特開2021-155558(P2021-155558A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2021-155558少なくとも一組の隣接水酸基により置換されたベンゼン環を側鎖に有するポリマーの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-155558(P2021-155558A)
(43)【公開日】2021年10月7日
(54)【発明の名称】少なくとも一組の隣接水酸基により置換されたベンゼン環を側鎖に有するポリマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 226/06 20060101AFI20210910BHJP
   C08F 8/00 20060101ALI20210910BHJP
【FI】
   C08F226/06
   C08F8/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2020-57389(P2020-57389)
(22)【出願日】2020年3月27日
(71)【出願人】
【識別番号】000002440
【氏名又は名称】積水化成品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲桑▼垣 香織
(72)【発明者】
【氏名】日下 明芳
【テーマコード(参考)】
4J100
【Fターム(参考)】
4J100AB02P
4J100AQ06Q
4J100BA03H
4J100BA10H
4J100BA35H
4J100BC43H
4J100BC80Q
4J100CA04
4J100CA31
4J100HC10
4J100HC27
4J100HE14
4J100HE32
4J100JA01
4J100JA03
4J100JA38
(57)【要約】
【課題】本発明は、操作が簡便で、反応中に反応系のゲル化が生じない、カテコール基、ガロール基等の少なくとも一組の隣接水酸基により置換されたベンゼン環を側鎖に有するポリマーの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の第一の態様は、2−オキサゾリン基を側鎖に有するポリマーと、少なくとも一組の隣接水酸基により置換されたベンゼン環、及び、カルボキシル基を有する化合物とを反応させることを含む、少なくとも一組の隣接水酸基により置換されたベンゼン環を側鎖に有するポリマーの製造方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−オキサゾリン基を側鎖に有するポリマーと、
少なくとも一組の隣接水酸基により置換されたベンゼン環、及び、カルボキシル基を有する化合物と
を反応させることを含む、少なくとも一組の隣接水酸基により置換されたベンゼン環を側鎖に有するポリマーの製造方法。
【請求項2】
2−オキサゾリン基を側鎖に有するポリマーが、
【化1】
(式中、
は水素又はメチルであり、
は単結合又は炭素数1〜10の二価の炭化水素基であり、
31、32、R41及びR42は、それぞれ独立に、水素又は炭素数1〜5の一価の炭化水素基である)
で表されるモノマーユニットを含むポリマーである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも一組の隣接水酸基により置換されたベンゼン環、及び、カルボキシル基を有する化合物が、
【化2】
(式中、
は単結合又は炭素数1〜10の二価の炭化水素基であり、
mは2又は3であり、
OHのうち少なくとも一組はベンゼン環上の隣接した炭素原子と結合している)
で表される化合物である、請求項1又は2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテコール基、ガロール基等の、少なくとも一組の隣接水酸基により置換されたベンゼン環を側鎖に有するポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
側鎖にカテコール基又はガロール基(ガロイル基)を有するポリマーは、接着剤、吸着剤、表面処理剤、防錆剤等に用いられる機能性ポリマーである。
側鎖にカテコール基又はガロール基を有するポリマーを合成する方法として以下に挙げる方法が知られている。
【0003】
特許文献1では、3つの水酸基により置換されたベンゼン環を含む側鎖(ガロール基様側鎖)を有する共重合体の製造方法として、水酸基を保護基により保護したガロール基様側鎖を含むモノマー(a)と、疎水性基又はエーテル鎖を有するモノマー(b)とを共重合させ、共重合体形成後に保護基を脱保護する方法が記載されている。
【0004】
特許文献2では、金属粒子用高分子分散剤として、新規なカテコール基含有重合体が開示されており、その製造方法として、カテコール基の2つの水酸基をケタール又はアセタールにより保護した環状カテコール含有モノマーと、アクリレート系モノマーとを共重合させ、その後に環状カテコールを脱保護する方法が記載されている。
【0005】
特許文献3では、金属または合金からなる基材の表面に結合するナノコーティング材料として、少なくとも一組の隣接水酸基を持つベンゼン環を含む接合基を有する第1の側鎖又は末端を含む高分子主鎖を有する化合物が記載されている。前記接合基としてドーパミンの骨格を有する接合基が記載されている。ドーパミンはカテコール基を有する。特許文献3では、前記高分子主鎖を有する化合物の製造方法の例として、ドーパミンメタクリルアミドと、アクリレート系モノマー又はスチレンとを共重合させる方法が記載されている。
【0006】
特許文献4では、水中接着剤として利用できる機能性ポリマーとして、ポリアクリレートから成る主鎖に少なくとも3種類の側鎖が結合されているポリマーが記載されており、前記側鎖のうち第2の側鎖が、その末端に修飾されていてもよいカテコール性水酸基を有するものであることが記載されている。特許文献4ではこのポリマーの製造方法として、カテコール基を含むアクリレートモノマー中の水酸基をトリエチルシリル基により保護した後、保護されたカテコール基を含むアクリレートモノマーと、他の2種類のアクリレートモノマーとを共重合し、その後に前記水酸基を脱保護する方法が記載されている。
【0007】
特許文献5では、オーバーコートされたフォトレジストと共に用いるためのコーティング組成物の成分の1つとして、新規なカテコール含有ポリマーが記載されている。特許文献5では、この新規なカテコール含有ポリマーの好ましい態様として、下記のスキーム1において例示されるように、グリシジル部分(エポキシ基を含む)を有するアクリレート樹脂等の反応基を有するポリマーを、該ポリマーと反応する1つ以上の部分を含むカテコール試薬とを反応させて得られる、ペンダントカテコール基を有するポリマー反応生成物が記載されている。
【0008】
【化1】
【0009】
特許文献5の実施例4では、上記スキーム1による合成の具体例として、ポリ(グリシジルメタクリレート)と、3,4−ジヒドロキシ安息香酸とを、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)の存在下で反応させて、カテコール官能性ポリマーP9(ペンダントカテコール基を有するポリマー反応生成物)を合成したこと、その収率が40%であったことが記載されている。
【0010】
特許文献5では上記スキーム1で得られるポリマー反応生成物の側鎖中のエポキシ基に由来する水酸基が、コーディング組成物の架橋に用いられることが記載されている。
【0011】
一方、特許文献6では、側鎖の末端にエチレン性不飽和二重結合を有するビニル系重合体を含むビニル系接着剤が記載されている。特許文献6では、側鎖の末端にエチレン性不飽和二重結合を有するビニル系重合体の一例として、エポキシ基含有単量体及びオキサゾリン基含有単量体からなる群より選ばれた少なくとも1種の単量体を含有する単量体成分を重合させることによって得られる重合体と、カルボキシル基及び/又は水酸基を有する単量体とを反応させて得られる化合物が記載されている。
【0012】
非特許文献1では、側鎖にエポキシ基を有する反応性高分子と、機能性分子団を有するカルボン酸とを反応させて、機能性高分子の合成を行う場合、可溶性のポリマーを得ることは極めて困難であることが記載されている。その理由として、高分子の側鎖のエポキシ基とカルボン酸との結合により生成する水酸基と、エポキシ基との分子間での付加反応が副反応として生じ、ゲル化することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2019−147857号公報
【特許文献2】特開2014−65857号公報
【特許文献3】WO2015/152176
【特許文献4】特開2012−233059号公報
【特許文献5】特開2017−107185号公報
【特許文献6】特開2013−71948号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】有機合成化学,第49巻,第3号,第219頁(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1〜4に記載の方法は、いすれも、カテコール基又はガロール基を有するモノマーを、他のモノマーと重合させることにより、側鎖にカテコール基又はガロール基を有するポリマーを製造する方法である。カテコール基又はガロール基を有するモノマーは、製造が容易でなく、高コストであるため、特許文献1〜4に記載の方法は実施が容易ではない。
【0016】
また、特許文献1、2及び4に記載の方法は、カテコール基又はガロール基に含まれる水酸基を保護基により保護した状態で重合を行い、重合後に脱保護することを含む方法であるため、工程が多く操作が複雑であるという問題がある。
【0017】
一方、特許文献5に記載のペンダントカテコール基を有するポリマー反応生成物の製造方法は、側鎖にエポキシ基を含むポリマーと、該ポリマーのエポキシ基と反応する1つ以上の部分を含むカテコール試薬とを反応させるため、比較的安価な原料を用いて実施可能であるとともに、保護基による保護と脱保護の操作を必要としない。
【0018】
しかしながら本発明者らは、特許文献5の上記のスキーム1に従い、特許文献5の実施例4と同様に、ポリ(グリシジルメタクリレート)と、3,4−ジヒドロキシ安息香酸とを、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)の存在下で反応させたとき、反応中に反応系全体がゲル化してしまい、可溶性の生成物を得ることができないことを見出した。このゲル化は、非特許文献1に示唆されているように、ポリ(グリシジルメタクリレート)のエポキシ基と3,4−ジヒドロキシ安息香酸のカルボキシル基とが反応して生じるポリマーの、前記エポキシ基に由来する側鎖上の遊離の水酸基と、未反応のポリ(グリシジルメタクリレート)のエポキシ基とが反応して、ポリマー間が架橋することが原因であると推定される。
【0019】
このように従来の、カテコール基、ガロール基等の少なくとも一組の隣接水酸基により置換されたベンゼン環を側鎖に有するポリマーの製造方法は、操作が複雑である、或いは、反応中にゲル化してしまい反応が進まないという課題があった。なお特許文献6においても前記課題を解決するための手段は記載されていない。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記課題に鑑みて、本出願人は鋭意検討し、少なくとも一組の隣接水酸基により置換されたベンゼン環を側鎖に有するポリマーの新たな製造方法を完成した。
本発明の第一の態様は、
2−オキサゾリン基を側鎖に有するポリマーと、
少なくとも一組の隣接水酸基により置換されたベンゼン環、及び、カルボキシル基を有する化合物と
を反応させることを含む、少なくとも一組の隣接水酸基により置換されたベンゼン環を側鎖に有するポリマーの製造方法に関する。
【0021】
本発明のこの態様に係る方法では、ベンゼン環上の水酸基を保護基により保護する必要がない。本発明のこの態様に係る方法ではまた、反応生成物であるポリマーが、側鎖の途中に水酸基を含まないため、反応の途中で反応系のゲル化が生じない。
【0022】
出発物質として用いる前記ポリマーは、好ましくは、
【化2】
(式中、
は水素又はメチルであり、
は単結合又は炭素数1〜10の二価の炭化水素基であり、
31、32、R41及びR42は、それぞれ独立に、水素又は炭素数1〜5の一価の炭化水素基である)
で表されるモノマーユニットを含むポリマーである。
【0023】
出発物質として用いる前記化合物は、好ましくは、
【化3】
(式中、
は単結合又は炭素数1〜10の二価の炭化水素基であり、
mは2又は3であり、
OHのうち少なくとも一組はベンゼン環上の隣接した炭素原子と結合している)
で表される化合物である。
【発明の効果】
【0024】
本発明の一以上の実施形態に係る方法によれば、カテコール基、ガロール基等を含む特殊なモノマーを用いる必要が無く、保護基による保護と脱保護の工程を必要とせずに、少なくとも一組の隣接水酸基により置換されたベンゼン環を側鎖に有するポリマーを製造することができる。
【0025】
また、本発明の一以上の実施形態に係る方法によれば、反応生成物であるポリマーが、側鎖の途中に水酸基を含まないため、反応の途中で反応系のゲル化が生じない。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、発明を実施するための形態について具体的に説明する。
【0027】
<出発物質>
本発明の一以上の実施形態では、出発物質として、2−オキサゾリン基を側鎖に有するポリマー(以下「原料ポリマー」と称する場合がある)と、少なくとも一組の隣接水酸基により置換されたベンゼン環、及び、カルボキシル基を有する化合物(以下「原料化合物」と称する場合がある)とを用いる。
【0028】
原料ポリマーは、2−オキサゾリン基を側鎖に有するポリマーであり、より好ましくは、前記式(1)で表されるモノマーユニットを含むポリマーである。
前記式(1)において、Rはメチル又は水素であり、好ましくはメチルである。
【0029】
前記式(1)において、Rは単結合又は炭素数1〜10の二価の炭化水素基であり、特に好ましくは単結合である。
【0030】
前記式(1)において、Rが炭素数1〜10の二価の炭化水素基である場合、好ましくは炭素数1〜7の二価の炭化水素基であり、より好ましくは炭素数1〜5の二価の炭化水素基であり、より好ましくは炭素数1〜3の二価の炭化水素基である。ここで二価の炭化水素基は、脂肪族炭化水素基であってもよいし、芳香族炭化水素基であってもよいし、脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基との組み合わせであってもよいが、脂肪族炭化水素基であることが好ましい。脂肪族炭化水素基は、飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基であり、好ましくは飽和の脂肪族炭化水素基である。脂肪族炭化水素基は好ましくは直鎖である。Rが炭素数1〜10の二価の炭化水素基である場合、メチレン又はエチレンが好ましい。
【0031】
31、32、R41及びR42は、それぞれ独立に、水素又は炭素数1〜5の一価の炭化水素基である。ここで炭素数1〜5の一価の炭化水素基は、より好ましくは炭素数1〜4の一価の炭化水素基であり、より好ましくは炭素数1〜3の炭化水素基であり、より好ましくはメチル、エチル、プロピル又はイソプロピルであり、最も好ましくはメチル又はエチルである。
【0032】
31、32、R41及びR42のうち少なくとも2つが水素であることが好ましい。
【0033】
原料ポリマーは、全てのモノマーユニットが側鎖に2−オキサゾリン基を含んでいる必要はない。原料ポリマーが、前記式(1)で表されるモノマーユニットを含む場合、1種以上の他のモノマーユニットを更に含んでいてよい。他のモノマーユニットとしては、2−オキサゾリン基を有さず重合性ビニル基を有するモノマー化合物(ビニル重合性モノマー)に由来するモノマーユニットが挙げられる。このようなビニル重合性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸アミド、及び、スチレン、並びに、これらの誘導体が例示できる。
【0034】
原料ポリマーが、前記式(1)で表されるモノマーユニットと、1種以上の他のモノマーユニットとを含むコポリマーである場合、ブロックコポリマーであってもよいし、ランダムコポリマーであってもよいし、両者の組み合わせであってもよい。
【0035】
原料ポリマー中の2−オキサゾリン基の含有率は、原料ポリマーの単位重量あたりの2−オキサゾリン基のモル数で表すことができる。原料ポリマーの2−オキサゾリン基の含有率は特に限定されないが、好ましくは0.1mmol/g以上、より好ましくは0.2mmol/g以上、好ましくは300mmol/g以下、より好ましくは250mmol/g以下であることができる。
原料ポリマーの分子量は特に限定されないが、通常は質量平均分子量で5,000g/mol以上、500,000g/mol以下のものが利用できる。
【0036】
原料ポリマーは架橋されていない溶媒可溶性のポリマーであることが好ましい。
【0037】
原料ポリマーは、商業的に入手できる製品を購入して用いてもよいし、独自に調製してもよい。原料ポリマーの商業的に入手できる製品としては、日本触媒社製のエポクロスRPS−1005、エポクロスK−2010E、エポクロスK−2020E、エポクロスK−2030E、エポクロスWS−300、エポクロスWS−500、エポクロスWS−700などがある。例えば、前記式(1)で表されるモノマーユニットを含む原料ポリマーを製造する場合、下記の式(1’)
【化4】
(式中、R、R、R31、32、R41及びR42は式(1)について説明した通りである)
で表されるモノマーを、単独で、或いは、必要に応じて1種以上の他のビニル重合性モノマーとともに、適当な重合開始剤及び溶媒の存在下で重合して製造することが可能である。重合開始剤としては、例えばアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)等の公知のラジカル重合開始剤が例示できる。
【0038】
前記式(1’)に示すモノマーの具体例としては、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4,4−ジメチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−エチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−プロピル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−ブチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−エチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−プロピル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−ブチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4,4−ジメチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−エチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−プロピル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−ブチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−プロピル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−ブチル−2−オキサゾリン等を挙げることができ、これらの群から選ばれる1種の化合物を単独で使用したり、または、2種以上の化合物を混合して使用したりすることができる。特に2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが好ましい。
【0039】
原料ポリマーはまた、側鎖に第1の反応性官能基を有するポリマーと、前記第1の反応性官能基と結合を形成可能な第2の反応性官能基と2−オキサゾリン基とを含む化合物とを反応させて製造することもできる。
【0040】
原料化合物は、少なくとも一組の隣接水酸基により置換されたベンゼン環、及び、カルボキシル基を有する化合物であればよい。
【0041】
原料化合物中の「少なくとも一組の隣接水酸基により置換されたベンゼン環」は、好ましくは、2個の隣接する水酸基により置換されたフェニル基、或いは、3個の隣接する水酸基により置換されたフェニル基として原料化合物中に存在する。ここで、2個の隣接する水酸基により置換されたフェニル基は、3,4−ジヒドロキシフェニル又は2,3−ジヒドロキシフェニルであり、特に好ましくは3,4−ジヒドロキシフェニル(カテコール基)である。3個の隣接する水酸基により置換されたフェニル基は、3,4,5−トリヒドロキシフェニル又は2,3,4−トリヒドロキシフェニルであり、好ましくは3,4,5−トリヒドロキシフェニル(ガロール基)である。原料化合物は1分子中に前記ベンゼン環を1個又は複数個含み、好ましくは1個含む。
【0042】
原料化合物中の水酸基は、保護基で保護されていても良いが、本発明の一以上の実施形態に係る方法によれば、保護基で保護する必要がない。
【0043】
原料化合物は1分子中にカルボキシル基を1個含む。
【0044】
原料化合物は前記式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【0045】
前記式(2)において、Rは単結合又は炭素数1〜10の二価の炭化水素基であり、特に好ましくは単結合である。
【0046】
前記式(2)において、Rが炭素数1〜10の二価の炭化水素基である場合、好ましくは炭素数1〜7の二価の炭化水素基であり、より好ましくは炭素数1〜5の二価の炭化水素基であり、より好ましくは炭素数1〜3の二価の炭化水素基である。ここで二価の炭化水素基は、脂肪族炭化水素基であってもよいし、芳香族炭化水素基であってもよいし、脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基との組み合わせであってもよいが、脂肪族炭化水素基であることが好ましい。脂肪族炭化水素基は、飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基であり、好ましくは飽和の脂肪族炭化水素基である。脂肪族炭化水素基は好ましくは直鎖である。Rが炭素数1〜10の二価の炭化水素基である場合、メチレン又はエチレンが好ましい。
【0047】
前記式(2)においてmが2である場合、前記式(2)中のフェニル基は、3,4−ジヒドロキシフェニル又は2,3−ジヒドロキシフェニルであり、特に好ましくは3,4−ジヒドロキシフェニル(カテコール基)である。
【0048】
前記式(2)においてmが3である場合、好ましくは、3つの水酸基が全てベンゼン環上の隣接した炭素原子と結合しており、より好ましくは、前記式(2)中のフェニル基は、3,4,5−トリヒドロキシフェニル又は2,3,4−トリヒドロキシフェニルであり、好ましくは3,4,5−トリヒドロキシフェニル(ガロール基)である。
【0049】
<製造方法>
本発明の一以上の実施形態に係る、少なくとも一組の隣接水酸基により置換されたベンゼン環を側鎖に有するポリマーの製造方法は、
2−オキサゾリン基を側鎖に有するポリマー(原料ポリマー)と、
少なくとも一組の隣接水酸基により置換されたベンゼン環、及び、カルボキシル基を有する化合物(原料化合物)と
を反応させることを含むことを特徴とする。
【0050】
この方法によれば、原料ポリマーの側鎖上の2−オキサゾリン基と、原料化合物のカルボキシル基が結合を形成する。原料ポリマーとして前記式(1)で表されるモノマーユニットを含むポリマーを用い、原料化合物として前記式(2)で表される化合物を用いた場合の反応スキームを以下に示す。
【0051】
【化5】
【0052】
この反応では、2−オキサゾリン基とカルボキシル基との結合により水酸基は生じない。このため、生成されるポリマー中にエポキシ基に由来する遊離の水酸基が含まれる背景技術欄で説明した特許文献5のスキーム1と異なり、本発明の前記一以上の実施形態により生成されるポリマー(「生成ポリマー」と称する場合がある)と、未反応の原料ポリマーとの意図しない架橋形成が抑制される。その結果、本発明の前記一以上の実施形態では、反応中に反応系がゲル化することがなく溶液の状態を維持できるため、反応が進行し易いと推定される。
【0053】
また、本発明の前記一以上の実施形態では、原料化合物に由来するベンゼン環上の隣接水酸基を保護基により保護する必要はないため、工程が簡略化できる。
【0054】
また、本発明の前記一以上の実施形態に用いる原料ポリマー及び原料化合物は、比較的安価に入手又は調製することができるため好ましい。
【0055】
本発明の前記一以上の実施形態に係る方法において、原料ポリマーと原料化合物の量比は特に限定されないが、好ましくは、原料ポリマー中の2−オキサゾリン基と、原料化合物中のカルボキシル基とのモル比が、2−オキサゾリン基1モルあたり、カルボキシル基が例えば0.3〜4モル、好ましくは0.5〜3モルとすることができる。
【0056】
反応溶媒としては非プロトン性極性溶媒を用いることが好ましく、例えば酢酸ブチル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、4−メチルテトラヒドロピラン等の溶媒を用いることができる。
【0057】
本発明の前記一以上の実施形態に係る方法において反応時間、反応温度は特に限定されず、反応スケール等を考慮して適宜設定することができる。反応温度は好ましくは80℃以上、好ましくは150℃以下であることができる。
【実施例】
【0058】
<FT−IR測定方法>
試料をそのまま下記の測定装置および測定条件により、一回反射型ATR法にて測定し、赤外吸収スペクトルを得た。
測定装置:フーリエ変換赤外分光光度計 Nicolet iS10(Thermo SCIENTIFIC社製)および一回反射型水平状ATR Smart−iTR(Thermo SCIENTIFIC社製)
ATRクリスタル:ダイヤモンド貼付KRS−5(角度=42°)
測定法:一回ATR法
測定波数領域:4000cm−1〜650cm−1
測定深度の波数依存性:補正せず
検出器:重水素化硫酸トリグリシン(DTGS)検出器およびKBrビームスプリッター
分解能:4cm−1
積算回数:16回(バックグランド測定時も同様)
【0059】
<質量平均分子量測定方法(GPC)>
質量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用いて測定した、ポリスチレン(PS)換算質量平均分子量を意味する。
具体的には、試料6mgをTHF(テトラヒドロフラン)6mLに溶解させ(浸漬時間:6±1hr(完全溶解))、(株)島津ジーエルシー製非水系0.45μmシリンジフィルターにて濾過した上で次の測定条件にてクロマトグラフを用いて測定し、予め作成しておいた標準ポリスチレン検量線から試料の質量平均分子量を求めた。
使用装置:東ソー(株)製「HLC−8320GPC EcoSEC」ゲル浸透クロマトグラフ(RI検出器・UV検出器内蔵)
[GPC測定条件]
カラム:
サンプル側カラム:
ガードカラム:東ソー(株)製 TSK guardcolumn SuperMP(HZ)−H(4.6mmI.D.×2cm)×1本
測定カラム:東ソー(株)製 TSKgel SuperMultiporeHZ−H(4.6mmI.D.×15cm)×2本直列
リファレンス側カラム:
東ソー(株)製 TSKgel Super HZ1000(6.0mmI.D.×15cm)×1本
カラム温度:40℃
移動相:THF
移動相流量
サンプル側ポンプ:0.2mL/min
リファレンス側ポンプ:0.2mL/min
検出器:UV検出器
試料濃度:0.1wt%
注入量:20μL
測定時間:21min
サンプリングピッチ:200msec
【0060】
検量線用標準ポリスチレン試料は、昭和電工(株)製の製品名「STANDARD SM−105」および「STANDARD SH−75」で質量平均分子量が5,620,000、3,120,000、1,250,000、442,000、151,000、53,500、17,000、7,660、2,900、1,320のものを用いた。
上記検量線用標準ポリスチレンをA(5,620,000、1,250,000、151,000、17,000、2,900)およびB(3,120,000、442,000、53,500、7,660、1,320)にグループ分けした後、Aを(2mg、3mg、4mg、4mg、4mg)秤量後THF30mLに溶解し、Bも(3mg、4mg、4mg、4mg、4mg)秤量後THF30mLに溶解した。標準ポリスチレン検量線は、作成したAおよびB溶解液を20μL注入して測定後に得られた保持時間から較正曲線(一次式)を作成することにより得られ、その検量線を用いて質量平均分子量を算出した。
【0061】
<NMR測定>
ポリマーの合成確認として下記の測定装置および測定条件によりH−NMR測定を行った。
具体的には5mm径のNMR管に試料を13mg入れ、重THF(テトラヒドロフラン−d8)を加えて溶解させた。調整した溶液を以下条件にて測定した。
測定装置:JEOL RESONANCE製 JNM−ECA600
SCAN数:16
測定温度:21℃
【0062】
実施例1(側鎖に2−オキサゾリン基を有するポリマーとガロール基含有カルボン酸化合物との反応)
100mlサンプル瓶に、側鎖に2−オキサゾリン基を有するポリマーとして、エポクロスRPS−1005(日本触媒株式会社製、オキサゾリン基:0.27mmol/g)3.0g、没食子酸0.28g、溶媒としてジエチレングリコールジメチルエーテル20gを混合した。その後、120℃で5時間反応させた。(2−オキサゾリン基/没食子酸=1/2(モル比))
反応終了後、ポリマー溶液を水中で再沈殿させ、ろ過後に風乾させて、ポリマーを得た。
【0063】
得られたポリマーのH−NMR測定により、4.0ppmにオキサゾリン基開環のメチル基由来のピークが確認でき、8.2ppm、8.0ppmに没食子酸のOH基のピークが確認できたことより、側鎖にガロール基を有する目的のポリマーの合成を確認した。
【0064】
実施例2(側鎖に2−オキサゾリン基を有するポリマーとカテコール基含有カルボン酸化合物との反応)
100mlサンプル瓶に、側鎖に2−オキサゾリン基を有するポリマーとして、エポクロスRPS−1005(日本触媒株式会社製、オキサゾリン基:0.27mmol/g)3.0g、3,4−ジヒドロキシ安息香酸0.25g、溶媒としてジエチレングリコールジメチルエーテル20gを混合した。その後、120℃で5時間反応させた。(2−オキサゾリン基/3,4−ジヒドロキシ安息香酸=1/2(モル比))
反応終了後、ポリマー溶液を水中で再沈殿させ、ろ過後に風乾させて、ポリマーを得た。
【0065】
得られたポリマーのH−NMR測定により、4.0ppmにオキサゾリン基開環のメチル基由来のピークが確認でき、8.6ppm、8.2ppmに3,4−ジヒドロキシ安息香酸のOH基のピークが確認できたことより、側鎖にカテコール基を有する目的のポリマーの合成を確認した。
【0066】
製造例1(側鎖に2−オキサゾリン基を有するポリマーの合成)
特開2018−104509号公報の実施例1を参考に、以下のように側鎖に2−オキサゾリン基を有するポリマーを合成した。
ビーカーにトルエン100部、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン15部およびスチレン85部を仕込み、重合成分を含有するトルエン混合物を作成した。次に、撹拌機、滴下口、温度計、冷却管および窒素ガス導入管を備えた2Lフラスコ内に、作製した重合成分を含有するトルエン混合物の40質量%を投入し、窒素ガスをフラスコ内に10分間吹き込むことにより、フラスコ内を窒素ガス置換した後、フラスコ内を攪拌しながら110℃に昇温した。
【0067】
その後、作製した重合成分を含有するトルエン混合物の残り60質量%と、重合開始剤としてtert−アミルパーオキシイソプロピルカーボネート(化薬ヤクゾ社製、商品名;カヤカルボンAIC−75)5部を混合し、混合物を得た。得られた混合物を3時間かけてフラスコ内に連続滴下し(重合成分濃度50質量%)、その後、5時間加熱を継続し、反応を完結させた。その後、前記フラスコ内の内容物を25℃に冷却して、ポリマーを50質量%の濃度で含むオキサゾリン系重合体溶液(重合液1)を得た。
【0068】
次に、ヘキサンが入れられたビーカー内に得られた重合液(1)を少量ずつ添加することにより、ポリマーを析出させ、ろ過にてポリマーを取り出した。その後、100℃の温度で10時間かけて溶媒を完全に揮発させ、オキサゾリン基を有するポリマー(1)を得た。
【0069】
実施例3(側鎖に2−オキサゾリン基を有するポリマーとカテコール基含有カルボン酸化合物との反応)
100mlサンプル瓶に、側鎖に2−オキサゾリン基を有するポリマーとして、上記製造例1にて合成したポリマー(1)(オキサゾリン基:1.3mmol/g)1.0g、没食子酸0.2g、溶媒としてジエチレングリコールジメチルエーテル20gを混合した。その後、120℃で5時間反応させた。(2−オキサゾリン基/3,4−ジヒドロキシ安息香酸=1/1(モル比))
反応終了後、ポリマー溶液を水中で再沈殿させ、ろ過後に風乾させて、ポリマーを得た。
【0070】
ポリマーのIR測定より、1607cm−1に3,4−ジヒドロキシ安息香酸のベンゼン環由来のピークと、1028cm−1 に合成により形成したエステル由来のピーク、3500〜3100cm−1でのワイドピーク(−NH、−OH由来)が確認できたことにより、側鎖にカテコール基を有する目的のポリマーの合成を確認した。
【0071】
比較例1(側鎖にエポキシ基を有する反応性ポリマーとカテコール基含有カルボン酸化合物との反応)
100mlサンプル瓶に、側鎖にエポキシ基を有するポリマーとして、マープルーフG−0150M(日油株式会社製、エポキシ価:310g/eq)3.1g、3,4−ジヒドロキシ安息香酸1.54g、TBAB(テトラブチルアンモニウムブロミド)0.032g、溶媒としてジエチレングリコールジメチルエーテル20gを混合した。その後、所定温度で10時間反応させた。(エポキシ基/3,4−ジヒドロキシ安息香酸=1/1(モル比))
反応終了後には、系全体が架橋によると思われるゲル化しており、目的の可溶性ポリマーを得ることは出来なかった。