【実施例】
【0031】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は以下に述べる実施例に限定されるものではない。実施例におけるフィラメントの物性、評価は、以下の通りとした。
A.MFR
JIS−K−7210(1999年)に準じて、温度315.5℃、荷重5000gの条件でMFR値を測定した。
B. 繊度
JIS−L−1013に準じ、試料を枠周1.125mの検尺機を用い、120回/minの速度で捲き取り、その質量を量り、繊度を求めた。これを5回測定し、平均値を出した。
C.破断強度、破断伸度、5%モジュラス、10%モジュラス
JIS−L−1013に準じ、島津製作所製のAGS−1KNGオートグラフ引張試験機を用い、試料糸長20cm、定速引張速度20cm/minの条件で測定する。荷重−伸び曲線での荷重の最高値を繊度で除した値を破断強度(cN/dtex)とし、その時の伸び率を破断伸度(%)とし、伸び率が5%の時の強度を5%モジュラス(cN/dtex)、伸び率が1%の時の強度を10%モジュラス(cN/dtex)とする。
D. 最内外層の熱収応力比
熱収縮応力は、カネボウエンジニアリング製のKE−II型収縮応力測定装置を用いて測定する。長さ5cmのループ状として糸端を結んだ試料に、繊度×2/30(cN)の初期荷重をかけて、室温から120℃/minの昇温速度で加熱した際の熱収縮力を測定する。測定した熱収縮力の最高点を熱収縮力のピーク(cN)とし、そのときの温度を熱収縮力ピーク温度(℃)とする。そして上記熱収縮力の最高値を、繊維繊度の2倍で除した値を熱収縮応力(cN/dtex)とし、5回測定し平均値を熱収縮応力とした。最内外層の熱収応力比(Sr)は以下の式1により求める。
Sr=Si/So ・・・ 式1
(Sr:最内外層の熱収応力比、Si:パッケージの最内層の熱収縮応力〔紙管外径より、捲厚1mmのポイントを測定〕、So:パッケージの最外層の熱収縮応力〔パッケージの表面層部を1分解舒後のポイントを測定〕)
E.繊維パッケージの捲き状態
捲取操業性は、捲き形状が良好であれば「○」、軽微な捲き崩れ、捲量不足を「△」、酷い捲き崩れ、捲き付け不可などは「×」とした。
F.製織性及び外観評価
得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントを用いて、スルーザー型織機により、回転数300rpmで、420メッシュ/2.54cm(11dtex未満)、225メッシュ/2.54cm(11dtex以上、21dtex未満)、150メッシュ/2.54cm(21dtex以上、35dtex)のメッシュ織物を製織した。その際、筬のスカムの発生、タテ糸、ヨコ糸切れの状態を目視で確認し製織性として評価した。得られた織物の外観(節、ヒケ、筋の発生など)を目視で確認し外観評価として評価した。
製織性及び外観評価が共に良ければ「○」、いずれかが悪ければ「△」、どちらも悪い場合は「×」とした。
G.メッシュ性能評価
Fで得られたメッシュ織物を用いて、160℃、20分間熱セットを行い、加工したメッシュ織物(熱セット前後)の伸長回復サイクルを実施した後の外観を評価する。伸長回復サイクルは、JIS−L−1013に準じ、島津製作所製のAGS−1KNGオートグラフ引張試験機を用い、試料長20cm、幅5cm、定速引張速度20cm/minの条件で、10%伸長回復サイクルを5回実施する。その時のメッシュ織物の外観を目視にて観察した。目ずれ、歪みや破損が無いものを「〇」、歪み、軽微な破損が有るものを「×」、歪みや破損の有無の判断ができなかったものを「△」とした。
H. 総合評価
紡糸操業性、製織性及び外観評価、並びにメッシュ性能評価の項目について、全て〇の判定のものを「〇」、△が1つ以上あり×がないものを「△」、1項目でも×があるものは、「×」とした。
【0032】
〔実施例1〕
MFRが160g/10minのp−ポリフェニレンスルフィド樹脂(水分率:20ppm) を準備し、紡糸温度328℃で溶融した。溶融したポリフェニレンスルフィドを、孔を2個有する紡糸用口金(L/D=0.65mm/0.65mm)を用い、延伸後の繊度が33dtexとなる吐出量で吐出した。吐出したポリフェニレンスルフィドの糸条は、ユニフロー型冷却装置にて冷却し、エマルション油剤を付与(OPU=0.3質量%)し、次いで、糸条を速度1040m/minで非加熱のプレテンションロールに捲き取り、引き続きゴデッドロール1(速度1058m/min、115℃)の間で、テンションを加えたのち、ゴデッドロール2(速度3520m/min、135℃)で本延伸と熱セットを施し、ゴデッドロール3(速度3500m/min、非加熱)でリラックス処理して緩和させ、捲取張力0.2cN/dtexでワインダー(速度3495m/min)でボビンに捲き取った。この際、ボビン形状は端面をテーパー状にしたパーン形状とし、捲幅200mm、テーパー角60°、綾角1°でボビンに捲き取り、繊維パッケージを得た。
【0033】
〔実施例2〕
テーパー角を120°、捲取速度を調整し、捲取張力を0.4cN/dtex、油脂付着率を0.4質量%に変更した以外は、実施例1と同様に、繊維パッケージを得た。
【0034】
〔比較例1〕
テーパー角を180°、ボビン形状をドラム型、綾角を5°に変更した以外は、実施例1と同様に、繊維パッケージを得た。
【0035】
〔比較例2〕
テーパー角を180°、ボビン形状をドラム型に変更した以外は、実施例1と同様に、繊維パッケージを得た。
【0036】
〔比較例3,4〕
テーパー角を160°、20°に変更した以外は、実施例1と同様に繊維パッケージを得た。
【0037】
〔比較例5,6〕
綾角を0.5°、2.5°に変更した以外は、実施例1と同様に繊維パッケージを得た。
【0038】
〔実施例3〕
MFRが160g/10minのp−ポリフェニレンスルフィド樹脂を準備し、紡糸温度328℃で溶融した。溶融したポリフェニレンスルフィドを、孔を2個有する紡糸用口金(L/D=0.35mm/0.31mm)を用い、延伸後の繊度が10dtexとなる吐出量で吐出した。吐出したポリフェニレンスルフィドの糸条は、ユニフロー型冷却装置にて冷却し、未延伸糸を得た後、エマルション油剤を付与し、未延伸糸を一旦捲き取ることなく、延伸工程、リラックス工程を経て、ワインダーでボビンに捲き取り、10 dtexのポリフェニレンスルフィドモノフィラメントからなる繊維パッケージを得た。延伸工程では、まず糸条を非加熱のプレテンションロール(速度940m/min)に捲き取り、次のゴデッドロール1(速度970m/min、100℃)との間で、テンションを加えたのち、ゴデッドロール2(速度3110m/min、130℃)で本延伸と熱セットを施し、リラックス工程では、ゴデッドロール3(速度3100m/min、非加熱)で緩和させ、ワインダーの捲取張力0.4cN/dtexでワインダー(速度3100m/min)でボビンに捲き取った。ボビン形状は端面をテーパー状にしたパーン形状とし、捲幅200mm、テーパー角60°、綾角1°とした。
【0039】
〔実施例4〕
MFRが160g/10minのp−ポリフェニレンスルフィド樹脂を準備し、紡糸温度328℃で溶融した。溶融したポリフェニレンスルフィドを、孔を2個有する紡糸用口金(L/D=0.4mm/0.37mm)を用い、延伸後の繊度が13dtexとなる吐出量で吐出した。吐出したポリフェニレンスルフィドの糸条は、ユニフロー型冷却装置にて冷却し、未延伸糸を得た後、エマルション油剤を付与し、未延伸糸を一旦捲き取ることなく、延伸工程、リラックス工程を経て、ワインダーでボビンに捲き取り、13dtexのポリフェニレンスルフィドモノフィラメントからなる繊維パッケージを得た。延伸工程では、まず糸条を非加熱のプレテンションロール(速度920m/min)に捲き取り、次のゴデッドロール1(速度940m/min、103℃)の間で、テンションを加えた後、ゴデッドロール2(速度3110m/min、135℃)で本延伸と熱セットを施し、リラックス工程として、ゴデッドロール3(速度3100m/min、非加熱)で緩和させ、捲取張力0.3cN/dtexでワインダー(速度3100m/min)にて捲き取った。ボビン形状は端面をテーパー状にしたパーン形状とし、捲幅200mm、テーパー角60°、綾角1°とした。
【0040】
〔比較例7、8〕
捲幅を70mm、300mmに変更した以外は、実施例1と同様に、繊維パッケージを得た。
【0041】
〔実施例5〕
捲取速度を調整し、捲取張力を1.2cN/dtex、綾角を1.2°とする以外は、実施例1と同様に、繊維パッケージを得た。
【0042】
〔比較例9、10〕
捲取速度を調整し、捲取張力を0.05cN/dtex、0.65cN/dtexに変更した以外は、実施例1と同様に、ボビンへの捲き取りを試みた。
【0043】
〔比較例11、12〕
糸条への油脂付着率を0.1質量%、0.6質量%に変更した以外は、実施例1と同様に、繊維パッケージを得た。
【0044】
実施例1〜5、比較例1〜12のポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの製造条件、糸物性、各評価の結果について、表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
破断強度、破断伸度、5、10%モジュラスなどの物性、ボビン形状、ワインダー捲き取り時の捲取張力、糸条への油脂付着率などの捲き取り、捲幅、テーパー角、綾角などの捲取条件を制御することによって、得られた実施例1〜5から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの繊維パッケージのモノフィラメントは、直接紡糸延伸法で製造でき、高強度で節の少ない品位の良いモノフィラメントであった。これらの繊維パッケージは、パッケージの捲き形状は良好で、捲き締まり、捲き崩れなどの形状不良がなく、解舒性も良いものであり、最内外層の熱収縮応力比も良く、均一で品位の良いものであった。また、テーパー部のあるパーン型パッケージに捲かれたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントから得られたメッシュ織物は、スカムの発生がなく、タテ及びヨコの糸切れの発生がなく、外観でも、ヒケやその他の要因による筋、太糸、光沢異常など、発生の無い品位の良いものであった。さらに、強度も十分あり、寸法安定性も良好でフィルターとしての耐久性の高い品位の良いものであった。
なかでも、実施例1、5のものは、繊維物性が良好で、ヒケ発生、筋などがなく、特に優れた性能を持つポリフェニレンスルフィドのメッシュ織物が得られた。
繊維パッケージがドラム型で、綾角が大きい比較例1から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの繊維パッケージは、ドラム型であることと綾角5°であるためと思われるが、トラバースの移動速度が速くなり、糸条がその勢いで外に流されやすくなり、綾落ちが発生しやすくなり、糸の解舒性が悪いパッケージとなった。製織の際にパッケージからの解舒性が悪いため、筋や糸切れが発生し、品位の良くないものになった。それに伴ってと思われるが、メッシュ性能もあまり良くないものであった。
繊維パッケージがドラム型の比較例2から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの繊維パッケージは、ドラム型であるためと思われるが、比較例1より軽減されたものの綾落ちが発生しやすくなり、糸の解舒性が悪いパッケージとなった。製織性はボビンからの少し解舒性が悪いため、筋や糸切れが発生し、品位の良くないものとなった。それに伴ってと思われるが、メッシュ性能もあまり良くなかった。
繊維パッケージがドラム型に近いパーン型の比較例3から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの繊維パッケージは、ドラム型に近いためと思われるが、比較例2より軽減されたものの綾落ちが発生しやすくなり、糸の解舒性が少し悪いパッケージとなった。製織性はボビンからの少し解舒性が悪いため、筋や糸切れが発生し、品位の良くないものとなった。それに伴って、メッシュ性能もあまり良くなかった。
テーパー角が非常に小さい比較例4から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの繊維パッケージは、捲き形状は良好だが、テーパー角が低いため、十分な捲き量を捲くことができず、コストが悪いことや生産効率が悪くなった。このため、製織時、捲量が少ないため、ボビン切り替えによる糸つなぎでのノットの混入や作業効率の低下をきたした。
綾角が非常に小さい比較例5から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの繊維パッケージは、捲き取りボビンの表面に寄り糸による筋が表面中央部に発生し、捲き取り中、発生し続けた。これによって、外観不良となり、解舒性が少し悪かった。このため、製織時、筋や糸切れが発生し、品位の良くないものとなった。メッシュ性能もあまり良くなかった。
綾角が大きい比較例6から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの繊維パッケージは、テーパー部に軽度の綾落ちが発生し、糸の解舒性が悪いパッケージとなった。このため、製織時、筋や糸切れが少し発生し、品位の良くないものとなった。メッシュ性能もあまり良くないものであった。
パッケージの捲幅が小さい比較例7から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの繊維パッケージは、捲き形状は良好だが、捲幅が低いため、十分な捲き量を捲くことができず、高コストとなり生産効率が悪くなった。このため、製織時、捲量が少ないため、ボビン切り替えによる糸つなぎでのノットの混入や作業効率の低下きたした。メッシュ性能は良好なものであった。
パッケージの捲幅が大きい比較例8から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの繊維パッケージは、捲き形状は良好だが、最内層の解舒時、ヒケが発生しやすくなり、製織後のメッシュ織物に筋が発生し、品位の悪いものになった。
ワインダーへの捲取張力の高い比較例9から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの繊維パッケージは、捲取張力が高いことにより、10%モジュラスが高くなり、1kg以上捲きとった時点で、ワインダーに捲き締まりが発生し、繊維パッケージを採取することができなかった。さらに、最内外層の熱収縮応力比が大きく崩れ、品位の悪いモノフィラメントとなった。
ワインダーへの捲取張力の低い比較例10から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの繊維パッケージは、捲取張力が低いことにより、GR3とワインダー間で糸が緩み、ワインダーに捲き付けることが難しく、繊維パッケージを採取することができなかった。
糸条への油脂付着率が少ない比較例11から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの繊維パッケージは、油脂付着率が少ないため、ゴデッドロール上の糸揺れによる糸切れが発生した。また繊維パッケージから解舒した糸条は、静電気の発生などがあり、製織工程通過性を低減させた。それに伴って、メッシュ性能もあまり良くないものであった。
糸条への油脂付着率が多い比較例12から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの繊維パッケージは、ボビンに捲かれた糸条が滑りやすくなるため、テーパー部から糸が落ちる綾落ちが発生し、外観不良となった。また、ボビンの解舒性が悪く、製織にて、筋や糸切れ、スカムが発生し、品位の悪いものとなった。それに伴って、メッシュ性能もあまり良くないものであった。
【0047】
このように、実施例1〜5から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの繊維パケージは、捲き締まり、捲量不足、寄り糸、綾落ちの発生がなく、最内外層の品バラつきが小さく、製織時の解舒での糸切れもなく、製織でのヒケや解舒による筋、筬削れ、スカム、糸切れの発生が殆どなく、強度を合わせ持った高品位なものであった。得られた加工前及び後のメッシュ織物は、目ずれやヒケによる筋などの外観異常などが殆ど無い、寸法安定性に優れ、強度も併せ持っているので、高性能なフィルター用途に使用可能な高品位のものであった。