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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-164056(P2021-164056A)
(43)【公開日】2021年10月11日
(54)【発明の名称】ネットワーク試験器
(51)【国際特許分類】
   H04L 29/14 20060101AFI20210913BHJP
   H04L 12/70 20130101ALI20210913BHJP
   H04L 7/00 20060101ALI20210913BHJP
【FI】
   H04L13/00 315Z
   H04L12/70 100Z
   H04L7/00 990
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2020-63768(P2020-63768)
(22)【出願日】2020年3月31日
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 宗一郎
(72)【発明者】
【氏名】古木 敦
【テーマコード(参考)】
5K030
5K035
5K047
【Fターム(参考)】
5K030GA11
5K030HB02
5K030HB15
5K030LD18
5K030MA04
5K030MB08
5K030MC08
5K035AA01
5K035BB01
5K035DD01
5K035EE02
5K035GG14
5K035JJ05
5K047AA18
(57)【要約】
【課題】PTPネットワークに接続された各機器のそれぞれの条件における動作を必要に応じて検証可能にすると共に、検証に必要な時間を短縮すること。
【解決手段】ユーザが指定した任意の値をユーザ指定flagFieldデータ保持部14に保持して、ネットワーク試験器100自身がマスタの場合に、PTPパケット上のフィールド「flagField」の値をflagField書き換え部13で自動的に置き換える機能を備える。PTPネットワークの条件が変化しなくても、「flagField」の値をユーザが変更できるので、変更に対するスレーブの挙動を短時間で検証できる。「flagField」の書き換えは連続的に繰り返し実行する。ネットワーク試験器100がスレーブの場合には、受信したPTPパケットの「flagField」の値をflagFieldデコード部19でデコードしてビット毎の情報として一覧表示する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準時刻情報を生成するマスタ装置と、前記マスタ装置から送信される前記基準時刻情報の時刻に同期するように動作するスレーブ装置とが、時刻同期に必要なPTPプロトコルを利用して通信可能な状態で接続されるネットワーク上に、マスタ及びスレーブの少なくとも一方として接続可能なネットワーク試験器(100)であって、
ユーザ入力に応じて変更可能な固有値を保持するフラグフィールドデータ保持部(14)と、
生成された各PTPパケットのヘッダから所定のフラグフィールドの位置を特定するフィールド抽出部(12)と、
自身がマスタとして機能している場合に、各PTPパケットの前記フラグフィールドの内容を前記フラグフィールドデータ保持部が保持している固有値に置き換えるフラグ更新部(13)と、
前記フラグフィールドの内容が更新された各PTPパケットをネットワークに送出するPTPパケット送出部(15)と、
を備えたネットワーク試験器。
【請求項2】
前記フラグ更新部は、生成された各PTPパケットのうち、所定の条件を満たすPTPパケットに対して前記フラグフィールドの更新処理を繰り返し実行する、
請求項1に記載のネットワーク試験器。
【請求項3】
前記フラグフィールドのビット毎に割り当てられた機能を一覧表示する表示器(17)と、
ビット毎にユーザ値の入力に応じた更新を受け付けて、その結果を前記フラグフィールドデータ保持部の内容に反映するユーザ操作部(16)と、
を更に備えた請求項1又は請求項2に記載のネットワーク試験器。
【請求項4】
自身が前記マスタとしてではなくスレーブとして機能している場合に、受信した各PTPパケットから前記フラグフィールドの内容を抽出し、前記フラグフィールドのビット毎に割り当てられた機能を特定するフラグデコード部と、
前記フラグデコード部が特定したビット毎の機能を一覧表示するフラグ一覧表示部と、
を備える請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のネットワーク試験器。
【請求項5】
前記フラグデコード部および前記フラグ一覧表示部は、所定の条件を満たす受信したPTPパケットに対して処理を繰り返す、
請求項4に記載のネットワーク試験器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスタ装置やスレーブ装置がPTPプロトコルを利用可能な状態で接続されるネットワーク上に、マスタ又はスレーブとして接続可能なネットワーク試験器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、デジタル放送やストリーミング配信のように、コンテンツを大容量データとして読み出して順次フレームで伝送するネットワークサービスが増加している。このようなサービスを提供する通信システムを試験する場合には、例えば特許文献1に示されているようなテストフレーム構成装置を用いて任意の大容量データを送信しつつ試験を実施することが想定される。
【0003】
また、大容量通信を行う放送ネットワークなどにおいては、従来の高速シリアル・インタフェース(SDI:Serial Digital Interface)からIP(Internet Protocol)ネットワークへの移行が進んでいる。IPネットワークにおいては、機器間の時刻同期などのためにIEEE1588v2で規定されたPTP(Precision Time Protocol)が用いられる。
【0004】
PTPを採用した映像伝送システムが、例えば特許文献2に示されている。また、PTPに対応したネットワーク試験器が非特許文献1に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−205208号公報
【特許文献2】特開2018−42020号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】薄葉光弘,杉山 修,石塚康二,古木 敦,“高精度な網同期検証に対応したネットワーク試験器の開発”,アンリツテクニカル No.92,pp1−6,Mar.2017.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、PTPを採用する場合の時刻同期の基準は、適用産業領域の特性に合わせて決められる。例えば、放送業界用のPTPプロファイルを定めたSMPTE(Society of Motion Picture and Television Engineers)2059−2は、次の(1)〜(3)の各事項を規定している。
【0008】
(1)任意の2つのスレーブクロック(TVカメラなど)間の時刻誤差が最大1μsであること。
(2)グランドマスタが供給する周波数の確度が5ppm以内であること。
(3)スレーブクロックはPTP網に接続後5秒以内に同期が収束すること。
【0009】
したがって、放送業界用のPTPネットワークが所定の基準を満たしているかどうかなどをネットワーク試験器を用いて評価する場合には、次の(A)〜(C)の各事項を評価することが想定される。
【0010】
(A)任意の2つのスレーブクロック間の時刻誤差を試験器で計測し評価する。
(B)グランドマスタが供給する周波数の確度を試験器で計測し評価する。
(C)スレーブクロックがPTP網に接続した後に同期するまでの時間を試験器で計測し評価する。
【0011】
一方、第五世代移動通信システム(5G)の実現に必要な3つの要件の1つにeMBB(enhanced Mobile Broadband)がある。eMBBを実現するための要素として、基地局と端末間の通信に、FDD(Frequency Division Duplex)の代わりにTDD(Time Division Duplex)が使用される。TDDでは、時間によって上り・下りのデータの送受信が分割される。複数の基地局が1つの端末に対してデータを送受信する、または、CoMP(Coordinated Multi-Point)技術で複数の基地局が連携して送受信をする場合、上り・下りのデータが干渉しないように、基地局の間で時刻のずれが生じないようにする必要がある。「eCPRI Transport Network」の「Table 2 Timing accuracy requirement」等によると、UTC時刻と任意の基地局間の時刻誤差は1.1us以内と定められている。
一方、時刻同期のためには、GPSアンテナを設置する方法がある。しかし、全ての基地局にGPSアンテナを設置することは現実的ではない。また、NTP(Network Time Protocol)では精度が足りない。そこでPTPを使用した時刻同期が行われる。このようなPTPネットワークにおいては、ネットワークの動作条件が変わると、各機器や端末等の挙動や通信条件が変わる可能性がある。そのため、規格で定められた様々な動作条件において、試験器を用いて動作をそれぞれ確認する必要がある。
【0012】
具体的には、PTPパケットのヘッダにある1つのフィールドである「flagField」のそれぞれのビットの状態の違いに対応して、PTPネットワークの全体が正しく動作することを検証する必要がある。「flagField」は、「1588-2008 - IEEE Standard for a Precision Clock Synchronization Protocol for Networked Measurement and Control Systems」で定義されており、条件に応じて各ビットの「TRUE/FALSE」の値を定めることが規定されている。そして、スレーブ側のネットワーク機器は、「flagField」の各ビットの値に応じてそれ自身の挙動を変更する。
【0013】
そのため、様々な動作条件のそれぞれについてPTPネットワークの動作を検証しようとすると、ネットワークの条件が変わり「flagField」の各ビットの値が実際に変化するまでは同じ動作だけしか検証できなかった。つまり、PTPネットワークに試験器を接続した状態で長い時間を掛けて試験を続けないと、全ての条件の動作を検証できなかった。
【0014】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、PTPネットワークに接続された各機器のそれぞれの条件における動作を必要に応じて検証可能にすると共に、検証に必要な時間を短縮することが可能なネットワーク試験器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前述した目的を達成するために、本発明に係るネットワーク試験器は、下記(1)〜(5)を特徴としている。
(1) 基準時刻情報を生成するマスタ装置と、前記マスタ装置から送信される前記基準時刻情報の時刻に同期するように動作するスレーブ装置とが、時刻同期に必要なPTPプロトコルを利用して通信可能な状態で接続されるネットワーク上に、マスタ及びスレーブの少なくとも一方として接続可能なネットワーク試験器であって、
ユーザ入力に応じて変更可能な固有値を保持するフラグフィールドデータ保持部と、
生成された各PTPパケットのヘッダから所定のフラグフィールドの位置を特定するフィールド抽出部と、
自身がマスタとして機能している場合に、各PTPパケットの前記フラグフィールドの内容を前記フラグフィールドデータ保持部が保持している固有値に置き換えるフラグ更新部と、
前記フラグフィールドの内容が更新された各PTPパケットをネットワークに送出するPTPパケット送出部と、
を備えたネットワーク試験器。
【0016】
(2) 前記フラグ更新部は、生成された各PTPパケットのうち、所定の条件を満たすPTPパケットに対して前記フラグフィールドの更新処理を繰り返し実行する、
上記(1)に記載のネットワーク試験器。
【0017】
(3) 前記フラグフィールドのビット毎に割り当てられた機能を一覧表示する表示器と、
ビット毎にユーザ値の入力に応じた更新を受け付けて、その結果を前記フラグフィールドデータ保持部の内容に反映するユーザ操作部と、
を更に備えた上記(1)又は(2)に記載のネットワーク試験器。
【0018】
(4) 自身が前記マスタとしてではなくスレーブとして機能している場合に、受信した各PTPパケットから前記フラグフィールドの内容を抽出し、前記フラグフィールドのビット毎に割り当てられた機能を特定するフラグデコード部と、
前記フラグデコード部が特定したビット毎の機能を一覧表示するフラグ一覧表示部と、
を備える上記(1)〜(3)のいずれかに記載のネットワーク試験器。
【0019】
(5) 前記フラグデコード部および前記フラグ一覧表示部は、所定の条件を満たす受信したPTPパケットに対して処理を繰り返す、
上記(4)に記載のネットワーク試験器。
【0020】
上記(1)の構成のネットワーク試験器によれば、試験対象のPTPネットワークの条件に変化が発生しない場合でも、例えばユーザが入力した固有値で、送出するPTPパケットのフラグフィールドの内容を書き換えることができる。つまり、ユーザが検証すべき各動作条件と一致する内容のフラグフィールドを持つPTPパケットを、必要に応じてスレーブ側の機器に与えることができるので、フラグフィールドの変更に対するスレーブ側の機器の挙動をすぐに検証することが可能になる。なお、スレーブ装置とは、広くスレーブ側の機器を意味するものであり、スレーブ専用機に限定されず、スレーブをポートに持つ機器も含まれる。
【0021】
上記(2)の構成のネットワーク試験器によれば、ユーザ入力により更新された同じ内容のフラグフィールドを持つ複数のPTPパケットを利用して、リアルタイムで連続的に検証を実施することが可能になる。
【0022】
上記(3)の構成のネットワーク試験器によれば、ユーザは所定の画面に一覧表示されるフラグフィールドの各ビットの内容を視認しながら、ユーザ操作部を操作することにより、検証が必要とされる条件に該当するビットの内容を容易に書き換えることが可能になる。
【0023】
上記(4)の構成のネットワーク試験器によれば、ユーザは試験対象スレーブ機器の位置でネットワーク試験器が実際に受信したPTPパケットのフラグフィールドの内容を、フラグ一覧表示部の画面表示によりビット毎に容易に確認できる。すなわち、その時のPTPネットワークの動作条件をユーザが把握できる。
【0024】
上記(5)の構成のネットワーク試験器によれば、PTPネットワークの動作条件が変化した場合に、ユーザはその変化をフラグ一覧表示部の画面表示により、リアルタイムで連続的に確認できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明のネットワーク試験器によれば、PTPネットワークに接続された各機器のそれぞれの条件における動作を、試験するユーザが必要に応じて検証可能になる。また、ネットワーク全体の状態が変化するのを待つ必要がないので、様々な条件の検証に必要な時間を大幅に短縮できる。
【0026】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、実施形態に係るネットワーク試験器における特徴的な構成例を表すブロック図である。
図2図2は、図1に示したネットワーク試験器がマスターモードで動作する場合の特徴的な動作例を示すフローチャートである。
図3図3は、図1に示したネットワーク試験器がスレーブモードで動作する場合の特徴的な動作例を示すフローチャートである。
図4図4は、規格で定められたパケットヘッダの構成を表す模式図である。
図5図5は、規格で定められたflagFieldにおけるビット構成を表す模式図である。
図6図6は、図1に示したネットワーク試験器の表示画面におけるユーザ指定部の例を示す正面図である。
図7図7(a)はスレーブとして動作するネットワーク試験器における表示画面の例を示す正面図、図7(b)はスレーブが受信したflagFieldのビット構成表示例の画面を表す正面図である。
図8図8は、放送用IPネットワークシステムの構成例を示すブロック図である。
図9図9は、ネットワーク試験器を用いてマルチキャスト網での時刻誤差を評価する場合の接続例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明に関する具体的な実施形態について、各図を参照しながら以下に説明する。
【0029】
<ネットワーク試験器の構成>
図1は、本実施形態に係るネットワーク試験器100における特徴的な構成例を表すブロック図である。
【0030】
ネットワーク試験器100は、IEEE1588v2規格で規定される時刻同期通信プロトコルであるPTPが適用されるIPネットワークの通信システムに接続され、システムの動作や品質を評価するために利用できる。
【0031】
ネットワーク試験器100は、ポートP1〜3を備えている。各ポートP1〜P3は、例えばイーサネット(登録商標)のようなIPネットワークに接続することができる。本実施形態に係るネットワーク試験器100は、マスタおよびスレーブの両方の機能を備えており、必要に応じてマスタ/スレーブのモードを切り替えることができる。また、ネットワーク試験器100は、必要に応じてマスタの機能とスレーブの機能を同時に実行することも可能である。
【0032】
図1に示したネットワーク試験器100は、試験器本体10、PTPパケット検出部11、flagField抽出部12、flagField書き換え部13、ユーザ指定flagFieldデータ保持部14、PTPパケット送出部15、ユーザ操作部16、表示器17、表示制御部18、およびflagFieldデコード部19を備えている。
【0033】
試験器本体10は、例えば非特許文献1に示されているような従来のネットワーク試験器と同様に構成され、一般的な試験機能を提供する。
PTPパケット検出部11は、ポートP1、P2のいずれかに入力された信号の中からそれに含まれているPTPパケットを検出する。
【0034】
flagField抽出部12は、PTPパケット検出部11が検出したそれぞれのPTPパケットや、試験器本体10が生成したPTPパケットから、それに含まれている特定位置のフィールド「flagField」を抽出する。
flagField書き換え部13は、マスターモードにおいて、試験器本体10により生成されたPTPパケットのうち、規格上意味があるフィールドを持つPTPパケットのフィールド「flagField」の内容を書き換える。
【0035】
ユーザ指定flagFieldデータ保持部14は、記憶装置であり、試験を実施するユーザが指定可能なフィールド「flagField」用の定数データを保持することができる。
すなわち、flagField書き換え部13が出力するPTPパケットのフィールド「flagField」の内容は、必要に応じてユーザ指定flagFieldデータ保持部14が保持している定数データに置き換えることができる。
【0036】
PTPパケット送出部15は、flagField書き換え部13が出力する各PTPパケットをポートP3から外部のネットワークに送出する。したがって、ポートP3に接続される外部のスレーブに対して、ユーザが意図的にフィールド「flagField」の内容を書き換えたPTPパケットを与えることも可能である。
【0037】
ユーザ操作部16は、ユーザが操作可能なタッチパネルやボタンなどを含み、ユーザの入力操作を受け付けることができる。例えば、ユーザがユーザ操作部16を操作することにより、ユーザ指定flagFieldデータ保持部14に保持する「flagField」のデータをビット毎に指定したり、複数種類のデータの中から1つのデータを選択したり、動作モードの切り替えなどを行うことができる。
【0038】
表示器17は、例えばカラー液晶ディスプレイとして構成され、ユーザが視認可能な二次元表示画面を有している。
【0039】
表示制御部18は、表示器17の二次元表示画面に表示する内容を必要に応じて制御する。例えば、ユーザ操作部16に対するユーザの入力操作、ユーザ指定flagFieldデータ保持部14が保持している定数データ、flagFieldデコード部19がデコードしたフィールド「flagField」の内容などを表示器17の画面に表示できる。
【0040】
flagFieldデコード部19は、flagField抽出部12がPTPパケットの中から検出した「flagField」の内容をデコードして、「flagField」のビット毎に割り当てられた機能や状態を把握する。
【0041】
なお、図1に示したPTPパケット検出部11、flagField抽出部12、flagField書き換え部13、ユーザ指定flagFieldデータ保持部14、PTPパケット送出部15、ユーザ操作部16、表示器17、表示制御部18、およびflagFieldデコード部19の各要素については、試験器本体10に内蔵しても良いし、試験器本体10の一部の機能を利用して実現しても良い。
【0042】
<ネットワーク試験器の動作例>
図2は、図1に示したネットワーク試験器100がマスターモードで動作する場合の特徴的な動作例を示すフローチャートである。この動作例について以下に説明する。
【0043】
図2に示したマスターモードの動作は、評価対象のネットワークに接続されている外部のスレーブが正しく動作するかなどをユーザが検証するために、PTPパケットのフィールド「flagField」の内容を意図的に変更する必要がある場合に、例えばユーザのボタン操作に応答して実行される。そして、ユーザの終了ボタン操作などにより、所定の終了条件を満たしたことが検出されるまでこの動作が連続的に繰り返し実施される。
【0044】
試験器本体10がPTPパケットを生成すると、flagField抽出部12は、ステップS11でそのPTPパケットからフィールド「flagField」の内容を抽出する。
【0045】
次に、ステップS12でflagField書き換え部13がユーザ指定flagFieldデータ保持部14から取り出したユーザ指定データを用いて、PTPパケットのフィールド「flagField」の内容を書き換える。また、PTPパケット送出部15は書き換え後のフィールド「flagField」が反映されたPTPパケットをステップS13でポートP3に送出する。
【0046】
図3は、図1に示したネットワーク試験器100がスレーブモードで動作する場合の特徴的な動作例を示すフローチャートである。この動作例について以下に説明する。
【0047】
まず、ステップS21でPTPパケット検出部11が、ポートP1、P2のいずれかに入力された信号の中からそれに含まれているPTPパケットを検出する。次に、flagField抽出部12は、検出したPTPパケットが規定のメッセージタイプのものであったならステップS22でPTPパケットからフィールド「flagField」の内容を抽出する。本実施形態においては、PTPパケットのメッセージタイプが「Announce」の場合に、フィールド「flagField」の内容を抽出する。次に、抽出したフィールド「flagField」の内容を、flagFieldデコード部19がS23でビット毎にデコードしてその内容を特定する。そして、ステップS24で、デコードされたフィールド「flagField」の内容を表示制御部18が表示器17の画面に表示する。
【0048】
<パケットヘッダの構成>
規格で定められたパケットヘッダの構成を図4に示す。すなわち、IEEE1588v2規格のPTPパケットの各メッセージは、図4に示すような構成のヘッダを有している。
【0049】
図4に示すように、ヘッダの先頭からのオフセットが「6」の位置には、16ビット(2オクテット)サイズのフィールド「flagField」が存在している。図1に示したflagField抽出部12、およびflagField書き換え部13が、このフィールド「flagField」を処理するようになっている。
【0050】
<flagFieldのビット構成>
規格で定められたflagFieldのビット構成を図5に示す。IEEE1588v2規格のPTPパケットの各メッセージに含まれるフィールド「flagField」は、図5に示すように規定されている。
【0051】
すなわち、フィールド「flagField」内の0番目のオクテットのうち、ビット0、1、2、5、6、及び7に、それぞれ「alternateMasterFlag」、「twoStepFlag」、「unicastFlag」、「PTP profile Specific 1」、「PTP profile Specific 2」、及び「reserved」の各機能が割り当てられている。また、フィールド「flagField」内の1番目のオクテットのうち、ビット0、1、2、3、4、及び5に、それぞれ「leap61」、「leap59」、「currentUtcOffsetValid」、「ptpTimescale」、「timeTraceable」、及び「frequencyTraceable」の各機能が割り当てられている。
【0052】
そして、flagField書き換え部13は、規格上意味のあるフィールドを持つPTPパケットに対し、フィールド「flagField」の内容を書き換える。例えば、flagField書き換え部13は、PTPパケットのメッセージタイプが「Announce」、「Sync」、「Follow_Up」、及び「Delay/Resp」の場合のみにおいて「alternateMasterFlag」を書き換える。同様に、flagField書き換え部13は、PTPパケットのメッセージタイプが「Announce」の場合のみにおいて「leap61」を書き換える。
【0053】
<flagFieldの説明>
このフィールド「flagField」の各ビットの状態(TRUE/FALSE)又は値は、IEEE1588v2の規格では、その時の条件に応じて定まる。つまり、フィールド「flagField」の各ビットはユーザが意図的に指定するものではない。
【0054】
しかし、ネットワーク試験器100を用いて通信システムを評価しようとする場合に、条件が変化しない限り、スレーブに入力されるPTPパケットのフィールド「flagField」が変化しないので、フィールド「flagField」の各ビット変化に対するスレーブの挙動を全て検証するためには、通常は長い時間が必要となる。
【0055】
一方、図1に示したネットワーク試験器100は、ユーザ操作によりユーザ指定flagFieldデータ保持部14に保持した任意のデータを用いて、flagField書き換え部13がPTPパケットのフィールド「flagField」を必要に応じて書き換えることができる。そのため、フィールド「flagField」の各ビット変化に対するスレーブの挙動を短時間で検証することが可能になる。つまり、例えばエラーの発生状況などについて各装置が正常に反応するかを確認できる。
【0056】
また、一般的なネットワーク試験器の場合には、スレーブ側に入力されるPTPパケットのフィールド「flagField」の内容を確認するための作業が容易ではなかった。すなわち、必要なタイミングでユーザが1つのPTPパケットのデータを取り込んだ後、特別なツールを用いてそのデータを解析し、フィールド「flagField」の場所を探して目的の「flagField」のビット列を手作業で抽出しなければならなかった。また、リアルタイムでフィールド「flagField」の状態を把握することはできなかった。
【0057】
しかし、図1に示したネットワーク試験器100を使用する場合には、スレーブ側に入力されるPTPパケットのフィールド「flagField」を、flagField抽出部12が連続的に抽出し、その結果をflagFieldデコード部19がデコードして表示器17の画面に表示できる。したがって、システムの動作を検証しようとするユーザは、面倒な解析作業を行わなくても、リアルタイムでフィールド「flagField」の状態を把握できる。
【0058】
<表示画面の例−1>
図1に示したネットワーク試験器100の表示画面17Aにおけるユーザ指定部31の例を図6に示す。なお、図6に示した表示画面17Aの内容は、「IEEE 1588v2 Unicast」のモードをユーザが選択した状態で表示される。
【0059】
すなわち、ユーザが検証したいフィールド「flagField」の状態を表すユーザ指定データをユーザ指定flagFieldデータ保持部14に登録しようとする場合に、ユーザは、表示画面17Aを視認しながらユーザ操作部16に対する入力操作を実施できる。
【0060】
図6に示した表示画面17Aの中には、フィールド「flagField」の各ビットの状態を一覧表示できるユーザ指定部31が含まれている。つまり、ユーザが指定するフィールド「flagField」における0番目のオクテットの8ビットそれぞれの「0/1」と、1番目のオクテットの8ビットそれぞれの「0/1」とがユーザ指定部31の中に現れている。ユーザ指定部31の各ビットの「0/1」の状態は、ユーザ操作部16に対するユーザ入力により個別に変更できる。そして、ユーザ入力が完了すると、ユーザ指定部31の各ビットの状態が、ユーザ指定flagFieldデータ保持部14の保持する16ビットデータに反映される。この16ビットデータを用いて、flagField書き換え部13がPTPパケットのフィールド「flagField」の内容を書き換える。つまり、ユーザの指定した内容が、ネットワーク試験器100の送出するPTPパケットのフィールド「flagField」に反映される。
【0061】
<表示画面の例−2>
スレーブとして動作するネットワーク試験器における表示画面の例を図7(a)および図7(b)に示す。
【0062】
ネットワーク試験器100がスレーブとして動作している時には、図7(a)のような表示画面17Bが表示器17に表示される。この表示画面17Bの中には、「Local Clock」、「Parent Clock」、「Foreign Master」、「Wall Clock」、および「Grandmaster Clock」の各項目の状態が表示されている。
【0063】
また、表示画面17B中の「Grandmaster Clock」の項目の中には、このネットワーク試験器100がグランドマスタ(GM)との間のPTPにより受信したPTPパケットに含まれるフィールド「flagField」の値を表す情報も表示されている。すなわち、デコード指示ボタン32の箇所に、16進数表記で「0x0400」の値が表示されている。
【0064】
この表示画面17Bの状態において、ユーザがデコード指示ボタン32を押下する操作を実施すると、flagFieldデコード部19および表示制御部18の制御により、図7(b)に示す表示画面17Cが表示器17に表示される。図7(b)の表示画面17Cの内容は、図7(a)の表示画面17Bの中のデコード指示ボタン32の箇所に表示されているフィールド「flagField」の値「0x0400」と同じ意味を表している。
【0065】
すなわち、16ビットのフィールド「flagField」の値「0x0400」をflagFieldデコード部19がビット毎にデコードすることにより、図7(b)のflagField表示部33に表示されているように、16個の各ビットの値「0/1」が個別に表示される。また、図7(b)の例では各ビットの値と共に、各ビットに割り当てられている名称あるいは機能が表示されている。例えば、値「0x0400」を持つ「flagField」の0番目のオクテット(Octet 0)の0ビット目(bit0)は「alternateMasterFlag」であり、現在の状態は「0」である。
【0066】
スレーブモードのネットワーク試験器100においては、図3の各ステップS21、S22、S23、及びS24が繰り返し実行されるので、表示画面17Cに表示されるフィールド「flagField」の各ビットの値は、リアルタイムで更新される。したがって、ユーザは、表示画面17Cに表示されるフィールド「flagField」の値からシステムの状態を容易に把握できる。また、表示画面17Cにおいてユーザが表示終了ボタン34を押下すると、表示画面17Cの表示が終了し、表示画面17Bに戻る。
【0067】
<ネットワーク試験器100の使用例>
<放送用IPネットワークシステムの構成例>
ネットワーク試験器100の評価対象として想定される放送用IPネットワークシステム200の構成例を図8に示す。
【0068】
グランドマスタ(GM)装置201と、複数のスレーブ機器202、203とがローカルネットワーク(LAN)204を経由して互いに接続されている。また、グランドマスタ装置201と各スレーブ機器202、203との間では、PTPメッセージをやり取りすることにより高精度の時刻同期を行うことができる。また、音声や映像のストリームデータ(A/V Data)もローカルネットワーク204を経由して、複数のスレーブ機器202、203の間で転送される。時刻同期を行うことにより、互いに離れた位置に存在する複数のスレーブ機器202、203の時刻を同期させることが可能になる。
【0069】
図8に示したような放送用IPネットワークシステム200においては、以下の(1)〜(3)に示すような時刻同期性能が要求される。
(1)任意の2つのスレーブクロック(TVカメラなど)間の時刻誤差が最大1μsであること。
(2)グランドマスタが供給する周波数の確度が5ppm以内であること。
(3)スレーブクロックはPTP網に接続後5秒以内に同期が収束すること。
【0070】
したがって、図8に示すような放送用IPネットワークシステム200の運用前や運用中において、上記(1)〜(3)の基準を満たしているかを正しく評価する必要がある。前述のネットワーク試験器100は、このような評価のために利用できる。具体的には、ネットワーク試験器100は、以下に示すように評価対象のシステムに接続される。
【0071】
<接続例>
ネットワーク試験器を用いてマルチキャスト網での時刻誤差を評価する場合の接続例を図9に示す。
【0072】
図9の例では、境界クロック装置211を通る信号および境界クロック装置212を通る信号が、それぞれネットワーク試験器100の2つのポートに入力される。ネットワーク試験器100は、互いに異なる経路でマルチキャスト網を通ってネットワーク試験器100に到達する信号の時刻差を評価する。この場合、ネットワーク試験器100は、IGMP又はMLDのプロトコルを使ってマルチキャスト網に参加(Join)した状態で、境界クロック装置212との間でPTPのメッセージをやり取りして時刻差を測定できる。
【0073】
<その他のネットワーク試験器100の使用例>
図示しないが、第五世代移動通信システム(5G)のネットワークにおける回線品質を評価するためにネットワーク試験器100を利用することが想定される。
【0074】
上述したように、CoMP(Coordinated Multi-Point)技術で複数の基地局が連携して送受信をする場合、上り・下りのデータが干渉しないよう、UTC時刻と任意の基地局間の時刻誤差は1.1us以内と定められており、PTPを使用した時刻同期が行われる。
本実施形態に係るネットワーク試験器100は、PTPパケットのフラグ情報によって変化するスレーブ側の動作の検証を容易とするものである。例えば、alternateMasterFlagは、発信者のポートがマスタ状態ではないときにTrueになるが、このとき、スレーブ側では、送られてきたPTPパケットを破棄する必要がある。また、別のマスタから時刻情報を取得して、時刻同期を維持する必要がある。しかし、ネットワーク試験器100を用いることにより、フィールド「flagField」の内容をユーザの指定値に置き換えたPTPパケットに対してスレーブにどのような挙動が発生するのかを短時間で検証することが可能になる。
【0075】
以上のように、本発明の実施形態に係るネットワーク試験器100は、マスタとしてPTPネットワークに接続した場合には、PTPネットワークの条件に変化が現れない場合であっても、ネットワーク試験器100を操作するユーザがユーザ操作部16を操作して、任意の指定値をユーザ指定flagFieldデータ保持部14に登録することができる。そして、ネットワーク試験器100が送出するPTPパケットのフィールド「flagField」の内容をユーザの指定値に置き換えることができる。そのため、フィールド「flagField」の内容をユーザの指定値に置き換えたPTPパケットに対してスレーブにどのような挙動が発生するのかを短時間で検証することが可能になる。
【0076】
また、図2に示した動作においては、フィールド「flagField」の内容をユーザの指定値に置き換える動作を連続的に複数回繰り返すことができるので、スレーブの挙動の検証が容易になる。
【0077】
また、ネットワーク試験器100は、ユーザが入力した値を図6に示したユーザ指定部31のようにビット毎に一覧表示できるので、ユーザはフィールド「flagField」のうち書き換えるべきビットを容易に把握できる。
【0078】
また、ネットワーク試験器100は、スレーブとして使用する場合には、受信したPTPパケットのフィールド「flagField」の内容を、図7(b)に示したflagField表示部33のような形態で一覧表示できるので、ユーザは状態の把握が容易になる。しかも、図3に示した動作の場合には各ステップS21〜S24の実行が繰り返されるので、リアルタイムで連続的にフィールド「flagField」の内容を表示できる。
【0079】
ここで、上述した本発明の実施形態に係るネットワーク試験器の特徴をそれぞれ以下[1]〜[5]に簡潔に纏めて列記する。
[1] 基準時刻情報を生成するマスタ装置と、前記マスタ装置から送信される前記基準時刻情報の時刻に同期するように動作するスレーブ装置とが、時刻同期に必要なPTPプロトコルを利用して通信可能な状態で接続されるネットワーク上に、マスタ及びスレーブの少なくとも一方として接続可能なネットワーク試験器(100)であって、
ユーザ入力に応じて変更可能な固有値を保持するフラグフィールドデータ保持部(ユーザ指定flagFieldデータ保持部14)と、
生成された各PTPパケットのヘッダから所定のフラグフィールドの位置を特定するフィールド抽出部(flagField抽出部12)と、
自身がマスタとして機能している場合に、各PTPパケットの前記フラグフィールドの内容を前記フラグフィールドデータ保持部が保持している固有値に置き換えるフラグ更新部(flagField書き換え部13)と、
前記フラグフィールドの内容が更新された各PTPパケットをネットワークに送出するPTPパケット送出部(15)と、
を備えたネットワーク試験器。
【0080】
[2] 前記フラグ更新部は、生成された各PTPパケットのうち、所定の条件を満たすPTPパケットに対して前記フラグフィールドの更新処理を繰り返し実行する(S11〜S13)、
上記[1]に記載のネットワーク試験器。
【0081】
[3] 前記フラグフィールドのビット毎に割り当てられた機能を一覧表示する表示器(17)と、
ビット毎にユーザ値の入力に応じた更新を受け付けて、その結果を前記フラグフィールドデータ保持部の内容に反映するユーザ操作部(16)と、
を更に備えた上記[1]又は[2]に記載のネットワーク試験器。
【0082】
[4] 自身が前記マスタとしてではなくスレーブとして機能している場合に、受信した各PTPパケットから前記フラグフィールドの内容を抽出し、前記フラグフィールドのビット毎に割り当てられた機能を特定するフラグデコード部(flagFieldデコード部19)と、
前記フラグデコード部が特定したビット毎の機能を一覧表示するフラグ一覧表示部(flagField表示部33)と、
を備える上記[1]〜[3]のいずれかに記載のネットワーク試験器。
【0083】
[5] 前記フラグデコード部および前記フラグ一覧表示部は、所定の条件を満たす受信したPTPパケットに対して処理を繰り返す(S21〜S24)、
上記[4]に記載のネットワーク試験器。
【符号の説明】
【0084】
10 試験器本体
11 PTPパケット検出部
12 flagField抽出部
13 flagField書き換え部
14 ユーザ指定flagFieldデータ保持部
15 PTPパケット送出部
16 ユーザ操作部
17 表示器
17A,17B,17C,17D 表示画面
18 表示制御部
19 flagFieldデコード部
31 ユーザ指定部
32 デコード指示ボタン
33 flagField表示部
34 表示終了ボタン
100 ネットワーク試験器
200 放送用IPネットワークシステム
201 グランドマスタ装置
202,203 スレーブ機器
204 ローカルネットワーク
211,212 境界クロック装置
P1,P2,P3 ポート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9