【解決手段】物品検査装置としてのX線検査装置1は、移動する流体からなる被検査物Wに放射状に広がる電磁波としてのX線を照射するX線照射部11と、被検査物Wの移動方向(X方向)に直交する主走査方向(Y方向)と移動方向とに配列された複数の検出素子15aにより被検査物Wの影響を受けたX線を検出するX線ラインセンサ15と、を備える。X線検査装置1は遅延時間設定部およびTDI画像生成部としての制御回路36を備えている。制御回路36は、所定の基準遅延時間tに基づいて複数の遅延時間を設定し、X線ラインセンサ15が検出した検出データを複数の遅延時間を用いて加算する時間遅延積分処理を実施し、複数の遅延時間に応じた複数のTDI画像を生成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の物品検査装置にあっては、出力画像をプリズムまたはハーフミラーによって光学的に分割しており、かつ、分割数に応じた複数のカメラが必要なため、異物の有無等の検査対象となる複数の画像の取得数が大きく制約されてしまっていた。また、遅延時間の設定個数も柔軟に変更することができなかった。
【0007】
そこで、本発明は、前述のような従来の問題を解決するためになされたもので、時間遅延積分の演算に用いる遅延時間が制約されることを抑制でき、検査精度を向上させることができる物品検査装置および物品検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る物品検査装置は、移動する流体からなる被検査物(W)に電磁波(X線)を照射する照射部(11)と、前記被検査物の移動方向に直交する主走査方向と前記移動方向とに配列された複数の検出素子(15a)により前記被検査物の影響を受けた前記電磁波を検出する検出部(15)と、を備える物品検査装置(1)であって、所定の基準遅延時間(t)に基づいて複数の遅延時間(2t、3t、・・・)を設定する遅延時間設定部(36)と、前記検出部が検出した検出データを複数の前記遅延時間を用いて加算する時間遅延積分処理を実施し、複数の前記遅延時間に応じた複数のTDI画像を生成するTDI画像生成部(36)と、を備えることを特徴とする。
【0009】
これにより、被検査物Wの高さ方向の複数の位置に対応するTDI画像を、X線の拡大による影響を回避して異物が鮮明に映った状態で取得できるので、検査精度を向上させることができる。また、複数の遅延時間を用いた時間遅延積分により複数のTDI画像を取得しており、X線出力画像をプリズム等により光学的に分割する必要がないため、時間遅延積分の演算に用いる遅延時間の値や数が制約されることを抑制できる。この結果、時間遅延積分の演算に用いる遅延時間が制約されることを抑制でき、検査精度を向上させることができる。
【0010】
本発明に係る物品検査装置は、前記遅延時間設定部は、所定の基準遅延時間を自然数倍(n倍)することにより複数の前記遅延時間を設定することを特徴とする。
【0011】
これにより、基準遅延時間から複数の遅延時間を算出する演算をデジタルデータ上で容易に行うことができる。
【0012】
本発明に係る物品検査方法は、移動する流体からなる被検査物(W)に電磁波(X線)を照射する照射ステップと、前記被検査物の移動方向に直交する主走査方向と前記移動方向とに配列された複数の検出素子により前記被検査物の影響を受けた前記電磁波を検出する検出ステップと、を備える物品検査方法であって、所定の基準遅延時間(t)に基づいて複数の遅延時間(2t、3t、・・・)を設定する遅延時間設定ステップと、前記検出ステップで検出した検出データを複数の前記遅延時間を用いて加算する時間遅延積分処理を実施し、複数の前記遅延時間に応じた複数のTDI画像を生成するTDI画像生成ステップと、を備えることを特徴とする。
【0013】
これにより、被検査物Wの高さ方向の複数の位置に対応するTDI画像を、X線の拡大による影響を回避して異物が鮮明に映った状態で取得できるので、検査精度を向上させることができる。また、複数の遅延時間を用いた時間遅延積分により複数のTDI画像を取得しており、X線出力画像をプリズム等により光学的に分割する必要がないため、時間遅延積分の演算に用いる遅延時間の値や数が制約されることを抑制できる。この結果、時間遅延積分の演算に用いる遅延時間が制約されることを抑制でき、検査精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、時間遅延積分の演算に用いる遅延時間が制約されることを抑制でき、検査精度を向上させることができる物品検査装置および物品検査方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
本実施の形態は、物品検査装置としてのX線検査装置に本発明を適用した場合を例示している。本実施の形態に係るX線検査装置は、例えば搬送ラインの一部に組み込まれ、上流側から順次搬送されてくる被検査物(物品)に対して電磁波としてのX線を照射し、そのときに被検査物を透過するX線透過量等に基づいて異物混入の有無、シール部不良の有無、欠品の有無などの各種検査を行って下流側に搬出するものである。なお、本実施の形態では電磁波としてX線を用いているが、本発明はX線に限定されるものではなく、電波、マイクロ波、可視光、赤外光など他の電磁波を用いることができる。
【0018】
図1に示すように、本実施の形態のX線検査装置1は、搬送部2、X線照射ユニット3、X線検出ユニット4を備えている。
【0019】
搬送部2は、検査対象の被検査物Wを搬送路上に搬送する。搬送部2は、装置本体に対して水平に配置された搬送ベルト2aを有するベルトコンベア(
図3参照)、または流体からなる被検査物Wが流れる配管5から構成されている。
【0020】
図2、
図3において、搬送部2は、X線を透過しやすい材料(原子量の大きい元素以外の元素)からなる搬送ベルト2aを備え、被検査物Wの検査を行うときに、不図示の搬送制御部の制御に基づく駆動モータの回転により予め設定される搬送速度で搬送ベルト2aを駆動する。これにより、搬入口から搬入された被検査物Wは搬出口側に向けて、搬送方向(矢印Xで示す方向)に搬送される。搬送方向は被検査物Wの移動方向である。
【0021】
X線照射ユニット3は、被検査物Wの搬送路の上部側に設けられるX線照射側のユニットを構成する筐体を備え、筐体内にはX線照射部11、コリメータ13が設けられている。
【0022】
X線照射ユニット3の筐体底面には、X線照射部11からのX線を後述するX線ラインセンサ15に向けて照射するための照射開口窓3bが形成されている。この照射開口窓3bは、搬送方向の平面上で搬送方向と直交する幅方向(矢印Yで示す方向)に例えば矩形状に形成される。
【0023】
なお、本実施の形態のX線検査装置1は、のれん状の遮蔽カーテン3aをX線照射ユニット3の筐体下部の搬入口側と搬出口側に備えている。これにより、装置から外部へのX線の漏洩を確実に防止することができる。
【0024】
X線照射部11は、搬入口から搬出口に向かって搬送方向に搬送路上を搬送される被検査物WにX線を照射するものであり、電圧を印可して加速させた電子をターゲットに射突させてX線を発生させている。
【0025】
詳しくは、X線照射部11は、略直方体をなす金属製の箱体11aの内部に設けられる円筒状のX線管11bを絶縁油により浸漬した構成である。X線管11bは、その長手方向が被検査物Wの搬送方向の平面上で搬送方向(又は搬送方向と直交する方向)に設けられている。
【0026】
X線管11bは、陰極11cと支持体11dに支持された陽極ターゲット11eとを所定距離をおいて対向配置したものから構成されており、陰極11cからの電子ビームを陽極ターゲット11eに照射させてX線を生成している。
【0027】
X線発生源としての陽極ターゲット11eが生成したX線は、陽極ターゲット11eを中心として放射状に広がる。このX線は、コリメータ13を介して出射窓11fから後述するX線ラインセンサ15に向けてスクリーン状にして照射される。なお、出射窓11fは、被検査物Wの搬送方向の平面上で搬送方向と直交する方向に例えば矩形状に形成される。
【0028】
コリメータ13は、X線照射部11の下方に位置して設けられ、後述するX線ラインセンサ15上のX線の照射領域、言い換えれば、X線管11bからX線ラインセンサ15に向かって照射されるX線の進路を制限するための例えば矩形状のスリット13aを有している。このように、X線照射ユニット3は、放射状に広がるX線(電磁波)の一部を被検査物Wに照射している。
【0029】
X線検出ユニット4は、被検査物Wの搬送面の下部側にX線照射ユニット3と高さ方向に所定距離離れて対向して設けられるX線検出側のユニットを構成する筐体を備えており、筐体内にはX線ラインセンサ15が設けられている。
【0030】
X線ラインセンサ15は、被検査物Wの搬送方向の平面上で搬送方向と直交する方向(Y方向)に複数の検出素子15aを一直線上に配置した検出素子列を、搬送方向(X方向)に複数段(複数列)配置したものである。ここで、被検査物Wの搬送方向と直交する方向(Y方向)は、X線ラインセンサ15の主走査方向である。
【0031】
このように、X線ラインセンサ15は、検出素子列を複数段有する多段式のX線ラインセンサとして構成されている。多段式のX線ラインセンサとしては、例えば、TDI(Time Delayed Integration:時間遅延積分)式またはTDS(Time Delay Summation)式のX線センサを用いることができる。
【0032】
X線ラインセンサ15は、複数の検出素子15aによって被検査物Wおよび搬送ベルト2aを透過するX線を検出し、この検出した検出データを被検査物Wの搬送に伴って繰り返し出力する。
【0033】
このX線ラインセンサ15の出力は、被検査物Wの異物混入の有無、シール部不良の有無、欠品の有無などの各種検査を行う際に用いられる。X線ラインセンサ15は、搬送ベルト2aを挟んでX線照射部11と対向している。
【0034】
一例として、各検出素子は、図示しないシンチレータとフォトダイオード等の受光素子とを密着したものから構成され、X線をシンチレータで光に変換し、この光を受光素子で受光して電気信号に変換し、X線透過データとして出力するようになっている。
【0035】
他の例として、各検出素子は、テルル化カドミウム(CdTe)等の半導体を用いて、フォトンカウンティングの手法によりX線を直接的に効率良く電気信号に変換するようになっていてもよい。
【0036】
X線ラインセンサ15に対するX線の照射領域を調整できるようにするため、X線管11b、コリメータ13およびX線ラインセンサ15の少なくとも1つを移動可能に構成してもよい。なお、X線ラインセンサ15が検出するX線は、被検査物Wを透過したX線に限定されない。X線ラインセンサ15の検出対象には、被検査物Wを透過して減衰したX線だけでなく、X線被検査物Wを反射したX線、または被検査物Wと相互作用して発生する新たな電磁波も含まれる。相互作用して発生する新たな電磁波とは、例えば被検査物が発生させる蛍光である。言い換えれば、X線ラインセンサ15は、被検査物Wの影響を受けた電磁波を検出するものである。被検査物Wの影響を受けた電磁波がX線でない場合(例えば蛍光)は、その電磁波に対応するセンサ(例えば光検出器)を用いることができる。本実施例では、被検査物Wを透過したX線を検出してそのX線透過量に基づいて被検査物Wを検査する場合を例示している。
【0037】
X線検査装置1はタッチパネル35を備えている。タッチパネル35は、被検査物Wの検出データの画像、検査結果等を表示する。また、タッチパネル35には、ユーザにより各種の設定値等の入力操作や、機能の選択操作等が行われる。
【0038】
X線検査装置1は制御回路36を備えており、制御回路36は、X線検査装置1の動作を制御する。制御回路36の制御内容には、X線ラインセンサ15が出力した検出データに対する異物強調等の画像処理動作と、被検査物Wの検査結果を判定する動作と、タッチパネル35の表示内容を生成する動作等が含まれている。また、制御回路36の動作には、後述する遅延時間設定動作(
図8参照)および測定動作(
図9参照)が含まれている。
【0039】
X線ラインセンサ15の検出素子15aの素子サイズおよび素子ピッチをD、被検査物Wの移動速度(搬送速度)をvとしたとき、X線ラインセンサ15において時間遅延積分(TDI)演算に用いる最適な遅延時間τは、τ=D/vの数式から求めることができる。最適な遅延時間τを用いることにより、X線検査装置1が被検査物Wおよびその中の異物の移動速度と同期して時間遅延積分を行うことができるため、露光時間を増やした場合と同等の明瞭なTDI画像を取得でき、異物を精度よく検出できる。ここで、TDI画像とは、X線ラインセンサ15の複数の検出素子15aの検出データを複数の遅延時間を用いて加算する時間遅延積分処理によって生成した画像である。X線検査装置1は、複数の遅延時間に応じた複数のTDI画像を生成する。
【0040】
拡大撮像について説明する。X線検査装置1は、平行X線ではなく、放射状に広がるX線を被検査物Wに照射しているため、
図3に示すように、拡大撮像の状態が発生する。拡大撮像とは、被検査物Wの中の底部に存在する異物m2はX線ラインセンサ15からの見かけ上の移動速度が搬送速度と等しく実寸方で検出されるが、被検査物Wの中の上部に存在する異物m1は見かけ上の移動速度が速くかつ拡大して検出される状態である。例えば、X線照射部11と異物m1との距離をrとし、X線照射部11とX線ラインセンサ15との距離Rをαrと表したとき、異物m1はα倍に拡大した大きさで検出される。このときの拡大率αはα=R/rの数式から求めることができる。
【0041】
また、X線ラインセンサ15からの異物m1の見かけ上の移動速度はαvとなり、搬送ベルト2aおよび被検査物Wの実際の移動速度vに拡大率αを乗算した値となる。このように、被検査物W中の異物の見かけ上の移動速度は非一様であり、被検査物W中の上部ほど移動速度が拡大される。
【0042】
拡大撮像は、異物を拡大して検出できる点で利点となり得る。例えば、意図的に被検査物WをX線照射部11に近接させることにより、検出素子15aよりも小さな異物を拡大して検出することが可能となる。
【0043】
一方、時間遅延積分の演算に用いる遅延時間が高さ方向(Z方向)の異物の位置に適合していない検査画像は、画像中の異物がぼけた状態となり、異物検出精度を損なってしまう。
【0044】
したがって、拡大撮像の状態においては、拡大率αに応じてX線ラインセンサ15のスキャンレート(遅延時間の逆数)を増やす必要がある。また、時間遅延積分の演算に用いる遅延時間も変更する必要がある。
【0045】
ここで、被検査物Wの底面での拡大率αは、X線照射部11と被検査物Wの底面との距離をr'としたとき、α=R/r'の数式から求めることができる。また、被検査物Wの上面での拡大率αは、被検査物Wの高さをhとしたとき、α=R/(r'−h)の数式から求めることができる。
【0046】
また、異物の高さ方向(Z方向)におけるX線ラインセンサ15からの距離をzとしたとき、高さ方向(z方向)における拡大率分布α(z)は、α(z)=R/(R−z)の数式から求めることができる。また、高さ方向での速度分布v(z)は、v(z)=vα(z)の数式から求めることができる。
【0047】
したがって、検出対象の異物位置に適合するように時間遅延積分の遅延時間を設定することにより、拡大撮像の利点を保ったまま、異物を良好に検出できる。
【0048】
配管を流れる流体中の異物検出について説明する。
図4に示すように、配管5の中を流体である被検査物Wが移動する場合を検討する。この場合、被検査物Wの各部の移動速度(流速)は、非一様である。被検査物Wの移動速度は、流路の中央部において最大となり、配管5の内壁の近傍では流体の粘性によって0となる。このため、仮にX線が平行光であった場合でも、拡大撮像と同様の画像ボケの問題が生じる。
【0049】
被検査物Wの各部の移動速度は数式から求めることができる。一例として、移動速度の最大値をu(max)、配管の管路長をL、管路内最下部からの高さをs、直径を2aとしたとき、被検査物Wの速度分布u(s)は、u(s)=u(max)s(2a−s)/a^2の数式から求めることができる(^2は二乗を表す)。また、u(max)は、配管5内の圧力をPとしたとき、被検査物Wの粘性係数と流路圧力勾配(ΔP/ΔL)とから算出できる。前述の拡大撮像による影響は、配管5の中を被検査物Wが移動する場合にも及ぶ。
【0050】
速度分布について説明する。
図3に示すように搬送ベルト2aからなる搬送経路を固体の被検査物Wが移動する場合の異物の移動速度は、
図5(A)に示すように非一様であり、高さzが大きいほど速くなる。また、
図4に示すように配管5からなる搬送経路を流体の被検査物Wが移動する場合の異物の移動速度は、
図5(A)に示すように非一様であり、高さzが配管5の中央部の高さのときに最大となり、配管5の内壁の近傍で0となる。さらに、配管5内を流体の被検査物Wが移動する場合にも拡大撮像の影響が及ぶため、拡大撮像の影響を考慮した実際の異物の移動速度は、
図5(C)に示すように非一様の分布となり、
図5(B)と比較してより高い位置に最大値が存在している。なお、本実施例では配管5内の閉じられた流路を流体が移動する場合を例示しているが、流体が移動する流路は配管5に限定されるものではない。例えば、桶やU字溝のように開放部を有する流路を移動する流体や、空中を自由落下する液体のように周囲に流路を構成する壁面がない状態の流体も、空気との摩擦の有無により流体中の各部の移動速度が非一様であり、これらの流体を検査対象とする場合にも本発明は適用できる。
【0051】
遅延時間の簡略化の手法について説明する。複数の遅延時間を非一様の速度分布に適合するように設定する手法として、
図6に示すように、保持と加算の組み合わせ処理を用いることができる。時間遅延積分の演算前の検出データを保持し、基準となる既知の遅延時間(基準遅延時間t)後の検出データに加算することにより、基準となる既知の遅延時間(基準遅延時間t)を自然数倍した2t、3t等の遅延時間に相当する検出データを算出し、これらの検出データを実際の検査に用いることができる。この手法は、遅延時間が基準遅延時間の自然数倍に制限されるという制約があるが、デジタル値の検出データに対して保持と加算の組み合わせ処理を容易に行うことができ、フォトンカウンティング方式に好適である。
図6は、遅延時間が基準遅延時間tであるときの上段の検出データから2つの値を足し合わせして、遅延時間が2tの下段の検出データを得る場合を表している。
【0052】
複数の遅延時間の設定手法について説明する。上述したように基準遅延時間tを自然数倍(2t、3t、等)した遅延時間を設定する場合、基準遅延時間tとしてどのような値を用いるかにより、自然数倍後の遅延時間のうち実際に時間遅延積分の演算に使用可能な遅延時間が決定される。以下では、検出対象の異物の速度範囲がいずれも既知の最小速度Vminから最大速度Vmaxの間の範囲であり、VminおよびVmaxに適合する複数の遅延時間の設定手法を検討する。検出素子のピッチをD、自然数をnとするとき、対応可能な速度はv=D/ntであり、自然数nの逆数に比例する。また、自然数nの逆数は、n=1のとき(1/1)とn=2のとき(1/2)との間が特別に間隔が広い。そのため、
図7(A)に示すように、Vmax=D/tに設定することで使用可能な複数の遅延時間を無駄なく設定できる。一方、この場合、使用しない速度領域も広くなり、使用可能な遅延時間の個数が少なくなる。使用可能な遅延時間の個数が少ないと、画像ボケのない異物が表されたTDI画像の取得数が少なくなってしまう。
【0053】
そこで、
図7(B)に示すように、Vmax=D/2tに設定することで、VminとVmaxとの範囲内により多くの遅延時間を比較的均一間隔で設定することができる。なお、
図7(B)に示す例では、基準遅延時間tのときのTDI画像(D/tの画像)は、VminとVmaxとの範囲外のため使用しない。
【0054】
X線検査装置1による遅延時間設定動作について説明する。遅延時間設定動作は、複数の遅延時間の設定に用いる基準遅延時間を決定する動作である。
【0055】
図8において、制御回路36は、ステップS11で速度範囲を設定する。ここでは、制御回路36は、既知の最小速度Vminおよび最大速度Vmaxに基づいて速度範囲を指定する。最小速度Vminおよび最大速度Vmaxは、ユーザがタッチパネル35から入力した値または制御回路36が推定した値が用いられる。制御回路36は、拡大率α、被検査物Wの高さ、平均流速、圧力損失等に基づいて、最小速度Vminおよび最大速度Vmaxの推定値を演算することができる。制御回路36は、最小速度、最大速度およびその推定の基となる値について、被検査物Wの種類ごとに予め記憶されている値を用いることで推定を実施してもよい。
【0056】
次いで、制御回路36は、ステップS12で基準遅延時間を設定する。ここでは、制御回路36は、所定の計算式により基準遅延時間を設定する。
【0057】
X線検査装置1による測定動作について説明する。測定動作は、複数の遅延時間を設定し、その遅延時間を用いて時間遅延積分を実行し、検出データから検査対象の複数のTDI画像を演算する動作である。
【0058】
図8において、制御回路36は、ステップS21で基準遅延時間tにより測定を行う。次いで、制御回路36は、ステップS22で基準遅延時間tを自然数倍した遅延時間2t、3t、・・・を生成し、これらの遅延時間にそれぞれ応じた複数のTDI画像を生成する。ステップS22で作成されたTDI画像は異物の有無等の良否判定の対象として用いられ、判定結果がタッチパネル35に表示される。ステップS22で生成された複数のTDI画像は、使用した遅延時間に対応する位置の異物が鮮明に写された画像であり、複数のTDI画像ごとに鮮明度が異なっており、有利なTDI画像を用いて良否判定を行うことができる。また、遅延時間の数およびTDI画像の数は、装置構成による制約を受けないため、柔軟に変更することができる。
【0059】
以上説明したように、本実施例では、物品検査装置としてのX線検査装置1は、移動する流体からなる被検査物Wに電磁波を照射するX線照射部11と、被検査物Wの移動方向(X方向)に直交する主走査方向(Y方向)と移動方向とに配列された複数の検出素子15aにより被検査物Wの影響を受けたX線を検出するX線ラインセンサ15と、を備えている。そして、X線検査装置1は遅延時間設定部およびTDI画像生成部としての制御回路36を備えている。制御回路36は、所定の基準遅延時間tに基づいて複数の遅延時間を設定し、X線ラインセンサ15が検出した検出データを複数の遅延時間を用いて加算する時間遅延積分処理を実施し、複数の遅延時間に応じた複数のTDI画像を生成する。
【0060】
これにより、被検査物Wの高さ方向の複数の位置に対応するTDI画像を、X線の拡大による影響を回避して異物が鮮明に映った状態で取得できるので、検査精度を向上させることができる。また、複数の遅延時間を用いた時間遅延積分により複数のTDI画像を取得しており、X線出力画像をプリズム等により光学的に分割する必要がないため、時間遅延積分の演算に用いる遅延時間の値や数が制約されることを抑制できる。この結果、時間遅延積分の演算に用いる遅延時間が制約されることを抑制でき、検査精度を向上させることができる。
【0061】
また、本実施例において、遅延時間設定部としての制御回路36は、所定の基準遅延時間tを自然数倍(n倍)することにより複数の遅延時間を設定している。
【0062】
これにより、基準遅延時間から複数の遅延時間を算出する演算をデジタルデータ上で容易に行うことができる。
【0063】
また、本実施例では、X線検査装置1は、移動する流体からなる被検査物Wに電磁波を照射する照射ステップと、被検査物Wの移動方向に直交する主走査方向と移動方向とに配列された複数の検出素子により被検査物Wの影響を受けた電磁波を検出する検出ステップと、を実施する。そして、X線検査装置1は、制御回路36によって、所定の基準遅延時間に基づいて複数の遅延時間を設定する遅延時間設定ステップと、検出ステップで検出した検出データを複数の遅延時間を用いて加算する時間遅延積分処理を実施し、複数の遅延時間に応じた複数のTDI画像を生成するTDI画像生成ステップと、を実施する。
【0064】
これにより、被検査物Wの高さ方向の複数の位置に対応するTDI画像を、X線の拡大による影響を回避して異物が鮮明に映った状態で取得できるので、検査精度を向上させることができる。また、複数の遅延時間を用いた時間遅延積分により複数のTDI画像を取得しており、X線出力画像をプリズム等により光学的に分割する必要がないため、時間遅延積分の演算に用いる遅延時間の値や数が制約されることを抑制できる。この結果、時間遅延積分の演算に用いる遅延時間が制約されることを抑制でき、検査精度を向上させることができる。
【0065】
以上、最良の形態について説明したが、この形態による記述及び図面により本発明が限定されることはない。すなわち、この形態に基づいて当業者等によりなされる他の形態、実施例及び運用技術などはすべて本発明の範疇に含まれることは勿論である。