【解決手段】本開示は、接続される負荷2に対して高周波電力を提供する、高周波電源システム1であって、第1周波数でバイアス電力を出力するバイアス電源と、第1周波数よりも高い第2周波数でソース電力を出力するソース電源と、ソース電源側のインピーダンスと負荷側のインピーダンスとの整合を取るインピーダンス整合器104と、を備え、ソース電源は、出力周波数を増減制御することによって、負荷側インピーダンスのリアクタンス値を予め定めた目標値に近づける、高周波電源システム1を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本開示の実施形態について説明する。添付図面では、機能的に同じ要素は同じ番号で表示される場合もある。なお、添付図面は本開示の原理に則った具体的な実施形態と実装例を示しているが、これらは本開示の理解のためのものであり、決して本開示を限定的に解釈するために用いられるものではない。
【0013】
本実施形態では、当業者が本開示を実施するのに十分詳細にその説明がなされているが、他の実装・形態も可能で、本開示の技術的思想の範囲と精神を逸脱することなく構成・構造の変更や多様な要素の置き換えが可能であることを理解する必要がある。従って、以降の記述をこれに限定して解釈してはならない。
【0014】
更に、本開示の実施形態は、汎用コンピュータ上で稼動するソフトウェアで実装しても良いし専用ハードウェア又はソフトウェアとハードウェアの組み合わせで実装しても良い。
【0015】
(1)第1の実施形態
第1の実施形態は、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrの位相差を検出し、その位相差に基づいて電圧制御発振器における周波数シフト量を演算し、電圧制御発振器から出力される高周波信号の周波数を制御する電源供給システムについて提案する。
【0016】
<電源供給システム1の構成例>
図1は、本実施形態による電源供給システム(高周波電源システムとも言う)1にプラズマ負荷2を接続した状態を示す図である。電源供給システム1は、電圧制御発振器(VCO:第1発振器)101、第1増幅器102、方向性結合器103、インピーダンス整合器(第1整合器)104、位相差検出器105、周波数制御器106、反射レベル計測器107、周波数検出器108、モータ制御処理部109、およびモータ群110を含むソース電源(高周波出力を供給)と、バイアス用発振器(第2発振器)201、第2増幅器202、および第2整合器203を含むバイアス電源(低周波出力を供給)と、を備え、ソース電源10から出力する進行波電力(ソース電力)、およびバイアス電源20から出力する進行波電力(バイアス電力)を重畳(例)してプラズマ負荷2に供給するシステムである。
【0017】
ソース電源において、電圧制御発振器101は、発振周波数(初期値f1)で高周波信号を生成し、第1増幅器102に出力する。この発振周波数は所定の範囲で変更することが可能になっている。
なお、本実施形態では、電圧制御発振器101から出力する高周波信号の周波数は、40.68MHzを中心周波数としている。この電圧制御発振器101から出力する高周波信号の中心周波数は、40.68MHzに限定されるものではなく、例えば13.56MHz、27.12MHz等の工業用のRF帯(Radio Frequency)の周波数であってもよい。
また、本実施形態では、バイアス用発振器から出力する信号の周波数は、周波数400kHzであるが、この周波数に限定されるものではない。
【0018】
第1増幅器102は、電圧制御発振器101から供給された高周波信号を増幅し(高周波出力)、方向性結合器103に出力する。
なお、第1増幅器102から出力される高周波出力は、所謂、進行波電力Pfであり、その電圧成分は進行波電圧Vfである。また、プラズマ負荷2側から反射される反射波電力Prの電圧成分は、反射波電圧Vrである。また、第1増幅器102から出力される進行波電力Pf(進行波電圧Vf)の周波数である出力周波数は、電圧制御発振器101は発振周波数によって定まる。そのため、出力周波数も所定の範囲で変更することができるようになっている。そして、後述するインピーダンス整合器(第1整合器)104におけるインピーダンス整合とは別に、第1増幅器102の出力周波数を変更することによって、プラズマ負荷2側のインピーダンスを調整し、反射波電力Prを低減することが可能となる。
【0019】
なお、電圧制御発振器101と第1増幅器102との間には、図示しない狭帯域通過フィルタを備える場合がある。電圧制御発振器101の周波数の追従時には、狭帯域通過フィルタの中心周波数からの周波数ずれが生じて、フィルタの効果が低減してしまう。そこで、この場合の不都合を解消するために、上記狭帯域通過フィルタは、追従周波数に応じて、中心周波数を変更し(第1増幅器102の帯域内に収める)、電圧制御発振器101からの信号(高周波信号)を取得できるように構成してもよい。狭帯域通過フィルタとしては、例えば、電圧制御によるチューナブルフィルタやフィルタバンクを用いる(挿入する)ことができる。
【0020】
方向性結合器103は、第1増幅器102(第1増幅器102の出力端からインピーダンス整合器104の入力端であればよい)における進行波電力Pfの電圧成分である進行波電圧Vfを検出すると共に、第1増幅器102の出力端における反射波電力Prの電圧成分である反射波電圧Vrを検出し、検出した進行波電圧Vfおよび反射波電圧Vrを位相差検出器105、および反射レベル計測器107に出力する。さらに、検出された進行波電圧Vfは、周波数検出器108にも供給される。
なお、方向性結合器103から出力される進行波電圧Vfおよび反射波電圧Vrは、実際には、進行波電圧Vfの検出信号及び反射波電圧Vrの検出信号であるが、説明を簡略化するために、以降では、単に進行波電圧Vf及び反射波電圧Vrとして説明する。
【0021】
位相差検出器105は、方向性結合器103から供給された進行波電圧Vfと反射波電圧Vrとの位相差φを検出し、当該位相差φの情報を周波数制御器106に出力する。
図2は、位相差検出器105の内部構成例を示す図である。
図2に示されるように、位相差検出器105は、進行波電圧Vfの振幅を一定範囲内に制限する第1リミッタ回路1051と、反射波電圧Vrの振幅を一定範囲内に制限する第2リミッタ回路1052と、第1および第2リミッタ回路1051および1052によって振幅が制限された進行波電圧Vfと反射波電圧Vrとを乗算する乗算器1053と、乗算器1053による乗算結果から遮断周波数よりも高い周波数成分を遮断するローパスフィルタLPF1054と、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrの位相差を演算する演算部1055と、を備える。
ここで、進行波電圧Vfの振幅をA、角周波数をω、時間をtとし、反射波電圧Vrの振幅をB、角周波数をω、時間をtとし、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrとの位相差をφとすると、Vf=A・cos(ω・t)、Vr=B・cos(ω・t+φ)と表すことができる。このとき、ローパスフィルタLPF1054の出力sはs=cosφとなるため、演算部1055において、位相差φはφ=arccos(s)により演算される。
また、進行波電圧Vfの位相角をφf、反射波電圧Vrの位相角をφrとすると、位相差φ=φr−φfで演算することもできる。
【0022】
周波数制御器106は、位相差検出器105で検出された進行波電圧Vfと反射波電圧Vrとの位相差φに対応する周波数ずれ(エラー信号)を演算(例えば、検出された位相差φの微分、および位相差φの目標値(例えば位相差ゼロ)に対する±(差分)に基づいて、周波数のシフト値を演算することができる)し、周波数をシフトして上記周波数ずれを補正するような電圧(指令信号)を電圧制御発振器101に印加する。これにより、電圧制御発振器101は、前回の発振周波数(初期値f1)から位相差φの目標値に対する差分に対応する量だけシフトされた周波数f1+Δfで高周波信号を出力する。なお、Δfは、周波数補正量を示す。また、周波数制御器106は、電圧制御発振器101の発振信号の周波数を認識している。そのため、インピーダンス整合器104におけるインピーダンス整合動作に周波数値が必要な場合に、周波数制御器106が認識している発振信号の周波数を用いることができる。
【0023】
図3は、位相差ゼロを説明するための図である。この
図3は、所謂スミスチャートを簡易的に表したものに、抵抗軸(横軸)とリアクタンス軸(縦軸)を追加した図であるが、等リアクタンス円、等レジスタンス円等の目盛りを省略している。また、リアクタンス軸の右側において囲まれている領域は、負荷側インピーダンス(第1増幅器102(厳密には方向性結合器103)からプラズマ負荷2側を見たインピーダンス)が取り得る一例を示している。
この
図3を用いて進行波電圧Vfと反射波電圧Vrの位相差φをゼロにするための説明を行う。
図3に示す例では、矢印で示される位相差φが、現時点での進行波電圧Vfと反射波電圧Vrとの位相差φであるとする。なお、位相差φは、反射係数Γを絶対値と位相角で表したときの位相角と対応関係を有する。
図3に示す例では、矢印で示される位相差φが抵抗軸よりも上方にあるため、負荷側インピーダンスが誘導性を示す。このような場合、ソース電源の出力周波数が共振周波数よりも高い領域であるので、ソース電源の出力周波数を低くすることによって、共振周波数に近づけることが可能となる。すなわち、位相差φに対応する周波数だけソース電源の出力周波数を補正することによって、ソース電源の出力周波数を共振周波数に近づけて位相差φ=0の状態にすることができる。
図3に示す例では、位相差φが正(プラス)であるため、周波数補正量Δfは負(マイナス)の値となる。
【0024】
上記とは逆に、位相差φが抵抗軸よりも下方の場合は、負荷側インピーダンスが容量性を示すので、ソース電源の出力周波数を共振周波数に近づけるためには、周波数補正量Δfを正にして、ソース電源の出力周波数を高くすればよい。これにより、ソース電源の出力周波数を共振周波数に近づけて位相差φ=0の状態にすることができる。
つまり、周波数制御器106は、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrとの位相差φの符号(±)に基づいて、発振周波数の増減制御を実行する。
なお、周波数補正量Δfは、例えば、位相差φに対応する周波数にすることができる。この場合は、対応する周波数を予め実験やシミュレーションによって求めておけばよい。もちろん、周波数補正量Δfは、位相差φに対応する周波数よりも小さな周波数にすることもできる。
【0025】
ここで、
図1に示したソース電源とバイアス電源とから異なる出力周波数の進行波電力を供給する場合の問題点について補足する。
プラズマ負荷2においてプラズマが生成されている際、バイアス電源からプラズマ負荷2に供給される進行波電力の影響を受けて、プラズマシースの厚みがバイアス電源の出力周波数に対応した周波数(例えば、バイアス電源の出力周波数と同じ周波数400kHz)で周期的に変動する。
【0026】
プラズマシースは、電気的な絶縁体と考えられるので、プラズマシースをコンデンサ(静電容量)と考えることができる。すなわち、プラズマ負荷2を等価回路で示したときに、その等価回路にはコンデンサ(静電容量)が含まれていると考えることができる。そのため、プラズマシースの厚みが周期的に変動するということは、プラズマ負荷2の静電容量成分が周期的に変動ということなので、リアクタンス値が周期的に変動する。すなわち、プラズマ負荷2のインピーダンスが変動するので、反射波電力Prが発生してしまう。この反射波電力Prは、非常に早い周期(上記例では400kHz)で大きさが変動するので、モータを使用したインピーダンス整合器104における整合動作では低減できないので、対策が望まれていた。
【0027】
リアクタンス値が周期的に変動して反射波電力Prが発生するということは、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrの位相差φが周期的に変動することを意味するので、ソース電源の出力周波数を共振周波数に近づけて位相差φ=0の状態にすることができれば、バイアス電源からプラズマ負荷2に供給される進行波電力に起因する反射波電力Prの周期的な変動を低減させることができる。
【0028】
そこで、常に位相差φを監視し、その位相差φが0(ゼロ)に近づくようにソース電源の出力周波数を制御すればよい。
そのためには、上記の変動の周期よりも速い周期で、位相差φを監視すると共に、ソース電源の出力周波数を制御する必要がある。例えば、バイアス電源の出力周波数が400kHzである場合、少なくとも数倍、好ましくは10倍以上の周波数(4MHz以上)に相当する周期でソース電源の出力周波数を制御すればよい。
このように、ソース電源の出力周波数は高速に変更可能なので、バイアス電源からプラズマ負荷2に供給される進行波電力に起因する上記の反射波電力の変動を低減することができる。
【0029】
また、上記の説明から分かるように、位相差φが周期的に変動することにより、反射波電力Prが周期的な変動をするので、位相差φは、必ずしも0(ゼロ)になるようにソース電源の出力周波数を制御する必要はなく、他の目標値になるように制御してもよい。しかし、上述したように、位相差φが0(ゼロ)になるようにソース電源の出力周波数を制御することにより、ソース電源の出力周波数を共振周波数に近づけることができるので好ましい。ただし、負荷側インピーダンスが容量性であると、スイッチング動作に伴って電流波形が歪むという問題が生じ易い。そのため、基準とする位相差φを0(ゼロ)よりも大きくするようにしてもよい。また、位相差φが、目標値(例えばゼロ)に対して設定された許容値内であれば、ソース電源の出力周波数を変更しないようにしてもよい。
【0030】
反射レベル計測器107は、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrとの比(=Vr/Vf)で定義される反射係数から反射レベル量を演算し、制御量としてモータ制御処理部109に出力する。なお、進行波電圧Vfに基づいて進行波電力Pfの大きさを演算するとともに、反射波電圧Vrに基づいて反射波電力Prの大きさを演算した後、進行波電圧Pfに対する反射波電力Prの割合(=Pr/Pf)で定義される反射レベル量を演算してもよい。
また、周波数検出器108は、プラズマ負荷2に供給されている進行波電圧Vfの周波数値(=ソース電源の出力周波数)を検出し、モータ制御処理部109に出力する。
【0031】
モータ制御処理部109は、例えば、CPUやMPUなどのプロセッサによって構成され、反射レベル計測器107からの反射レベル量と、周波数検出器108からの進行波電力周波数値とに基づいて、インピーダンス値が適正値(例えば、50Ω)になるようにモータ群110に含まれる各モータ(例えば、モータM1からM3)の回転制御量を決定し、各モータを制御する。具体的には、モータ制御処理部109は、反射レベル量と所定の閾値を比較し、インピーダンス整合を実行するか(モータM1からM3を回転させることによって、可変コンデンサ値および可変インダクタンス値を変更する必要があるか)判断する。そして、インピーダンス整合を実行すると判断した場合には、負荷側インピーダンスとソース電源の出力インピーダンスとが整合状態に近づくように、可変コンデンサ値および可変インダクタンス値を調整すべく、モータM1からM3の回転量を制御する。このモータM1からM3の回転量決定のさらなる詳細については後述する。
なお、周波数検出器108で検出する周波数値は必ずしも必要ではなく、インピーダンス整合器104におけるインピーダンス整合動作に周波数値が必要な場合に用いればよい。そのため、周波数値が不要な場合は、周波数検出器108は必ずしも必要ではない。
【0032】
インピーダンス整合器104は、例えば、複数(
図1では2つ)の可変コンデンサ、および可変インダクタを含み、方向性結合器103からの直接波(進行波電力Pf)の周波数におけるインピーダンス整合器104の入出力インピーダンスを演算する。そして、インピーダンス整合器104では、この演算地点からプラズマ負荷2の共振周波数(最適周波数:初期値f1)で動作するように、可変コンデンサおよび可変インダクタの値が調整される。可変コンデンサおよび可変インダクタの値の調整は、上述のようにモータ制御処理部109で制御されるモータ群(M1からM3)110によって行われる。
【0033】
<モータM1からM3の回転量制御>
上述のように、モータ制御処理部109は、反射レベル計測器107からの反射レベル量と、周波数検出器108からの進行波電力周波数値とに基づいて、インピーダンス値が適正値(例えば、50Ω)になるようにモータ群110に含まれる各モータ(例えば、モータM1からM3)の回転制御量を決定し、各モータを制御する。当該モータ制御については、例えば、次のような方法が考えられる。
【0034】
(i)制御方法1
複数のモータ(モータM1からM3)を同時に、例えば予め決められた所定量動かし(回転させ)、動かしたときのそれぞれの反射波電力レベルを反射レベル計測器107でモニタし、反射波電力レベルが最小値になったときのモータの回転量を採用する。その後、各モータを順番に所定量ずつ動かして(例えば、モータM1、モータM2、モータM3の順で動かす)、それぞれにおいて反射波電力レベルが最小となる回転量を採用する。
【0035】
(ii)制御方法2
複数のモータ(モータM1からM3)を予め決めた順番で、例えば、予め決められた所定量ずつ動かし(回転させる)、それぞれで反射波電力レベルが最小となる各モータの位置(回転量)で止める。その後、反射波電力レベルを反射レベル計測器107で計測し、その値が所定の閾値(反射波電力レベルが許容される範囲にあるかみるための閾値)以下となったか否か判断し、当該閾値より大きいと判断した場合は、最初からモータ回転量制御を実行する(モータM1からM3を順番に動かして反射波電力レベルを確認する動作が再度実行される)。
【0036】
(iii)制御方法3
複数のモータ(モータM1からM3)の任意の組み合わせ(例えば、M1とM2、M2とM3、M3とM1)でそれぞれ反射波電力レベルが最小となる各組み合わせのモータの位置(回転量)で止める。そして、全体の反射波電力が所定の閾値以下となったか否か判断し、当該閾値より大きいと判断した場合は、最初からモータ回転量制御を実行する(モータM1からM3の任意の組み合わせで反射波電力レベルを確認する動作が再度実行される)。
【0037】
モータ制御処理部109は、(i)から(iii)の何れかの方法でモータの回転制御量を決定することにより、共振周波数又は共振周波数近傍でのインピーダンス整合を行うことができる。なお、上述したように、通常は、既に位相差φ=0となっているか、位相差φが目標値に対して設定された許容値以下となっている状態においてインピーダンス整合を行うので、主に負荷側インピーダンスの抵抗値を目標値(例えば50Ω)に近づけるように制御することになる。そのため、負荷側インピーダンスの抵抗値とリアクタンス値の両方を目標値に近づけるよりも制御量が少ない。そのため、インピーダンス整合のための時間を短縮することが可能となる。
【0038】
<第1の実施形態の技術的効果>
第1の実施形態によれば、位相差検出器105を設け、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrの位相差φを検出し、当該位相差φを目標値(好ましくはゼロ)に近づけるように前記ソース電源の出力周波数を増減制御する。このようにすることにより、負荷側インピーダンスのリアクタンス値を予め定めた目標値に近づけることができるので、バイアス電源からプラズマ負荷2に供給される進行波電力に起因して発生する反射波電力Prの変動を抑制することができる。この制御は、位相差φを目標値に近づけるように制御するだけなので、制御が簡単である。
また、モータ制御処理部109によるインピーダンス整合器104の可変コンデンサ値および可変インダクタンス値の制御では、インピーダンス整合のための時間を短縮することが可能となる。
【0039】
(2)第2の実施形態
第1の実施形態では、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrを用いて位相差を検出する位相差検出器105を備えた電源供給システム1について説明したが、第2の実施形態では、電流検出器(電流波形信号検出器)および電圧検出器(電圧波形信号検出器)を備え、電圧と電流の位相差を検出する構成例について説明する。
【0040】
<電源供給システムの構成例>
図4は、第2の実施形態による電源供給システム(高周波電源システム)100にプラズマ負荷2を接続した状態を示す図である。電源供給システム100は、第1の実施形態による電源供給システム1の方向性結合器103、位相差検出器105、周波数制御器106、反射レベル計測器107、および周波数検出器108の代わりに、第1増幅器102の出力端(第1増幅器102の出力端からインピーダンス整合器104の入力端であればよい)における電流の電流波形信号I1を検出する電流波形信号検出器1001と、第1増幅器102の出力端における電圧の電圧波形信号V1を検出する電圧波形信号検出器1002と、検出された電圧波形信号V1と電流波形信号I1とを用いて電圧(電圧波形信号V1)と電流(電流波形信号I1)との位相差θを検出すると共に反射係数を演算する制御部1003と、を備えている。
【0041】
また、制御部1003は、電圧(電圧波形信号V1)と電流(電流波形信号I1)との位相差θの情報に基づき位相差θに対応する周波数ずれ(エラー信号)を演算(例えば、検出された位相差θの微分、および位相差θの目標値(例えば位相差ゼロ)に対する±(差分)に基づいて、周波数のシフト値を演算することができる)し、周波数をシフトして上記周波数ずれを補正するような電圧(指令信号)を電圧制御発振器101に印加する。これにより、電圧制御発振器101は、前回の発振周波数(初期値f1)から位相差θの目標値に対する差分に対応する量だけシフトされた周波数f1+Δfで高周波信号を出力する。なお、Δfは、周波数補正量を示す。
また、制御部1003は、電圧制御発振器101の発振信号の周波数を認識している。そのため、インピーダンス整合器104におけるインピーダンス整合動作に周波数値が必要な場合に、制御部1003が認識している発振信号の周波数を用いることができる。
また、制御部1003は、反射係数の情報をモータ制御処理部109に出力する。具体的に、制御部1003は、インピーダンス整合器104側のインピーダンスZ1を電流波形信号I1と電圧波形信号V1からZ1=V1/I1によって演算する。ここで、Z1=R1+jX1(jは虚数)と定義することができる。そして、制御部1003は、電圧波形信号V1と電流波形信号I1との位相差θをθ=tan
−1(X1/R1)によって求める。また、制御部1003は、反射係数Γ1をΓ1=(Z1−Z0)/(Z1+Z0)によって求める。ここで、Z0は、インピーダンス整合器104とプラズマ負荷2との間の特性インピーダンスを示しており、通常50Ωである。
また、電圧波形信号V1の位相角をθv、電流波形信号I1の位相角をθiとすると、位相差θ=θi−θvで演算することもできる。
【0042】
電圧制御発振器101は、制御部1003から出力された指令信号に基づいて、ソース電源の出力周波数の制御を実行する。具体的には、電圧波形信号V1と電流波形信号I1との位相差θが0(ゼロ)であれば、電圧と電流が同相であるので、負荷側インピーダンスのリアクタンス値が0(ゼロ)である。そのため、電圧波形信号V1と電流波形信号I1との位相差θが0(ゼロ)になるように、ソース電源の出力周波数を制御すれば、第1の実施形態で説明と同様の効果を得ることができる。
もちろん、第1の実施形態と同様に、電圧波形信号V1と電流波形信号I1との位相差θは、必ずしも0(ゼロ)になるようにソース電源の出力周波数を制御する必要はなく、他の目標値になるように制御してもよい。
しかし、位相差θが0(ゼロ)になるようにソース電源の出力周波数を制御することにより、ソース電源の出力周波数を共振周波数に近づけることができるので好ましい。
ただし、負荷側インピーダンスが容量性であると、スイッチング動作に伴って電流波形が歪むという問題が生じ易い。そのため、基準とする位相差θを0(ゼロ)よりも大きくして、電圧よりも電流が遅れるするようにしてもよい。
また、位相差θが、目標値(例えばゼロ)に対して設定された許容値内であれば、ソース電源の出力周波数を変更しないようにしてもよい。
また、モータ制御処理部109は、制御部1003からの反射係数の値が所定の閾値以上である場合、インピーダンス整合器104に含まれる可変コンデンサや可変インダクタの値を変更するためのモータ群110に含まれるモータM1からM3の回転数を決定する。なお、モータ制御処理部109の動作は上述したものと同一であるため、説明は省略する。
【0043】
<第2の実施形態の技術的効果>
第2の実施形態によれば、第1増幅器102の出力端(第1増幅器102の出力端からインピーダンス整合器104の入力端であればよい)における電流及び電圧に基づいて、電圧と電流との位相差θを検出する。そして、この位相差θを目標値(好ましくはゼロ(リアクタンスゼロ))になるように制御する。
このようにすることにより、バイアス電源からプラズマ負荷2に供給される進行波電力に起因して発生する反射波電力Prの変動を抑制して安定的に高周波電力をプラズマ負荷2に供給することができるようになる。この制御は、位相差θを目標値に近づけるように制御するだけなので、制御が簡単である。
また、モータ制御処理部109によるインピーダンス整合器104の可変コンデンサ値および可変インダクタンス値の制御では、インピーダンス整合のための時間を短縮することが可能となる。
【0044】
(3)変形例
(i)電圧制御発振器101の内部構成例
図5は、変形例による周波数制御器106の内部構成例を示す図である。
【0045】
変形例による周波数制御器106は、フィルタ1011と、乗算器1012と、フィルタ1013と、分周器1014と、乗算器1016と、固定発振器1015と、ゲイン調整器1017と、フィルタ1018と、電圧制御発振器101と、を備えている。
なお、この変形例では、第1の実施形態と同様に、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrとの位相差φに応じて電圧制御発振器101の発振周波数を変化させる場合を例にして説明する。
【0046】
電圧制御発振器101は、ローパスフィルタ1018を介して出力されるゲイン調整器1017の出力に応じて、出力する発振信号の周波数を変更できるものであり、
図1の電圧制御発振器101と同様の構成である。本実施形態では、電圧制御発振器101から出力する高周波信号の周波数は、40.68MHzを中心周波数としている。
【0047】
フィルタ1011は、位相差検出器105から出力される位相差φの情報に含まれる不要な周波数成分を遮断又は十分減衰させて出力する。フィルタ1011は、例えば、ローパスフィルタ、バンドパスフィルタを用いることができる。
【0048】
上述したように、バイアス電源からプラズマ負荷2に供給される進行波電力に起因して位相差φが変動する。そのため、位相差φの情報は、バイアス電源の出力周波数(本実施形態では400kHz)で大きさが変動する信号となるが、バイアス電源の出力周波数以外の不要な周波数成分が含まれているので、フィルタ1011を用いて、バイアス電源の出力周波数成分の信号を抽出している。
【0049】
乗算器1012は、電圧制御発振器101から出力する発振信号とフィルタ1011の出力信号(位相差φの情報)とを混合した際に生成される和周波数成分と差周波数成分のうち差周波数成分の信号を出力する。そのため、電圧制御発振器101から出力する高周波信号の周波数が40.68MHzであり、フィルタ1011の出力信号の周波数が400kHzの場合は、40.28MHz(40.68MHz−0.4MHz=40.28MHz)の周波数成分を有する信号を出力する。
【0050】
フィルタ1013は、上記の差周波数成分を通過させるように設計されたフィルタであり、例えば、ローパスフィルタ、バンドパスフィルタを用いることができる。
分周器1014は、フィルタ1013から出力された信号を分周するためのものであり、例えば、1/4に分周される。なお、分周比は、1/4に限定されるものではなく、他の分周比にしてもよい。また、外部からの設定信号に応じて分周比を変更できる機能を有していてもよい。
【0051】
固定発振器1015は、固定周波数の発振信号を生成する発振部であり、例えば10.17MHzの周波数の発振信号を出力する。
この固定発振器1015の発振信号の周波数は、電圧制御発振器101の発振信号の周波数と分周器1014の分周比によって定めている。上記の例では、電圧制御発振器101から出力する高周波信号の中心周波数が40.68MHzであり、分周器1014の分周比が1/4なので、10.17MHz(40.68MHz/4=10.17MHz)に設定している。分周器1014の分周比を変更することを考慮して、固定発振器1015の発振信号の周波数を変更できる機能を有するものにしてもよい。
【0052】
乗算器1016は、固定発振器1015の出力信号と分周器1014の出力信号とを混合とを混合した際に生成される和周波数成分と差周波数成分のうち差周波数成分の信号を出力する。
【0053】
ゲイン調整器1017は、乗算器1016の出力信号に基づいて、電圧制御発振器101に対して発振周波数の増減制御を行う。この際、必要に応じて、フィルタ1018(例えば、ローパスフィルタ)を介して、電圧制御発振器101に対して発振周波数の増減制御を行う。以下、この増減制御について説明する。
【0054】
分周器1014の出力信号の振幅は、位相差φに応じて変化する。一方、固定発振器1015の出力信号の振幅は一定なので、乗算器1016の出力信号の振幅は位相差φに応じて変化する。また、位相差φが目標値(例えばゼロ)の場合の乗算器1016の出力信号の振幅(目標振幅)は予め分かっているので、乗算器1016の出力信号の振幅が目標振幅になるように、目標振幅と乗算器1016の出力信号の振幅との差分に対応する量だけ電圧制御発振器101の出力信号の周波数をシフトして、周波数ずれを補正するような電圧(指令信号)を電圧制御発振器101に印加することによって、電圧制御発振器101に対して発振周波数の増減制御を行う。
【0055】
このようにすれば、バイアス電源の出力に起因して発生する反射波電力Prの周期的な変動が発生しても、その反射波電力Prを打ち消すように、電圧制御発振器101の出力信号の周波数がシフトされるので、位相差φが目標値又は目標値近傍で推移するようになる。その結果、バイアス電源の出力に起因して発生する反射波電力Prの周期的な変動が抑制される。
なお、上記では、乗算器1016の出力信号の振幅に基づいて制御をする例を示したが、振幅は、平均値、実効値、波高値、ピークピーク値等の振幅の大きさを表すものであればよい。
【0056】
また、乗算器1016は、デジタル処理方式であれば、固定発振器1015の出力信号と分周器1014の出力信号との振幅差情報と、固定発振器1015の出力信号と分周器1014の出力信号との位相差情報とを出力するようにしてもよい。
この場合、位相差φが目標値であるときの振幅差情報は予め分かっているので、ゲイン調整器1017は、乗算器1016から出力された振幅差情報に基づいて、上記と同様に、周波数ずれを補正するような電圧(指令信号)を電圧制御発振器101に印加することによって、電圧制御発振器101に対して発振周波数の増減制御を行うことができる。
【0057】
また、上記の位相差情報は、フィルタ1011の出力信号の周波数(400kHz)に起因して変動するので、位相差情報が一定値になるようにすれば、バイアス電源からプラズマ負荷2に供給される進行波電力に起因して発生する反射波電力Prの変動を抑制することができる。そのため、位相差φが目標値であるときの位相差情報は予め分かっているので、乗算器1016から出力された位相差情報に基づいて、上記と同様に、周波数ずれを補正するような電圧(指令信号)を電圧制御発振器101に印加することによって、電圧制御発振器101に対して発振周波数の増減制御を行うことができる。
【0058】
上記のように、位相差φを目標値(好ましくはゼロ)になるように(近づくように)制御するので、位相差φは目標値又は目標値近傍で推移する。すなわち、本実施形態によって、位相差φが目標値又は目標値近傍で推移するようになると、フィルタ1011の出力信号は、実質的に一定値となる。もちろん、位相差φをゼロ(リアクタンスゼロ)になるように(近づくように)制御すると、フィルタ1011の出力信号は、実質的にゼロとなる。
【0059】
また、上記の
図5の変形例の説明では、第1の実施形態と同様に、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrとの位相差φに応じて電圧制御発振器101の発振周波数を変化させる場合を例にして説明したが、第1の実施形態と同様に、電圧波形信号V1と電流波形信号I1との位相差θに応じて電圧制御発振器101の発振周波数を変化させる場合にも適用することができる。
【0060】
(ii)インピーダンス整合器104の内部構成例
図6は、変形例によるインピーダンス整合器104の内部構成例を示す図である。
変形例によるインピーダンス整合器104は、固定容量の第1コンデンサ401と、固定容量の第2コンデンサ402と、固定リアクタンスのコイル403と、電子式可変容量コンデンサ404から406と、を備えている。変形例によるインピーダンス整合器104においては、第1の実施形態のようにモータM1からM3によって容量値を調整する可変コンデンサや可変リアクタを備えるのではなく、電圧印加制御によって容量値を変化させる電子式可変容量コンデンサを用いている。なお、電子式可変容量コンデンサを用いる場合には、周波数検出器108によって検出される周波数が、プラズマ負荷2の最適周波数近傍であることが望ましい。
以上のように、電子式可変容量コンデンサを用いることにより、インピーダンス整合器104を高速に制御することが可能となる。
【0061】
本実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、本実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0062】
さらに、上述の実施形態において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。全ての構成が相互に接続されていても良い。
【0063】
例えば、上記の実施形態では、インピーダンス整合器104は、モータによって可変コンデンサ値を調整するタイプを例示したが、半導体スイッチ(例えば、PINダイオード)によって、可変コンデンサ値を調整するタイプを用いてもよい。
また、上記の実施形態では、発振器として電圧制御発振器101を例示したが、これに限定されない。例えば、発振器としてダイレクト・デジタル・シンセサイザー(DDS)を用いてもよい。
また、上記の実施形態では、インピーダンス整合器104に備わっている可変素子(可変コンデンサ、可変インダクタ)が3つの例を示したが、これに限定されない。例えば、可変コンデンサが2つでもよい場合がある。