【解決手段】金属磁性粒子と、前記金属磁性粒子の間の隙間と、前記隙間を埋める樹脂と、を含む基体部と、前記基体部に内蔵され、複数層の導体で形成されるコイル導体と、を備え、コイル軸に沿った前記基体部の断面において、前記基体部は、前記複数層の導体の間に挟まれる前記基体部の第1領域と、前記コイル軸に直交し、前記導体から内側もしくは外側の少なくても一方の側にある前記基体部の第2領域と、を有し、前記第1領域及び前記第2領域は前記隙間が前記樹脂で埋められる充填部と、前記隙間が前記樹脂で埋められない非充填部を含み、前記充填部と前記非充填部との割合は第1領域で90%以上が前記充填部であり、前記第2領域で80%以下が前記充填部である、コイル部品。
前記コイル軸に沿った前記基体部の断面において、円形状に近似した大きさとして、前記第1領域の前記非充填部の平均径より前記第2領域の前記非充填部の平均径は大きい、請求項1に記載のコイル部品。
前記コイル軸に沿った前記基体部の断面において、円形状に近似した大きさとして、前記第1領域の金属磁性粒子の平均径より前記第2領域の金属磁性粒子の平均径は大きい、請求項1から3のいずれか一項に記載のコイル部品。
前記コイル軸に沿った前記基体部の断面において、前記基体部は前記導体から前記コイル軸に直交する方向に前記金属磁性粒子が4粒並んだ範囲内に位置する第3領域を有し、前記第3領域は前記隙間が前記樹脂で埋められる充填部と、前記隙間が前記樹脂で埋められない非充填部を含み、前記充填部と前記非充填部との割合は90%以上が前記充填部である、請求項1から3のいずれか一項に記載のコイル部品。
前記コイル軸に沿った前記基体部の断面において、円形状に近似した大きさとして、前記第3領域の前記非充填部の平均径より前記第2領域の前記非充填部の平均径は大きい、請求項6に記載のコイル部品。
前記コイル軸に沿った前記基体部の断面において、円形状に近似した大きさとして、前記第1領域の第1の金属磁性粒子の平均径及び前記第3領域の第3の金属磁性粒子の平均径より前記第2領域の第2の金属磁性粒子の平均径は大きい、請求項6から8のいずれか一項に記載のコイル部品。
前記コイル軸に沿った前記基体部の断面において、前記第1領域は第1の金属磁性粒子と第4の金属磁性粒子を有し、前記第2領域は第2の金属磁性粒子を有し、前記第3領域は第3の金属磁性粒子と第5の金属磁性粒子を有し、
前記第4の金属磁性粒子の平均径及び前記第5の金属磁性粒子の平均径は前記第2の金属磁性粒子の平均径よりも小さく、前記第1の金属磁性粒子の平均径は前記第4の金属磁性粒子の平均径より大きく、前記第3の金属磁性粒子の平均径は前記第5の金属磁性粒子の平均径より大きい、請求項6から9のいずれか一項に記載のコイル部品。
前記コイル軸に沿った前記基体部の断面において、前記第1領域の第1の金属磁性粒子の変形強度は、前記第2領域の第2の金属磁性粒子の変形強度よりも小さい、請求項1から3のいずれか一項に記載のコイル部品。
前記コイル軸に沿った前記基体部の断面において、前記第1領域の第1の金属磁性粒子の変形強度及び前記第3領域の第3の金属磁性粒子の変形強度は、前記第2領域の第2の金属磁性粒子の変形強度よりも小さい、請求項6から10のいずれか一項に記載のコイル部品。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を適宜参照しながら、本願発明の実施形態について説明する。但し、本願発明は図示された態様に限定される訳ではない。また、複数の図面において共通する構成要素には当該複数の図面を通じて同一の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。
【0022】
[第1の実施形態]
図1は、本願発明の第1の実施形態に係るコイル部品の斜視図である。
図2(a)は、
図1のA−A断面図、
図2(b)は、
図2(a)の領域Aの拡大図である。
図2(b)では磁性体層21及び22を例に説明するが、その他の磁性体層23〜25においても同じである。コイル部品として例えばパワーインダクタに用いられる積層インダクタの場合を例に示す。
【0023】
図1及び
図2(a)を参照して、コイル部品100は、基体部10と、基体部10に内蔵されたコイル導体30と、基体部10の表面に設けられた外部電極50及び51と、を備える。基体部10は概ね直方体の形状に形成されている。コイル部品100の「長さ」方向、「幅」方向、「厚さ」方向をそれぞれ、「L」方向、「W」方向、「T」方向と図示している。基体部10は、例えば、長さ寸法(L軸方向の寸法)が0.6mm〜4.5mm、幅寸法(W軸方向の寸法)が0.3mm〜3.2mm、厚さ寸法(T軸方向の寸法)が0.3mm〜2.5mmである。
【0024】
基体部10はカバー層20、26と磁性体層21〜25とが積層された積層体である。カバー層20、26及び磁性体層21〜25は、鉄(Fe)を主成分とする複数の金属磁性粒子と複数の金属磁性粒子の間の隙間に埋め込まれた樹脂とを含んで形成されている。この点については後述する。各磁性体層21〜25には導体31が形成されている。導体31は磁性体層21〜25に埋め込まれ且つ上面が磁性体層21〜25の上面と略一致している。
【0025】
各磁性体層21〜25に形成された導体31はビア(不図示)を介して電気的に接続されている。これによりコイル導体30が形成されている。コイル導体30は、コイル軸36の周りを巻回して形成されて、基体部10に内蔵されている。コイル軸36はT軸方向に延伸している。カバー層20、26と磁性体層21〜25はT軸方向に積層されている。よって、コイル軸36の方向と、カバー層20、26と磁性体層21〜25の積層方向と、は概ね一致する。コイル導体30の一端は外部電極50に電気的に接続され、コイル導体30の他端は外部電極51に電気的に接続されている。導体31は、導電率の高い金属で形成され、例えば銀(Ag)、パラジウム(Pd)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)又はこれらの合金から形成される。
【0026】
図2(b)を参照して、磁性体層21及び22は、シート層である第1磁性層40と、第1磁性層40上に設けられた導体31と、第1磁性層40上にコイル軸36に直交する方向で導体31の周り、すなわち導体31のコイル軸36側および導体31のコイル軸36と反対側に設けられた第2磁性層41と、を含む。したがって、第1磁性層40はコイル軸36に沿った方向で隣り合う導体31の間に設けられている。第1磁性層40の厚さは例えば5μm〜30μmである。導体31及び第2磁性層41の厚さは例えば5μm〜60μmである。
【0027】
図3は、第1の実施形態に係るコイル部品の一部を拡大した断面図である(わかりやすさの都合上、各層の境界を直線で示し、樹脂についても各層の境界部の粒子表面に沿う形ではなく、境界部の直線に沿う形で示している。以下の図も同様)。
図3を
図2と共に参照して、第1磁性層40は、コイル軸36の方向であるT方向で導体31に挟まれた第1領域11を含み、複数の金属磁性粒子60を含んで形成されている。第2磁性層41は、コイル軸36に直交し、導体31から内側および外側に、導体31からL方向に複数の金属磁性粒子が4粒並んだ範囲を除いた第2領域を含み、複数の金属磁性粒子61を含んで形成されている。導体31から外側の領域は、コイル軸36に直交する方向であるL方向に導体31と基体部10の表面14との間の距離の1/2以上離れ、かつ、導体31からL方向に複数の金属磁性粒子が4粒並んだ範囲を除いた第2領域12を含む。導体31から内側の領域は、導体31から導体31とコイル軸36との間のL方向の距離の1/2以上離れ、かつ、導体31からL方向に複数の金属磁性粒子が4粒並んだ範囲を除いた第2領域12b(不図示)を含む。第2領域12および第2領域12bは、第2領域の内での位置の違い以外は、2つの領域は同じ挙動を示す。このため、本願発明では以下、第2領域の例として、第2領域12および第2領域12bのうちから、第2領域12を代表として記載し、第2領域12bをこれに含まれるものとする。金属磁性粒子60及び61の表面には絶縁膜が形成されている。絶縁膜としては例えば金属磁性粒子60及び61の表面が酸化されることにより形成された酸化膜であってもよい。絶縁膜については図の明瞭化のために図示を省略している。第1磁性層40において金属磁性粒子60の間に形成される第1隙間70に比べ第2磁性層41において金属磁性粒子61の間に形成される第2隙間71は大きい。
【0028】
本願発明においては、様々な形状の隙間の大きさを表すために、隙間の形状を球形状に近似してこの球の直径を用いて表している。隙間が断面視にて表された場合、隙間の形状は円形状に近似されることになり、隙間の大きさはこの円の直径を用いて表される。複数の隙間の大きさについては、その直径の平均径をもって表される。すなわち、第1磁性層40の複数の第1隙間70の平均径に比べ、第2磁性層41の複数の第2隙間71の平均径は大きくなっている。第1隙間70及び第2隙間71の径は、例えば基体部10の断面を走査型電子顕微鏡により3000倍〜5000倍程度で撮影した撮影像から、第1隙間70及び第2隙間71の面積を出し、これを同一面積の円形状に近似した場合の直径を算出することで求めることができる。第1隙間70の平均径及び第2隙間71の平均径は、例えば数百個(例えば200個程度)の第1隙間70及び第2隙間71の径の平均値から算出することができる。200個程度の第1隙間70及び第2隙間71の平均径を求めることで、第1磁性層40及び第2磁性層41の複数の第1隙間70及び第2隙間71全体の平均径が定義される。
【0029】
第1隙間70の平均径に比べ第2隙間71の平均径を大きくするためには、例えば、
図3で示すように、円形状に近似した大きさとして、第1磁性層40の複数の金属磁性粒子60の平均径に比べ、第2磁性層41の複数の金属磁性粒子61の平均径を大きくすることが挙げられる。金属磁性粒子60及び61の粒子径は、例えば基体部10の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により3000倍〜5000倍程度で撮影した撮影像により計測することができる。金属磁性粒子60及び61の平均径は、例えば数百個(例えば200個程度)の金属磁性粒子60及び61を含む撮影像から求められた粒度分布の50%値を平均径とすることができる。また、平均径は、20個〜100個程度の金属磁性粒子60及び61の粒径を計測し、その平均値から算出してもよい。金属磁性粒子60及び61が長軸及び短軸を有する形状をしている場合は、長軸寸法L1と短軸寸法L2の平均値(L1+L2)/2を金属磁性粒子60及び61の粒径としてもよい。長軸は金属磁性粒子60及び61の断面にて最大となる径とし、短軸は長軸の長さを二等分した点を含み金属磁性粒子60及び61の断面にて最小となる径としてもよい。
【0030】
金属磁性粒子60及び61は、例えば鉄を主成分とする軟磁性粒子であり、合金粒子であってもよいし、純鉄粒子であってもよい。複数の金属磁性粒子60は同種且つ同組成の磁性粒子である。複数の金属磁性粒子61は同種且つ同組成の磁性粒子である。金属磁性粒子60と金属磁性粒子61は同種且つ同組成の磁性粒子であってもよい。鉄を主成分とするとは、金属磁性粒子60及び61を構成する元素の合計量に対する鉄の割合が50wt%(重量パーセント)以上の場合であり、80wt%以上の場合でもよく、90wt%以上の場合でもよい。例えば、金属磁性粒子60及び61は、鉄とシリコンを含む合金粒子であってもよいし、鉄と鉄よりもイオン化傾向が大きい(鉄よりも酸化し易い)1種類以上の金属元素Mとを含む合金粒子であってもよい。金属元素Mとして、例えばクロム(Cr)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、及びマンガン(Mn)等が挙げられる。一例として、金属磁性粒子60及び61は、鉄とシリコンと鉄よりもイオン化傾向が大きい1種類以上の金属元素M(例えばクロム及びアルミニウムの少なくとも一方)との合金粒子であってもよい。鉄の割合は85wt%〜99wt%、シリコンの割合は0.5wt%〜7wt%、金属元素Mの割合は0.5wt%〜8wt%であってもよい。金属磁性粒子60及び61は、酸素(O)及び/又は炭素(C)等の意図しない不純物を含んでいてもよい。不純物の割合は1wt%以下であってもよい。また、金属磁性粒子60及び61は、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、硫黄(S)、リン(P)、及び/又はホウ素(B)等を含んでいてもよい。金属磁性粒子60及び61の組成比は、例えば基体部10の断面を走査型電子顕微鏡により3000倍から20000倍程度で撮影し、エネルギー分散型X線分析(EDS)によるZAF法で算出することができる。
【0031】
金属磁性粒子60の間の第1隙間70及び金属磁性粒子61の間の第2隙間71の少なくとも一部には樹脂52が充填されている。すなわち、第1磁性層40は、第1隙間70が樹脂52で埋められた充填部74aと、第1隙間70が樹脂52で埋められていない非充填部74bと、を含む。第2磁性層41は、第2隙間71が樹脂52で埋められた充填部75aと、第2隙間71が樹脂52で埋められていない非充填部75bと、を含む。第1隙間70、第2隙間71は、それぞれ第1磁性層40、第2磁性層41の内部に複数存在し、部分的につながり、一部は基体部10の表面まで空隙がつながっている。この空隙を通して、樹脂52は含侵処理によって充填される。ここで、第1磁性層40における第1隙間70の平均径に比べ第2磁性層41における第2隙間71の平均径が大きいため、樹脂52は含侵処理時、つながった空隙を通り、より狭い第1隙間70から優先的に充填されるようになる。第1磁性層40の第1隙間70への樹脂52の充填率は、第2磁性層41の第2隙間71への樹脂52の充填率よりも高くなる。円形状に近似した大きさとして、第1磁性層40の非充填部74bの平均径より第2磁性層41の非充填部75bの平均径は大きい。充填部及び非充填部の平均径は上述した隙間の平均径と同じ方法によって求めることができる。
【0032】
樹脂52の充填率とは、第1磁性層40の複数の第1隙間70のうち樹脂52で充填されている第1隙間70の体積の割合及び第2磁性層41の複数の第2隙間71のうち樹脂52で充填されている第2隙間71の体積の割合である。例えば、200個程度の第1隙間70のうち樹脂52で充填された第1隙間70の体積の割合及び200個程度の第2隙間71のうち樹脂52で充填された第2隙間71の体積の割合で求めることができる。第1磁性層40の第1隙間70への樹脂52の充填率は90vol%以上となり、第2磁性層41の第2隙間71への樹脂52の充填率は80vol%以下となっている。第1隙間70及び第2隙間71に樹脂52が充填されているか否かは、例えば基体部10の断面を走査型電子顕微鏡により1000倍〜5000倍程度で撮影した撮影像においてコントラスト(明度)の違いとして認識できる。第1隙間70及び第2隙間71の各々の体積は、例えば基体部10の断面を走査型電子顕微鏡により3000倍〜5000倍程度で撮影した撮影像から、第1隙間70及び第2隙間71をその面積と同じ面積の円形状に近似した場合の直径を算出し、それをもとに第1隙間70及び第2隙間71を球形に近似した体積を算出することで求めることができる。
【0033】
樹脂52として例えば有機樹脂又はシリコーン樹脂等が挙げられる。例えば、樹脂52は、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、イミド系樹脂、アミド系樹脂、シリケート系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、及びポリエチレン系樹脂のうち少なくとも1種を用いることができる。
【0034】
[製造方法]
第1の実施形態のコイル部品の製造方法の一例を説明する。まず、例えばポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)等のフィルム上に、例えばドクターブレード法等によって金属磁性粒子60を含む磁性体ペーストを塗布し、これを熱風乾燥機等の乾燥機で乾燥させることで第1磁性層40を形成する。必要に応じて第1磁性層40の所定の位置に例えばレーザを用いて貫通孔を形成する。第1磁性層40上に例えばスクリーン印刷等の印刷法によって銀ペースト又は銅ペースト等の導体ペーストを塗布し、これを熱風乾燥機等の乾燥機で乾燥させることで導体31の前駆体を形成する。第1磁性層40上に例えばスクリーン印刷等の印刷法によって金属磁性粒子61を含む磁性体ペーストを塗布し、これを乾燥機で乾燥させることで導体31の前駆体の周りに第2磁性層41を形成する。その後、フィルムを剥離する。これにより磁性体層21〜25が形成される。
【0035】
PETフィルム等のフィルム上に例えばドクターブレード法等によって金属磁性粒子61を含む磁性体ペーストを塗布し、これを乾燥機で乾燥させて磁性層を形成した後にフィルムを剥離する。これにより、カバー層20が形成される。
【0036】
PETフィルム等のフィルム上に例えばドクターブレード法等によって金属磁性粒子60を含む磁性体ペーストを塗布し、これを乾燥機で乾燥させて下側磁性層を形成する。下側磁性層上に例えばスクリーン印刷等の印刷法によって金属磁性粒子61を含む磁性体ペーストを塗布し、これを乾燥機で乾燥させることで上側磁性層を形成する。その後フィルムを剥離する。これにより、カバー層26が形成される。
【0037】
磁性体層とカバー層を所定の順序で積層して圧着する。圧着した磁性体層及びカバー層をチップ単位に切断した後、酸素を含む雰囲気下で所定温度(例えば600℃〜900℃)にて熱処理を行う。この熱処理によって、磁性体層及びカバー層を構成する金属磁性粒子の表面に金属磁性粒子の材料成分の酸化物である絶縁膜が形成され、且つ、複数の金属磁性粒子が絶縁膜を介して互いに結合する。これにより、磁性体層21〜25とカバー層20、26が積層され、コイル導体30が内蔵された基体部10が形成される。複数の金属磁性粒子の間には隙間が形成されている。第1磁性層40は複数の金属磁性粒子60を含み、複数の金属磁性粒子60の間に第1隙間70が形成される。第2磁性層41は複数の金属磁性粒子61を含み、複数の金属磁性粒子61の間に第2隙間71が形成される。金属磁性粒子60及び61の表面には酸化膜が形成されている。第1磁性層40において金属磁性粒子60の間に形成される第1隙間70に比べ第2磁性層41において金属磁性粒子61の間に形成される第2隙間71は大きい。すなわち、第1磁性層40の複数の第1隙間70の平均径に比べ、第2磁性層41の複数の第2隙間71の平均径は大きくなっている。
【0038】
液体状態の樹脂材料又は樹脂材料の溶液等といった樹脂材料の液状物に基体部10を浸漬したり、又は樹脂材料の液状物を基体部10の表面に塗布したりすることで、基体部10内の金属磁性粒子間の隙間に樹脂を充填させる含侵処理を行う。その後、基体部10の表面に、例えばペースト印刷、めっき、又はスパッタリング等の薄膜プロセルで用いられる方法によって外部電極50、51を形成する。含侵処理を行わずに外部電極50、51を形成した後に、基体部10内の金属磁性粒子間の隙間に樹脂を充填させる含侵処理を行ってもよい。
【0039】
図4(a)は、第1の実施形態に係るコイル部品において、樹脂の含侵処理が行われる前の断面図、
図4(b)は、樹脂の含侵処理が行われた後の断面図である。
図4(a)及び
図4(b)を参照して、樹脂52の含侵処理が行われることで、第1磁性層40の第1隙間70と第2磁性層41の第2隙間71に樹脂52が充填される。上述したように、第1隙間70の平均径が第2隙間71の平均径よりも小さいため、樹脂52はより小さい第1隙間70に優先的に充填される。このため、第1磁性層40の第1隙間70が空隙のまま残存している割合は第2磁性層41の第2隙間71が空隙のまま残存している割合に比べて小さくなる。したがって、第1磁性層40の第1隙間70の樹脂52の充填率は第2磁性層41の第2隙間71の樹脂52の充填率よりも高くなる。言い換えると、第1磁性層40での充填部74aの割合は第2磁性層41での充填部75aの割合よりも高くなる。充填部の割合と隙間への樹脂の充填率とは同じである。
【0040】
図3を参照して、第1磁性層40はコイル軸36の方向であるT方向で隣り合う導体31の間に設けられていることから、コイル軸36の方向で導体31に挟まれた基体部10の第1領域11は第1磁性層40で形成されている。第2磁性層41はコイル軸36に直交する方向であるL方向で導体31の周りに設けられていることから、導体31からコイル軸36に直交する方向に導体31と基体部10の表面14との距離の1/2以上離れ、かつ、導体31からL方向に複数の金属磁性粒子が4粒並んだ範囲を除いた基体部10の第2領域12は第2磁性層41で形成されている。第1実施形態の変形例として、
図3では、第1磁性層40は第1領域11とその他の領域からなるが、これを、第1磁性層40は第1領域11のみからなり残りを異なる磁性層とすることもできる。この場合でも、第1領域11と第2領域12は第1の実施形態と同様であるから、同じ作用効果を示す。第2領域12は前述したとおり第2領域12bであってもよい。
【0041】
第1の実施形態によれば、
図3のように、コイル軸36に沿った基体部10の断面において、導体31の間に挟まれて、導体31に直接接触している基体部10の第1領域11において、第1隙間70が樹脂52で埋め込まれている充填部74aの割合は90vol%以上となっている。隣り合う又は近接する複数の第1隙間70が連続し、これが基体部10の表面まで連続する場合、この複数の第1隙間70はオープンポアを形成する。しかし、第1の実施形態によれば、複数の第1隙間70のうち樹脂52で埋め込まれている充填部74aの割合が90vol%以上であるから、樹脂52の埋め込まれている第1隙間70が、その連続している複数の第1隙間70のうちで、1つでも存在する割合は非常に高くなる。このことは、複数の樹脂52の埋め込まれていない非充填部74bが連続することにより発生するオープンポアの生成が抑制されていることになる。基体部10の第1領域11は導体31に挟まれて位置し導体31に直接接触しているため、導体31を構成する銀又は銅等の導体金属がオープンポアを通して基体部10の外部の大気に接することを抑制できる。これにより、外部から大気中の酸素や水分が侵入し、導体31を構成する銀又は銅等の導体金属に腐食及び/又はマイグレーションが発生することを効果的に抑制できる。
【0042】
さらに、導体31を構成する銀又は銅等の導体金属は、金属磁性粒子60に比べて、イオン化傾向が高いことから、導体31を構成する銀又は銅等の導体金属がイオン化し易くマイグレーションを発生させるが、非金属である樹脂52は導体31を構成する銀又は銅等の導体金属をイオン化しないので、マイグレーションを発生させ難い。基体部10の第1領域11は、導体31に挟まれて位置するため、コイル部品の使用時の通電に伴い、その挟まれた導体31同士に電位差が発生する領域である。この電位差により、導体31を構成する銀又は銅等の導体金属がイオン化し易くなるので、第1領域11は基体部10の他の領域に比べるとマイグレーションが発生し易い。このため、マイグレーションの発生し易い基体部10の第1領域11において、複数の第1隙間70の大部分に樹脂52が埋め込まれていることによって、マイグレーションの発生を効果的に抑制することができ、効果的にコイル部品の信頼性の低下を抑制できる。すなわち、基体部10の第1領域11に存在する複数の第1隙間70のうち樹脂52が埋め込まれた充填部74aの割合は、これを高くすることで、マイグレーションが発生することを効果的に抑制でき、コイル部品の信頼性の低下を抑制できる。このように、オープンポアの生成を抑制し、腐食及び/又はマイグレーションの発生を抑えて信頼性の低下を抑制するために、樹脂52の充填率は高い方が好ましい。そこで、基体部10の第1領域11に存在する複数の第1隙間70のうち樹脂52が埋め込まれた充填部74aの割合を90vol%以上とする。これにより、信頼性の低下を抑制することができる。
【0043】
コイル軸36に沿った基体部10の断面において、導体31からコイル軸36に直交する方向に、複数の金属磁性粒子が4粒並んだ範囲を除き、導体31からコイル軸36に直交する方向に導体31と基体部10の表面14との距離の1/2以上離れた基体部10の第2領域12に存在する複数の第2隙間71のうち樹脂52が埋め込まれた充填部75aの割合は80vol%以下となっている。第2領域12は前述したとおり第2領域12bであってもよい。基体部10の第2領域12は導体31に直接接触せずに、離れているため、樹脂52の充填率が高くても導体31の腐食及び/又はマイグレーションの発生を抑える効果は小さい。すなわち基体部10の第1領域11の第1隙間70が樹脂52に高い割合で埋め込まれてさえいれば、基体部10の第2領域12の第2隙間71は樹脂52に埋め込まれている割合を低くすることができる。樹脂52の使用量を低く抑えることは環境負荷を小さくすることであり、そのためには、基体部10の第2領域12においては樹脂52の充填率は低い方が好ましい。そこで、基体部10の第2領域12に存在する複数の第2隙間71のうち樹脂52が埋め込まれた充填部75aの割合を80vol%以下とする。これにより、従来、基体部の全ての隙間部分に一律に樹脂を含侵させている場合に比べて、樹脂52の使用量を低く抑えて環境負荷を小さくすることができる。
【0044】
信頼性の低下を抑制する点から、基体部10の第1領域11の複数の第1隙間70のうち樹脂52が埋め込まれた充填部74aの割合は、92vol%以上である場合が好ましく、94vol%以上である場合がより好ましく、96vol%以上である場合が更に好ましい。一方、環境負荷を小さくする点から、基体部10の第2領域12の複数の第2隙間71のうち樹脂52が埋め込まれた充填部75aの割合は、50vol%以下の場合が好ましく、40vol%以下の場合がより好ましく、30vol%以下の場合が更に好ましい。
【0045】
コイル軸36に沿った基体部10の断面において、基体部10の第1領域11における複数の第1隙間70の平均径より基体部10の第2領域12における複数の第2隙間71の平均径は大きい場合が好ましい。これにより、樹脂52はより小さな第1隙間70に優先的に充填されるため、基体部10の第1領域11の充填部74aの割合を90vol%以上とし、基体部10の第2領域12の充填部75aの割合を80vol%以下にすることができる。この点から、第1隙間70の平均径に比べ、第2隙間71の平均径は1.5倍以上が好ましく、2倍以上がより好ましく、3倍以上が更に好ましい。第1隙間70に優先的に樹脂52が充填することから、コイル軸36に沿った基体部10の断面において、円形状に近似した大きさとして、第1領域11の非充填部74bの平均径より第2領域12の非充填部75bの平均径は大きいことが好ましく、1.5倍以上大きいことがより好ましく、2倍以上大きいことが更に好ましく、3倍以上が更により好ましい。
【0046】
通常の樹脂含侵の場合、硬化前の樹脂の溶液の粘度が低いと、濡れ性は良くなるが、隙間の内部の容積を全て埋めきれず、隙間に壁面部のみに樹脂が存在することになり、充填性に劣ってしまう。逆に、硬化前の樹脂の溶液の粘度が高い場合、濡れ性が劣化することにより、やはり隙間への充填性に劣ってしまう。このため隙間を埋めるための樹脂の粘度及び濡れ性は自ずとある範囲に収まるようになり、また、これを用いる場合の隙間の大きさの範囲も自ずとある範囲に決まってくるようになる。これは硬化前の樹脂の溶液の粘度や濡れ性が最適範囲でありさえすれば樹脂の種類にはよらない。例えば、基体部10の第1領域11における複数の第1隙間70は円形状に近似した場合の直径が0.8μm以下である場合が好ましい。複数の第1隙間70の直径が0.8μm以下とは、複数の第1隙間70のうち95%以上の隙間の直径が0.8μm以下であればよく、99%以上の隙間の直径が0.8μm以下の場合が好ましい。上述のような樹脂52を用いて第1隙間70を埋める場合、後述のように0.8μmを超えると第1隙間70を90vol%以上埋めきれなくなる。基体部10の第1領域11における複数の第1隙間70と基体部10の第2領域12における複数の第2隙間71が同時に存在しても、第1隙間70の大きさに対して第2隙間71の大きさが大きいことにより、第1隙間70に樹脂52が優先的に充填され、第1領域11の充填部74aの割合を90vol%以上とすることができる。したがって、コイル軸36に沿った基体部10の断面において、第1領域11の充填部74aの平均径は0.8μm以下である場合が好ましい。
【0047】
コイル軸36に沿った基体部10の断面において、円形状に近似した大きさとして、基体部10の第1領域11の金属磁性粒子60の平均径より基体部10の第2領域12の金属磁性粒子61の平均径は大きい場合が好ましい。これは、基体部10の第1領域11の第1隙間70の平均径に比べ基体部10の第2領域12の第2隙間71の平均径を大きくすることができる一つの好適例である。よって、基体部10の第1領域11の充填部74aの割合を90vol%以上とし、基体部10の第2領域12の充填部75aの割合を80vol%以下にすることができる。基体部10の第2領域12において充填部75aの割合を低くして環境負荷を改善する点から、金属磁性粒子60の平均径に比べ、金属磁性粒子61の平均径は1.5倍以上が好ましく、2倍以上が好ましく、2.5倍以上がより好ましく、3倍以上が更に好ましい。
【0048】
第1隙間70の平均径に比べ第2隙間71の平均径を大きくする方法は、第1磁性層40の金属磁性粒子60の平均径に比べ、第2磁性層41の金属磁性粒子61の平均径を大きくする以外の方法で行ってもよい。例えば、第1磁性層40に含まれる金属磁性粒子の変形強度を第2磁性層41に含まれる金属磁性粒子の変形強度より小さくしてもよい。例えば、第1磁性層40の金属磁性粒子の組成はクロム:1.5wt%、シリコン:3.5wt%、鉄:95wt%とし、第2磁性層41の金属磁性粒子の組成はクロム:1.5wt%、シリコン:6.5wt%、鉄:92wt%とする。この場合、第1磁性層40の金属磁性粒子の平均径は、前記第2磁性層41の金属磁性粒子の平均径と同じであってもよいし、小さい場合でもよいし、大きい場合でもよい。
【0049】
このように、基体部10の第1領域11の金属磁性粒子(第1磁性層40の金属磁性粒子)の変形強度を基体部10の第2領域12の金属磁性粒子(第2磁性層41の金属磁性粒子)の変形強度より小さくしてもよい。この場合、圧着工程において基体部10の第1領域11の金属磁性粒子は基体部10の第2領域12の金属磁性粒子よりも潰れ易くなり、基体部10の第1領域11の第1隙間70の平均径が基体部10の第2領域12の第2隙間71の平均径よりも小さくなる。よって、基体部10の第1領域11での充填部74aの割合を90vol%以上とし、基体部10の第2領域12での充填部75aの割合を80vol%以下にすることができ、樹脂52の使用量を低く抑えつつ、信頼性の低下を抑制できる。ここで用いる変形強度とは、金属磁性粒子が圧縮される場合の変形に要する強度を表す。金属磁性粒子の変形強度は、当該金属磁性粒子の変形のし難さを表す指標であり、例えば、JIS Z 8844:2019に従って測定される。金属磁性粒子の変形強度は、例えば株式会社島津製作所製の微小圧縮試験機(MCT−211型)を用いて測定することができる。なお、変形強度は、塑性変形が起こる場合の変形強度を意味してもよく、弾性変形が起こる場合の変形強度を意味してもよい。
【0050】
第1隙間70の平均径に比べ第2隙間71の平均径を大きくすることを、第1磁性層40の形成に用いる磁性体ペースト中のバインダー量を第2磁性層41の形成に用いる磁性体ペースト中のバインダー量よりも少なくすることで行ってもよい。この場合、第1磁性層40の金属磁性粒子の平均径は、第2磁性層41の金属磁性粒子の平均径と同じであってもよいし、異なっていてもよい。第1磁性層40の形成に用いる磁性体ペースト中のバインダー量を第2磁性層41の形成に用いる磁性体ペースト中のバインダー量よりも少なくすることで、バインダーは熱処理によって除去されることから、第1磁性層40の第1隙間70は第2磁性層41の第2隙間71よりも小さくなる。すなわち、基体部10の第1領域11の第1隙間70の平均径に比べて基体部10の第2領域12の第2隙間71の平均径が大きくなる。よって、基体部10の第1領域11での充填部74aの割合を90vol%以上とし、基体部10の第2領域12での充填部75aの割合を80vol%以下にすることができ、樹脂52の使用量を低く抑えつつ、信頼性の低下を抑制できる。
【0051】
[第2の実施形態]
図5(a)は、本願発明の第2の実施形態に係るコイル部品の断面図、
図5(b)は、
図5(a)の領域Aの拡大図である。
図5(b)では、磁性体層21a及び22aを例に説明するが、その他の磁性体層23a〜25aにおいても同じである。
図5(a)及び
図5(b)を参照して、磁性体層21a及び22aは、第1磁性層40と、第1磁性層40上に設けられた導体31と、第1磁性層40上にコイル軸36に直交する方向で導体31の周り、すなわち導体31の内側と外側、すなわちコイル軸36側およびコイル軸36と反対側に設けられた第3磁性層42と、第3磁性層42を挟んで導体31とは反対側に設けられた第2磁性層41と、を含む。
【0052】
図6は、第2の実施形態に係るコイル部品の一部を拡大した断面図である。
図6を参照して、第1磁性層40は、第1の実施形態と同じくコイル軸36の方向であるT方向で導体31に挟まれた第1領域11を含み、複数の金属磁性粒子60を含んで形成されている。第2磁性層41は、第1の実施形態と同じく複数の金属磁性粒子61を含んで形成されている。第3磁性層42は複数の金属磁性粒子62を含んで形成されている。第3磁性層42は、導体31からコイル軸36に直交する方向であるL方向に金属磁性粒子62が4粒以上並んで設けられていて、導体31からコイル軸36に直交する方向であるL方向に金属磁性粒子62が4粒並んだ範囲内に位置する第3領域13を含む。導体31からコイル軸36に直交する方向に導体31と基体部10の表面との間の距離の1/2以上離れ、第3磁性層42に含まれない箇所は第2磁性層41の第2領域12となっている。第2領域12は前述したとおり第2領域12bであってもよい。
【0053】
複数の金属磁性粒子60の間の第1隙間70の平均径及び複数の金属磁性粒子62の間の第3隙間72の平均径の双方に比べ、複数の金属磁性粒子61の間の第2隙間71の平均径はどちらに対しても大きい。このため、樹脂52はより狭い第1隙間70及び第3隙間72に優先的に充填される。すなわち、第1磁性層40は、第1隙間70が樹脂52で埋められた充填部74aと、第1隙間70が樹脂52で埋められていない非充填部74bと、を含む。第2磁性層41は、第2隙間71が樹脂52で埋められた充填部75aと、第2隙間71が樹脂52で埋められていない非充填部75bと、を含む。第3磁性層42は、第3隙間72が樹脂52で埋められた充填部76aと、第3隙間72が樹脂52で埋められていな非充填部76bと、を含む。第1磁性層40の第1隙間70及び第3磁性層42の第3隙間72の樹脂52の充填率は、第2磁性層41の第2隙間71の樹脂52の充填率よりも高くなっている。第1磁性層40の第1隙間70及び第3磁性層42の第3隙間72の樹脂52の充填率は90vol%以上となり、第2磁性層41の第2隙間71の樹脂52の充填率は80vol%以下となっている。
【0054】
金属磁性粒子62は、金属磁性粒子60及び61と同じく、例えば鉄を主成分とする軟磁性粒子であり、合金粒子であってもよいし、純鉄粒子であってもよい。複数の金属磁性粒子62は同種且つ同組成の磁性粒子である。金属磁性粒子60〜62は同種且つ同組成の磁性粒子であってもよい。複数の金属磁性粒子60の平均径及び複数の金属磁性粒子62の平均径の双方に比べ、複数の金属磁性粒子61の平均径はどちらに対しても大きい。複数の金属磁性粒子60の平均径と複数の金属磁性粒子62の平均径は同じであってもよいし異なっていてもよい。同じには製造誤差程度に異なる場合も含まれる(以下においても同じ)。第2の実施形態に係るコイル部品のその他の構成は第1の実施形態に係るコイル部品と同じであるため説明を省略する。第2実施形態の変形例として、
図6では、第1磁性層40は第1領域11とその他の領域からなるが、これを、第1磁性層40は第1領域11のみからなり残りを異なる磁性層とすることもできる。この場合でも、第1領域11と第2領域12及び第3領域13は第2実施形態と同様であるから、同じ作用効果を示す。第2領域12は前述したとおり第2領域12bであってもよい。
【0055】
[製造方法]
第2の実施形態のコイル部品の製造方法の一例を説明する。まず、PETフィルム等のフィルム上に、例えばドクターブレード法等によって金属磁性粒子60を含む磁性体ペーストを塗布し、これを熱風乾燥機等の乾燥機で乾燥させることで第1磁性層40を形成する。必要に応じて第1磁性層40の所定の位置に例えばレーザを用いて貫通孔を形成する。第1磁性層40上に例えばスクリーン印刷等の印刷法によって銀ペースト又は銅ペースト等の導体ペーストを塗布し、これを熱風乾燥機等の乾燥機で乾燥させることで導体31の前駆体を形成する。第1磁性層40上に例えばスクリーン印刷等の印刷法によって金属磁性粒子62を含む磁性体ペーストを塗布し、これを乾燥機で乾燥させることで導体31の前駆体の周りに第3磁性層42を形成する。第1磁性層40上に例えばスクリーン印刷等の印刷法によって金属磁性粒子61を含む磁性体ペーストを塗布し、これを乾燥機で乾燥させることで第3磁性層42の周りに第2磁性層41を形成する。その後、フィルムを剥離する。これにより磁性体層21a〜25aが形成される。磁性体層21a〜25aを形成する工程以外は、第1の実施形態の製造方法で説明した工程と同じであるため説明を省略する。
【0056】
図7(a)は、第2の実施形態に係るコイル部品において、樹脂の含侵処理が行われる前の断面図、
図7(b)は、樹脂の含侵処理が行われた後の断面図である。
図7(a)及び
図7(b)を参照して、樹脂52の含侵処理が行われることで、第1磁性層40の第1隙間70と第2磁性層41の第2隙間71と第3磁性層42の第3隙間72とにおいて少なくとも一部に樹脂52が充填される。上述したように、第1磁性層40の第1隙間70及び第3磁性層42の第3隙間72の平均径の双方に比べ、第2磁性層41の第2隙間71の平均径はどちらに対しても大きい。このために、樹脂52は第1磁性層40の第1隙間70及び第3磁性層42の第3隙間72に優先的に充填される。よって、第1磁性層40の第1隙間70及び第3磁性層42の第3隙間72が空隙のまま残存している割合は、第2磁性層41の第2隙間71が空隙のまま残存している割合よりも小さくなる。したがって、第1磁性層40の第1隙間70及び第3磁性層42の第3隙間72の樹脂52の充填率は、第2磁性層41の第2隙間71の樹脂52の充填率よりも高くなる。言い換えると、第1磁性層40での充填部74aの割合及び第3磁性層42での充填部76aの割合は第2磁性層41での充填部75aの割合よりも高くなる。
【0057】
図6を参照して、コイル軸36の方向であるT方向で導体31に挟まれた基体部10の第1領域11は第1磁性層40で形成されている。導体31からコイル軸36に直交する方向であるL方向に金属磁性粒子62が4粒並んだ範囲内に位置する基体部10の第3領域13は第3磁性層42で形成されている。導体31からコイル軸36に直交する方向であるL方向に導体31と基体部10の表面との距離の1/2以上離れ、第3磁性層42に含まれない基体部10の第2領域12は第2磁性層41で形成されている。
【0058】
第2の実施形態によれば、コイル軸36に沿った基体部10の断面において、基体部10の第1領域11の複数の第1隙間70のうち樹脂52が埋め込まれた充填部74aの割合は90vol%以上となっていることに加え、基体部10の第3領域13の複数の第3隙間72のうち樹脂52が埋め込まれた充填部76aの割合は90vol%以上となっている。基体部10の第1領域11及び第3領域13は導体31近傍に位置するため、第1領域11の充填部74aの割合及び第3領域13の充填部76aの割合を90vol%以上とすることで、導体31の腐食及び/又はマイグレーションの発生が抑えられ、信頼性の低下を抑制することができる。基体部10の第2領域12の複数の第2隙間71のうち樹脂52が埋め込まれた充填部75aの割合は80vol%以下となっている。基体部10の第2領域12は導体31から離れているために導体31の腐食及び/又はマイグレーションの発生を抑える効果は小さいことから、第2領域12の充填部75aの割合を80vol%以下にすることで、樹脂52の使用量が低減されて環境負荷を小さくすることができる。
【0059】
コイル軸36に沿った基体部10の断面において、基体部10の第1領域11における複数の第1隙間70の平均径及び第3領域13における複数の第3隙間72の平均径に比べ、基体部10の第2領域12における複数の第2隙間71の平均径は大きい場合が好ましい。これにより、樹脂52はより小さな第1隙間70及び第3隙間72に優先的に充填されるため、基体部10の第1領域11の充填部74aの割合及び第3領域13の充填部76aの割合を90vol%以上とし、基体部10の第2領域12の充填部75aの割合を80vol%以下にすることができる。この点から、第1隙間70及び第3隙間72の平均径に比べ、第2隙間71の平均径は1.5倍以上が好ましく、2倍以上がより好ましく、3倍以上が更に好ましい。第1隙間70及び第3隙間72に優先的に樹脂52が充填することから、コイル軸36に沿った基体部10の断面において、円形状に近似した大きさとして、第1領域11の非充填部74bの平均径及び第3領域13の非充填部76bの平均径より第2領域12の非充填部75bの平均径は大きいことが好ましく、1.5倍以上大きいことがより好ましく、2倍以上大きいことが更に好ましく、3倍以上が更により好ましい。
【0060】
コイル軸36に沿った基体部10の断面において、第3領域13の複数の第3隙間72は円形状に近似した場合の直径が0.8μm以下である場合が好ましい。複数の第3隙間72の直径が0.8μm以下とは、複数の第3隙間72のうち95%以上の隙間の直径が0.8μm以下であればよく、99%以上の隙間の直径が0.8μm以下の場合が好ましい。これにより、第3隙間72に樹脂52が優先的に充填され、第3領域13の充填部76aの割合を90vol%以上とすることができる。したがって、コイル軸36に沿った基体部10の断面において、第3領域13の充填部76aの平均径は0.8μm以下である場合が好ましい。
【0061】
コイル軸36に沿った基体部10の断面において、円形状に近似した大きさとして、基体部10の第1領域11の金属磁性粒子60の平均径及び第3領域13の金属磁性粒子62の平均径は、第2領域12の金属磁性粒子61の平均径よりも小さい場合が好ましい。これにより、基体部10の第1領域11の第1隙間70の平均径及び基体部10の第3領域13の第3隙間72の平均径を基体部10の第2領域12の第2隙間71の平均径よりも小さくすることができる。よって、基体部10の第1領域11の充填部74aの割合及び第3領域13の充填部76aの割合を90vol%以上とし、基体部10の第2領域12の充填部75aの割合を80vol%以下にすることができる。基体部10の第2領域12の充填部75aの割合を低くして環境負荷を改善する点から、金属磁性粒子60の平均径及び金属磁性粒子62の平均径に比べ、金属磁性粒子61の平均径は1.5倍以上が好ましく、2倍以上が好ましく、2.5倍以上がより好ましく、3倍以上が更に好ましい。
【0062】
[第3の実施形態]
図8は、本願発明の第3の実施形態に係るコイル部品の一部を拡大した断面図である。
図8を参照して、第3の実施形態のコイル部品では、第1磁性層40aは複数の金属磁性粒子63と複数の金属磁性粒子63よりも平均径が小さい複数の金属磁性粒子64とを含む。第2磁性層41は第1の実施形態と同じく複数の金属磁性粒子61を含む。複数の金属磁性粒子64の平均径は複数の金属磁性粒子61の平均径よりも小さい。複数の金属磁性粒子63の平均径は、複数の金属磁性粒子61の平均径より小さい場合でもよいし、大きい場合でもよいし、同じ場合でもよい。
【0063】
第1磁性層40aはコイル軸36に沿った方向であるT方向に隣り合う導体31の間に設けられていることから、コイル軸36の方向で導体31に挟まれた基体部10の第1領域11は第1磁性層40aで形成されている。第2磁性層41はコイル軸36に直交する方向で導体31の周りに設けられていることから、導体31からコイル軸36に直交する方向に導体31と基体部10の表面14との距離の1/2以上離れ、かつ、導体31からL方向に複数の金属磁性粒子が4粒並んだ範囲を除いた基体部10の第2領域12は第2磁性層41で形成されている。第2領域12は前述したとおり第2領域12bであってもよい。第3実施形態の変形例として、
図8では、第1磁性層40aは第1領域11とその他の領域からなるが、これを、第1磁性層40aは第1領域11のみからなり残りを異なる磁性層とすることもできる。この場合でも、第1領域11と第2領域12は第3の実施形態と同様であるから、同じ作用効果を示す。
【0064】
複数の金属磁性粒子63及び複数の金属磁性粒子64の間の第1隙間70の平均径に比べ、複数の金属磁性粒子61の間の第2隙間71の平均径は大きい。このため、樹脂52はより狭い第1隙間70に優先的に充填されるようになり、第1磁性層40aの第1隙間70の樹脂52の充填率は、第2磁性層41の第2隙間71の樹脂52の充填率よりも高くなっている。言い換えると、第1磁性層40aでの充填部74aの割合は第2磁性層41での充填部75aの割合よりも高くなる。第1磁性層40aの充填部74aの割合は90vol%以上となり、第2磁性層41の充填部75aの割合は80vol%以下となっている。
【0065】
金属磁性粒子63及び金属磁性粒子64は、金属磁性粒子61と同じく、例えば鉄を主成分とする軟磁性粒子であり、合金粒子であってもよいし、純鉄粒子であってもよい。金属磁性粒子63と金属磁性粒子64は種類又は組成の少なくとも一方が異なっている。金属磁性粒子63及び金属磁性粒子64の一方と金属磁性粒子61とは同種且つ同組成の磁性粒子であってもよい。第3の実施形態に係るコイル部品のその他の構成は第1の実施形態に係るコイル部品と同じであるため説明を省略する。また、第3の実施形態に係るコイル部品は、フィルム上に金属磁性粒子63と金属磁性粒子64を含む磁性体ペーストを塗布して第1磁性層40aを形成する点以外は、第1の実施形態で説明した製造方法と同じ方法によって形成できる。
【0066】
第3の実施形態によれば、コイル軸36に沿った基体部10の断面において、基体部10の第1領域11は金属磁性粒子63と金属磁性粒子64とを有し、第2領域12は金属磁性粒子61を有する。第1領域11の金属磁性粒子64の平均径よりも第2領域12の金属磁性粒子61の平均径は大きく、第1領域11の金属磁性粒子63の平均径より金属磁性粒子64の平均径は小さい。これにより、基体部10の第1領域11の第1隙間70の平均径に比べ基体部10の第2領域12の第2隙間71の平均径を大きくすることができる。よって、基体部10の第1領域11の充填部74aの割合を90vol%以上とし、基体部10の第2領域12の充填部75aの割合を80vol%以下にすることができ、樹脂52の使用量を低く抑えつつ、信頼性の低下を抑制できる。金属磁性粒子64の平均径は、金属磁性粒子61の平均径の0.6倍以下が好ましく、0.5倍以下がより好ましく、0.4倍以下が更に好ましい。
【0067】
第3の実施形態の変形例において、第2の実施形態のように、導体31と第2磁性層41との間に第3磁性層が設けられてもよい。この場合、基体部10の第1領域11に金属磁性粒子63と金属磁性粒子63及び金属磁性粒子61よりも平均径が小さい金属磁性粒子64とが存在し第1隙間70が存在することに加え、基体部10の第3領域13に複数の金属磁性粒子とこれよりも平均径が小さく且つ金属磁性粒子61よりも平均径が小さい複数の金属磁性粒子が存在し、第2隙間71よりも小さな第3隙間72が存在すればよい。
【0068】
第3の実施形態の変形例では、第1領域11における第1隙間70の平均径及び第3領域13における第3隙間72の平均径に比べ、第2領域12における第2隙間71の平均径は大きい。このため、樹脂52はより狭い第1隙間70及び第3隙間72に優先的に充填されるようになり、第1隙間70及び第3隙間72の樹脂52の充填率は、第2隙間71の樹脂52の充填率よりも高くなる。第1領域11の充填部74aの割合及び第3領域13の充填部76aの割合は90vol%以上となり、第2領域12の充填部75aの割合は80vol%以下となっている。第3の実施形態の変形例に係るコイル部品のその他の構成は第2の実施形態に係るコイル部品と同じであるため説明を省略する。第3実施形態の変形例においても、第1磁性層40aは第1領域11のみからなり残りを異なる磁性層とすることもできる。この場合でも、第1領域11と第2領域12と第3領域13は第3実施形態の変形例と同様であるから、同じ作用効果を示す。
【0069】
第1の実施形態から第3の実施形態及びその様々な例の形態では、コイル部品として複数の磁性体層が積層されることで、基体部にコイル導体が内蔵された積層インダクタの場合を例に示したがこの場合に限られない。例えば、コイル導体を金型のキャビティ内に配置した後にキャビティ内に所望の領域が形成されるように、複合磁性材料を充填させることで基体部にコイル導体が内蔵されて形成されたコイル部品の場合でもよい。このようなコイル部品は、各々の領域毎に分けた金型を用い、順番に、異なる複合磁性材料を充填し、成型することを繰り返すことで作成してもよい。
【0070】
[第4の実施形態]
図9は、本願発明の第4の実施形態に係る電子機器を示す斜視図である。
図9では、図の明瞭化のために、半田82にハッチングを付している。
図9を参照して、電子機器400は、回路基板80と、回路基板80に実装されたコイル部品100と、を備える。コイル部品100は、外部電極50、51が半田82によって回路基板80の電極81に接合されることで、回路基板80に実装されている。これにより、樹脂52の使用量を低く抑えつつ、信頼性の低下が抑制されたコイル部品100を備えた電子機器400が得られる。なお、
図9では、回路基板80に第1の実施形態のコイル部品100が実装されている場合を例に示したが、第2の実施形態から第3の実施形態及びその様々な例の形態のコイル部品が実装されている場合でもよい。
【実施例】
【0071】
以下、本願発明を実施例及び比較例によってより具体的に説明するが、本願発明はこれらの実施例に記載された態様に限定されるわけではない。
【0072】
まず、金属磁性粒子の平均粒子径及び変形強度、並びに磁性体ペーストのバインダー量を異ならせた8つの条件でそれぞれ基体部を作製し、作製した基体部の金属磁性粒子間に形成された隙間の大きさを測定した。
【0073】
[条件1]
平均粒子径が2μmで組成比がシリコン:3.5wt%、クロム:1.5wt%を含む鉄を主成分とする金属磁性粉にトルエン(溶剤)とポリビニルブチラール(バインダー)を添加した磁性体ペーストを用いて基体部を作製した。
【0074】
[条件2]
平均粒子径が4μmで組成比は条件1と同じ金属磁性粉にトルエンとポリビニルブチラールを添加した磁性体ペーストを用いて基体部を作製した。バインダーの量は条件1と同じにした。
【0075】
[条件3]
平均粒子径が6μmで組成比は条件1と同じ金属磁性粉にトルエンとポリビニルブチラールを添加した磁性体ペーストを用いて基体部を作製した。バインダーの量は条件1と同じにした。
【0076】
[条件4]
平均粒子径が2μmで組成比は条件1と同じにトルエンとポリビニルブチラールを添加した磁性体ペーストを用いて基体部を作製した。バインダーの量は条件1の2倍とした。
【0077】
[条件5]
平均粒子径が2μmで組成比は条件1と同じ金属磁性粉にトルエンとポリビニルブチラールを添加した磁性体ペーストを用いて基体部を作製した。バインダーの量は条件1の1/2とした。
【0078】
[条件6]
平均粒子径が2μmで組成比がシリコン:6.5wt%、クロム:1.5wt%を含む鉄を主成分とする金属磁性粉にトルエンとポリビニルブチラールとを添加した磁性体ペーストを用いて基体部を作製した。バインダーの量は条件1と同じにした。条件1に比べて金属磁性粒子のシリコンの量が多いことから、条件6で用いた金属磁性粒子の変形強度は条件1で用いた金属磁性粒子の変形強度に比べて10%ほど高かった。
【0079】
[条件7]
平均粒子径が2μmで組成比がシリコン:2.5wt%、クロム:1.5wt%を含む鉄を主成分とする金属磁性粉にトルエンとポリビニルブチラールとを添加した磁性体ペーストを用いて基体部を作製した。バインダーの量は条件1と同じにした。条件1に比べて金属磁性粒子のシリコンの量が少ないことから、条件6で用いた金属磁性粒子の変形強度は条件1で用いた金属磁性粒子の変形強度に比べて低かった。
【0080】
[条件8]
平均粒子径が4μmで組成比は条件6と同じ金属磁性粉にトルエンとポリビニルブチラールを添加した磁性体ペーストを用いて基体部を作製した。バインダーの量は条件1と同じにした。条件8においても条件6と同様、条件8で用いた金属磁性粒子の変形強度は条件2で用いた金属磁性粒子の変形強度に比べて高かった。
【0081】
[条件9]
平均粒子径が4μmで組成比は条件7と同じ金属磁性粉にトルエンとポリビニルブチラールを添加した磁性体ペーストを用いて基体部を作製した。バインダーの量は条件1と同じにした。条件9においても条件7と同様、条件9で用いた金属磁性粒子の変形強度は条件2で用いた金属磁性粒子の変形強度に比べて低かった。
【0082】
条件1〜条件9で作製した基体部の断面を走査型電子顕微鏡により3000〜5000倍で観察し、金属磁性粒子の間に形成された複数の隙間のうちの200個を同じ面積の円形状に近似して直径を算出して隙間の直径とした。
【0083】
得られた結果を表1に示す。表1では隙間の直径の累積割合を示している。バインダー量及び変形強度は条件1を基準とし、条件1と同じ場合を基準と記載し、条件1と異なる場合は異なる点を記載している。
【表1】
【0084】
条件1〜条件3の結果から、金属磁性粒子の平均粒子径を小さくすることで、金属磁性粒子間の隙間が小さくなることが確認された。金属磁性粒子の平均粒子径が2μmである条件1では隙間の99%以上が直径0.8μm以下になり、平均粒子径が4μmである条件2では隙間の72%が直径0.8μm以下になり、平均粒子径が6μmである条件3では隙間の33%が直径0.8μmになることが確認された。
【0085】
条件4、5の結果から、磁性体ペーストに用いるバインダー量を少なくすることで、金属磁性粒子間の隙間が小さくなることが確認された。金属磁性粒子の平均粒子径が2μmでバインダー量が多い条件4では隙間の93%が直径0.8μm以下になり、平均粒子径が2μmでバインダー量が少ない条件5では隙間の99%以上が直径0.8μm以下になることが確認された。
【0086】
条件6〜条件9の結果から、金属磁性粒子の変形強度を低くすることで、金属磁性粒子間の隙間が小さくなることが確認された。金属磁性粒子の平均粒子径が2μmで変形強度が高い条件6では隙間の89%が直径0.8μm以下になり、金属磁性粒子の平均粒子径が2μmで変形強度が低い条件7では隙間の99%以上が直径0.7μm以下になることが確認された。金属磁性粒子の平均粒子径が4μmで変形強度が高い条件8では隙間の66%が直径0.8μm以下になり、金属磁性粒子の平均粒子径が4μmで変形強度が低い条件9では隙間の96%が直径0.8μm以下になることが確認された。
【0087】
表1の結果から、金属磁性粒子の平均粒子径を2μm以下にすることで、金属磁性粒子間に形成される隙間のほぼ全てを直径0.8μm以下にできることが確認された。
【0088】
フィルム上にドクターブレード法によって各々の条件の磁性体ペーストを塗布し、これを熱風乾燥機等の乾燥機で乾燥させることで磁性体層を形成した。複数の磁性体層を積層して圧着した。圧着した積層体を所望の大きさに切断した後、酸素を含む雰囲気下で所定温度にて熱処理を行った。これにより複数の金属磁性粒子の間に隙間が形成された基体部が形成された。このような方法で作製した基体部にシリコーン樹脂溶液を真空減圧条件下にて含浸させた。含浸処理した基体部の断面を走査型電子顕微鏡により3000〜5000倍で撮影し、金属粒子間の複数の隙間においてシリコーン樹脂が含浸した含浸部位と含浸していない未含浸部位とを観察した。含浸部位および未含浸部位の直径は、それぞれの部位の面積を基に円形状に近似した場合の直径から算出した。その結果を
図10に示す。
図10は、隙間の直径の違いによる樹脂の充填状態の評価結果を示すグラフである。
【0089】
図10のグラフから、直径が0.8μm以下の隙間は優先的に樹脂が充填されることが確認された。
【0090】
[実施例1]
実施例1のコイル部品は
図2(b)と同様の断面構造をしている。実施例1のコイル部品は以下の方法により作製した。フィルムの表面にドクターブレード法を用いて上述の条件1の磁性体ペースト(平均粒子径が2μmの金属磁性粉を使用)を塗布し、熱風乾燥機で乾燥させて、フィルム上に第1磁性層を形成した。必要に応じて第1磁性層の所定位置にレーザを用いて貫通孔を形成した後、銀粒子とブチルカルビトールとエチルセルロースとからなる導体ペーストを第1磁性層の表面に印刷し、熱風乾燥機で乾燥させて導体パターンの前駆体を形成した。
【0091】
第1磁性層上で導体パターンの周囲に上述の条件3の磁性体ペースト(平均粒子径が6μmの金属磁性粉を使用)を塗布し、これを熱風乾燥機で乾燥させて第2磁性層を形成した。その後、フィルムを剥離して、導体パターンが設けられた磁性体層を形成した。
【0092】
フィルムの表面に上述の条件3の磁性体ペースト(平均粒子径が6μmの金属磁性粉を使用)を塗布し、これを熱風乾燥機で乾燥させた後にフィルムを剥離して、下側のカバー層を形成した。
【0093】
フィルムの表面に上述の条件1の磁性体ペースト(平均粒子径が2μmの金属磁性粉を使用)を塗布し、これを熱風乾燥機で乾燥させて、下側磁性層を形成した。下側磁性層上に上述の条件3の磁性体ペースト(平均粒子径が6μmの金属磁性粉を使用)を塗布し、これを熱風乾燥機で乾燥させて、上側磁性層を形成した。その後、フィルムを剥離して、上側のカバー層を形成した。
【0094】
磁性体層とカバー層を所定の順序で積層してプレス機により熱圧着した。圧着した磁性体層及びカバー層をチップ単位に切断した後に脱バインダー処理を行い、その後、酸素を含む雰囲気下で800℃にて熱処理を行った。これにより、コイル導体を内蔵した基体部を得た。次いで、基体部にシリコーン樹脂溶液を真空にて含浸させ、金属磁性粒子間の隙間にシリコーン樹脂を充填した。次いで、基体部の表面に銀(Ag)粒子とブチルカルビトールとエチルセルロースとからなる導体ペーストを塗布し、焼き付け処理を行った。その後、ニッケル−錫めっきを施すことで、基体部の表面に外部電極を形成した。
【0095】
[実施例2]
実施例2のコイル部品は
図5(b)と同様の断面構造をしている。実施例2のコイル部品は以下の方法により作製した。フィルムの表面にドクターブレード法を用いて上述の条件1の磁性体ペースト(平均粒子径が2μmの金属磁性粉を使用)を塗布し、熱風乾燥機で乾燥させて、フィルム上に第1磁性層を形成した。必要に応じて第1磁性層の所定位置にレーザを用いて貫通孔を形成した後、銀粒子とブチルカルビトールとエチルセルロースとからなる導体ペーストを第1磁性層の表面に印刷し、熱風乾燥機で乾燥させて導体パターンの前駆体を形成した。
【0096】
第1磁性層上で導体パターンの周囲に上述の条件1の磁性体ペースト(平均粒子径が2μmの金属磁性粉を使用)を塗布し、これを熱風乾燥機で乾燥させて第3磁性層を形成した。第1磁性層上で導体パターン及び第3磁性層が設けられていない領域に上述の条件3の磁性体ペースト(平均粒子径が6μmの金属磁性粉を使用)を塗布し、これを熱風乾燥機で乾燥させて第2磁性層を形成した。その後、フィルムを剥離して、導体パターンが設けられた磁性体層を形成した。磁性体層の製造工程以外は実施例1と同じ製造工程を行った。
【0097】
[実施例3]
実施例3のコイル部品は
図5(b)と同様の断面構造をしている。実施例3のコイル部品は以下の方法により作製した。フィルムの表面にドクターブレード法を用いて上述の条件1の磁性体ペースト(平均粒子径が2μmの金属磁性粉を使用)を塗布し、熱風乾燥機で乾燥させて、フィルム上に第1磁性層を形成した。必要に応じて第1磁性層の所定位置にレーザを用いて貫通孔を形成した後、銀粒子とブチルカルビトールとエチルセルロースとからなる導体ペーストを第1磁性層の表面に印刷し、熱風乾燥機で乾燥させて導体パターンの前駆体を形成した。
【0098】
第1磁性層上で導体パターンの周囲に上述の条件2の磁性体ペースト(平均粒子径が4μmの金属磁性粉を使用)を塗布し、これを熱風乾燥機で乾燥させて第3磁性層を形成した。第1磁性層上で導体パターン及び第3磁性層が設けられていない領域に上述の条件3の磁性体ペースト(平均粒子径が6μmの金属磁性粉を使用)を塗布し、これを熱風乾燥機で乾燥させて第2磁性層を形成した。その後、フィルムを剥離して、導体パターンが設けられた磁性体層を形成した。磁性体層の製造工程以外は実施例1と同じ製造工程を行った。
【0099】
[実施例4]
実施例4のコイル部品は
図5(b)と同様の断面構造をしている。実施例4のコイル部品は以下の方法により作製した。フィルムの表面にドクターブレード法を用いて上述の条件1の磁性体ペースト(平均粒子径が2μmの金属磁性粉を使用)を塗布し、熱風乾燥機で乾燥させて、フィルム上に第1磁性層を形成した。必要に応じて第1磁性層の所定位置にレーザを用いて貫通孔を形成した後、銀粒子とブチルカルビトールとエチルセルロースとからなる導体ペーストを第1磁性層の表面に印刷し、熱風乾燥機で乾燥させて導体パターンの前駆体を形成した。
【0100】
第1磁性層上で導体パターンの周囲に上述の条件4の磁性体ペースト(平均粒子径が2μmの金属磁性粉を使用、バインダー量は多い)を塗布し、これを熱風乾燥機で乾燥させて第3磁性層を形成した。第1磁性層上で導体パターン及び第3磁性層が設けられていない領域に上述の条件3の磁性体ペースト(平均粒子径が6μmの金属磁性粉を使用)を塗布し、これを熱風乾燥機で乾燥させて第2磁性層を形成した。その後、フィルムを剥離して、導体パターンが設けられた磁性体層を形成した。磁性体層の製造工程以外は実施例1と同じ製造工程を行った。
【0101】
[比較例1]
比較例1のコイル部品は
図1(b)と同様の断面構造をしている。比較例1のコイル部品は以下の方法により作製した。フィルムの表面にドクターブレード法を用いて上述の条件1の磁性体ペースト(平均粒子径が2μmの金属磁性粉を使用)を塗布し、熱風乾燥機で乾燥させて、フィルム上に第1磁性層を形成した。必要に応じて第1磁性層の所定位置にレーザを用いて貫通孔を形成した後、銀粒子とブチルカルビトールとエチルセルロースとからなる導体ペーストを第1磁性層の表面に印刷し、熱風乾燥機で乾燥させて導体パターンの前駆体を形成した。
【0102】
第1磁性層上で導体パターンの周囲に上述の条件1の磁性体ペースト(平均粒子径が2μmの金属磁性粉を使用)を塗布し、これを熱風乾燥機で乾燥させて第2磁性層を形成した。その後、フィルムを剥離して、導体パターンが設けられた磁性体層を形成した。磁性体層の製造工程以外は実施例1と同じ製造工程を行った。
【0103】
[比較例2]
比較例2のコイル部品は
図1(b)と同様の断面構造をしている。比較例2のコイル部品は以下の方法により作製した。フィルムの表面にドクターブレード法を用いて上述の条件3の磁性体ペースト(平均粒子径が6μmの金属磁性粉を使用)を塗布し、熱風乾燥機で乾燥させて、フィルム上に第1磁性層を形成した。必要に応じて第1磁性層の所定位置にレーザを用いて貫通孔を形成した後、銀粒子とブチルカルビトールとエチルセルロースとからなる導体ペーストを第1磁性層の表面に印刷し、熱風乾燥機で乾燥させて導体パターンの前駆体を形成した。
【0104】
第1磁性層上で導体パターンの周囲に上述の条件3の磁性体ペースト(平均粒子径が6μmの金属磁性粉を使用)を塗布し、これを熱風乾燥機で乾燥させて第2磁性層を形成した。その後、フィルムを剥離して、導体パターンが設けられた磁性体層を形成した。磁性体層の製造工程以外は実施例1と同じ製造工程を行った。
【0105】
実施例1から実施例4、比較例1、及び比較例2のコイル部品の寸法は、長さ寸法を1.8mm、幅寸法を1.0mm、厚さ寸法を1.0mmとした。
【0106】
実施例1から実施例4、比較例1、及び比較例2のコイル部品に対して、信頼性試験及び基体部内の含侵樹脂量の測定を行った。
[信頼性試験]
実施例1から実施例4、比較例1、及び比較例2各々20個の試料に対して、85℃/85RHで500時間の耐湿性試験を行った。耐湿性試験の前後でのQ値をキーサイト・テクノロジー社製のRFインピーダンス/マテリアル・アナライザE4991Aを用いて測定し、Q値の低下率が10%以内で収まった個数を求めた。
[含浸樹脂量の測定]
実施例1から実施例4、比較例1、及び比較例2の試料に対して、含浸処理した基体部の断面を走査型電子顕微鏡により3000〜5000倍で撮影し、金属粒子間の複数の隙間においてシリコーン樹脂が含浸した含浸部位と含浸していない未含浸部位とをコントラスト(明度)の観察により識別し、各々の面積を算出した。各々の隙間における面積を同じ面積の円形状に換算した時の直径を、その空隙の径とし、各々の空隙の径に対して含浸部位と未含浸部位の面積合計を100とした場合の面積の比率を算定した。基体部の複数の層、領域のそれぞれについて、シリコーン樹脂が含浸した含浸部位から算出された面積比率と、各々の複数の層、領域のそれぞれの大きさに基づいて、基体部全体の樹脂の充填量を算出した。
【0107】
得られた結果を表2に示す。表2では、信頼性試験の結果として、Q値の低下率が10%以内で収まらなかった個数が0個の場合を「◎」、1〜2個の場合を「〇」、2個以上の場合を「×」としている。含浸樹脂量については、実施例1における樹脂量を規定量と置きこれを「◎」、規定量から10%以内の増量を「〇」、規定量から10%を超える増量を「×」としている。また、表2では、コイル軸に垂直な方向でコイル導体から順に位置する第1磁性層、第3磁性層、第2磁性層の順に記載している。
【表2】
【0108】
表2のように、第1磁性層が条件1の磁性体ペーストを用いて形成され、第2磁性層が条件3の磁性体ペーストを用いた形成された実施例1から実施例4は、信頼性試験が良好で且つ基体部内の樹脂量が少ない結果が得られた。実施例1から実施例4では、条件1の磁性体ペーストで第1磁性層を形成していることから、第1磁性層における隙間の99%以上が直径0.8μm以下になり、第1磁性層における隙間の樹脂充填率が90%以上になった。第1磁性層はコイル軸の方向で導体の間に位置することから、第1磁性層における樹脂充填率が90%以上になったことで、導体の腐食及び/又はマイグレーションの発生が抑えられ、信頼性試験で良好な結果が得られたと考えられる。また、実施例1から実施例4では、条件3の磁性体ペーストで第2磁性層を形成していることから、第2磁性層における隙間のうち直径0.8μm以下の隙間は33%となり、第2磁性層における隙間の樹脂充填率が80%以下になった。このため、基体部内の樹脂量が少なくなったと考えられる。
【0109】
実施例1から実施例4の結果から、基体部10の第1領域11の複数の第1隙間70のうち樹脂52が埋め込まれた第1隙間70の割合(すなわち充填部74aの割合)を90%以上とし、基体部10の第2領域12の複数の第2隙間71のうち樹脂52が埋め込まれた第2隙間71の割合(すなわち充填部75aの割合)を80%以下とすることで、樹脂52の使用量を低く抑えつつ、信頼性の低下を抑制できることが確認された。
【0110】
実施例2では、条件1の磁性体ペーストで第3磁性層を形成していることから、第3磁性層における隙間の99%以上が直径0.8μm以下になり、第3磁性層における隙間の樹脂充填率が90%以上になった。第3磁性層はコイル軸に交差する方向で導体の近傍に位置することから、第3磁性層における樹脂充填率が90%以上になったことで、導体の腐食及び/又はマイグレーションの発生がより抑えられ、信頼性試験で更に良好な結果が得られたと考えられる。
【0111】
実施例2の結果から、基体部10の第3領域13の複数の第3隙間72のうち樹脂52が埋め込まれた第3隙間72の割合(すなわち充填部76aの割合)を90%以上とすることで、樹脂52の使用量を低く抑えつつ、信頼性の低下を更に抑制できることが確認された。
【0112】
以上、本願発明の実施形態について詳述したが、本願発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本願発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。