【課題】長期間保存が効き、耐久性を持ち、一般的な使い捨てのプラ食器並み、あるいはそれ以上の強度を持ち、かつ使用後は可食であり、使い捨てのプラ食器の代替として充分安価な実用的な可食容器を提供すること。
【解決手段】アルギン酸塩を主たる成分とし、水分含有率が30質量%以下である、可食容器。当該可食容器は、アルギン酸塩がアルギン酸カルシウムであり、2MPa以上の破断強度を有することが好ましく、従となる成分としてアルギン酸塩以外の多糖類を含んでもよい。
【背景技術】
【0002】
使い捨てのプラスチック製の食器(以下、「使い捨てプラ食器」ともいう)は、価格の安さ、加工のしやすさ、簡単には破損しない堅牢さなどの特徴を有し、飲食店、家庭などで広く活用されている。しかしプラスチックは、自然環境中では分解されない、あるいは分解されにくい特性があり、ひとたび環境に流出すると、半永久的にゴミとして環境中に存在するため、海洋などを漂えば海洋プラスチックといわれる環境問題、あるいは細かく破砕されてマイクロサイズのゴミとなれば、マイクロプラスチックといわれる環境問題を引き起こしている。これらプラスチックのゴミに関わる環境問題(以下「プラゴミ問題」)は、海洋生物やその生態系へ深刻なダメージ、あるいはヒトの健康被害に繋がる可能性が指摘されている。
【0003】
プラゴミ問題の解決のため、従来のプラスチックに代わり、使用後に微生物などに分解される素材、つまり生分解性の素材への置き換えが、社会的に希求されている。特に、カップ、ストローなどの使い捨てプラ食器は、ポイ捨てなどで環境に流出する可能性が高く、さらには日常的に排出される量の多さから、特に代替が期待されている。
【0004】
そういった、社会のニーズもあり、使い捨てプラ食器の代替策が、既に幾つか登場している。
例えば、生分解性をもつプラスチックを活用する食器が挙げられる。
また、ストローに紙(つまり紙ストロー)を使うなど、樹脂以外の生分解性を持つ素材の利用も拡がっている。
使用後に食べられる素材を活用した食べられる食器(以下、「可食食器」ともいう)もいくつか登場している。例として、寒天と炭水化物を主原料にした可食食器(特許文献1)があり、実用化もされている(特許文献2)。可食食器であれば、飲食後に食器自体を「食べる」ことができるため、そもそもゴミの発生を抑制できる。また仮に環境に流出したとしても、微生物を含め、他の生物も当然食べられるため、高い生分解性が発揮される。さらに仮に海洋に流出したとしても、主成分が海藻と炭水化物由来であるため、そもそも魚介類などのエサとなり、海洋生物へのダメージが大幅に抑えられる。他にも可食食器として、パスタや米粉のストローなども提案されている。
【0005】
これによく似た技術として、“食器”と呼ぶには若干異形ではあるが、袋状に加工して、内部に飲料物を含めた、食べられる水などとして、旧来のプラスチックを活用しない飲食するスタイルの新たな可能性も提案されている(非特許文献1)。
【0006】
分野は異なるが、食べられる水の基として、アルギン酸カルシウムあるいはアルギン酸マグネシウムなどのアルギン酸塩の皮膜を用いて、球状の食品を作成する技術は古くから知られている。アルギン酸カルシウム皮膜は、保水性を有して弾力があり、かつ歯で噛み切れる程度の適度な破断応力を有するため、魚卵様食品や生卵黄様加工食品などに用いられてきた。例えば、特許文献3ないし7等が挙げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、本発明者がヒアリングをしたところ、生分解性を持つと謳われるプラスチック製品は「環境にやさしい」というイメージ作りなどのために、あくまで商品の成分の一部として、生分解性プラスチックが使われることが大半である。しかしこれでは、本質的に環境問題の解決は限定的である。
【0010】
また、仮に生分解性プラスチックのみを用いた製品であったとしても、そもそも一般的な「生分解性」という評価は、微生物が豊富で、温かい土壌でのみ分解する素材が大半である。「生分解性プラスチック」として、謳われ最もよく活用されるポリ乳酸も、それに含まれる。そのため、海洋などでの生分解性はなく、先に上げたプラゴミ問題に対する本質的な解決策にならない。
【0011】
一方、海洋でも生分解性を有するプラスチックの活用が、プラゴミ問題の解決策として可能性がある。例えば、株式会社カネカが製造するPHBHは、この海洋生分解性を謳っている。しかし、PHBHなどは、微生物による発酵などの生産工程が必要であったりして、生産量に限りがあり、生産に別途大規模な設備投資が必要であったりする。そのため、一般的に高い生産コストがかかり、ひいては高い価格となり、使い捨てプラ食器の代替としては実用的な価格に抑えづらい、という課題もある。
【0012】
また、多くのバイオプラスチックと言われる、植物由来の素材は、原料としてタイ産のさとうきびや、ブラジル産のバイオエタノールなどを利用している。そしてタイのさとうきびやブラジルのバイオエタノールは、熱帯雨林の焼き畑農法で作られる割合も大きく、仮に、使い捨てプラ食器の代替策として使用量が増えれば、前述のプラゴミ問題とはまた別の、熱帯雨林の破壊、あるいはそれに伴うCO
2の排出、気候変動の加速、熱帯雨林の生態系の破壊などの環境問題を引き起こす可能性が高い。
【0013】
一方、プラスチック以外の生分解性が期待できる紙の食器、例えば紙ストローや紙コップ、紙皿は、プラスチック製の食器として代替が進んでいる。しかし紙は、水に濡れると形態が保持できなくなり、用途や長時間利用が制限される。そのためプラスチック食器の完全な代替としては不十分である。また紙製の食器は、耐水性向上のために、表面に生分解性ではないプラスチックのコーティングがほどこされることも多く、これでは完全なプラゴミ問題の解決策とはならない。
【0014】
他方、特許文献1及び2に記載されているような、寒天あるいはアガロース(以下「寒天など」)と炭水化物を主成分とした可食食器は、堅牢性に問題がある。例えば、特許文献1及び2の出願人による可食食器は既に販売実績があるが、オンラインでの評価によると、9件中8件と高い確率で到着時に破損があったとの報告がある(オンライン情報:https://www.amazon.com/Loliware-Edible-Party-Cups-5oz/product-reviews/B01995V1CC [2020年2月21日閲覧])。また、出願人による製品の広告動画などをみると、柔軟性に富むため、食器として利用するには、形態を維持するのが困難という課題がある。
【0015】
寒天などに含める炭水化物の割合を増やすなどすれば、堅牢性を上げることができる(例えば、長坂慶子、粂野恵子、中浜信子「寒天ゲルの性状に及ぼす糖類の影響」日本家政学会誌、1991年、42(7)、621−627頁;大賀稔子、加藤美由紀、藤井(粂野)恵子、中濱信子「寒天ゲルおよびκ−カラギーナンゲルのレオロジー的性質に及ぼすショ糖の影響」日本家政学会誌、1996年、47(4)、321−328頁等参照)。これを利用した技術も報告されている(特許文献1参照)。しかしこれでは、食器の重量が重くなり、またコストも増大し実用性を失う。
【0016】
また寒天などをベースにした可食食器は、一定の湿度の維持が必要なことが多い。これでは扱いが面倒であり、また生分解性が逆効果となり保存時に腐る、という特徴もある。これでは用途は限られる。また寒天は吸水性が高く、日本の夏のような多湿環境では、湿気を吸い、さらに高温で腐りやすく、長期保存に向かない、あるいは別途冷蔵設備が必要、という課題もあり、プラスチック食器の代替としては不十分である。
【0017】
一方、非特許文献1に記載されているような、食べられる水など、可食の被覆の中に飲食対象となる食べ物、あるいは液体を含めた状態にし、そのまま利用時に食する技術は、その利用スタイルは非常に独創的である。しかしながら、その状態になるように、最初から別途加工、製造する工程を保有する必要がある。そのため、コップ、皿などのような使い方は出来ず、飲食店、家庭などで広く利用する食器としては利用できない。また、寒天などの可食食器の課題と同じく、堅牢性や、保存性に問題がある。
【0018】
また、以上の課題を解決するために、高価な素材を活用したり、多数の素材を複合化させるなど複雑な機構を備える食器の開発も考えられたりもするが、それではコストが増大し、社会一般的に普及する、使い捨てのプラスチック食器の代替とはなりえない。
【0019】
そこで本発明は、一般家庭でも原料の入手が容易であり、子どもたちが仮に手にしたり、舐めたりしても大丈夫なように、全て食用となる材料を元に製造され、簡便で、低コストで、さらに子ども達が勝手におもちゃにしても大丈夫なぐらいに堅牢で、保管しやすく、生分解性があり、使用後には食用となる可食容器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者は鋭意研究した結果、特定の食材から作った容器が、使用前は一般的な使い捨てのプラ食器並み、あるいはそれ以上の強度を持ち、かつ使用後は可食であり、使い捨てのプラ食器の代替として充分安価な実用的であり、低コストである可食容器を提供することができることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[9]からなる。
[1] アルギン酸塩を主たる成分とし、水分含有率が30質量%以下である可食容器。
[2] 前記アルギン酸塩が、アルギン酸カルシウムである、前記[1]に記載の可食容器。
[3] 2MPa以上の破断強度を有する、前記[1]または[2]に記載の可食容器。
[4] 水分含有率が30質量%以上のときの破断強度が8MPa以下となる、前記[1]ないし[3]のいずれか1つに記載の可食容器。
[5] 従となる成分として、アルギン酸塩以外の多糖類を含む、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の可食容器。
[6] 従となる成分が特に、寒天、アガロース、アルギーナンまたはグルコマンナンである、前記[1]ないし[5]のいずれか1つに記載の可食容器。
[7] ストローである、前記[1]ないし[6]のいずれか1つに記載の可食容器。
[8] カップである、前期[1]ないし[7]のいずれか1つに記載の可食容器。
[9] 前記[1]ないし[8]のいずれか1つに記載の可食食器を製造する方法であって、
元素としてカルシウムを持つ化合物を溶解する水溶液Aを吸水させた、吸水性のある物質Bに、アルギン酸塩の水溶液Cに接触させることで、物体Bの表面にアルギン酸カルシウムの被覆物Dを形成し、この被覆物Dを乾燥する、可食食器の製造方法。
[10] 前記被覆物Dの乾燥後、さらに前記被覆物Dを水に接触させて再度乾燥する、前記[9]に記載の可食食器の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、長期間保存が効き、耐久性を持ち、一般的な使い捨てのプラ食器並み、あるいはそれ以上の強度を持ち、かつ使用後は可食であり、使い捨てのプラ食器の代替として充分安価な実用的な可食容器を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の可食容器は、アルギン酸塩を主たる成分とする。主たる成分とは、本発明の可食容器中、50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは95質量%以上であることをいう。そして水分含有率が30質量%以下の乾燥した状態にある。アルギン酸塩は、食用物質であり、生分解性に関しては問題がない。また、水分含有率が30質量%以下の乾燥させた状態にすることで、腐敗防止による長期保存、堅牢性が向上する。水分含有率は、10質量%以下、特に5質量%未満がより好ましい。
【0023】
主たる成分となるアルギン酸塩は、水不溶性のアルギン酸塩が好ましい。水不溶性であると、食器として耐水性が向上し、利用時に過度に形態を崩すといった不具合が発生しづらくなる。水不溶性のアルギン酸塩としては、アルギン酸カルシウム、アルギン酸マグネシウムが挙げられるが、カルシウムを含んだ健康成分を原料として活用できる点から、アルギン酸カルシウムであることが好ましい。
【0024】
また、使用前の水分含有率が30質量%以下の乾燥した状態にある本発明の可食容器は、保存時の堅牢性や、飲食開始時に、例えばストローとして利用するときに、包装容器を突きさすなどといった利用の仕方ができるよう、使い捨てプラ食器程度かそれ以上の強度を持つことが望ましく、具体的には、引張試験での破断強度が2MPa以上であることが好ましい。特に、破断強度が4MPa以上であることが好ましい。また、JIS K6253 タイプAに準拠したデュロメータ(以下「硬度計A」ともいう)で測定したときの硬さが50以上であることが好ましい。また、JIS K6253 タイプDに準拠したデュロメータ(以下「硬度計D」ともいう)で測定したときの硬さが20以上であることが好ましい。
また、水分含有率が10質量%以下の場合の破断強度が4MPa以上であることが好ましく、特に、破断強度が6MPa以上であることが好ましい。また、硬度計Aで測定したときの硬さが70以上であることが好ましい。また、硬度計Dで測定したときの硬さが30以上であることが好ましい。
さらに、水分含有率が5質量%以下の場合の破断強度が6MPa以上であることが好ましく、特に、破断強度が8MPa以上であることが好ましい。また、硬度計Aで測定したときの硬さが80以上であることが好ましい。また、硬度計Bで測定したときの硬さが40以上であることが好ましい。
【0025】
また、飲食などに使用後は、本発明の可食容器は、水を含む液体に接する事で、水分含有率が30質量%以上となったとき、口にできる強度、具体的には破断強度が8MPa以下となることが好ましく、6MPa以下がより望ましい。また、硬度計Aで測定したときの硬さが70以下であることが好ましい。また、硬度計Dで測定したときの硬さが30以下であることが望ましい。破断強度、あるいは硬さが上記の範囲であれば、可食性が有利になる。
さらに、水分含有率が50質量%以上となったとき、破断強度が6MPa以下となることが好ましく、特に破断強度が4MPa以下となることが好ましい。また、硬度計Aで測定したときの硬さが60以下であることが好ましく、特に50以下がより好ましい。また、硬度計Dで測定したときの硬さが30以下であることが好ましく、特に20以下がより好ましい。
【0026】
本発明の可食容器には、従とする成分として、アルギン酸塩以外の多糖類を含有することができる。上述したように、本発明の可食容器は、水を含む液体に接したときに、一定範囲の強度以下に抑えることが好ましいが、このような強度の調整方法として、従とする成分として、アルギン酸塩以外の多糖類を添加する方法が挙げられる。このようなアルギン酸塩以外の多糖類としては、寒天、アガロース、アルギーナン、グルコマンナンなどが挙げられる。アルギン酸塩以外の多糖類の含有量は、可食容器の強度により適宜設定されるが、好ましくは50質量%以下であり、できれば20質量%以下、あるいは5質量%以下が望ましい。アルギン酸塩以外の多糖類の含有量が上記の範囲にあれば、乾燥時の強度が落ちる、あるいは吸水性が高すぎて、保存が困難になる、利用時に水分を含みすぎて、元の形状を保てなくなるなどの弊害が出ることを回避できる。
また、後述する製法における乾燥工程で、脱水時の成型が非常に困難になることを回避できる。
【0027】
本発明の可食容器には、従とする成分として、耐熱性を持たせるために、こんにゃくを含有することができる。また、本発明の可食容器は無味でも構わないが、食用時の味付け、香り付け、彩色を目的として、他の食用物を添加しても構わない。添加物の例として、食塩、岩塩などの塩類、ブドウ糖、オリゴ糖などの糖類、カツオ、コンブ、コンソメなどの出汁やスープ、野菜や果物などのジュース、バニラエッセンスなどのフレーバー、茶やコーヒーなどよりなる食粉、あるいは食紅などが上げられる。ただし、これらに限ったものではない。
【0028】
本発明の可食容器、例えば、アルギン酸カルシウムを主たる成分とする可食容器は、以下の手順により製造することができる(以下「製法1」という)。
1) 水溶液Aの用意:元素としてカルシウムを持つ化合物(以下、「カルシウム含有化合物」ともいう)を溶解させた水溶液Aを用意する。水溶液Aに用いるカルシウム含有化合物としては、乳酸カルシウム、塩化カルシウムやその水和物等が挙げられ、不純物として残存した時の味や健康性の点から、カルシウム補助剤として食品添加物としても使われる乳酸カルシウムが好ましい。また、これら複数成分を組み合わせてもよい。また水溶液A中のカルシウムの量は特に問わないが、0.1質量%から5質量%が適当量である。
2) 吸水物質Bの用意:吸水性のある物質Bを用意する。吸水性のある物質Bとしては、紙、パルプ、布、不織布、寒天、多孔質のセラミック、木材等が挙げられ、不純物となる残存物の低減、あるいは残存しても食べられる、食べても問題ない、という点から、毛羽立ちの少ない食品ペーパー、寒天が好ましい。また、これらを組み合わせてもよい。
3) 水溶液Aを伴った物質Bの用意:前記1)で用意した水溶液Aを物質Bに吸水させて、水溶液Aを伴った物質Bを用意する。あるいは、水溶液Aを原料とし、最初から水溶液Aを伴った物質Bを製造しても良い。例えば水溶液Aをベースに固めた寒天、アルギーナンなどを活用してもよい。
4) アルギン酸塩の水溶液Cの用意:さらにこれらとは別に、アルギン酸塩の水溶液Cを用意する。ここで用いるアルギン酸塩は、水溶性のものであれば特段その種類は問わないが、食品添加物としても一般的な、アルギン酸ナトリウム、あるいはアルギン酸カリウムが扱いやすい。特に、口にした時、ナトリウムの過剰摂取を抑えることができる、という健康上の理由から、アルギン酸カリウムがより望ましい。また水溶液中のアルギン酸塩の濃度は、一般的に10質量%が上限であるが、粘性と可溶性から実務的に5質量%以下が望ましく、後述する6)の乾燥工程を効率的に進める意図から、1質量%以上がより望ましい。
5) 被覆物Dの形成:アルギン酸塩の水溶液Cに、水溶液Aを伴った物質Bを接触させることで、物質Bの表面上にアルギン酸カルシウムの被覆物Dが形成する。アルギン酸塩の水溶液Cに接触させる時間は、目的とする被覆物Dの厚み等にもよるが、好ましくは、10分以上、できれば1時間、さらに確実に被覆物を得るためには12時間以上が好ましい。また上限は特に制約しないが、現実的に2日以下が適当である。
6) 次に、必須ではないが被覆物Dをカルシウム含有の水溶液Eに浸すことが望ましい。水溶液Eは、前述の水溶液Aと同じ条件である。ただし、水溶液Bと濃度、成分が同一である必要はない。例えば、水溶液Aを純水などで薄めて水溶液Eとして転用するなどしてもよい。本工程は、被覆物Dを強化する、内部のカルシウム濃度を均一化する、といった効果がある。
7) 乾燥:そして得られた被覆物Dを乾燥する。乾燥は、天日干し、乾燥風の吹き付け、30〜80℃雰囲気での加熱などで行う。
8) 再乾燥:さらに必須ではないが、乾燥した被覆物Dを、純水、あるいは添加したい物質を含ませた水溶液に浸し、再度乾燥させてもよい。これにより、水溶液A、水溶液Eの残存物、あるいは水溶液Aと水溶液C、あるいは水溶液Cと水溶液Eとの副生物、例えば乳酸ナトリウムなどの不純物の除去が可能になる。あるいは、目的とした味、香り、色などを添加することも可能である。また本工程は複数回繰り返してもよい。
【0029】
物質Bは、後述する実施例1で実施したように、金属、セラミック、ガラス樹脂などの棒や枠と組み合わせ、形状を調整してもよい。例えば、ストローを製造する場合には、製法1において、SUSやアルミニウム製の金属棒に、紙などの物質Bを巻き付ける、といった利用方法がある。また、皿やカップを製造する場合には、製法1において、陶磁器やガラス製の皿やコップなどに、紙などの物質Bを貼り付ける、といった利用方法もある。前記7)の乾燥や前記8)の再乾燥において、製造物の目的物がストローの場合は金属棒を、皿やカップの場合は、それに応じた型枠などを活用してもよい。
【0030】
本発明の可食容器、例えば、アルギン酸マグネシウムを主たる成分とする可食容器は、製法1における、水溶液Aないし水溶液Eとして、マグネシウム含有化合物を用いることもできる(以下「製法2」ともいう)。マグネシウム含有化合物としては、塩化マグネシウムやクエン酸マグネシウムなどの塩、その水和物等が挙げられ、不純物として残存した時の味や健康性の点からクエン酸マグネシウムが好ましい。また、複数成分を組み合わせてもよい。また水溶液中のマグネシウムの量は特に問わないが、0.1質量%から5質量%が適当量である。
【0031】
また製法1ないし2におけるアルギン酸塩を含んだ水溶液Cに、寒天などの凝固性のある多糖類を活用すると、成型が容易な製造方法とすることもできる。例えば、後述する実施例3では以下のような製法(以下、「製法3」ともいう)で可食のストローを製造している。
イ) アルギン酸塩と寒天を熱水に溶かし、水溶液Fを得る。アルギン酸塩は水溶性のものであれば特段その種類は問わないが、食品添加物としても一般的な、アルギン酸ナトリウム、あるいはアルギン酸カリウムが扱いやすい。
ロ) 水溶液Fを枠などに流し込む。目的物がストローの場合は、2重にした金属管などを利用して、ちくわ状の枠を使う。あるいは目的物が皿やカップの場合も、2重にした枠を使うなどする。
ハ) 枠に入れた水溶液Fを、室温まで冷却すると寒天の効果で固まり、固形物Fができる。
ニ) この固形物Fを製法1の水溶液Bに接触させることで、固形物F中のアルギン酸塩がアルギン酸カルシウムに置換される。固形物Fを水溶液Bに接触させる時間は、固形物Fの厚み等にもよるが、好ましくは、1時間以上、できれば6時間以上、さらに確実にアルギン酸カルシウムへの置換を行うには、24時間以上が好ましい。また上限は特に制約しないが、現実的に4日以下が適当である。
ホ) 乾燥:そして得られた固形物Fを乾燥する。乾燥は、天日干し、乾燥風の吹き付け、30〜80℃雰囲気での加熱などで行う。
へ) さらに必須ではないが、乾燥した固形物Fを、純水、あるいは添加したい物質を含ませた水溶液に浸し、再度乾燥させてもよい。これにより、水溶液Bの残存物、あるいは水溶液Bと水溶液Fとの副生物、例えば乳酸ナトリウムなどの不純物の除去が可能になる。またこれを複数回繰り返してもよい。
【0032】
物質Bは、後述する実施例1で実施したように、金属、セラミック、ガラス樹脂などの棒や枠と組み合わせ、形状を調整してもよい。例えば、ストローを製造するには、製法1において、SUSやアルミニウム製の金属棒に、紙などの物質Bを巻き付ける。といった利用方法がある。また、皿やカップを製造するには、製法1において、陶磁器やガラス製の皿やコップなどに、紙などの物質Bを貼り付ける、といった利用方法もある。
【0033】
以上説明した本発明の可食容器は、ストロー、カップ、皿、器、フォーク、スプーンなどいわゆる食器の、特に使い捨てのプラスチック素材の食器の代替物として有用である。
【実施例】
【0034】
以下に、本発明について実施例により具体的に説明するがこれに限定されるものではない。
【0035】
[評価方法]
以下の実施例において、可食容器であるストロー、あるいはコップについて、乾燥状態ならびにそれを水につけた状態で5分、1時間、1日置いた時の、含水率、破断強度、硬さ試験、触感、可食テスト、および飲水テストで評価した。
・含水率は、各状態におけるストローあるいはコップを質量測定し、原料量から逆算して算出した。
・破断強度は、株式会社エー・アンド・デイのフォーステスターを利用した引張試験(JIS K7161)により各状態におけるストローあるいはコップについて、破断時の引張強度を測定した。
・硬さ試験Aは、各状態におけるストローあるいはコップの硬さを硬度計Aで測定した。
・硬さ試験Dは、各状態におけるストローあるいはコップの硬さを硬度計Dで測定した。
・可食テストは、30−50歳の成人男性10名を被験者として、各状態におけるストローあるいはコップを実際に口にし、食べられるかどうかを確認した。
・飲水テストは、各状態におけるストローあるいはコップについて、ストロー、あるいはコップとして機能するか、上記と同じ10名を被験者として、ストローの場合は吸引を、コップの場合は飲水が可能か、実際に確認した。
【0036】
[実施例1]
前述の製法1において、水溶液Aないし水溶液Eとして乳酸カルシウム水溶液(Ca:1質量%)を用い、物質Bとしてキッチンペーパーを利用し、これに水溶液Aを含ませた。これをアルミニウムの円管に巻き付ける。さらにこれを、水溶液Cとしてアルギン酸カルシウム(2質量%)の水溶液に24時間浸し、キッチンペーパーのさらに上に円管状の被覆物Dを得た。これを水溶液Eに24時間晒した後、乾燥風により乾燥した。さらに純水に晒したのち、再乾燥させてストローのサンプルを製造した。得られたストローのサンプルについて上記の評価を行った。このストローの評価結果を表1に記す。
【表1】
以上の結果から、5分以上水に晒し、30%以上の水分を含んだ状態で、9MPa以下程度の破断強度でなければ、可食ではないことが分かる。
【0037】
[実施例2]
製法2にある水溶液Aないし水溶液Eとして、クエン酸マグネシウムの水溶液を活用し、アルギン酸マグネシウムよりなるストローのサンプルを製造した。それ以外の条件は実施例1と同等である。このストローのサンプルの評価結果を表2に記す。
【表2】
以上の結果から、5分以上水に晒し、30%以上の水分を含んだ状態でなければ可食でないことが分かる。
【0038】
[実施例3]
製法3に従って、アルギン酸カルシウムと寒天を含んだストローのサンプルを製造した。アルギン酸塩と寒天の含有率は質量比にして90:10である。
【表3】
実施例1と比較すると、寒天を含むことで、給水力が飛躍的に向上することが分かる。それに伴って、水に浸したときに可食性も飛躍的に向上する。しかし、破断強度が2MPa以上ないと、ストロー、つまり食器として形状を維持することが困難になることも分かる。
【0039】
[実施例4]
以下の製法1を基にした製法を用いて、コップの製造に成功した。
A) 製法1において、水溶液Aを伴った吸水性の物質Bとして、乳酸カルシウムと寒天とを熱水で溶かし、コップに流し入れ、冷やし固めた乳酸カルシウム寒天を用いる。寒天は市販の粉体上のものを使い、濃度は固まれば良いので任意であるが、だいたい1質量%である。乳酸カルシウムは、カルシウムにして2質量%である。
B) 乳酸カルシウムの寒天を、上目を残した形で、水溶液Cに24時間浸す。
C) 乳酸カルシウムの寒天の表面に、コップ状の被覆物Hを得る。
D) 被覆物Hを、乾燥風により乾燥。さらに純水に晒したのち、再乾燥させた。
【0040】
【表4】
製造したコップは、飲水に際して漏れなどなく、支障なくコップとして機能した。