特開2021-159795(P2021-159795A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-159795(P2021-159795A)
(43)【公開日】2021年10月11日
(54)【発明の名称】ハードコートフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 3/00 20060101AFI20210913BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20210913BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20210913BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20210913BHJP
   C09D 133/04 20060101ALI20210913BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20210913BHJP
【FI】
   B05D3/00 D
   B05D5/00 B
   B05D7/24 302T
   B05D7/24 302P
   B05D3/02 Z
   B05D7/24 301T
   C09D133/04
   C09D5/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2020-61335(P2020-61335)
(22)【出願日】2020年3月30日
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113343
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 武史
(72)【発明者】
【氏名】猪野 貴士
(72)【発明者】
【氏名】杉山 祐介
(72)【発明者】
【氏名】狩集 翔
(72)【発明者】
【氏名】榎本 王一
【テーマコード(参考)】
4D075
4J038
【Fターム(参考)】
4D075BB24Z
4D075BB38Z
4D075BB46Z
4D075BB91Z
4D075BB93Z
4D075CA02
4D075CA13
4D075CA34
4D075CA47
4D075CA48
4D075CB03
4D075CB06
4D075DA04
4D075DB43
4D075DC24
4D075DC38
4D075EA05
4D075EA21
4D075EB22
4D075EB38
4D075EC03
4D075EC30
4D075EC31
4D075EC33
4D075EC37
4J038CG141
4J038NA05
4J038PA17
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】目標の諸物性を備え、かつ塗工欠陥の無い品質の良好なハードコートフィルムが安定して得られる塗工安定性を備えたハードコートフィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】基材上に電離放射線硬化型樹脂を含有するハードコート層を有するハードコートフィルムの製造方法である。上記電離放射線硬化型樹脂は、ウレタンアクリレート系樹脂を含む。上記製造方法は、基材上にハードコート層形成用塗工液を塗工してハードコート塗工層を形成する塗工工程と、このハードコート塗工層を乾燥させる乾燥工程とを備え、基材上にハードコート層を形成する。上記乾燥工程では、乾燥温度を40℃〜80℃の範囲内で、複数段階で制御する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に電離放射線硬化型樹脂を含有するハードコート層を有するハードコートフィルムの製造方法であって、
前記電離放射線硬化型樹脂は、ウレタンアクリレート系樹脂を含み、
基材上にハードコート層形成用塗工液を塗工してハードコート塗工層を形成する塗工工程と、
前記ハードコート塗工層を乾燥させる乾燥工程と、
を備えることにより、前記基材上に前記ハードコート層を形成し、
前記乾燥工程では、乾燥温度を40℃〜80℃の範囲内で、複数段階で制御することを特徴とするハードコートフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記乾燥工程では、乾燥温度を、最低温度から最高温度まで上昇させた後、最高温度から下降させることを特徴とする請求項1に記載のハードコートフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記乾燥工程では、乾燥温度を、40℃から80℃まで上昇させた後、80℃から下降させることを特徴とする請求項2に記載のハードコートフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記ハードコート層は防汚性を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のハードコートフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記基材はアクリル系フィルム基材であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のハードコートフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にウィンドウフィルム等に好適に用いられるハードコートフィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、ウィンドウフィルムは、例えばオフィス内のパーテーションなどに多用されている。このような用途を考慮して、ウィンドウフィルムを用いることにより、パーテーション表面に傷が付いて視認性等が低下しないように耐擦傷性を付与することが要求されている。そのため、ウィンドウフィルムとして、基材フィルム上にハードコート層を設けたハードコートフィルムを利用して、パーテーション表面に耐擦傷性を付与することが一般的に行われている。また、上記パーテーションが透明性の高い材料(例えばガラス材料、透明プラスチック材料等)で形成されている場合、その表面にウィンドウフィルムを使用することで、パーテーションの透明性が損なわれないことが要求される。また、これとは反対に、パーテーションが透明性の高い材料で形成されていても、その表面にウィンドウフィルムを使用することで、パーテーションを不透明化させて、ある程度の遮光性あるいは遮蔽性を持たせるようにすることが望まれる場合もある。さらには、パーテーションの表面を手で触っても、その指紋等の汚れを簡単に拭き取れる防汚性を付与することも要求される場合がある。
このように、例えばパーテーション用途のウィンドウフィルムとして用いられるハードコートフィルムに対する機能的要求は高まっている。
【0003】
ところで従来、上記のようなハードコートフィルムは、たとえば、基材フィルム上にハードコート層用の塗工液を塗工した後、塗工層を乾燥させ、さらに塗工層に対して紫外線照射を行って硬化させて、基材フィルム上にハードコート層を形成することで製造することができる。
下記の特許文献1等には例えばダイコート法による塗工方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4573550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、例えばパーテーション用途のウィンドウフィルムとして用いられるハードコートフィルムに対する機能的要求は高まっており、このようなハードコートフィルムを得るためには、得られたハードコートフィルムが必要な諸物性を備えていることは勿論であるが、塗工欠陥の無い品質の良好なものが安定して得られる塗工安定性も重要である。
【0006】
そこで、本発明の目的は、目標の諸物性を備え、かつ塗工欠陥の無い品質の良好なハードコートフィルムが安定して得られる塗工安定性を備えたハードコートフィルムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、特に、塗工欠陥の無い品質の良好なハードコートフィルムが安定して得られるようにするためには、基材上にハードコート塗工層を形成する塗工工程後の乾燥工程における加工条件を制御する必要があることを見出した。
本発明は、得られた種々の知見に基づき検討を行った結果完成したものである。
すなわち、本発明は以下の構成を有するものである。
【0008】
(第1の発明)
基材上に電離放射線硬化型樹脂を含有するハードコート層を有するハードコートフィルムの製造方法であって、前記電離放射線硬化型樹脂は、ウレタンアクリレート系樹脂を含み、基材上にハードコート層形成用塗工液を塗工してハードコート塗工層を形成する塗工工程と、前記ハードコート塗工層を乾燥させる乾燥工程と、を備えることにより、前記基材上に前記ハードコート層を形成し、前記乾燥工程では、乾燥温度を40℃〜80℃の範囲内で、複数段階で制御することを特徴とするハードコートフィルムの製造方法である。
【0009】
(第2の発明)
前記乾燥工程では、乾燥温度を、最低温度から最高温度まで上昇させた後、最高温度から下降させることを特徴とする第1の発明に記載のハードコートフィルムの製造方法である。
【0010】
(第3の発明)
前記乾燥工程では、乾燥温度を、40℃から80℃まで上昇させた後、80℃から下降させることを特徴とする第2の発明に記載のハードコートフィルムの製造方法である。
【0011】
(第4の発明)
前記ハードコート層は防汚性を有することを特徴とする第1乃至第3のいずれかの発明に記載のハードコートフィルムの製造方法である。
【0012】
(第5の発明)
前記基材はアクリル系フィルム基材であることを特徴とする第1乃至第4のいずれかの発明に記載のハードコートフィルムの製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、目標の諸物性を備え、かつ塗工欠陥の無い品質の良好なハードコートフィルムが安定して得られる塗工安定性を備えたハードコートフィルムの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳述する。
なお、本発明において、特に断りの無い限り、「○○〜△△」との記載は「○○以上△△以下」を意味するものとする。
【0015】
以下に、本発明によるハードコートフィルムの製造方法について説明する。
本発明によるハードコートフィルムの製造方法は、上記のとおり、基材上に電離放射線硬化型樹脂を含有するハードコート層を有するハードコートフィルムの製造方法であって、前記電離放射線硬化型樹脂は、ウレタンアクリレート系樹脂を含み、基材上にハードコート層形成用塗工液を塗工してハードコート塗工層を形成する塗工工程と、前記ハードコート塗工層を乾燥させる乾燥工程とを備えることにより、前記基材上に前記ハードコート層を形成し、前記乾燥工程では、乾燥温度を40℃〜80℃の範囲内で、複数段階で制御することを特徴とするものである。
【0016】
このハードコートフィルムの被塗工基材としては、通常フィルム基材が用いられる。
本発明において使用されるフィルム基材は、特に限定されるものではなく、例えば、アクリル系樹脂、トリアセチルセルロース、ポリエチレンテレフタレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレングリシジルメタクリレート、芳香族式ポリイミド、脂環式ポリイミド、ポリアミドイミド及びこれらの混合物を例示することができる。例えば、上記アクリル系樹脂フィルム基材は紫外線カット性能を有する。
【0017】
次に、上記ハードコート層について説明する。
上記ハードコート層に含まれる樹脂としては、被膜を形成する樹脂であれば特に制限なく用いることができるが、特にハードコート層の表面硬度(耐擦傷性)を付与し、また、紫外線の露光量によって架橋度合を調節することが可能であり、ハードコート層の表面硬度の調節が可能になるという点で電離放射線硬化型樹脂を用いることが好ましい。
【0018】
本発明に用いる電離放射線硬化型樹脂は、紫外線(以下、「UV」と略記する。)や電子線(以下、「EB」と略記する。)を照射することによって硬化する透明な樹脂であれば、特に限定されるものではないが、塗膜硬度及びハードコート層が3次元的な架橋構造を形成するために1分子内に3個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有するUVまたはEBにて硬化可能な多官能アクリレートからなるものが好ましい。UVまたはEB硬化可能な多官能アクリレートの具体例としては、ウレタンアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエトキシトリアクリレート、グリセリンプロポキシトリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート等を挙げることができる。なお、多官能アクリレートは単独で使用するだけでなく、2種以上の複数を混合し使用してもよい。
【0019】
さらに、本発明に用いる電離放射線硬化型樹脂は、重量平均分子量が例えば700〜3600の範囲内であるポリマーを用いることが好ましく、重量平均分子量700〜3000の範囲のものがより好ましく、重量平均分子量700〜2400がさらに好ましい。重量平均分子量が700未満であると、UVやEB照射により硬化した際の硬化収縮が大きく、ハードコートフィルムがハードコート層面側に反りかえる現象(カール)が大きくなり、その後の加工工程を経るに不具合が生じ、加工適性が悪い。また、重量平均分子量が3600を超えると、ハードコート層の柔軟性が高まるが、硬度が不足するため適さない。
【0020】
また、本発明に用いる電離放射線硬化型樹脂は、重量平均分子量が1500未満である場合は、1分子中の官能基数は3個以上10個未満であることが望ましい。また、上記電離放射線硬化型樹脂の重量平均分子量が1500以上である場合は、1分子中の官能基数は3個以上20個以下であることが望ましい。上記範囲内であれば、耐熱条件下(100℃で5分間保存)でのクラックの発生を抑えつつ、カールが抑制でき、適切な加工適性を維持できる。
【0021】
また、上記ハードコート層に含まれる樹脂としては、上述の電離放射線硬化型樹脂の他に、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、アクリル、スチレン−アクリル、繊維素等の熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、ウレア樹脂、不飽和ポリエステル、エポキシ、珪素樹脂等の熱硬化性樹脂をハードコート層の硬度、耐擦傷性を損なわない範囲内で配合してもよい。
【0022】
また、上記ハードコート層に無機酸化物微粒子を含有させ、表面硬度(耐擦傷性)の更なる向上を図ることも可能である。この場合、無機酸化物微粒子の平均粒子径は5〜50nmの範囲であることが好ましく、更に好ましくは平均粒子径10〜20nmの範囲である。平均粒子径が5nm未満であると、十分な表面硬度を得ることが困難である。一方、平均粒子径が50nmを超えると、ハードコート層の光沢及び透明性が低下し易く、また可撓性も低下するおそれがある。
【0023】
本発明において、上記無機酸化物微粒子としては、例えばアルミナやシリカなどを挙げることができる。これらの中でも、アルミニウムを主成分とするアルミナは高硬度を有するため、シリカよりも少ない添加量で効果を得られることから特に好適である。
【0024】
上記ハードコート層を形成するためのハードコート層形成用塗工液(ハードコート用塗料)には、公知の光重合開始剤を含むことができる。そのような光重合開始剤としては、アセトフェノン類やベンゾフェノン類を使用できる。
【0025】
上記ハードコート層には、塗工性の改善を目的にレベリング剤の使用が可能であり、たとえばフッ素系、アクリル系、シロキサン系、及びそれらの付加物或いは混合物などの公知のレベリング剤を使用可能である。また、タッチパネル用途等において、タッチパネル端末のカバーガラス(CG)、透明導電部材(TSP)、液晶モジュール(LCM)等との接着を目的に光学透明粘着剤OCRを用いた対接着性が要求される場合には、表面自由エネルギーの高い(凡そ40mN/m以上)アクリル系レベリング剤やフッ素系のレベリング剤の使用が好ましい。
【0026】
本発明のハードコートフィルムに防汚性を付与するためには、上記ハードコート層に、フッ素系等の防汚剤(レベリング剤または界面活性剤など)を添加することができる。防汚剤の添加量としては、特に制約はされないが、ハードコート用塗料中の樹脂固形分に対して、0.05重量%〜1.0重量%が好ましい。
【0027】
また、本発明のハードコートフィルムに防眩性を付与するためには、上記ハードコート層の表面に凹凸形状を形成する必要がある。そのためには、上記ハードコート層に有機微粒子又は無機微粒子を添加することが好適である。有機微粒子としては、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、メラミン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル−スチレン共重合樹脂、シリコン樹脂等の微粒子が挙げられる。また、無機微粒子としては、上記シリカ等の無機酸化物微粒子が挙げられる。
上記微粒子の添加量は、良好な防眩性の発現の観点から、ハードコート用塗料中の樹脂固形分に対して、10重量%〜60重量%の範囲が好適である。
【0028】
また、本発明のハードコートフィルムに不透明性を付与するためには、例えば上記ハードコート層の内部ヘイズ値を高めることが好適である。そのためには、上記ハードコート層に上記の微粒子を添加する方法が挙げられる。ハードコート層中に微粒子が存在することに起因し光が屈折、散乱することで内部ヘイズが発現する。
内部ヘイズ値を高めるために、上記微粒子の添加量は、ハードコート用塗料中の樹脂固形分に対して、10重量%〜60重量%の範囲が好適である。
【0029】
上記ハードコート層に添加するその他の添加剤として、紫外線吸収剤、消泡剤、表面張力調整剤、酸化防止剤、帯電防止剤、光安定剤等を必要に応じて配合してもよい。
【0030】
上記ハードコート層は、上述の電離放射線硬化型樹脂の他に、光重合開始剤、その他の添加剤等を適当な溶媒に溶解、分散したハードコート層形成用塗工液を、上記被塗工基材上に塗工、乾燥した後、UV又はEB等の電離放射線を照射することにより、光重合が起こりハード性に優れるハードコート層を得ることができる。
【0031】
溶媒としては、配合される上記樹脂の溶解性に応じて適宜選択でき、少なくとも固形分(樹脂、光重合開始剤、その他添加剤等)を均一に溶解あるいは分散できる溶媒であればよい。そのような溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、n−ヘプタンなどの芳香族系溶剤、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂肪族系溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、乳酸メチル等のエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール系等のアルコール系溶剤等の公知の有機溶媒を単独或いは適宜数種類組み合わせて使用することもできる。
【0032】
また、上記塗工液の濃度(固形分濃度)については、特に制約はされないが、例えば20重量%〜70重量%程度の範囲とすることができる。
【0033】
上記ハードコート層形成用塗工液を塗工、乾燥した後の電離放射線(UV、EB等)の照射量は、ハードコート層に十分なハード性を持たせるに必要な照射量であればよく、電離放射線硬化型樹脂の種類等に応じて適宜設定することができる。
【0034】
上記ハードコート層を形成するためのハードコート形成用塗工液の塗工方法については、特に限定はないが、グラビア塗工、マイクログラビア塗工、ファウンテンバー塗工、スライドダイ塗工、スロットダイ塗工、スクリーン印刷法、スプレーコート法等の公知の塗工方式が挙げられる。
【0035】
また、塗工速度に関しては特に制約はされないが、生産性などを考慮すると、適正な塗工速度は、10〜40m/分程度である。
【0036】
本発明では、基材上にハードコート層形成用塗工液を塗工してハードコート塗工層を形成する塗工工程の後の乾燥工程において、乾燥温度を40℃〜80℃の範囲内で、複数段階で制御し、上記ハードコート塗工層を乾燥させることが重要である。これによって、塗工欠陥の無い品質の良好なハードコートフィルムが安定して得られる塗工安定性を確保することができる。
【0037】
なお、上記乾燥温度の下限値が40℃未満であると、乾燥が不十分で、基材に対するハードコート層の密着性が低下するおそれがある。他方、上記乾燥温度の上限値が80℃よりも高いと、塗工面での凹み状の欠陥などの塗工欠陥が発生することがあり、ハードコートフィルムの塗工外観(塗工品質)が低下する。
【0038】
本発明では、上記乾燥工程において、乾燥温度を40℃〜80℃の範囲内で、複数段階で制御しているが、生産性等を考慮すると、例えば3段階から7段階の範囲で乾燥温度を制御することが好ましい。
【0039】
また、本発明の好ましい実施態様としては、乾燥温度を、最低温度から最高温度まで上昇させた後、最高温度から下降させるような制御を行うことである。具体的には、例えば乾燥温度を、40℃から80℃まで上昇させた後、80℃から下降させるような制御を行うことが好ましい実施態様の一例である。
【0040】
たとえば乾燥炉を用いて上記乾燥工程を実施する場合、乾燥炉内が複数の領域で構成され、この複数の領域で、乾燥温度が40℃〜80℃の範囲内で、複数段階に制御されている乾燥炉内を、ハードコートフィルムが搬送されることで、上記乾燥工程を実施することができる。また、乾燥炉内にハードコートフィルムを停止させた状態で、乾燥温度を40℃〜80℃の範囲内で、複数段階で制御しながら、複数段階の加熱を行うことで、上記乾燥工程を実施することもできる。
【0041】
また、上記乾燥工程の各段階での加熱時間(乾燥時間)は適宜設定することができ、各段階の加熱時間はそれぞれ同じでも異なってもよい。また、全体の乾燥時間は上記塗工液の組成(樹脂、溶媒等の種類)によっても異なり一概には言えないが、上記乾燥工程での乾燥時間は全体で例えば1分〜5分の範囲とすることが適当である。
【0042】
上記ハードコート層の塗膜厚さ(乾燥後)は、ハードコートフィルムの用途によっても異なるため、特に制約される必要はないが、一般には例えば1.0μm〜10.0μmの範囲であることが好適である。塗膜厚さが1.0μm未満では、必要な耐擦傷性が得られ難いため好ましくない。また、塗膜厚さが10.0μmを超えた場合は、カールが発生しやすく製造工程などで取扱い性が低下するため好ましくない。
【0043】
以上詳細に説明したように、本発明によれば、目標の諸物性を備え、かつ塗工欠陥の無い品質の良好なハードコートフィルムが安定して得られる塗工安定性を備えたハードコートフィルムの製造方法を提供することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
[ハードコート層形成用塗工液の調製]
ウレタンアクリレートを主成分とする電子線硬化型樹脂(トーヨーケム株式会社製)100重量部、光重合開始剤(商品名:Omunirad−184、BASFジャパン株式会社製)適量、レベリング剤(商品名:RS75−A、DIC株式会社製)0.1重量部、ヒンダードアミン系光安定化剤(商品名:TINUBIN 292、BASFジャパン株式会社製)2.6重量部を、n−プロピルアルコール/酢酸ブチル/ブチルセロソルブ=60/30/10重量部にて希釈して固形分濃度40重量%のハードコート層形成用塗工液(以下、「ハードコート用塗料」とも呼ぶ。)を調製した。
【0046】
[ハードコートフィルムの作製]
上記のハードコート用塗料を、40μm厚さで、幅1330mmのアクリル系フィルム基材(東洋鋼鈑社製)の一方の面に、乾燥後の塗工層膜厚が5μmとなるように塗工した。
【0047】
次いで、乾燥炉内で、この塗工層の乾燥を行った。この乾燥工程では、乾燥温度を40℃〜80℃の範囲内で、複数段階で制御した。本実施例では、乾燥炉内は4つの領域(A、B、C、D)で構成され、A領域からD領域に向かって乾燥温度は、40℃→80℃→80℃→70℃の4段階で制御されている。
【0048】
上記ハードコートフィルムは、上記乾燥炉内のA領域からD領域に向かって搬送される過程で、複数段階に制御されている乾燥温度で乾燥される。各領域での加熱時間は略同じで、この乾燥工程での乾燥時間(加熱時間)は全体で1分とした。
【0049】
次いで、上記乾燥工程を終えた塗工層に対して、積算光量150mJ/cmの紫外線照射処理により硬化させ、ハードコート層を形成した。
以上のようにして、本実施例のハードコートフィルムを得た。
【0050】
(実施例2)
本実施例では、乾燥炉内のA領域からD領域に向かって乾燥温度を、40℃→60℃→80℃→70℃の4段階で制御して乾燥工程を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2のハードコートフィルムを作製した。
【0051】
(比較例1)
本比較例では、乾燥炉内のA領域からD領域に向かって乾燥温度を、50℃→95℃→95℃→70℃の4段階で制御して乾燥工程を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1のハードコートフィルムを作製した。
【0052】
(実施例3)
[ハードコート用塗料の調製]
ウレタンアクリレートを主成分とする電子線硬化型樹脂(トーヨーケム株式会社製)100重量部、光重合開始剤(商品名:Omunirad−184、BASFジャパン株式会社製)適量、レベリング剤(商品名:RS75−A、DIC株式会社製)0.5重量部、ヒンダードアミン系光安定化剤(商品名:TINUBIN 292、BASFジャパン株式会社製)6.4重量部、シリコン微粒子(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)116重量部、分散剤(ビックケミー社製)35重量部を、トルエン/ブチルセロソルブ=70/30重量部にて希釈して固形分濃度40重量%のハードコート用塗料を調製した。
【0053】
[ハードコートフィルムの作製]
上記のハードコート用塗料を、実施例1と同様、40μm厚さで、幅1330mmのアクリル系フィルム基材(東洋鋼鈑社製)の一方の面に、乾燥後の塗工層膜厚が7.5μmとなるように塗工した。
【0054】
次いで、実施例1と同様にしてこの塗工層の乾燥を行った。本実施例では、前記乾燥炉内のA領域からD領域に向かって乾燥温度は、40℃→80℃→80℃→70℃の4段階で制御されている。各領域での加熱時間は略同じで、この乾燥工程での乾燥時間(加熱時間)は全体で1分とした。
【0055】
次いで、上記乾燥工程を終えた塗工層に対して、積算光量150mJ/cmの紫外線照射処理により硬化させ、ハードコート層を形成した。
以上のようにして、本実施例のハードコートフィルムを得た。
【0056】
(実施例4)
本実施例では、乾燥炉内のA領域からD領域に向かって乾燥温度を、40℃→60℃→80℃→70℃の4段階で制御して乾燥工程を行ったこと以外は、実施例3と同様にして、実施例4のハードコートフィルムを作製した。
【0057】
(比較例2)
本比較例では、乾燥炉内のA領域からD領域に向かって乾燥温度を、50℃→95℃→95℃→70℃の4段階で制御して乾燥工程を行ったこと以外は、実施例3と同様にして、比較例2のハードコートフィルムを作製した。
【0058】
[評価]
上記のようにして作製した実施例および比較例の各ハードコートフィルムについて、以下の各項目の物性評価および品質評価を行い、その結果を纏めて表1に示した。また、上記した各実施例および各比較例における乾燥工程での制御温度条件についても纏めて表1に示した。
【0059】
<全光線透過率>
村上色彩技術研究所製ヘイズメーター「HM150」を用いて測定した。
【0060】
<ヘイズ値>
村上色彩技術研究所製ヘイズメーター「HM150」を用いて測定した。
【0061】
<密着性>
基材とハードコート層との密着性は、JIS−K5600−5−6に準じて評価した。具体的には、各ハードコートフィルムについて、通常条件下、すなわち恒温恒湿条件下(23℃、50%RH)で、碁盤目剥離試験治具を用い1mmのクロスカットを100個作製し、積水化学工業株式会社製の粘着テープNo.252をその上に貼り付け、ヘラを用いて均一に押し付け後、60度方向に剥離し、ハードコート層の残存率(ハードコート層の残存個数)を評価した。ハードコート層の残存率90%以上であれば密着性は合格と判定した。
【0062】
<耐擦傷性>
各ハードコートフィルムについて、JIS−K−5600−5−10に準じた試験法にて、ハードコート層面を、スチールウール#0000を用い、荷重250gf/cmを掛け10往復摩擦し、傷のつき具合を次の基準で評価した。A〜B評価品を耐擦傷性は合格と判定した。
A:傷の発生なし
B:傷が少し発生する
C:傷が10本以上発生する
D:傷が無数に発生する
【0063】
<防汚性>
各ハードコートフィルムの表面に、油性黒色マジック(ゼブラ社製、品番YYTS5-BK)にて長さ5cmの線を引き、綿布で拭き取った際のインクの残存率(目視で確認できるインク残りの長さ5cmに対する残存率)で評価した。インクの残存率が10%未満であれば防汚性は合格と判定した。
【0064】
<塗工外観>
塗工面での凹み状の欠陥などの塗工欠陥の有無を目視で観察し、ハードコートフィルムの塗工外観(塗工品質)を評価した。
【0065】
【表1】
【0066】
表1の結果から、本発明の実施例によれば、例えば密着性、耐擦傷性、防汚性など目標の諸物性を備え、かつ塗工欠陥の無い品質の良好なハードコートフィルムが安定して得られることがわかる。
一方、比較例の場合、目標の諸物性はある程度得られるものの、塗工欠陥が発生し、良好な塗工外観が得られない。