【実施例】
【0032】
以下に本発明の具体例を示すが、これらは本発明を限定するものではない。
【0033】
冷媒として純水を用い、下記表1に示す処方で実施例1〜5、比較例1〜5の沸騰冷却用作動液を調製した。
【0034】
【表1】
【0035】
実施例および比較例の沸騰冷却作動液は、具体的には、以下のような手法により調製した。
【0036】
[実施例1]
冷却装置を備えた反応容器に酸化カルシウムおよび純水を投入して、濃度7.5wt%の水酸化カルシウム懸濁液を2L調製した。この懸濁液を16℃に冷却し、攪拌しつつ二酸化炭素ガスを導入して炭酸化反応を行った。二酸化炭素ガスは、その導入速度が水酸化カルシウム1kgに対して5L/分となるように導入した。こうして、炭酸カルシウム粒子を含む懸濁液が得られた。
【0037】
炭酸カルシウム粒子を含む懸濁液には、8gのアクリル酸アンモニウム共重合体を分散剤として添加した。本懸濁液を炭酸カルシウム濃度が0.001wt%となるよう純水で希釈し、超音波バスにより超音波を付与して分散処理を行って実施例1の作動液を得た。炭酸カルシウム粒子を電子顕微鏡で観察して求めた平均粒子径は、0.07μmであった。
【0038】
[実施例2、3]
作動液の炭酸カルシウム濃度をそれぞれ0.01wt%、0.1wt%となるように変更した以外は、実施例1と同様の方法により実施例2,3の作動液を得た。
【0039】
[実施例4]
炭酸カルシウム粒子(宇部マテリアルズ(株)製 超高純度炭酸カルシウムCS3N−A、平均粒子径<0.5μm、純度99.9%)を純水に加え、ポリエチレン製の容器中で振とうし、濃度10wt%の懸濁液を調製した。本懸濁液を炭酸カルシウム濃度が0.1wt%となるよう純水で希釈し、超音波バスにより超音波を付与して分散処理を行って、実施例4の作動液を得た。
【0040】
[実施例5]
作動液の炭酸カルシウム濃度を1wt%となるように変更した以外は、実施例4と同様の方法により実施例5の作動液を得た。
【0041】
[比較例2]
炭酸カルシウム粒子(富士フィルム和光(株)製、純度99.9% 平均粒子径5μm)を純水に加え、ポリエチレン製の容器中で振とうし、濃度10wt%の懸濁液を調製した。本懸濁液を炭酸カルシウム濃度が0.001wt%となるよう純水で希釈し、超音波バスにより超音波を付与して分散処理を行って、比較例2の作動液を得た。
【0042】
[比較例3、4]
作動液の炭酸カルシウム濃度をそれぞれ0.01wt%、0.1wt%となるように変更した以外は、比較例2と同様の方法で比較例3,4の作動液を得た。
【0043】
[比較例5]
酸化アルミニウム分散液(CIKナノテック(株)製ALW 10wt%、平均粒子径0.02μm)を酸化アルミニウム濃度が0.001wt%となるよう純水で希釈し、超音波バスにより超音波を付与して分散処理を行って、比較例5の作動液を得た。
【0044】
実施例および比較例の作動液は、ベーパーチャンバー沸騰冷却装置を模した伝熱実験システムを用いて評価した。伝熱実験システムの概略を、
図4に示す。システム50は、作動流体54を収容する容器51を備えている。容器51は、SUS304製の枠52と、ガスケット53を介して枠52の上に設けられた無酸素銅製の上板56と、ガスケット55を介して枠52の下に設けられたSUS304製の底板57とを含む。
【0045】
上板56、ガスケット53、枠52、ガスケット55および底板57は、ボルト(図示せず)で一体に圧着固定され、これによって、作動流体54を収容する空間59が気密性を保たれた状態で形成されている。なお、ガスケットとしては、シリコンゴムシートが用いられる。本実施例においては、空間59の容積は、60mm×60mm×22mmとした。
【0046】
上板56の上面には、冷却部としての水冷ヒートシンク58が設けられている。水冷ヒートシンク58は、冷却水(例えば25℃の水)を循環させることができる。空間59内の圧力は、バルブ64を介して接続された真空ポンプ(図示せず)により調整し、圧力計66により確認することができる。底板57の一部には、加熱ヒーター62で加熱可能な試験片ブロック60の端面が露出している。試験片ブロック60は、無酸素銅製の円柱(直径9mm)であり、露出している上端面が伝熱面68となる。
【0047】
伝熱面68から所定距離(3mm、6mm、9mm)には、K型シース熱電対63(Class1、直径0.5mm)が、試験片ブロック60の側面から中心まで半径方向に挿入されている。これら熱電対63およびデータロガー(図示せず)によって、試験片ブロック60の所定の位置の温度を測定することができる。加熱ヒーター62の印加電圧を変圧器(図示せず)により変化させることで、試験片ブロック60の伝熱面68を通過する熱流束を制御可能である。
【0048】
作動液の評価試験に先立って、試験片ブロック60の伝熱面68の状態を調整しておく。具体的には、伝熱面68を研磨紙で一方向に研磨した後、生じた研磨粉などの汚れを洗浄する。実施例および比較例の作動液を、作動流体54として伝熱実験システムの空間59内に容積の30%になるよう充填し、真空雰囲気下(試験開始時圧力−95kPa以下)で熱量を投入して試験を行った。
【0049】
その際の伝熱面温度、熱流束および熱抵抗を求めた。それぞれの求め方は、以下のとおりである。
加熱ヒーター62の印加電圧を調整して定常状態になった後、試験片ブロック60の伝熱面68から所定距離(3mm、6mm、9mm)の温度を熱電対63で1分間測定し、それぞれの距離について平均値を得た。これを伝熱面68からの所定距離にある各位置の測定値として、
図5のグラフにプロットした。
図5に示される3点の温度分布の回帰直線を外挿し、伝熱面温度Tw(℃)を求めた。
【0050】
また、回帰直線の傾きΔT/Δxを温度変化の傾きdT/dxとみなして、熱伝導率k(W/m・K)を用いて、下記数式(1)のフーリエの法則より熱流束q(W/cm
2)を求めた。
q=−k(dT/dx) …数式(1)
【0051】
ここで、印加電圧を2V以下のステップで上昇させながら、ドライアウトに遷移する直前の印加電圧における定常状態の熱流束をCHFとした。ドライアウトの定義は、熱電対63により測定された3点の温度がそれまでの状態に比べて急上昇し、ほぼ同等の温度になった状態をいう。
また、水冷ヒートシンク58と上板56の中心温度をTc(℃)として、下記数式(2)により熱抵抗R(K/W)を算出した。熱抵抗Rが小さいほど、伝熱性能が優れることを表す。
R=(Tw−Tc)/(q×伝熱面面積) …数式(2)
【0052】
実施例および比較例の各作動液について3回の試験を行って評価し、熱抵抗およびCHFについて平均を求めた。下記表2には、実施例および比較例の作動液を用いた際のCHF時の熱抵抗の測定値及び平均をまとめる。
【0053】
【表2】
【0054】
粒子が含有されない作動液(比較例1)の熱抵抗は1.41(K/W)であるのに対し、実施例の作動液の熱抵抗は、最大でも1.30(K/W)以下であることから、実施例の作動液は伝熱性能に優れていることがわかる。
平均粒子径が5μmの炭酸カルシウム粒子が含有された場合には、熱抵抗は最大で2.32(K/W)にも達している(比較例3)。その熱抵抗は、平均粒子径が0.07μmの炭酸カルシウム粒子を同じ濃度(0.01wt%)で含有する実施例2の3倍以上と大きい。
【0055】
下記表3には、実施例および比較例の作動液を用いた際の限界熱流束(CHF)の測定値及び平均を示す。さらに、作動液として水のみを用いた場合(比較例1)の平均CHFを100%として、相対CHFを求め、その結果を、下記表3に合わせて示す。
【0056】
【表3】
【0057】
実施例の作動液を用いた場合には、200%以上の相対CHFが得られており、実施例の作動液によって、高いCHFを繰り返し再現性よく得られることが確認された。
平均粒子径が5μmの炭酸カルシウム粒子が含有された場合には、CHFは低下してしまう(比較例2〜4)。平均粒子径が0.02μmの粒子であっても酸化アルミニウムの場合には、相対CHFはたかだか157%であり(比較例5)、炭酸カルシウム粒子を含有した実施例には及ばないことがわかる。
なお、本発明の沸騰冷却装置は、上述の構成に限定されるものではない。本発明の沸騰冷却用作動液は、
図6〜11に示すような種々の構成の沸騰冷却装置に用いることができる。
【0058】
図6に示す沸騰冷却装置70においては、内面にウイック73が配置された容器72が用いられる。作動流体78を収容する容器72は、底面で発熱体74に接し、上面で冷却部76に接している。発熱体74の熱により沸騰蒸発した作動流体78は、矢印e方向に上昇し、冷却部76により液化される。液化した作動流体78は、毛細管現象にてウイック73内を矢印rで示されるように移動する。平均粒子径の小さな炭酸カルシウム粒子を用いることで、ウイックを目詰まりさせることなく冷却が可能である。容器72の形状、発熱体74および冷却部76の設置位置や形状等は、特に限定されず、適宜選択することができる。
【0059】
沸騰冷却装置は、
図7に示すような流動型とすることもできる。
図7に示す流動沸騰冷却型の沸騰冷却装置80においては、作動流体88は配管流路82内に収容される。配管流路82の途中には、作動流体88を輸送するためのポンプ83、および冷却用のラジエーター86が設けられている。配管流路82内の圧力は、特に限定されず、大気圧、加圧環境、減圧環境のいずれとしてもよい。
配管流路82内の作動流体88は、ポンプ83により矢印方向に移動する。発熱体84は、配管流路82の一部に接しているが、作動流体88に直接接触して設けることもできる。本発明の沸騰冷却用作動液に含有されている粒子は、平均粒子径が5μm未満の微小粒子であるので、ポンプ83における軸受けなどへの影響は最小限となる。平均粒子径は小さいほどポンプ軸受けなど可動部への影響は小さくなる。
【0060】
冷却部は、作動流体とともに容器内に収容することもできる。
図8には、プール沸騰冷却型の沸騰冷却装置90の構成を示す。図示する装置90では、作動流体98を収容する容器92の内部に、冷却部としての凝縮部96が設けられている。容器92内の圧力は特に限定されず、大気圧、加圧環境、減圧環境のいずれとしてもよい。発熱体94は、容器92の底面に接しているが、作動流体98に直接接触して設けることもできる。容器92、発熱体94、および凝縮部96の形状は特に限定されず、適宜選択することができる。
【0061】
作動流体は、必ずしも容器内に収容する必要はなく、発熱体に向けてスプレーすることで発熱体と接触させることもできる。
図9には、ミスト冷却型の沸騰冷却装置100の構成を示す。図示する装置100では、底面で発熱体104に接した板102が用いられ、作動流体108は、スプレーノズル106により板102に向けてスプレーされる。この場合には、作動流体108は、板102を介して発熱体104に接することになるが、作動流体108を、発熱体104に直接スプレーしてもうよい。
【0062】
スプレーノズル106からの液滴の噴霧速度、スプレーノズル106と伝熱面との間の距離等、パラメータは特に制限されず、適宜選択することができる。本発明の沸騰冷却用作動液に含有されている粒子は、平均粒子径が5μm未満の微小粒子であるので、スプレーノズル106に詰まりが生じるおそれは少なく、飛散するミストの中にも粒子が分散して存在できる。平均粒子径は小さいほど、スプレーノズルへの悪影響は低減される。
【0063】
図10には、衝突噴流沸騰冷却型の沸騰冷却装置110の構成を示す。図示する装置110は、ノズルスプレーを噴流ノズル112に変更した以外は、ミスト冷却型の装置100と同様の構成である。作動流体118は、噴流ノズル112により板102に向けて衝突させるが、発熱体104に直接衝突させてもよい。噴流ノズル112からの液滴の噴流、噴流ノズル112と伝熱面との間の距離等、パラメータは特に制限されず、適宜選択することができる。本発明の沸騰冷却用作動液に含有されている粒子は、平均粒子径が5μm未満の微小粒子であるので、圧送ポンプ軸受けやノズルなどへの影響は最小限となる。
【0064】
図11には、液浸漬冷却型の沸騰冷却装置120の構成を示す。図示する装置120では、作動流体128を収容する容器122内に発熱体124が設けられている。容器122および発熱体124の形状や、容器122内における作動流体128の水位等は特に限定されず、適宜選択することができる。コンデンサーがないので、蒸発した冷媒は外部に流出するが、作動液の入れ替え、あるいは追加だけで冷却を継続することができる。このため、冷却システム全体の小型化・軽量化に有利である。
【0065】
上述のいずれも、被冷却部と、前記被冷却部に接触可能な作動流体とを備え、前記被冷却部の熱による前記作動流体の沸騰蒸発によって、前記被冷却部が冷却される沸騰冷却装置であるので、本発明の沸騰冷却用作動液を作動流体として用いることで所望の効果が得られる。