【実施例】
【0021】
以下に、実施例を掲げて本発明を具体的に説明するが、この発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1[BAK細胞活性を高めたリンパ球の製造]
(材料)BAK細胞活性を高めたリンパ球の製造には、以下の材料を使用した。OKT3クローン(オルト
ファーマシュチカル、アメリカ)から精製された抗CD3モノクローナル抗体は、ヤンセン協和(東京)から購入したものを、遺伝子組換え大腸菌で製造したヒトIL−2(rhIL−2)は塩野義製薬(東京)から購入したものを、ヒト天然IFN−αは、住友製薬(大阪)から購入したものを、それぞれ用いた。
【0022】
(BAK細胞活性を高めたリンパ球の調製法)
複数の進行性癌患者から採取した末梢血20mlをヘパリン処理した後、フィコール−パーク密度勾配遠心分離(350×g、25分)して、中間に層状になったリンパ球を含む末梢血単核細胞(PBMC)画分を分取した。得られたPBMC3〜5×10
7個を、rhIL−2を700単位/mlで含む30mlの無血清完全人工培地であるSALY713培地(セルサイエンス社製)に加えた後、抗CD3抗体で被覆された225cm
2培養フラスコ中で一晩インキュベートした。次いで、30mlのPBMCを上記フラスコに添加し、CO
2雰囲気下37℃で2日間培養し、さらにSALY713培地を60ml加え、さらに1〜2日培養した。無血清SALY713培地での細胞増殖能、並びにCD56 陽性細胞数の割合は、前述無血清ALyS505 N培地での値と比較して、より良好であった(
図1を参照)。
【0023】
培養物を3つのフラスコに分け非接着性細胞を2〜3日培養した。175単位/mlのIL−2とSALY713培地1リットルを含むガス透過性のバッグに移し、2〜3日間培養して2つのバッグに分け、これをさらに2〜3日間培養して4つのバッグに分けた。殺菌試験とエンドトキシンアッセイを行い問題の無いことを確認した後、1000単位/mlのIL−2と1000単位/mlのIFN−αを含むSALY713培地中で15分間活性化処理を行った。0.1%のヒトアルブミンを含む生理食塩水中で遠心分離することによって2回洗浄し、IL−2及びIFN−αを除去し、得られた0.5〜1.0×10
10のリンパ球を2.5%のヒトアルブミンを含む生理食塩水200mlを含む輸液バッグに入れた。この0.5〜1.0×10
10のリンパ球が、1回のBAK細胞療法において1時間かけて静脈に点滴投与される量である。
【0024】
実施例2[活性化処理の条件]
(試料の調製)IL−2とIFN−αを用いた活性化処理条件(IFN−α濃度、処理時間)について検討した。固相化抗CD3抗体処理に続くIL−2存在下での2週間の培養・増殖後のPBMCを、1000単位/mlのIL−2と、1000単位/ml又は2000単位/mlのIFN−αで、15分間又は30分間活性化処理を行い、得られた6種類のBAKを含むリンパ球をエフェクター細胞とし、ダウディ細胞を標的細胞とする細胞障害活性について調べた。なお、対照としては、IL−2とIFN−αを添加することなく、15分間インキュベーションしたものを用いた。なお、実施例2で用いたBAKを含むリンパ球は、オリジナルの特許申請時に記述したとおり、10%のヒト血清を含むRPMI1640培地で培養したものである。
【0025】
(細胞障害活性の測定)
上記活性化処理により得られたエフェクター細胞(2×10
6)を、10%のヒト血清を含むRPMI1640培地1mlを入れた24ウェルの平底プレートでインキュベートした。37℃で24時間インキュベートした後、エフェクター細胞をRPMI1640培地で3回洗浄した後、10%子牛血清(FBS)を含むRPMI1640培地に再懸濁した。一方、標的細胞であるダウディ細胞を、0.5mlのクロム酸ナトリウム(Cr
56、比活性5mCi/ml;ICN, CostaMesa, CA)を用い37℃で90分間で標識し、10%子牛血清を含むRPMI1640培地で3回洗い、新しい培地に再懸濁し、1×10
4/ウェルのエフェクター細胞が予め加えられている96ウェルU底プレート(ベクトンディッキンソンラボ社製)に所定の標的細胞濃度となるように加えた。96ウェルU底プレートを50×gで遠心分離し、上澄を各ウェルから回収しスペクトルガンマカウンター(Packard
Instrument, Downers Grove, IL)で、標的細胞から放出される放射性物質の量[測定放出値(cpm)]を測定した。また、標的細胞に取り込まれた全放射性物質の量[最大放出値(cpm)]は標的細胞を3%トリトンX−100(シグマ社製)でインキュベートした後に測定した。そして、放射性物質測定環境下における放射性物質の検出量をバックグラウンド(cpm)とし、前記比放出率(%)の式(数1)より算出した比放出率が30%となる標的細胞数を求め、その値を1×10
7のエフェクター細胞当たりの殺傷標的細胞数に換算、すなわち1000倍して溶解ユニット値とした。結果を
図2に示す。
【0026】
図2から明らかなように、1000単位/mlのIL−2と1000単位/mlのIFN−αとを用いて15分間活性化処理したもの、及び、1000単位/mlのIL−2と2000単位/mlのIFN−αとを用いて15分間活性化処理したものは、溶解ユニットが、それぞれ180程度及び200以上であり、極めて高いことがわかった。一方、1000単位/mlのIL−2と1000単位/ml又は2000単位/mlのIFN−αとを用いて30分間活性化処理したものは、1000単位/mlのIL−2のみを用いて15分間又は30分間活性化処理したものと同程度の細胞障害活性を示し、同濃度で15分間活性化処理したものに比べて細胞障害活性が低かった。
【0027】
実施例3[リンパ球の培養・増殖特性及び性状]
(材料)NK細胞、αβT細胞、γδT細胞、CD56陽性細胞を定量するために、それぞれフルオレセインイソチオシアネート(FITC)で標識したFITC抗CD16モノクローナル抗体、FITC抗TCRαβモノクローナル抗体、FITC抗TCRγδモノクローナル抗体、フィコエリトリン(PE)で標識したPE抗CD56モノクローナル抗体を用い、これらモノクローナル抗体はベクトンディッキンソン(マウンテンビュー、カリホルニア)から購入した。また、細胞内サイトカイン分析のためのペリジニン−クロロフィル蛋白標識化抗CD3抗体及びPE標識化抗IFN−γモノクローナル抗体もベクトンディッキンソンから購入した。
【0028】
(フローサイトメトリー)
細胞の一定量を氷上で30分間適量のFITC又はPEで標識したモノクローナル抗体で染色した。細胞を非標識化モノクローナル抗体と30分間氷上でインキュベートし、冷たいRPMI1640で洗浄し、それからFITC結合をしたヤギF(ab′)
2抗マウス免疫グロブリン抗体又は抗ラット免疫グロブリン抗体(Cappel, Durham, NC)を用いて染色した。染色したこれらの細胞を2回洗浄し、0.5mlの冷たいRPMIに再度懸濁し、FACScanフローサイトメーター(ベクトンディッキンソン社製)により分析した。イソタイプ適合モノクローナル抗体をネガティブコントロールとして用いた。IFN−γ生産性γδT細胞は非特許文献6に記載した方法と同様フローサイトメトリー法(Flow cytometry)により測定した。
【0029】
(CD56陽性細胞とCD56陰性細胞の単離)
末梢血単核細胞(PBMC)から、CD56陽性及びCD56陰性リンパ球を、マイクロビーズ(Miltenyi Biotech Inc社製)を用いたガイセルハルトらの方法(Geiselhart
et al. Natural Immunity 15, 227-33, 1996)により単離した。簡単に説明すれば、フィコール−パーク(Ficoll-Paque)密度勾配遠心分離法により末梢血からPBMCを分離し、得られたPBMC中のCD56陽性細胞を、抗CD56抗体と結合した磁気マイクロビーズで被覆し、磁気カラムを用いて陽性的に選択し溶出した。また、CD56陰性細胞は磁気的に消費されそのままの細胞として分離された。これらのCD56陽性細胞及びCD56陰性細胞の純度は、FACS(fluorescence activated cell sorter:蛍光活性化セルソーター)分析によりそれぞれ98%であることがわかった。
【0030】
(IL−2存在下2週間の培養によるCD56陽性細胞等の増加)
後記する表3に示される癌患者3名から末梢血を数ヶ月にわたり複数回採取し、IL−2存在下2週間培養する実施例1記載の方法(ただし、オリジナルの特許申請時に記述した、10%ヒト血清を含むRPMI1640培地で培養したもの)で活性化されたキラー細胞を含むリンパ球を調製した。そして、培養の前後におけるNK細胞、γδT細胞、CD56陽性細胞の増加について調べた。結果を
図3に示す。
図3に示されるように、患者番号1においては、γδT細胞とCD16陽性細胞の両細胞数が培養によって増加し、患者番号10においては、γδT細胞の数が増加し、患者番号8においては、CD16陽性細胞の数が増加することの他、CD56陽性細胞の数は全ての患者において増加することや、BAK細胞の主な集団(ポピュレーション)はCD56陽性γδT細胞、CD56陽性NK細胞等のCD56陽性細胞からなることがわかった。
【0031】
また、実施例1におけるIL−2存在下の2週間の培養時における単球共存の細胞障害活性やCD56陽性細胞数に及ぼす影響について調べた。単球非共存下での培養とするために、培養器内壁に付着した細胞を除去した状態で培養する以外は、単球共存下の培養である実施例1と同様に行った。また、細胞障害活性はダウディ細胞に加えてK−562細胞を用いる以外は実施例2と同様に行った。結果を表1に示す。表1から、末梢血リンパ球中のCD56陽性細胞を増殖するためには、培養する際に単球を共存させることが好ましいことや、BAK細胞を付着性単球の非共存下で培養すると、K−562細胞(NK細胞の標的細胞)及びダウディ細胞に対する細胞障害活性は増加しないことがわかった。
【0032】
【表1】
【0033】
(β−エンドルフィンの分泌に関する新しい知見)
また、
図3からわかるように、BAK細胞は培養前約20%のCD56陽性細胞を含有するが、2週間培養するとCD56陽性細胞は約50%に増加し、BAK細胞の多くはCD56陽性細胞であることがわかった。また、非特許文献6において、CD56陽性(CD56
+)細胞はCD56陰性(CD56
-)細胞よりも強い細胞障害活性を有することを報告した。他方、β−エンドルフィンはNK細胞活性を増進し、NK細胞及びヒト末梢血リンパ球によるIFN−γの生産を増進する。そこで、CD56陽性細胞がβ−エンドルフィンを産生するかどうかについて調べた。
【0034】
(β−エンドルフィンの分析法)
リンパ球の培養上澄中のβ−エンドルフィンは、ラジオイムノアッセイ(RIA;INCSTAR Corp. 社製)により分析した。培養上澄をウサギ抗β−エンドルフィン血清と16〜24時間4℃でインキュベートした。[
125I]でラベルしたβ−エンドルフィンを加え、さらに16〜24時間4℃でインキュベートした。相分離はヤギ抗ウサギ抗体の事前沈殿複合体で20分間4℃にて行った。その溶液を760×gで20分遠心分離し、その上澄を捨て、それぞれの試験管中の沈殿物をガンマシンチレーションカウンターで測定した。このβ−エンドルフィン抗体の交差−反応活性はヒトβ−エンドルフィン中で100%であり、エンケファリン(enkephalin)、ACTH及びバソプレッシン中では0.01%以下であった。
【0035】
(CD56陽性細胞のβ−エンドルフィンの産生)
CD56陽性細胞及びCD56陰性細胞は、前記マイクロビーズ法によって末梢血単核細胞(PBMC)から単離した。次いで、2.5mlの10
6細胞をRPMI1640培地中で血清を添加せずに16時間培養した培養上澄におけるβ−エンドルフィンを、前記β−エンドルフィンの分析法により測定した。結果を表2に示す。表2に示されるように、CD56陽性細胞だけが8pg/mlのβ−エンドルフィンを産生した。この産生量は、10
9個のCD56陽性細胞の場合、20ngのβ−エンドルフィンが生産されることに相当する。通常のヒトの血漿中のβ−エンドルフィンは5.8±1.1pg/mlであり、本発明のBAK細胞療法に用いられるBAK細胞によって生産されるβ−エンドルフィンは20ngとなるので、生体にとって有意の量といえる。
【0036】
【表2】
【0037】
上記のように、CD56陽性細胞とCD56陰性細胞と比較した結果、CD56陽性細胞のみがβ−エンドルフィンを産生することを初めて明らかにした。CD56陽性細胞はその細胞膜表面にNCAMをもち、脳ホルモンのβ−エンドルフィンを産生することから、神経−免疫−エンドクリン(neuro-immune-endocrine:NIE)系に直接的に関与する、多機能的NIE細胞であると考えられる。かかるCD56陽性細胞が多機能NIE細胞であることはこれまで全く知られていなかった。このように、CD56陽性細胞によるβ−エンドルフィンの生産はBAK細胞療法によって誘起される一連の抗癌反応に重要な役割を果たしていると考えられる。他方、β−エンドルフィンは非常に重要な鎮痛・鎮静作用を示す。したがって、BAK細胞療法を始めて2〜3週間後に患者が満足すべきQOLを報告したのはこれが理由であると推察される。
【0038】
実施例4[臨床試験]
本発明のBAK細胞活性を高めた自己リンパ球を用いたBAK細胞療法を施した患者は、余命が数ヶ月と予測される化学治療を拒否した13人の進行性癌患者、及び手術を受けた後の転移の防止を希望した4人の患者である。非特許文献6において、IFN−γ生産性のγδT細胞の割合が1%以下の進行癌患者はBAK細胞治療の対象にならないことから、全ての患者のIFN−γ生産性のγδT細胞の割合が1%以上であることかどうかを確認した。表3に、患者の性別、年齢、原発病巣、転移病巣、IFN−γ生産性のγδT細胞の割合を示した。
【0039】
【表3】
【0040】
インフォームドコンセントを与えてから、通院によるBAK細胞治療の対象とした。平均6×10
9の本発明のBAK細胞を1時間かけて月1回又は2週間に1回点滴注射した。BAK細胞治療の結果を表4に示す。全ての患者の行動状態(performance status)はカルノフスキー指標で80%以上であった。また表4に示されているように、2週間培養することによって患者17人全てのPBMC中のCD56陽性細胞数が増加することがわかった。BAK細胞治療の間中、癌マーカーとしての免疫抑制性酸性蛋白(IAP)及びQOLマーカーとしてフェーススケールを測定し記録した(
図4)。表4及び
図5に示されるように、たとえ癌マーカー蛋白(IAP)が増加した場合でも、全ての患者のQOLは満足な状態であるか改善された。番号1の患者の場合、
図3に示されるように、培養によってγδT細胞及びNK細胞(CD16陽性細胞)の数が増加した。肺への転移癌の大きさは像分析の結果3年間変化せず、患者の全体的状況は大変良好であった(
図3)。番号10の患者の場合、
図3に示されるように、培養によってγδT細胞及びCD56陽性細胞の数が増加した。番号5の患者は硬性胃癌に冒されていたが2週間に一度飛行機で札幌から通院することができた。このことは、全般的に良好なQOLが17月以上維持できたことを示している(
図5)。この患者は免疫療法の開始した後18月後、手術した後30月後に死亡したが、死亡の1月前まで多くの好きな活動に参加していた。
図5に示すように、BAK細胞治療が細菌汚染のためできなくなった7月、番号5の患者の雰囲気は悪くなった。番号8の患者の場合、
図3に示されるように、培養によってNK細胞(CD16陽性細胞)及びCD56陽性細胞の数が増加した。番号8の患者は手術不可能な肺癌にかかっていたが、BAK細胞治療を始めてからCT像分析によれば癌が消失した。
【0041】
【表4】
【0042】
17人全ての患者の行動状態はカルノフスキーの指標で80%以上であり、彼等は2週間に1回の割合で通院した。番号1〜7及び9〜13の患者の場合、原発性癌が除去されたにも拘わらず、多くの手術不可能な転移癌があった。これらの患者は2〜3月しか生存出来ないと判断される状態であったが、16月以上に亘ってBAK細胞治療を受けた。これは、BAK細胞治療が進行癌患者に対し副作用の無い延命効果があることを意味する。これら番号1〜7及び9〜13の患者の場合、症像分析(CT及び/又はMRI)によれば、癌の大きさは変化しなかった。したがって、これらの患者に対するBAK細胞療法は、従来の化学療法で用いられる基準からすれば効果なしと判定される。しかし、これらの患者の行動状態(performance status)は、カルノフスキー指標によれば80%以上であり、彼等のQOL指数は10段階のフェーススケールを使った評価によれば維持されたか改善された。
【0043】
そこで、以下の新しい判定基準を導入することにした。従来の固形癌の化学療法による効果判定では病巣像が消失し、4週間以上持続した場合を「著効」(CR)、病巣面積が50%以上の縮小が4週間以上持続した場合を「有効」(PR)、病巣面積が50%未満縮小、又は25%以内増大が4週間以上持続した場合を「不変」(NC)、病巣面積が25%以上増大した場合を「進行」(PD)としており、画像上腫瘍の大きさが不変であれば治療の効果がないとされてきた。しかし、癌組織が存在しても副作用がなく、QOLが良好な状態に維持されているならば患者にとって問題がないことから、免疫療法では癌組織を無理矢理殺傷することはしないため、BAK細胞治療の効果判定基準として新しくPRとNCの間に病巣面積が50%未満縮小、又は25%以内増大が6ヶ月以上続く場合として「長期不変」(prolonged NC)を加えた。この判定基準を加えた番号1〜13の患者の固形癌治療効果の判定結果を表4に示す。病巣の画像が消失した番号8及び番号13の患者につきCRの例が2例、番号1〜7及び12の患者につきprolonged NCの例が8例となり、BAK細胞治療の効果がより一層明確となった。また、番号14〜17の手術後の転移予防のためにBAK細胞治療を行った4名の患者については、癌転移の無い期間がそれぞれ46、37、31及び18月続いた。このことは、BAK細胞治療が癌転移予防効果を有することを意味する。
【0044】
図6のヒト免疫抑制性酸性蛋白質(IAP)はヒト血清α1−酸性糖蛋白質の一つであり、癌マーカー蛋白質である。IAPの血清濃度はヤギ抗ヒトIAP血清抗体を用いる単一放射免疫拡散法により測定した。精製されたIAPを用いた検量線は30μg/mlと1500μg/mlの間で直線であった。また、表4及び
図5中のフェーススケールとは、
図4に示されるように、異なったムードを表す順番に並べた10枚の絵である。目、眉毛、及び口の微妙な変化が少しずつ違ったムードを表している。その顔はムードが悪い順に1〜10の番号が付されており、1が最も良いムードであり、10は最も良くないムードである。試験官がこれらの顔を指差して患者に「これらの顔は最初の大変幸福なものから最後の大変悲しいものまであります。今日のあなたの気持ちを最も良く表している顔を指差してください。」といって患者に指差すものをムードとして採用する。
【0045】
実施例4[バイオマーカーとしてのα1AGの採用]
オリジナルの特許申請時に、バイオマーカーとしてIAP を使用したことは、上述のとおりである。しかしながらこのIAP は、がん細胞増殖の抑制活性を指標として血清成分から精製されたものであり、研究段階に留まるものであった。そして特許申請後に、IAP 抗体を作成していた企業が解散したことにより、IAP 抗体の供給が止まり、IAP 量を測定することが不可能となった。幸い、
図6に示すように、IAP はα1AGの1成分であり、抗α1AG抗体は永続的に市販され、入手が可能である。また、α1AGについては、肝臓で産生されること、組織の損傷や炎症により誘導されること、免疫機能の低下や栄養状態の悪化時、さらにがん病態に伴って増加することなどが知られている(Biotherapy 23, 206-210, 2009)。よってα1AGは、生体の一般上体を反映するバイオマーカーとして有用であると考えられた。そこで、肺がん患者113名について、BAK 療法の効果を、α1AG値を指標にモニターした。結果を
図7に示す。肺がんはオリジナルの特許申請時から平成30年1月までにBAK 療法を受けた113名であるが、全例が、ステージIIIかIVと診断された進行がん〜末期がんに相当する。BAK 療法を開始してから生存を維持、または死去に至るまで、追跡可能であった例のみを扱っている。
図7の生存曲線では、BAK療法開始時の採血検体におけるα1AG値で、患者を2群に分けてプロットしてある。ヒトの正常α1AG値は63mg/ml、偏差が13であるので、63+16x2=96 をカットオフ値とした。α1AGが96未満の患者(71名)のグループでは、平均生存期間は54.3月であった。α1AGが96未満の患者(71名)の2年後の生存率は65%であり、進行肺がん(ステージIII , IV )の標準治療による2年後の生存率とされる10〜20%に比べて、かなりの好成績と言える。それに対し、α1AGが96以上の患者(42名)のグループでは、平均生存期間は7.2月であった。このように、BAK 療法開始時のα1AG値は、治療の予後をある程度は推測できる良いバイオマーカーと言える。
【0046】
実施例5
[広汎な臨床応用の結果]
上では、進行〜末期にある肺がん症例、113名について、BAK療法の効果を検討した。次に、肺がんを含む種々の組織由来の固形がんについても、同様にBAK
療法の効果を検討した(表5を参照)。α1AGが96以上の患者群(152名)では、平均生存期間は11.0月であった。それに対しα1AGが96未満の患者群(341名)では、平均生存期間は62.3月と、満5年以上であった。341名のがんの内訳は、表に示してある通りである。唯一、膵がんにおける延命月だけ21.6月と低いのであるが、膵臓以外のがんは表5にある全てのタイプで、約50月以上の延命が得られている。特に、乳がん・前立腺がん・子宮がん・食道がん(以上は、それぞれが11名から47名の患者数)では80月以上の延命、腎細胞がん・黒色腫では(以上は、患者数がそれぞれ9名・3名と少ないながら)90月以上の延命が見られた。
【表5】
【0047】
実施例6
[α1AGとQOL]
表6で実施されたBAK 療法の患者については、QOLを評価すべく、フェイススケールを申告していただいた。方法は上述のとおりである。結果は表6に示す通りで、全固形がんでも、肺がんでも、α1AGが96未満の患者群で特に、フェイス・スケールの得点が優位に低値であった、即ち、QOL が保たれているとの結果が得られた。
【表6】