【解決手段】この発明において、賦形剤として加熱処理した米麹を添加したホップ含有サプリメントを作成した。下記の実験例では、これらのホップに含まれている有効成分を定量し、米麹を配合した錠剤サプリメントの造粒や賦形剤添加等の条件によって有効成分が変化するかどうかを分析し、サプリメントとしてホップ錠剤の有用性を明らかにすることを目的とする。
さらに、米麹による生理機能や有効成分の化学的変化を解析することで、錠剤の造粒技術により機能性を高められるかどうかを追求し、ホップのサプリメントとしての活用性を高め、新商品を開発することを目指した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ホップ球花粉末は様々な生理機能を持ち健康食品素材として利用価値が高いが、強い苦味を有することから、サプリメントとして用いるために錠剤化することが有効である。錠剤を造粒するにあたっては、通常、乳糖やデンプン(小麦由来、トウモロコシ由来)、デキストリン、白糖などが賦形剤として用いられる。これらには原材料である植物由来の物質によるアレルギー性や有効成分との相互作用などの問題が発生する可能性があった。
【0005】
この発明は、アレルギー性などの問題で摂取できなかった場合などの改善に有用であるホップ含有サプリメントを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明にかかるホップ含有サプリメントは、ホップ粉末に加熱処理した米麹を添加して造粒したことを特徴とする。
米麹を添加することによって、アレルギーを発症する可能性のある賦形剤を用いることなくサプリメントの造粒が可能である。
【0007】
前記ホップ粉末は、ホップ球花粉末であることを特徴とする。
ホップ球花を用いることにより、キサントフモールやフムロン、8-プレニルナリンゲニンなどの有効成分を多く摂取することができ、有用な生理機能を期待することができる。
【0008】
前記米麹は、10〜30重量%添加することを特徴とする。
このような範囲において、培養細胞を用いた腸管吸収モデルにおけるホップ球花成分の吸収性を高める作用を有すると確認された。
【発明の効果】
【0009】
この発明に係るホップ含有サプリメントによれば、賦形剤として加熱処理した米麹を用いているので、従来の賦形剤に比較してアレルゲンを低下させることができ、アレルギー性などの問題の発生確率を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】培養細胞を用いた腸管吸収モデル実験の概要図
【
図2】各賦形剤を添加した時のキサントフモールの溶解度を示したグラフ
【
図3】各賦形剤を添加した時のイソキサントフモールの溶解度を示したグラフ
【
図4】各賦形剤を添加した時の8-プレニルナリンゲニンの溶解度を示したグラフ
【
図5】各賦形剤を添加した時のルプロンの溶解度を示したグラフ
【
図6】各賦形剤を添加した時のα-フムレンの溶解度を示したグラフ
【
図7】培養細胞を用いた腸管吸収モデルにおいて各賦形剤を添加した時のキサントフモールの吸収性を示したグラフ
【
図8】培養細胞を用いた腸管吸収モデルにおいて各賦形剤を添加した時のイソキサントフモールの吸収性を示したグラフ
【
図9】培養細胞を用いた腸管吸収モデルにおいて各賦形剤を添加した時の8-プレニルナリンゲニンの吸収性を示したグラフ
【
図10】培養細胞を用いた腸管吸収モデルにおいて各賦形剤を添加した時のルプロンの吸収性を示したグラフ
【
図11】培養細胞を用いた腸管吸収モデルにおいて各賦形剤を添加した時のα-フムレンの吸収性を示したグラフ
【発明を実施するための形態】
【0011】
この実施形態において、賦形剤として加熱処理した米麹を添加したホップ含有サプリメントを作成した。下記の実験例では、これらのホップに含まれている有効成分を定量し、米麹を配合した錠剤サプリメントの造粒や賦形剤添加等の条件によって有効成分が変化するかどうかを分析し、サプリメントとしてホップ錠剤の有用性を明らかにすることを目的とする。
さらに、米麹による生理機能や有効成分の化学的変化を解析することで、錠剤の造粒技術により機能性を高められるかどうかを追求し、ホップのサプリメントとしての活用性を高め、新商品を開発することを目指した。
【0012】
(実験方法)
1)ホップ球花に含有される成分分析
ホップ毬花粉末殺菌(秋田ヘルシー食産、カスケード)1 gにメタノール(MeOH)を20 mL加え、室温で1時間混合した。3000 rpm、10分間の遠心分離により得られた上清を定性ろ紙(Advantec、No.2)でろ過し、ろ液をロータリーエバポレータにより60℃で減圧乾固した。得られた抽出物をメタノールに適度な濃度に再溶解し、分析に用いた。
【0013】
上記のサンプルを、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(島津製作所、LC-20AT)を用い、以下の条件で分析した。カラムはShiseido CAPCELL PAK C18 UG120S-5 (φ4.6 mm×250 mm、粒子径 5 μm)、溶出溶媒AにはH
2O+0.1% トリフルオロ酢酸(TFA)を、溶出溶媒Bにはアセトニトリル(ACN)+0.1% TFAを用いた。溶出溶媒Bの濃度を0〜100%の範囲でグラジエントを掛け、流速を2 ml/min、カラム温度40 ℃、検出波長を230 nmの条件で分離されたピークの吸光度を測定した。
【0014】
成分同定のための標準物質として、キサントフモール(富士フイルム和光純薬、246-00921)、イソキサントフモール(Sigma-Aldrich、05890580)、8-プレニルナリンゲニン(Cayman Chemical、17462)、ルプロン(Toronto Research Chemicals、L478000)、α-フムレン(Sigma-Aldrich、53675)を用いた。ホップ球花に含有される成分は、標準物質と同じ保持時間の溶出物質として同定し、調整した標準物質で得られた吸光度をもとに成分の濃度を定量した。
【0015】
2)ホップ球花成分のあめこうじによる変化
米麹として、秋田県総合食品研究センターと発酵用微生物メーカーである秋田今野商店が共同開発し、吟醸酒用麹菌を親株として種麹が開発された(特許第5803009号)「あめこうじ(登録商標)」を用いた。現在は、秋田県総合食品研究センターが制定した麹の品質基準に合格した秋田県内麹製造企業が製造販売を行っている。本研究では、あめこうじとして爛漫乾燥麹(秋田銘醸株式会社)を用いた。表1に使用したあめこうじの組成を示す。
【0017】
ホップ毬花粉末1 gに対して重量比10〜30%の割合であめこうじを混合したものを100 mLの60 mM Tris-HCl緩衝液(pH 7.4)に溶解した。37℃の恒温槽で1〜12時間攪拌し、反応物を凍結乾燥した。乾燥品にメタノール(MeOH)を20 mL加え、室温で1時間混合した。3000 rpm、10分間の遠心分離により得られた上清を定性ろ紙(Advantec、No.2)でろ過し、ろ液をロータリーエバポレータにより60℃で減圧乾固した。得られた抽出物をメタノールに適度な濃度に再溶解し、分析に用いた。
【0018】
3)ホップ球花成分の溶解性の解析
ホップ毬花粉末1 gに対して重量比10〜30%の割合であめこうじを混合したものを100 mLの水溶液に溶解した。水溶液は、60 mM Tris-HCl緩衝液(pH 7.4)、人工胃液(日本薬局方・溶出試験法記載の第1液、塩化ナトリウム2.0 g/Lを塩酸7.0 mL/L、pH 1.2)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、日水製薬)の3種類を用いた。
37℃の恒温槽で30分攪拌し、3000 rpm、10分間の遠心分離により得られた上清を定性ろ紙(Advantec、No.2)でろ過し、溶出溶液を得た。溶出液を凍結乾燥し、得られた溶出物をメタノールに適度な濃度に溶解し、分析に用いた。
【0019】
また、対照として、あめこうじの代わりに、通常、錠剤の造粒に賦形剤として利用されるデンプン(トウモロコシ由来、富士フイルム和光純薬、193-09925)、デンプン(小麦由来、富士フイルム和光純薬、193-13215)、デキストリン(富士フイルム和光純薬、044-00585)、乳糖(富士フイルム和光純薬、5989-81-1)、白糖(富士フイルム和光純薬、57-50-1)を用いた。
溶解度は、ホップ毬花粉末1 gから1)の方法により直接メタノールで抽出して求めた含量を基準として、溶解した割合をパーセント(%)で表した。
【0020】
4)培養細胞を用いた腸管吸収モデルを用いたホップ成分の吸収性の解析
実験には、ヒト結腸癌由来Caco-2細胞株を用いた。通常の細胞維持のための培養には、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、日水製薬)を基礎培地として用い、10%(v/v)ウシ胎児血清(Fetal Bovine Serum, FBS)、100 unit/mL ペニシリン、100 μg/mLストレプトマイシンを添加し、37℃・5%CO
2の条件の下で培養した。培地は3〜4日に1回交換し、その際に1/5〜1/10希釈して継代した。
Caco-2細胞株を用いて、腸管吸収モデル構築するために、培養ThinCert(Griner)の6 well plateを用い、ポアサイズが3 μm(Cat No.657 630)のフィルターのものを実験に用いた。
図1に示したように、フィルター上に細胞を培養し、カップの底に埋め込んで腸管腔側(Apical, A)と基底膜側(Basolateral, B)の培地が区別できる装置を用いた。
【0021】
腸管腔側(A)にCaco-2細胞を播種し、2日後に5 mM Na ButyrateをAに添加し、細胞を分化させた。さらに4日後に検体をAに添加した培地に交換して24時間培養した。その後、基底膜側(B)の培地を回収した。腸管腔側(A)に添加した検体が細胞に吸収された後、細胞から分泌された成分が透過性膜を通って、基底膜側(B)へ移行するモデルである。
検体を培地に添加する際は、ホップ毬花粉末1 gに対して重量比10〜30%の割合であめこうじを混合したものを100 mLの培地に溶解した。37℃の恒温槽で30分攪拌し、3000 rpm、10分間の遠心分離により得られた上清を細胞に添加した。
【0022】
5)統計処理
データは、平均±標準偏差(SD)で表し、n=6の実験から得られた。有意差検定には一元配置分散分析を用い、群間の比較にはBonferroni法を用いてP<0.05の水準で行った。グラフ中のアルファベット(a, b, c)の異なった文字を付加した値の間で、統計的有意差があることを示した。
【0023】
(実験結果)
1)ホップ球花に含有される成分とあめこうじによる変化
ホップ球花粉末の成分を定量分析したところ、表2のようになった(無添加)。
【0025】
キサントフモールイソキサントフモール、8-プレニルナリンゲニンはホップ球花の硬質樹脂に分類される成分であり、多くの生理機能が報告されている。キサントフモールは乾燥ホップ球花に0.1〜1%含有されることが知られている。この値は1.0〜10 mg dry wtに該当する。今回の分析でもこの範囲にあり、同等の含量であるといえる。
カナダの報告では、キサントフモール0.48% dry wt(4.8 mg/g)、イソキサントフモール0.008% dry wt(0.08 mg/g)、8-プレニルナリンゲニン0.002% dry wt(0.02 mg/g)の含量であるとの報告がある(Phytochemistry, 65, 1317-1330, 2004)。したがって、イソキサントフモールや8-プレニルナリンゲニンについても同等の含量であるといえる。
【0026】
ルプロンは、ホップ球花の軟質樹脂であるβ酸に分類される成分で、β酸の含量は3〜8% dry wt(30〜80 mg/g)とされている。この中には複数の物質が含まれ、その1つがルプロンである。
α-フムレンはホップ球花の精油成分の1つであり、精油の含量は0.5-3% dry wt(5〜30 mg/g)とされている。揮発性の脂溶性成分であるので、ある程度含量に幅があると考えられる。
【0027】
あめこうじには麹菌由来の各種酵素が含まれており、ホップ球花と混合してインキュベートすることで、ホップ球花成分が変化することが想定された。しかし、10〜30%の割合であめ麹を混合しても、今回測定したHPLCのプロマトグラムのパターンに変化は見られなかった。定量分析の結果についても、有意な変化は観察されなかった。したがって、ホップの成分はあめこうじとの混合では変化せず、安定的に保たれることが分かった。
【0028】
2)ホップ球花成分の溶解性の解析
ホップ球花の成分であるキサントフモール、イソキサントフモール、8-プレニルナリンゲニンはホップ球花、ルプロン、α-フムレンの水溶液である60 mM Tris-HCl緩衝液(pH 7.4)への溶解度を調べ、溶解度(%)として
図2〜
図6にそれぞれ示した。データはホップ球花粉末に対して、重量比10%のあめこうじを添加した場合の値である。
いずれの成分も、あめこうじを無添加の場合と比較して、2.5〜3倍高い溶解度を示した。また、錠剤の成型のために一般的に賦形剤として使用される、デンプン(トウモロコシ由来)、デンプン(小麦由来)、デキストリン、乳糖及び白糖と比較しても有意にあめこうじを添加した方が溶解度が高かった。
【0029】
水溶液として60 mM Tris-HCl緩衝液(pH 7.4)の代わりに人工胃液やダルベッコ改変イーグル培地を用いた場合においても同様の結果が得られた(データ省略)。また、あめこうじの添加量を重量比10%から20%、30%に増加させた場合においては、それ以上の溶解度の上昇は見られず、10〜30%で同等の効果があることが示された(データ省略)。
以上のように、米麹の一種であるあめこうじは、ホップ球花成分の水溶液への溶解性を高める作用を有する素材であることが示された。
【0030】
3)培養細胞を用いた腸管吸収モデルを用いたホップ成分の吸収性の解析
ヒト結腸癌由来Caco-2細胞株を用いて構築した腸管吸収モデルにおいて、ホップ球花成分の吸収性を評価した。ホップ球花の成分であるキサントフモール、イソキサントフモール、8-プレニルナリンゲニンについて、基底膜側(B)の培地に存在する濃度(μg/mL)として解析し、結果を
図7〜
図11にそれぞれ示した。
【0031】
いずれの成分も、あめこうじを無添加の場合と比較して約3倍前後高い濃度を示した。また、錠剤の成型のために一般的に賦形剤として使用される、デンプン(トウモロコシ由来)、デンプン(小麦由来)、デキストリン、乳糖及び白糖と比較しても有意にあめこうじを添加した方が基底膜側(B)の培地に存在する濃度(μg/mL)が高かった。
あめこうじの添加量を重量比10%から20%、30%に増加させた場合においては、それ以上の濃度の上昇は見られず、10%で充分であった。したがって、10〜30%で同等の効果があるといえる。
以上のように、米麹の一種であるあめこうじは、ホップ球花成分の吸収性を高める作用を有する素材であることが腸管吸収モデルを用いた実験系によって示された。
【0032】
(考察及び結論)
ホップ球花粉末は様々な生理機能を持ち健康食品素材として利用価値が高いが、強い苦味を有することから、サプリメントとして用いるために錠剤化することが有効である。錠剤を造粒するにあたっては、通常、乳糖やデンプン(小麦由来、トウモロコシ由来)、デキストリン、白糖などが賦形剤として用いられる。これらには原材料である植物由来の物質によるアレルギー性や有効成分との相互作用などの問題が発生する可能性があり、これらを用いない錠剤は付加価値を高めることができる。
【0033】
一方で、ホップ粉末単独での成型は難しく、錠剤化することが困難である。そこで秋田発のオリジナル麹であるあめこうじを配合することで錠剤を製造する方法を確立した。加熱処理したあめこうじを使用することで、ホップ有効成分に化学的変化は見られず、安定的に保持され、良好な剤形が保たれた。また、有効成分の溶解性や吸収性を高めることができた。
【0034】
本研究の成果により、従来の賦形剤を用いない錠剤型サプリメントの造粒が可能になることから、アレルギー性などの問題で摂取できなかった場合などの改善に有用である。あめこうじは米加工発酵食品であるので、食経験が豊富で従来の賦形剤と比較してアレルギー性などの問題が発生する確率は低い。さらに、従来の賦形剤と比較して、ホップに含有される有効成分の溶解性や吸収性を高めることができ、付加価値を高めたサプリメントを提供できる。
【0035】
ホップ球花粉末に対して、あめこうじを重量比10〜30%添加することで、溶解性や吸収性を高めた錠剤を製造できるが、これらの粉末のみでは吸湿して打錠機が目詰まりを起こしてしまう場合がある。また、出来上がった錠剤の防湿や光沢を向上させるために、錠剤の試作品を作製するに当たっては、食品用潤沢剤であるラブリワックス(登録商標)-102H(フロイント産業)を添加した。本品は、硬化ナタネ油を原料として製造された粉末タイプのものであり、結合剤やコーティング剤としての効果もある。
【0036】
(実施例)
表3に示す組成で2種類の錠剤の試作品が作製された。完成した錠剤は、硬度や安定性においても特に問題はなく、サプリメントとして摂取する錠剤として十分な性能を有していた。