【解決手段】 セラミック電子部品は、セラミックを主成分とする誘電体層と、内部電極層と、が交互に積層された積層構造と、前記積層構造の積層方向の上面及び下面に設けられたカバー層と、を備える積層チップを備え、前記カバー層は、多孔質部と、前記多孔質部の周囲を取り囲む周辺領域と、を有し、前記多孔質部におけるポア率は、前記周辺領域の少なくとも一部の領域におけるポア率よりも高く、かつ、1%以上である。
セラミックを主成分とする誘電体層と、内部電極層と、が交互に積層された積層構造と、前記積層構造の積層方向の上面及び下面に設けられたカバー層と、を備える積層チップを備え、
前記カバー層は、多孔質部と、前記多孔質部の周囲を取り囲む周辺領域と、を有し、
前記多孔質部におけるポア率は、前記周辺領域の少なくとも一部の領域におけるポア率よりも高く、かつ、1%以上である、
ことを特徴とするセラミック電子部品。
前記カバー層の前記積層方向における厚みをTとし、前記第1部分の前記積層方向における厚みをT1とし、前記第2部分の前記積層方向における厚みをT2とし、前記第3部分の前記対向する方向における厚みをT3とした場合に、
0.03≦T1/T≦0.31、
0.03≦T2/T≦0.20、および
0.03≦T3/T≦0.31である、
ことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載のセラミック電子部品。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0015】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の部分断面斜視図である。
図2は、
図1のA−A線断面図である。
図3は、
図1のB−B線断面図である。
図1〜
図3で例示するように、積層セラミックコンデンサ100は、略直方体形状を有する積層チップ10と、積層チップ10のいずれかの対向する2端面に設けられた外部電極20a,20bとを備える。なお、積層チップ10の当該2端面以外の4面のうち、積層方向の上面および下面以外の2面を側面と称する。外部電極20a,20bは、積層チップ10の積層方向の上面、下面および2側面に延在している。ただし、外部電極20a,20bは、互いに離間している。
【0016】
積層チップ10は、誘電体として機能するセラミック材料を含む誘電体層11と、卑金属材料を含む内部電極層12とが、交互に積層された構成を有する。各内部電極層12の端縁は、積層チップ10の外部電極20aが設けられた端面と、外部電極20bが設けられた端面とに、交互に露出している。それにより、各内部電極層12は、外部電極20aと外部電極20bとに、交互に導通している。その結果、積層セラミックコンデンサ100は、複数の誘電体層11が内部電極層12を介して積層された構成を有する。また、誘電体層11と内部電極層12との積層構造において、積層方向の最外層には内部電極層12が配置され、当該積層体の上面および下面は、カバー層13によって覆われている。カバー層13は、セラミック材料を主成分とする。例えば、カバー層13の材料は、誘電体層11とセラミック材料の主成分が同じである。
【0017】
積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ0.25mm、幅0.125mm、高さ0.125mmであり、または長さ0.4mm、幅0.2mm、高さ0.2mm、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであり、または長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mmであり、または長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mmであるが、これらのサイズに限定されるものではない。
【0018】
内部電極層12は、Ni(ニッケル),Cu(銅),Sn(スズ)等の卑金属を主成分とする。内部電極層12として、Pt(白金),Pd(パラジウム),Ag(銀),Au(金)などの貴金属やこれらを含む合金を用いてもよい。内部電極層12の平均厚みは、例えば、1μm以下である。誘電体層11は、例えば、一般式ABO
3で表されるペロブスカイト構造を有するセラミック材料を主成分とする。なお、当該ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO
3−αを含む。例えば、当該セラミック材料として、BaTiO
3(チタン酸バリウム),CaZrO
3(ジルコン酸カルシウム),CaTiO
3(チタン酸カルシウム),SrTiO
3(チタン酸ストロンチウム),ペロブスカイト構造を形成するBa
1-x−yCa
xSr
yTi
1−zZr
zO
3(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)等を用いることができる。誘電体層11の平均厚みは、例えば、1μm以下である。
【0019】
図2で例示するように、外部電極20aに接続された内部電極層12と外部電極20bに接続された内部電極層12とが対向する領域は、積層セラミックコンデンサ100において電気容量を生じる領域である。そこで、当該電気容量を生じる領域を、容量領域14と称する。すなわち、容量領域14は、異なる外部電極に接続された隣接する内部電極層12同士が対向する領域である。
【0020】
外部電極20aに接続された内部電極層12同士が、外部電極20bに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域を、エンドマージン領域15と称する。また、外部電極20bに接続された内部電極層12同士が、外部電極20aに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域も、エンドマージン領域15である。すなわち、エンドマージン領域15は、同じ外部電極に接続された内部電極層12が異なる外部電極に接続された内部電極層12を介さずに対向する領域である。エンドマージン領域15は、電気容量を生じない領域である。
【0021】
図3で例示するように、積層チップ10において、積層チップ10の2側面から内部電極層12に至るまでの領域をサイドマージン領域16と称する。すなわち、サイドマージン領域16は、上記積層構造において積層された複数の内部電極層12が2側面側に延びた端部を覆うように設けられた領域である。サイドマージン領域16も、電気容量を生じない領域である。
【0022】
図2に示すように、カバー層13は、多数の孔(ポア)13cが形成された多孔質部13aと、多孔質部13aの周囲を取り囲む周辺領域13bと、を有する。
【0023】
ここで、断面における所定の領域の面積A1に対し、所定の領域に存在する孔の総面積A2の割合をポア率(A2/A1)とすると、多孔質部13aのポア率は、周辺領域13bの少なくとも一部の領域におけるポア率よりも高く、かつ、1%以上となっている。多孔質部13aが存在するため、カバー層13は可撓性を有する。このため、外部からカバー層13に衝撃が加わった場合、衝撃が緩和され、
図4(A)に示すように、クラック30の伸展が抑制され、クラック30が容量領域14まで達するのを抑制することができる。一方、カバー層13が多孔質部13aを有さない場合、外部衝撃によってカバー層13にクラックが発生すると、
図4(B)に示すように、クラック30が容量領域14まで達してしまい、耐電圧性の悪化を生じる場合がある。
【0024】
周辺領域13bは、
図5(A)〜
図5(C)に示すように、積層方向において多孔質部13aよりも外側にある第1部分P1と、積層方向において多孔質部13aよりも内側にある第2部分P2と、積層チップ10の長さ方向(積層チップ10の2端面(外部電極20a,20b)が対向する方向)において多孔質部13aを挟む1対の第3部分P3と、積層チップ10の幅方向(積層チップ10の2側面が対向する方向)において多孔質部13aを挟む1対の第4部分P4と、を含む。
【0025】
第1部分P1のポア率は、多孔質部13aのポア率よりも低いことが好ましい。第2部分P2のポア率は、多孔質部13aのポア率よりも低いことが好ましい。第3部分P3のポア率は、多孔質部13aのポア率よりも低いことが好ましい。第4部分P4のポア率は、多孔質部13aのポア率よりも低いことが好ましい。第1部分P1、第2部分P2、第3部分P3、および第4部分P4の全てのポア率は、多孔質部13aのポア率よりも低いことが好ましい。
【0026】
なお、耐湿度性を確保するため、第2部分P2のポア率は、0〜1%が好ましい。積層方向において多孔質部13aよりも内側にポア率が0〜1%である第2部分P2が存在することにより、水分が容量領域14に侵入するのを抑制することができるからである。
【0027】
また、耐めっき液性を確保するため、第1部分P1及び第3部分P3のポア率は0〜1%であることが好ましい。多孔質部13aよりも外側にポア率が0〜1%である第1部分P1及び第3部分P3が存在することにより、後述するめっき処理工程においてめっきが容量領域14に侵入することを抑制することができるからである。
【0028】
なお、多孔質部13aのポア率が大きすぎると、周辺領域13bとのポア率の差(粗密差)が大きくなりすぎて、カバー層13内に構造異常が発生するおそれがある。したがって、多孔質部13aのポア率は15%以下であることが好ましい。
【0029】
なお、粗密差緩和の観点から、多孔質部13aのポア率は、1〜10%がより好ましく、1〜5%がさらに好ましい。
【0030】
また、
図5(B)に示すように、積層チップ10の幅方向及び長さ方向の中央部において積層方向におけるカバー層13の厚みをTとし、積層チップ10の幅方向及び長さ方向の中央部において積層方向における第1部分P1の最も薄い部分の厚みをT1、積層チップ10の幅方向及び長さ方向の中央部において積層方向における第2部分P2の最も薄い部分の厚みをT2、長さ方向における第3部分P3の最も薄い部分の厚みをT3とすると、0.03≦T1/T≦0.31、0.03≦T2/T≦0.20、および0.03≦T3/T≦0.31とすることが好ましい。カバー層13に占める第1部分P1、第2部分P2及び第3部分P3の割合が小さすぎると、耐湿度性及び耐めっき液性を確保することが難しいからである。一方、カバー層13に占める第1部分P1、第2部分P2及び第3部分P3の割合が大きすぎると、カバー層13全体としての緻密度があがり、カバー層13の可撓性が低下するため、
図4(B)に示すようにクラック30が容量領域14に到達してしまうおそれがあるからである。
【0031】
なお、耐めっき液性の観点から、0.10≦T1/T≦0.31が好ましく、0.20≦T1/T≦0.31がより好ましい。また、耐湿度性の観点から、0.10≦T2/T≦0.20が好ましく、0.15≦T2/T≦0.20がより好ましい。さらに、耐めっき液性の観点から、0.10≦T3/T≦0.31が好ましく、0.20≦T3/T≦0.31がより好ましい。
【0032】
なお、多孔質部13a内部での粗密差を生まないために、断面における孔13cの平均直径は、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、1〜5μmがさらに好ましい。
【0033】
次に、実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の製造方法について説明する。
図6は、実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の製造方法を示すフローチャートである。
【0034】
(原料粉末作製工程)
まず、誘電体層11を形成するための誘電体材料を用意する。誘電体材料は、誘電体層11の主成分セラミックを含む。誘電体層11に含まれるAサイト元素およびBサイト元素は、通常はABO
3の粒子の焼結体の形で誘電体層11に含まれる。例えば、BaTiO
3は、ペロブスカイト構造を有する正方晶化合物であって、高い誘電率を示す。このBaTiO
3は、一般的に、二酸化チタンなどのチタン原料と炭酸バリウムなどのバリウム原料とを反応させてチタン酸バリウムを合成することで得ることができる。誘電体層11の主成分セラミックの合成方法としては、従来種々の方法が知られており、例えば固相法、ゾル−ゲル法、水熱法等が知られている。本実施形態においては、これらのいずれも採用することができる。
【0035】
得られたセラミック粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、Zr(ジルコニウム)、Ca(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)、Mg(マグネシウム)、Mn(マンガン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、希土類元素の酸化物、並びに、Co(コバルト)、Ni、Li(リチウム)、B(ホウ素)、Na(ナトリウム)、K(カリウム)およびSi(ケイ素)の酸化物もしくはガラスが挙げられる。
【0036】
次に、エンドマージン領域15およびサイドマージン領域16を形成するためのマージン材料を用意する。マージン材料は、エンドマージン領域15およびサイドマージン領域16の主成分セラミックを含む。主成分セラミックとして、例えば、BaTiO
3粉を作製する。BaTiO
3粉は、誘電体材料と同様の手順により作製することができる。得られたBaTiO
3粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、Zr、Ca、Sr、Mg、Mn、V、Cr、希土類元素の酸化物、並びに、Co、Ni、Li、B、Na、KおよびSiの酸化物もしくはガラスが挙げられる。
【0037】
次に、カバー層13を形成するためのカバー材料を用意する。カバー材料は、カバー層13の主成分セラミックを含む。主成分セラミックとして、例えば、BaTiO
3粉を作製する。BaTiO
3粉は、誘電体材料と同様の手順により作製することができる。得られたBaTiO
3粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、Zr、Ca、Sr、Mg、Mn、V、Cr、希土類元素の酸化物、並びに、Co、Ni、Li、B、Na、KおよびSiの酸化物もしくはガラスが挙げられる。なお、カバー材料として、上述したマージン材料を用いてもよい。
【0038】
(積層工程)
次に、原料粉末作製工程で得られた誘電体材料に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリーを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材上に例えば厚み0.8μm以下の帯状の誘電体グリーンシート51を塗工して乾燥させる。
【0039】
次に、
図7(A)で例示するように、誘電体グリーンシート51の表面に、有機バインダを含む内部電極形成用の金属導電ペーストをスクリーン印刷、グラビア印刷等により印刷することで、内部電極層用の第1パターン52を配置する。金属導電ペーストには、共材としてセラミック粒子を添加する。セラミック粒子の主成分は、特に限定するものではないが、誘電体層11の主成分セラミックと同じであることが好ましい。
【0040】
次に、原料粉末作製工程で得られたマージン材料に、エチルセルロース系等のバインダと、ターピネオール系等の有機溶剤とを加え、ロールミルにて混練してマージンペーストを得る。
図7(A)で例示するように、誘電体グリーンシート51上において、第1パターン52が印刷されていない領域にマージンペーストを印刷することで第2パターン53を配置し、第1パターン52との段差を埋める。
【0041】
その後、
図7(B)で例示するように、内部電極層12と誘電体層11とが互い違いになるように、かつ内部電極層12が誘電体層11の長さ方向の両端面に端縁が交互に露出して極性の異なる一対の外部電極20a,20bに交互に引き出されるように、誘電体グリーンシート51、第1パターン52および第2パターン53を積層していく。例えば、誘電体グリーンシート51の積層数を100〜500層とする。
【0042】
次に、原料粉末作製工程で得られたカバー材料に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリーを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材上に例えば厚み10μm以下の帯状のカバーシート54を塗工して乾燥させる。
図8で例示するように、積層された誘電体グリーンシート51の上下にカバーシート54を所定数(例えば2〜10層)だけ積層して熱圧着させ、所定チップ寸法(例えば1.0mm×0.5mm)にカットし、その後に外部電極20a,20bとなる金属導電ペーストを、カットした積層体の両側面にディップ法等で塗布して乾燥させる。これにより、セラミック積層体が得られる。なお、所定数のカバーシート54を積層して圧着してから、積層された誘電体グリーンシート51の上下に貼り付けてもよい。
【0043】
図7(A)〜
図8の手法では、誘電体グリーンシート51のうち第1パターン52に対応する部分と、第1パターン52と、が積層された領域が、BaTiO
3粒子を主成分セラミックとするシートと金属導電ペーストのパターンとが交互に積層された積層部分に相当する。誘電体グリーンシート51のうち第1パターン52よりも外側にはみ出した部分と、第2パターン53と、が積層された領域が、積層部分の側面に配置されたサイドマージン領域に相当する。
【0044】
サイドマージン領域は、上記積層部分の側面に貼り付けまたは塗布してもよい。具体的には、内部電極層12と誘電体層11とが互い違いになるように、かつ内部電極層12が誘電体層11の長さ方向の両端面に端縁が交互に露出して極性の異なる一対の外部電極20a,20bに交互に引き出されるように、誘電体グリーンシート51、第1パターン52および第2パターン53を所定層数(例えば200〜500層)だけ積層する。次に、上下にカバー層13となるカバーシート54を積層し、圧着する。その後、得られた積層体を、所定寸法にカットして、内部電極層12のパターンが1つおきに露出する2端面と、全ての内部電極層12のパターンが露出する2側面とを有する積層体を形成する。次に、
図9に示すように、積層体の側面に、サイドマージンペーストで形成したシート55を貼り付ける、またはサイドマージンペーストを塗布することで、サイドマージン領域を形成してもよい。サイドマージンペーストには、マージンペーストを用いることができる。サイドマージンペーストのうち、誘電体グリーンシート51と第1パターン52とが積層された積層体の側面に形成された部分が、サイドマージン領域に相当する。
【0045】
(焼成工程)
このようにして得られたセラミック積層体を、N
2(窒素)雰囲気で脱バインダ処理した後に外部電極20a,20bの下地となるNiペーストをディップ法で塗布し、酸素分圧10
−5〜10
−8atmの還元雰囲気中で1100〜1300℃で10分〜2時間焼成する。焼成によって、内部電極層12の主成分金属(例えばNi)がカバー層13へと拡散し、第2部分P2が緻密化する。
【0046】
さらに、本実施形態では、当該焼成工程における昇温速度を調整することによって、カバー層13内に多孔質部13aと周辺領域13b(より具体的には、第1部分P1、第3部分P3、第4部分P4)とを形成する。より具体的には、
図10(A)に示すように、焼成開始から時間t1までの第1平均昇温速度R1(=(T1−Ts)/(t1/60))を400℃/時間以上とし、時間t1から時間t2までの第2平均昇温速度R2(=(T2−T1)/{(t2−t1)/60})を20000℃/時間以上とし、第1平均昇温速度R1に対する第2平均昇温速度R2の割合(=R2/R1)を50以上とする。
【0047】
このように、第1平均昇温速度R1、第2平均昇温速度R2、およびその比率(R2/R1)を調整することによって、単一の部材(カバー層13)内に多孔質部13aと周辺領域13bとを形成することができる。なお、第2部分P2の緻密度を向上させるために、例えば、カバー層13を形成する複数のカバーシート54のうち、容量領域14側の一部のカバーシート54が、内部電極層12の主成分金属の酸化物を含有するようにしてもよい。
【0048】
なお、
図10(A)では、焼成開始から時間t1までの期間、および時間t1から時間t2までの期間において、一定速度で昇温しているが、
図10(B)に示すように、温度は、階段状に昇温してもよい。このようにして、積層セラミックコンデンサ100が得られる。
【0049】
(再酸化処理工程)
その後、N
2ガス雰囲気中で600℃〜1000℃で再酸化処理を行ってもよい。
【0050】
(めっき処理工程)
その後、めっき処理により、外部電極20a,20bに、Cu,Ni,Sn等の金属コーティングを行ってもよい。
【0051】
本実施形態に係る製造方法によれば、セラミック積層体を焼成するときの昇温速度を上記のように調整することで、カバー層13に、周辺領域13bの第2部分P2よりもポア率が高い多孔質部13aを形成することができる。これにより、外部からの衝撃によりカバー層13に生じたクラックが容量領域まで達するのを抑制することができる。
【0052】
なお、上記各実施形態においては、セラミック電子部品の一例として積層セラミックコンデンサについて説明したが、それに限られない。例えば、バリスタやサーミスタなどの、他の電子部品を用いてもよい。
【実施例】
【0053】
実施形態に係る積層セラミックコンデンサを作製し、信頼性について調べた。
【0054】
チタン酸バリウム粉末に対して添加物を添加し、ボールミルで十分に湿式混合粉砕して誘電体材料を得た。チタン酸バリウム粉末に対して添加物を添加し、ボールミルで十分に湿式混合粉砕してマージン材料を得た。チタン酸バリウム粉末に対して添加物を添加し、ボールミルで十分に湿式混合粉砕してカバー材料を得た。
【0055】
誘電体材料に有機バインダとしてブチラール系、溶剤としてトルエン、エチルアルコールを加えてドクターブレード法にて誘電体グリーンシート51を作製した。得られた誘電体グリーンシート51に金属導電ペーストの第1パターン52を印刷した。第1パターン52の位置が交互にずれるように、第1パターン52が印刷された誘電体グリーンシート51を500枚重ねた。カバー材料に有機バインダとしてブチラール系、溶剤としてトルエン、エチルアルコールを加えてドクターブレード法にてカバーシート54を作製した。その後、重ねた誘電体グリーンシート51の上下に、カバーシート54を積層して熱圧着し、所定チップ寸法にカットした。
【0056】
その後、金属フィラー、ガラス成分、バインダ、および溶剤を含む外部電極形成用導電ペーストを積層体に塗布し、乾燥させ、焼成を行うことで積層チップを作製した。焼成時の第1平均昇温速度R1及び第2平均昇温速度R2を変えることによって、多孔質部13aのポア率と周辺領域13bのポア率とを変えた。
【0057】
(実施例1〜6)
多孔質部13aのポア率と、周辺領域13bの第1部分P1、第2部分P2及び第3部分P3のポア率と、を変えた積層セラミックコンデンサ100をそれぞれ100個作製した。表1に示すように、実施例1では、多孔質部13aのポア率、周辺領域13bの第1部分P1及び第3部分P3のポア率、並びに第2部分P2のポア率をそれぞれ1.0%、1.0%、および0.7%とし、実施例2では、1.2%、1.1%、および1.0%とし、実施例3では、2.4%、1.4%、および1.2%とし、実施例4では、1.4%、0.2%、および0.2%とし、実施例5では、15%、0.3%、および0.2%とし、実施例6では、19%、0.5%、および0.3%とした。また、実施例1〜3では、積層方向におけるカバー層13の厚みTを180μmとし、積層方向における第1部分P1の厚みT1を18μmとし、積層方向における第2部分P2の厚みT2を20μmとし、長さ方向における第3部分P3の厚みT3を18μmとした。実施例4〜6では、積層方向におけるカバー層13の厚みTを180μmとし、積層方向における第1部分P1の厚みT1を18μmとし、積層方向における第2部分P2の厚みT2を18μmとし、長さ方向における第3部分P3の厚みT3を18μmとした。
【0058】
(比較例1〜4)
表1に示すように、比較例1及び2では、多孔質部13aのポア率をそれぞれ0.3%及び0.6%及とし、周辺領域13bの第1部分P1及び第3部分P3のポア率をそれぞれ0.2%及び0.6%とし、周辺領域13bの第2部分P2のポア率をそれぞれ0.2%及び0.3%とし、他の条件は実施例1〜3と同じにした。また、比較例3及び4では、多孔質部13aのポア率をそれぞれ0.1%及び0.5%及とし、周辺領域13bの第1部分P1及び第3部分P3のポア率をそれぞれ0.1%及び0.2%とし、周辺領域13bの第2部分P2のポア率をそれぞれ0.1%及び0.2%とし、他の条件は実施例4〜6と同じにした。
【表1】
【0059】
(衝撃試験)
実施例1〜6及び比較例1〜4のサンプルについて、外部から衝撃を加え、クラックが容量領域へ到達したか否かを確認した。衝撃の深さは、ファインセラミックスの硬さ試験方法の規格であるJIS R1610により形成したくぼみ部を傷つけることなく断面研磨、観察することにより、容量領域までクラック伸展が到達したかを判断した。
【0060】
表2に結果を示す。全サンプルに対するクラックが容量領域に到達していないサンプルの割合が0.1未満の場合に、評価結果を「〇」とした。比較例1〜4では、全サンプルに対するクラックが容量領域に到達していたサンプルの割合が0.1以上となった。これは、多孔質部13aのポア率が1%未満であったため、カバー層13が外部からの衝撃を緩和するのに十分な可撓性を有さなかったためだと考えられる。
【0061】
一方、実施例1〜6では、衝撃試験において、クラックが容量領域に到達したサンプルは生じなかった。これは、実施例1〜6では、多孔質部13aのポア率が、周辺領域13bの少なくとも一部の領域におけるポア率よりも高く、かつ、1%以上であったため、カバー層13が外部からの衝撃を緩和するのに十分な可撓性を有していたためと考えられる。
【表2】
【0062】
(耐湿試験)
実施例1〜3のサンプルを500個作製し、耐湿試験を行った。各サンプルに、相対湿度95%で10Vの電圧を印加し、500時間保持し、その後に取り出してIR計で直流抵抗を計測し、1MΩ以下となった場合に不良とし、不良となったサンプルの数をカウントした。
【0063】
表3に結果を示す。表3に示すように、周辺領域13bの第2部分P2のポア率が1%以下であった実施例1及び2では、不良となるサンプルは発生しなかった。このことから、第2部分P2のポア率は、1%以下が好ましいことがわかった。
【表3】
【0064】
(界面におけるクラック発生調査)
実施例4〜6のサンプルを100個作製し、多孔質部13aと周辺領域13bの第1部分P1との界面、多孔質部13aと第2部分P2との界面、又は、多孔質部13aと第3部分P3との界面にクラックが発生していないかを確認した。
【0065】
表4に結果を示す。表4に示すように、実施例4及び5では、多孔質部13aと周辺領域13bの第1部分P1との界面、多孔質部13aと第2部分P2との界面、又は、多孔質部13aと第3部分P3との界面に、クラックは発生しなかった。これは、多孔質部13aのポア率が15%以下であり、多孔質部13aのポア率と周辺領域13bとのポア率との差(粗密差)が適切な範囲にあるため、カバー層13内に構造異常が発生しなかったからだと考えられる。したがって、多孔質部13aのポア率は15%以下が好ましいことがわかった。
【表4】
【0066】
(実施例7〜10)
表5に示すように、多孔質部13aのポア率を8%、10%、12%、および14%とし、周辺領域13bの第1部分P1及び第3部分P3のポア率を0.2%、0.6%、1.0%、及び1.4%とし、周辺領域13bの第2部分P2のポア率を0.2%、0.2%、0.2%及び0.3%とした積層セラミックコンデンサ100をそれぞれ500個作製した。積層方向におけるカバー層13の厚みは180μmであり、積層方向における第1部分P1の厚みT1は18μmであり、積層方向における第2部分P2の厚みT2は20μmであり、外部電極20a,20bが対向する方向における第3部分P3の厚みT3は18μmである。
【表5】
【0067】
(耐めっき液試験)
実施例7〜10の各サンプル500個に対して、高温環境で負荷試験を行った。各サンプルに、105℃環境で10Vの電圧を印加し、100時間保持し、その後に取り出してIR計で直流抵抗を計測し、1MΩ以下となった場合に不良とし、不良となったサンプルの数をカウントした。
【0068】
表6に結果を示す。表6に示すように、実施例7〜9では、めっき液の侵入は見られなかった。これは、実施例7〜9では、カバー層13の最外周に存在する周辺領域13bの第1部分P1及び第3部分P3のポア率が1%以下であったため、耐めっき液性が確保されたからだと考えられる。したがって、第1部分P1及び第3部分P3のポア率は、それぞれ、1%以下が好ましいことがわかった。
【表6】
【0069】
(実施例11〜15)
多孔質部13aのポア率と、周辺領域13bの第1部分P1、第2部分P2及び第3部分P3のポア率と、積層方向におけるカバー層13の厚みT、第1部分P1の厚みT1、および第2部分P2の厚みT2と、長さ方向における第3部分P3の厚みT3と、を変えた積層セラミックコンデンサ100をそれぞれ600個作製した。
【0070】
表7に示すように、実施例11では、多孔質部13aのポア率を15%とし、周辺領域13bの第1部分P1及び第3部分P3のポア率を0.3%とし、周辺領域13bの第2部分P2のポア率を0.2%とした。また、カバー層13の厚みTを180μmとし、第1部分P1の厚みT1を3μmとし、第2部分P2の厚みT2を20μmとし、第3部分P3の厚みT3を3μmとした。
【0071】
実施例12では、多孔質部13aのポア率を12%とし、周辺領域13bの第1部分P1及び第3部分P3のポア率を0.1%とし、周辺領域13bの第2部分P2のポア率を0.06%とした。また、カバー層13の厚みTを180μmとし、第1部分P1の厚みT1を65μmとし、第2部分P2の厚みT2を36μmとし、第3部分P3の厚みT3を65μmとした。実施例13では、多孔質部13aのポア率を15%とし、周辺領域13bの第1部分P1及び第3部分P3のポア率を0.3%とし、周辺領域13bの第2部分P2のポア率を0.2%とした。また、カバー層13の厚みTを180μmとし、第1部分P1の厚みT1を6μmとし、第2部分P2の厚みT2を20μmとし、長さ方向における第3部分P3の厚みT3を6μmとした。
【0072】
実施例14では、多孔質部13aのポア率を15%とし、周辺領域13bの第1部分P1及び第3部分P3のポア率を0.3%とし、周辺領域13bの第2部分P2のポア率を0.2%とした。また、カバー層13の厚みTを180μmとし、第1部分P1の厚みT1を18μmとし、第2部分P2の厚みT2を20μmとし、第3部分P3の厚みT3を18μmとした。実施例15では、多孔質部13aのポア率を14%とし、周辺領域13bの第1部分P1及び第3部分P3のポア率を0.2%とし、周辺領域13bの第2部分P2のポア率を0.1%とした。また、カバー層13の厚みTを180μmとし、第1部分P1の厚みT1を55μmとし、第2部分P2の厚みT2を36μmとし、第3部分P3の厚みT3を55μmとした。
【表7】
【0073】
(衝撃試験)
実施例11〜15それぞれのサンプル100個に対して、実施例1〜6及び比較例1〜4と同様の条件で衝撃試験を行った。
【0074】
(耐めっき液試験)
クラックが発生していない実施例11〜15のサンプルに対して、上記の実施例7〜10と同様の条件で、耐めっき液性を調べた。
【0075】
表8に結果を示す。表8に示すように、カバー層13の厚みTに対する第1部分P1の厚みT1の割合(T1/T)およびカバー層13の厚みTに対する第3部分P3の厚みT3の割合(T3/T)が0.03以上かつ0.31以下であり、かつ、カバー層13の厚みTに対する第2部分P2の厚みT2の割合(T2/T)が0.03以上かつ0.20以下であった実施例13〜15では、クラックの容量領域への到達が確認されず、さらに、めっき液の侵入も確認されなかった。したがって、カバー層13の厚みTに対する第1部分P1の厚みT1の割合(T1/T)およびカバー層13の厚みTに対する第3部分P3の厚みT3の割合(T3/T)は0.03以上かつ0.31以下であり、かつ、カバー層13の厚みTに対する第2部分P2の厚みT2の割合(T2/T)が0.03以上かつ0.20以下であることが好ましいことがわかった。
【表8】
【0076】
第1平均昇温速度R1及び第2平均昇温速度R2が、多孔質部13a及び周辺領域13bのポア率に与える影響を調べた。ポア率は、チップ中央部を断面研磨した後、SEM観察を行い、視野内の各部(多孔質部13a,第1部分P1、第2部分P2、第3部分P3)において、所定領域の面積と、当該所定領域に存在するポアの面積とを測定して算出した。画像処理ソフトとしては、ImageJを用いた。
【0077】
(実施例16及び17)
表9に示すように、実施例16では、第1平均昇温速度R1を400℃/時間とし、第2平均昇温速度R2を20000℃/時間とした。昇温速度比(R2/R1)は50である。また、実施例17では、第1平均昇温速度R1を400℃/時間とし、第2平均昇温速度R2を30000℃/時間とした。昇温速度比(R2/R1)は、75である。
【0078】
(比較例5及び6)
比較例5では、第1平均昇温速度R1を400℃/時間とし、第2平均昇温速度R2を1000℃/時間とした。昇温速度比(R2/R1)は2.5である。また、比較例6では、第1平均昇温速度R1を400℃/時間とし、第2平均昇温速度R2を10000℃/時間とした。昇温速度比(R2/R1)は、25である。
【表9】
【0079】
表9に示すように、比較例5では、多孔質部13aのポア率を周辺領域13bの第2部分P2のポア率よりも高くすることができなかった。なお、比較例5では、多孔質部13aのポア率と周辺領域13bのポア率が同一であり、多孔質部13aを特定できなかったため、カバー層13の中央部を多孔質部13a、カバー層13の周縁部を周辺領域13bとしてポア率を測定した。また、比較例6では、多孔質部13aのポア率が、クラックの容量領域への到達を抑制できるポア率(1%以上)とならなかった。一方、実施例16及び17では、多孔質部13aのポア率が周辺領域13bの第2部分P2のポア率よりも高く、多孔質部13aのポア率を1%以上とすることができた。
【0080】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。