(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-160521(P2021-160521A)
(43)【公開日】2021年10月11日
(54)【発明の名称】巨大タンカーのタンク構造
(51)【国際特許分類】
B63B 25/08 20060101AFI20210913BHJP
B63B 3/58 20060101ALI20210913BHJP
【FI】
B63B25/08 N
B63B3/58
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2020-63317(P2020-63317)
(22)【出願日】2020年3月31日
(11)【特許番号】特許第6730542号(P6730542)
(45)【特許公報発行日】2020年7月29日
(71)【出願人】
【識別番号】391058082
【氏名又は名称】株式会社名村造船所
(74)【代理人】
【識別番号】100091443
【弁理士】
【氏名又は名称】西浦 ▲嗣▼晴
(74)【代理人】
【識別番号】100130720
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼見 良貴
(74)【代理人】
【識別番号】100130432
【弁理士】
【氏名又は名称】出山 匡
(72)【発明者】
【氏名】日本貴 秀一
(72)【発明者】
【氏名】田中 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】中森 隆一
(57)【要約】
【課題】従来よりも安価に且つ巨大タンカーの重量を増大させることなく、センタータンク内にクロスタイが無い巨大タンカーのタンク構造を提供する。
【解決手段】本発明は、船底外殻9および船底内殻11からなる二重船底3と船側外殻13および船側内殻15からなる二重船側壁5とを備えたダブルハル構造の船殻を有している巨大タンカーを対象にしている。巨大タンカーが備えているタンクユニット7は、センタータンク23と2つのウイングタンク25が3つ並んで配置されている。ウイングタンク内には、船側内殻15と、船底内殻11と長手隔壁17とに結合された状態で2枚の制水板31,31が配置されている。2枚の制水板31,31は、垂直ウエブ27と補強ウエブ29とに対向する位置に進行方向に間隔をあけて設けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船底外殻および船底内殻からなる二重船底と船側外殻および船側内殻からなる二重船側壁とを備えたダブルハル構造の船殻の内部に、前記船底内殻、前記船側内殻、進行方向に延びる2つの長手隔壁、前記進行方向と直交する幅方向に延びる2つの横隔壁及びデッキによって囲まれるセンタータンクと2つのウイングタンクからなるタンクユニットが、前記進行方向に少なくとも3つ以上並んで配置されており、
前記長手隔壁と前記船底内殻と前記デッキに結合された垂直ウエブが前記センタータンク内に前記進行方向に間隔をあけて9本以上設けられており、
前記船底外殻、前記船底内殻、前記船側外殻及び前記船側内殻に結合された補強ウエブが、1つの前記ウイングタンクに対応して前記進行方向に間隔をあけて9本以上設けられており、
前記センタータンク内において前記幅方向に対向する2本の前記垂直ウエブ同士がクロスタイで連結されていない巨大タンカーのタンク構造であって、
前記ウイングタンク内には、前記船側内殻と、前記船底内殻と前記長手隔壁とに結合された状態で2枚の制水板が配置されており、
前記2枚の制水板は、前記垂直ウエブと前記補強ウエブとに対向する位置に前記進行方向に間隔をあけて設けられていることを特徴とする巨大タンカーのタンク構造。
【請求項2】
前記2枚の制水板が、同じ形状寸法を有している請求項1に記載の巨大タンカーのタンク構造。
【請求項3】
前記9本以上の垂直ウエブと前記9本以上の補強ウエブとは、前記幅方向に対向する位置にそれぞれ設けられている請求項1に記載の巨大タンカーのタンク構造。
【請求項4】
前記2枚の制水板によって分けられる前記ウイングタンク内の3つの区画を前記進行方向後方からA区画,B区画及びC区画とし、前記A区画,前記B区画及び前記C区画の前記進行方向の長さ寸法の合計を100とした場合に、前記2枚の制水板は、前記A区画及び前記C区画が、27以上40以下になる位置に配置されている請求項1乃至3のいずれか1項に記載の巨大タンカーのタンク構造。
【請求項5】
前記2枚の制水板は、前記船側内殻と前記船底内殻との交点及び前記長手隔壁と前記船底内殻との交点を挟んで、前記船側内殻と、前記船底内殻と前記長手隔壁とに結合されている請求項1乃至4のいずれか1項に記載の巨大タンカーのタンク構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センタータンク内にクロスタイが無い巨大タンカーのタンク構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許第5746755号公報(特許文献1)には、従来のセンタータンク内にクロスタイが無い巨大タンカー(VLCC(Very Large Crude oil Carrier)と呼ばれる30万載貨重量トンを超えるタンカー)のタンク構造が開示されている。この従来の巨大タンカーのタンク構造では、タンクの内部を分割するために船殻の長手方向に配列された長手隔壁と、船殻の高さ方向にて長手隔壁に結合されており、タンクの全高の0.15倍から0.20倍の幅を有している複数の垂直ウエブと、船殻の長手方向に沿って複数の垂直ウエブ間に配列された水平ガーダと、を備えている。そして水平ガーダの端部には第2補強部が一体的に提供されており、第2補強部の幅は徐々に増大し、自由端部は丸形部に形状化されており、第2補強部は垂直ウエブに結合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5746755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら垂直ウエブとしてタンクの全高の0.15倍から0.20倍の幅を有するものを用いる場合、タンクの全高を25mとすると、垂直ウエブの幅は3.75m〜5mになる。このような幅寸法の垂直ウエブを溶接代を含めて切断加工により得ようとすると、4mより幅寸法が大きな鋼材を特注で用意して加工する必要があるか、切断加工と溶接を用いて必要な幅寸法を確保する必要がある。このような幅広の垂直ウエブを、例えば片側10枚ずつ設けると、材料費及び加工費が高くなるだけでなく、巨大タンカーの重量がかなり増大する問題が発生する。
【0005】
本発明の目的は、従来よりも安価に且つ巨大タンカーの重量を増大させることなく、センタータンク内にクロスタイが無い巨大タンカーのタンク構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明が改良の対象とする巨大タンカーは、船底外殻および船底内殻からなる二重船底と船側外殻および船側内殻からなる二重船側壁とを備えたダブルハル構造の船殻を有している。そしてタンク構造では、船殻の内部に、船底内殻、船側内殻、進行方向に延びる2つの長手隔壁、進行方向と直交する幅方向に延びる2つの横隔壁及びデッキによって囲まれるセンタータンクと2つのウイングタンクからなるタンクユニットが、進行方向に少なくとも3つ以上並んで配置されている。そして長手隔壁と船底内殻とデッキに結合された垂直ウエブがセンタータンク内に進行方向に間隔をあけて9本以上設けられており、船底外殻、船底内殻、船側外殻及び船側内殻に結合された補強ウエブが、1つのウイングタンクに対応して進行方向に間隔をあけて9本以上設けられている。またセンタータンク内において幅方向に対向する2本の垂直ウエブ同士がクロスタイで連結されていない。
【0007】
本発明では、上記のような巨大タンカーのタンク構造において、ウイングタンク内には船側内殻と、船底内殻と長手隔壁とに結合された状態で2枚の制水板が配置されており、2枚の制水板は、垂直ウエブと補強ウエブとに対向する位置に進行方向に間隔をあけて設けられている。このように2枚の制水板をウイングタンク内に配置すると、2枚の制水板がそれぞれ垂直ウエブ及び補強ウエブと幅方向に並ぶことにより、垂直ウエブの幅寸法を大きく変更することなく、センタータンクとウイングタンクの変形を抑えて、センタータンクのクロスタイレス化を実現することができる。
【0008】
2枚の制水板は、同じ形状寸法を有しているのが好ましい。このようにすると形状の異なる部品の数を増やす必要がないので、コストの低減化に寄与する。
【0009】
また9本以上の垂直ウエブと9本以上の補強ウエブとは、幅方向に対向する位置にそれぞれ設けられているのが好ましい。このようにすれば2枚の制水板を平行に配置することができるので、バランスが良い構造を実現できる。
【0010】
2枚の制水板によって分けられるウイングタンク内の3つの区画を進行方向後方からA区画,B区画及びC区画とし、A区画,B区画及びC区画の進行方向の長さ寸法の合計を100とした場合に、2枚の制水板は、A区画及びC区画が、27以上40以下になる位置に配置されているのが好ましい。このような比率範囲であれば、2枚の制水板の両側の二重船側壁及び長手隔壁の変形をバランス良く抑制できる。
【0011】
2枚の制水板は、船側内殻と船底内殻との交点及び長手隔壁と船底内殻との交点を挟んで、船側内殻と、船底内殻と長手隔壁とに結合されているのが好ましい。このようにすると制水板の補強効果を最大限発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】巨大タンカーのタンク構造の一例を、一部を破断した状態で示す概略の斜視図である。
【
図2】
図1に示したII-II線に沿った端面図である。
【
図3】
図2に示した補強ウエブに沿ったIII-III線に沿った端面図である。
【
図4】
図2に示した制水板に沿ったIV-IV線に沿った端面図である。
【
図5】(A)は、センタータンク内にクロスタイが設置されている従来のタンクユニットの構造強度を示す変形図であり、(B)は、センタータンク内のクロスタイレス化を実現した本実施の形態のタンクユニットの構造強度を示す変形図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の巨大タンカーのタンク構造の実施の形態を詳細に説明する。
【0014】
図1は、巨大タンカーのタンク構造の一例を、一部を破断した状態で示す概略の斜視図であり、
図2は、
図1に示したII-II線に沿った端面図であり、
図3は、
図2に示した補強ウエブに沿って設定したIII-III線に沿った端面図であり、
図4は、
図2に示した制水板に沿って設定したIV-IV線に沿った端面図である。
【0015】
図1及び
図2に示すように、本実施の形態の巨大タンカーのタンク構造1は、二重船底3と、二重船側壁5とを備えたダブルハル構造であり、タンカーの進行方向に3つのタンクユニット7(船首から7A,7B,7Cとする。以下では、特に区別しない場合には、単に「タンクユニット7」とする)が並んで配置された構造を有している。各タンクユニット7は、幅方向に2つのウイングタンク25,25(以下では、区別する場合は、図示において左側をウイングタンク25a、右側をウイングタンク25bとする)とセンタータンク23とを有している。各タンク23,25内には、輸送対象の重油等の流体が充填される。
図1に図示した第1の方向D1が巨大タンカーの進行方向であり、進行方向と直交する第2の方向D2が幅方向であり、第1の方向D1及び第2の方向D2と直交する第3の方向D3が上下方向である。本実施の形態では、各タンクユニット7の長手方向の寸法L(2つの横隔壁19,19間の距離)は約50m、幅方向の寸法W(船側外殻13,13間の距離)は約60m、高さ方向の寸法H(船底外殻9からデッキ21までの距離)は約29mである。
【0016】
二重船底3は、船底外殻9及び船底内殻11からなり、二重船側壁5は、船側外殻13及び船側内殻15からなる。船底内殻11と船側内殻15の間には、両者をつなぐ中間内壁16が延びている。船殻を形成する鋼板の板厚は、約18.5mmである。二重船底3及び二重船側壁5の内部スペースは、バラスト水を注入するバラストタンクとして機能する。1つのタンクユニット7は、船底内殻11、船側内殻15、進行方向D1に延び且つ幅方向D2に間隔をあけて配置された2つの長手隔壁17,17、進行方向D1と直交する幅方向D2に延びる2つの横隔壁19,19及びデッキ21によって囲まれる1つのセンタータンク23と2つのウイングタンク25,25からなる。
図1では、進行方向D1手前のタンクユニット7の一部を破断した状態で示してあり、手前(船尾側)のタンクユニット7Cの内部が見える状態に図示してある。
【0017】
センタータンク23内には、2つの長手隔壁17,17のぞれぞれに沿って、長手隔壁17と船底内殻11とデッキ21に結合された10本の垂直ウエブ27が進行方向D1に一定の間隔をあけて設けられている。両方の長手隔壁17に設けられた垂直ウエブ27の数は、合計で20本である。各垂直ウエブ27の下側端部には、船底内殻11に向かって徐々に高さ寸法が小さくなるように幅方向に延びる延長部27Aが一体に設けられている。各垂直ウエブ27の上側端部とデッキ21との間にもデッキ21に向かって徐々に高さ寸法が小さくなるように幅方向に延びる延長部27Bが一体に設けられている。本実施の形態では、特許文献1のタンカーと同様に、センタータンク23内において幅方向に対向する2本の垂直ウエブ27同士がクロスタイで連結されていない。
【0018】
二重船底3及び二重船側壁5内には、船底外殻9、船底内殻11、船側外殻13及び船側内殻15(本実施の形態では、さらに中間壁部16)に結合された10本の補強ウエブ29が、1つのウイングタンク25に対応して進行方向に間隔をあけて設けられている。なお、
図3に示すように、補強ウエブ29のそれぞれは、船側外殻13及び船側内殻15に結合された第1補強ウエブ部29Aと、船側外殻13、船側内殻15及び中間壁部16に結合され、中央部分に軽量化のための貫通孔を有する第2補強ウエブ部29Bと、船底外殻9及び船底内殻11に結合されたウイングタンク側の第3補強ウエブ部29Cと、センタータンク側の第4補強ウエブ部29Dから構成されている。本明細書においては、これら第1乃至第4の補強ウエブ29A〜29Dを合わせて1本の補強ウエブ29と表現している。垂直ウエブ27と補強ウエブ29は、幅方向に対向する位置にそれぞれ設けられている。
【0019】
図1、
図2及び
図4に示すように、左右のウイングタンク25,25のそれぞれ内には、船側内殻15と、船底内殻11と長手隔壁17とに結合された状態で2枚の制水板31,31が進行方向D1に間隔をあけて配置されている。2枚の制水板31,31のそれぞれには、ウイングタンク25内に貯留される流体が通過する貫通孔31Aが設けられている。2枚の制水板31,31は、1つのウイングタンク25を進行方向D1に3分割するように、1つの垂直ウエブ27と1つの補強ウエブ29(29A及び29B、29C)とに対向する位置に設けられている。2枚の制水板によって分けられるウイングタンク内の3つの区画を進行方向後方からA区画,B区画及びC区画とし、A区画,B区画及びC区画の進行方向の長さ寸法の合計(A+B+C)を100とした場合に、A区画及びC区画の長さ寸法が、27以上40以下になる位置に2枚の制水板31,31は配置されている。本実施の形態では、より具体的には、2枚の制水板31,31は、A:B:C=36:28:36になるように配置されている。2枚の制水板31,31は、船側内殻15と船底内殻11との交点及び長手隔壁17と船底内殻11との交点を挟んで(本実施の形態では、中間壁部16に沿って)、船側内殻15と、船底内殻11と長手隔壁17とに結合されている。
【0020】
本実施の形態では、2枚の制水板31,31は同じ形状寸法を有している。したがって、製造が容易である。2枚の制水板31,31の高さ寸法hは、ウイングタンク25の高さ寸法のほぼ半分の寸法を有している。そして2枚の制水板31,31の上端の幅方向の両端には、上方に向かって幅寸法が小さくするテーパ部31Bがそれぞれ設けられている。
【0021】
<構造強度>
図5(A)は、センタータンク23´内にクロスタイが設置されている従来のタンクユニットの構造強度を示す変形図であり、(B)は、センタータンク23内のクロスタイレス化を実現した本実施の形態のタンクユニットの構造強度を示す変形図である。これらの変形図はコンピュータでシミュレーションしたものであり、この図では、理解を容易にするために、変形した寸法を実際の150倍に強調して図示してある。
図5(A),(B)共に、
図2に相当する端面図であり、3つのタンクユニット7のうち、中央に位置するタンクユニット7Bの変形を主に示している。
図5(A)には、本実施の形態の部材と対応する部材には、本実施の形態に付した符号に「´」を付した符号を付してある。なお、
図5(B)では、センタータンク23内の垂直ウエブ27の図示は省略してある。
【0022】
この例では、タンクユニット内の壁部に過酷な応力が加わる状況の1つ、すなわち、中央のタンクユニット7B,7B´は、左側のウイングタンク25a,25a´のみ流体で満たされており、船尾側及び船首側のタンクユニット7A,7C,7A´,7C´は、右側のウイングタンク25b,25b´のみ流体で満たされた状態を例にしている。この例で中央のタンクユニット7,7´で最も変形する箇所は、左側のウイングタンク25a,25a´の長手隔壁17,17´である。そのため、この箇所の変形度合いを比較すると、(A)の従来の場合に、左側のウイングタンク25a´では、長手隔壁17´は、最大で30.3mmセンタータンク23´側に変形したのに対して、(B)の本実施の形態の場合には、左側のウイングタンク25aでは、長手隔壁17は、最大で18.6mmセンタータンク23側に変形する程度で収まっている。このシミュレーション結果から、本実施の形態により、センタータンク23内のクロスタイレス化を実現しながら、十分な強度を得られることがわかる。
【0023】
上記実施の形態は、一例として記載したものであり、その要旨を逸脱しない限り、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明によれば、従来よりも安価に且つ巨大タンカーの重量を増大させることなく、センタータンク内にクロスタイが無い巨大タンカーのタンク構造を提供することができる。
【符号の説明】
【0025】
1 タンク構造
3 二重船底
5 二重船側壁
7 タンクユニット
9 船底外殻
11 船底内殻
13 船側外殻
15 船側内殻
16 中間内壁
17 長手隔壁
19 横隔壁
21 デッキ
23 センタータンク
25 ウイングタンク
27 垂直ウエブ
27A 延長部
27B 延長部
29 補強ウエブ
31 制水板
31A 貫通孔
31B テーパ部