【解決手段】通信装置は、出力端子と、入力端子と、入力端子と出力端子との間の経路に設けられた弾性波共振器である直列共振器と、一端が前記経路に接続され、他端が接地された弾性波共振器である並列共振器と、を備え、直列共振器および並列共振器の少なくとも1つの共振器の周波数温度係数は0以外であるフィルタと、第1の通過帯域PB2にて通信を行うとき、高周波電力を経路に出力し、第1の通過帯域PB2と異なる第2の通過帯域PB1にて通信を行うとき、高周波電力を経路に出力しない制御部と、を備える。
出力端子と、入力端子と、前記入力端子と前記出力端子との間の経路に設けられた弾性波共振器である直列共振器と、一端が前記経路に接続され、他端が接地された弾性波共振器である並列共振器と、を備え、前記直列共振器および前記並列共振器の少なくとも1つの共振器の周波数温度係数は0以外であるフィルタと、
第1の通過帯域を用いて通信を行うとき、高周波電力を前記経路に出力し、前記第1の通過帯域と異なる第2の通過帯域を用いて通信を行うとき、前記高周波電力を前記経路に出力しない制御部と、
を備える通信装置。
第1の通過帯域を用いて通信を行うとき、出力端子と、入力端子と、前記入力端子と前記出力端子との間の経路に設けられた弾性波共振器である直列共振器と、一端が前記経路に接続され、他端が接地された弾性波共振器である並列共振器と、を備え、前記直列共振器および前記並列共振器の少なくとも1つの共振器の周波数温度係数は0以外であるフィルタの前記経路に高周波電力を出力し、前記第1の通過帯域と異なる第2の通過帯域を用いて通信を行うとき、前記経路に前記高周波電力を出力しない制御装置。
第1の通過帯域を用いて通信を行うとき、出力端子と、入力端子と、前記入力端子と前記出力端子との間の経路に設けられた弾性波共振器である直列共振器と、一端が前記経路に接続され、他端が接地された弾性波共振器である並列共振器と、を備え、前記直列共振器および前記並列共振器の少なくとも1つの共振器の周波数温度係数は0以外であるフィルタの前記経路に高周波電力を出力し、前記第1の通過帯域と異なる第2の通過帯域を用いて通信を行うとき、前記経路に前記高周波電力を出力しない制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照し実施例について説明する。なお、以下の実施例において、通信バンドB1〜B4は例えばLTE(Long Term Evolution)バンドの送信バンドまたは受信バンドである。バンドB1〜B4は特定のLTEバンドには対応していない。
【実施例1】
【0022】
図1(a)および
図1(b)は、実施例1に係る通信装置を用いるフロントエンド回路の回路図である。
図1(a)は、フロントエンド回路のうち送信回路の例であり、
図1(b)は、受信回路の例である。
【0023】
図1(a)に示すように、実施例1を送信回路に用いる場合、フロントエンド回路は、フィルタ10、結合器14、パワーアンプ(PA)16、16a、16bおよびRFIC(Radio Frequency Integrated Circuit)20を備えている。
【0024】
RFIC20は、制御部22、高周波電力源24a、24bおよび送信部26を備えている。高周波電力源24aおよび24bはそれぞれ高周波電力RF1およびRF2を出力する。高周波電力RF1およびRF2の周波数は互いに異なる。送信部26は、所望の通信バンドの送信信号Stxを送信する回路である。制御部22は高周波電力源24aおよび24bおよび送信部26を制御する回路である。制御部22は、プロセッサのようにソフトウエアとハードウエアとの協働により動作してもよいし、論理回路等のハードウエアにより動作してもよい。
【0025】
PA16、16aおよび16bはそれぞれ送信信号Stx、高周波電力RF1およびRF2を増幅する。結合器14は、送信信号Stx、高周波電力RF1およびRF2を結合しフィルタ10に出力する。フィルタ10は、入力した高周波信号のうち通過帯域の信号を出力し、他の周波数の信号を抑圧する。フィルタ10を通過した送信信号はアンテナ12から出力される。フィルタ10は、入力される高周波電力RF1およびRF2により通過帯域が切り替わる。
【0026】
図1(b)に示すように、実施例1を受信回路に用いる場合、フロントエンド回路は、アイソレータ15、フィルタ10、結合器14、PA16a、16b、ローノイズアンプ(LNA)18およびRFIC20を備えている。RFIC20は、制御部22、高周波電力源24a、24bおよび受信部28を備えている。
【0027】
アイソレータ15はアンテナ12が受信した受信信号Srxを結合器14に通過させる。結合器14は、受信信号Srx、高周波電力RF1およびRF2を結合する。アイソレータ15は高周波電力RF1およびRF2をアンテナ12に通過させない。フィルタ10は、入力した高周波信号のうち通過帯域の信号を出力し、他の周波数の信号を抑圧する。LNA18はフィルタ10から出力された信号を増幅しRFIC20の受信部28に出力する。RFIC20の受信部28は、所望の通信バンドの受信信号Srxを受信する回路である。制御部22は、高周波電力源24a、24bおよび受信部28を制御する。その他の構成は
図1(a)と同じである。
【0028】
図2は、実施例1におけるフィルタの回路図である。フィルタ10はラダー型フィルタである。入力端子Tinと出力端子Toutとの間に直列共振器S1からS4が直列に接続されている。入力端子Tinと出力端子Toutとの間に並列共振器P1からP4が並列に接続されている。すなわち、1または複数の直列共振器S1〜S4は入力端子Tinと出力端子Toutとの間の直列経路に設けられ、並列共振器P1からP4の一端は直列経路に接続され、他端はグランド端子に接続(接地)されている。直列共振器S1〜S4および並列共振器P1〜P4は弾性波共振器である。すなわち、直列共振器S1〜S4および並列共振器P1〜P4は弾性波を励振する弾性波共振器である。直列共振器S1〜S4の個数および並列共振器P1〜P4の個数は任意に設定できる。
【0029】
高周波電力RF1およびRF2を印加することで、フィルタ10の通過帯域が変化する原理について説明する。
図3(a)は、弾性波共振器の通過特性S21、
図3(b)は、弾性波共振器のモーショナル腕電流密度を示す図、
図3(c)および
図3(d)は、高周波電力を印加したときの弾性波共振器の通過特性S21を示す図である。
【0030】
図3(a)に示すように、弾性波共振器では共振周波数frより反共振周波数faが高い。
図3(b)において、モーショナル腕電流密度は主に弾性波の振動に寄与する電流密度であり、同じ電力の高周波電力が通過した場合の消費電力に対応する。すなわち、モーショナル腕電流密度のピークの周波数は消費電力のピークの周波数に相当する。モーショナル腕電流密度は共振周波数frと反共振周波数faとの間にピークを有する。高周波電力が弾性波共振器を通過すると、弾性波共振器の温度が上昇する。特に、モーショナル腕電流密度の高い周波数範囲である共振周波数frと反共振周波数faとの間の周波数を有する高周波電力が弾性波共振器を通過すると、消費電力が大きくなり、弾性波共振器の温度が高くなる。
【0031】
図3(c)は、弾性波共振器の周波数温度係数(TCF:Temperature Coefficient Frequency)が負のときに弾性波共振器に高周波電力RFを印加したときの通過特性の変化を示している。破線は高周波電力RFを印加する前であり、実線は高周波電力の印加中である。高周波電力RFが印加される前の共振周波数frと反共振周波数faの間の周波数を有する高周波電力RFを弾性波共振器に印加する。高周波電力RFは弾性波共振器で消費され、弾性波共振器の温度が上昇する。TCFが負のため、高周波電力RFを印加した後の弾性波共振器の共振周波数fr´および反共振周波数fa´は、高周波電力を印加する前のfrおよびfaより低くなる。
【0032】
図3(d)は、弾性波共振器のTCFが正のときに弾性波共振器に高周波電力RFを印加したときの通過特性の変化を示している。破線は高周波電力RFを印加する前であり、実線は高周波電力の印加中である。高周波電力RFが印加される前の共振周波数frと反共振周波数faの間の周波数を有する高周波電力RFを弾性波共振器に印加する。高周波電力RFは弾性波共振器で消費され、弾性波共振器の温度が上昇する。TCFが正のため、高周波電力RFを印加した後の弾性波共振器の共振周波数fr´および反共振周波数fa´は、高周波電力を印加する前のfrおよびfaより高くなる。
【0033】
図3(c)および
図3(d)のように、高周波電力がある値以上となると、自己発熱による温度上昇と共振周波数frと反共振周波数faのシフトとが相互に誘導され、共振周波数frと反共振周波数faのシフトが急激に生じる。これを非線形シフト現象という。
【0034】
フィルタ10では、直列共振器S1からS4は主に通過帯域の高周波端を形成し、並列共振器P1からP4は主に通過帯域の低周波端を形成する。よって、直列共振器S1からS4のTCFを正または負とし、直列共振器S1からS4の共振周波数と反共振周波数との間の周波数を有する高周波電力RF1をフィルタ10に印加すると、通過帯域の高周波端が変化する。並列共振器P1からP4のTCFを正または負とし、並列共振器P1からP4の共振周波数と反共振周波数との間の周波数を有する高周波電力RF2をフィルタ10に印加すると、通過帯域の低周波端が変化する。
【0035】
図4は、実施例1における制御部の制御を示すフローチャートである。
図4に示すように、制御部22は通信バンドの情報を取得する(ステップS10)。制御部22は通信バンドがバンドB1またはB3か判定する(ステップS12)。Yesのとき、制御部22は高周波電力源24aに高周波電力RF1をフィルタ10の入力端子Tinに出力させない(ステップS14)。Noのとき、制御部22は高周波電力源24aに高周波電力RF1をフィルタ10の入力端子Tinに出力させる(ステップS16)。
【0036】
制御部22は通信バンドがバンドB1またはB2か判定する(ステップS18)。Yesのとき、制御部22は高周波電力源24bに高周波電力RF2をフィルタ10の入力端子Tinに出力させない(ステップS20)。Noのとき、制御部22は高周波電力源24bに高周波電力RF2をフィルタ10の入力端子Tinに出力させる(ステップS22)。ステップS12、S14およびS16の処理とステップS18、S20およびS22の処理の順番は逆でもよい。
【0037】
制御部22は、送信部26に通信バンドの信号を送信させる。または、制御部22は、受信部28に通信バンドの信号を受信させる(ステップS24)。その後終了する。
【0038】
図5は、実施例1におけるフィルタの通過特性を示す図である。通過帯域PB1、PB2、PB3およびPB4はそれぞれバンドB1、B2、B3およびB4に対応する。通過帯域の高周波端Ha、Hb、低周波端LaおよびLbは、例えば減衰量が−10dBとなる周波数である。高周波電力RF1およびRF2の周波数は実質的に一定である。すなわち、高周波電力RF1およびRF2の周波数は意図的には変化させない。
【0039】
直列共振器S1〜S4のTCFは負であり、並列共振器P1〜P4のTCFは正である。バンドB1の信号が入力端子Tinに入力するとき、高周波電力RF1およびRF2は入力端子Tinに入力しない。通過帯域PB1の高周波端Haは直列共振器S1〜S4の共振周波数と反共振周波数の間に位置する。通過帯域PB1の低周波端Laは並列共振器P1〜P4の共振周波数と反共振周波数の間に位置する。フィルタ10の通過帯域はバンドB1に対応する通過帯域PB1となる。すなわち、通過帯域PB1の高周波端は通信バンドB1の高周波端以上となり、通過帯域PB1の低周波端は通信バンドB1の低周波端以下となる。
【0040】
バンドB2の信号が入力端子Tinに入力するとき、高周波電力RF1が入力端子Tinに入力し、高周波電力RF2は入力端子Tinに入力しない。高周波電力RF1の周波数は直列共振器S1〜S4の共振周波数より高く、直列共振器S1〜S4の例えば共振周波数と反共振周波数の間に位置する。高周波電力RF1が入力すると直列共振器S1〜S4の温度が上昇し、直列共振器S1〜S4の共振周波数および反共振周波数は低くなる。これにより、通過帯域PB2の高周波端Hbは高周波端Haより低くなる。高周波電力RF2は印加されていないため、通過帯域PB2の低周波端Laはほとんど変化しない。フィルタ10の通過帯域はバンドB2に対応する通過帯域PB2となる。すなわち、通過帯域PB2の高周波端は通信バンドB2の高周波端以上となり、通過帯域PB2の低周波端は通信バンドB2の低周波端以下となる。
【0041】
バンドB3の信号が入力端子Tinに入力するとき、高周波電力RF1は入力端子Tinに入力せず、高周波電力RF2は入力端子Tinに入力する。高周波電力RF2の周波数は並列共振器P1〜P4の反共振周波数より低く、例えば共振周波数と反共振周波数の間に位置する。高周波電力RF2が入力すると並列共振器P1〜P4の温度が上昇し、並列共振器P1〜P4の共振周波数および反共振周波数は高くなる。これにより、通過帯域PB3の低周波端Lbは低周波端Laより高くなる。高周波電力RF1は印加されていないため、通過帯域PB3の高周波端Haはほとんど変化しない。フィルタ10の通過帯域はバンドB3に対応する通過帯域PB3となる。すなわち、通過帯域PB3の高周波端は通信バンドB3の高周波端以上となり、通過帯域PB3の低周波端は通信バンドB3の低周波端以下となる。
【0042】
バンドB4の信号が入力端子Tinに入力するとき、高周波電力RF1およびRF2が入力端子Tinに入力する。直列共振器S1〜S4の共振周波数および反共振周波数は低くなり、並列共振器P1〜P4の共振周波数および反共振周波数は高くなる。これにより、通過帯域PB4の高周波端HbはHaより低くなり、低周波端LbはLaより高くなる。フィルタ10の通過帯域はバンドB4に対応する通過帯域PB4となる。すなわち、通過帯域PB4の高周波端は通信バンドB4の高周波端以上となり、通過帯域PB4の低周波端は通信バンドB4の低周波端以下となる。
【0043】
[実施例1の変形例1]
図6は、実施例1の変形例1におけるフィルタの通過特性を示す図である。直列共振器S1〜S4のTCFは正であり、並列共振器P1〜P4のTCFは負である。バンドB1の信号が入力端子Tinに入力するとき、高周波電力RF1およびRF2は入力端子Tinに入力しない。フィルタ10の通過帯域はバンドB1に対応する通過帯域PB1となる。
【0044】
バンドB2の信号が入力端子Tinに入力するとき、高周波電力RF1が入力端子Tinに入力し、高周波電力RF2は入力端子Tinに入力しない。高周波電力RF1が入力すると直列共振器S1〜S4の温度が上昇し、直列共振器S1〜S4の共振周波数および反共振周波数は高くなる。これにより、通過帯域PB2の高周波端Hbは高周波端Haより高くなる。高周波電力RF2は印加されていないため、通過帯域PB2の低周波端Laはほとんど変化しない。フィルタ10の通過帯域はバンドB2に対応する通過帯域PB2となる。
【0045】
バンドB3の信号が入力端子Tinに入力するとき、高周波電力RF1は入力端子Tinに入力せず、高周波電力RF2は入力端子Tinに入力する。高周波電力RF2が入力すると並列共振器P1〜P4の温度が上昇し、並列共振器P1〜P4の共振周波数および反共振周波数は低くなる。これにより、通過帯域PB3の低周波端Lbは低周波端Laより低くなる。高周波電力RF1は印加されていないため、通過帯域PB3の高周波端Haはほとんど変化しない。フィルタ10の通過帯域はバンドB3に対応する通過帯域PB3となる。
【0046】
バンドB4の信号が入力端子Tinに入力するとき、高周波電力RF1およびRF2が入力端子Tinに入力する。直列共振器S1〜S4の共振周波数および反共振周波数は高くなり、並列共振器P1〜P4の共振周波数および反共振周波数は低くなる。これにより、通過帯域PB4の高周波端HbはHaより高くなり、低周波端LbはLaより低くなる。フィルタ10の通過帯域はバンドB4に対応する通過帯域PB4となる。
【0047】
[実施例1の変形例2]
図7は、実施例1の変形例2におけるフィルタの通過特性を示す図である。直列共振器S1〜S4のTCFは負であり、並列共振器P1〜P4のTCFは負である。バンドB1の信号が入力端子Tinに入力するとき、高周波電力RF1およびRF2は入力端子Tinに入力しない。フィルタ10の通過帯域はバンドB1に対応する通過帯域PB1となる。
【0048】
バンドB2の信号が入力端子Tinに入力するとき、高周波電力RF1が入力端子Tinに入力し、高周波電力RF2は入力端子Tinに入力しない。高周波電力RF1が入力すると直列共振器S1〜S4の温度が上昇し、直列共振器S1〜S4の共振周波数および反共振周波数は低くなる。これにより、通過帯域PB2の高周波端Hbは高周波端Haより低くなる。高周波電力RF2は印加されていないため、通過帯域PB2の低周波端Laはほとんど変化しない。フィルタ10の通過帯域はバンドB2に対応する通過帯域PB2となる。
【0049】
バンドB3の信号が入力端子Tinに入力するとき、高周波電力RF1は入力端子Tinに入力せず、高周波電力RF2は入力端子Tinに入力する。高周波電力RF2が入力すると並列共振器P1〜P4の温度が上昇し、並列共振器P1〜P4の共振周波数および反共振周波数は低くなる。これにより、通過帯域PB3の低周波端Lbは低周波端Laより低くなる。高周波電力RF1は印加されていないため、通過帯域PB3の高周波端Haはほとんど変化しない。フィルタ10の通過帯域はバンドB3に対応する通過帯域PB3となる。
【0050】
バンドB4の信号が入力端子Tinに入力するとき、高周波電力RF1およびRF2が入力端子Tinに入力する。直列共振器S1〜S4の共振周波数および反共振周波数は低くなり、並列共振器P1〜P4の共振周波数および反共振周波数は低くなる。これにより、通過帯域PB4の高周波端HbはHaより低くなり、低周波端LbはLaより低くなる。フィルタ10の通過帯域はバンドB4に対応する通過帯域PB4となる。
【0051】
[実施例1の変形例3]
図8は、実施例1の変形例3におけるフィルタの通過特性を示す図である。直列共振器S1〜S4のTCFは正であり、並列共振器P1〜P4のTCFは正である。バンドB1の信号が入力端子Tinに入力するとき、高周波電力RF1およびRF2は入力端子Tinに入力しない。フィルタ10の通過帯域はバンドB1に対応する通過帯域PB1となる。
【0052】
バンドB2の信号が入力端子Tinに入力するとき、高周波電力RF1が入力端子Tinに入力し、高周波電力RF2は入力端子Tinに入力しない。高周波電力RF1が入力すると直列共振器S1〜S4の温度が上昇し、直列共振器S1〜S4の共振周波数および反共振周波数は高くなる。これにより、通過帯域PB2の高周波端Hbは高周波端Haより高くなる。高周波電力RF2は印加されていないため、通過帯域PB2の低周波端Laはほとんど変化しない。フィルタ10の通過帯域はバンドB2に対応する通過帯域PB2となる。
【0053】
バンドB3の信号が入力端子Tinに入力するとき、高周波電力RF1は入力端子Tinに入力せず、高周波電力RF2は入力端子Tinに入力する。高周波電力RF2が入力すると並列共振器P1〜P4の温度が上昇し、並列共振器P1〜P4の共振周波数および反共振周波数は高くなる。これにより、通過帯域PB3の低周波端Lbは低周波端Laより高くなる。高周波電力RF1は印加されていないため、通過帯域PB3の高周波端Haはほとんど変化しない。フィルタ10の通過帯域はバンドB3に対応する通過帯域PB3となる。
【0054】
バンドB4の信号が入力端子Tinに入力するとき、高周波電力RF1およびRF2が入力端子Tinに入力する。直列共振器S1〜S4の共振周波数および反共振周波数は高くなり、並列共振器P1〜P4の共振周波数および反共振周波数は高くなる。これにより、通過帯域PB4の高周波端HbはHaより高くなり、低周波端LbはLaより高くなる。フィルタ10の通過帯域はバンドB4に対応する通過帯域PB4となる。
【0055】
以上のように、実施例1およびその変形例では、制御装置である制御部22が高周波電力源24aおよび24bを制御することで、フィルタ10の通過帯域をPB1〜PB4の4つに変更することができる。フィルタ10は、
図1(a)のように送信フィルタとして用いてもよいし、
図1(b)のように受信フィルタとして用いてもよい。
【0056】
実施例1およびその変形例によれば、フィルタ10の直列共振器S1〜S4および並列共振器P1〜P4の少なくとも1つの共振器のTCFを0以外とする。高周波電力源24aは、バンドB2の信号が入力端子Tinに入力するとき(すなわち第1の通過帯域PB2を用いて通信を行うとき)、高周波電力RF1(高周波電力)を入力端子Tinに出力する。高周波電力源24bは、バンドB1の信号が入力端子Tinに入力するとき(すなわち第2の通過帯域PB1を用いて通信を行うとき)、高周波電力RF1を入力端子Tinに出力しない。これにより、フィルタ10の入力端子Tinに、バンドB1信号が入力するとき、フィルタ10の通過帯域はバンドB1に相当する通過帯域PB1となり、バンドB2の信号が入力するとき、通過帯域はバンドB2に相当する通過帯域PB2となる。このように。通過帯域を可変とすることで、フィルタ個数を削減できる。また、非特許文献1のように、可変容量を用いないため、フィルタ10の挿入損失を抑制できる。また、可変容量を制御するための直流電圧源を用いなくてもよい。なお、高周波電力RF1およびRF2の周波数は300MHz以上かつ30GHz以下である。
【0057】
実施例1およびその変形例2の
図5および
図7のように、直列共振器S1〜S4のTCFが負の値のとき、バンドB2および通過帯域PB2の高周波端HbはバンドB1および通過帯域PB1の高周波端Haより低くなる。このとき、高周波電力RF1の周波数をバンドB1の高周波端Ha以上とする。これにより、フィルタ10がいずれの通過帯域PB1〜PB4となったときでもフィルタ10は高周波電力RF1を抑圧できる。
【0058】
このとき、高周波電力RF1の周波数を、高周波電力RF1を印加する前の直列共振器S1〜S4の共振周波数と反共振周波数との間の周波数とする。これにより、高周波電力RF1の周波数はモーショナル腕電流密度が大きい周波数となる。直列共振器S1〜S4の温度を効率的に上昇させることができる。よって、高周波端HbとHaとの差を大きくできる。
【0059】
実施例1の変形例1および3の
図6および
図8のように、直列共振器S1〜S4のTCFが正の値のとき、バンドB2および通過帯域PB2の高周波端HbはバンドB1および通過帯域PB1の高周波端Haより高くなる。このとき、高周波電力RF1の周波数をバンドB2の高周波端Hb以上とする。これにより、フィルタ10がいずれの通過帯域PB1〜PB4となったときでもフィルタ10は高周波電力RF1を抑圧できる。高周波電力RF1の周波数は、高周波電力RF1を印加したときのTCFが正の直列共振器の共振周波数と反共振周波数との間の周波数であることが好ましい。
【0060】
実施例1の変形例1および2の
図6および
図7のように、並列共振器P1〜P4のTCFが負の値のとき、バンドB3および通過帯域PB3の低周波端LbはバンドB1および通過帯域PB1の低周波端Laより低くなる。このとき、高周波電力RF2の周波数をバンドB3の低周波端Lb以下とする。これにより、フィルタ10がいずれの通過帯域PB1〜PB4となったときでもフィルタ10は高周波電力RF1を抑圧できる。高周波電力RF2の周波数は、高周波電力RF2を印加したときのTCFが負の並列共振器の共振周波数と反共振周波数との間の周波数であることが好ましい。
【0061】
また、実施例1およびその変形例3の
図5および
図8のように、並列共振器P1〜P4のTCFが正の値のとき、バンドB3および通過帯域PB3の低周波端LbはバンドB1および通過帯域PB1の低周波端Laより高くなる。このとき、高周波電力RF2の周波数をバンドB1の低周波端La以下とする。これにより、フィルタ10がいずれの通過帯域PB1〜PB4となったときでもフィルタ10は高周波電力RF1を抑圧できる。
【0062】
このとき、高周波電力RF2の周波数を、高周波電力RF2を印加する前の並列共振器P1〜P4の共振周波数と反共振周波数との間の周波数とする。これにより、高周波電力RF2の周波数はモーショナル腕電流密度が大きい周波数となる。並列共振器P1〜P4の温度を効率的に上昇させることができる。よって、低周波端LbとLaとの差を大きくできる。
【0063】
高周波電力源24aおよび24bは、バンドB4の信号が入力端子Tinに入力するとき(第1の通過帯域PB4を用いて通信を行うとき)、高周波電力RF1(高周波電力)と高周波電力RF2(第2の高周波電力)を入力端子Tinに出力する。高周波電力源24aおよび24bは、バンドB2の信号が入力端子Tinに入力するとき(第2の通過帯域PB2を用いて通信を行うとき)、高周波電力RF1を入力端子Tinに出力し、高周波電力RF2を入力端子Tinに出力しない。高周波電力源24aおよび24bは、バンドB3の信号が入力端子Tinに入力するとき(第3の通過帯域PB3を用いて通信を行うとき)、高周波電力RF2を入力端子Tinに出力し、高周波電力RF1を入力端子Tinに出力しない。高周波電力源24aおよび24bは、バンドB1の信号が入力端子Tinに入力するとき(第4の通過帯域PB1を用いて通信を行うとき)、高周波電力RF1およびRF2を入力端子Tinに出力しない。このような制御により、フィルタ10は4つの通過帯域を切り替えることができる。
【0064】
また、高周波電力RF1の周波数を、バンドB1〜B4の高周波端以上とし、高周波電力RF2の周波数を、バンドB1〜B4の低周波端以下とする。これにより、高周波電力RF1およびRF2がフィルタ10から出力されることを抑制できる。
【0065】
通過帯域の高周波端は直列共振器S1〜S4のうち少なくとも1つの直列共振器により主に形成され、低周波端は並列共振器P1〜P4のうち少なくとも1つの並列共振器により主に形成されていることがある。このように場合には、主に高周波端を形成する直列共振器のTCFを0以外とすればよい。主に低周波端を形成する並列共振器のTCFを0以外とすればよい。主に高周波端を形成する直列共振器は、例えば直列共振器S1〜S4のうち最も反共振周波数が低い直列共振器である。主に低周波端を形成する並列共振器は、例えば並列共振器P1〜P4のうち最も共振周波数が高い並列共振器である。
【0066】
共振器のTCFは共振周波数のTCFでもよいし、反共振周波数のTCFでもよい。通過帯域を大きく変化させるため、TCFが負の共振器のTCFは−1ppm/K以下が好ましく、−5ppm/K以下がより好ましく、−10ppm/K以下がさらに好ましい。TCFが正の共振器のTCFは+1ppm/K以上が好ましく、+5ppm/K以上がより好ましく、+10ppm/K以上がさらに好ましい。TCFの絶対値を大きくすると弾性波共振器の特性が劣化する。このため、TCFの絶対値は100ppm/K以下が好ましい。
【0067】
高周波電力RF1およびRF2の電力値は、通信バンドB1〜B4を用い送信する送信信号の電力以上であることが好ましい。このように、大電力の高周波電力PF1およびPF2を印加することにより、通過帯域を大きく変化させることができる。
【実施例2】
【0068】
図9(a)および
図9(b)は、実施例2に係る通信装置を用いるフロントエンド回路の回路図である。
図9(a)はフロントエンド回路のうち送信回路の例であり、
図9(b)は、受信回路の例である。
【0069】
図9(a)に示すように、実施例2のフロントエンド回路の送信回路では、アンテナ12とフィルタ10との間にフィルタ11が接続されている。
図9(b)に示すように、実施例2のフロントエンド回路の受信回路では、フィルタ10とLNA18との間にフィルタ11が接続されている。フィルタ11は通過帯域が固定されたバンドパスフィルタであり、通過帯域は意図的には変化しない。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0070】
図10は、実施例2におけるフィルタの通過特性を示す図である。直列共振器S1〜S4のTCFは負であり、並列共振器P1〜P4のTCFは正である。
【0071】
図10に示すように、フィルタ11の通過帯域PBcの高周波端Hcは通過帯域PB1およびPB3の高周波端Haと通過帯域PB2およびPB4の高周波端Hbとの間に位置している。フィルタ11の通過帯域PBcの低周波端Lcは通過帯域PB1およびPB2の低周波端Laと通過帯域PB3およびPB4の低周波端Lbとの間に位置している。通過帯域PB1〜PB4は実施例1の
図5と同じである。
【0072】
バンドB1の信号が入力端子Tinに入力するとき、フィルタ10と11を合わせた通過帯域PB1´はフィルタ11の通過帯域PBcとなる。バンドB2の信号が入力端子Tinに入力するとき、フィルタ10と11を合わせた通過帯域PB2´の高周波端はHbとなり低周波端はLcとなる。バンドB3の信号が入力端子Tinに入力するとき、フィルタ10と11を合わせた通過帯域PB3´の高周波端はHcとなり低周波端はLbとなる。バンドB4の信号が入力端子Tinに入力するとき、フィルタ10と11を合わせた通過帯域PB4´はフィルタ10の通過帯域PB4となる。フィルタ11を設けることで、高周波電力RF1およびRF2をより抑圧することができる。
【0073】
[実施例2の変形例1]
図11は、実施例2の変形例1におけるフィルタの通過特性を示す図である。直列共振器S1〜S4のTCFは正であり、並列共振器P1〜P4のTCFは負である。
図11に示すように、通過帯域PB1〜PB4は実施例1の変形例1の
図6と同じである。
【0074】
バンドB1の信号が入力端子Tinに入力するとき、フィルタ10と11を合わせた通過帯域PB1´はフィルタ10の通過帯域PB1となる。バンドB2の信号が入力端子Tinに入力するとき、フィルタ10と11を合わせた通過帯域PB2´の高周波端はHcとなり低周波端はLaとなる。バンドB3の信号が入力端子Tinに入力するとき、フィルタ10と11を合わせた通過帯域PB3´の高周波端はHaとなり低周波端はLcとなる。バンドB4の信号が入力端子Tinに入力するとき、フィルタ10と11を合わせた通過帯域PB4´はフィルタ11の通過帯域PBcとなる。フィルタ11を設けることで、高周波電力RF1およびRF2をより抑圧することができる。
【0075】
[実施例2の変形例2]
図12は、実施例2の変形例2におけるフィルタの通過特性を示す図である。直列共振器S1〜S4のTCFは負であり、並列共振器P1〜P4のTCFは負である。
図12に示すように、通過帯域PB1〜PB4は実施例1の変形例2の
図7と同じである。
【0076】
バンドB1の信号が入力端子Tinに入力するとき、フィルタ10と11を合わせた通過帯域PB1´の高周波端はHcとなり低周波端はLaとなる。バンドB2の信号が入力端子Tinに入力するとき、フィルタ10と11を合わせた通過帯域PB2´はフィルタ10の通過帯域PB2となる。バンドB3の信号が入力端子Tinに入力するとき、フィルタ10と11を合わせた通過帯域PB3´はフィルタ11の通過帯域PBcとなる。バンドB4の信号が入力端子Tinに入力するとき、フィルタ10と11を合わせた通過帯域PB4´の高周波端はHbとなり低周波端はLcとなる。フィルタ11を設けることで、高周波電力RF1およびRF2をより抑圧することができる。
【0077】
[実施例2の変形例3]
図13は、実施例2の変形例3におけるフィルタの通過特性を示す図である。直列共振器S1〜S4のTCFは正であり、並列共振器P1〜P4のTCFは正である。
図13に示すように、通過帯域PB1〜PB4は実施例1の変形例3の
図8と同じである。
【0078】
バンドB1の信号が入力端子Tinに入力するとき、フィルタ10と11を合わせた通過帯域PB1´の高周波端はHaとなり低周波端はLcとなる。バンドB2の信号が入力端子Tinに入力するとき、フィルタ10と11を合わせた通過帯域PB2´はフィルタ11の通過帯域PBcとなる。バンドB3の信号が入力端子Tinに入力するとき、フィルタ10と11を合わせた通過帯域PB3´はフィルタ10の通過帯域PB3となる。バンドB4の信号が入力端子Tinに入力するとき、フィルタ10と11を合わせた通過帯域PB4´の高周波端はHcとなり低周波端はLbとなる。フィルタ11を設けることで、高周波電力RF1およびRF2をより抑圧することができる。
【0079】
実施例2およびその変形例によれば、フィルタ11(第2のフィルタ)はフィルタ10と直列接続され、通過帯域PBcは高周波電力RF1およびRF2の周波数を含まない。これにより、
図9(a)においては、高周波電力RF1およびRF2がアンテナ12に出力されることが抑制できる。
図9(b)においては、高周波電力RF1およびRF2がLNA18に出力されることを抑制できる。
【0080】
実施例2およびその変形例において、フィルタ11は、バンドパスフィルタでなく、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタまたはバンドストップフィルタでもよい。また、フィルタ10と11を別のフィルタとして説明したが、フィルタ11をフィルタ10の一部とみなすこともできる。高周波電力RF1およびRF2をフィルタ10の入力端子Tinを介し入力端子Tinと出力端子toutとの間の経路に出力する例を説明したが、高周波電力RF1およびRF2は、この経路のいずれかの箇所に出力されていればよい。
【実施例3】
【0081】
実施例3は、実施例1、2およびその変形例に用いる弾性波共振器として圧電薄膜共振器を用いる例である。
【0082】
図14(a)は実施例3における圧電薄膜共振器の平面図、
図14(b)は、共振領域内の温度補償膜の平面図、
図14(c)および
図14(d)は、それぞれ弾性波共振器R1およびR2における
図14(a)のA−A断面図である。
図14(c)の弾性波共振器R1は、TCFが正の弾性波共振器に対応し、
図14(d)の弾性波共振器R2はTCFが負の弾性波共振器に対応する。
【0083】
図14(a)および
図14(c)を参照し、弾性波共振器R1について説明する。基板30および空隙48上に、下部電極32が設けられている。基板30は例えばシリコン(Si)基板であり、下部電極32は例えばルテニウム(Ru)膜である。下部電極32上に、圧電膜34が設けられている。圧電膜34は例えばC軸方向を主軸とする窒化アルミニウム(AlN)を主成分とする。圧電膜34は下部圧電膜34aと下部圧電膜34a上に設けられた上部圧電膜34bとを備えている。
【0084】
下部圧電膜34aと上部圧電膜34bとの間に温度補償膜46が設けられている。温度補償膜46は例えば酸化シリコン膜である。圧電膜34上に上部電極36が設けられている。上部電極36は例えばルテニウム膜である。積層膜38は、下部電極32、圧電膜34、上部電極36および温度補償膜46を含む。
【0085】
共振領域50は、圧電膜34の少なくとも一部を挟み下部電極32と上部電極36が平面視において重なる領域で規定される。下部電極32と上部電極36は弾性波を励振する電極である。共振領域50の平面形状は略楕円形である。共振領域50は、厚み縦振動モードまたは厚みすべり振動モード等の弾性波が共振する領域である。
【0086】
図14(b)に示すように、温度補償膜46(クロスハッチングの領域)は、共振領域50内に設けられている。温度補償膜46は共振領域50の少なくとも一部に設けられていればよいが、温度補償効果を高めるため、共振領域50の略全面に設けられていることが好ましく、例えば共振領域50内の温度補償膜46の面積は共振領域50の面積の50%以上が好ましく、80%以上がより好ましい。
【0087】
共振領域50における、下部圧電膜34a、上部圧電膜34bおよび温度補償膜46の厚さをそれぞれ、T11、T12およびT2とする。
【0088】
図14(d)に示すように、弾性波共振器R2には温度補償膜46は設けられてない。その他の構成は弾性波共振器R1と同じであり、説明を省略する。
【0089】
基板30としては、シリコン基板以外に、サファイア基板、スピネル基板、アルミナ基板、石英基板、ガラス基板、セラミック基板またはGaAs基板等を用いることができる。下部電極32および上部電極36としては、Ru以外にもクロム(Cr)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)またはイリジウム(Ir)等の単層膜またはこれらの積層膜を用いることができる。
【0090】
圧電膜34は、窒化アルミニウム以外にも、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸鉛(PbTiO
3)等を用いることができる。また、例えば、圧電膜34は、窒化アルミニウムを主成分とし、共振特性の向上または圧電性の向上のため他の元素を含んでもよい。例えば、添加元素として、Sc(スカンジウム)、2族元素と4族元素との2つの元素、または2族元素と5族元素との2つの元素を用いることにより、圧電膜34の圧電性が向上する。このため、圧電薄膜共振器の実効的電気機械結合係数を向上できる。2族元素は、例えばCa(カルシウム)、Mg(マグネシウム)、Sr(ストロンチウム)またはZn(亜鉛)である。4族元素は、例えばTi、Zr(ジルコニウム)またはHf(ハフニウム)である。5族元素は、例えばTa、Nb(ニオブ)またはV(バナジウム)である。さらに、圧電膜34は、窒化アルミニウムを主成分とし、B(ボロン)を含んでもよい。
【0091】
温度補償膜46の弾性率の温度係数の符号は、圧電膜34の弾性率の温度係数の符号と反対である。温度補償膜46に用いる酸化シリコン膜は意図的に不純物を含まなくてもよいし、意図的に不純物を含んでもよい。例えば酸化シリコン膜に弗素等の元素を添加することで、温度補償効果をより向上させることができる。
【0092】
温度補償膜46は、共振領域50における積層膜38内に設けられていればよい。すなわち、温度補償膜46は、下部電極32内、下部電極32と圧電膜34との間、圧電膜34内、圧電膜34と上部電極36との間および上部電極36内の少なくとも一部に設けられていればよい。
【0093】
図14(c)のように、空隙48に共振領域50の積層膜38が設けられる構造では、共振領域50内の積層膜38で発生した熱が基板30等に放出しにくい。
図14(c)のように、圧電膜34の端面をテラス状にすると放熱性が向上する。しかし、圧電膜34の端面をテラス状としただけでは大幅な放熱性は期待できない。このため、共振領域50内の積層膜38の温度が上昇し易い。
【0094】
2.5GHz帯および3.5GHz帯のフィルタに用いられる圧電薄膜共振器を作製し、温度補償膜46の厚さを変え周波数温度係数を測定した。サンプルの作製条件は以下である。
2.5GHz帯用圧電薄膜共振器
下部電極32:厚さが145nmのルテニウム膜
圧電膜34:厚さ(T11+T12)が810nmの窒化アルミニウム膜
上部電極36:厚さが130nmのルテニウム膜
温度補償膜46:厚さがT2の酸化シリコン膜
3.5GHz帯用圧電薄膜共振器
下部電極32:厚さが100nmのルテニウム膜
圧電膜34:厚さ(T11+T12)が520nmの窒化アルミニウム膜
上部電極36:厚さが100nmがルテニウム膜
温度補償膜46:厚さがT2の酸化シリコン膜
【0095】
図15は、実施例3におけるT2/(T11+T12)に対する周波数温度係数を示す図である。
図15に示すように、2.5GHzおよび3.5GHz用の圧電薄膜共振器は、いずれも圧電膜34の合計の厚さに対する温度補償膜46の厚さ(T2/(T11+T12))が大きくなると、周波数温度係数TCFが大きくなる。T2/(T11+T12)が約8%において周波数温度係数はほぼ0となる。
【0096】
実施例1、2およびその変形例では、弾性波共振器R1においてT2/(T11+T12)を8%以上とし、例えば12%以下とする。2.5GHz用および3.5GHz用の圧電薄膜共振器では例えばT2をそれぞれ80nmおよび65nmとする。これにより、弾性波共振器R1の周波数温度係数を正にできる。弾性波共振器R2では、例えば下部電極32、圧電膜34および上部電極36の厚さおよび材料を上記作製条件と同じとし、温度補償膜46を設けない。これにより、周波数温度係数を負にできる。周波数温度係数が負の弾性波共振器R1においてはT2/(T11+T12)を8%より小さく、例えば5%以下としてもよい。
【0097】
弾性波共振器R2に高周波電力を印加したときの弾性波共振器R2の通過特性を測定した。弾性波共振器R2の構造は2.5GHz帯用圧電薄膜共振器であり、周波数温度係数は−27.5ppm/Kである。高周波電力RFとして、帯域幅1.4MHzのQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)変調信号とした。弾性波共振器R2に0.3fFのキャパシタを直列接続し、6.2nHのインダクタを並列接続した。
【0098】
図16は、実施例3における高周波電力を印加したときの弾性波共振器R2の通過特性を示す図である。
図16に示すように、高周波電力の周波数は2910MHzであり、電力は28.1dBmである。高周波電力RFを印加すると、反共振周波数はfaからfa´に低くなり、共振周波数はfrからfr´に低くなる。高周波電力RFの電力を変化させ、共振周波数および反共振周波数のシフト量を測定した。電力を13、26、27および28dBmと変化させると、周波数のシフト量は0、−5.2、−6.2および−7.7MHzと変化した。以上のように、高周波電力RFを印加することで、弾性波共振器R2の共振周波数および反共振周波数をシフトさせることができる。シフト量は高周波電力RFの電力値を変化させることで微調整できる。
【0099】
[実施例3の変形例1]
図17(a)および
図17(b)は、実施例3の変形例1における弾性波共振器R1およびR2の断面図である。
図17(a)および
図17(b)に示すように、実施例3の変形例1の弾性波共振器R1およびR2では、基板30の上面は略平坦であり、基板30と下部電極32との間にドーム状の空隙48が設けられている。その他の構成は実施例3と同じであり説明を省略する。
【0100】
実施例3の変形例1のように、空隙48は基板30と下部電極32との間に設けられていてもよい。基板30の上面に空隙48となる凹部が設けられ、下部電極32の下面は略平坦でもよい。
【0101】
[実施例3の変形例2]
図18(a)および
図18(b)は、実施例3の変形例2における弾性波共振器R1およびR2の断面図である。
図18(a)および
図18(b)に示すように、実施例3の変形例2の弾性波共振器R1およびR2では、共振領域50の下部電極32下に音響反射膜49が形成されている。音響反射膜49は、音響インピーダンスの低い膜49aと音響インピーダンスの高い膜49bとが交互に設けられている。膜49aおよび49bの膜厚は例えばそれぞれほぼλ/4(λは弾性波の波長)である。膜49aと膜49bの積層数は任意に設定できる。音響反射膜49は、音響特性の異なる少なくとも2種類の層が間隔をあけて積層されていればよい。また、基板30が音響反射膜49の音響特性の異なる少なくとも2種類の層のうちの1層であってもよい。例えば、音響反射膜49は、基板30中に音響インピーダンスの異なる膜が一層設けられている構成でもよい。その他の構成は、実施例3と同じであり説明を省略する。
【0102】
実施例3およびその変形例1のように、弾性波共振器R1およびR2は、共振領域50において空隙48が基板30と下部電極32との間に形成されているFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)でもよい。また、実施例3の変形例2のように、弾性波共振器R1およびR2は、共振領域50において下部電極32下に圧電膜34を伝搬する弾性波を反射する音響反射膜49を備えるSMR(Solidly Mounted Resonator)でもよい。共振領域50を含む音響反射層は、空隙48または音響反射膜49を含めばよい。
【0103】
音響反射層が空隙48のとき、共振領域50の積層膜38において発生した熱は放出されにくい。よって、高周波電力RF1およびRF2の印加により共振周波数および反共振周波数が変化しやすい。すなわち非線形シフト現象が生じやすい。よって、音響反射層は空隙48であることが好ましい。共振領域50の平面形状が楕円形状の例を説明したが、共振領域50の平面形状は、多角形状等任意に選択できる。
【実施例4】
【0104】
実施例4は、実施例1、2およびその変形例に用いる弾性波共振器として弾性表面波共振器または弾性境界波共振器を用いる例である。
【0105】
図19(a)は、実施例4における弾性波共振器の平面図、
図19(b)および
図19(c)は、弾性波共振器R1およびR2における
図19(a)のA−A断面図である。電極指の配列方向をX方向、電極指の延伸方向をY方向、支持基板および圧電基板の積層方向をZ方向とする。X方向、Y方向およびZ方向は、圧電基板の結晶方位のX軸方向およびY軸方向とは必ずしも対応しない。圧電基板が回転YカットX伝搬基板の場合、X方向は結晶方位のX軸方向となる。
【0106】
図19(a)から
図19(c)に示すように、弾性波共振器R1およびR2では、圧電基板52上に弾性波共振器60が設けられている。弾性波共振器60はIDT(Inter Digital Transducer)62および反射器64を有する。反射器64はIDT62のX方向の両側に設けられている。IDT62および反射器64は、圧電基板52上の金属膜53により形成される。
【0107】
IDT62は、対向する一対の櫛型電極58を備える。櫛型電極58は、複数の電極指56と、複数の電極指56が接続されたバスバー57と、を備える。一対の櫛型電極58の電極指56が交差する領域が交差領域である。交差領域のY方向の長さが開口長である。一対の櫛型電極58は、交差領域の少なくとも一部において電極指56がほぼ互い違いとなるように、対向して設けられている。交差領域において複数の電極指56が励振する弾性波は、主にX方向に伝搬する。一対の櫛型電極58のうち一方の櫛型電極58の電極指56のピッチがほぼ弾性波の波長λとなる。反射器64は、IDT62の電極指56が励振した弾性波(弾性表面波)を反射する。これにより弾性波はIDT62の交差領域内に閉じ込められる。
【0108】
圧電基板52上にIDT62および反射器64を覆うように温度補償膜54が設けられている。温度補償膜54は例えば酸化シリコン膜である。温度補償膜54の弾性率の温度係数の符号は圧電基板52の弾性率の温度係数の符号と反対である。これにより、弾性波共振器R1およびR2の周波数温度係数を小さくできる。
【0109】
圧電基板52は、単結晶基板であり、例えばタンタル酸リチウム(LiTaO
3)基板またはニオブ酸リチウム(LiNbO
3)基板であり、例えば回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板または回転YカットX伝搬ニオブ酸リチウム基板である。圧電基板52は、例えばサファイア基板、スピネル基板、シリコン基板またはアルミナ基板等の支持基板上に接合されていてもよい。
【0110】
金属膜53は、例えばAl(アルミニウム)またはCu(銅)を主成分とする膜である。電極指56と圧電基板52との間にTi(チタン)膜またはCr(クロム)膜等の密着膜が設けられていてもよい。密着膜は電極指56より薄い。
【0111】
圧電基板52を(0°,90°,0°)のタンタル酸リチウム基板とし、金属膜53を白金膜とする。このとき、弾性波共振器R1の金属膜53の厚さT3を0.05λ(λは弾性境界波の波長)以下とすると周波数温度係数が0または正となる。弾性波共振器R2の金属膜53の厚さT3´を0.05λより大きくすると周波数温度係数が負となる。このように、金属膜53の厚さを変えることで周波数温度係数を変化させることができる。周波数温度係数は、温度補償膜54の厚さにより設定することもできる。また、弾性波共振器R2は温度補償膜54を備えていなくてもよい。
【0112】
このように、弾性波共振器として弾性表面波共振器、弾性境界波共振器またはラム波共振器を用いることができる。
【実施例5】
【0113】
図20は、実施例5に係るデュプレクサの回路図である。
図20に示すように、共通端子Antと送信端子Txとの間に送信フィルタ70が接続されている。共通端子Antと受信端子Rxとの間に受信フィルタ72が接続されている。送信フィルタ70は、送信端子Txから入力された信号のうち送信帯域の信号を送信信号として共通端子Antに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。受信フィルタ72は、共通端子Antから入力された信号のうち受信帯域の信号を受信信号として受信端子Rxに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。送信フィルタ70および受信フィルタ72の少なくとも一方を実施例1、2およびその変形例のフィルタ10とすることができる
【0114】
マルチプレクサとしてデュプレクサを例に説明したがトリプレクサまたはクワッドプレクサでもよい。
【0115】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。