(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-163866(P2021-163866A)
(43)【公開日】2021年10月11日
(54)【発明の名称】高周波通信モジュール
(51)【国際特許分類】
H05K 1/02 20060101AFI20210913BHJP
H05K 9/00 20060101ALI20210913BHJP
H04B 1/38 20150101ALI20210913BHJP
【FI】
H05K1/02 P
H05K9/00 K
H05K9/00 R
H04B1/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2020-64290(P2020-64290)
(22)【出願日】2020年3月31日
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村田 龍司
【テーマコード(参考)】
5E321
5E338
5K011
【Fターム(参考)】
5E321AA17
5E321BB25
5E321GG05
5E338AA03
5E338CC06
5E338EE13
5E338EE22
5K011AA16
5K011DA01
5K011KA04
(57)【要約】
【課題】シールド効果を向上させ、所望する信号ライン間のアイソレーションを確保する。
【解決手段】実施形態の高周波通信モジュールは、多層基板の第1層に形成された第1のグランドパターンと、第2層に形成された第2のグランドパターンとの間の第3層に設けられた配線パターンと、前記配線パターンに沿って複数、配置されたビアホールと、前記ビアホールを電気的に接続する接続パターンと、を備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層基板の第1層に形成された第1グランドパターンと、第2層に形成された第2グランドパターンとの間の第3層に設けられた配線パターンと、
前記配線パターンに沿って複数、配置されたビアホールと、
前記ビアホールを電気的に接続する接続パターンと、
を備えた高周波通信モジュール。
【請求項2】
前記接続パターンは、少なくとも前記第3層に前記配線パターンに沿って設けられている、
請求項1記載の高周波通信モジュール。
【請求項3】
前記接続パターンは、前記第1層と、前記第2層と、の間の複数の層にそれぞれ設けられている、
請求項1又は請求項2記載の高周波通信モジュール。
【請求項4】
前記複数の層にそれぞれ設けられた前記接続パターンは、前記第3層からの積層方向の距離が離れた層に設けられた前記接続パターンほど幅が長くなるようにされている、
請求項3記載の高周波通信モジュール。
【請求項5】
前記接続パターンの幅方向の配置位置は、前記配線パターンから前記第1グランドパターンあるいは前記第2グランドパターンまでの距離のうち、より短い距離と等しい距離以上前記配線パターンから離間した位置とされている、
請求項3又は請求項4記載の高周波通信モジュール。
【請求項6】
前記接続パターンは、前記ビアホールのビアパッドとして機能する、
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の高周波通信モジュール。
【請求項7】
前記配線パターンは、搬送波周波数が互いに異なる複数のバンドの伝送信号のそれぞれに対応して設けられている、
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の高周波通信モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、高周波通信モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、インターネットの利用などの、携帯電話の機能拡大が進んでおり、携帯電話に必要とされる通信データ量が増大している。
この通信データ量の増大に対応するための技術として、LTE(Long Term Evolution)の資産を継承しつつ、より周波数利用効率を高めることで、さらに高速なスループットを示現するLTE−Advancedが実用化されている。
【0003】
LTE−Advancedにおいては、高スループット化技術としてCarrier Aggregation(以降CAと記述する)技術が用いられている。CA技術の一つであるInter Band Non Contiguous CAは、800MHz帯や2GHz帯の複数バンドを共用することで広帯域化、データ通信量を拡大、高速化をはかるものである。
【0004】
また、携帯電話、PDA等の携帯型通信機器は、その小型化のため、複数のバンドを共用のアンテナで送受信している。複数のバンドの信号を共用のアンテナで送受信するため、動作しているバンドの信号は、他のバンドにとっては不要な信号であると共に、他のバンドからの漏れ分は、動作しているバンドにとって、品質に影響を与える不要な信号となる。
したがって、小型化と特性確保は、相反する関係にあり、形状や性能の制約となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−331015号公報
【特許文献2】特開2004−056155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
小型化と、特性確保の両立を図るための技術として、従来、基板(多層PCBや積層セラミック基板)では、グランドビア(シールドビア)を形成することで、アイソレーション等の干渉を軽減する手段が一般的に用いられていた。
【0007】
しかしながら、グランドビアの形成には、プロセス上の制約が存在するため必ずしも所望のシールド効果を得るためのグランドビアを形成することはできず、ひいては、信号ライン間のアイソレーションをよりいっそう確保することが困難であった。
【0008】
上記課題に鑑み、本発明の実施形態は、シールド効果を向上させ、所望する信号ライン間のアイソレーションを確保することが可能な高周波通信モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態の高周波通信モジュールは、多層基板の第1層に形成された第1のグランドパターンと、第2層に形成された第2のグランドパターンとの間の第3層に設けられた配線パターンと、前記配線パターンに沿って複数、配置されたビアホールと、前記ビアホールを電気的に接続する接続パターンと、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、信号ライン間をシールドビアとして機能させるビアホールのみでシールドする従来技術の説明図である。
【
図2】
図2は、
図1の従来例における信号ラインの放射電界強度のシミュレーション結果を説明する図である。
【
図3】
図3は、実施形態における信号ラインの放射電界強度のシミュレーション結果の説明図である。
【
図4】
図4は、実施形態の高周波通信モジュールの概要構成ブロック図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態の多層基板における内層ストリップラインの配置状態の説明断面図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態の多層基板における内層ストリップラインの配置状態の説明断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に好適な実施形態について図面を参照して説明する。
[1]従来技術の問題点及び実施形態の原理
まず、実施形態の詳細な説明に先立ち、従来技術の問題点及び実施形態の原理を説明する。
図1は、信号ライン間をシールドビアとして機能させるビアホールのみでシールドする従来技術の説明図である。
【0012】
図1に示すように、上層のグランドパターンGP1と下層のグランドパターンGP2との間の層に信号ラインL1、L2に沿って複数のビアホール(シールドビア)SVを配置することにより信号ラインL1、L2間のアイソレーションを確保するようにされている。
【0013】
図2は、
図1の従来例における信号ラインの放射電界強度のシミュレーション結果を説明する図である。
図2においては、シミュレーション計算の都合上、ビアホールSVを平面視、長方形状としている。また、一対の信号ラインL1、L2の間には、現行の基板デザインルールに従い、限界ピッチでグランドビアを配置しており、ビアホールSVは0.20mm間隔で配置されている。
【0014】
図2に示すように、ビアホールSVが配置されている部分は、放射された電波が吸収されているが、ビアホールSVの間の隙間の部分から電波が放射され、信号ラインL2から隣接する信号ラインL1に到達していることがわかる。
【0015】
図3は、実施形態における信号ラインの放射電界強度のシミュレーション結果の説明図である。
図3においては、信号ラインL1、L2間の放射電界強度のシミュレーション結果であり、ビアホールSVをライン状のパターン(以下、接続パターンという)により接続した場合のものでる。
【0016】
より詳細には、ビアホールSV及びグランドラインの一部の層のグランドパッドをライン状の接続パターン、いわゆる、シールドラインにより接続している。
この結果、
図3に示すように、ビアホールSVの隙間部分においても、接続パターンにより電界強度が低下していることがわかる。
【0017】
したがって、本実施形態によれば、信号ラインL1と信号ラインL2との間において、ビアホールSVをライン状の接続パターンで接続することにより、シールド効果を向上させ、信号ラインL1と信号ラインL2との間のアイソレーションを確保することができることがわかる。
【0018】
[2]実施形態
[2.1]第1実施形態
図4は、実施形態の高周波通信モジュールの概要構成ブロック図である。
高周波通信モジュール10は、大別すると、送受信アンテナ11と、フロントエンドモジュール12と、送信パワーアンプ部13と、RFトランシーバIC14と、ロジック回路15と、を備えている。
【0019】
フロントエンドモジュール12は、送受信アンテナ11を介して受信した受信信号をハイバンド(HB)側及びロウバンド(LB)側に分離するとともに、送信パワーアンプ部13側から入力されたハイバンド側の送信信号をロウバンド側の送信信号と混合し送受信アンテナ11に出力するダイプレクサ21と、ダイプレクサ21により分離されたロウバンド側の信号が入力されて出力先を切り替えたり、RFトランシーバIC14側からのロウバンド側の入力信号の入力先を切り替えたりするバンドセレクトRFスイッチ(LB側)22と、ダイプレクサ21により分離されたハイバンド側の信号が入力されて出力先を切り替えたり、RFトランシーバIC14側からのハイバンド側の入力信号の入力先を切り替えたりするバンドセレクトRFスイッチ(HB側)23と、を備えている。
【0020】
また、フロントエンドモジュール12は、バンドセレクトRFスイッチ(LB側)22からのロウバンド側の入力信号をバンド毎に分離するとともに、RFトランシーバIC14側から入力されたロウバンド側のバンド毎の送信信号を混合してバンドセレクトRFスイッチ(LB側)22に出力するデュプレクサ24−1、24−2と、バンドセレクトRFスイッチ(HB側)23からのハイバンド側の入力信号をバンド毎に分離するとともに、RFトランシーバIC14側から入力されたハイバンド側のバンド毎の送信信号を混合してバンドセレクトRFスイッチ(HB側)23に出力するデュプレクサ25−1〜25−4と、を備えている。
【0021】
送信パワーアンプ部13は、RFトランシーバIC14の図示しない送信端子から出力されたハイバンド側のバンド毎の送信信号を増幅して出力するパワーアンプ26−1〜26−4を備えている。
RFトランシーバIC14は、ロウバンド側の送受信信号の増幅を行うロウノイズアンプを複数組備えた第1ロウノイズアンプ部27と、ハイバンド側の受信信号の増幅を行うロウノイズアンプを複数個備えた第2ロウノイズアンプ部28と、を備えている。
ロジック回路15は、送信用信号を生成して、RFトランシーバIC14に出力するとともに、RFトランシーバIC14から入力された受信信号のアナログ/デジタル変換を行って各種処理を行う。
【0022】
上記構成において、フロントエンドモジュール12と、RFトランシーバICとの間は、内層ストリップラインとして形成された配線パターンにより接続されている。
【0023】
図5は、第1実施形態の多層基板における内層ストリップラインの配置状態の説明断面図である。
図5の例においては、多層基板30は、第1グランドパターン31と、第1グランドパターン31と対向する第2グランドパターン32と、第1グランドパターン31が形成された層(第1層に相当)LY1と、第2グランドパターン32が形成された層(第2層に相当)LY2との間の内層(第3層に相当)LY3にストリップラインとして形成された第1信号ラインL11と、第1信号ラインL11に隣接し、ストリップラインとして形成された第2信号ラインL12と、を備えている。
【0024】
さらに第1信号ラインL11の両脇には、アイソレーションを確保するために、第1信号ラインL11をシールドする複数のビアホールSVを設けている。より詳細には、それぞれ複数のビアホールSVで構成された第1ビアホール群SVG1及び第2ビアホール群SVG2が第1信号ラインL11の延在方向に沿って配置されている。
【0025】
さらにまた、第2信号ラインL12の両脇にも、アイソレーションを確保するために、第2信号ラインL12をシールドする複数のビアホールSVを設けている。より詳細には、それぞれ複数のビアホールSVで構成された第2ビアホール群SVG2及び第3ビアホール群SVG3が第2信号ラインL12の延在方向に沿って配置されている。
【0026】
上記構成において、第1ビアホール群SVG1には、第1ビアホール群SVG1を構成する複数のビアホールSVを電気的に接続するプレート上の接続パターンCP1が形成されている。
【0027】
同様に、第2ビアホール群SVG2には、第2ビアホール群SVG2を構成する複数のビアホールSVを電気的に接続するプレート上の接続パターンCP2が形成されている。
さらに第3ビアホール群SVG3には、第3ビアホール群SVG3を構成する複数のビアホールSVを電気的に接続するプレート上の接続パターンCP3が形成されている。
【0028】
この場合において、接続パターンCP1、CP2、CP3の幅方向の配置位置は、配線パターンである第1信号ラインL11、第2信号ラインL12の中心Xから第1グランドパターン31及び第2グランドパターン32までの距離を半径とする円の円周上あるいは円外の位置となるように、配線パターンである第1信号ラインL11、第2信号ラインL12から離間した位置とされている。
【0029】
上記構成としている理由は、第1グランドパターン31及び第2グランドパターン32までの距離は、第1信号ラインL11及び第2信号ラインL12の線路インピーダンスを所定の線路インピーダンスとするために設定されているものであり、この円CRの半径の内部に、接続パターンCP1、CP2、CP3が設けられてしまうと、線路インピーダンスに影響を与えてしまうからである。
【0030】
以上の構成を有する本第1実施形態によれば、シールド効果を向上させ、所望する信号ライン間のアイソレーションを確保することができる。
【0031】
[2.2]第2実施形態
次に第2実施形態について説明する。
図6は、第2実施形態の多層基板における内層ストリップラインの配置状態の説明断面図である。
【0032】
本第2実施形態が第1実施形態と異なる点は、接続パターンが第1グランドパターン31と、第2グランドパターン32との間の複数の層(
図6の例では、3層)にそれぞれ設けられている点である。
【0033】
本第2実施形態の構成によれば、より同軸ケーブルにおけるシールドのようによりアイソレーションを確実に確保できる。
図6において、
図5と同様の部分には、同一の符号を付すものとする。
【0034】
第2実施形態の高周波通信モジュールの多層基板30が第1実施形態とは、第1ビアホール群SVG1を構成する複数のビアホールSVを電気的に接続するプレート状の接続パターンCP1、第2ビアホール群SVG2を構成する複数のビアホールSVを電気的に接続するプレート上の接続パターンCP2及び第3ビアホール群SVG3を構成する複数のビアホールSVを電気的に接続するプレート上の接続パターンCP3が形成されている点では、同様である。
【0035】
さらに第2実施形態では、第1信号ラインL11及び第2信号ラインL12が形成されている層の上層側に第1ビアホール群SVG1を構成する複数のビアホールSVを電気的に接続するプレート状の接続パターンCP11、第2ビアホール群SVG2を構成する複数のビアホールSVを電気的に接続するプレート状の接続パターンCP12及び第3ビアホール群SVG3を構成する複数のビアホールSVを電気的に接続するプレート状の接続パターンCP13が形成されている。
【0036】
さらにまた、第2実施形態では、第1信号ラインL11及び第2信号ラインL12が形成されている層の下層側に第1ビアホール群SVG1を構成する複数のビアホールSVを電気的に接続するプレート状の接続パターンCP21、第2ビアホール群SVG2を構成する複数のビアホールSVを電気的に接続するプレート状の接続パターンCP22及び第3ビアホール群SVG3を構成する複数のビアホールSVを電気的に接続するプレート状の接続パターンCP23が形成されている。
【0037】
この場合において、接続パターンCP1、CP2、CP3、CP11、CP12、CP33、CP21、CP22、CP23の幅方向の配置位置は、それぞれ、配線パターンである第1信号ラインL11、第2信号ラインL12の中心Xから第1グランドパターン31及び第2グランドパターン32までの距離を半径とする円の円周上あるいは円外の位置となるように、配線パターンである第1信号ラインL11、第2信号ラインL12から離間した位置とされている。
【0038】
これらの結果、接続パターンCP1、CP2、CP3、CP11、CP12、CP33、CP21、CP22、CP23は、第1信号ラインL11あるいは第2信号ラインL12を同心円状に囲うこととなり、実効的に同軸ケーブルでシールドを行う状態と同様となる。
この場合においても、同心円の半径の内部に、接続パターンCP1、CP2、CP3、CP11、CP12、CP33、CP21、CP22、CP23が設けられることはない。
【0039】
したがって、本第2実施形態によれば、線路インピーダンスに影響を与えることはなく、第1実施形態と比較して、よりいっそうシールド効果を向上させ、所望する信号ライン間のアイソレーションを確保することができる。
【0040】
[3]実施形態の効果
実際に従来のシールドビアSVのみでシールドを行う場合、
図5に示した第1実施形態の場合及び第2実施形態の場合について、電界強度をシミュレーションしてみた結果、従来のシールドビアSVのみでシールドを行う場合のアイソレーションが−40dBである状況で、第1実施形態では、−60dB、第2実施形態では、−80dBとなった。
【0041】
すなわち、従来と比較して、第1実施形態では、およそ10倍、第2実施形態では、およそ100倍のアイソレーションを確保することができた。
【0042】
したがって、本実施形態を携帯電話等の高周波通信装置に適用することで、動作バンドの電波(希望波)の信号強度を確保しつつ、他のバンドに影響を与える電波(妨害波)を抑制することが可能となる。
【0043】
[4]実施形態の変形例
以上の説明においては、接続パターンを3層までしか設けていなかったが、4層以上設けるように構成することも可能である。
【符号の説明】
【0044】
10 高周波通信モジュール
11 送受信アンテナ
12 フロントエンドモジュール
13 送信パワーアンプ部
14 RFトランシーバIC
15 ロジック回路
21 ダイプレクサ
24−1、24−2 デュプレクサ
25−1〜25−4 デュプレクサ
26 パワーアンプ
27 第1ロウノイズアンプ部
28 第2ロウノイズアンプ部
30 多層基板
31 第1グランドパターン
32 第2グランドパターン
33 第2グランドパターン
CP1〜3 接続パターン
CP11〜13 接続パターン
CP21〜23 接続パターン
L1、L2 信号ライン
L11 第1信号ライン
L12 第2信号ライン
X 中心
SV ビアホール
SVG1 第1ビアホール群
SVG2 第2ビアホール群
SVG3 第3ビアホール群