【課題】環境負荷を軽減できる水系シーラーを用い、目止め塗膜の良好な硬度、優れた付着性、耐水性、及び優れた表面平滑性のすべてを達成でき、良好な仕上がり外観が得られる窯業系無機質基材の塗装方法を提供する。
【解決手段】本発明の窯業系無機質基材の塗装方法は、窯業系無機質基材に水系シーラーを塗布し、含浸させる工程と、前記水系シーラーを含浸させた窯業系無機質基材上に、紫外線硬化型目止め塗料組成物を塗布し、紫外線照射により硬化させて、目止め塗膜を形成する工程とを有し、前記水系シーラーが、水とケイ酸アルカリ金属塩とを含み、前記水系シーラー中のケイ酸アルカリ金属塩の25質量%以上がケイ酸ナトリウムであり、前記紫外線硬化型目止め塗料組成物が、多官能(メタ)アクリレートと単官能(メタ)アクリレートと顔料と光重合開始剤とを含み、多官能(メタ)アクリレートと単官能(メタ)アクリレートとの含有比率が、質量比で、95〜50:5〜50であることを特徴とする。
前記紫外線硬化型目止め塗料組成物が、多官能(メタ)アクリレートとして、エポキシ(メタ)アクリレートと、エポキシ(メタ)アクリレート以外の多官能(メタ)アクリレートとを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の窯業系無機質基材の塗装方法。
前記紫外線硬化型目止め塗料組成物が、エポキシ(メタ)アクリレート以外の多官能(メタ)アクリレートとして、2官能(メタ)アクリレート、または2官能(メタ)アクリレートと3官能(メタ)アクリレートを含むことを特徴とする請求項3に記載の窯業系無機質基材の塗装方法。
前記紫外線硬化型目止め塗料組成物中のエポキシ(メタ)アクリレートと、エポキシ(メタ)アクリレート以外の多官能(メタ)アクリレート及び単官能(メタ)アクリレートとの含有比率が、質量比で、90〜25:10〜75であることを特徴とする請求項3または4に記載の窯業系無機質基材の塗装方法。
前記上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物が、多官能(メタ)アクリレートとして、エポキシ(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート以外の多官能(メタ)アクリレートとを含むことを特徴とする請求項7に記載の窯業系無機質基材の塗装方法。
前記上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物が、エポキシ(メタ)アクリレート以外の多官能(メタ)アクリレートとして、2官能(メタ)アクリレート、または2官能(メタ)アクリレートと3官能(メタ)アクリレートを含むことを特徴とする請求項8に記載の窯業系無機質基材の塗装方法。
前記上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物中の顔料の含有量が、30〜70質量%であることを特徴とする請求項7〜10のいずれかに記載の窯業系無機質基材の塗装方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
環境負荷を軽減できることから、窯業系無機質基材用のシーラーとして、水系シーラーを用いることが望まれている。しかしながら、特許文献4に記載されている方法では、水系シーラーとして、ナトリウムシリケートとカリウムシリケートの混合水溶液を窯業系無機質基材(ケイ酸カルシウム板)に塗布し、含浸させた後、その上に紫外線硬化型目止め剤を塗布し、硬化させて目止め層を形成しているが、この方法では、目止め層(紫外線硬化塗膜)の良好な硬度、優れた付着性、耐水性、及び優れた表面平滑性のすべてを高いレベルで達成し、良好な仕上がり外観を達成することは困難である。
【0009】
そこで、本発明は、環境負荷を軽減できる水系シーラーを用い、目止め塗膜の良好な硬度、優れた付着性、耐水性、及び優れた表面平滑性のすべてを達成でき、良好な仕上がり外観が得られる窯業系無機質基材の塗装方法を提供することを目的とする。また、本発明は、環境負荷を軽減でき、しかも、目止め塗膜が良好な硬度、優れた付着性、耐水性、及び優れた表面平滑性を有し、良好な仕上がり外観を有する窯業系無機質基材塗装品を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の各項に関する。
[1] 窯業系無機質基材に、水系シーラーを塗布し、含浸させる工程と、
前記水系シーラーを含浸させた窯業系無機質基材上に、紫外線硬化型目止め塗料組成物を塗布し、紫外線照射により硬化させて、目止め塗膜を形成する工程と
を有し、
前記水系シーラーが、水と、ケイ酸アルカリ金属塩とを含み、
前記水系シーラー中のケイ酸アルカリ金属塩の25質量%以上が、ケイ酸ナトリウムであり、
前記紫外線硬化型目止め塗料組成物が、多官能(メタ)アクリレートと、単官能(メタ)アクリレートと、顔料と、光重合開始剤とを含み、
前記紫外線硬化型目止め塗料組成物中の多官能(メタ)アクリレートと、単官能(メタ)アクリレートとの含有比率が、質量比で、95〜50:5〜50であることを特徴とする窯業系無機質基材の塗装方法。
[2] 前記水系シーラー中のケイ酸アルカリ金属塩の40質量%以上が、ケイ酸ナトリウムであることを特徴とする前記項[1]に記載の窯業系無機質基材の塗装方法。
[3] 前記紫外線硬化型目止め塗料組成物が、多官能(メタ)アクリレートとして、エポキシ(メタ)アクリレートと、エポキシ(メタ)アクリレート以外の多官能(メタ)アクリレートとを含むことを特徴とする前記項[1]または[2]に記載の窯業系無機質基材の塗装方法。
[4] 前記紫外線硬化型目止め塗料組成物が、エポキシ(メタ)アクリレート以外の多官能(メタ)アクリレートとして、2官能(メタ)アクリレート、または2官能(メタ)アクリレートと3官能(メタ)アクリレートを含むことを特徴とする前記項[3]に記載の窯業系無機質基材の塗装方法。
[5] 前記紫外線硬化型目止め塗料組成物中のエポキシ(メタ)アクリレートと、エポキシ(メタ)アクリレート以外の多官能(メタ)アクリレート及び単官能(メタ)アクリレートとの含有比率が、質量比で、90〜25:10〜75であることを特徴とする前記項[3]または[4]に記載の窯業系無機質基材の塗装方法。
[6] 前記紫外線硬化型目止め塗料組成物中の顔料の含有量が、30〜70質量%であることを特徴とする前記項[1]〜[5]のいずれかに記載の窯業系無機質基材の塗装方法。
[7] 前記目止め塗膜の上に、さらに、上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物を塗布し、紫外線照射により硬化させて、上層目止め塗膜を形成する工程
をさらに有し、
前記上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物が、多官能(メタ)アクリレートと、顔料と、光重合開始剤とを含むことを特徴とする前記項[1]〜[6]のいずれかに記載の窯業系無機質基材の塗装方法。
[8] 前記上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物が、多官能(メタ)アクリレートとして、エポキシ(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート以外の多官能(メタ)アクリレートとを含むことを特徴とする前記項[7]に記載の窯業系無機質基材の塗装方法。
[9] 前記上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物が、エポキシ(メタ)アクリレート以外の多官能(メタ)アクリレートとして、2官能(メタ)アクリレート、または2官能(メタ)アクリレートと3官能(メタ)アクリレートを含むことを特徴とする前記項[8]に記載の窯業系無機質基材の塗装方法。
[10] 前記上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物が、単官能(メタ)アクリレートをさらに含んでもよく、
前記上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物中のエポキシ(メタ)アクリレートと、エポキシ(メタ)アクリレート以外の多官能(メタ)アクリレート及び単官能(メタ)アクリレートとの含有比率が、質量比で、75〜20:25〜80であり、かつ、多官能(メタ)アクリレートと、単官能(メタ)アクリレートとの含有比率が、質量比で、100〜50:0〜50であることを特徴とする前記項[8]または[9]に記載の窯業系無機質基材の塗装方法。
[11] 前記上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物中の顔料の含有量が、30〜70質量%であることを特徴とする前記項[7]〜[10]のいずれかに記載の窯業系無機質基材の塗装方法。
[12] 前記窯業系無機質基材上に形成された上層目止め塗膜の表面を切削または研磨する工程と、
表面が切削または研磨された上層目止め塗膜上に、上塗り塗料組成物を塗布し、上塗り塗膜を形成する工程と
をさらに有することを特徴とする前記項[7]〜[11]のいずれかに記載の窯業系無機質基材の塗装方法。
[13] 前記下層用紫外線硬化型目止め塗料組成物から形成される下層目止め塗膜の平均膜厚が、1〜150μmであり、
前記上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物から形成される上層目止め塗膜の平均膜厚(但し、上層目止め塗膜の表面を切削または研磨する場合は、上層目止め塗膜の切削・研磨後の平均膜厚)が、1〜150μmであることを特徴とする前記項[7]〜[12]のいずれかに記載の窯業系無機質基材の塗装方法。
[14] 前記窯業系無機質基材が、ケイ酸カルシウム板であることを特徴とする前記項[1]〜[13]のいずれかに記載の窯業系無機質基材の塗装方法。
[15] 前記項[1]〜[14]のいずれかに記載の塗装方法により塗装されたことを特徴とする窯業系無機質基材塗装品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、環境負荷を軽減できる水系シーラーを用い、目止め塗膜の良好な硬度、優れた付着性、耐水性、及び優れた表面平滑性のすべてを達成でき、良好な仕上がり外観が得られる窯業系無機質基材の塗装方法を提供することができる。また、本発明によれば、環境負荷を軽減でき、しかも、目止め塗膜が良好な硬度、優れた付着性、耐水性、及び優れた表面平滑性を有し、良好な仕上がり外観を有する窯業系無機質基材塗装品を提供することができる。
【0012】
なお、目止め塗膜が良好な硬度を有すると、その後の工程において、目止め塗膜の表面を良好に切削または研磨することができ、良好な仕上がり外観を有する塗装品が得られる。また、通常、目止め塗膜の上に形成された上塗り塗膜の硬度は、目止め塗膜の硬度を反映し、上塗り塗膜の鉛筆硬度がH以上、より好ましくは2H〜3Hである場合、目止め塗膜は、その表面を良好に切削または研磨できる良好な硬度を有している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の窯業系無機質基材の塗装方法は、窯業系無機質基材に水系シーラーを塗布し、含浸させる工程と、水系シーラーを含浸させた窯業系無機質基材上に紫外線硬化型目止め塗料組成物を塗布し、紫外線照射により硬化させて、目止め塗膜を形成する工程と、を有する。
目止め塗膜は、2層以上を積層することもできる。すなわち、本発明の窯業系無機質基材の塗装方法は、窯業系無機質基材上に形成された目止め塗膜の上に、さらに、上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物を塗布し、紫外線照射により硬化させて、上層目止め塗膜を形成する工程、をさらに有することができる。上層目止め塗膜は、2層以上の積層膜であってもよい。
本発明の窯業系無機質基材の塗装方法は、また、窯業系無機質基材上に形成された上層目止め塗膜の表面を切削または研磨する工程と、表面が切削または研磨された上層目止め塗膜上に上塗り塗料組成物を塗布し、上塗り塗膜を形成する工程と、をさらに有することができる。
【0014】
そして、本発明の窯業系無機質基材の塗装方法は、用いる水系シーラーが、水とケイ酸アルカリ金属塩とを含み、水系シーラー中に含まれるケイ酸アルカリ金属塩の25質量%以上、好ましくは40質量%以上が、ケイ酸ナトリウムであるものである。また、窯業系無機質基材上に形成される目止め塗膜(目止め塗膜が2層以上形成される場合は、最下層の目止め塗膜)を形成するために用いる紫外線硬化型目止め塗料組成物が、多官能(メタ)アクリレートと、単官能(メタ)アクリレートと、顔料と、光重合開始剤とを含み、さらに、紫外線硬化型目止め塗料組成物中の多官能(メタ)アクリレートと、単官能(メタ)アクリレートとの含有比率が、質量比で、95〜50:5〜50であるものである。
【0015】
本発明において用いる窯業系無機質基材としては、特に限定されないが、例えば、ケイ酸カルシウム板、石綿セメント板、軽量気泡コンクリート板、木片セメント板、パルプセメント板等が挙げられる。中でも、本発明の窯業系無機質基材の塗装方法は、ケイ酸カルシウム板に特に好適に適用できる。なお、用いる窯業系無機質基材は、切削または研磨加工等により表面を平滑にしたものであっても、そのような加工を施していないものであってもよい。また、基材の形状としては、板状等が挙げられるが、特に限定されず、用途等に応じて適宜選択することができる。
【0016】
本発明において用いる水系シーラーは、水とケイ酸アルカリ金属塩とを含むものであり、有機成分を含まない水系無機シーラーであることが好ましい。有機成分を含まない水系無機シーラーを用いることで、環境負荷を軽減できることに加えて、得られる塗装品の不燃性(難燃性)・耐火性を向上させることができる。また、シーラーが有機成分を含むと、目止め塗膜の付着性及び耐水性が低下する場合があり、また、有機成分を含まない場合と比較して、目止め塗膜の硬度が低下したり、目止め塗膜の表面平滑性が低下して、得られる塗装品の仕上がり外観が低下したりする場合がある。
【0017】
ケイ酸アルカリ金属塩として、具体的には、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸リチウム、ケイ酸カリウムが挙げられる。
【0018】
本発明において用いる水系シーラーは、さらに、水系シーラー中に含まれるケイ酸アルカリ金属塩の25質量%以上がケイ酸ナトリウムである。ケイ酸アルカリ金属塩全量に対するケイ酸ナトリウムの割合が25質量%未満であると、十分な目止め塗膜の耐水性が得られず、水分に暴露されると、目止め塗膜の付着性が著しく低下する。また、十分な目止め塗膜の硬度、または十分な目止め塗膜の初期付着性が得られなくなる場合がある。
【0019】
水系シーラー中に含まれるケイ酸アルカリ金属塩全量に対するケイ酸ナトリウムの割合は35質量%超、特に40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。ケイ酸アルカリ金属塩全量に対するケイ酸ナトリウムの割合が40質量%未満であると、十分な目止め塗膜の硬度、または十分な目止め塗膜の初期付着性が得られない場合がある。例えば、ケイ酸リチウムを65質量%以上を超えて多量に配合すると、十分な目止め塗膜の初期付着性が得られなくなる場合がある。ケイ酸カリウムを65質量%以上を超えて多量に配合すると、十分な目止め塗膜の硬度、初期付着性が得られなくなる場合がある。
【0020】
本発明において用いる水系シーラー中のケイ酸アルカリ金属塩の含有量(濃度)は、特に限定されるものではないが、通常、1〜75質量%であることが好ましく、5〜45質量%であることがより好ましい。
【0021】
本発明において用いる水系シーラーは、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の添加成分、例えば、ケイ酸アルカリ金属塩以外の無機成分、アンモニア水等のpH調整剤等をさらに含むこともできるが、その含有量は、通常、10質量%以下であることが好ましい。
【0022】
本発明において用いる水系シーラーは、公知の方法により調製することができ、例えば、水にケイ酸アルカリ金属塩を加え、必要に応じて、その他の添加成分をさらに加え、均一になるまで撹拌・混合することにより、調製することができる。
【0023】
本発明においては、窯業系無機質基材に、上記のような水系シーラーを塗布し、含浸させる。水系シーラーの塗布は、特に限定されず、公知の方法で行うことができ、例えば、スプレー法、ロールコート法、ディッピング法(浸漬法)、スクリーン印刷法、ハケ塗り法等で行うことができる。
【0024】
水系シーラーの塗布量は、特に限定されるものではないが、通常、水系シーラーを窯業系無機質基材の両面に塗布する場合、両面の合計平均塗布量が、含まれるケイ酸アルカリ金属塩の量で5〜100g/m
2であることが好ましく、10〜55g/m
2であることがより好ましく、片面の平均塗布量が、それぞれ、含まれるケイ酸アルカリ金属塩の量で2.5〜50g/m
2であることが好ましく、5〜27.5g/m
2であることがより好ましい。水系シーラーを窯業系無機質基材の片面にのみ塗布する場合は、平均塗布量が、含まれるケイ酸アルカリ金属塩の量で2.5〜50g/m
2であることが好ましく、5〜27.5g/m
2であることがより好ましい。
【0025】
窯業系無機質基材に水系シーラーを塗布した後、通常、基材を乾燥させる。乾燥方法及び乾燥条件は特に限定されず、適宜選択することができ、例えば、常温下で自然乾燥または風乾することもでき、基材を加熱して乾燥させることもできる。
【0026】
本発明においては、窯業系無機質基材に水系シーラーを塗布・乾燥した後、この水系シーラーを含浸させた窯業系無機質基材上に、多官能(メタ)アクリレートと単官能(メタ)アクリレートと顔料と光重合開始剤とを含み、含まれる多官能(メタ)アクリレートと単官能(メタ)アクリレートとの含有比率が、質量比で、95〜50:5〜50である紫外線硬化型目止め塗料組成物を塗布し、紫外線照射により硬化させて、目止め塗膜を形成する。目止め塗膜は、この1層のみであってもよいが、この目止め塗膜の上に1層以上の上層目止め塗膜を形成して、2層以上の積層膜とすることが好ましい。すなわち、水系シーラーを含浸させた窯業系無機質基材上に上記のような目止め塗膜(以下、「下層目止め塗膜」とも言う。)を形成した後、次いで、多官能(メタ)アクリレートと顔料と光重合開始剤とを含み、好ましくは単官能(メタ)アクリレートをさらに含む上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物を塗布し、紫外線照射により硬化させて、上層目止め塗膜を形成することが好ましい。このような目止め塗膜、または、下層目止め塗膜と上層目止め塗膜を形成することで、良好な硬度、優れた付着性、耐水性、及び良好な表面平滑性を有する目止め塗膜を得ることができる。
【0027】
下層目止め塗膜の上に形成する上層目止め塗膜は、2層以上の積層膜であってもよい。すなわち、水系シーラーを含浸させた窯業系無機質基材上に、多官能(メタ)アクリレートと単官能(メタ)アクリレートと顔料と光重合開始剤とを含み、含まれる多官能(メタ)アクリレートと単官能(メタ)アクリレートとの含有比率が、質量比で、95〜50:5〜50である紫外線硬化型目止め塗料組成物を塗布・硬化させて、下層目止め塗膜を形成した後、多官能(メタ)アクリレートと顔料と光重合開始剤とを含む紫外線硬化型目止め塗料組成物の塗布・硬化を2回以上繰り返して、上層目止め塗膜を形成してもよい。上層目止め塗膜を2層以上の積層膜とする場合、塗布・硬化する紫外線硬化型目止め塗料組成物は同じものであっても、異なるものであってもよい。また、この上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物は、多官能(メタ)アクリレート、顔料、及び光重合開始剤に加えて、単官能(メタ)アクリレートをさらに含むものであってもよく、下層目止め塗膜を形成するための紫外線硬化型目止め塗料組成物と同様に、含まれる多官能(メタ)アクリレートと単官能(メタ)アクリレートとの含有比率が、質量比で、95〜50:5〜50であるものであってもよい。
【0028】
以下、便宜上、目止め塗膜が1層のみである場合(上層目止め塗膜が形成されない場合)も含めて、水系シーラーを含浸させた窯業系無機質基材上に形成される目止め塗膜を「下層目止め塗膜」と言い、この目止め塗膜を形成するために用いる紫外線硬化型目止め塗料組成物を「下層用紫外線硬化型目止め塗料組成物」と言う。
【0029】
下層用紫外線硬化型目止め塗料組成物の25℃における粘度は50〜150Pa・sであることが好ましく、70〜110Pa・sであることがより好ましい。下層用紫外線硬化型目止め塗料組成物の25℃における粘度が50Pa・s未満であっても、150Pa・s超であっても、目止め塗膜の表面平滑性が低下し、得られる塗装品の仕上がり外観が低下してくる場合がある。また、上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物(但し、2層以上の積層膜である場合は、最上層の目止め塗膜を形成するために用いる最上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物)の25℃における粘度は1〜30Pa・sであることが好ましく、3〜20Pa・sであることがより好ましい。上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物の25℃における粘度が1Pa・s未満であっても、30Pa・s超であっても、目止め塗膜の表面平滑性が低下し、得られる塗装品の仕上がり外観が低下してくる場合がある。なお、下層用紫外線硬化型目止め塗料組成物及び上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物の粘度の測定方法の一例については、後述の実施例で説明する。
【0030】
水系シーラーを含浸させた窯業系無機質基材上に下層用紫外線硬化型目止め塗料組成物から形成される下層目止め塗膜の膜厚は、特に限定されるものではないが、通常、1〜150μmであることが好ましく、30〜120μmであることがより好ましい。また、下層目止め塗膜上に上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物から形成される上層目止め塗膜の膜厚(上層目止め塗膜の表面を切削または研磨する場合は、上層目止め塗膜の切削・研磨後の最終的な膜厚)は、特に限定されるものではないが、通常、1〜150μmであることが好ましく、1〜50μmであることがより好ましい。下層目止め塗膜の膜厚、及び上層目止め塗膜の膜厚が厚すぎても、薄すぎても、目止め塗膜の特性が低下し、また、目止め塗膜表面の切削性・研磨性が低下したり、得られる塗装品の仕上がり外観が低下したりしてくる場合がある。なお、上記の膜厚は平均膜厚であり、その測定方法の一例については、後述の実施例で説明する。
【0031】
上記のように、本発明において用いる下層用紫外線硬化型目止め塗料組成物は、多官能(メタ)アクリレートと、単官能(メタ)アクリレートと、顔料と、光重合開始剤とを含むものであり、上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物は、多官能(メタ)アクリレートと、顔料と、光重合開始剤とを含むものである。上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物は、単官能(メタ)アクリレートをさらに含むものであってもよい。なお、ここで、(メタ)アクリレートとは、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。
【0032】
本発明において用いる多官能(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリレート基(アクリレート基(CH
2=CHCOO−)またはメタクリレート基(CH
2=CCH
3COO−))を1分子中に2個以上、好ましくは2個または3個有する化合物(モノマーまたはオリゴマー)である。
【0033】
本発明においては、下層用紫外線硬化型目止め塗料組成物及び上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物が、多官能(メタ)アクリレートとして、エポキシ(メタ)アクリレートを含むことが好ましく、エポキシ(メタ)アクリレートと、エポキシ(メタ)アクリレート以外の多官能(メタ)アクリレート、好ましくは2官能(メタ)アクリレート、または2官能(メタ)アクリレートと3官能(メタ)アクリレートとを含むことがより好ましい。
【0034】
本発明において用いるエポキシ(メタ)アクリレートは、多官能エポキシ樹脂、エポキシ化合物等とアクリル酸またはメタクリル酸とを反応させて合成される化合物(オリゴマー)である。
【0035】
エポキシ(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ(メタ)アクリレート、ビスフェノールF型エポキシ(メタ)アクリレート、ビスフェノールS型エポキシ(メタ)アクリレート等のビスフェノール型エポキシ(メタ)アクリレート、水添ビスフェノールA型エポキシ(メタ)アクリレート、水添ビスフェノールF型エポキシ(メタ)アクリレート等の水添ビスフェノール型エポキシ(メタ)アクリレートや、ネオペンチルグリコール型エポキシ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオール型エポキシ(メタ)アクリレート等の脂肪族エポキシ(メタ)アクリレート、フェノールノボラック型エポキシ(メタ)アクリレート等が挙げられる。中でも、目止め塗膜の硬度の点から、ビスフェノールA型エポキシ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0036】
エポキシ(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリレート基を1分子中に2個以上有することが好ましく、反応性と硬化収縮のバランスの点から、官能基数が2官能、すなわち(メタ)アクリレート基を1分子中に2個有することがより好ましい。
【0037】
エポキシ(メタ)アクリレートは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
2官能(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、4,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート等の多価アルコ−ルの多官能(メタ)アクリル酸エステル類、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラブチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールのジ(メタ)アクリレート類や、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。中でも、エポキシ(メタ)アクリレートや他の(メタ)アクリレートとの相溶性の点から、トリプロピレングリコールジアクリレートが好ましい。
【0039】
3官能(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の多価アルコールの多官能(メタ)アクリル酸エステル類や、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス(2−(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ε−カプロラクトン変性トリス(2−(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。中でも、エポキシ(メタ)アクリレートや他の(メタ)アクリレートとの相溶性の点から、トリメチロールプロパントリアクリレートが好ましい。
【0040】
また、4官能以上の(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、例えば、トリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0041】
また、その他の多官能(メタ)アクリレートとしては、ウレタン(メタ)アクリレートが挙げられる。ウレタン(メタ)アクリレートとは、その構造にウレタン結合と(メタ)アクリロイル基を有する反応性オリゴマーである。ウレタン(メタ)アクリレートは、例えば、1分子中に少なくとも1個の(メタ)アクリロイル基と水酸基とを含む化合物と、ポリイソシアネート化合物とのウレタン化反応により生成されるものである。
【0042】
2官能(メタ)アクリレート及び3官能(メタ)アクリレートを含む、エポキシ(メタ)アクリレート以外の多官能(メタ)アクリレートは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
本発明においては、下層用紫外線硬化型目止め塗料組成物が、多官能(メタ)アクリレートに加えて、単官能(メタ)アクリレート、すなわち、(メタ)アクリレート基(アクリレート基またはメタクリレート基)を1分子中に1個有する化合物(モノマーまたはオリゴマー)をさらに含む。また、上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物も、多官能(メタ)アクリレートに加えて、単官能(メタ)アクリレートをさらに含むことが好ましい。下層用紫外線硬化型目止め塗料組成物に単官能(メタ)アクリレートを用いることで、下層用紫外線硬化型目止め塗料組成物と水系シーラーとの付着性、すなわち、窯業系無機質基材と下層目止め塗膜との付着性が向上し、目止め塗膜の耐水性も向上する。さらに、下層用紫外線硬化型目止め塗料組成物または上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物に単官能(メタ)アクリレートを用いることで、その粘度を適当な範囲に調整しやすくなり、より良好な特性を有する目止め塗膜を得ることができる場合がある。
【0044】
単官能(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、4−tert−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、等の脂肪族または脂環式単官能(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有単官能(メタ)アクリレートや、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシ−ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。中でも、相溶性に優れ、粘度調整が容易な点から、メトキシ−ポリエチレングリコールアクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0045】
単官能(メタ)アクリレートは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
下層用紫外線硬化型目止め塗料組成物中に含まれる多官能(メタ)アクリレート(エポキシ(メタ)アクリレート、2官能(メタ)アクリレート、3官能(メタ)アクリレート等)と単官能(メタ)アクリレートの含有比率は、質量比で、95〜50:5〜50であることが好ましく、95〜70:5〜30であることがより好ましい。また、上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物中に含まれる多官能(メタ)アクリレート(エポキシ(メタ)アクリレート、2官能(メタ)アクリレート、3官能(メタ)アクリレート等)と単官能(メタ)アクリレートの含有比率は、特に限定されるものではないが、通常、質量比で、100〜50:0〜50であることが好ましく、95〜70:5〜30であることがより好ましい。単官能(メタ)アクリレートの含有量が上記の範囲を超えて多くなると、目止め塗膜の付着性及び耐水性が低下してくる場合がある。
【0047】
下層用紫外線硬化型目止め塗料組成物中に含まれるエポキシ(メタ)アクリレートと、エポキシ(メタ)アクリレート以外の多官能(メタ)アクリレート及び単官能(メタ)アクリレートの含有比率は、特に限定されるものではないが、通常、質量比で、90〜25:10〜75であることが好ましく、80〜30:20〜70であることがより好ましい。また、上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物中に含まれるエポキシ(メタ)アクリレートと、エポキシ(メタ)アクリレート以外の多官能(メタ)アクリレート及び単官能(メタ)アクリレートの含有比率は、特に限定されるものではないが、通常、質量比で、75〜20:25〜80であることが好ましく、65〜30:35〜70であることがより好ましい。
【0048】
また、上記のように、下層用紫外線硬化型目止め塗料組成物及び上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物は、エポキシ(メタ)アクリレート以外の多官能(メタ)アクリレートとして、2官能(メタ)アクリレート、または2官能(メタ)アクリレートと3官能(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。下層用紫外線硬化型目止め塗料組成物中に含まれる2官能(メタ)アクリレートと3官能(メタ)アクリレートの含有比率は、特に限定されるものではないが、通常、質量比で、100〜25:0〜75であることが好ましく、100〜35:0〜65であることがより好ましい。また、上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物中に含まれる2官能(メタ)アクリレートと3官能(メタ)アクリレートの含有比率は、特に限定されるものではないが、通常、質量比で、80〜0:20〜100であることが好ましく、70〜10:30〜90であることがより好ましい。3官能(メタ)アクリレートの含有量が多くなると、目止め塗膜の硬度が高くなる一方で、付着力が低下してくる傾向がある。そのため、特に下層用紫外線硬化型目止め塗料組成物においては、3官能(メタ)アクリレートの2官能(メタ)アクリレートに対する含有比率[3官能(メタ)アクリレート/2官能(メタ)アクリレート]を75/25(質量比)以下にし、特に上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物においては、3官能(メタ)アクリレートの2官能(メタ)アクリレートに対する含有比率[3官能(メタ)アクリレート/2官能(メタ)アクリレート]を20/80(質量比)以上にすることにより、目止め塗膜の良好な硬度と優れた付着性の両方を高いレベルで達成することができる。
【0049】
本発明において用いる下層用紫外線硬化型目止め塗料組成物及び上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、多官能(メタ)アクリレート、及び単官能(メタ)アクリレート以外の紫外線照射によりラジカル重合可能な不飽和基を含有する不飽和化合物、例えば、不飽和ポリエステル等をさらに含むこともできるが、通常、上記以外の不飽和化合物を含まないことが好ましい。
【0050】
本発明において用いる下層用紫外線硬化型目止め塗料組成物及び上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物は、顔料(体質顔料)をさらに含む。この顔料は、目止め効果の主体となるものであり、無機系顔料が好ましい。
【0051】
顔料としては、公知のものいずれも用いることができ、特に限定されないが、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、タルク、カオリンクレー、マイカ、シリカ(酸化ケイ素)、珪藻土、ガラスビーズ等が挙げられる。中でも、目止め性や、硬化後の目止め塗膜表面の切削性・研磨性の点から、炭酸カルシウム及びタルクが好ましい。
【0052】
顔料は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
特に下層用紫外線硬化型目止め塗料組成物においては、目止め性の点から、炭酸カルシウムを用いることがより好ましい場合がある。また、特に上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物においては、目止め塗膜表面の切削性・研磨性の点から、炭酸カルシウムとタルクを併用することが好ましい場合がある。上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物中に含まれる炭酸カルシウムとタルクの比率は、特に限定されるものではないが、通常、質量比で、10〜90:90〜10であることが好ましい。
【0054】
本発明において用いる顔料の平均粒径は、特に限定されるものではないが、通常、0.1〜50μm程度であることが好ましく、0.5〜20μmであることがより好ましい。平均粒径が異なる顔料2種以上を組み合わせて用いることもできる。なお、平均粒径は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定器を用いて測定することができる。
【0055】
下層用紫外線硬化型目止め塗料組成物中の顔料の含有量は、特に限定されるものではないが、通常、目止め性や、目止め塗膜の硬度、表面平滑性等の点から、塗料組成物の全質量に対して、30〜70質量%であることが好ましく、40〜60質量%であることがより好ましい。また、上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物中の顔料の含有量は、特に限定されるものではないが、通常、目止め塗膜の硬度、表面平滑性や、目止め塗膜表面の切削性・研磨性等の点から、塗料組成物の全質量に対して、30〜70質量%であることが好ましく、35〜65質量%であることがより好ましい。
【0056】
本発明において用いる下層用紫外線硬化型目止め塗料組成物及び上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物は、光重合開始剤をさらに含む。光重合開始剤は、紫外線を照射することで、上記のエポキシ(メタ)アクリレート及び多官能(メタ)アクリレートの重合反応、またはエポキシ(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート及び単官能(メタ)アクリレートの重合反応を開始させる作用を有するものである。
【0057】
光重合開始剤としては、特に限定されず、例えば、ベンゾフェノン、4−メチルベンゾフェノン、4−フェニルベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物、ベンジルジメチルケタール等のアセトフェノン系化合物、ベンジル系化合物、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾイン系化合物、チオキサントン系化合物、アントラキノン系化合物、ホスフィンオキサイド系化合物など、一般的に用いられている、公知のものいずれも用いることができる。
【0058】
光重合開始剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
下層用紫外線硬化型目止め塗料組成物中の光重合開始剤の含有量は、特に限定されるものではないが、通常、塗料組成物の全質量に対して、0.1〜10質量%であることが好ましく、1〜5質量%であることがより好ましい。また、上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物中の光重合開始剤の含有量は、特に限定されるものではないが、通常、塗料組成物の全質量に対して、0.1〜10質量%であることが好ましく、1〜5質量%であることがより好ましい。
【0060】
本発明において用いる下層用紫外線硬化型目止め塗料組成物及び上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物は、必要に応じて、その他の各種添加剤、例えば、ポリオール等の粘度調整剤、レベリング剤、分散剤、消泡剤、酸化防止剤、抗菌剤、防黴剤、難燃剤、重合禁止剤等を含むことができる。
【0061】
本発明において用いる下層用紫外線硬化型目止め塗料組成物及び上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物は、公知の方法により調製することができ、例えば、多官能(メタ)アクリレートと単官能(メタ)アクリレートと光重合開始剤とを均一になるまで撹拌・混合し、これに顔料と、必要に応じて、その他の各種添加剤を加え、均一になるまで撹拌・混合することにより、調製することができる。
【0062】
本発明においては、上記のように、水系シーラーを塗布・含浸させた窯業系無機質基材上に、下層用紫外線硬化型目止め塗料組成物を塗布し、紫外線照射により硬化させて、下層目止め塗膜を形成する。、次いで、形成した下層目止め塗膜上に、上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物を塗布し、紫外線照射により硬化させて、上層目止め塗膜を形成することが好ましい。
【0063】
下層用紫外線硬化型目止め塗料組成物の塗布、及び上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物の塗布は、特に限定されず、公知の方法で行うことができ、例えば、ロールコート法、バーコート法、ブレードコート法、ナイフコート法等で行うことができる。ロールコート法には、ナチュラルリバーススクイズコーター、ナチュラルリバースロールコーター、ナチュラルロールコーター、リバースロールコーター等があるが、本発明においては、塗工表面の平滑化の点から、ナチュラルリバーススクイズコーター方式、またはナチュラルリバースロールコーター方式が好ましい。
【0064】
下層用紫外線硬化型目止め塗料組成物、及び上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物は、塗布後、紫外線を照射して、硬化させることにより、目止め塗膜を形成することができる。紫外線照射は、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、無電極放電ランプ等の一般的に用いられている、公知の紫外線照射ランプを用いて行うことができる。
【0065】
紫外線照射条件・硬化条件は特に限定されず、適宜選択することができるが、通常、下層用紫外線硬化型目止め塗料組成物を硬化させるための紫外線照射量は、積算光量として20〜200mJ/cm
2であることが好ましく、上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物を硬化させるための紫外線照射量は、積算光量として100〜1000mJ/cm
2であることが好ましい。
【0066】
本発明の窯業系無機質基材の塗装方法においては、必要に応じて、このようにして形成した上層目止め塗膜の表面(上層目止め塗膜を形成しない場合は、下層目止め塗膜の表面)を切削または研磨し、その上に、上塗り塗料組成物を塗布して、上塗り塗膜を形成してもよい。
【0067】
上層目止め塗膜の表面の切削または研磨は、特に限定されず、公知の方法で行うことができ、例えば、ベルトサンダー等を用いて行うことができる。切削または研磨条件も特に限定されず、所望に応じて適宜選択することができる。
【0068】
上塗り塗料組成物は、特に限定されず、公知のものいずれも用いることができ、所望に応じて適宜選択して用いられる。上塗り塗料組成物は、水系、有機溶剤系、無溶剤系のいずれの塗料形態であってもよく、また、ラッカー型でも、紫外線硬化型、熱硬化型のいずれであってもよい。
【0069】
上塗り塗料組成物としては、特に限定されないが、例えば、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、アクリルウレタン樹脂系、塩化ビニル樹脂系、シリコーン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アルキド系樹脂、フッ素樹脂系等や、これらの2種以上の変性樹脂やブレンド樹脂等が挙げられる。
【0070】
上塗り塗膜は、所望に応じて、2層以上を積層することもできる。上塗り塗料組成物として、顔料等を含む着色上塗り塗料を塗布し、その上に顔料等を含まないクリヤー塗料をさらに塗布することもできる。
【0071】
上塗り塗料組成物の塗布、及び上塗り塗膜の形成は、公知の方法に従って行うことができる。また、上塗り塗料組成物の塗布量等も特に限定されず、所望に応じて適宜選択することができる。
【0072】
このようにして塗装を施すことで、本発明の窯業系無機質基材塗装品を製造することができる。すなわち、本発明の窯業系無機質基材塗装品は、ケイ酸アルカリ金属塩を含み、含まれるケイ酸アルカリ金属塩の25質量%以上がケイ酸ナトリウムである水系シーラーが含浸された窯業系無機質基材と、窯業系無機質基材上に形成された、多官能(メタ)アクリレートと単官能(メタ)アクリレートと顔料と光重合開始剤とを含み、多官能(メタ)アクリレートと単官能(メタ)アクリレートとの含有比率が、質量比で、95〜50:5〜50である紫外線硬化型目止め塗料組成物を硬化させた目止め塗膜を少なくとも有するものであり、この目止め塗膜上に、多官能(メタ)アクリレートと顔料と光重合開始剤とを含む上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物を硬化させた上層目止め塗膜をさらに有していてもよく、また、上層目止め塗膜上に上塗り塗膜をさらに有していてもよい。
【0073】
本発明の窯業系無機質基材塗装品は、建材用途に好適に用いることができ、例えば、不燃性の内装壁材、内装天井材等として特に好適に用いることができる。
【実施例】
【0074】
以下、本発明について、実施例により更に詳細に説明する。なお、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0075】
実施例及び比較例において、測定・評価は次の方法で行った。
【0076】
<紫外線硬化型目止め塗料組成物の粘度の測定>
紫外線硬化型目止め塗料組成物の25℃における粘度は、B型粘度計〔東機産業株式会社製〕を用いて測定した。測定条件として、下層用紫外線硬化型目止め塗料組成物の粘度は、測定温度25℃、ローターNo.7、回転数20rpmで測定し、上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物の粘度は、測定温度25℃、ローターNo.4、回転数12rpmで測定した。
【0077】
<下層目止め塗膜の膜厚、及び上層目止め塗膜の膜厚の測定>
下層目止め塗膜の膜厚(平均膜厚)、及び上層目止め塗膜の膜厚(平均膜厚)は、以下の方法で測定した。
作製した窯業系無機質基材塗装品を電動鋸で切断して試験片(縦1cm×横1cm×厚み)を用意し、サンプルクリップを用いて埋込用クリアカップ内に該試験片を垂直に立て、ここにエポキシ樹脂「エポキュアー(ビューラー社製)主剤+硬化剤」を流し込み、エポキシ樹脂を完全に硬化させ、エポキシ樹脂に包埋された試験片を得た。研磨機「エコメット3000+オートメット2000(ビューラー社製)」を用い、#320、#600の研磨紙及びバフ上にメタダイ、マスタープレップ(ビューラー社製)を注ぎ、エポキシ樹脂に包埋された試験板に対して研磨を行い、塗膜断面を得た。得られた塗膜断面に対して、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製、VHX−5000)を使用して断面方向からの膜厚測定を実施した。膜厚測定は等間隔(1mm間隔)に10点行い、それらの平均値を測定値とした。
【0078】
<上塗り塗膜の鉛筆硬度>
作製した窯業系無機質基材塗装品の上塗り塗膜の鉛筆硬度は、JIS−K−5600−5−4〔引っかき硬度(鉛筆法)〕に従って測定した。
【0079】
<目止め塗膜の基材に対する付着性(初期付着)>
目止め塗膜の基材に対する付着性は、以下の方法で評価した。
作製した窯業系無機質基材塗装品の塗膜(下層目止め塗膜及び上層目止め塗膜と上塗り塗膜)にカッターナイフで2mm幅の平行線を11本引き、次いで、格子パターンを形成するように、これらの線に垂直に、11本の2mm幅の平行線を引くことで、2mm×2mmの升目を100個作製した。そして、その上にセロハンテープ(ニチバン株式会社製)を貼り付け、指で圧着した後、セロハンテープを一気に引き剥がし、残存する塗膜の升目を数え、以下の基準に従って、目止め塗膜の基材に対する付着性を評価した。
◎:2mm×2mmの100個の升目のうち、全ての升目で塗膜が剥離せずに残存していた。
○:2mm×2mmの100個の升目のうち、99〜95個の升目で塗膜が剥離せずに残存していた。
×:2mm×2mmの100個の升目のうち、6個以上の升目で塗膜が剥離し、塗膜が剥離せずに残存していた升目は94個以下であった。
【0080】
<目止め塗膜の耐水性(耐水試験後の目止め塗膜の基材に対する付着性;二次付着)>
目止め塗膜の耐水性は、以下の方法で評価した。
作製した窯業系無機質基材塗装品を60℃の水に10日間浸漬した後、水洗し、24時間風乾した。その後、目止め塗膜の基材に対する付着性を上記と同様の方法で測定し、評価した。
【0081】
<上塗り塗膜の外観(表面平滑性)>
作製した窯業系無機質基材塗装品の上塗り塗膜の外観(表面平滑性)は、目視で観察して、以下の基準に従って評価した。
◎:凹凸が認められず、かつ、ロールコーターのロール目や研磨跡なども全く無く、仕上がり外観に優れる。
○:凹凸が認められない。
×:凹凸が認められる。
【0082】
<実施例1〜16、比較例1〜5>
〔含浸シーラー(1−1)〜(1−6)の調製〕
ケイ酸ナトリウム水溶液(富士化学株式会社製、珪酸ソーダ1号59)、ケイ酸カリウム水溶液(富士化学株式会社製、2号珪酸カリ)、及びケイ酸リチウム水溶液(日産化学株式会社製、リチウムシリケート45)にイオン交換水を加え、濃度が20質量%のケイ酸ナトリウム水溶液、濃度が20質量%ケイ酸カリウム水溶液、及び濃度が20質量%のケイ酸リチウム水溶液を調製した。そして、表1に示す配合で、各溶液を均一になるまで十分に撹拌・混合して、水系無機シーラー(1−1)〜(1−6)を調製した。
【0083】
【表1】
なお、表1中の数値は質量部である。
【0084】
〔紫外線硬化型目止め塗料組成物(2−1)〜(2−13)の調製〕
下層用紫外線硬化型目止め塗料組成物として、表2に示す配合で、原料成分を均一になるまで十分に撹拌・混合して、紫外線硬化型目止め塗料組成物(2−1)〜(2−8)を調製した。また、上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物として、表3に示す配合で、原料成分を均一になるまで十分に撹拌・混合して、紫外線硬化型目止め塗料組成物(2−9)〜(2−13)を調製した。
【0085】
調製した紫外線硬化型目止め塗料組成物(2−1)〜(2−13)の25℃における粘度を測定した結果を表2、表3に示す。
【0086】
【表2】
【表3】
なお、表2及び表3中の数値は質量部である。
紫外線硬化型目止め塗料組成物(2−1)〜(2−13)で用いたエポキシアクリレート「Agysin1010」は、DSM−AGI社製、商品名「Agysin1010」(ビスフェノールA型エポキシジアクリレート)である。二官能アクリレートモノマー「TPGDA」は、BASF社製、商品名「LaromerTPGDA」である。単官能アクリレートモノマー「ライトアクリレート130A」は、共栄社化学社製、商品名「ライトアクリレート130A」(メトキシ−ポリエチレングリコールアクリレート)である。光重合開始剤「IC184」は、BASF社製、商品名「イルガキュア184」(α−ヒドロキシアルキルフェノン)である。
また、顔料として用いた炭酸カルシウムの平均粒径は、3μmであり、タルクの平均粒径は、7μmであった。
【0087】
〔窯業系無機質基材の塗装(窯業系無機質基材塗装品の製造)〕
表4−1〜4−4に示す含浸シーラー、下層用紫外線硬化型目止め塗料組成物、及び上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物を用い、次のようにして窯業系無機質基材を塗装した。
【0088】
窯業系無機質基材として、厚さ(平均厚さ)6mmのケイ酸カルシウム板を用いた。
ケイ酸カルシウム板の両面に、塗布される含浸シーラー中のケイ酸アルカリ金属塩の量が30g/m
2(片面:15g/m
2)になるように、表4に示す含浸シーラーをロールコーターを用いて塗布し、23℃で3分間乾燥させた。
【0089】
次いで、含浸シーラーを塗布した面に、表4−1〜4−4に示す下層用紫外線硬化型目止め塗料組成物をリバースロールコーターを用いて塗布し、メタルハライドランプを用いて紫外線を80mJ/cm
2照射して、硬化させた。形成した下層目止め塗膜の膜厚を測定した結果、実施例1〜16、比較例1〜5のいずれも、80μmであった。
【0090】
続いて、硬化後の膜厚が50μmになるように、表4−1〜4−4に示す上層用紫外線硬化型目止め塗料組成物をリバースロールコーターを用いて塗布し、高圧水銀灯を用いて紫外線を400mJ/cm
2照射して、硬化させた。
【0091】
下層目止め塗膜及び上層目止め塗膜を形成した後、その表面をベルトサンダーを用いて研磨した。研磨した後の上層目止め塗膜の膜厚を測定した結果、実施例1〜16、比較例1〜5のいずれも、30μmであった。研磨した後、その上に、塗布量が100g/m
2になるように、上塗り塗料組成物としてアクリルウレタン樹脂系塗料(大日本塗料株式会社製、商品名「ASA#100PRTR」)をフローコーターを用いて塗布し、80℃で20分間乾燥させて、上塗り塗膜を形成した。
【0092】
作製した窯業系無機質基材塗装品について、上塗り塗膜の鉛筆硬度、目止め塗膜の基材に対する付着性、目止め塗膜の耐水性、及び上塗り塗膜の外観(表面平滑性)を測定・評価した結果を表4−1〜4−4に示す。
【0093】
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
【表4-4】
【0094】
表4−1〜4−4から明らかなように、本発明の条件を満たす実施例1〜16の塗装品は、上塗り塗膜(及び目止め塗膜)が良好な硬度を有しており、目止め塗膜表面の切削性・研磨性に優れ、また、目止め塗膜の基材に対する付着性、及び耐水性にも優れ、優れた表面平滑性、良好な仕上がり外観を有している。