【解決手段】セルロース繊維に無機粒子が自己定着した複合繊維を含有する板紙であって、前記複合繊維はセルロース繊維表面の15%以上が無機粒子によって被覆されている、板紙。好ましくは前記無機粒子がカルシウム、マグネシウム、バリウムあるいはアルミニウムの金属塩、チタン、銅あるいは亜鉛を含む金属粒子、またはケイ酸塩、からなる群より選ばれる少なくとも1つを含み、より好ましくは板紙が多層板紙である。本発明の板紙は包装紙、ライナ、紙箱等に利用できる。
セルロース繊維に無機粒子が自己定着した複合繊維を含有する板紙であって、前記複合繊維はセルロース繊維表面の15%以上が無機粒子によって被覆されている、板紙。
前記無機粒子がカルシウム、マグネシウム、バリウムあるいはアルミニウムの金属塩、チタン、銅あるいは亜鉛を含む金属粒子、またはケイ酸塩、からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1に記載の板紙。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は下記の態様に限定されるものではない。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0012】
<板紙>
本発明の板紙は、紙層に繊維と無機粒子との複合繊維を含んでいる。好ましくは2層以上の紙層を積層した多層構造であり、その少なくとも1層の紙層に繊維と無機粒子との複合繊維を含んでいる。各層の組成は同じであっても異なっていてもよく、例えば、少なくとも1層の紙層は繊維と無機粒子との複合繊維を含み、別の紙層は繊維と無機粒子との複合繊維を含まないこと、または、繊維と無機粒子との複合繊維を含む紙層を2層以上含み、1層の含有する無機粒子の種類と、少なくとも他の1層の含有する無機粒子の種類とが異なっていてもよい。この構成により、或る紙層は、板紙を構成する紙層の一つとして予め決定されていても、他の紙層に当該決定されている紙層とは異なる性質を持たせることで、当該或る紙層の性質に、異なる性質も併せ持つ板紙を製造することができる。また、最外層である表層および/または裏層に設けるとより効果が発揮される性質を持つ紙層を最外層に配することでより機能を発揮することができる。さらに、後述の通り連続抄紙で好適に製造できるため容易に製造できる。
【0013】
本発明の板紙の性質は、少なくとも1層の紙層の性質が複合繊維を構成する無機粒子に由来する機能に基づく性質であればよい。例えば、難燃性、防カビ性、抗菌性、消臭性、抗ウィルス性、抗アレルゲン性、放射線遮蔽性、吸着性、吸収性、吸湿性、補強性、隠蔽性、光触媒等の性質が挙げられ、防カビ性、抗菌性、消臭性、ガス吸着性、吸湿性等といった生鮮品の鮮度保持に要求される性質を有していることがより好ましい。また、多層紙の場合はその他の紙層には無機粒子を含んでもよく、含まなくてもよい。例えば、当該別の紙層の性質は、紙厚、坪量等の構造等に基づくものでもよい。また、前記少なくとも1層の紙層と、前記別の紙層とは、含有する無機粒子の種類及び含有量のうち少なくとも一方が異なることで性質が異なっていてもよい。紙層に所望の機能を発揮させる無機粒子の種類、含有量を調整することで、より容易に所望の機能を有する紙を製造できる。
本発明の板紙を構成する紙層の数は特に限定されないが、板紙が多層板紙である場合、例えば、2〜5層としてもよい。
【0014】
<複合繊維>
複合繊維は、単に繊維と無機粒子とが混在しているのではなく、水素結合等によって繊維と無機粒子とが複合化していることにより、無機粒子が繊維から脱落し難い。従って、複合繊維を含むことによって、無機粒子の歩留まりが高い紙を提供することができる。本発明の板紙はこのような紙層を含むので、当該無機粒子に由来する機能を発現する板紙を効率よく製造できる。
【0015】
複合繊維におけるセルロース繊維と無機粒子との結着の強さは、例えば、複合繊維そのものの灰分歩留(%)によって評価できる。例えば、複合繊維がシート状である場合、(シートの灰分÷離解前の複合繊維の灰分)×100といった数値によって評価することができる。具体的には、複合繊維を水に分散させて固形分濃度0.2%に調整してJIS P 8220−1:2012に規定される標準離解機で5分間離解後、JIS P 8222:1998に従って150メッシュのワイヤーを用いてシート化した際の灰分歩留を評価に用いることができ、好ましい態様において灰分歩留は20質量%以上であり、より好ましい態様において灰分歩留は50質量%以上である。つまり、単に無機粒子を繊維に単に配合した場合と異なり、無機粒子を繊維と複合化しておくと、例えば、シート状の複合繊維とする態様において、無機粒子が複合繊維に歩留易いだけでなく、凝集せずに均一に分散した複合繊維を得ることができる。
【0016】
本発明の一態様において、複合繊維における繊維表面の15%以上が無機粒子によって被覆されていることが好ましい。このような面積率で繊維表面が無機粒子に被覆されていると無機粒子に起因する特徴が大きく生じるようになる一方、繊維表面に起因する特徴が小さくなる。また、複合繊維において、無機粒子によるセルロース繊維の被覆率(面積率)は、25%以上がより好ましく、40%以上がさらに好ましい。また、前記方法によれば、被覆率を60%以上、80%以上の複合繊維を好適に製造できる。被覆率の上限値は用途に応じて適宜設定すればよいが、例えば、100%、90%、80%である。また、本発明の一態様における複合繊維では、無機粒子が繊維の外表面に生成することが電子顕微鏡観察の結果から明らかとなっている。
【0017】
本発明の一態様において、複合繊維の灰分(%)は30%以上、90%以下であることが好ましく、40%以上、80%以下であることがより好ましい。複合繊維の灰分(%)は、ろ紙を用いて複合繊維のスラリー(固形分換算で3g)を吸引濾過した後、残渣をオーブンで乾燥し(105℃、2時間)、さらに525℃で有機分を燃焼させ、燃焼前後の重量から算出することができる。
【0018】
〔無機粒子〕
複合繊維を構成する無機粒子は、多層シートの用途に応じて適宜選択すればよく、水に不溶性又は難溶性の無機粒子であることが好ましい。無機粒子の合成を水系で行う場合があり、また、複合繊維を水系で使用することもあるため、無機粒子が水に不溶性又は難溶性であると好ましい。
【0019】
無機粒子とは無機化合物の粒子をいい、例えば金属化合物が挙げられる。金属化合物とは、金属の陽イオン(例えば、Na
+、Ca
2+、Mg
2+、Al
3+、Ba
2+等)と陰イオン(例えば、O
2−、OH
−、CO
32−、PO
43−、SO
42−、NO
3−、Si
2O
32−、SiO
32−、Cl
−、F
−、S
2−等)がイオン結合によって結合してできた、一般に無機塩と呼ばれるものをいう。無機粒子の具体例としては、例えば、金、銀、チタン、銅、白金、鉄、亜鉛、及び、アルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属を含む化合物が挙げられる。また、炭酸カルシウム(軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム)、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、硫酸バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、リン酸カルシウム、酸化亜鉛、ステアリン酸亜鉛、二酸化チタン、ケイ酸ナトリウムと鉱酸から製造されるシリカ(ホワイトカーボン、シリカ/炭酸カルシウム複合物、シリカ/二酸化チタン複合物)、硫酸カルシウム、ゼオライト、ハイドロタルサイトが挙げられる。炭酸カルシウム−シリカ複合物としては、炭酸カルシウム及び/又は軽質炭酸カルシウム−シリカ複合物以外に、ホワイトカーボンのような非晶質シリカを併用してもよい。以上に例示した無機粒子については、繊維を含む溶液中で、互いに合成する反応を阻害しない限り、単独でも2種類以上の組み合わせで用いてもよい。
【0020】
また、複合繊維中の無機粒子がハイドロタルサイトである場合、ハイドロタルサイトとセルロース繊維との複合繊維の灰分中、銅または亜鉛のうち少なくとも一つを10重量%以上含むことがより好ましい。
【0021】
本発明の一実施形態において、鮮度保持を目的としたガス吸着、防カビ、もしくは抗菌機能の高い板紙を得るのに必要な無機粒子として、銅または亜鉛を含むハイドロタルサイトを用いることがより好ましい。
【0022】
一つの好ましい態様として、無機粒子の平均一次粒子径を、例えば、1μm以下とすることができるが、平均一次粒子径が500nm以下の無機粒子、平均一次粒子径が200nm以下の無機粒子、平均一次粒子径が100nm以下の無機粒子、平均一次粒子径が50nm以下の無機粒子を用いることができる。また、無機粒子の平均一次粒子径は10nm以上とすることも可能である。なお、平均一次粒子径は電子顕微鏡写真から算出することができる。
【0023】
また、無機粒子を合成する際の条件を調整することによって、種々の大きさ及び形状を有する無機粒子を繊維と複合化することができる。例えば、鱗片状の無機粒子が繊維に複合化している複合繊維とすることもできる。複合繊維を構成する無機粒子の形状は、電子顕微鏡による観察により確認することができる。
【0024】
また、無機粒子は、微細な一次粒子が凝集した二次粒子の形態を取ることもあり、熟成工程によって用途に応じた二次粒子を生成させてもよく、また、粉砕によって凝集塊を細かくしてもよい。粉砕の方法としては、ボールミル、サンドグラインダーミル、インパクトミル、高圧ホモジナイザー、低圧ホモジナイザー、ダイノーミル、超音波ミル、カンダグラインダ、アトライタ、石臼型ミル、振動ミル、カッターミル、ジェットミル、離解機、叩解機、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等が挙げられる。
【0025】
〔繊維〕
複合繊維を構成する繊維は、セルロース繊維であれば特に制限されないが、例えば、天然のセルロース繊維、レーヨンやリヨセルなどの再生繊維(半合成繊維)や合成繊維などを制限なく使用することができる。その中でも、木材パルプを含むか、若しくは、木材パルプと非木材パルプ及び/又は合成繊維との組み合わせを含むことが好ましく、木材パルプのみであることがより好ましい。好ましい態様において、複合繊維を構成する繊維はパルプ繊維である。天然のセルロース繊維の原料としては、パルプ繊維(木材パルプ、非木材パルプ)、バクテリアセルロース、ホヤ等の動物由来セルロース、藻類が例示され、木材パルプは、木材原料をパルプ化して製造すればよい。木材原料としては、アカマツ、クロマツ、トドマツ、エゾマツ、ベニマツ、カラマツ、モミ、ツガ、スギ、ヒノキ、カラマツ、シラベ、トウヒ、ヒバ、ダグラスファー、ヘムロック、ホワイトファー、スプルース、バルサムファー、シーダ、パイン、メルクシマツ、ラジアータパイン等の針葉樹、及びこれらの混合材、ブナ、カバ、ハンノキ、ナラ、タブ、シイ、シラカバ、ハコヤナギ、ポプラ、タモ、ドロヤナギ、ユーカリ、マングローブ、ラワン、アカシア等の広葉樹及びこれらの混合材が例示される。
【0026】
木材原料(木質原料)等の天然材料をパルプ化する方法は、特に限定されず、製紙業界で一般に用いられるパルプ化法が例示される。木材パルプはパルプ化法により分類でき、例えば、クラフト法、サルファイト法、ソーダ法、ポリサルファイド法等の方法により蒸解した化学パルプ;リファイナー、グラインダー等の機械力によってパルプ化して得られる機械パルプ;薬品による前処理の後、機械力によるパルプ化を行って得られるセミケミカルパルプ;古紙パルプ;脱墨パルプ等が挙げられる。木材パルプは、未晒(漂白前)の状態であってもよいし、晒(漂白後)の状態であってもよい。
【0027】
非木材由来のパルプとしては、綿、ヘンプ、サイザル麻、マニラ麻、亜麻、藁、竹、バガス、ケナフ、サトウキビ、トウモロコシ、稲わら、楮(こうぞ)、みつまた等が例示される。
【0028】
パルプ繊維は、未叩解及び叩解のいずれでもよく、複合繊維の物性に応じて選択すればよいが、叩解を行う方が好ましい。これにより、パルプ繊維の強度の向上及び無機粒子の定着促進が期待できる。また、パルプ繊維を叩解することにより、シート状の複合繊維とする態様において、複合繊維シートのBET比表面積の向上効果が期待できる。尚、パルプ繊維の叩解の程度はJIS P 8121−2:2012に規定されるカナダ標準濾水度(Canadian Standard freeness:CSF)によって表わすことができる。叩解が進むにつれてパルプ繊維の水切れ状態が低下し、濾水度は低くなる。
【0029】
また、セルロース原料はさらに処理を施すことで、微粉砕セルロース、酸化セルロース等の化学変性セルロースとして使用することもできる。
【0030】
また、セルロース繊維の他にも様々な、天然繊維、合成繊維、半合繊維、無機繊維が挙げられる。天然繊維としては、例えば、ウール、絹糸、コラーゲン繊維等の蛋白系繊維、キチン・キトサン繊維、アルギン酸繊維等の複合糖鎖系繊維等が挙げられる。合成繊維としては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、アクリル繊維、半合繊維としてはレーヨン、リヨセル、アセテート等が挙げられる。無機繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、各種金属繊維等が挙げられる。さらには、製紙工場の排水から回収された繊維状物質を原料として用いてもよい。このような物質を用いることにより、種々の複合粒子を合成することができ、また、形状的にも繊維状粒子などを合成することができる。
【0031】
また、合成繊維とセルロース繊維との複合繊維も本発明の一態様において使用することができ、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、アクリル繊維、ガラス繊維、炭素繊維、各種金属繊維等とセルロース繊維との複合繊維も使用することができる。
【0032】
また、繊維の他にも、無機粒子の合成反応には直接的に関与しないが、生成物である無機粒子に取り込まれて複合粒子を生成するような物質を用いることができる。例えば、パルプ繊維等の繊維を使用する態様において、それ以外にも無機粒子、有機粒子、ポリマー等を含む溶液中で無機粒子を合成することによって、さらにこれらの物質が取り込まれた複合粒子を製造することが可能である。
以上に例示した繊維については単独でも2種類以上の組み合わせで用いてもよい。
【0033】
また、複合化する繊維の繊維長は特に制限されないが、例えば、平均繊維長が0.1μm〜15mm程度とすることができ、1μm〜12mm、100μm〜10mm、500μm〜8mm等としてもよい。
【0034】
複合化する繊維の量は、繊維表面の15%以上が無機粒子で被覆されるような量とすることが好ましい。例えば、繊維と無機粒子との重量比を、5/95〜75/25とすることが好ましく、10/90〜70/30とすることがより好ましく、15/85〜65/35とすることがさらに好ましい。
【0035】
〔板紙の原料〕
本発明の板紙は、複合化された繊維を含むほかは公知の原料および製造方法を用いて製造される。板紙に用いる原料パルプは特に限定されず、例えば、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等の機械パルプ、脱墨古紙パルプ(DIP)、未脱墨古紙パルプ等の古紙パルプ、針葉樹クラフトパルプ(NKP)、針葉樹クラフトパルプ(LKP)等の化学パルプ等を使用でき、その中でも古紙パルプを50重量%以上含まれることが好ましい。古紙パルプとしては、上質紙、中質紙、下級紙、新聞紙、チラシ、雑誌、段ボール、印刷古紙などの選別古紙やこれらが混合している無選別古紙由来のものを使用できる。また、板紙が多層板紙である場合、前述したとおり、紙層ごとにパルプの種類や配合を変えてもよいし、すべての紙層を同じ種類のパルプを用いてもよい。
【0036】
板紙には前述した複合化された繊維の他、その用途に応じて公知の填料を添加できる。填料としては、重質炭酸カルシム、軽質炭酸カルシウム、クレー、シリカ、軽質炭酸カルシウム−シリカ複合物、カオリン、焼成カオリン、デラミカオリン、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、酸化チタン、ケイ酸ナトリウムの鉱酸による中和で製造される非晶質シリカ等の無機填料や、尿素−ホルマリン樹脂、メラミン系樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂などの有機填料が挙げられる。これらは、単独で使用してもよいし併用してもよい。また、添加を行う場合の紙中の填料の含有率は、紙の重量に対して0〜20質量%が好ましい。さらに、板紙が多層板紙である場合、紙層ごとに紙中の填料の種類や含有率を変更してもよいし、すべて同じとしてもよい。
【0037】
内添薬品として、歩留剤、嵩高剤、乾燥紙力向上剤、湿潤紙力向上剤、濾水性向上剤、保水剤、染料、サイズ剤、各種塩等を必要に応じて使用してもよく、板紙が多層板紙である場合、その種類や含有率は紙層ごとに変更してもよいし、すべて同じ種類や同じ含有率としてもよい。
【0038】
<板紙の製造方法>
本発明の板紙の製造方法は、繊維と無機粒子との複合繊維を含む板紙の製造方法であって、繊維を含むスラリー中で無機粒子を合成して、前記複合繊維を生成する複合繊維生成工程と、前記複合繊維およびパルプを含む複合繊維含有パルプスラリーを連続抄紙機に供して連続的に抄紙して板紙を生成する板紙製造工程とを含む。好ましくは、繊維を含む紙層が2層以上積層しており、少なくとも1つの紙層は、繊維と無機粒子との複合繊維を含み、別の紙層とは異なる性質を有する、板紙の製造方法であって、繊維を含むスラリー中で無機粒子を合成して、前記複合繊維を生成する複合繊維生成工程と、前記複合繊維およびパルプを含む複合繊維含有パルプスラリーと、当該別の紙層とを形成するためのパルプスラリーとを連続抄紙機に供して連続的に抄紙して板紙を生成する板紙製造工程とを含む。
【0039】
〔複合繊維生成工程〕
複合繊維生成工程は、繊維と無機粒子との複合繊維を生成する工程である。複合繊維生成工程では、繊維を含むスラリー中で無機粒子を合成することによって、複合繊維を生成する。
【0040】
〔複合繊維の生成方法〕
繊維を含むスラリー中で無機粒子を合成することによって、所望の無機粒子が繊維に複合化している複合繊維を生成することができる。繊維を含むスラリー中で無機粒子を合成する方法としては、気液法と液液法のいずれでもよい。気液法の一例としては炭酸ガス法があり、例えば水酸化マグネシウムと炭酸ガスを反応させることで、炭酸マグネシウムを合成することができる。反応は、キャビテーション発生装置を用いてもよく(
図2参照)、開放系又は加圧反応容器内でウルトラファインバブルを発生させて行ってもよい。開放系及び加圧反応容器内でウルトラファインバブルを発生させる装置の模式図をそれぞれ
図3及び
図4に示す。液液法の例としては、酸(塩酸、硫酸等)と塩基(水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等)を中和によって反応させたり、無機塩と酸もしくは塩基を反応させたり、無機塩同士を反応させたりする方法が挙げられる。例えば、水酸化バリウムと硫酸とを反応させることで硫酸バリウムを得たり、硫酸アルミニウムと水酸化ナトリウムとを反応させることで水酸化アルミニウムを得たり、炭酸カルシウムと硫酸アルミニウムとを反応させることでカルシウムとアルミニウムが複合化した無機粒子を得ることができる。また、このようにして無機粒子を合成する際、反応液中に任意の金属や金属化合物を共存させることもでき、この場合はそれらの金属もしくは金属化合物が無機粒子中に効率よく取り込まれ、複合化できる。例えば、炭酸カルシウムにリン酸を添加してリン酸カルシウムを合成する際に、二酸化チタンを反応液中に共存させることで、リン酸カルシウムとチタンの複合粒子を得ることができる。
【0041】
2種類以上の無機粒子を繊維に複合化させる場合には、繊維の存在下で1種類の無機粒子の合成反応を行なった後、当該合成反応を止めて別の種類の無機粒子の合成反応を行なってもよく、互いに反応を邪魔しなかったり、一つの反応で目的の無機粒子が複数種類合成されたりする場合には2種類以上の無機粒子を同時に合成してもよい。
【0042】
無機粒子を合成する際の条件を調整することによって、種々の大きさや形状を有する無機粒子を繊維と複合化することができる。例えば、鱗片状の無機粒子が繊維に複合化している複合繊維とすることもできる。複合繊維を構成する無機粒子の形状は、電子顕微鏡による観察により確認することができる。
【0043】
複合繊維生成工程では、含まれるセルロース繊維が、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP):針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)=50:50〜LBKP:NBKP=0:100であることが好ましい。このような範囲であれば、断紙が起こり難くなる。また、含まれる繊維の長さ加重1.2mm〜2.0mmの繊維長分布(%)が16%以上(好ましくは19%以上)、及び、長さ加重1.2mm〜3.2mmの繊維長分布(%)が30%以上(好ましくは35%以上)のうち少なくとも一方のスラリーを用いることがより好ましい。複合繊維を構成する繊維が前記の繊維長分布であれば、機能性無機物が高配合した繊維シートを連続抄紙するときの断紙をより抑えることができる。スラリーに含まれている繊維の長さ加重繊維長分布は、例えば、光学的計測方法によって測定することができる(JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.52(パルプ及び紙−繊維長試験方法−光学的自動計測法)又はJIS P 8226(パルプ−光学的自動分析法による繊維長測定方法−第1部:偏光法)、JIS P 8226‐2(パルプ−光学的自動分析法による繊維長測定方法−第2部:非偏光法)を参照。)。複合繊維生成工程で用いるスラリーに含まれている繊維の長さ加重平均繊維長(length−weighted mean length)が、1.2mm以上、1.5mm以下であることがさらに好ましい。
【0044】
スラリーに含まれている繊維の長さ加重繊維長分布が前記範囲となるスラリーの調製方法又はスラリーに含まれている繊維の長さ加重平均繊維長が前記範囲となるスラリーの調製方法は特に限定されないが、例えば、長さ加重平均繊維長が1.0mm以上、2.0mm以下である繊維(便宜上、「繊維群A」と称する。)を、複合繊維の合成に供される繊維の総量に対して60重量%以上混合することによって調製することができる。尚、前記「長さ加重平均繊維長」は、例えば、公知のMetso Fractionater(Metso社製)を用いて測定することができる。繊維群Aとしては、繊維長が長く強度の向上に有利なことから、針葉樹クラフトパルプを用いることが好ましい。
【0045】
繊維群Aの長さ加重平均繊維長は、1.0mm以上、2.0mm以下であればよいが、好ましくは1.2mm以上、1.6mm以下であり、より好ましくは1.4mm以上、1.6mm以下である。また、複合繊維生成工程において用いるスラリーに、長さ加重平均繊維長が1.0mm以上、2.0mm以下である繊維を、前記スラリーに含まれる前記繊維の総量に対して80重量%以上混合することが好ましく、100重量%としてもよい。
【0046】
長さ加重平均繊維長が上記範囲を満たす繊維としては、例えば、公知の針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等を挙げることができる。
【0047】
複合繊維生成工程において用いるスラリーにおいて、繊維群Aと混合される繊維(便宜上、「繊維群B」と称する。)の長さ加重平均繊維長は、特に限定されない。例えば、繊維群Bは、長さ加重平均繊維長が、例えば、1.0mm未満(好ましくは、0.6mm以上、1.0mm未満)のものであってもよく、2.0mmを上回る(好ましくは、2.0mmより大きく、3.2mm以下)ものであってもよく、1.0mm以上、2.0mm以下であってもよい。このような長さ加重平均繊維長を有しているセルロース繊維としては、例えば、公知の広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、機械パルプ(GP)、脱墨パルプ(DIP)、未叩解パルプ等を挙げることができる。
【0048】
複合繊維生成工程において複合繊維の合成に供される繊維の量は、繊維の表面の15%以上が無機粒子で被覆されるような量とすることが好ましい。例えば、繊維と無機粒子との重量比を、5/95〜95/5とすることが好ましく、10/90〜90/10、20/80〜80/20、30/70〜70/30、40/60〜60/40としてもよい。
【0049】
また、本発明の一態様において、複合繊維の合成に使用する繊維は、どのような濾水度のものでも使用できるが、600ml以下ものでも好適に使用できる。また、繊維の濾水度の下限値は、より好ましくは、50ml以上であり、さらに好ましくは100ml以上である。
【0050】
〔抄紙工程〕
抄紙工程は、前記複合繊維を含む複合繊維含有スラリーを抄紙し板紙を製造する工程である。好ましくは、前記複合繊維を含む複合繊維含有スラリーと、当該別の紙層とを形成するためのスラリーとを抄紙し多層板紙を製造する工程である。
【0051】
抄紙工程において生成する板紙の坪量は、目的に応じて適宜調整できる。板紙が単層の板紙である場合、坪量の下限は10g/m
2以上、上限は300g/m
2以下の範囲で適宜設定することができる。また多層板紙の場合、一つの紙層あたりの坪量として、下限は10g/m
2以上、上限は250g/m
2以下の範囲で適宜設定することができ、多層の板紙全体の坪量として、下限は70g/m
2以上、上限は900g/m
2以下の範囲で適宜設定することができ、例えば、段ボールのライナの場合、坪量の下限は70g/m
2以上、上限は700g/m
2以下の範囲で適宜設定することができる。
【0052】
抄紙工程では、複合繊維含有スラリーを抄紙する。好ましくは複合繊維含有スラリーをそのまま、もしくは複合繊維含有スラリーと別の紙層とを形成するためのスラリーとを連続抄紙機に供して、各スラリー由来の紙層が積層するように連続的に抄紙する。多層板紙の場合は得られる板紙の用途に応じて、最外層である表層および/または裏層に複合繊維含有スラリーを有する層を設けるよう抄紙することが好ましい。連続抄紙機によって板紙を製造するため、従来のように、機能を有する材料又はシートを、ベースとなるシートに塗布したり貼り合わせ加工したりする必要がなく、より容易に機能性を有する紙を製造できる。
【0053】
連続抄紙機は特に限定されず、公知の抄紙機(抄造機)を選択することができる。例えば、長網抄紙機、円網抄紙機、長網・傾斜コンビネーション抄紙機、ギャップフォーマ、ハイブリッドフォーマ、多層抄紙機、これらの機器の抄紙方式を組合せた公知の抄造機等が挙げられる。本発明の一実施形態において、長網抄紙機を好適に採用することができる。また、本発明の他の実施形態において、円網抄紙機を好適に採用することができる。円網抄紙機は、坪量が多い多層紙の製造に適している。また、円網抄紙機は、長網抄紙機と比較して設備がコンパクトであるという利点を有する。これに対して、長網抄紙機は、円網抄紙機と比較して高速抄紙が可能であるという利点を有している。抄紙機におけるプレス線圧、後述するカレンダー処理を行う場合のカレンダー線圧は、いずれも操業性や複合繊維を含む紙の性能に支障を来さない範囲内で定めることができる。また、形成された紙に対して含浸や塗布により澱粉や各種ポリマー、顔料及びそれらの混合物を付与してもよい。
【0054】
抄紙工程における抄紙速度は特に限定されない。抄紙速度は、使用する抄紙機の特性、抄紙するシートの坪量等に応じて適宜設定することができる。例えば、長網抄紙機を使用する場合は、抄紙速度を、1m/min以上、1500m/min以下とすることができる。また、例えば、円網抄紙機を使用する場合は、抄紙速度を、10m/min以上、300m/min以下とすることができる。
【0055】
〔複合繊維含有スラリー〕
抄紙工程において使用する複合繊維含有スラリー中に含まれている複合繊維としては、1種類のみであってもよく、2種類以上を混合したものであってもよい。
複合繊維含有スラリーには、原料パルプが含まれ、複合繊維以外の物質を更に添加してもよい。複合繊維以外の物質について、以下に具体的に説明する。
【0056】
(i)原料パルプ
複合繊維含有スラリー中には、複合化されていない繊維として原料パルプが含まれる。原料パルプの種類は特に限定されず、例えば、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等の機械パルプ、脱墨古紙パルプ(DIP)、未脱墨古紙パルプ等の古紙パルプ、針葉樹クラフトパルプ(NKP)、針葉樹クラフトパルプ(LKP)等の化学パルプ等を使用できる。古紙パルプとしては、上質紙、中質紙、下級紙、新聞紙、チラシ、雑誌、段ボール、印刷古紙などの選別古紙やこれらが混合している無選別古紙由来のものを使用できる。また古紙中には所望の機能を妨げない限りにおいて、前述の複合繊維が含有していてもよい。
【0057】
(ii)歩留剤
複合繊維含有スラリーには、填料の繊維への定着を促したり、填料及び繊維の歩留を向上させたりするために、歩留剤を添加することもできる。例えば、歩留剤として、カチオン性又はアニオン性、両性ポリアクリルアミド系物質を用いることができる。また、これらに加えて少なくとも一種以上のカチオンやアニオン性のポリマーを併用する、いわゆるデュアルポリマーと呼ばれる歩留りシステムを適用することもでき、少なくとも一種類以上のアニオン性のベントナイトやコロイダルシリカ、ポリ珪酸、ポリ珪酸もしくはポリ珪酸塩ミクロゲル及びこれらのアルミニウム改質物等の無機微粒子や、アクリルアミドが架橋重合したいわゆるマイクロポリマーといわれる粒径100μm以下の有機系の微粒子を一種以上併用する多成分歩留りシステムであってもよい。特に単独又は組合せで使用するポリアクリルアミド系物質が、極限粘度法による重量平均分子量が200万ダルトン以上である場合、良好な歩留りを得ることができ、好ましくは、500万ダルトン以上であり、更に好ましくは1000万ダルトン以上、3000万ダルトン未満の前記アクリルアミド系物質である場合に非常に高い歩留りを得ることが出来る。このポリアクリルアミド系物質の形態はエマルジョン型でも溶液型であっても構わない。この具体的な組成としては、該物質中にアクリルアミドモノマーユニットを構造単位として含むものであれば特に限定はないが、例えば、アクリル酸エステルの4級アンモニウム塩とアクリルアミドとの共重合物、あるいはアクリルアミドとアクリル酸エステルを共重合させた後、4級化したアンモニウム塩が挙げられる。該カチオン性ポリアクリルアミド系物質のカチオン電荷密度は特には限定されない。
【0058】
歩留剤は、複合繊維含有スラリー中の繊維の全重量に対して、好ましくは0.001重量%〜0.1重量%、より好ましくは0.005重量%〜0.05重量%の量で添加することができる。
【0059】
(iii)繊維と複合化していない無機粒子
複合繊維含有スラリーには、繊維と複合化していない無機粒子を更に添加することができる。このような無機粒子は、複合繊維を構成している無機粒子のように水素結合等によってセルロース繊維と結着せず、繊維と混在している点で区別される。繊維と複合化していない無機粒子(以下、「非複合化無機粒子」という。)の種類は、複合繊維を構成する無機粒子と異なっていても同一であってもよい。また、複合繊維を構成する無機粒子と種類が異なる場合は、非複合化無機粒子は、複合繊維を構成する無機粒子と機能が同一又は類似していてもよく、機能が異なっていてもよい。複合繊維を構成する無機粒子とは異なる種類であり且つ異なる機能を有する非複合化無機粒子を添加することによって、双方の機能を併せ持つ板紙を製造することができる。また、複合繊維を構成する無機粒子と同一の種類の外添無機粒子又は種類は異なるが機能が同一若しくは類似している非複合化無機粒子を添加することによって、当該機能をより向上させることができる。
【0060】
非複合化無機粒子の種類は、目的に応じて適宜選択すればよい。外添無機粒子は、上述した複合繊維を構成する無機粒子についての説明を準用できる。また、一般に無機填料と呼ばれる粒子を選択することも可能である。無機填料としては上述した無機粒子の他に、金属単体、白土、ベントナイト、珪藻土、クレー(カオリン、焼成カオリン、デラミカオリン)、タルク、脱墨工程から得られる灰分を再生して利用する無機填料及び再生する過程でシリカ又は炭酸カルシウムと複合物を形成した無機填料等が挙げられる。これらは単独でも2種類以上の組み合わせで用いてもよい。
【0061】
非複合化無機粒子を添加する場合、複合繊維含有スラリー中の繊維と非複合化無機粒子との重量比は、適宜設定すればよく、例えば、99/1〜70/30が好ましい。少量の添加で効果が得られるものもあれば、用途によっては多量に添加が必要なものがある。また、添加量を30%以下とすることで良好に歩留りする。
【0062】
(iv)有機粒子
抄紙の際には、有機粒子を添加してもよい。有機粒子とは有機化合物を粒子状にしたものである。有機粒子としては、例えば、難燃性を高めるための有機系の難燃材料(リン酸系、ホウ素系等)、尿素−ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂、微小中空粒子、アクリルアミド複合繊維、木材由来の物質(微細繊維、ミクロフィブリル繊維、粉体ケナフ)、印刷適性を向上させるための変性不溶化デンプン、未糊化デンプン、ラテックス等が挙げられる。これらは単独でも2種類以上の組み合わせで用いてもよい。
【0063】
有機粒子を添加する場合、複合繊維含有スラリー中の繊維と有機粒子との重量比は、適宜設定すればよく、例えば、99/1〜70/30が好ましい。また、有機粒子の添加量を30%以下とすることで良好に歩留りする。
【0064】
(v)その他の添加剤
複合繊維含有スラリーには、湿潤及び/又は乾燥紙力剤(紙力増強剤)を添加することができる。これにより、複合繊維シートの強度を向上させることができる。紙力剤としては例えば、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、ポリアミド、ポリアミン、エピクロロヒドリン樹脂、植物性ガム、ラテックス、ポリエチレンイミン、グリオキサール、ガム、マンノガラクタンポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルアミン、ポリビニルアルコール等の樹脂;前記樹脂から選ばれる2種以上からなる複合ポリマー又は共重合ポリマー;澱粉及び加工澱粉;カルボキシメチルセルロース、グアーガム、尿素樹脂等が挙げられる。紙力剤の添加量は特に限定されない。
【0065】
また、填料の繊維への定着を促したり、填料及び繊維の歩留を向上させたりするために、高分子ポリマーや無機物を添加することもできる。例えば凝結剤として、ポリエチレンイミン及び第三級及び/又は四級アンモニウム基を含む改質ポリエチレンイミン、ポリアルキレンイミン、ジシアンジアミドポリマー、ポリアミン、ポリアミン/エピクロヒドリン重合体、並びにジアルキルジアリル第四級アンモニウムモノマー、ジアルキルアミノアルキルアクリレート、ジアルキルアミノアルキルメタクリレート、ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド及びジアルキルアミノアルキルメタクリルアミドとアクリルアミドの重合体、モノアミン類とエピハロヒドリンからなる重合体、ポリビニルアミン及びビニルアミン部を持つ重合体やこれらの混合物等のカチオン性のポリマーに加え、前記ポリマーの分子内にカルボキシル基やスルホン基等のアニオン基を共重合したカチオンリッチな両イオン性ポリマー、カチオン性ポリマーとアニオン性又は両イオン性ポリマーとの混合物等を用いることができる。
【0066】
その他、目的に応じて、濾水性向上剤、内添サイズ剤、pH調整剤、消泡剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤、嵩高剤、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、シリカ等の無機粒子(いわゆる填料)等が挙げられる。各添加剤の使用量は特に限定されない。
【0067】
〔別の紙層を形成するためのスラリー〕
多層板紙を製造する場合、別の紙層を形成するためのスラリーは、多層板紙の用途等に応じて適宜準備すればよい。例えば、別の紙層を形成するためのスラリーは、或る紙層とは異なる性質となるように無機粒子の種類及び/又は含有量を調整した上で、上述の複合繊維生成工程を行なって得た複合繊維含有スラリーを用いてもよい。また、別の紙層を形成するためのスラリーは、繊維を含むスラリーに予め合成された無機粒子等の従来公知の填料を添加したものであってもよい。
【0068】
〔板紙の形成方法〕
抄造工程では、複合繊維が含有されている板紙を製造する。好ましくは紙層が2層以上積層し、その少なくとも1層には複合繊維が含有されている板紙を製造する。板紙の製造方法は特に限定されず、公知の長網・傾斜コンビネーション抄紙機を用いて、複合繊維が入った紙層に、複合繊維を含まない紙層を抄き合わせて板紙を製造することができる。
【0069】
〔板紙の用途〕
本発明で得られた板紙は、各種用途に使用することができる。用途はこれらに限定されないが、例えば、包装紙、紙器用紙、段ボール用ライナ、段ボール用中しん等があげられる。また、本発明で得られた板紙を加工することにより、例えば紙箱、段ボールシート、段ボール箱、壁紙、紙製家具、紙製パーティション、紙製ボード等の各種紙加工品の用途にも使用することができる。
【0070】
また本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0071】
(1)銅亜鉛系ハイドロタルサイト化合物とセルロース繊維との複合繊維の合成
以下の手順にて、銅亜鉛系ハイドロタルサイト化合物(CuZn
5Al
2(OH)
16CO
3・4H
2O)とセルロース繊維の複合繊維を合成した。
(i)アルカリ溶液と酸溶液の調製
ハイドロタルサイト(HT)を合成するための溶液を準備した。アルカリ溶液(A溶液)として、Na
2CO
3(和光純薬)およびNaOH(和光純薬)の混合水溶液を調製した。また、酸溶液(B溶液)として、ZnSO
4(和光純薬)、CuSO
4(和光純薬)およびAl
2(SO
4)
3(和光純薬)の混合水溶液を調製した。
・アルカリ溶液(A溶液、Na
2CO
3濃度:0.05M、NaOH濃度:0.80M)
・3種類の試薬の混合酸溶液(B溶液、ZnSO
4濃度:0.60M、CuSO
4濃度:0.12M、Al
2(SO
4)
3濃度:0.12M)
(ii)セルロース繊維
複合化する繊維として、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP、日本製紙製)と針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP、日本製紙製)を8:2の重量比で含み、シングルディスクリファイナー(SDR)を用いてカナダ標準濾水度(CSF)を390mlに調整したセルロース繊維を用意したセルロース繊維を使用した。なお、カナダ標準濾水度(CSF)はJIS P 8121−2:2012に基づいて測定した。
(iii)複合繊維の合成
アルカリ溶液(A溶液)にセルロース繊維を添加し、セルロース繊維を含む水性懸濁液を準備した(パルプ繊維濃度:3.5%、pH:12.9)。この水性懸濁液(パルプ固形分100g)を10L容の反応容器に入れ、
図1に示すような装置を用いて、反応温度50℃で水性懸濁液を撹拌しながら、酸溶液としてB溶液(3種類の試薬の混合酸溶液)を滴下速度5〜15ml/minで滴下して、反応液のpHが約7になった段階で滴下を停止した。滴下終了後、30分間反応液を撹拌し、10倍量の水を用いて水洗して塩を除去して、銅亜鉛系ハイドロタルサイト化合物とセルロース繊維との複合繊維を合成した。
得られた複合繊維を任意に選び電子顕微鏡で観察したところ、セルロース繊維表面の50〜80%が銅亜鉛系ハイドロタルサイト化合物により被覆されていた。
【0072】
[実施例1]
(2)表層用紙料スラリーの調製および湿紙シート作成
針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)と(1)で得られた複合繊維とを90:10の重量比で混合したパルプスラリーに、パルプスラリー固形分に対して硫酸バンド2重量%、ポリアクリルアミド系紙力剤0.2重量%、ロジン系サイズ剤0.2重量%を順に混合して複合繊維を含有する表層用の紙料スラリーを調製した。なお、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)はカナダ標準濾水度(CSF)を400mlに調整したものを用いるとともに、混合したパルプスラリーのカナダ標準濾水度(CSF)を測定したところ390mlであった。
得られた紙料スラリーを固形分濃度1重量%に希釈後、JIS P 8222:2015に基づいて、角型手すき機を用いてシート寸法が250×250mm、絶乾坪量が75g/m
2となるよう手すきを行い、表層用湿紙シートを得た。
【0073】
(3)裏層用紙料スラリーの調製および湿紙シート作成
溶解した古紙パルプのパルプスラリーに、パルプスラリー固形分に対して硫酸バンド2重量%、ポリアクリルアミド系紙力剤0.2重量%、ロジン系サイズ剤0.2重量%を順に混合して裏層用の紙料スラリーを調製した。
得られた紙料スラリーを固形分濃度1重量%に希釈後、JIS P 8222:2015に基づいて、角型手すき機を用いてシート寸法が250×250mm、絶乾坪量が50g/m
2となるよう手すきを行い、裏層用湿紙シートを得た。
【0074】
(4)抄き合わせ及び乾燥
(3)で得られた裏層用湿紙シートの上に、(2)で得られた表層用湿紙シートを重ねて2層のシートとした後、プレス、乾燥して板紙を得た。
【0075】
[実施例2]
針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)と(1)で得られた複合繊維とを0:100の重量比で混合したパルプスラリーを使用した以外は、実施例1と同様にして板紙を得た。
【0076】
[比較例1]
針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)と(1)で得られた複合繊維とを100:0の重量比で混合したパルプスラリーを使用した以外は、実施例1と同様にして板紙を得た。
【0077】
(5)鮮度保持効果の評価
実施例1、2及び比較例1で得られた板紙を、
図5に示すように収穫直後のイチゴが入ったポリエチレンテレフタレート製容器の底部および上部に、表層がイチゴと接するよう設けた後、市販のフィルム厚20μmのポリプロピレン製フィルムを用いて包装した。また、参考例1として、イチゴが入ったポリエチレンテレフタレート製容器の底部および上部に板紙を設けず、そのままポリプロピレン製フィルムを用いて包装した。
包装した容器を気温23℃、湿度50%の条件下に3日間保持し、経時でのカビの発生状況を目視で確認して、鮮度保持効果を以下の基準で評価した。評価結果を表1に示す。
〇:イチゴと、板紙または容器もしくはフィルムとの接触部分にカビが発生していない。
△:イチゴと、板紙または容器もしくはフィルムとの接触部分に若干のカビが発生。
×:イチゴと、板紙または容器もしくはフィルムとの接触部分にカビが発生。
【0078】
【表1】
【0079】
表1から明らかなように、セルロース繊維に銅亜鉛系ハイドロタルサイト化合物が自己定着した複合繊維を含有する板紙であって、複合繊維はセルロース繊維表面の15%以上が銅亜鉛系ハイドロタルサイト化合物によって被覆されている、実施例1および実施例2の板紙は、対象物と板紙が接している部分においてカビの発生が抑制される。これは、銅粒子を含む複合繊維は防カビの機能を有していることを示している。
このことから、例えば生鮮品を包装、輸送する際に、銅粒子を含む複合繊維を含有する板紙を、複合繊維が対象物に接するように包装紙や段ボール箱、紙箱として用いることにより、対象物と板紙とが接している部分におけるカビの発生を防止し、鮮度保持に寄与できるといえる。