【解決手段】樹脂、鱗片状顔料及び顔料分散剤を含む塗料組成物であって、前記塗料組成物の不揮発分中における鱗片状顔料の含有量が10〜50質量%であり、前記塗料組成物から塗膜を基材上に形成させた場合において、塗膜中における鱗片状顔料の基材表面に対する傾き角度の平均が12.5°以下であり、且つ、塗膜中における鱗片状顔料の充填率が40〜95面積%以上であることを特徴とする塗料組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の塗料組成物を詳細に説明する。本発明の塗料組成物は、樹脂、鱗片状顔料及び顔料分散剤を含む塗料組成物であって、前記塗料組成物の不揮発分中における鱗片状顔料の含有量が10〜50質量%であり、前記塗料組成物から塗膜を基材上に形成させた場合において、塗膜中における鱗片状顔料の基材表面に対する傾き角度の平均が12.5°以下であり、且つ、塗膜中における鱗片状顔料の充填率が40〜95面積%であることを特徴とする。
【0018】
本発明の塗料組成物において、不揮発分とは、水や有機溶剤等の揮発する成分を除いた成分を指し、最終的に塗膜を形成することになる成分である。本発明の塗料組成物は、この不揮発分中における鱗片状顔料の含有量が高く、10〜50質量%である。
なお、本明細書においては、塗料組成物を105℃で60分乾燥させた際に残存する成分を不揮発分として取り扱う。
【0019】
本発明の塗料組成物は、環境遮断性を向上させる観点から、上記のとおり不揮発分中における鱗片状顔料の含有量が高い塗料組成物であるが、塗膜中における鱗片状顔料の傾き角度の平均及び塗膜中における鱗片状顔料の充填率を制御することで、上塗り塗膜の外観、特には塗膜のつやの低下を抑えることができる。
なお、本明細書において、環境遮断性とは、構造物が曝露される環境中に存在し、金属に対する腐食性を示す水や酸素、塩化物イオン等の成分を遮断することで、金属の腐食を抑制する機能を意味する。
【0020】
具体的に、本発明の塗料組成物は、該塗料組成物から塗膜を基材上に形成させた場合において、塗膜中における鱗片状顔料の基材表面に対する傾き角度の平均が12.5°以下であり、12.0°以下であることが好ましく、11.0°以下であることが更に好ましい。上記傾き角度の平均値を下げることで、上塗り塗膜の外観の低下を抑える効果は向上し、更に環境遮断性を向上させることもできる。上記傾き角度は最大値が90°であり、最低値は0°である。傾き角度が90°である鱗片状顔料は、基材表面に対して垂直に存在し、傾き角度が0°である鱗片状顔料は、基材表面と平行に存在していることを意味する。
【0021】
本明細書において「塗膜中における鱗片状顔料の基材表面に対する傾き角度」は、基材上に形成された塗膜の断面画像を取得することで求めることができる。本明細書において鱗片状顔料の傾きは、鱗片状顔料の断面画像において最大距離を示す直線によって表され、該直線の基材表面に対する角度を「塗膜中における鱗片状顔料の基材表面に対する傾き角度」とする。また、本明細書において、上記傾き角度の平均は、走査型電子顕微鏡(SEM)で取得した塗膜の断面画像に写る鱗片状顔料の全てを対象として求める。具体的な測定方法については以下に説明するが、例えば特許第4387165号に記載される方法を利用することが可能である。
【0022】
また、本発明の塗料組成物は、該塗料組成物から塗膜を基材上に形成させた場合において、塗膜中における鱗片状顔料の充填率が40〜95面積%であり、60〜95面積%であることが好ましく、70〜95面積%であることが更に好ましい。上記鱗片状顔料の充填率が高いと、鱗片状顔料が塗膜中に密に存在し、空隙も少なくなるため、上塗り塗膜の外観の低下を抑える効果及び環境遮断性を付与する効果を向上させることができる。
【0023】
本明細書において「塗膜中における鱗片状顔料の充填率」とは、塗膜の断面(但し、塗膜に空隙が生じている場合は塗膜と空隙とを合わせた断面)に占める鱗片状顔料の割合を指し、基材上に形成された塗膜の断面画像を取得することで求めることができる。
具体的には、「塗膜中における鱗片状顔料の充填率(面積%)」=「塗膜の断面画像に写る鱗片状顔料が存在する部分の面積」÷「塗膜の断面画像に写る塗膜断面の面積(ただし、塗膜中の空隙を含む)」×100の関係式により、「塗膜中における鱗片状顔料の充填率」を求めることができる。
また、「塗膜の断面画像に写る鱗片状顔料が存在する部分の面積」の測定方法としては、塗膜の断面画像に写る鱗片状顔料を1個1個手動で塗りつぶして面積の合計を求める手法もあるが、この手法は効率的ではない。このため、本明細書においては、はじめに走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光装置(SEM/EDX)または電子線マイクロアナライザ(EPMA)のような元素マッピング分析が出来るような装置を用いて、塗膜断面中の鱗片状顔料に特徴的な元素(マイカならAl、タルクならMg等)の存在するエリアを抽出して取得し、その画像より「塗膜の断面画像に写る鱗片状顔料が存在する部分の面積」を求める。
【0024】
本明細書において「塗膜中における鱗片状顔料の基材表面に対する傾き角度の平均」及び「塗膜中における鱗片状顔料の充填率」の具体的な測定方法としては、以下のとおりである。
(1)塗膜の形成
常法により基材を塗装して、測定用の塗膜を形成させることができる。本明細書においては、多(2)液型塗料の各液を攪拌し均一液体とした後、それぞれの塗料に適した希釈剤を用いて塗料粘度を調整する。調整後の塗料を吹付け塗り(エアスプレー塗装)によって塗装し、塗装後の塗膜を十分に乾燥させ測定用の塗膜を用意する。尚、塗装膜厚はそれぞれの塗料に適した任意の膜厚とすることができる。
(2)塗膜の断面画像の取得
走査型電子顕微鏡(SEM)による二次電子像を用いて塗膜の断面画像を取得することができる。本明細書においては、まず、前処理として、塗膜をエポキシ樹脂中に包埋し固定化し、次いで、研磨機を用いて塗膜断面を露出させ、滑らかに整え、その後、炭素蒸着処理を行う。塗膜の断面画像は、この前処理を行った試料について走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて取得する(観察倍率x1000、塗膜幅150μm程度)。
※ 炭素蒸着処理 … 絶縁体試料の場合、SEM観察時にはチャージアップという帯電現象が起き、綺麗に観察できなくなることから、これを避けるため、試料表面に炭素(導電性)の薄い膜を形成する前処理を意味する。
※ SEMは、日立ハイテクノロジーズ社製のSU−70を使用した。
(3)塗膜中における鱗片状顔料の基材表面に対する傾き角度の平均の測定方法
SEMで取得した塗膜の断面画像(観察倍率x1000、塗膜幅150μm程度)に写る鱗片状顔料の全てについて、画像処理ソフトを使用して傾きを測定し、平均値を求める。
(4)塗膜中における鱗片状顔料の充填率の測定方法
上記(2)に記載の前処理を行った試料について、電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いて、塗膜の断面画像(二次電子像,観察倍率x1000、塗膜幅150μm程度)の取得と元素のマッピング分析を行う。(例えば、マイカの場合はAl、タルクの場合はMgをマッピング対象の元素に選択できる。元素は試料に合わせて任意に選択可能である。)
次いで、画像処理ソフトを利用し、二次電子像より「塗膜の断面画像に写る塗膜断面の面積(ただし、塗膜中の空隙を含む)」を求める。また、元素マッピング図より「塗膜の断面画像に写る鱗片状顔料が存在する部分の面積」を求める。そして、「塗膜中における鱗片状顔料の充填率(面積%)」=「塗膜の断面画像に写る鱗片状顔料が存在する部分の面積」÷「塗膜の断面画像に写る塗膜断面の面積(ただし、塗膜中の空隙を含む)」×100の関係式により、「塗膜中における鱗片状顔料の充填率」を求める。
※ EPMAは、島津製作所社製のEPMA−1720を使用した。
※ 塗膜断面の画像取得位置と元素マッピング分析位置は、同一箇所であることが必要である。
※ 元素マッピング図より求められる「塗膜の断面画像に写る鱗片状顔料が存在する部分の面積」は、実際の「塗膜の断面画像に写る鱗片状顔料が存在する部分の面積」を正確に表していなければならない。そのため、走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光装置(SEM/EDX)または電子線マイクロアナライザ(EPMA)のような元素マッピング分析が出来るような装置は、空間分解能(元素情報を取得する点の細かさ)が適切に高い必要があり、また、測定条件(積算回数)も適切に設定する必要がある。
【0025】
本発明の塗料組成物においては、顔料分散剤を適宜選択することで、鱗片状顔料の分散性を改善し、鱗片状顔料の含有量が高い塗料組成物であっても、塗膜中における鱗片状顔料の基材表面に対する傾き角度の平均を低下させ、且つ、塗膜中における鱗片状顔料の充填率を増加させることができる。特に、酸性の吸着基を有し、酸価が10〜150mgKOH/gである顔料分散剤を用いることが好ましく、該顔料分散剤を配合することで、鱗片状顔料の配向性を向上させることができる。また、鱗片状顔料の表面処理・形状・リーフィング/ノンリーフィング、塗料組成物中の不揮発分の割合、レベリング剤などを適切に選択することも、傾き角度の低下や充填率の増加に有効である。
【0026】
本発明の塗料組成物は、樹脂を含む。樹脂としては、塗料業界において通常使用されている樹脂を例示することができ、具体的には、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、スチレンアクリル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、ふっ素樹脂、ロジン樹脂、石油樹脂、クマロン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、セルロース樹脂、キシレン樹脂、アルキド樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、ブチラール樹脂、マレイン酸樹脂、フマル酸樹脂、ビニル樹脂、アミン樹脂、ケチミン樹脂等が挙げられる。これら樹脂は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
本発明の塗料組成物において、不揮発分中における樹脂の含有量は、例えば15〜50質量%であることが好ましい。
【0028】
本発明の塗料組成物に用いる樹脂は、変性樹脂を含むことが好ましい。変性された樹脂を用いることで、顔料の分散安定性を向上させることができる。変性樹脂の具体例としては、アルキル変性、アルキルエーテル変性、アルキルフェノールノボラック変性、アクリル変性、脂肪酸変性、ウレタン変性、アミノ変性、イソシアネート変性、シリコーン変性、その他アリル基を利用したグラフト変性等の変性がされている樹脂(好ましくはエポキシ樹脂、水酸基を含む樹脂等)が挙げられる。ここで、水酸基を含む樹脂としては、水酸基含有アクリル樹脂、水酸基含有アクリルシリコーン樹脂及び水酸基含有ふっ素樹脂等が挙げられる。
【0029】
本発明の塗料組成物において、不揮発分中における変性樹脂の含有量は、例えば1〜15質量%であることが好ましい。
【0030】
本発明の塗料組成物は、硬化剤を含むことができる。硬化剤としては、使用する樹脂の種類に応じて適宜選択され、塗料業界において通常使用されている硬化剤を使用できる。これら硬化剤は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。硬化剤の含有量は、樹脂に含まれる硬化剤との反応性基の量に応じて適宜調整されるものであるが、本発明の塗料組成物において、不揮発分中における硬化剤の含有量は、例えば1〜15質量%であることが好ましい。
【0031】
例えば、水酸基を含む樹脂に対しては、イソシアネート系硬化剤が好適に使用できる。具体例としては、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の他、これらポリイソシアネートの変性体が挙げられる。変性体の具体例としては、ビウレット変性体、イソシアヌレート変性体、アダクト変性体(例えばトリメチロールプロパン付加物)、アロファネート変性体、ウレトジオン変性体等が挙げられる。
また、エポキシ樹脂に対しては、アミン系硬化剤が好適に使用できる。具体例としては、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、トリアミノプロパン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イソホロンジアミン、及び1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン等の脂肪族ポリアミン;フェニレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、及びジアミノジフエニルメタン等の芳香族ポリアミン;ポリオキシエチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、トリエチレングリコールジアミン、及びトリプロピレングリコールジアミン等の他のポリアミン化合物と、これらアミン化合物のアミノ基を変性してなる変性ポリアミン化合物とが挙げられる。なお、上記アミン化合物の変性には、既知の方法が利用でき、変性反応の例としては、アミノ基のアミド化、アミノ基とカルボニル化合物のマンニッヒ反応、アミノ基とエポキシ基の付加反応等が挙げられる。ここで、アミノ基にエポキシ基等が付加したタイプの変性ポリアミン化合物をアダクトタイプの変性ポリアミン化合物といい、アミノ基にエポキシ基が付加したエポキシアダクトタイプの変性ポリアミン化合物が好ましい。
【0032】
本発明の塗料組成物は、鱗片状顔料を含む。鱗片状顔料は、箔のような薄く平らな形状をした顔料であり、その具体例としては、亜鉛、ニッケル、クロム、錫、銅、銀、白金、金、アルミニウム等の金属顔料や、ガラスフレーク、タルク、マイカ、カオリンクレー、雲母状酸化鉄等が挙げられる。なお、金属顔料には、ステンレス等の合金の顔料も含まれる。また、鱗片状顔料、例えばタルクやマイカは、酸化チタン等の金属酸化物で表面処理されていてもよい。特に、アルミニウム(アルミフレーク)、ガラスフレーク、マイカは比較的アスペクト比が高いという特徴を有していることから、環境遮断性の向上を目的とした鱗片状顔料として好適であり、中でもマイカは更に好適であり、一種単独で用いてもよく、その他の顔料を含む二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
上記鱗片状顔料は、環境遮断性を向上させる観点から、アスペクト比が30〜100であることが好ましく、50〜100であることが更に好ましい。
なお、本明細書において、鱗片状顔料のアスペクト比とは、鱗片状顔料の平均粒径(D)と平均厚み(T)との比(D/T)をいう。ここで、平均粒径とは、体積基準粒度分布の50%粒子径(D
50)を指し、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定される粒度分布から求められる。上記鱗片状顔料の粒子径は、レーザ回折・散乱法による球相当径で表される。また、本明細書において、平均厚みとは、SEM(走査電子顕微鏡)を用いて100個以上の鱗片状顔料の厚みを測定し、これらの厚みの平均値をいう。
【0034】
上記鱗片状顔料は、平均粒径が10〜100μmであることが好ましく、20〜60μmであることが更に好ましい。鱗片状顔料の平均粒径が大きすぎると、塗膜内での配向性が低下することで、鱗片状顔料の傾きが増加し充填率が低下する ため、鱗片状顔料の平均粒径は上記特定した範囲であることが好ましい。
本明細書において、鱗片状顔料の平均粒径とは、上記のとおり、体積基準粒度分布の50%粒子径(D
50)を指し、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定される粒度分布から求められる。上記鱗片状顔料の粒子径は、レーザ回折・散乱法による球相当径で表される。
【0035】
本発明の塗料組成物において、不揮発分中における鱗片状顔料の含有量は、環境遮断性を向上させる観点から、10〜50質量%であることが好ましく、20〜50質量%であることが更に好ましい。
【0036】
本発明の塗料組成物は、顔料分散剤を含む。一般に、顔料分散剤は、顔料の表面に吸着されて、顔料の湿潤性を増して顔料の分散性を助長するものである。
本発明の塗料組成物に用いる顔料分散剤は、カルボキシ基等の酸性の吸着基を有する分散剤が好ましい。
また、本発明の塗料組成物に用いる顔料分散剤は、重量平均分子量が1,000〜100,000であることが好ましい。本明細書において、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定した値であり、標準物質にはポリスチレンが使用され、移動相にはテトラヒドロフランが使用される。
【0037】
上記顔料分散剤の酸価は、10〜150mgKOH/gであることが好ましく、30〜150mgKOH/gであることがより好ましい。酸価が10mgKOH/g以上であれば、鱗片状顔料の分散性を向上でき、塗料組成物から形成される塗膜上に形成させた上塗り塗膜のつやの低下を抑えることができる。また、酸価は塩基性物質を用いた酸塩基滴定法により測定することができる。
【0038】
上記顔料分散剤としては、例えば、市販品を使用することができ、例えば、ビックケミー社商品名:DISPERBYK、共栄社商品名:フローレン等が挙げられる。なお、これら顔料分散剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
本発明の塗料組成物において、不揮発分中における顔料分散剤の含有量は、例えば0.25〜6.0質量%であることが好ましく、1.5〜6.0質量%であることが更に好ましい。
【0040】
本発明の塗料組成物において、不揮発分の含有量は、50〜90質量%であることが好ましく、65〜80質量%であることが更に好ましい。
【0041】
本発明の塗料組成物は、溶媒を含むことができる。溶媒としては、有機溶媒、水又はそれらの混合溶媒を使用できる。ここで、有機溶媒としては、特に限定されるものではなく、炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒等の各種有機溶媒が使用できる。なお、有機溶媒は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
炭化水素系溶媒としては、例えば、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素等が挙げられ、より具体的には、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、ミネラルスピリット、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、テルペン油等を例示することができる。また、アルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール等が挙げられ、ケトン系溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられ、エステル系溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられ、エーテル系溶媒としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、メチルカルビトール等が挙げられる。なお、エチレングリコールモノエチルエーテルやメチルカルビトールのように水酸基とエーテル結合の両方を有する溶媒は、上記のとおり、エーテル系溶媒に分類される。
【0043】
本発明の塗料組成物において、溶媒の含有量は、10〜50質量%であることが好ましく、20〜35質量%であることが更に好ましい。
【0044】
本発明の塗料組成物は、溶媒として弱溶剤を含むことが好ましい。本発明の塗料組成物において、弱溶剤としては、JIS K 2256に規定される混合アニリン点又はアニリン点が12〜70℃の範囲内にある弱溶剤が好ましい。かかる弱溶剤は、環境に対する負荷が比較的少ない溶剤であり、常温乾燥にて除去できる。アニリン点及び混合アニリン点は、溶剤の溶解力を表す指標の一種であり、アニリン点又は混合アニリン点が高いほど溶解力が弱くなる。アニリン点は、等容積の溶剤とアニリンとが均一な溶液として存在する最低温度であり、混合アニリン点は、溶剤1容積、ヘプタン1容積及びアニリン2容積が均一な溶液として存在する最低温度である。
【0045】
上記弱溶剤には、例えば、脂肪族系溶剤、ナフテン系溶剤、芳香族ナフサ等の炭化水素系有機溶剤が挙げられ、これらの中でも、特に臭気が少なく、環境に対する悪影響が小さい好適な弱溶剤として、脂肪族炭化水素系有機溶剤が挙げられる。上記炭化水素系有機溶剤の具体例としては、メチルシクロヘキサン(アニリン点:40℃)、エチルシクロヘキサン(アニリン点:44℃)、ミネラルスピリット(アニリン点:56℃)、テレビン油(アニリン点:44℃)が挙げられる。また、上記炭化水素系有機溶剤には、石油系炭化水素として市販されるものがあり、例えば、HAWS(シェルケミカルズジャパン社製、アニリン点:17℃)、LAWS(シェルケミカルズジャパン社製、アニリン点:44℃)、ペガゾール3040(エクソンモービル社製、アニリン点:55℃)、ペガゾールAN45(エクソンモービル社製、アニリン点42℃)、Aソルベント(JX日鉱日石エネルギー社製、アニリン点:45℃)、クレンゾルHS(JX日鉱日石エネルギー社製、アニリン点:64℃)、ミネラルスピリットA(JX日鉱日石エネルギー社製、アニリン点:43℃)、エクソールD30(エクソンモービル社製、アニリン点:64℃)、エクソールD40(エクソンモービル社製、アニリン点:69℃)、ニューソルDXハイソフト(JX日鉱日石エネルギー社製、アニリン点:68℃)、ソルベッソ100(エクソンモービル社製、混合アニリン点:14℃)、ソルベッソ150(エクソンモービル社製、混合アニリン点:18.3℃)、スワゾール1000(丸善石油化学社製、混合アニリン点:12.7℃)、スワゾール1500(丸善石油化学社製、混合アニリン点:16.5℃)、スワゾール1800(丸善石油化学社製、混合アニリン点:15.7℃)、出光イプゾール100(出光興産社製、混合アニリン点:13.5℃)、出光イプゾール150(出光興産社製、混合アニリン点:15.2℃)等が挙げられる。なお、これら弱溶剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0046】
本発明の塗料組成物において、溶媒に占める弱溶剤の割合は、50質量%以上であることが好ましく、その上限は100質量%である。
【0047】
本発明の塗料組成物には、その他の成分として、鱗片状顔料以外の顔料、乾燥剤、酸化防止剤、反応触媒、消泡剤、脱水剤、レベリング剤、沈降防止剤、ダレ止め剤、シランカップリング剤等の付着性付与剤、防藻剤、防カビ剤、防腐剤、紫外線吸収剤、光安定剤等を必要に応じて適宜配合してもよい。これら成分は、市販品を好適に使用することができる。
【0048】
鱗片状顔料以外の顔料としては、特に限定されず、塗料業界において一般的に使用される着色顔料、防錆顔料、体質顔料等が挙げられる。着色顔料、防錆顔料、及び体質顔料の具体例としては、酸化チタン、ベンガラ、黄色酸化鉄、カーボンブラック、トリポリりん酸アルミニウム、りん酸亜鉛、縮合りん酸アルミニウム、メタホウ酸バリウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、カオリン、タルク、クレー、マイカ、アルミナ、ミョウバン、白土、水酸化マグネシウム、及び酸化マグネシウム等の無機顔料や、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ナフトールレッド、キナクリドンレッド、ベンズイミダゾロンイエロー、ハンザイエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、及びジオキサジンバイオレット等の有機顔料が挙げられる。上記顔料は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
本発明の塗料組成物は、必要に応じて適宜選択される各種成分を混合することによって調製できる。また、本発明の塗料組成物が、2液型の塗料組成物である場合は、必要に応じて適宜選択される各種成分を混合することによって、主剤や硬化剤を予め用意しておき、塗装時に主剤と硬化剤とを混合することで使用される。なお、硬化剤は、硬化剤そのままでもよいし、他の成分との混合物であってもよい。
【0050】
本発明の塗料組成物は、不揮発分の含有量が70質量%である場合において、せん断速度0.1s
−1の粘度が0.1〜10,000Pa・sであり、且つせん断速度1,000s
−1の粘度が0.05〜10Pa・sであることが好ましい。本明細書において、粘度はレオメーター(TAインスツルメンツ社製レオメーターARES等)を用い、液温を25℃に調整した後測定される。
【0051】
本発明の塗料組成物は、不揮発分の含有量が70質量%である場合において、チクソトロピックインデックス(TI)値が2.0〜5.0であることが好ましい。本明細書において、TI値は、せん断速度0.1s
−1及び25℃での粘度に対するせん断速度1.0s
−1及び25℃での粘度の値である。
【0052】
本発明の塗料組成物は、該塗料組成物から形成される塗膜の酸素透過率が3,500cc・μm/m
2/day以下であることが好ましい。本明細書において、酸素透過率は、酸素透過率測定装置(例えばイリノイ社製8001)を用いて、等圧法(モコン法)にて測定される。具体的には、塗膜(単膜)を装置内の拡散チャンバー内に固定し、塗膜を透過する酸素の移動速度(OTR)を検出する。検出器の校正には、透過率既知の標準フィルムを用いる。
【0053】
本発明の塗料組成物は、上塗り塗膜の外観を損なわずに、環境遮断性に優れる塗膜を形成可能な塗料組成物であることから、下塗り用塗料組成物として好適である。
【0054】
本発明の塗料組成物の塗装手段は、特に限定されず、既知の塗装手段、例えば、スプレー塗装、ローラー塗装、刷毛塗装、コテ塗装、ヘラ塗装等が利用できる。また、本発明の塗料組成物の乾燥手段は、特に限定されず、周囲温度での自然乾燥や乾燥機等を用いた強制乾燥のいずれであってもよい。
【0055】
本発明の塗料組成物は、該塗料組成物から形成される塗膜の膜厚が30〜300μmであることが好ましい。
【0056】
本発明の塗料組成物により塗装できる基材としては、特に限定されるものではないが、鉄鋼、亜鉛めっき鋼(例えばトタン板)、錫めっき鋼(例えばブリキ板)、ステンレス鋼、マグネシウム合金、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属又は合金を少なくとも一部に含む金属系基材を好適に挙げることができる。その具体例としては、鋼板、鋼管、条鋼等の鋼材、鉄塔、橋梁施設、プラント等の鋼構造物が好適に挙げられる。
なお、基材は、その表面に防食処理等のプライマー処理が施されていてもよいし、表面の少なくとも一部に旧塗膜(本発明の塗料組成物により塗装を行う際に既に基材上に形成されている塗膜)が存在していてもよい。
【0057】
本発明の塗料組成物から形成される塗膜上に、更に上塗り塗膜が形成される場合、上塗り塗膜は、通常、樹脂を含み、その具体例として、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、スチレンアクリル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、ふっ素樹脂、ロジン樹脂、石油樹脂、クマロン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、セルロース樹脂、キシレン樹脂、アルキッド樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、ブチラール樹脂、マレイン酸樹脂、フマル酸樹脂、ビニル樹脂、アミン樹脂、ケチミン樹脂等が挙げられる。これらの樹脂を一種単独で用いても良く、二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0058】
上塗り塗膜の形成には、主溶媒として有機溶剤を用いる有機溶剤系塗料、主溶媒として水を用いる水系塗料、活性エネルギー線硬化型塗料等の従来から公知の各種塗料が利用可能である。上塗り塗料には、樹脂以外の成分として、溶媒、硬化剤、着色剤、湿潤剤、分散剤、乾燥剤、酸化防止剤、反応触媒、消泡剤、脱水剤、レベリング剤、沈降防止剤、ダレ止め剤、シランカップリング剤等の付着性付与剤、防藻剤、防カビ剤、防腐剤、紫外線吸収剤、光安定剤等を必要に応じて配合してもよい。上塗り塗料は、必要に応じて適宜選択される各種成分を混合することによって、調製できる。
【0059】
上塗り塗料の塗装方法は、既知の塗装手段、例えば、刷毛塗装、ローラー塗装、コテ塗装、ヘラ塗装、スプレー塗装等が利用できる。また、上塗り塗料の乾燥手段は、特に限定されず、周囲温度での自然乾燥や乾燥機等を用いた強制乾燥のいずれであってもよい。
【0060】
上塗り塗膜の膜厚は10〜100μmであることが好ましい。
【0061】
上塗り塗料は、鏡面光沢度(60°)が70以上であることが好ましい。本明細書において、鏡面光沢度(60°)は、JIS K5659に準拠して測定される値である。
【実施例】
【0062】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0063】
1.使用材料
塗料組成物の調製のため、以下の材料を用いた。
[主剤]
(1)樹脂
・変性エポキシ樹脂(DIC株式会社製、EPICRON 5920−70MS、不揮発分70質量%)
(2)防錆顔料
・リン酸系化合物(テイカ株式会社製、K−WHITE #82、平均粒径:3.5μm、アスペクト比:30未満)
(3)顔料
・タルク(富士タルク工業株式会社製、タルクPK−50、平均粒径14μm、アスペクト比:30未満)
・酸化チタン(堺化学工業株式会社製、TITONE R−5N、平均粒径0.3μm、アスペクト比:30未満)
・マイカG(平均粒径30μm、アスペクト比25)
(4)鱗片状顔料
・マイカA(平均粒径15μm、アスペクト比70)
・マイカB(平均粒径23μm、アスペクト比70)
・マイカC(平均粒径75μm、アスペクト比70)
・マイカD(平均粒径30μm、アスペクト比32)
・マイカE(平均粒径8μm、アスペクト比70)
・マイカF(平均粒径110μm、アスペクト比70)
・ガラスフレーク(平均粒径15μm、アスペクト比70)
・アルミフレーク(平均粒径15μm、アスペクト比70)
(5)添加剤
・顔料分散剤A(共栄社化学株式会社製、フローレンG−100SF、吸着基:不飽和ポリカルボン酸基、酸価:135mgKOH/g)
・顔料分散剤B(ビックケミー・ジャパン株式会社製、DISPERBYK−118、吸着基:高極性顔料親和基、酸価:36mgKOH/g)
・顔料分散剤C(ビックケミー・ジャパン株式会社製、DISPERBYK−102、吸着基:リン酸基、酸価:101mgKOH/g)
・顔料分散剤D(共栄社化学株式会社製、フローレンDOPA−15B、吸着基:カチオン性基、アミン価:10mgKOH/g)
・顔料分散剤E(ビックケミー・ジャパン株式会社製、DISPERBYK−2155、吸着基:アミン、アミン価:48mgKOH/g)
・粘性調整剤(楠本化成株式会社製、ディスパロンD6820−20M、不揮発分20質量%)
・消泡剤(共栄社化学株式会社製、フローレンAC−901、不揮発分22質量%)
(6)溶剤
・石油系炭化水素溶剤(エクソンモービル社製、ソルベッソ100、混合アニリン点:14℃)
[硬化剤]
(1)硬化剤
・樹脂(株式会社T&K TOKA製、トーマイド TXP−696、ポリアミドアミン化合物、不揮発分82質量%)
(2)溶剤
・石油系炭化水素溶剤(エクソンモービル社製、ソルベッソ100、混合アニリン点:14℃)
・アルコール系溶剤(イソブチルアルコール)
【0064】
2.測定・評価方法
(1)塗膜内顔料配向性
・塗膜中における鱗片状顔料の充填率
明細書中に記載の方法に従い求めた。
・塗膜中における鱗片状顔料の基材表面に対する傾き角度の平均
明細書中に記載の方法に従い求めた。
なお、乾燥膜厚を60μmとした。
(2)環境遮断性
明細書中に記載の方法に従い求めた。なお、乾燥膜厚を60μmとした。
(3)鏡面光沢度(60°)
JIS K5600−4−7に準拠して測定した。下記の塗板作製方法により得た塗板を測定に用いた。
(4)防食性
JIS K5600−7−9:2006の塗膜の長期耐久性、サイクル腐食試験のサイクルDに準じて120サイクル、240サイクル、360サイクル試験した後、試験片に施したカット周辺に生じたさび及び膨れの発生程度を下記の基準に基づいて評価した。下記の塗板作製方法により得た試験板を評価に用いた。
<塗膜外観>
◎:塗膜表面に異常がなく、塗膜外観が優れている。
○:塗膜表面の一部にさび及び膨れ等の異常が認められる。
×:塗膜表面の全体にさび及び膨れ等の異常が認められる。
<きず部変状幅>
◎:カット部から2mm以上の塗面にさび及び膨れ等の異常が無い。
○:カット部から4mm以上の塗面にさび及び膨れ等の異常が無い。
×:カット部から4mm以上の塗面にさび及び膨れ等の異常が発生。
(5)塗板作製方法
塗料を用いて、グリットブラスト板(3.2×70×150mm)に、乾燥膜厚が60μmとなるようスプレー塗装し、乾燥し、下塗り塗膜を形成した。その後、上塗り塗料としてVフロン#100H上塗(大日本塗料株式会社製ふっ素樹脂上塗塗料)を乾燥膜厚が25μmとなるようにスプレー塗装した。
得られた2層の塗膜を室温で1週間乾燥し、目的とする塗板(試験板)を得た。得られた塗板を鏡面光沢度の測定に供した。また、得られた試験板の裏面を下塗塗料として用いた塗料と同様の塗料でシールし、防食性試験に供した。
【0065】
3.実施例及び比較例
表1に示す配合処方に従い、主剤及び硬化剤を調製した。また、得られた主剤及び硬化剤を混合して、塗料組成物を調製し、塗膜性能を評価した。結果を表1に示す。なお、表1中の塗料組成物の組成の単位は「質量部」である。
【0066】
【表1】