【解決手段】ヘッド部材33を噴出孔32の延びる方向から見た際に、噴出孔32は、1つのみ設けられているか、電極棒11の周方向に沿って一対設けられているか、又は、電極棒11の周方向に沿って3つ設けられている。噴出孔32が一対設けられている場合は、一対の噴出孔32の一方は、電極棒11の周方向に沿う一方の60°以下の範囲内に設けられているとともに、一対の噴出孔32の他方は、電極棒11の周方向に沿う他方の60°以下の範囲内に設けられている。噴出孔32が3つ設けられている場合は、3つの噴出孔32のうち中央の噴出孔32は、0〜15°に設けられており、両側の噴出孔32の一方は、電極棒11の周方向に沿う一方の60°以下の範囲内に設けられているとともに、両側の噴出孔32の他方は、電極棒11の周方向に沿う他方の60°以下の範囲内に設けられている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
電極棒保持トーチを比較的高電流で用いられるブラスチングトーチに具体化した第1実施形態を説明する。
【0014】
図1、2に示すように、電極棒保持トーチ10としてのブラスチングトーチは、棒状のトーチ部材20と、トーチ部材20の先端側に取付けられてアーク放電用の炭素製の電極棒11を保持するヘッド部材30とを備える。ヘッド部材30には、電極棒11が挿通する貫通孔31が設けられている。また、ヘッド部材30には、流体としての圧縮ガスを噴出する噴出孔32が一対設けられている。
【0015】
ここで、噴出孔32から噴出する流体としては特に限定されず、圧縮空気、圧縮窒素等の圧縮ガスや水等の流体を選択することができる。
作業者は、トーチ部材20の基端側を把持し、ヘッド部材30の貫通孔31に保持された電極棒11と、被溶削物としての鋳造品の押し湯や湯道12等との間にアークを発生させ、アークの熱によって被溶削物の金属を溶融させる。溶融した金属は、ヘッド部材30の噴出孔32から噴出された圧縮空気で吹き飛ばされる。溶融した金属を圧縮空気で吹き飛ばすことによって、溶融した金属が被溶削物に付着することを抑制している。
【0016】
以下、ブラスチングトーチを構成する各部材について説明する。
トーチ部材20について説明する。
図2に示すように、トーチ部材20は棒状に構成されている。トーチ部材20は、管状の本体部21と、本体部21の外周に配置された絶縁管22と、絶縁管22の外周に配置された防熱カバー23とを有している。本体部21の一端側である先端側の外周には絶縁リング24が取り付けられている。この絶縁リング24に絶縁管22と防熱カバー23が当接していることによって、ヘッド部材30と絶縁管22の接触、及び、ヘッド部材30と防熱カバー23の接触が抑制されている。
【0017】
図2に示すように、トーチ部材20は、本体部21の内部に配置された押さえ部材25と、押さえ部材25を電極棒11側に付勢するスプリング26とを有している。本体部21の内部は、圧縮空気の供給源としてのエアコンプレッサー(図示省略)から供給される圧縮空気を流通させることができるように構成されている。
【0018】
本体部21の先端側の外周にはネジ溝21aが形成されている。このネジ溝21aが、後述するヘッド部材30における接続部34の内周に形成されたネジ溝36aに螺合することによって、トーチ部材20とヘッド部材30は接続される。
【0019】
ヘッド部材30について説明する。
図2に示すように、ヘッド部材30は、筒状のヘッド本体33と、ヘッド本体33の外周面から傾斜した状態で突出して、トーチ部材20の本体部21に接続される接続部34とを有している。
【0020】
図3に示すように、ヘッド本体33の軸方向における先端側の端面(以下、「先端面」ともいう。)33aは平坦面を有しており、先端面33aの中央部に軸方向に貫通する貫通孔31が設けられている。貫通孔31の周囲には、圧縮空気が噴出される噴出孔32が、貫通孔31の周方向に沿って設けられている。言い換えれば、一対の噴出孔32は、貫通孔31に保持された状態における電極棒11の周方向に沿って設けられている。一対の噴出孔32は、ヘッド本体33の先端面33aからヘッド本体33の軸方向に沿って延びている。
【0021】
後述のように、ヘッド本体33の貫通孔31に挿通された状態で、電極棒11はヘッド本体33に保持される。
図2に示すように、具体的には、ヘッド本体33の貫通孔31に電極棒11が挿通された状態で、トーチ部材20の押さえ部材25が電極棒11に当接する。これによって、電極棒11は貫通孔31に支持される。そのため、ヘッド本体33の貫通孔31は、電極棒11を支持する支持部として機能する。また、ヘッド本体33の先端面33aから貫通孔31の延びる方向は、この貫通孔31に支持された電極棒11の軸方向と等しくなっている。支持部に支持された状態における電極棒11の軸方向は、トーチ部材20の軸方向に対して交差している。
【0022】
図2、3に示すように、ヘッド部材30の接続部34は有底筒状に構成されており、底壁35と、底壁35から延びる周壁36とを有している。底壁35は、ヘッド本体33の外周面に一体に形成されている。周壁36の内周にはネジ溝36aが形成されている。このネジ溝36aがトーチ部材20の本体部21のネジ溝21aに螺合した状態で、トーチ部材20とヘッド部材30は接続される。
【0023】
図2に示すように、接続部34の底壁35には、接続部34の周壁36の内径よりも径が小さく、ヘッド本体33の貫通孔31に連通する連通孔37が設けられている。この連通孔37の延びる方向は、接続部34の周壁36の軸方向に沿っている。トーチ部材20の押さえ部材25は、この連通孔37を挿通して電極棒11に当接する。
【0024】
ヘッド本体33に保持される電極棒11の直径は特に限定されず、スプリング26と押さえ部材25によってヘッド本体33の貫通孔31の内径以内で電極棒11が保持される径であればよい。
【0025】
ヘッド本体33に設けられた噴出孔32は、ヘッド本体33の先端面33aからヘッド本体33の軸方向に沿って延びるとともに、屈曲して接続部34の底壁35を貫通している。噴出孔32が接続部34の底壁35を貫通することによって、噴出孔32はトーチ部材20の本体部21の内部に連通する。これにより、トーチ部材20における本体部21の内部を流通した圧縮空気は、ヘッド部材30の接続部34を経由して、噴出孔32から噴出することが可能になる。
【0026】
噴出孔32の内径は、3mm以上12mm未満である。噴出孔32の内径は、3〜10mmであることが好ましく、3〜9mmであることがより好ましい。噴出孔32の内径が上記数値範囲であることにより、噴出孔32から噴出される圧縮空気の流量と、圧縮空気の圧力が加わる面積とのバランスが好適なものとなる。すなわち、作業者は噴出孔32の適宜な内径を選択することにより圧縮空気の動力を最適に保ちつつ、被溶削物の溶融特性に合わせて吹き飛ばし力の選択が可能となる。また、一対の噴出孔32の内径は同一となっている。噴出孔32の内径は、大きくともヘッド本体33の先端面33aの筒厚さ以内であればよい。噴出孔32の内径が上記数値範囲であることにより、噴出孔32から噴出される圧縮空気の流量と、圧縮空気の圧力が加わる面積とのバランスが好適なものとなる。すなわち、作業者は噴出孔32の適宜な内径を選択することにより圧縮空気の動力を最適に保ちつつ、被溶削物の溶融特性に合わせて吹き飛ばし力の選択が可能となる。
【0027】
一対の噴出孔を例として噴出孔32の配置構成について説明する。
図4に示すように、ヘッド本体33の貫通孔31の延びる方向、すなわち、ヘッド本体33の先端面33aから噴出孔32の延びる方向に沿ってヘッド部材30を見て、一対の噴出孔32の中心同士を繋ぐ第1仮想線L1を引く。また、貫通孔31に保持された状態における電極棒11の軸心Pから、第1仮想線L1に直交するように第2仮想線L2を引く。
【0028】
電極棒11の軸心Pから第2仮想線L2が接続部34側へ延びる方向を0°とし、電極棒11の周方向の両側をそれぞれプラスの角度で表す。一対の噴出孔32の一方は、電極棒11の周方向に沿う一方の45°の位置に設けられているとともに、一対の噴出孔32の他方は、電極棒11の周方向に沿う他方の45°の位置に設けられている。
【0029】
第2仮想線L2は、電極棒11の軸心Pに代えて、ヘッド本体33の貫通孔31の中心から、第1仮想線L1に直交するように引いてもよいものとする。以下、噴出孔32が設けられている角度を、「配置角度α」という。
【0030】
一対の噴出孔32の配置角度αは45°に限定されず、電極棒11の周方向の両側において、0°を超え、60°以下の範囲内であることが好ましく、45±15°の範囲内であることがより好ましく、45±10°の範囲内であることがさらに好ましく、45±5°の範囲内であることがさらに好ましい。
【0031】
図4に示すように、第2仮想線L2は、トーチ部材20の本体部21の軸心Rに重なっている態様を基本とするが、作業に支障がない限り、第2仮想線L2は、トーチ部材20の本体部21の軸心Rに対して0〜15°の範囲内のずれは許容される。
【0032】
本実施形態の作用について記載する。
ヘッド本体33に設けられた一対の噴出孔32の配置角度αが、両側の45°であることにより、電極棒11の周囲における噴出孔32の位置が好適なものとなる。そのため、電極棒11の下側において、アークによって溶融した金属に対して最適に圧縮空気を吹き付けることができる。
【0033】
本実施形態の効果について記載する。
(1)ヘッド部材30を噴出孔32の延びる方向から見た際に、噴出孔32は一対設けられている。一対の噴出孔32の一方は、電極棒11の周方向に沿う一方の45°の位置に設けられているとともに、一対の噴出孔32の他方は、電極棒11の周方向に沿う他方の45°の位置に設けられている。
【0034】
電極棒11の周囲における好適な位置から、アークによって溶融した金属に対して効率良く圧縮空気を吹き付けることができるため、溶融した金属をより短時間で吹き飛ばすことが可能になる。言い換えると、溶融した金属の吹き飛ばし力を下げて好適に維持しつつ、圧縮空気を吹き付ける際のエアコンプレッサーの消費電力を好適に低減することができることを意味する。
【0035】
(2)トーチ部材20の軸方向に対して、貫通孔31に支持された状態における電極棒11の軸方向は交差するように構成されており、ヘッド部材30を噴出孔32の延びる方向から見た際に、第2仮想線L2はトーチ部材20の軸心Rに重なる。
【0036】
作業者がトーチ部材20を把持した際に、電極棒11の下側に噴出孔32が位置した態様となる。アークによって溶融した金属に対して圧縮空気をトーチ部材20側から吹き付けることができるため、電極棒11の先端で溶融した金属は作業者と反対側へ吹き飛ばされ、作業者に対して安全かつ溶融した金属をより短時間で吹き飛ばすことが可能になる。このことは、溶融した金属の吹き飛ばし力を下げて好適に維持しつつ、圧縮空気を吹き付ける際の圧縮空気を加圧するポンプやコンプレッサー等の動力の消費電力を好適に低減することができることをも意味する。
【0037】
(3)噴出孔32の内径は、3〜10mmであり、一対の噴出孔32の内径は同一である。噴出孔32の断面積バランスをとることができるため、一対の噴出孔32から噴出される圧縮空気の流量と、圧縮空気の圧力が加わる面積とのバランスをより好適なものとすることができる。
【0038】
(第2実施形態)
電極棒保持トーチ10を比較的低電流量で用いられるガウジングトーチに具体化した第2実施形態を説明する。
【0039】
図7に示すように、ガウジングトーチは、棒状のトーチ部材40と、トーチ部材40の先端側に取付けられてアーク放電用の電極棒11を保持する保持部材50とを備える。
図8に示すように、保持部材50は、互いに対向して配置される一対の平板状の挟持片51と、一対の挟持片51の間に配置されるヘッド部材55とを有している。ヘッド部材55には、圧縮空気を噴出する噴出孔55aが一対設けられている。一対の挟持片51の間に挟持された状態で、電極棒11は支持されている。
【0040】
作業者は、トーチ部材40の基端側を把持し、保持部材50に保持された電極棒11と被加工物としての鉄板13等との間にアークを発生させる。アークの熱によって被加工物を溶融させて、切断等の加工を行う。溶融した金属は、ヘッド部材55の噴出孔55aから噴出された圧縮空気で吹き飛ばされる。溶融した金属を圧縮空気で吹き飛ばすことによって、溶融した金属が鉄板等に付着することを抑制している。
【0041】
以下、ガウジングトーチを構成する各部材について説明する。
トーチ部材40について説明する。
図7に示すように、トーチ部材40は棒状に構成されている。トーチ部材40は、管状の本体部41と、保持部材50の挟持片51を操作する操作レバー42とを有している。本体部41の内部は、圧縮空気の供給源としてのエアコンプレッサー(図示省略)から供給される圧縮空気を流通させることができるように構成されている。
【0042】
保持部材50について説明する。
図8、9に示すように、保持部材50は、互いに対向して配置されるとともに電極棒を挟持する一対の平板状の挟持片51を有している。一対の挟持片51のうち上方に位置する一方の挟持片(以下、「第1挟持片」ともいう。)53は、一対の挟持片51のうち下方に位置する他方の挟持片(以下、「第2挟持片」ともいう。)54に対して上下動が可能に構成されている。また、保持部材50は、第2挟持片54の上部に取り付けられて電極棒11を支持するヘッド部材55を有している。ヘッド部材55の上面にはV字溝56が形成されている。
【0043】
操作レバー42を操作して第1挟持片53を上下動させることによって、第1挟持片53の下面と、ヘッド部材55のV字溝56との間に電極棒11を挟み込み、電極棒11を支持する機能を有する。そのため、V字溝56が支持部として機能する。
【0044】
第2挟持片54の上部には、後述するヘッド部材55の脚部57を挿入する挿入孔(図示省略)が設けられている。この挿入孔に脚部57が挿入された状態で、ヘッド部材55は第2挟持片54に取り付けられる。第2挟持片54の内部には、トーチ部材40の本体部41の内部を流通した圧縮空気を流通させる流通路(図示省略)が設けられている。
【0045】
図9に示すように、ヘッド部材55は、円板状の本体部58と、本体部58の下面における中央部から下方に延びる円柱状の脚部57とを有している。脚部57の軸心Rと円板状の本体部58の軸心は重なり、更に本体部58の上面に形成されたV字溝56の頂点56aと交わる。V字溝56は、本体部58の上面に沿って直線状に延びている。本体部58の周面には平坦面58aが形成されており、この平坦面58aに一対の噴出孔55aが設けられている。一対の噴出孔55aは、平坦面58aからV字溝56の延びる方向に沿って延びるとともに、ヘッド部材55の下面内部のヘッダ(空気溜り:図示省略)へ貫通している。
【0046】
噴出孔55aの内径は、3mm以上12mm未満である。噴出孔55aの内径は、3〜10mmであることが好ましく、3〜9mmであることがより好ましい。噴出孔55aの内径が上記数値範囲であることにより、噴出孔55aから噴出される圧縮空気の流量と、圧縮空気の圧力が加わる面積とのバランスが好適なものとなる。すなわち、作業者は噴出孔55aの適宜な内径を選択することにより圧縮空気の動力を最適に保ちつつ、被溶削物の溶融特性に合わせて吹き飛ばし力の選択が可能となる。また、一対の噴出孔55aの内径は同一となっている。
【0047】
ヘッド部材55が、脚部57を第2挟持片54の挿入孔に挿入した状態で第2挟持片54上に取り付けられると、ヘッド部材55の下面内部のヘッダは、第2挟持片54の内部の流通路に連通した状態となる。そのため、ヘッド部材55の噴出孔55aは、流通路を経由して、トーチ部材40の本体部41の内部に連通する。これにより、トーチ部材40の本体部41の内部を流通した圧縮空気は、第2挟持片54の流通路を経由して、ヘッド部材55の平坦面58aに形成された噴出孔55aから噴出することができるように構成されている。
【0048】
ヘッド部材55上に支持された電極棒11は、ヘッド部材55上のV字溝56に沿って支持される。すなわち、ヘッド部材55上に支持された電極棒11の軸方向は、V字溝56の延びる方向に沿った状態となる。そのため、ヘッド部材55の本体部58の平坦面58aから噴出孔55aが延びる方向は、ヘッド部材55上に支持された電極棒11の軸方向と等しくなる。
【0049】
第2挟持片54の挿入孔に挿入されたヘッド部材55は、脚部57を軸として回転させることにより、V字溝56の延びる向きを変更することができる。ヘッド部材55の向きを変更することにより、V字溝56の延びる方向も変更されるため、V字溝56に沿って支持される電極棒11の向きを変更することができる。そのため、作業者は、噴出孔55aからの安定した圧縮空気の吹き飛ばし力と一緒に保持部材50に保持される電極棒11の向きを調節して作業を行うことができる。
【0050】
ヘッド部材55上に支持される電極棒11の直径は特に限定されないが、4〜20mmである。電極棒11の直径が異なるものであっても、保持部材50の第1挟持片53を上下動させることによって、電極棒11を挟持することができる。
【0051】
一対の噴出孔を例として噴出孔55aの配置構成について説明する。
図10に示すように、ヘッド部材55の噴出孔55aの延びる方向、言い換えれば、ヘッド部材55の平坦面58aから噴出孔55aの延びる方向に沿ってヘッド部材55を見て、一対の噴出孔55aの中心同士を繋ぐ第1仮想線L1を引く。また、ヘッド部材55上に支持された状態における電極棒11の軸心Pから、第1仮想線L1に直交するように第2仮想線L2を引く。
【0052】
電極棒11の軸心から第2仮想線L2がV字溝56の頂点56a側へ延びる方向を0°とし、電極棒11の周方向の両側をそれぞれプラスの角度で表す。一対の噴出孔55aの一方は、一方の配置角度α45°の位置に設けられているとともに、一対の噴出孔55aの他方は、他方の配置角度α45°の位置に設けられている。
【0053】
一対の噴出孔55aが設けられる配置角度αは45°に限定されず、電極棒11の周方向の両側において、0°を超え、60°以下の範囲内であることが好ましく、45±15°の範囲内であることがより好ましく、45±10°の範囲内であることがさらに好ましく、45±5°の範囲内であることがさらに好ましい。
【0054】
図10に示すように、第2仮想線L2は、脚部57の軸心Rに重なっている態様を基本とするが、作業に支障がない限り、第2仮想線L2は、脚部57の軸心Rに対して0〜15°の範囲内のずれは許容される。
【0055】
本実施形態の作用について記載する。
ヘッド部材55に設けられた一対の噴出孔55aの配置角度αが、両側の45°であることにより、電極棒11の周囲における噴出孔55aの位置が好適なものとなる。そのため、電極棒11の下側において、アークによって溶融した金属に対して最適に圧縮空気を吹き付けることができる。
【0056】
本実施形態の効果について記載する。
第2実施形態によれば、上記第1実施形態の効果(1)、(3)と同様の効果を得ることができる。
【0057】
第1実施形態及び第2実施形態は、以下のように変更して実施することができる。第1実施形態、第2実施形態、及び、以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0058】
・本実施形態では、圧縮空気を噴出する噴出孔32は一対のみ設けられていたが、噴出孔32は3つであってもよい。
図5に示すように、例えば、ブラスチングトーチにおいて、ヘッド本体33の貫通孔31の延びる方向、言い換えれば、ヘッド本体33の先端面33aから噴出孔32の延びる方向に沿ってヘッド部材30を見て、貫通孔31の周方向に沿って3つの噴出孔32が設けられていてもよい。
【0059】
3つの噴出孔32のうち両側の噴出孔32の中心同士を繋ぐ第3仮想線L3に対して、貫通孔31に支持された状態における電極棒11の軸心Pから直交するように第4仮想線L4を引き、電極棒11の軸心Pから接続部34の軸心Rへ第4仮想線L4が延びる方向を0°とし、電極棒11の周方向の両側をそれぞれプラスの角度で表す。3つの噴出孔32のうち中央の噴出孔32は、0〜15°以下の範囲に設けられている。両側の噴出孔32の一方は、電極棒11の周方向に沿う一方の0°を超え、60°以下の範囲内に設けられているとともに、両側の噴出孔32の他方は、電極棒11の周方向に沿う他方の0°を超え、60°以下の範囲内の一方と同じ角度に設けられている。作業者がトーチ部材20を把持した際に、電極棒11の下側の好適な位置に噴出孔32が位置した態様となる。
【0060】
図11に示すように、例えば、ガウジングトーチにおいて、3つの噴出孔55aのうち両側の噴出孔55aの中心同士を繋ぐ第3仮想線L3に対して、ヘッド部材55に支持された状態における電極棒11の軸心Pから直交するように第4仮想線L4を引く。そして、電極棒11の軸心Pから第4仮想線L4がV字溝56の頂点56a側へ延びる方向を0°とし、電極棒11の周方向の両側をそれぞれプラスの角度で表す。3つの噴出孔55aのうち中央の噴出孔55aは、0〜15°以下の範囲に設けられている。両側の噴出孔55a一方は、電極棒11の周方向に沿う一方の0°を超え、60°以下の範囲内に設けられているとともに、両側の噴出孔55aの他方は、電極棒11の周方向に沿う他方の0°を超え、60°以下の範囲内の一方と同じ角度に設けられている。
【0061】
・本実施形態では、圧縮空気を噴出する噴出孔32は一対のみ設けられていたが、噴出孔は1つのみであってもよい。
図6に示すように、例えば、ブラスチングトーチにおいて、ヘッド本体33の貫通孔31の延びる方向、言い換えれば、ヘッド本体33の先端面33aから噴出孔32の延びる方向に沿ってヘッド部材30を見て、電極棒11の軸心Pから接続部34の軸心Rに沿う第5仮想線L5を引く。電極棒11の軸心Pから第5仮想線L5が延びる方向を0°とし、電極棒11の周方向の両側をそれぞれプラスの角度で表すと、噴出孔32の位置は、0°であってもよいし、0〜15°の範囲内であってもよい。作業者がトーチ部材20を把持した際に、電極棒11の下側の好適な位置に噴出孔32が位置した態様となる。
【0062】
図12に示すように、例えば、ガウジングトーチにおいて、電極棒11の軸心Pからヘッド部材55のV字溝56の頂点56aを通る第5仮想線L5を引く。電極棒11の軸心Pから第5仮想線L5がV字溝56の頂点56a側へ延びる方向を0°とし、電極棒11の周方向の両側をそれぞれプラスの角度で表すと、噴出孔55aの位置は、0°であってもよいし、0〜15°の範囲内であってもよい。作業者がトーチ部材40を把持した際に、電極棒11の下側の好適な位置に噴出孔55aが位置した態様となる。
【実施例】
【0063】
以下、上記実施形態をさらに具体化した実施例について説明する。
(実施例1)
第1実施形態のブラスチングトーチに対して、汎用シミュレーション(ANSYS社Fuluent2019)により、噴出孔から噴射される空気流量と、空気が照射される対象物の圧力分布を評価した。
【0064】
実施例1では、ヘッド本体の外径を38mm、貫通孔の内径を20mmとした。噴出孔は、ヘッド本体の先端面において、ヘッド本体の厚さ方向の略中央部に一対のみ設けられており、噴出孔の内径を4.5mm、噴出孔の配置角度αを両側とも59°とした。
【0065】
(実施例2〜5)
噴出孔の内径をそれぞれ、3mm(実施例2)、6mm(実施例3)、8mm(実施例4)、10mm(実施例5)としたこと以外は、実施例1と同じ形状、配置角度α、噴出圧力を有するものとした。
【0066】
(実施例6)
配置角度αが0°の位置に、実施例1の一対の噴出孔の総断面積と同等の断面積を有する噴出孔が1つのみ設けられていること以外は、実施例1と同じ条件とした。
【0067】
(実施例7)
噴出孔が3つ設けられており、噴出孔の配置角度αを0°と両側の59°としたこと以外は、実施例1と同じ条件とした。なお、3つの噴出孔の総断面積は、実施例1の一対の噴出孔の総断面積と同等とした。
【0068】
(実施例8)
噴出孔の配置角度αを両側とも45°としたこと以外は、実施例1と同じ条件とした。
(実施例9)
噴出孔が3つ設けられており、噴出孔の配置角度αを0°と両側の45°としたこと以外は、実施例1と同じ条件とした。なお、3つの噴出孔の総断面積は、実施例1の一対の噴出孔の総断面積と同等とした。
【0069】
(実施例10、11)
噴出孔の配置角度αを両側とも20°(実施例10)、30°(実施例11)としたこと以外は、実施例1と同じ条件とした。
【0070】
(比較例1、2)
噴出孔の内径をそれぞれ、2mm(比較例1)、12mm(比較例2)としたこと以外は、実施例1と同じ配置角度α、噴出圧力を有するものとした。
【0071】
(比較例3)
噴出孔の配置角度αを両側とも90°としたこと以外は、実施例1と同じ条件とした。
(評価試験)
評価試験1;圧力分布のシミュレーション
シミュレーションの条件として、エアコンプレッサーから供給される圧縮空気の1次側圧力を0.6MPa、電極棒の直径を19mmとした。
【0072】
図19に示すように、ヘッド部材30からアーク放電部である電極棒11の先端までの電極棒長さDを30cmとした。また、電極棒11の先端から、圧縮空気を吹き付ける対象物である平板60までの距離Eを0cmとした。すなわち、電極棒11の先端が平板60に略接していると仮定してシミュレーションを行った。水平の平板60の板面に沿う方向を0°とし、平板60に対する電極棒11の軸方向の傾斜角度βを45°とした。
【0073】
この状態でヘッド部材30から平板60へ圧縮空気を吹き付けた場合の、(1)噴出孔から噴出される圧縮空気の流量(以下、「流量」という。)、(2)溶融金属を吹き飛ばす力を表すため圧縮空気が平板60に当たり平板60に加わる力の最大点(以下、「最大圧力」という。)、及び、(3)平板60に加わる圧力分布(以下、「圧力分布」という。)について評価した。
【0074】
評価試験2;水平方向への流速のシミュレーション
実施例1、6、8について、噴出孔から噴出された圧縮空気の電極棒径方向への流速を評価した。
【0075】
シミュレーションの条件は、評価試験1と同じ条件とした。
図19に示すように、平板60を鉛直方向から見た際に、電極棒11の軸線が平板60に重なる線を仮想線Fとした。この仮想線Fに沿う方向であって、電極棒の傾斜した側、すなわち、
図19の矢印A側からの方向をシミュレーションの視点とした。
【0076】
評価試験3;エアー荷重の測定
実施例1、6、8のブラスチングトーチについて、実際に噴出孔から圧縮空気を噴出して、平板にかかる荷重を測定した。
【0077】
図19に示すように、電極棒11のヘッド部材30からアーク放電部である電極棒11の先端までの電極棒長さDを10cm、20cm、30cmの3種類とした。また、電極棒11の先端から、圧縮空気を吹き付ける平板60までの距離Eを3cmとした。平板60に対する電極棒11の傾斜角度βを45°と90°の2種類とした。圧縮空気の1次側圧力を0.8MPaとした。平板60の下面に秤を配置して、圧縮空気を吹き付けた際の荷重を測定した。各水準で3回試験を行い、荷重の平均値を求めた。
【0078】
(評価結果)
図13は、上記評価試験1における(3)圧力分布の評価結果を示している。
図13は、圧力分布を上方から表示している。白抜きの楕円形部分が電極棒を表している。電極棒の周囲における楕円形の部分が、圧力分布を表している。
図13より、比較例1では、対象物に加わる圧力分布が小さくなっていた。これに対し、実施例1では、相対的に圧力分布が大きくなっていた。
【0079】
図14〜16は、上記(1)流量と、(2)最大圧力の評価結果を示している。
具体的には、実施例1の(1)流量と(2)最大圧力をそれぞれ1として、各実施例及び比較例の流量、最大圧力、及び、最大圧力/流量を、実施例1との比で評価した。最大圧力/流量の値が高いと、圧縮空気をより効率良く対象物に噴射することができるため、コンプレッサーの消費電力を低減することが可能になる。そのため、最大圧力/流量は、圧縮空気を効率良く対象物に噴射する指標となる。以下、最大圧力/流量の値を「噴射効率」という。
【0080】
図14は、噴出孔の内径に対する変化を示す。
図15は、一対の噴出孔の配置角度αが59°である場合の、噴出孔の孔数に対する変化を示す。
【0081】
図16は、一対の噴出孔の配置角度αが45°である場合の、噴出孔の孔数に対する変化を示す。
図17は、一対の噴出孔の配置角度αに対する変化を示す。
【0082】
図14〜17に示すように、比較例1〜3では、それぞれ、噴射効率が0.88、0.89、0.79と0.9未満であった。これに対し、実施例1〜11は、いずれも噴射効率が0.9以上であることが確認された。
【0083】
図20は、上記評価試験2におけるシミュレーション結果を示している。
図20は、
図19の矢印Aで示した視点において、電極棒軸中心の右側のシミュレーション結果を示している。シミュレーションは、電極棒軸中心の右側のみで行っており、左側のシミュレーションは省略している。
【0084】
図20において、グラデーションで表された領域Gが圧縮空気を表している。圧縮空気は、ヘッド部材30から下方に向かって噴出した後、平板60に当たって電極棒11の径方向である右方向へと流れている。また、グラデーションで表された領域Gにおいて、色の濃い箇所が、流速が大きいことを意味する。
【0085】
図20に示すように、実施例6では、平板60に向かって流れる圧縮空気において、右方向へ約1m/秒の流速が生じていた。この約1m/秒の流速は、ヘッド部材30から平板60までの間において、略一定で安定していた。
【0086】
これに対して、噴出孔の数が2つである実施例1、8では、ヘッド部材30から平板60までの間におけるヘッド部材30により近い領域G1において、左方向へ約1m/秒の流速が生じていた。また、ヘッド部材30から平板60までの間における平板60により近い領域G2において、右方向へ約1m/秒の流速が生じていた。実施例1、8では、2つの噴出孔から噴出された圧縮空気に対して、互いに引き合う作用が生じることによって、左方向への流れが生じたと推測される。噴出孔の数が1つである実施例6の方が、左右方向の流れがより安定していることが確認された。
【0087】
図21、22は、上記評価試験3における測定結果を示している。
図21は、平板60に対する電極棒11の傾斜角度βを45°とした態様の測定結果である。
【0088】
図22は、平板60に対する電極棒11の傾斜角度βを90°とした態様の測定結果である。
図21、22より、平板60に対する電極棒11の傾斜角度βは、45°よりも90°の方が、平板にかかるエアー荷重が大きくなる傾向があった。また、噴出孔の数が1つである実施例6は、噴出孔の数が2つである実施例1、8に比べてエアー荷重が大きくなっていた。さらに、実施例6は、実施例1、8に比べて、電極棒長さDの変化による荷重の変化が小さいことが確認された。以上の結果から、噴出孔の数が1つである実施例6は、噴出孔の数が2つである実施例1、8に比べて、電極棒長さDによる影響を小さくして平板にかかるエアー荷重を相対的に大きくできることが確認された。言い換えれば、より効率良く圧縮空気を吹き付けられることが確認され、電極棒の長さ変化に影響を受けることなく、安定した吹き飛ばし力が得られる。