(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-157946(P2021-157946A)
(43)【公開日】2021年10月7日
(54)【発明の名称】プラズマ源の状態を検出する方法およびプラズマ源
(51)【国際特許分類】
H05H 1/46 20060101AFI20210910BHJP
H05H 1/00 20060101ALI20210910BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20210910BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20210910BHJP
【FI】
H05H1/46 L
H05H1/00 A
H01L21/302 101C
H01L21/31 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2020-56769(P2020-56769)
(22)【出願日】2020年3月26日
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】納富 隼人
(72)【発明者】
【氏名】天立 茂樹
【テーマコード(参考)】
2G084
5F004
5F045
【Fターム(参考)】
2G084AA01
2G084AA02
2G084AA05
2G084BB06
2G084CC04
2G084CC12
2G084CC13
2G084DD03
2G084DD13
2G084EE10
2G084FF33
2G084HH02
2G084HH05
2G084HH21
2G084HH22
2G084HH27
2G084HH31
2G084HH32
2G084HH43
2G084HH52
2G084HH56
5F004BB12
5F004BB13
5F004CA02
5F004CA03
5F004CA08
5F004CB05
5F004DA24
5F004DA25
5F045AA08
5F045AC15
5F045AE19
5F045EH02
5F045EH11
5F045EH12
5F045EH19
5F045EJ04
5F045EJ09
5F045GB08
(57)【要約】
【課題】プラズマがCCPからICPに変化したことをより正確に検出することができる方法およびプラズマ源を提供する。
【解決手段】誘導結合型のプラズマ源の状態を検出する方法において、前記プラズマ源は、直流電源回路と、インバータ回路と、共振回路と、放電部とを備え、前記方法は、前記放電部において容量結合プラズマを発生させるステップと、前記容量結合プラズマが発生した後に、前記直流電源回路の出力電力に対応する第1電力と、前記共振回路または前記放電部の少なくとも一方の少なくとも一部における電流の位相とを取得するステップと、前記位相を前記第1電力で微分した値が、増加から減少に転じた場合に、第1信号を出力するステップと、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導結合型のプラズマ源の状態を検出する方法であって、
前記プラズマ源は、直流電源回路と、インバータ回路と、共振回路と、放電部とを備え、
前記方法は、
前記放電部において容量結合プラズマを発生させるステップと、
前記容量結合プラズマが発生した後に、前記直流電源回路の出力電力に対応する第1電力と、前記共振回路または前記放電部の少なくとも一方の少なくとも一部における電流と電圧との位相差とを取得するステップと、
前記位相差を前記第1電力で微分した値が、増加から減少に転じた場合に、第1信号を出力するステップと、
を備える、方法。
【請求項2】
前記第1信号は、プラズマが前記容量結合プラズマから誘導結合プラズマに変化したことを表す信号である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記直流電源回路の出力端と前記インバータ回路の入力端とが接続され、
前記インバータ回路の出力端と前記共振回路の入力端とが接続され、
前記共振回路の出力端と前記放電部の入力端とが接続される、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
誘導結合型のプラズマ源であって、
前記プラズマ源は、直流電源回路と、インバータ回路と、共振回路と、放電部とを備え、
前記プラズマ源は、
前記放電部において容量結合プラズマを発生させ、
前記容量結合プラズマが発生した後に、前記直流電源回路の出力端における電力に対応する第1電力と、前記共振回路または前記放電部の少なくとも一方の少なくとも一部における電流と電圧との位相差とを取得し、
前記位相差を前記第1電力で微分した値が、増加から減少に転じた場合に、第1信号を出力する、
プラズマ源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ源の状態を検出する方法およびプラズマ源に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma、以下「ICP」)は、半導体装置の製造を含む様々な用途に用いられ、たとえば半導体装置の製造では、シリコンウェハに対するエッチング工程や、CVD法による膜の生成等に用いられる。特許文献1および2には、ICPを用いた半導体装置の製造技術が開示されている。
【0003】
ICPを発生させるプラズマ源(誘導結合型のプラズマ源)では、ICPを発生させるために、まず容量結合プラズマ(Capacitively Coupled Plasma、以下「CCP」)を発生させ、これをICPに変化させるものが知られている。この場合において、プラズマがCCPからICPに変化したことを検出することが重要となる。
【0004】
従来技術では、CCPからICPへの変化を検出する際に、プラズマからの発光を計測し、発光強度に基づいて確認していた。特許文献1および2でも、発光強度に基づく判定が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−343600号公報
【特許文献2】特開2008−198695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の技術では、プラズマがCCPからICPに変化したことを正確に検出するのが困難であるという課題があった。
【0007】
たとえば、特許文献1および2のように発光強度に基づいて判断する場合には、そもそもプラズマはCCPとして着火した場合に発光するので、CCPの発生と、CCPからICPへの変化とを区別して判断することが難しい。一般的にICPのほうが明るく、発光強度も大きいことがわかっているが、正確に判定できる閾値を設定することは困難である。
【0008】
また、CCPおよびICPの発光強度は、プラズマを構成するガスの種類によって変化するので、各種のガスに共通して使用できる閾値を設定するのは困難であり、単一の閾値が有効に機能する条件は限定的である。
【0009】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、プラズマがCCPからICPに変化したことをより正確に検出することができる方法およびプラズマ源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る方法の一例は、
誘導結合型のプラズマ源の状態を検出する方法であって、
前記プラズマ源は、直流電源回路と、インバータ回路と、共振回路と、放電部とを備え、
前記方法は、
前記放電部において容量結合プラズマを発生させるステップと、
前記容量結合プラズマが発生した後に、前記直流電源回路の出力電力に対応する第1電力と、前記共振回路または前記放電部の少なくとも一方の少なくとも一部における電流と電圧との位相差とを取得するステップと、
前記位相差を前記第1電力で微分した値が、増加から減少に転じた場合に、第1信号を出力するステップと、
を備える。
【0011】
一例では、前記第1信号は、プラズマが前記容量結合プラズマから誘導結合プラズマに変化したことを表す信号である。
【0012】
一例では、前記直流電源回路の出力端と前記インバータ回路の入力端とが接続され、
前記インバータ回路の出力端と前記共振回路の入力端とが接続され、
前記共振回路の出力端と前記放電部の入力端とが接続される。
【0013】
本発明に係るプラズマ源の一例は、
誘導結合型のプラズマ源であって、
前記プラズマ源は、直流電源回路と、インバータ回路と、共振回路と、放電部とを備え、
前記プラズマ源は、
前記放電部において容量結合プラズマを発生させ、
前記容量結合プラズマが発生した後に、前記直流電源回路の出力端における電力に対応する第1電力と、前記共振回路または前記放電部の少なくとも一方の少なくとも一部における電流と電圧との位相差とを取得し、
前記位相差を前記第1電力で微分した値が、増加から減少に転じた場合に、第1信号を出力する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る、プラズマ源の状態を検出する方法およびプラズマ源によれば、プラズマがCCPからICPに変化したことをより正確に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態1に係るプラズマ源の構成の例を示す図。
【
図2】実施形態1において測定される電力と電流の位相との関係を示すグラフ。
【
図3】実施形態1に係るプラズマ源の状態を検出する方法のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0017】
実施形態1.
図1に、実施形態1に係るプラズマ源10の構成の例を示す。プラズマ源10は誘導結合型のプラズマ源である。実施形態1では、プラズマ源10における電力の増加に対する電流と電圧との位相差の変化に応じて検出を行う。
【0018】
プラズマ源10は、直流電源回路20と、インバータ回路30と、共振回路40と、放電部50と、制御手段60とを備える。
【0019】
直流電源回路20、インバータ回路30、共振回路40および放電部50は、この順に接続される。すなわち、直流電源回路20の出力端とインバータ回路30の入力端とが接続され、インバータ回路30の出力端と共振回路40の入力端とが接続され、共振回路40の出力端と放電部50の入力端とが接続される。
【0020】
直流電源回路20は直流電圧を供給する。インバータ回路30は直流電圧を交流電圧に変換する。交流電圧の周波数はたとえばRF周波数であり、より具体的な例としては2MHzまたは約2MHzである。
【0021】
共振回路40は交流電圧を利用して共振現象を起こし、共振した電圧を放電部50に供給する。本実施形態では、共振回路40はLC回路部41およびコンデンサ42を備え、コンデンサ42はLC回路部41に対して放電部50と並列に接続される。なお、共振回路40の構成は図示のものに限らない。
【0022】
放電部50は、放電管(とくに図示しない)とアンテナ51とを備える。
放電管は、たとえば誘電体(絶縁体)で形成された円筒面状の放電容器であり、その内部でプラズマが生成される。アンテナ51は、放電管を取り囲むようにコイル状に形成される導電体であり、共振回路40に接続される。
図1では放電部50においてアンテナ51に直列接続した抵抗52を図示しているが、この抵抗52は、無負荷時のコイルの抵抗値である。
【0023】
なお、アンテナ51の形状はコイル状に限定されない。また、アンテナ51は、放電管を冷却するために、パイプ形状で内部に水等の冷媒を流すようにしてもよい。また、アンテナ51は必ずしも放電管を取り囲むように形成される必要は無く、放電管を形成する誘電体(絶縁体)の内部に形成するようにしてもよい。
【0024】
放電部50は、供給される電圧を用いてプラズマを発生させる。たとえば、放電容器内にガスを流通させた状態でアンテナ51に交流電圧が印加されると、アンテナ51のコイルの端子間電圧によってガスが電離され、プラズマが生成される。これは、コイルの端子間の電界によって結合しているプラズマであり、すなわちCCPである。
【0025】
CCPが発生している状態で、アンテナ51に印加する電圧をさらに増大させると、コイルの周囲に磁場が形成されて誘導電界が発生し、それによりICPが発生する。ICPは、半導体装置の製造等に用いられるプラズマであり、用途に応じて維持および管理される。
【0026】
制御手段60は、プラズマ源10の動作を制御する。たとえば、制御手段60は、ドライバーアンプ70を介して直流電源回路20に接続され、ドライバーアンプ80を介してインバータ回路30に接続される。
【0027】
制御手段60は、直流電源回路20の状態を表す測定信号(たとえば電圧信号C1および電流信号C2)を取得し、これに応じてプラズマ源10を制御する。プラズマ源10の制御は、たとえば直流電源回路20に制御信号C3を送信し、インバータ回路30に制御信号C4を送信することによって行われる。
【0028】
また、制御手段60は、プラズマ源10の回路における電圧および電流を取得することができる。このためにプラズマ源10は測定手段を備える。実施形態1では測定手段はVIセンサ90であり、インバータ回路30と共振回路40との間に配置される。制御手段60は、VIセンサ90から測定信号C5を受信することによって電圧および電流を取得する。なお、
図1におけるVIセンサ90の位置は一例であり、電圧および電流を測定すべき回路部分に応じて適切な位置に変更することができる。
【0029】
直流電源回路20、制御手段60、ドライバーアンプ70およびドライバーアンプ80には、図示しない電源が接続され、これらに電力を供給する。
【0030】
図2は、プラズマ源10を用いてICPを発生させた場合に、各部で測定される電力と、電流と電圧との位相差との関係を示すグラフである。横軸は、図略の電力測定手段で測定した直流電源回路20の出力端における電力[W]を表す。左側の縦軸は、VIセンサ90によって測定される電流と電圧との位相差[度]を表す。右側の縦軸は、位相差の微分値である。
【0031】
図2において、■記号は電流と電圧との位相差[度]を示し、×記号は電流と電圧との位相差[度]を電力で微分した値を示す。
【0032】
実施形態1では、放電容器内のガスとして、水素と窒素を混合したものを供給した。水素および窒素の流量はいずれも1000sccmとし、ガスの気圧は合計87Paとした。
【0033】
電力が低い範囲(大まかに1800W程度以下)は、プラズマが発生していない無負荷の状態およびCCPが発生している状態に対応する。この範囲では、電力の増加に対して電流は単調に増加し、電圧は単調に減少する。
【0034】
電力が約1800W(破線で示す)に達すると、プラズマがCCPからICPに変化する。
図2のグラフでは、電力が約1800W(破線)を超えると、電流と電圧との位相差[度]の微分値が増加から減少に転じている。このように、プラズマがCCPからICPに変化する点の電力と、位相差の微分値が増加から減少に転じる点(位相差の変曲点)の電力とはよく一致している。
【0035】
図3は、実施形態1に係るプラズマ源の状態を検出する方法のフローチャートである。プラズマ源10は、この方法を実行することによりプラズマ源10の状態を検出する。プラズマ源10の状態は、たとえばプラズマ源10によって発生するプラズマの状態を含む。プラズマの状態は、たとえばプラズマがCCPであるかICPであるかを表す。プラズマ源10の放電容器にガスを流通させた状態で、
図3の方法が開始される。
【0036】
まず、プラズマ源10の放電部50に電圧を印加し、これによって、放電部50においてCCPを発生させる(ステップS1)。CCPが発生した後、制御手段60は、プラズマ源10に係る電力(第1電力)と、電流と電圧との位相差とを測定して取得する(ステップS2)。
【0037】
図1の例では、この測定はVIセンサ90を介して行われる。すなわち、制御手段60は、インバータ回路30および共振回路40の接続点における電力と、当該接続点に流れる電流と電圧との位相差とを測定する。
【0038】
ここで、VIセンサ90が測定する電力に基づいて直流電源回路20の出力電力を算出することができるので、VIセンサ90が測定する電力(第1電力)は直流電源回路20の出力電力に対応する電力であるということができる。
【0039】
ステップS2で取得される第1電力および電流と電圧との位相差の測定方法は、
図1に示すVIセンサ90を用いる方法に限らない。たとえば電力は、直流電源回路20の出力電力に換算できる電力であれば等価であり、たとえば直流電源回路20の出力電力そのものを直接的に測定した値であってもよいし、インバータ回路30の入力端における電力を測定した値であってもよいし、インバータ回路30の出力端における電力を測定した値であってもよいし、共振回路40の入力端における電力を測定した値であってもよいし、共振回路40の出力端における電力を測定した値であってもよいし、放電部50の入力端における電力を測定した値であってもよい。
【0040】
また、電流と電圧との位相差は、共振回路40または放電部50の少なくとも一方の少なくとも一部における位相差であればよい。たとえば共振回路40の入力端および出力端の間における位相差を測定した値であってもよいし、コンデンサ42における位相差を測定した値であってもよいし、放電部50における位相差を測定した値であってもよい。どの部分の位相差を用いても、本実施形態の判定方法は適切に機能する。
【0041】
ステップS2の後、制御手段60は、電流と電圧との位相差を、ステップS2で取得される第1電力で微分した値(微分値)を取得し、この微分値が、増加から減少に転じたか否かを判定する(ステップS3)。たとえば、制御手段60は、電力が増加するように直流電源回路20を制御しつつ、位相差の挙動を監視してもよい。
【0042】
微分値は、微分係数または導関数とも呼ばれる。微分値の具体的な取得方法は、当業者が公知技術に基づき適宜設計可能であるが、たとえば、第1電力がある値Pから別の値P+ΔPに増加したときに、位相差がある値Cから別の値C+ΔCに変化した場合には、ΔC/ΔPを位相差の微分値として算出することができる。別の例として、公知の微分器または微分回路を用いてもよい。
【0043】
位相差の微分値が、増加から減少に転じていない場合(たとえば、微分値が増加することなく減少している場合、微分値が増加し続けている場合、等)には、ステップS2およびS3が繰り返される。たとえば、制御手段60は、ステップS2およびS3を実行する都度、電力を増加させる。
【0044】
一方、位相差の微分値が増加から減少に転じた場合には、制御手段60はこれを表す信号(第1信号)を出力する(ステップS4)。これは、プラズマがCCPからICPに変化したと判定することに対応する。すなわち、第1信号は、プラズマがCCPからICPに変化したことを表す信号であるといえる。
【0045】
実施形態1では、この判定に発光強度を用いないので、従来技術より正確に判定を行うことができる。とくに、この方法は発光強度に依存しないので、発光強度が異なる様々な種類のガスに適用することが可能であり、また、ガスの圧力が異なる場合にも適用することが可能である。なお、変形例として、判定に発光強度を併用することも可能である。
【0046】
第1信号の内容、形式、出力態様および利用方法は、当業者が適宜設計可能である。たとえば、制御手段60には表示装置が接続されていてもよく、その表示装置に第1信号が出力されたことを示す情報が表示されてもよい。情報の具体例としては、プラズマの状態がCCPからICPに変化したことを示すメッセージまたは画像とすることができる。
【0047】
また、たとえば、制御手段60は、第1信号の出力に応じて特定の処理の実行を開始してもよい。より具体的な例としては、タイマーを起動してもよい。このタイマーの値は、ICPが発生してからの経過時間を示す値として利用することができる。
【0048】
以上説明するように、実施形態1に係るプラズマ源10および
図3に示す方法によれば、プラズマがCCPからICPに変化したことをより正確に検出できる。
【符号の説明】
【0049】
10…プラズマ源
20…直流電源回路
30…インバータ回路
40…共振回路
41…LC回路部
42…コンデンサ
50…放電部
51…アンテナ
52…抵抗
60…制御手段
70,80…ドライバーアンプ
90…VIセンサ