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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-155999(P2021-155999A)
(43)【公開日】2021年10月7日
(54)【発明の名称】支承装置
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/04 20060101AFI20210910BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20210910BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20210910BHJP
   F16F 15/08 20060101ALI20210910BHJP
【FI】
   E01D19/04 B
   E04H9/02 331E
   F16F15/04 A
   F16F15/08 E
   F16F15/04 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-56800(P2020-56800)
(22)【出願日】2020年3月26日
(71)【出願人】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104570
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 光弘
(72)【発明者】
【氏名】和氣 知貴
(72)【発明者】
【氏名】北林 良太
(72)【発明者】
【氏名】長弘 健太
【テーマコード(参考)】
2D059
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2D059AA33
2D059AA37
2E139AA01
2E139AC19
2E139CA21
2E139CB04
3J048AA01
3J048AA03
3J048AC01
3J048BA09
3J048BA11
3J048BB10
3J048BE12
3J048BG04
3J048DA01
3J048EA38
3J048EA39
(57)【要約】
【課題】よりコンパクトな設計で高荷重を支持することが可能な支承装置を提供する。
【解決手段】すべり支承1は、建築物、橋梁等の構造物の上部構造2側に配置されるフランジ10と、フランジ10に対向して下部構造3側に配置される支圧板11と、フランジ10および支圧板11に固着して、フランジ10および支圧板11間に介在する弾性体12と、弾性体12のせん断変形を拘束する円板状のせん断キー13と、を備える。せん断キー13は、一方の端部130がフランジ10の下面101に形成された収容部100に収容され、他方の端部131が支圧板11の上面111に形成された収容部110に収容される。また、軸心Oがフランジ10および支圧板11の積層方向Vに対して傾斜(回転)可能となるように、弾性体12内に配置される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の上部構造および下部構造間に配置され、前記下部構造の振動が前記上部構造に伝達するのを抑制しつつ、前記上部構造を支承する支承装置であって、
前記上部構造側に配置される上部プレートと、
前記上部プレートに対向して前記下部構造側に配置される下部プレートと、
前記上部プレートおよび前記下部プレートに固着して、前記上部プレートおよび前記下部プレート間に介在する弾性体と、
前記弾性体のせん断変形を拘束する円板状のせん断キーと、を備え、
前記上部プレートは、
前記下部プレートとの対向面に形成され、前記せん断キーの一方の端部を収容する第1の収容部を有し、
前記下部プレートは、
前記上部プレートとの対向面に形成され、前記せん断キーの他方の端部を収容する第2の収容部を有し、
前記せん断キーは、
前記一方の端部が前記上部プレートの前記第1の収容部に収容され、前記他方の端部が前記下部プレートの前記第2の収容部に収容されるとともに、前記せん断キーの軸心が前記上部プレートおよび前記下部プレートの積層方向に対して傾斜可能となるように、前記弾性体内に配置されている
ことを特徴とする支承装置。
【請求項2】
請求項1に記載の支承装置であって、
前記せん断キーは、
前記上部プレートとの対向面および前記下部プレートとの対向面の少なくとも一方に形成され、軸心を頂部とする凹部を有する
ことを特徴とする支承装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の支承装置であって、
前記第1の収容部および前記第2の収容部の少なくとも一方は、
中央を頂部とする凹部が形成された底面を有する
ことを特徴とする支承装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の支承装置であって、
前記下部プレートの前記下部構造側の面あるいは前記上部プレートの前記上部構造側の面に取り付けられ、摺動面を有するすべり板をさらに備える
ことを特徴とする支承装置。
【請求項5】
請求項4に記載の支承装置であって、
前記下部プレートは、
前記下部構造側の面に設けられ、前記すべり板を装着するための装着用凹部を有し、
前記すべり板は、
前記摺動面を前記下部プレートの前記下部構造側の面から突出させて、前記装着用凹部に装着されている
ことを特徴とする支承装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の支承装置であって、
前記下部プレートは、
前記すべり板の取付面を除き、前記弾性体で被覆されている
ことを特徴とする支承装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか一項に記載の支承装置であって、
前記弾性体は、
垂直方向の圧縮荷重を受けていない状態において、前記上部プレートと前記下部プレートとの間における外周面が、内径側に窪んだ断面凹状に形成されている
ことを特徴とする支承装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物、橋梁等の構造物の免震装置として用いられる支承装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物、橋梁等の構造物の免震装置として、構造物の上部構造および下部構造間に配置され、地震等による下部構造の振動が上部構造に伝達するのを抑制しつつ、上部構造を支承する支承装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、弾性層と交互に積層される鋼板層が存在せず、全体としてコンパクトにして、小さな面積で高荷重を支持することが可能な支承装置が開示されている。この支承装置は、貫通孔が穿設された上部プレート(第一剛性体)と、上部プレートと対向配置された下部プレート(第二剛性体)と、上部プレートと下部プレートとの間に配設された弾性体と、下部プレートに螺合等によって固定されるとともに、弾性体を貫通して先端部が貫通孔内に位置するせん断キー(芯材)と、せん断キーの先端部に接触して貫通孔の内部に充填された充填材と、を備えている。
【0004】
特許文献1に記載の支承装置によれば、構造物の下部構造から下部プレートに伝わる振動を弾性体がせん断変形して吸収することにより、この振動が上部プレートを介して建築物の上部構造に伝わるのを抑制することができる。また、下部プレートに固定されたせん断キーの先端部が上部プレートに設けられた貫通孔の内部に位置することにより、上部プレートおよび下部プレート間の相対的な水平方向の過剰な移動が抑制され、これにより、弾性体が過剰なせん断変形により破壊されるのを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5646383号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、支承装置のさらなるコンパクト化が要求されている。しかしながら、特許文献1に記載の支承装置では、せん断キーが螺合等によって下部プレートに固定されており、弾性体のせん断変形の拘束は、上部プレートに設けられた貫通孔とこの貫通孔内に位置するせん断キーの先端部とのオーバラップ量に依存する。このため、弾性体のせん断変形を確実に拘束するために、このオーバラップ量を大きくするか、せん断キーの先端部が上部プレートに設けられた貫通孔から抜けるのを防止するための機構を設ける必要があり、支承装置の高さを低くすることができない。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、よりコンパクトな設計で高荷重を支持することが可能な支承装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の支承装置では、円板状のせん断キーの一方の端部が上部プレートの下部プレートとの対向面に形成された収容部に収容され、他方の端部が下部プレートの上部プレートとの対向面に形成された収容部に収容されるとともに、せん断キーの軸心が上部プレートおよび下部プレートの積層方向に対して傾斜可能となるように、上部プレートおよび下部プレート間に介在する弾性体内にせん断キーを配置した。
【0009】
例えば、本発明の支承装置は、
構造物の上部構造および下部構造間に配置され、前記下部構造の振動が前記上部構造に伝達するのを抑制しつつ、前記上部構造を支承する支承装置であって、
前記上部構造側に配置される上部プレートと、
前記上部プレートに対向して前記下部構造側に配置される下部プレートと、
前記上部プレートおよび前記下部プレートに固着して、前記上部プレートおよび前記下部プレート間に介在する弾性体と、
前記弾性体のせん断変形を拘束する円板状のせん断キーと、を備え、
前記上部プレートは、
前記下部プレートとの対向面に形成され、前記せん断キーの一方の端部を収容する第1の収容部を有し、
前記下部プレートは、
前記上部プレートとの対向面に形成され、前記せん断キーの他方の端部を収容する第2の収容部を有し、
前記せん断キーは、
前記一方の端部が前記上部プレートの前記第1の収容部に収容され、前記他方の端部が前記下部プレートの前記第2の収容部に収容されるとともに、前記せん断キーの軸心が前記上部プレートおよび前記下部プレートの積層方向に対して傾斜可能となるように、前記弾性体内に配置されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、上部プレートおよび下部プレート間の水平方向の相対移動による弾性体のせん断変形により、上部プレートの収容部に収容されたせん断キーの一方の端部が上部プレートの移動方向に押され、下部プレートの収容部に収容されたせん断キーの他方の端部が上部プレートの移動方向とは反対方向である下部プレートの移動方向に押されて、せん断キーの軸心が上部プレートおよび下部プレートの積層方向に対して傾斜するように、せん断キーが回転する。これにより、せん断キーの一方の端部と上部プレートの収容部とのオーバラップ量、およびせん断キーの他方の端部と下部プレートの収容部とのオーバラップ量が、それぞれ増大するため、せん断キーの高さを低くしても、弾性体のせん断変形を拘束することができる。また、せん断キーは、弾性体のせん断変形の拘束に加えて、上部プレートおよび下部プレート間に加わる鉛直方向の荷重を支持することができる。したがって、本発明によれば、よりコンパクトな設計で高荷重を支持することが可能な支承装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1(A)および図1(B)は、本発明の一実施の形態に係るすべり支承1の平面図、下面図であり、図1(C)は、図1(A)に示すすべり支承1のA−A断面図である。
図2図2(A)〜図2(C)は、図1に示すすべり支承1の動作を説明するための図である。
図3図3(A)は、本発明の一実施の形態に係るすべり支承1の変形例1Aを説明するための図1(C)に相当する図であり、図3(B)は、本発明の一実施の形態に係るすべり支承1の変形例1Bを説明するための図1(C)に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の一実施の形態について説明する。
【0013】
図1(A)および図1(B)は、本発明の一実施の形態に係るすべり支承1の平面図、下面図であり、図1(C)は、図1(A)に示すすべり支承1のA−A断面図である。
【0014】
本実施の形態に係るすべり支承1は、建築物、橋梁等の構造物の上部構造および下部構造間に配置され、地震等による下部構造の振動が上部構造に伝達するのを抑制しつつ、上部構造を支承する。
【0015】
図示するように、本実施の形態に係るすべり支承1は、フランジ10と、フランジ10に対向して配置される支圧板11と、フランジ10および支圧板11間に介在する弾性体12と、弾性体12のせん断変形を拘束するせん断キー13と、支圧板11の下面(構造物の下部構造側の面)112に取り付けられたすべり板14と、を備えている。
【0016】
フランジ10は、構造物の上部構造側に配置される上部プレートとして機能する板状部材であり、ボルト孔102に挿入されたボルト(不図示)によって上部構造に固定される。フランジ10の下面(支圧板11との対向面)101には、せん断キー13の一方の端部130を収容するための底付き円筒状の収容部100が形成されている。フランジ10には、SS400等の鉄鋼材料を含む金属、セラミックス、硬質樹脂、強化プラスチック、あるいは、これらの複合材料が用いられる。
【0017】
支圧板11は、構造物の下部構造側に配置される下部プレートとして機能する円板状部材である。支圧板11の上面(フランジ10との対向面)111には、せん断キー13の他方の端部131を収容するための底付き円筒状の収容部110が、フランジ10の収容部100と略同径でこの収容部100と対向する位置に形成されている。また、支圧板11の下面112には、すべり板14を装着するための装着用凹部113が形成されている。支圧板11には、フランジ10と同様に、SS400等の鉄鋼材料を含む金属、セラミックス、硬質樹脂、強化プラスチック、あるいはこれらの複合材料が用いられる。なお、支圧板11は、すべり板14が装着される装着用凹部113を除き、弾性体12で被覆されている。
【0018】
弾性体12は、加硫接着等によりフランジ10の下面101および支圧板11の上面111に固着して、フランジ10と支圧板11との間に介在する。これにより、フランジ10および支圧板11間の相対移動によりせん断変形して、支圧板11の振動がフランジ10に伝達するのを抑制する。弾性体12には、天然ゴム、合成ゴム、熱可塑性エラストマー、あるいは熱硬化性エラストマーが用いられる。
【0019】
また、弾性体12は、フランジ10の下面101と支圧板11の上面111との間の厚みT1、せん断キー13の一方の端部130と収容部100の天井103との間の厚みT2、および、せん断キー13の他方の端部131と収容部110の底面114との間の厚みT3が、好ましくはT1≦T2+T3となるように設定され、より好ましくはT3=T1/2かつT2≧T3となるように設定される。T1≦T2+T3とすることにより、すべり支承1の中央部において弾性体12がより弾性変形し易くなって圧縮剛性が小さくなる。これにより、垂直方向(フランジ10および支圧板11の積層方向)Vの圧縮荷重に対して、すべり支承1の中央部における弾性体12の圧縮応力の集中を緩和して、後述するせん断キー13の垂直方向Vに対する傾斜(回転)をより円滑にすることができる。さらに、T3=T1/2かつT2≧T3とすることにより、せん断キー13の一方の端部130とフランジ10の収容部100の天井103との間で弾性体12の厚さを十分に確保して、支圧板11の収容部110を浅くすることができ、これにより、すべり支承1のよりコンパクトな設計が可能となる。
【0020】
なお、フランジ10と支圧板11との間における弾性体12の外周面120は、内径側に窪んだ断面凹状に形成される。
【0021】
せん断キー13は、フランジ10の収容部100および支圧板の収容部110より小径の円板状部材であり、一方の端部130がフランジ10の収容部100に収容され、他方の端部131が支圧板11の収容部110に収容されるようにして、弾性体12内に配置される。せん断キー13の両端部130、131が弾性体12を介してフランジ10の収容部100および支圧板の収容部110に収容されることにより、フランジ10および支圧板11間の相対移動を規制して、弾性体12のせん断変形を拘束する。また、せん断キー13は、フランジ10の収容部100および支圧板11の収容部110により画定される円柱状の空間内において、垂直方向Vに対して傾斜(回転)可能に配置されている。
【0022】
なお、せん断キー13の角部134は面取りされていることが好ましい。このようにすることで、せん断キー13の角部134に生じる応力集中を避けて、せん断キー13をより容易に傾斜(回転)させることができる。
【0023】
すべり板14は、構造物の下部構造に設けられた載置面(例えばステンレス板の面)と摺動する摺動面140を有する円板状部材であり、摺動面140が支圧板11の下面112から下方に突出するようにして、支圧板11の装着用凹部113に装着される。フランジ10および支圧板11間の相対移動によりせん断変形した弾性体12のせん断力が、すべり板14の摺動面140と構造物の下部構造に設けられた載置面との間の静止摩擦力を越えると、摺動面140とこの載置面との間ですべりが生じる。
【0024】
ここで、例えば、フランジ10の下面101と支圧板11の上面111との間における弾性体12の厚みT1は、すべり材14の直径D3の30分の1程度に設定される。T1がD3/30より大きくなると、それにつれてすべり支承1の沈み込み量が過大となる。一方、T1がD3/30より小さくなると、それにつれてすべり支承1が傾斜し難くなるとともに、傾斜時においてすべり材14に作用する支圧分布に偏りが生じる。
【0025】
また、例えば、フランジ10の収容部100および支圧板11の収容部110の直径D1は、すべり材14の直径D3が700mmの場合、284mmに設定され、すべり材14の直径D3が200mmの場合、56mmに設定される。
【0026】
つぎに、すべり支承1の動作について説明する。
【0027】
図2(A)〜図2(C)は、図1に示すすべり支承1の動作を説明するための図である。
【0028】
図2(A)に示すように、すべり支承1は、フランジ10が不図示のボルトにより構造物の上部構造2に固定され、支圧板11が、すべり板14の摺動面140を構造物の下部構造3に設けられた載置面30に接触させるようにして、下部構造3上に配置され、これにより、構造物の上部構造2を支承する。
【0029】
図2(A)に示すすべり支承1において、地震等による構造物の下部構造3の振動がすべり板14を介して支圧板11に伝達すると、フランジ10および支圧板11間の相対移動により弾性体12がせん断変形して、支圧板11の振動のフランジ10への伝達が抑制される。この際、図2(B)に示すように、フランジ10の収容部100に収容されたせん断キー13の一方の端部130がフランジ10の移動方向−Fに押され、支圧板11の収容部110に収容されたせん断キー13の他方の端部131がフランジ10の移動方向−Fとは反対方向である支圧板11の移動方向+Fに押されて、せん断キー13の軸心Oが垂直方向(フランジ10および支圧板11の積層方向)Vに対して傾斜するように、せん断キー13が回転する。これにより、せん断キー13の一方の端部130とフランジ10の収容部100とのオーバラップ量P1、およびせん断キー13の他方の端部131と支圧板11の収容部110とのオーバラップ量P2が、それぞれ増大して、弾性体12のせん断変形をより確実に拘束することができる。
【0030】
なお、せん断キー13は、その軸心Oが垂直方向Vに対して傾斜(回転)したときに、弾性体12のせん断変形を確実に拘束するために必要なオーバラップ量P1、P2を確保できるように、そのサイズおよび配置位置が設定される。せん断キー13の直径D2および厚さT4が大きい場合には、せん断キー13の軸心Oの垂直方向Vに対する傾斜角度が小さくても必要なオーバラップ量P1、P2を確保することができるが、せん断キー13の直径D2および厚さT4が小さい場合には、せん断キー13の軸心Oの垂直方向Vに対する傾斜角度を大きくしてオーバラップ量P1、P2を確保する必要がある。
【0031】
例えば、フランジ10の収容部100および支圧板11の収容部110の直径D1が284mmの場合、せん断キー13の直径D2および厚さT4をそれぞれ260mm、59.5mmに設定すると、せん断キー13の軸心Oは垂直方向Vに対して最大で約5度回転可能となり、せん断キー13が回転したときに、弾性体12のせん断変形を確実に拘束するために必要なオーバラップ量P1、P2を確保できる。また、フランジ10の収容部100および支圧板11の収容部110の直径D1が56mmの場合、せん断キー13の直径D2および厚さT4をそれぞれ50mm、26.5mmに設定すると、せん断キー13の軸心Oは垂直方向Vに対して最大で約7度回転可能となり、せん断キー13が回転したときに、弾性体12のせん断変形を確実に拘束するために必要なオーバラップ量P1、P2を確保できる。
【0032】
ここで、フランジ10および支圧板11間の相対移動によりせん断変形した弾性体12のせん断力が、すべり板14の摺動面140と構造物の下部構造3に設けられた載置面30との間の静止摩擦力を越えると、図2(C)に示すように、摺動面140とこの載置面30との間ですべりが生じる。これにより、下部構造3の振動のすべり支承1への伝達が抑制される。
【0033】
以上、本発明の一実施の形態について説明した。
【0034】
本実施の形態では、フランジ10および支圧板11間の相対移動による弾性体12のせん断変形により、せん断キー13の軸心Oが垂直方向Vに対して傾斜するように、せん断キー13が回転する。これにより、せん断キー13の一方の端部130とフランジ10の収容部100とのオーバラップ量P1、および、せん断キー13の他方の端部131と支圧板11の収容部110とのオーバラップ量P2が、それぞれ増大するため、せん断キー13の高さを低くしても、弾性体12のせん断変形を拘束することができる。したがって、本実施の形態によれば、よりコンパクトな設計で高荷重を支持することができる。
【0035】
また、本実施の形態では、支圧板11の下面112に装着用凹部113を設け、摺動面140を支圧板11の下面112から突出させて、すべり板14をこの装着用凹部113に装着している。このため、フランジ10および支圧板11間の相対移動によりせん断変形した弾性体12のせん断力が、摺動面140と構造物の下部構造3に設けられた載置面30との間の静止摩擦力を越えた場合に、摺動面140とこの載置面30との間ですべりが生じることにより、下部構造3の振動がすべり支承1へ伝達されるのを抑制することができる。
【0036】
また、本実施の形態では、すべり板14が装着される装着用凹部113を除き、支圧板11を弾性体12で被覆しているので、支圧板11に別途防錆処理を施さなくても、支圧板11の防錆効果を期待できる。
【0037】
また、本実施の形態では、フランジ10の収容部100および支圧板11の収容部110を、それぞれ底付き円筒状に形成している。このため、これらの収容部100、110を貫通孔とした場合に比べて、弾性体12の圧縮応力が貫通孔から外部に逃げるのを防止して、この圧縮応力をより効率よくせん断キー13に加えることができる。これにより、弾性体12のせん断変形をより確実に拘束することができる。
【0038】
また、本実施の形態では、フランジ10と支圧板11との間における弾性体12の外周面120が、内側に窪んだ断面凹状に形成されている。このため、すべり支承1が垂直方向Vの圧縮荷重を受けた際に弾性体12の外周面120が膨らんで表面積が増加するのを抑制して、弾性体12にオゾンクラックが発生するのを防止することができる。なお、弾性体12の外周面120は、すべり支承1の構造物への設置後において、断面が平坦か内側に若干窪んだ凹状となるように、内側に窪んだ断面凹状に形成されていればよい。
【0039】
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。
【0040】
例えば、図3(A)に示すすべり支承1の変形例1Aのように、せん断キー13の両端部130、131の端面132、133を、せん断キー13の軸心Oを頂部とする凹面状に形成してもよい。このようにすることで、フランジ10および支圧板11の中央部における弾性体12が厚くなるため、この中央部における弾性体12の圧縮応力を低減することができる。これにより、支圧板11を介してすべり板14に作用する弾性体12の圧縮応力の偏分布を緩和して、すべり板14の良好な摺動性能を実現できる。
【0041】
なお、ここでは、せん断キー13の両端部130、131の端面132、133の両方を凹面状に形成しているが、少なくも一方が凹面状に形成されていればよい。
【0042】
また、図3(B)に示すすべり支承1の変形例1Bのように、フランジ10の収容部100の天井103および支圧板11の収容部110の底面114を、これらの中央部を頂点とする凹面状に形成してもよい。この場合でも、図3(A)に示す変形例1Aと同様、フランジ10および支圧板11の中央部における弾性体12が厚くなるため、この中央部における弾性体12の圧縮応力を低減することができ、これにより、支圧板11を介してすべり板14に作用する弾性体12の圧縮応力の偏分布を緩和して、すべり板14の良好な摺動性能を実現できる。
【0043】
なお、ここでは、フランジ10の収容部100の天井103および支圧板11の収容部110の底面114の両方を凹面状に形成しているが、少なくも一方が凹面状に形成されていればよい。
【0044】
また、上記の実施の形態では、フランジ10を構造物の上部構造2に固定し、すべり板14を構造物の下部構造3に設けられた載置面30に接触させるようにして、すべり支承1を構造物に設置している。しかし、本発明はこれに限定されない。すべり板14を構造物の上部構造2に設けられた平坦面に接触させ、フランジ10を構造物の下部構造3に固定して、つまり、すべり支承1を上下逆さまにして構造物に設置してもよい。
【0045】
また、上記の実施の形態では、支圧板11の下面112にすべり板14が取り付けられたすべり支承1を例にとり説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明は、支圧板11の下面112にすべり板14が取り付けられておらず、支圧板11が構造物の下部構造3に固定されるタイプの支承装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0046】
1、1A、1B:すべり支承
2:構造物の上部構造 3:構造物の下部構造
10:フランジ 11:支圧板 12:弾性体
13:せん断キー 14:すべり板 30:載置面
100:フランジ10の収容部 101:フランジ10の下面
102:フランジ10のボルト孔 103:収容部100の天井
110:支圧板11の収容部 111:支圧板11の上面
112:支圧板11の下面 113:支圧板11の装着用凹部
114:収容部110の底面 120:弾性体12の外周面
130、131:せん断キー13の端部
132、133:せん断キー13の端面
134:せん断キー13の角部 140:すべり板14の摺動面
図1
図2
図3