用いられる。これらのアミノ酸はD体、L体またはDL体のいずれでもよい。
【0020】
本発明の中分子ヘパリニルアミノ酸誘導体の低級アルキルとは飽和の直鎖または分枝状の、炭素原子1〜6個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜4個を含む炭化水素残基をいう。例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチルなどが包含される。
本発明の化合物には一般に生体内において遊離形と実質的に同様の生理活性または薬理活性を発揮するもの、例えば、本発明の化合物の誘導体および医薬的に許容される塩、付加塩、水和物などは本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0021】
中分子ヘパリニルアミノ酸誘導体の製造
(1)中分子ヘパリンの調製
通常のヘパリンを酵素分解法、亜硝酸分解法、過酸化水素分解法などの常法により解重合した後に、例えば、限外濾過などの分画手段を用いて分画したもので、平均分子量が8,500〜9,500の画分からなる。
【0022】
例えば、ヘパリンを水に溶解し、陽イオン交換樹脂を加えてpH3.30〜3.40とした後、濾過する。濾液に過酸化水素水を加え、加圧加熱して解重合する。加熱終了後、反応液に水酸化ナトリウム水溶液を加えて、限外濾過を繰り返して分子量分画を行う。エタノールによる再結晶を行い、中分子ヘパリンを得る。
【0023】
(2)中分子ヘパリニルアミノ酸誘導体の調製
前述の中分子ヘパリンを、例えば、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩を用いてカルボキシル基をエステル化した後、上記アミノ酸のエステル体を加えて中分子ヘパリニルアミノ酸エステルとし、さらにアルカリ条件下で加水分解して中分子ヘパリニルアミノ酸を得る。
例えば、中分子ヘパリンを水に溶解し、pH4.75に調整後、対応するアミノ酸エステル塩酸塩(中分子ヘパリンに対するモル比、1:100)を加える。
【0024】
さらに、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(中分子ヘパリンに対するモル比、1:50)の水溶液を徐々に加え、約4時間攪拌反応させた後、水および臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム水溶液をアンモニウム塩の沈澱物が生じなくなるまで加える。
次いでこの沈澱物を分離後、沈澱物にヨウ化ナトリウムのエタノール溶液を加える。攪拌後、濾過し、沈澱物をエタノールで再結晶して、白色粉末の中分子ヘパリニルアミノ酸エステルを得る。
【0025】
このエステルに水酸化ナトリウム水溶液を加え、窒素気流下、0〜5℃にて長時間攪拌する。反応液を酢酸でpH5に調整後、濾過し、濾液にエタノールを加えて、白色粉末の中分子ヘパリニルアミノ酸を得る。
【0026】
本発明の医薬組成物には、中分子ヘパリンまたは中分子ヘパリニルアミノ酸誘導体を有効成分として、通常の方法により製剤化し、注射剤、経口剤、外用剤、座剤、経皮吸収剤などとして投与することができる。
例えば以下のような投与法によって投与されるが、その投与量あるいは投与速度は、通常本剤投与後、全血凝固時間または全血活性化部分トロンボプラスチン時間を測定しつつ、年齢、症例、適応領域あるいは目的によって決定される。
【0027】
例えば、静脈内点滴投与法では、中分子ヘパリンまたは中分子ヘパリニルアミノ酸誘導体の5,000〜50,000ヘパリン単位に相当する量を5%ブドウ糖注射液、生理食塩液またはリンゲル液1,000mlで希釈し、1分間に20〜30滴前後の速度で静脈内に点滴投与する。
【0028】
また、静脈内間歇注射法では、中分子ヘパリンまたは中分子ヘパリニルアミノ酸誘導体の5,000〜50,000ヘパリン単位に相当する量を4〜8時間毎に静脈内に注射する。皮下注射・筋肉内注射法では、1回5,000〜10,000ヘパリン単位に相当する量の中分子ヘパリニルアミノ酸誘導体を4時間毎に皮下注射または筋肉内注射する。
【0029】
体外循環時(血液透析・人工心肺)における使用において、人工腎では各患者の適正使用量は透析前のヘパリン感受性試験の結果に基づいて算出されるが、全身ヘパリン化法の場合、通常透析開始に先だって、1,000〜3,000ヘパリン単位に相当する量の中分子ヘパリニルアミノ酸誘導体を投与し、透析開始後は、1時間あたり500〜1,500ヘパリン単位に相当する量を持続的に、または1時間毎に500〜1,500ヘパリン単位に相当する量を間歇的に追加する。局所ヘパリン化法の場合は、1時間あたり1,500〜2,500ヘパリン単位に相当する量を持続注入する。また、人工心肺灌流時では、術式・方法によって異なるが、150〜300ヘパリン単位/kgに相当する量を投与し、更に体外循環時間の延長に応じて適宜追加投与する。
【0030】
経口投与用の医薬組成物である場合は、500〜2,000ヘパリン単位に相当する量の中分子ヘパリンまたは中分子ヘパリニルアミノ酸誘導体を1日1〜数回服用する。
外用剤の医薬組成物である場合は、100〜500ヘパリン単位に相当する量の中分子ヘパリンまたは中分子ヘパリニルアミノ酸誘導体を含む軟膏などとして製剤化され、適量を1日1〜数回塗擦またはガーゼなどに延ばして貼付する。
座剤の場合は、1,000〜4,000ヘパリン単位に相当する量の中分子ヘパリンまたは中分子ヘパリニルアミノ酸誘導体を1日1〜2回肛門または膣に適用する。
経皮吸収剤の場合は、1,000〜4,000ヘパリン単位に相当する量の中分子ヘパリンまたは中分子ヘパリニルアミノ酸誘導体を1日1〜2回胸部、上腹部、背部、上腕部または大腿部に適用する。
【0031】
実施例1
抗がん剤オキサリプラチン誘起アロディニア(神経障害性疼痛)に対する中分子ヘパリンおよび中分子ヘパリニルフェニルアラニンの抑制作用
実験方法
機械的痛覚閾値の測定はup−down法を用いたvon Frey試験により行った。0.008、0.02、0.04、0.07、0.16、0.4、0.6および1.0gの8種類の強度の異なるフィラメントを使用しマウスの足底にフィラメントが軽く曲がる程度に6秒間押しつけて刺激し、マウスが逃避反応を示すか否かを観察した。フィラメントによる刺激は強度の小さいものから始め、刺激に対して反応が無い場合は、1つ強い強度のフィラメントで再度刺激した。反応がみられた場合は、30秒の間隔をあけて1つ弱い強度で刺激した。測定は、はじめて反応があったところから5回行い50%閾値を算出した。
中分子ヘパリン(MMWH)および中分子ヘパリニルフェニルアラニン(MMWH−F)を2.5mg/kgの用量で腹腔内投与し、その1時間後にオキサリプラチン(OHP)を腹腔内投与した。痛覚閾値は、OHP投与2時間後から1時間毎に6時間後まで、その後は、1、3、5および7日に測定した。
結果を図1に示す。
【0032】
図1に示されるように、OHPの腹腔内投与(−●−)は投与2時間後から痛覚閾値を低下させ投与7日後まで低い値を維持した。MMWHの2.5mg/kgの前投与(−□−)は、この痛覚閾値の低下を抑制した。これに対してMMWH−Fの2.5mg/kgの前投与(−■−)は、この痛覚閾値の低下を強く抑制し、その作用はOHP腹腔内投与7日後まで持続した。
【0033】
実施例2
未分画ヘパリン、中分子ヘパリンおよび中分子ヘパリニルフェニルアラニンの血液凝固因子XaおよびIIa(トロンビン)の阻害作用(抗Xaおよび抗IIa活性)
実験方法
合成基質法により未分画ヘパリン、中分子ヘパリンおよび中分子ヘパリニルフェニルアラニンの抗Xaおよび抗IIa活性を測定した。結果を図2および図3に各々示す。
図2に示されるように、未分画ヘパリン(HE、−○−)と比較して、MMWH(−□−)の抗Xa活性は低い傾向を示した。また、MMWH−F(−■−)は、HE、MMWHと比較して遙かに低い抗Xa活性を示した。
また、図3に示されるように、HE(−○−)と比較して、MMWH(−□−)は抗IIa活性がより低い傾向を示し、MMWH−F(−■−)は抗IIa活性を全く示さなかった。
【0034】
血液凝固は多くの凝固因子の連鎖反応によりフィブリンが生成され止血を行う重要な機構である。どの血液凝固因子を阻害しても血液凝固を抑制することができるが、IIaを直接阻害すると出血リスクが高くなることが知られている。ヘパリンの抗凝固作用のメインのターゲット分子はXaおよびIIaであるが、抗凝固作用と出血リスクの関係を示す指標として、抗Xa/抗IIa活性比が用いられる。一般に、未分画ヘパリンの抗Xa/抗IIa活性比は1/1であるのに対して、MMWH−Fは、抗Xa活性は有するが、抗IIa活性はほとんどない(今回の実験では10,000μg/mL以上)。このことから、MMWH−Fは、血液抗凝固作用は有するが、出血リスク低いと考えられる。
これらの実験結果から、MMWHおよびMMWH−Fは、マウスに抗がん剤であるオキサリプラチンを投与することにより誘起される痛覚閾値の低下(アロディニア)を抑制し、抗IIa活性が著しく減弱していたことから出血リスクが極めて低い神経障害性疼痛治療薬となることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の医薬組成物は、出血リスクが極めて低い疼痛治療薬として産業上の利用可能性がある。
図1
図2
図3