【課題】低い比誘電率と低反り性と外観性のバランスに優れ、また強度と剛性にも優れ、且つ高い透過率を有しレーザー溶着性に優れるミリ波レーダー部材用熱可塑性樹脂組成物及びそれからなる成形体。
さらに、(F)レーザー光透過性染料を、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、0.0005〜5質量部を含有する請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
カーボンブラックを含有しないか、あるいは、含有する場合でもその含有量が、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、0.1質量部以下である請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。以下に記載する説明は実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定して解釈されるものではない。
なお、本明細書において、「〜」を用いてその前後を数値又は物性値等で挟んで範囲を示す場合、その前後の値を含む範囲を意味する。
【0013】
本発明のミリ波レーダー部材用熱可塑性樹脂組成物は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、
(i)(B)ゴム強化ポリスチレン系樹脂15〜65質量部と(C)ポリカーボネート樹脂10〜60質量部を含有するか、または
(ii)(C)ポリカーボネート樹脂10〜70質量部を含有し、
さらに、(D)エポキシ化合物を0.1〜3質量部、(E)ガラス繊維を30〜150質量部含有することを特徴とする。
【0014】
[(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂を含有する。
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸単位及び1,4−ブタンジオール単位がエステル結合した構造を有するポリエステル樹脂であって、ポリブチレンテレフタレート樹脂(ホモポリマー)の他に、テレフタル酸単位及び1,4−ブタンジオール単位以外の、他の共重合成分を含むポリブチレンテレフタレート共重合体や、ホモポリマーと当該共重合体との混合物を含む。
【0015】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸以外のジカルボン酸単位を含んでいてもよく、他のジカルボン酸の具体例としては、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニル−2,2’−ジカルボン酸、ビフェニル−3,3’−ジカルボン酸、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸、ビス(4,4’−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類、1,4−シクロへキサンジカルボン酸、4,4’−ジシクロヘキシルジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸類、および、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸類等が挙げられる。
【0016】
ジオール単位としては、1,4−ブタンジオールの外に他のジオール単位を含んでいてもよく、他のジオール単位の具体例としては、炭素原子数2〜20の脂肪族又は脂環族ジオール類、ビスフェノール誘導体類等が挙げられる。具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−へキサンジオール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノ一ル、4,4’−ジシクロヘキシルヒドロキシメタン、4,4’−ジシクロヘキシルヒドロキシプロパン、ビスフェノ一ルAのエチレンオキシド付加ジオール等が挙げられる。また、上記のような二官能性モノマー以外に、分岐構造を導入するためトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等の三官能性モノマーや分子量調節のため脂肪酸等の単官能性化合物を少量併用することもできる。
【0017】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、上記した通り、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールとを重縮合させたポリブチレンテレフタレート単独重合体が好ましいが、また、カルボン酸単位として、前記のテレフタル酸以外のジカルボン酸1種以上及び/又はジオール単位として、前記1,4−ブタンジオール以外のジオール1種以上を含むポリブチレンテレフタレート共重合体であってもよく、ポリブチレンテレフタレート樹脂が、共重合により変性したポリブチレンテレフタレート樹脂である場合、その具体的な好ましい共重合体としては、ポリアルキレングリコール類、特にはポリテトラメチレングリコールを共重合したポリエステルエーテル樹脂や、ダイマー酸共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂、イソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂が挙げられる。中でも、ポリテトラメチレングリコールを共重合したポリエステルエーテル樹脂を用いることが好ましい。
なお、これらの共重合体は、共重合量が、ポリブチレンテレフタレート樹脂全セグメント中の1モル%以上、50モル%未満のものをいう。中でも、共重合量が好ましくは2モル%以上50モル%未満、より好ましくは3〜40モル%、特に好ましくは5〜20モル%である。このような共重合割合とすることにより、流動性、靱性、耐トラッキング性が向上しやすい傾向にあり、好ましい。
【0018】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、末端カルボキシル基量は、適宜選択して決定すればよいが、通常、60eq/ton以下であり、50eq/ton以下であることが好ましく、30eq/ton以下であることがさらに好ましい。50eq/tonを超えると、耐アルカリ性及び耐加水分解性が低下し、また樹脂組成物の溶融成形時にガスが発生しやすくなる。末端カルボキシル基量の下限値は特に定めるものではないが、ポリブチレンテレフタレート樹脂の製造の生産性を考慮し、通常、10eq/tonである。
【0019】
なお、ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は、ベンジルアルコール25mLにポリアルキレンテレフタレート樹脂0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/lベンジルアルコール溶液を用いて滴定により測定する値である。末端カルボキシル基量を調整する方法としては、重合時の原料仕込み比、重合温度、減圧方法などの重合条件を調整する方法や、末端封鎖剤を反応させる方法等、従来公知の任意の方法により行えばよい。
【0020】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、0.5〜2dl/gであるのが好ましい。成形性及び機械的特性の点からして、0.6〜1.5dl/gの範囲の固有粘度を有するものがより好ましい。固有粘度が0.5dl/gより低いものを用いると、得られる樹脂組成物が機械強度の低いものとなりやすい。また2dl/gより高いものでは、樹脂組成物の流動性が悪くなり成形性が悪化する場合がある。
なお、ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、テトラクロロエタンとフェノールとの1:1(質量比)の混合溶媒中、30℃で測定する値である。
【0021】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分又はこれらのエステル誘導体と、1,4−ブタンジオールを主成分とするジオール成分を、回分式又は連続式で溶融重合させて製造することができる。また、溶融重合で低分子量のポリブチレンテレクタレート樹脂を製造した後、さらに窒素気流下又は減圧下固相重合させることにより、重合度(又は分子量)を所望の値まで高めることもできる。
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と1,4−ブタンジオールを主成分とするジオール成分とを、連続式で溶融重縮合する製造法で得られたものが好ましい。
【0022】
エステル化反応を遂行する際に使用される触媒は、従来から知られているものであってよく、例えば、チタン化合物、錫化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物等を挙げることができる。これらの中で特に好適なものは、チタン化合物である。エステル化触媒としてのチタン化合物の具体例としては、例えば、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタンアルコラート、テトラフェニルチタネート等のチタンフェノラート等を挙げることができる。
【0023】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、(i)(B)ゴム強化ポリスチレン系樹脂15〜65質量部と(C)ポリカーボネート樹脂10〜60質量部を含有するか、または、(ii)(C)ポリカーボネート樹脂10〜70質量部を含有する。
【0024】
[(B)ゴム強化ポリスチレン系樹脂]
ゴム強化ポリスチレン系樹脂は、ゴム質重合体をポリスチレン中に混合したものである。混合方法としては、(1)両者を機械的にブレンドする方法、(2)ゴム質重合体の存在下にスチレン系単量体などをグラフト共重合させる、いわゆるグラフト共重合方法、(3)上記(2)のグラフト共重合体に別方法によって製造した一般用ポリスチレンを混合する、いわゆるグラフト−ブレンド方法、などが挙げられる。ポリスチレンとゴム質重合体との相溶性、親和性の観点からは、(2)の方法によって得られたグラフト共重合体あるいは、(3)の方法によって得られたグラフト−ブレンド物が好適である。
【0025】
ゴム強化ポリスチレン系樹脂をグラフト共重合方法によって製造する方法としては、ゴムの存在下、スチレン系単量体などを乳化重合法、溶液重合法、懸濁重合法などでグラフト重合する方法が挙げられる。このような、ゴム変性ポリスチレン樹脂は、一般にハイインパクトポリスチレン(HIPS)と呼ばれている。
【0026】
ゴム強化ポリスチレン系樹脂中に含まれるゴム質重合体としては、具体的には、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、水素添加スチレン−ブタジエンブロック共重合体などの共役ジエン系ゴム、エチレン−プロピレン系共重合体などの非共役ジエン系ゴムが挙げられる。これらの中では、ポリプタジェンが好ましい。
【0027】
ゴム強化ポリスチレン系樹脂を構成するスチレン系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ブロモスチレンなどが挙げられる。これらの中でもスチレンおよび/またはα−メチルスチレンが最適である。スチレン系以外の単量体としては、アクリロニトリル、メチルメタクリレートなどのビニル系単量体が挙げられる。
【0028】
ゴム強化ポリスチレン系樹脂中のゴム質重合体成分の含有率は、1〜50質量%の範囲が好ましく、より好ましくは2〜40質量%、さらに好ましくは3〜30質量%である。また、スチレン系単量体以外の単量体成分を含む場合、ゴム強化ポリスチレン系樹脂中のゴム質重合体成分およびスチレン系単量体成分含有率の和は、90質量%以上とするのが望ましく、さらに好ましくは95質量%以上である。
【0029】
ゴム強化ポリスチレン系樹脂の分子量を反映するMFRとしては、温度200℃、荷重5kgの条件下での測定値が、0.5〜15g/10分の範囲が好ましく、さらに好ましくは1.0〜10g/10分の範囲である。MFRが上記範囲外にあると、ポリブチレンテレフタレート樹脂との溶融混練の際、十分に相溶せず、生成物の物性が低下する場合がある。
【0030】
(B)ゴム強化ポリスチレン系樹脂の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、15〜65質量部であり、好ましくは20質量部以上、より好ましくは30質量部以上、さらに好ましくは40質量部以上であり、また、好ましくは60質量部以下、より好ましくは55質量部以下である。このような量で、所定量の(C)ポリカーボネート樹脂、(D)エポキシ化合物および(E)ガラス繊維と、共に配合することにより、誘電特性に優れ、また、低反り性、外観性、強度と剛性にも優れた樹脂組成物とすることができる。
【0031】
[(C)ポリカーボネート樹脂]
ポリカーボネート樹脂は、ジヒドロキシ化合物又はこれと少量のポリヒドロキシ化合物を、ホスゲン又は炭酸ジエステルと反応させることによって得られる、分岐していてもよい熱可塑性重合体又は共重合体である。ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のホスゲン法(界面重合法)や溶融法(エステル交換法)により製造したものを使用することができる。
【0032】
原料のジヒドロキシ化合物は、実質的に臭素原子を含まないものであり、芳香族ジヒドロキシ化合物が好ましい。具体的には、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールC)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4−ジヒドロキシジフェニル等が挙げられ、好ましくはビスフェノールA、ビスフェノールCが挙げられる。また、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物を使用することもできる。
【0033】
ポリカーボネート樹脂としては、上述した中でも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導される芳香族ポリカーボネート樹脂、又は、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導される芳香族ポリカーボネート共重合体が好ましい。また、シロキサン構造を有するポリマー又はオリゴマーとの共重合体等の、芳香族ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体であってもよい。更には、上述したポリカーボネート樹脂の2種以上を混合して用いてもよい。
【0034】
ポリカーボネート樹脂の分子量を調節するには、一価の芳香族ヒドロキシ化合物を用いればよく、例えば、m−及びp−メチルフェノール、m−及びp−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−長鎖アルキル置換フェノール等が挙げられる。
【0035】
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、15000以上であることが好ましく、16000以上であることが特に好ましく、20000以上が最も好ましい。粘度平均分子量が15000より低いものを用いると、得られる樹脂組成物が耐衝撃性が低下しやすい。またMvは40000以下であることが好ましく、35000以下であることがより好ましく、30000以下であることがさらに好ましい。40000より高いものでは、樹脂組成物の流動性が悪くなり成形性が悪化する場合がある。
【0036】
なお、本発明において、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、ウベローデ粘度計を用いて、25℃にて、ポリカーボネート樹脂のメチレンクロライド溶液の粘度を測定し極限粘度([η])を求め、次のSchnellの粘度式から算出される値を示す。
[η]=1.23×10
−4Mv
0.83
【0037】
ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、ホスゲン法(界面重合法)及び溶融法(エステル交換法)のいずれの方法で製造したポリカーボネート樹脂も使用することができる。また、溶融法で製造したポリカーボネート樹脂に、末端のOH基量を調整する後処理を施したポリカーボネート樹脂も好ましい。
【0038】
(B)ポリカーボネート樹脂の含有量は、
(i)(B)ゴム強化ポリスチレン系樹脂と併せて含有する場合は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、10〜60質量部であり、好ましくは40質量部以下、より好ましくは30質量部以下であり、好ましくは15質量部以上である。
(ii)(B)ゴム強化ポリスチレン系樹脂と併用しない場合は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、10〜70質量部であり、好ましくは20質量部以下、より好ましくは30質量部以下であり、さらに好ましくは40質量部以上、好ましくは65質量部以下、より好ましくは55質量部以下である。
【0039】
[(D)エポキシ化合物]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は(D)エポキシ化合物を含有する。
エポキシ化合物としては、1分子中に1個以上のエポキシ基を有するものであればよく、通常はアルコール、フェノール類又はカルボン酸等とエピクロロヒドリンとの反応物であるグリシジル化合物や、オレフィン性二重結合をエポキシ化した化合物を用いればよい。
エポキシ化合物としては、例えば、ノボラック型エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、グリシジルエーテル類、グリシジルエステル類、エポキシ化ブタジエン重合体、レゾルシン型エポキシ化合物等が挙げられる。
【0040】
ノボラック型エポキシ化合物としては、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物等を例示できる。
ビスフェノールA型エポキシ化合物としては、ビスフェノールA−ジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA−ジグリシジルエーテル等が挙げられ、ビスフェノールF型エポキシ化合物としては、ビスフェノールF−ジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールF−ジグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0041】
脂環式エポキシ化合物の例としては、ビニルシクロヘキセンジオキシド、ジシクロペンタジエンオキシド、3,4−エポキシシクロヘキシル−3,4−シクロヘキシルカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビニルシクロヘキセンジエポキシド、3,4−エポキシシクロヘキシルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0042】
グリシジルエーテル類の具体例としては、メチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル等のモノグリシジルエーテル;ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル等のジグリシジルエーテル類が挙げられる。
【0043】
グリシジルエステル類としては、安息香酸グリシジルエステル、ソルビン酸グリシジルエステル等のモノグリシジルエステル類;アジピン酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、オルトフタル酸ジグリシジルエステル等のジグリシジルエステル類等が挙げられる。
【0044】
エポキシ化ブタジエン重合体としては、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化スチレン−ブタジエン系共重合体、エポキシ化水素化スチレン−ブタジエン系共重合体等を例示できる。
レゾルシン型エポキシ化合物としてはレゾルシンジグリシジルエーテル等が例示できる。
【0045】
また、エポキシ化合物は、グリシジル基含有化合物を一方の成分とする共重合体であってもよい。例えばα,β−不飽和酸のグリシジルエステルと、α−オレフィン、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステルからなる群より選ばれる一種または二種以上のモノマーとの共重合体が挙げられる。
【0046】
エポキシ化合物としては、エポキシ当量50〜10000g/eq、重量平均分子量8000以下のエポキシ化合物が好ましい。エポキシ当量が50g/eq未満のものは、エポキシ基の量が多すぎるため樹脂組成物の粘度が高くなり、逆にエポキシ当量が10000g/eqを超えるものは、エポキシ基の量が少なくなるため、熱可塑性樹脂組成物の耐アルカリ性、耐加水分解性を向上させる効果が十分に発現しにくい傾向にある。エポキシ当量は、より好ましくは100〜7000g/eqであり、さらに好ましくは100〜5000g/eqであり、最も好ましくは100〜3000g/eqである。
また、重量平均分子量が8000を超えるものは、ポリブチレンテレフタレート樹脂との相溶性が低下し、成形体の機械的強度が低下する傾向にある。重量平均分子量は、より好ましくは7000以下であり、さらに好ましくは6000以下である。
【0047】
エポキシ化合物としては、ビスフェノールAやノボラックとエピクロロヒドリンとの反応から得られる、ビスフェノールA型エポキシ化合物やノボラック型エポキシ化合物が、耐アルカリ性が向上しやく、また、耐加水分解性、成形体の表面外観の点から特に好ましい。
【0048】
(D)エポキシ化合物の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、0.1〜3質量部であり、0.2質量部以上が好ましく、より好ましく0.3質量部以上、さらには0.35質量部以上が好ましい。また、2.5質量部以下が好ましく、2質量部以下がより好ましく、さらには1.5質量部以下、特に1質量部以下が好ましい。エポキシ化合物をこのような量で含有することで、ポリブチレンテレフタレート樹脂の加水分解による分子量低下と機械的強度等の低下することができ、所定量の(B)ゴム強化ポリスチレン系樹脂、(C)ポリカーボネート樹脂および(E)ガラス繊維と、共に配合することにより、誘電特性に優れ、また、低反り性、外観性、強度と剛性にも優れた樹脂組成物とすることができる。エポキシ化合物の含有量が0.1質量部未満では、耐アルカリ性の低下や耐加水分解性の低下が発生しやすく、3質量部より多いと架橋化が進行し成形時の流動性が悪くなりやすい。
【0049】
さらに、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端COOH基に対する(D)エポキシ化合物のエポキシ基の当量比(エポキシ基/COOH基)は、0.2〜2.7の範囲にあることが好ましい。当量比が0.2を下回ると耐加水分解性が悪くなりやすく、2.7を上回ると成形性が不安定となりやすい。エポキシ基/COOH基は、より好ましくは0.3以上であり、2.5以下である。
【0050】
[(E)ガラス繊維]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、(E)ガラス繊維を含有する。
ガラス繊維としては、通常熱可塑性ポリエステル樹脂に使用されているものであれば、Aガラス、Eガラス、ジルコニア成分含有の耐アルカリガラス組成のもの等が使用できるが、樹脂組成物の熱安定性を向上させる目的から無アルカリガラス(Eガラス)が好ましい。
また、チョツプドストランド、ロービングガラス、熱可塑性樹脂とガラス繊維のマスターバッチ等の配合時のガラス繊維の形態を問わず、公知のいかなるガラス繊維も使用可能であるが、通常はこれらの繊維を多数本集束したものを、所定の長さに切断したチョップドストランドガラス繊維(チョップドガラス繊維)として用いることが好ましい。
【0051】
ガラス繊維の平均繊維径は3〜20μmであることが好ましく、より好ましくは5μm以上、さらに好ましくは7μm以上であり、より好ましくは18μm以下であり、15μm以下であることがさらに好ましい。また、繊維長は好ましくは0.3〜10mm、より好ましくは0.5mm以上、さらに好ましくは1mm以上であり、より好ましくは8mm以下、さらに好ましくは5mm以下である。
【0052】
ガラス繊維は、集束剤や表面処理剤により処理がなされていてもよい。また、本発明の樹脂組成物製造時に、未処理のガラス繊維とは別に、集束剤や表面処理剤を添加し、表面処理してもよい。
【0053】
集束剤あるいは表面処理剤としては、例えば、酢酸ビニル樹脂、エチレン/酢酸ビニル共重合体、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂などの樹脂エマルジョン等が挙げられる。
また、例えば、ノボラック型等のエポキシ樹脂、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂等のエポキシ系化合物、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン系化合物、ビニルトリクロロシラン、メチルビニルジクロロシラン等のクロロシラン系化合物、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどのアルコキシシラン系化合物、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のエポキシシラン系化合物、アクリル系化合物、イソシアネート系化合物、チタネート系化合物などが挙げられる。
集束剤または表面処理剤としては、上記の中でも、ノボラック型のエポキシ樹脂、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂が好ましく、中でもノボラック型エポキシ樹脂が特に好ましい。
【0054】
これらの集束剤や表面処理剤は2種以上を併用してもよく、その使用量(付着量)は、ガラス繊維の質量に対し、通常10質量%以下、好ましくは0.05〜5質量%である。付着量を10質量%以下とすることにより、必要十分な効果が得られ、経済的である。
【0055】
ガラス繊維は、要求される特性に応じて2種以上を併用してもよい。
【0056】
(E)ガラス繊維の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、30〜150質量部、好ましくは40質量部以上、より好ましくは50質量部以上であり、また、好ましくは120質量部以下、より好ましくは100質量部以下である。このような範囲で含有することにより得られた成形体の強度や耐熱性の向上、収縮率の低減効果を高めることができ、含有量が150質量部を超えると、耐衝撃性や流動性が不十分となり、成形体の表面外観が低下しやすく、また安定した生産が難しくなる。30質量部未満では強度や剛性等の向上効果が少なくなる。
【0057】
[他の無機充填材]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記したガラス繊維以外に、板状、粒状又は無定形の他の無機充填材を含有することも好ましい。板状無機充填材は、異方性及びソリを低減させる機能を発揮するものであり、タルク、ガラスフレーク、マイカ、雲母、カオリン、金属箔等が挙げられる。板状無機充填材の中で好ましいのは、ガラスフレークである。
粒状又は無定形の他の無機充填材としては、セラミックビーズ、クレー、ゼオライト、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫化亜鉛等が挙げられる。
他の無機充填材としては、特にタルク、酸化チタン、硫化亜鉛が好ましい。
【0058】
他の無機充填材を含有する場合の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、好ましくは、0.1〜30質量部であり、より好ましくは0.5質量部以上、さらに好ましくは1質量部以上であり、より好ましくは20質量部以下である。
【0059】
[スチレン−無水マレイン酸共重合体]
本発明の熱可塑性樹脂組成物はスチレン−無水マレイン酸共重合体を含有することも好ましい。
スチレン−無水マレイン酸共重合体は、スチレン単量体と無水マレイン酸単量体の共重合体であり、製造方法として乳化重合法、溶液重合法、懸濁重合法、ラジカル重合などの既知の重合方法が可能であり、スチレン重合体、例えばポリスチレンに、無水マレイン酸をグラフト重合等により反応させた共重合体であってもよい。
【0060】
スチレン−無水マレイン酸共重合体の分子量等は特に制限されるものではないが、重量平均分子量Mwとしては、好ましくは10000〜500000、より好ましくは40000〜400000、さらに好ましくは80000〜350000である。
ここで、重量平均分子量Mwは、溶媒としてテトラヒドロフランを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の質量平均分子量である。
また、スチレン−無水マレイン酸共重合体のガラス転移温度Tgは、100〜165℃の範囲にあることが好ましい。
【0061】
スチレン−無水マレイン酸共重合体中の無水マレイン酸の含有率は、1〜20質量%の範囲で選ぶのが好ましい。無水マレイン酸の量が20質量%を超えると、ポリブチレンテレフタレート樹脂と過度に反応し、架橋により粘度を増加させることがある。
【0062】
スチレン−無水マレイン酸共重合体には、本発明の特性を損なわない範囲で他の単量体成分を共重合可能であり、具体例としてα−メチルスチレンなどの芳香族ビニル系単量体、アクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体、メタクリル酸メチルやアクリル酸メチルなどの不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミドなどのマレイミド系単量体などが挙げられ、これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0063】
スチレン−無水マレイン酸共重合体としては、SMA樹脂とも呼ばれるスチレン−無水マレイン酸共重合体が好ましい。
【0064】
スチレン−無水マレイン酸共重合体を含有する場合の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、好ましくは10〜60質量部であり、より好ましくは15質量部以上であり、また、好ましくは40質量部以下、より好ましくは30質量部以下である。このような量で、所定量の(B)ゴム強化ポリスチレン系樹脂、(C)ポリカーボネート樹脂、(D)エポキシ化合物および(E)ガラス繊維と、配合することにより、誘電特性に優れ、また、低反り性、外観性、強度と剛性にも優れた樹脂組成物とすることができる。
【0065】
[レーザー光吸収剤]
本発明の熱可塑性樹脂組成物より成形された成形体は、相手材とレーザー溶着に供されることも好ましい。
レーザー溶着する方法は、特に制限はなく、通常の方法で行うことができる。好ましくは、例えば、得られた溶着用成形体を吸収側(吸収側部材)とし、相手材の樹脂成形体(透過側部材)とを接触させ、レーザー光を照射することにより二種の成形体を溶着、一体化して1つの成形品とする。射出成形した溶着用成形体(レーザー光吸収剤を含有する吸収側部材)の溶着用部と、レーザー光を透過する相手側の透過側部材とを、面接触または突合せ接触させ、通常、透過率の高い透過側部材側からレーザー光を照射することにより、両者の界面を少なくとも部分的に溶融させ、冷却することにより一体化して1つの成形体とすることができる。
【0066】
レーザー光吸収剤を含有する吸収側部材としては、レーザー光を吸収することができ、レーザー光が吸収されることにより、溶融される熱可塑性樹脂組成物からなる部材であり、具体的には、レーザー光を吸収可能とするために、通常、カーボンブラック等の吸収剤またはレーザー光吸収性染料を含有した樹脂組成物からなる部材等が挙げられる。
【0067】
カーボンブラック等の吸収剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、樹脂組成物に対して0.2〜1質量%含有させることが好ましい。
【0068】
透過側部材に用いられるレーザー光透過性染料としては、ニグロシン、アニリンブラック、フタロシアニン、ナフタロシアニン、ポルフィリン、ペリレン、クオテリレン、アゾ染料、アントラキノン、スクエア酸誘導体及びインモニウム等が好ましく挙げられる。
レーザー光透過性染料の含有量は、樹脂成分100質量部に対し、好ましくは0.001〜5質量部であり、より好ましくは0.003〜3質量部、さらに好ましくは0.005〜2質量部である。
【0069】
より高い溶着強度を得るためには、吸収側部材と透過側部材の両方ともがいずれも本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物であって、吸収側部材がカーボンブラック等の吸収剤またはレーザー光吸収性染料を含有し、透過側部材が色素材を含有せず、又はレーザー光を透過する色素材を含有していることが好ましい。
吸収側部材と透過側部材とは同種の樹脂組成物に限られず、溶着強度や気密性が満足すれば、外観・低ソリ等の観点から、透過側部材は本発明の樹脂組成物とは異なる樹脂組成物を採用することも可能である。
【0070】
[安定剤]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、安定剤を含有することが、熱安定性改良や、機械的強度、透明性や色相の悪化を防止する効果を有するという点で好ましい。安定剤としては、リン系安定剤、イオウ系安定剤およびフェノール系安定剤が好ましい。
【0071】
リン系安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜リン酸エステル(ホスファイト)、3価のリン酸エステル(ホスホナイト)、5価のリン酸エステル(ホスフェート)等が挙げられ、中でも有機ホスファイト、有機ホスホナイト、有機ホスフェートが好ましい。
【0072】
有機ホスフェート化合物としては、好ましくは、下記一般式:
(R
1O)
3−nP(=O)OH
n
(式中、R
1は、アルキル基またはアリール基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。nは0〜2の整数を示す。)
で表される化合物である。
有機ホスフェート化合物としてより好ましくは、R
1が炭素原子数8〜30の長鎖アルキルアシッドホスフェート化合物が挙げられる。炭素原子数8〜30のアルキル基の具体例としては、オクチル基、2−エチルヘキシル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、トリアコンチル基等が挙げられる。
【0073】
長鎖アルキルアシッドホスフェートとしては、例えば、オクチルアシッドホスフェート、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、デシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、オクタデシルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、ベヘニルアシッドホスフェート、フェニルアシッドホスフェート、ノニルフェニルアシッドホスフェート、シクロヘキシルアシッドホスフェート、フェノキシエチルアシッドホスフェート、アルコキシポリエチレングリコールアシッドホスフェート、ビスフェノールAアシッドホスフェート、ジメチルアシッドホスフェート、ジエチルアシッドホスフェート、ジプロピルアシッドホスフェート、ジイソプロピルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジラウリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、ジフェニルアシッドホスフェート、ビスノニルフェニルアシッドホスフェート等が挙げられる。これらの中でも、オクタデシルアシッドホスフェートが好ましく、このものはADEKA社の商品名「アデカスタブ AX−71」として、市販されている。
【0074】
有機ホスファイト化合物としては、好ましくは、下記一般式:
R
2O−P(OR
3)(OR
4)
(式中、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ水素原子、炭素原子数1〜30のアルキル基または炭素原子数6〜30のアリール基であり、R
2、R
3及びR
4のうちの少なくとも1つは炭素原子数6〜30のアリール基である。)
で表される化合物が挙げられる。
【0075】
有機ホスファイト化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジラウリルハイドロジェンホスファイト、トリエチルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリステアリルホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、モノフェニルジデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイト、水添ビスフェノールAフェノールホスファイトポリマー、ジフェニルハイドロジェンホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェニルジ(トリデシル)ホスファイト)、テトラ(トリデシル)4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジラウリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(4−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、水添ビスフェノールAペンタエリスリトールホスファイトポリマー、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。これらの中でも、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましい。
【0076】
有機ホスホナイト化合物としては、好ましくは、下記一般式:
R
5−P(OR
6)(OR
7)
(式中、R
5、R
6及びR
7は、それぞれ水素原子、炭素原子数1〜30のアルキル基又は炭素原子数6〜30のアリール基であり、R
5、R
6及びR
7のうちの少なくとも1つは炭素原子数6〜30のアリール基である。)
で表される化合物が挙げられる。
【0077】
有機ホスホナイト化合物としては、テトラキス(2,4−ジ−iso−プロピルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−n−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−iso−プロピルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−n−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、およびテトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト等が挙げられる。
【0078】
イオウ系安定剤としては、従来公知の任意のイオウ原子含有化合物を用いることが出来、中でもチオエーテル類が好ましい。具体的には例えば、ジドデシルチオジプロピオネート、ジテトラデシルチオジプロピオネート、ジオクタデシルチオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ドデシルチオプロピオネート)、チオビス(N−フェニル−β−ナフチルアミン)、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、テトラメチルチウラムモノサルファイド、テトラメチルチウラムジサルファイド、ニッケルジブチルジチオカルバメート、ニッケルイソプロピルキサンテート、トリラウリルトリチオホスファイトが挙げられる。これらの中でも、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ドデシルチオプロピオネート)が好ましい。
【0079】
フェノール系安定剤としては、ヒンダードフェノール系安定剤が好ましく、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−(3,5−ジ−ネオペンチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)等が挙げられる。これらの中でも、ペンタエリスリト−ルテトラキス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。
このようなヒンダードフェノール系安定剤としては、具体的には、例えば、BASF社製(商品名、以下同じ)「イルガノックス1010」、「イルガノックス1076」、ADEKA社製「アデカスタブAO−50」、「アデカスタブAO−60」等が挙げられる。
【0080】
安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
本発明においては、上記一般式(1)で表されるリン系安定剤、特には長鎖アルキルアシッドホスフェートと、ヒンダードフェノール系安定剤を併用することが、滞留特性と耐熱性、レーザー光透過性、レーザー溶着性の観点から好ましい。
【0081】
安定剤の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、好ましくは0.001〜2質量部である。安定剤の含有量が0.001質量部未満であると、樹脂組成物の熱安定性や相溶性の改良が期待しにくく、成形時の分子量の低下や色相悪化が起こりやすく、2質量部を超えると、過剰量となりシルバーの発生や、色相悪化が更に起こりやすくなる傾向がある。安定剤の含有量は、より好ましくは0.01〜1.5質量部であり、更に好ましくは、0.1〜1質量部である。
【0082】
[離型剤]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、離型剤を含有することが好ましい。離型剤としては、ポリエステル樹脂に通常使用される既知の離型剤が利用可能であるが、中でも、耐アルカリ性が良好な点で、ポリオレフィン系化合物、脂肪酸エステル系化合物が好ましい。
【0083】
ポリオレフィン系化合物としては、パラフィンワックス及びポリエチレンワックスから選ばれる化合物が挙げられ、中でも、重量平均分子量が、700〜10000、更には900〜8000のものが好ましい。
【0084】
脂肪酸エステル系化合物としては、飽和又は不飽和の1価又は2価の脂肪族カルボン酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類等の脂肪酸エステル類やその部分鹸化物等が挙げられる。中でも、炭素数11〜28、好ましくは炭素数17〜21の脂肪酸とアルコールで構成されるモノ又はジ脂肪酸エステルが好ましい。
【0085】
脂肪酸としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸等が挙げられる。また、脂肪酸は、脂環式であってもよい。
アルコールとしては、飽和又は不飽和の1価又は多価アルコールを挙げることができる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の1価又は多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和1価アルコール又は多価アルコールが更に好ましい。ここで脂肪族とは、脂環式化合物も含有する。
かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
なお、上記のエステル化合物は、不純物として脂肪族カルボン酸及び/又はアルコールを含有していてもよく、複数の化合物の混合物であってもよい。
【0086】
脂肪酸エステル系化合物の具体例としては、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノベヘネート、グリセリンジベヘネート、グリセリン−12−ヒドロキシモノステアレート、ソルビタンモノベヘネート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリストールジステアレート、ステアリルステアレート、エチレングリコールモンタン酸エステル等が挙げられる。
【0087】
離型剤の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1〜3質量部であるが、0.2〜2.5質量部であることがより好ましく、更に好ましくは0.3〜2質量部である。0.1質量部未満であると、溶融成形時の離型不良により表面性が低下しやすく、一方、3質量部を超えると、樹脂組成物の練り込み作業性が低下しやすく、また成形体表面に曇りが生じやすい。
【0088】
[その他含有成分]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記した(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(B)ゴム強化ポリスチレン系樹脂、及び(C)スチレン−無水マレイン酸共重合体以外の他の熱可塑性樹脂を、本発明の効果を損わない範囲で含有することができる。その他の熱可塑性樹脂としては、具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
ただし、その他の樹脂を含有する場合の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、20質量部以下とすることが好ましく、10質量部以下がより好ましく、さらには5質量部以下、特には3質量部以下とすることが好ましい。
【0089】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、前記した以外の種々の添加剤を含有していてもよく、このような添加剤としては、難燃剤、難燃助剤、滴下防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤等が挙げられる。
【0090】
[熱可塑性樹脂組成物の製造]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、前記した各必須成分、及び必要に応じて用いられる他の成分を押出機に供給し、溶融混練して混練物を押し出すことで製造する。混練物を押し出して、ペレット状の樹脂組成物とすることが好ましい。
【0091】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を製造する特に好ましい方法としては、押出機として二軸混練押出機を使用し、少なくとも(A)〜(D)、(F)は二軸混練押出機の根元(メインフィード口)に供給し、(E)ガラス繊維はサイドフィードし、混練して製造する方法である。
【0092】
[成形体]
得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて成形体を製造する方法は、特に限定されず、熱可塑性樹脂組成物について一般に採用されている成形法を任意に採用できる。その例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法、ブロー成形法等が挙げられる。中でも、生産性と、得られる成形体の表面性が良好となるなど、本発明の効果が顕著であることから、射出成形法が好ましい。
【0093】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形体の比誘電率は好ましくは3.50以下であり、より好ましくは3.45以下、さらに好ましくは3.40以下、特に好ましくは3.35以下である。また、成形体の誘電正接は0.013以下が好ましい。比誘電率および誘電正接はいずれも70〜90GHzにおける数値である。ここで成形体は、その厚みが1〜5mmであることが好ましく、この厚み範囲において比誘電率および/又は誘電正接が上記の値を示すことが好ましい。
【0094】
得られた成形体は、低い比誘電率と低反り性と外観性のバランスに優れ、また強度と剛性にも優れ、さらに、高い透過率を有しレーザー溶着性に優れ、相手材の樹脂成形品とレーザー溶着した成形品は溶着強度に優れるので、ミリ波レーダー部材として好適に使用することができる。ミリ波レーダー用部材としては、ミリ波を送信もしくは受信するアンテナモジュールを格納または保護するハウジング、アンテナカバー(レドーム)、さらにはそれらを含むミリ波レーダーモジュールとミリ波によりセンシングする対象物との経路に設置される部材(自動車のセンサーに適用する場合には、ミリ波レーダーモジュールから送受信されるミリ波の経路上に設置される、カバー、自動車外装部材、エンブレムなど)を全て含む。
【0095】
本発明の熱可塑性樹脂組成物より成形された成形体は、好ましくはこれを透過側部材としてレーザー光を照射することにより、面接触または突合せ接触させた相手材の樹脂成形品とが、その両者の界面で少なくとも部分的に溶融し、冷却することにより溶着し一体化してミリ波レーダー用部材とすることができる。
相手材の樹脂成形品としては、レーザー溶着性と高い溶着強度が得やすい観点から、ポリブチレンテレフタレート樹脂系の樹脂組成物からなる成形品であることが好ましく、特に本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品であることが好ましい。
【0096】
ミリ波レーダーとしては、具体的に、ブレーキ自動制御装置、車間距離制御装置、歩行者事故低減ステアリング装置、誤発信抑制制御装置、ペダル踏み間違い時加速抑制装置、接近車両注意喚起装置、車線維持支援装置、被追突防止警報装置、駐車支援装置、車両周辺障害物注意喚起装置などに用いられる車載用ミリ波レーダー;ホーム監視/踏切障害物検知装置、電車内コンテンツ伝送装置、路面電車/鉄道衝突防止装置、滑走路内異物検知装置などに用いられる鉄道・航空用ミリ波レーダー;交差点監視装置、エレベータ監視装置などの交通インフラ向けミリ波レーダー;各種セキュリティ装置向けミリ波レーダー;子供、高齢者見守りシステムなどの医療・介護用ミリ波レーダー;各種情報コンテンツ伝送用ミリ波レーダー;等を好適に挙げることができる。
【実施例】
【0097】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
以下の実施例及び比較例において、使用した成分は、以下の表1の通りである。
【0098】
【表1】
【0099】
(実施例1〜3、比較例1)
上記表1に示した各成分のうち、ガラス繊維を除いた各成分を、後記表2に示す割合(全て質量部)にて、タンブラーミキサーで均一に混合した後、二軸混練押出機(日本製鋼所社製「TEX30α」、L/D=42)のメインフィード口から供給し、第一混練部のバレル温度を270℃に設定して可塑化し、ガラス繊維は表2に示す割合でサイドフィーダーより供給し、ガラス繊維添加以降のバレル温度を220℃に設定し、吐出量40kg/h、スクリュー回転数200rpmの条件で溶融混練し、混練物を押し出し、水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化し、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
【0100】
[引張破断強度及び引張弾性率]
上記で得られたペレットを120℃で5時間乾燥させた後、日本製鋼所社製射出成形機(型締め力85T)を用いて、シリンダー温度250℃、金型温度80℃の条件で、ISO多目的試験片(4mm厚)を射出成形した。
ISO527に準拠して、上記ISO多目的試験片(4mm厚)を用いて、引張破断強度(単位:MPa)及び引張弾性率(単位:MPa)を測定した。
【0101】
[耐加水分解性:処理100時間後の引張強度保持率]
得られたペレットを、熱風乾燥機を使用して120℃で5時間乾燥した後、射出成形機(日精樹脂工業社製「NEX80」)にて、シリンダー温度250℃、金型温度80℃の条件でISO多目的試験片(4mm厚)を射出成形した。
ISO多目的試験片を用い、ISO527に準拠し、引張速度5mm/分の条件で、引張強度(処理前)を測定した(単位:MPa)。
また、ISO多目的試験片を、プレッシャークッカー(PCT)試験機(平山製作所社製)を用いて、温度121℃、相対湿度100%、圧力2atmの条件で、100時間処理し、同様に引張強度を測定し、処理前に対する処理後の強度保持率(単位:%)を算出し、耐加水分解性を評価した。
【0102】
[反り量と低反り性判定]
射出成形機(日精樹脂工業社製「NEX80−9E」)にて、シリンダー温度260℃、金型温度80℃の条件で、直径100mm、厚み1.6mmの円板をサイドゲート金型により成形し、円板の反り量(単位:mm)を求めた。
以下の基準により、低反り性の評価判定を行った。
○:反り量が1mm未満
△:反り量が1mm以上3mm未満
×:反り量が3mm以上
【0103】
[表面外観評価]
日精樹脂工業社製射出成形機「NEX80−9E」を使用し、シリンダー温度250℃、金型温度80℃にて、縦100mm×横100mm×厚み3mmの平板を成形し、表面外観を目視で観察し、下記の通り、振り分けた。
○:良好
△:少し悪い
×:著しく悪い
【0104】
[比誘電率、誘電正接]
上述の方法で得られたペレットを、120℃で5時間乾燥させた後、日精樹脂工業社製射出成形機「NEX80−9E」を使用し、シリンダー温度250℃、金型温度80℃にて、縦100mm×横100mm×厚みが約2mmの平板状成形体を得た。
このようにして得られた成形体を、Φ80mm径の試料台に設置し、Virginia Diodes社製WR10−VNAX型ミリ波モジュールと、KEYSIGHT社製N5227A型ネットワークアナライザー、及びキーコム社製誘電体レンズ付き透過減衰測定治具を備えたキーコム社製DPS10型ミリ波・マイクロ波測定装置システムを用いて、フリースペース周波数変化法にて、25℃、測定周波数70〜90GHzの測定条件で、透過減衰量と位相変化量を測定した。また、シンワ社製デジタルマイクロメーターにて成形体の正確な厚みを測定し、上述の透過減衰量と位相変化量、及び厚み測定結果をもとに、76.5GHzにおける比誘電率及び誘電正接を求めた。
【0105】
[透過率(%)]
上記で得られた樹脂組成物ペレットを120℃で5時間乾燥した後、射出成形機(日精樹脂工業社製、NEX80−9E)を用い、シリンダー温度260℃、金型温度80℃で、60mm×60mm×1.5mmtのプレートを製造した。
紫外可視近赤外分光光度計(島津製作所社製「UV−3100PC」)を用いて、波長1070nmにおける透過率(単位:%)を求めた。
【0106】
[レーザー溶着強度(単位:N)]
レーザー溶着強度の測定は、
図1に示す円板状の透過側部材1と円筒状の吸収側部材2とを作成し、両者を重ね合わせてレーザー溶着してレーザー溶着体を得、その溶着強度を測定することにより行った。
(1)透過側部材用試験片の作製
上記実施例及び比較例により得られたペレットを、120℃で5時間乾燥した後、射出成形機(日本製鋼所社製「J55」)にて、シリンダー温度260℃、金型温度60℃、射出速度60mm/s、保圧70MPa、保圧時間5s、冷却時間15sの条件で、
図1の透過側部材1に示す円板状(直径48mm、厚さ1.5mm)の透過側部材用試験片を射出成形した。
(2)吸収側部材用試験片の作製
ポリブチレンテレフタレート樹脂(前記「ノバデュラン5008」)を100質量部、クレゾールノボラック型エポキシ化合物(前記「YDCN704」)を1.5質量部、安定剤(ADEKA社製、商品名:AO−60)を0.3質量部、離型剤(日油社製、商品名:ユニスターH476D)を0.7質量部、着色剤としてカーボンブラックマスターバッチを2質量部、強化充填材(前記「T−127」)44質量部を混合し、上記製造法と同様にして、吸収側部材用ペレットを製造した。得られた吸収側部材用ペレットを用い、上記(1)と同様の成形条件で、
図1の吸収側部材2に示す円筒形状(直径48mm、高さ20mm、接合面3の全体幅5mmに対し幅が2mmで高さが2mmの凸部を有する。)吸収側部材用試験片を射出成形した。
【0107】
(3)レーザー溶着性
レーザー溶着は、透過側部材用試験片1と吸収側部材用試験片2とを、単位面積当たりの押し付け力を2.5N/mm
2で重ね合わせ、ファインディバイス社製ガルバノスキャナ式レーザー装置(レーザー波長:1070nm、レーザースポット径φ2.0mm)を用い、出力150W、速度900mm/sの条件で、透過側部材用試験片1上の溶着予定ライン4にレーザー光Xを走査し、周回数を変えて溶着体を作成した。
次に得られた溶着体を引張試験機(オリエンテック社製「1tテンシロン」)を使用し、溶着体内部に溶着以前に挿入しておいた試験用治具に引張用の棒を取り付け、透過側部材8側から5mm/分で引っ張ることで評価し、溶着強度が800Nとなる周回数を求め
レーザー溶着性とした。
○:周回数10周以下で溶着強度800Nに到達
△:周回数11周以上15周以下で溶着強度800Nに到達
×:周回数15周でも800Nに到達せず
【0108】
[総合評価]
上記の結果から、以下の1〜3の基準で総合評価の判定を行った。
1:引張強度が120MPa以上、耐加水分解性が60%以上、低反り性評価及び表面外観評価の両方が○評価であり、比誘電率が3.40以下であり、溶着強度800Nに到達する周回数が10周以下である。
2:引張強度が120MPa以上、耐加水分解性が60%以上、低反り性評価及び表面外観評価が△以上の評価であり、比誘電率が3.40〜3.60であり、溶着強度800Nに到達する周回数が11周以上15周以内である。
3:引張強度が120MPa以下、耐加水分解性が50%未満、低反り性評価及び表面外観評価のいずれかに×評価、比誘電率が3.40以上、溶着強度800Nに到達する周回数が15周以上の、何れか二つ以上に該当しない場合。
以上の結果を、以下の表2に示す。
【0109】
【表2】