【実施例】
【0062】
本開示の実施形態を一般的に記載してきたところ、以下の実施例は、本開示の幾つかのさらなる実施形態を記載するものである。本開示の実施形態は、以下の例ならびに対応する文章および図に関連して記載されるが、本開示の実施形態をこの記載に限定することは意図されておらず、むしろ、本開示の実施形態の趣旨および範囲内に含まれる全ての代替物、変更例、および同等物を包含することが意図されている。
【0063】
実施例1:チューモロイドアッセイ(Z因子分析)の最適化
3D細胞培養においては、ハイスループット系スクリーニングへの該培養の組み込みにおいて重要である再現性に主な障害があった。チューモロイドアッセイにおけるウェル間の変動を決定するために、n=8ウェル/群、異なる濃度のFiSSにおけるMCF−7細胞を、PrestoBlue(登録商標)アッセイにより播種5日後に腫瘍形成性を測定した。統計上の効果量の尺度であるZ因子を、方程式1を用いて決定した。
【0064】
【数1】
【0065】
アッセイ結果は、Z因子約0.755の小さなウェル間変動を示した。これは良好な範囲にあり、ハイスループットスクリーニングに対する本明細書に記載されたチューモロイドアッセイの即応性を示唆するものである。
【0066】
実施例2:チューモロイド共培養の特徴付け
BT474またはHCC1569細胞を、ECおよびCAFと共培養した。共培養における腫瘍細胞(BT474またはHCC1569)対EC対CAFの比は、5:1:1(腫瘍細胞:EC:CAF)であった。
図2A〜5Bに示されているように、ECおよびCAFとの共培養は、増加した増殖能および高いVEGF発現を有する頑強なチューモロイドを誘導した(
図3)。
図1A〜1Bは、癌関連線維芽細胞(CAF)および内皮細胞(EC)と共に(
図1B)、または無しで(
図1A)約5日培養した後のBT474乳癌細胞由来チューモロイドの増殖を示す代表的な蛍光顕微鏡画像を示す。
【0067】
多細胞チューモロイドにおけるCAFおよびECの存在を、それぞれ、CAFおよびECに対する抗平滑筋アクチン(SMA)抗体および抗フォンウィルブランド因子(vWF)抗体を用いたIHCと、それに続く共焦点顕微鏡法により確認した。
図2は、EV(vWF、緑色の細胞)およびCAF(SMA陽性、赤い細胞)および核(DAPI、青)を示すBT474乳癌共培養チューモロイドの共焦点顕微鏡画像(合成zスタック画像)を示す。チューモロイド免疫染色形態CAF(赤、抗SMA陽性)およびEC(緑、抗vWF陽性)の合成zスタック画像を、
図2に示す。共培養後5日目でCAFがチューモロイド全体に分散しているのが見出されたのに対し、ECは大部分が多細胞チューモロイドの端で見出された。
【0068】
図3は、ELISAにより測定した
図1A〜1Bおよび
図2の培養細胞の上清中のVEGFの量を示すグラフを示す。培養細胞により産生されたVEGFの量を決定する前に、細胞を5日間培養した。チューモロイドの上清中のVGEFレベルの比較で、BT474+CAF+EC誘導チューモロイドに比べてBT474チューモロイドのVGEFが少ないことが示される(
図3)。
図4A〜4Bに示されるように、HC15969を用いた共培養でも、BT474で観察されたと同じようなチューモロイドの数および直径の増加がもたらされた。
【0069】
実施例3:増殖因子の送達および対照
本明細書に記載された共培養においてチューモロイド増殖を増進させることが可能な増殖因子を調べるための、培養中のチューモロイド増殖に対する漸増血清濃度の影響。結果(示されていない)は、血清濃度の増加がチューモロイド増殖に著しい影響を与えるものでないことを示唆するものである。増殖培地へのマトリゲル(約5%〜約10%)の添加により、FiSSで培養した場合のHCC1569細胞のチューモロイド発生が高まった。これは、約5%〜約10%マトリゲルによる増殖培地(GM)の補充によって、他のタイプの乳癌細胞由来のチューモロイドの増殖を増進させられることを示唆している。
【0070】
チューモロイド増殖に影響を与える因子をテストするために、チューモロイド増殖に対するhMSC CMの影響を調べた。hMSCにより放出される増殖因子を調べた。この目的のために、継代2、3、5および6などの異なる継代のhMSCのCMを回収し、VEGF、IL−6、およびTGF−βのレベル。
図5A〜5Cは、ヒト間葉系幹細胞(hMSC)培養上清(CM)に存在するVEGF(
図5A)、IL−6(
図5B)、および活性TGF−β1(
図5C)を示すグラフを示す。ヒトMSCは、アルファMEMおよび15%血清中で培養した。各継代約48時間後に継代(p)p2〜p6の培養上清を回収した。回収した培養上清を遠心分離し、濾過し、使用まで保管した。p2〜p6のCMにおける増殖因子の発現をELISAにより調べた。VEGFの特異度を示すためにVEGF抗体の中和を使用した。*p<0.05。
図5A〜5Cに示されたデータは、hMSC−p2およびhMSC−p3と比べてhMSC−p5およびhMSC−p6のCMにおいて、有意に高いレベル(約1ng/mL)のVEGF(
図5A)およびIL−6(約250〜450pg/mL)(
図5B)が見出されたことを示している。CMに存在しているものの、hMSC継代のCM間でTGF−β1のレベルの有意な差は観察されなかった(
図5C)。
【0071】
BT474チューモロイドは、hMSCに由来する様々な濃度のCMの存在下、BT474細胞から培養した。p5−hMSC CMがVEGF、IL−6、およびTGF−β1の最大の産生を示す限りにおいて、BT474 GMに様々な濃度のp5−hMSC CMを補充し、BT474細胞のみ(単独培養)またはCAFおよびECの存在下(共培養)で培養し、チューモロイド増殖を調べた。
図6A〜6Hは、生細胞(緑)および死細胞(赤)を検出するためにカルセインAM/EthD−1により染色した、BT474乳癌細胞の単独培養(
図6A〜6D)またはBT474乳癌細胞およびEC+CAFの共培養(
図6E〜6H)の代表的な蛍光顕微鏡画像を示す。倍率:100×。標準的な増殖培地(GM)対CM(GM:CM)の比は、約100:0から約50:50に及んだ。
図6A〜7に示されたデータは、CMを約20%、約40%、または約50%で添加すると、単独培養および共培養の両方においてチューモロイド直径が増加したことを示している。GM:CM(約50%)を添加すると、単独培養および共培養チューモロイド下で産生されたチューモロイドの両方について、チューモロイド直径が有意に増加した。
【0072】
実施例4:臨床的有効性を決定するためのバイオマーカー
チューモロイドの臨床バイオマーカーとしてのKi67。臨床試験は、臨床的有効性のマーカーとしてKi67を利用する。Ki67がチューモロイドにおいて発現されるかどうかを決定するために、BT474細胞(10
4)をFiSSで5日間培養した。形成されたチューモロイドを固定し、抗Ki67抗体を用いて免疫染色した。
図8Aから8Bは、生細胞を緑色、死細胞を赤色に染色するカルセインAM/EthD−1で染色したBT474チューモロイド培養物(
図8A)、および3D足場におけるBT474の単独培養物に関するKi−67染色(
図8B)を示す。
【0073】
チューモロイドのバイオマーカーとしてのVEGFおよびIL6。単独培養チューモロイドおよび共培養チューモロイドは、培養培地に放出された有意な量のVEGFおよびIL−6を産生した。共培養では、培養培地に放出されるVGEFおよびIL−6の量が2倍増加した。共培養において産生されたVGEFおよびIL−6のレベルの上昇は、これらの増殖因子が共培養で観察された細胞の増殖およびチューモロイドの増殖の増加に関与し得ることを示唆している。したがって、当データは、これらの2つのタンパク質が臨床的有効性のバイオマーカーとして機能し得ることを示唆している。
【0074】
実施例5:ハーセプチンおよびラパチニブを用いたチューモロイドによる臨床有効性の予測
BT474およびHCC1569の単独培養または共培養に由来するチューモロイドの、ラパチニブに対する感受性を調べた。ラパチニブは、EGFRおよびHER2を標的にする二重低分子チロシンキナーゼ阻害剤である。
図9A〜9Bに示されたデータに示されているように、チューモロイドはラパチニブ処理に対し様々な反応性を有した。BT474細胞は、2DまたはFiSSのいずれで培養した場合も、ラパチニブに対して感受性であることが観察された(IC50<2.5μM)が、ECおよびCAFの存在下でMT474−MCTは、ラプチニブ(Laptinib)に対して有意により高い耐性を有することが観察された(IC50>10μM)。HCC1569も、ECおよびCAFの存在下で培養した場合、ラパチニブに対する耐性の増加を示した。確立されたチューモロイドをラパチニブで処理した場合、類似の結果が観察された。
【0075】
実施例6:臨床的有効性のバイオマーカー
Ki−67は、癌治験における臨床有効性の代理マーカーとして使用することができる。Ki−67の発現。単独培養チューモロイドおよび共培養チューモロイドを、ラパチニブを漸増濃度として(0〜10μM)処理した。チューモロイドを固定し、Ki−667について免疫染色した。ラパチニブ(2.5mM)による処理が、Ki−67の発現に影響を与えるかどうかをテストした。結果は、ラパチニブ処理がチューモロイド形成を阻害するだけでなく、Ki−67染色を完全に抑制することを示し、腫瘍細胞の増殖の完全な阻害を示唆した(
図10Aおよび10B)。
【0076】
臨床的有効性のバイオマーカーを同定および評価するために、単独培養および共培養チューモロイドを両方とも漸増濃度のラパチニブ(約0から約10μM)で処理した。培養5日後、培養物の上清をVEGF、IL−6、およびTGF−βのレベルについてテストした。
図11A〜11Cは、3D足場での単独培養物またはCAFおよびECとの共培養BT474細胞に由来するBT474チューモロイドにおけるVEGF(
図11A)、IL−6(
図11B)、およびTGF−β1(
図11C)に対するラパチニブの影響を示すグラフを示す。BT474チューモロイドを、ラパチニブ(2.5〜10μM)の存在下または非存在下で単独培養または共培養し、5日目の培養上清中のVEGF、IL−6、およびTGF−β1のレベルをELISAにより決定した。*p<0.05。データは、単独培養および共培養チューモロイドが両方とも相当量のVEGF、IL−6、およびTGF−βを分泌したことを示している。ラパチニブ処理(約2.5μM〜5μM)は、共培養チューモロイドにおけるVEGF、IL−6、およびTGF−βの分泌を有意に減少させた。データは、Ki67に加えてこれらの因子が、共培養チューモロイドにおける抗癌剤の臨床有効性のバイオマーカーとして機能し得ることを示している。
【0077】
実施例7:乳癌腫瘍細胞と間質細胞との共培養およびTSIの評価
チューモロイド培養の確立:条件をチューモロイド発生のために最適化した。HCC1569を除いて、乳房腫瘍細胞系MCF7、BT−474およびMDA−MB−231は全て、播種密度3,000から10,000細胞/96ウェル当たりでチューモロイドを形成した(ここでは単一細胞チューモロイド(SCT)と呼ばれる)。HCC1569の細胞系はゆるく接着しており、単層で培養した場合、細胞の約50%が浮遊物として残ったことが観察された。この細胞系によるチューモロイド形成を最適化する間に、HCC−1569細胞は、培養培地に10%マトリゲルを補充すると、他の細胞系と同じ頻度でチューモロイドを容易に発生させることが、思いがけなく観察された。
図12A〜12Dは、4細胞系全てが5日目にSCTを容易に発生させたことを示している。チューモロイド増殖を9日目までモニターし、5日目および9日目のSCTのサイズを測定した(
図13)。各細胞タイプのチューモロイドは、サイズが3〜20%差次的に増殖した。
【0078】
実施例8:チューモロイド共培養の確立および特徴付け
乳癌細胞とCAFおよびECなどの間質細胞との共培養が、インビボでの腫瘍を模倣できる多細胞チューモロイド(MCT)を形成するかどうかを調べるために、共培養試験を行った。5日目のMCF−7チューモロイドとECまたはCAFのどちらかとの共培養では、共培養3〜5日後に識別可能なMCTが誘導された(
図14A〜14D)が、細胞の正味の増殖は低減した(
図15)。しかし、MCF−7細胞とECおよびCAFの両方との共培養は、チューモロイドサイズおよび数を有意に増加させただけでなく(
図14A〜14D)、細胞増殖も回復させた(
図15)。同様に、HCC−1569細胞系では、CAFおよびECと同時に共培養した場合、チューモロイドサイズおよび数が有意に増加した(
図14A〜14D)。共培養条件を最適化し、EC(103)およびCAF(103)との共培養腫瘍細胞(3〜5×103)は、若干増加した増殖能を有する頑強なMCTを誘導したことが観察された(
図16A〜16F)。MCTにおけるCAFおよびECの存在を、それぞれ、CAFおよびECに特異的な抗平滑筋アクチン(SMA)抗体および抗フォンウィルブランド因子(vWF)抗体を用いたIHCと、それに続く共焦点顕微鏡法により確認した。CAF(赤、抗SMA陽性)およびEC(緑、抗vWF陽性)について免疫染色したMCTの代表的な蛍光画像および合成zスタック画像を観察した。共培養後5日目でCAFがチューモロイド全体に分散しているのが見出されたのに対し、ECは大部分がMCTの端で見出された(
図17A〜17F)。実験の別のセットにおいて、MDA−MB−231およびECの共培養もチューモロイド発生を示したが、正味の細胞増殖は低減した。まとめると、これらの結果は、チューモロイドと間質細胞との共培養が有意にチューモロイド発生を増加させることを示している。
【0079】
実施例9:FiSS培養とマトリゲルベースの3D培養との比較
FiSSチューモロイドの性能を他の3Dベースの培養プラットフォームと比較するために、増殖因子低減マトリゲルを用いた2つの乳癌細胞系、MCF7およびBT474におけるスフェロイド形成を評価した。比較のために、同数の細胞をFiSSにプレーティングし、調べた。細胞を5日間培養し、スフェロイドをカルセインAMで染色し、蛍光顕微鏡により調べた。
図18A〜18Dに示された結果は、MCF7(
図18A〜18B)においてマトリゲル培養がFiSSと類似したスフェロイドの数およびサイズを誘導したのに対し、BT474(
図18C〜18D)ではマトリゲル培養はFiSSよりまとまりのないコロニーを形成したことを示している。しかし、さらに、マトリゲルの内部に組み込まれているマトリゲル培養のコロニーはほとんどないことが見出された。
【0080】
実施例10:チューモロイドにおける細胞−細胞または細胞−ECM接着の評価
SCTおよびMCT培養におけるバイオマーカーの特徴付けに向けて、チューモロイドの培養上清に分泌される因子を調べた。チューモロイドの上清中のVGEFレベルの比較により、MCF7−MCTと比べてMCF7−SCTはVGEFが少ないことが示された(
図19)。さらに、
図11A〜11Cに示されているように、BT474−SCTおよび−MCTは両方とも有意な量のVEGFおよびIL−6を産生した。興味深いことに共培養は、培養培地に放出されるVGEFおよびIL−6の量の2倍の増加を示した。共培養で産生されたVGEFおよびIL−6のレベルのこの増加は、共培養で見られる細胞の増殖およびチューモロイドの増殖の増加に重要であり得ることを示唆するものであり、したがって、これらの2つのタンパク質は臨床的有効性のマーカーとして機能する可能性がある。
【0081】
さらに、SCTおよびMCT培養において放出される因子および分子を特徴付けするために、マルチプレックスサンドイッチELISAアッセイを利用し、複数のタンパク質/因子の検出を同時に可能にするヒトQuantibody Array(RayBiotech Inc.)を使用した。
図20は、アレイ1および2、パネル1〜8のシグナル強度を示すスキャンデータを示している。
図21の表2にリストされた幾つかの因子を含有するヒト骨代謝アレイを選択した。このリストには、接着分子(E−セレクチン、ICAM−1、P−カドヘリン、VE−カドヘリン)、増殖因子(aFGF、アクチビンA、アンドロゲン受容体(AR)、bFGF、骨形成タンパク質(BMP)−2、BMP−4、BMP−6、BMP−7、BMP−9、dickkopf−1(DKK−1)、IGF−1、オステオプロテゲリン(OPG)、オステオポンチン(OPN)、PDGF−BB、TGFβ1、TGFβ2、TGFβ3)、ケモカイン(単球走化性タンパク質1(MCP−1))、マクロファージ炎症性タンパク質(MIP)−1α、VCAM−1)、サイトカイン(IL−1α、IL−1β、IL−6、IL−8、IL−11、IL−17、M−CSF)、NFkBの受容体活性化因子(RANK)、オステオアクチビン、SDF−1α、TNF関連活性化誘導サイトカイン(TRANCE))、およびMMP−2、−3、−9、−13などのマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)が含まれる。
【0082】
これらの因子のいずれかがSCTおよびMCTで発現されるかどうかを決定するために、本発明者らは、QAH−BMA−1000アレイをBT474−SCTおよびMCTの培養上清のプールと4通りインキュベートした。実験は製造者のプロトコルを用いて行った。適切な陽性対照を使用してシグナル強度を正規化した。生データの結果が
図20に示されている。このデータの分析は、SCTと比較してMCTで41因子のうち7つが有意に変化して見出されたことを示した。これらには、PDGF−BB、OPGおよびDKK−1などの増殖因子、MCP−1、IL−6およびIL−8などのケモカイン、ならびにプロテアーゼMMP−3(例えば
図23A〜25参照)が含まれる。
【0083】
実施例11:ELISAを用いたラパチニブ処理チューモロイドにおける増殖因子の決定
これらの結果をさらに確証するために、
図20〜21に記載されたquantibody Arrayを用いてSCTおよびMCTの培養上清を調べた。ラパチニブ処理培養物を、SCTと比較してMCTで差次的に発現が見られる因子について調べた。
図22A〜24は、結果を示すグラフを示した図である。結果は、MCTの培養上清がIL−6およびIL−8における>7倍の増加を示し、用量依存的にラパチニブ処理すると基礎レベルまで低減したことを示した(
図22A〜22B)。対照的に、単球走化性タンパク質(MCP−1)発現は、MCTにおいて変わらないままであった。しかし、ラパチニブ処理は、MCP−1発現をSCTにおいて完全に消失させたが、MCTでは中程度(12.5uMラパチニブの存在下で高々50%)に消失させた。これは、MCTにおけるラパチニブに対する耐性が、持続的MCP−1に起因する可能性があることを示唆するものである(
図22C)。
【0084】
増殖因子のうちPDGF−BB(
図23A)は、SCTおよびMCTの両方で発現が見られたが、ラパチニブ処理はいずれのチューモロイドでもその発現を変えなかった。対照的に、Wntシグナル伝達阻害剤である発現DKK−1(
図23B)および骨再形成の負の調節因子であるOPG(
図23C)が、MCTで唯一発現が見られたが、SCTでは見られなかった。DKK−1の発現のみが、ラパチニブ処理により有意に低減した(
図23B)。他のMMPではなくMMP−3の発現が、SCTと比較してMCTで>20倍増加して見出され、ラパチニブ処理でごくわずかに低減することも見出された(
図24)。
図25は、乳癌患者におけるMCTで見出されたこれらのマーカーの臨床的関連性を記載する表を示す。
【0085】
実施例12:薬物応答の予測に関する3D FiSSとマトリゲルとの比較
臨床的有効性の予測に関して、マトリゲルベースの3D培養と比較してFiSSチューモロイドを評価するために、3日齢BT−474 SCT(マトリゲルまたはFiSSで培養)をラパチニブで処理し、チューモロイド形成(
図26A〜26D)および細胞生存率(
図27A〜27B)を調べた。マトリゲルは、FiSSチューモロイドと比較して多数のより小さなサイズのチューモロイドを誘導したが、それらのラパチニブに対する応答は
図27A〜27Bに示されているように類似していた。
【0086】
実施例13:試料の高含量スクリーニングで使用するためのFiSSプラットフォームの実現可能性の決定
チューモロイド培養物の自動イメージングおよび定量
高含量分析(HCA)は、蛍光顕微鏡法および定量的画像分析を行うための自動プラットフォームであり、マイクロタイタープレートに固定され染色された細胞を分析するのに使用されており、リン酸化、転移、細胞1個当たりベースのタンパク質の存在量、および細胞学的変化を含む多くの細胞変化を(ソフトウェアにより)定量化することができる。HCA分析を行うためにOperetta(Perkin Elmer)におけるFiSSチューモロイドのデータ取得を開始した。
【0087】
BT474に関する高含量イメージングの定量を最適化するために、チューモロイドを72時間インキュベートし、次いで20×対物レンズを備えるOperetta HCI Systemで撮像した。足場におけるBT474チューモロイドの単一平面zスタック画像をDAPIで染色し、Perkin Elmer製のOperetta高含量イメージングシステムを用いて画像を取得した。代表的なフィールドを20×倍率で選択し、各z平面間、2umの間隔でこれらのフィールドのzスタックを取得した。Zスタックを、画像処理ソフトウェアImage J(NIH)を用いて分析した。
図28A〜28Dに示される結果は、Image J分析がOperetta(Perkin Elmer)を用いて取得したチューモロイドのzスタック画像データを定量化するのに使用できることを示している。HCAを用いて本発明者らは、異なる濃度のラパチニブで処理したBT474チューモロイドにおけるKi−67発現の変化を定量化した。結果は、ラパチニブ処理BT474チューモロイド培養物における用量依存的Ki−67発現を示すものである(
図29)。
【0088】
チューモロイドアッセイの最適化:(Z因子分析)
3D細胞培養においては、ハイスループット系スクリーニング(HTS)への該培養の組み込みに重要な再現性に主な障害があった。以前の試験において、レザズリン(青)からレゾルフィン(高蛍光性の赤)への変換により細胞代謝および生存率のリアルタイムモニタリングを可能にするPrestoBlueアッセイの実現可能性が実証されていた。変換は代謝的に活性な細胞の数に比例し、故に定量的に測定することができる。LLC1チューモロイドに関するPrestoBlueアッセイ(Life Technologies、NY)の精度を実証するために、FiSSを予め加えた96ウェルプレートでLLC1細胞を培養した。バックグラウンド蛍光を考慮するために、一部のウェルは、LLC1チューモロイドなしでFiSSおよび培地のみを含有した。72時間後、PrestoBlueアッセイを行った。スクリーニングアプリケーションとしての該アッセイの適合性を評価するために、Z’因子を計算した。Z’因子は0.63および0.72で計算し、HTS即応性に優れていると見なされた(
図30A〜30B)。結果は、96ウェルプレートにおいてPrestoBlueアッセイは、チューモロイド培養の最小ウェル間変動を示し、反復実験における標準偏差(SD)は12%および10%以内であることが見出されたことを示している。
【0089】
生存率アッセイには数時間のインキュベーションが必要であるため、HTSでは、アッセイ試薬の添加が細胞を直ちに破壊し、これにより試薬を生存細胞集団とインキュベーションするという要件を取り除くATPベースのアッセイ、例えばCellTiter−Glo(Promega、MD)が好まれる。細胞増殖阻害が、添加した化合物の細胞毒性であるのか、それとも細胞静止作用によるものかであるのかを判別するために、死細胞の細胞死関連パラメーター、例えば、膜完全性(DNAへの色素の結合)、カスパーゼ3/7活性(後期アポトーシス)、プロテアーゼ活性の変化が測定される。3Dチューモロイド培養に関するATPベースのアッセイの実現可能性をテストするために、細胞代謝の包括的な指標であるATPを測定するためルシフェラーゼ反応を使用する発光生存率アッセイである、CellTiter−Glo 2.0の潜在能力を調べた。Mg2+およびATPの存在下、ルシフェラーゼはルシフェリンをオキシルシフェリンに変換し、発光の形態でエネルギーを同時に放出する。シグナル強度は、代謝活性と相関する存在するATPの量に正比例する。このアッセイは、早ければ試薬添加10分後にデータを記録することができ、発光シグナルは極めて安定的である(半減期>5時間)ため、HTSにとって理想的である可能性がある。パイロット試験において、本発明者らは、CellTiter−Glo試薬がチューモロイドに浸透できるかどうかを評価した。5日目のBT474−SCTの培地へのCellTox Green(2×)の添加と、それに続くルシフェリン試薬との10分間および20分間のインキュベーションは、CellTiter−Glo試薬がチューモロイド溶解の20分以内にSCT(直径:180uM)に浸透したことを示した(
図31)。
【0090】
CellTiter−Gloアッセイを使用して、BT474乳癌細胞系に由来するチューモロイドの増殖を阻害する上で6つの化合物の潜在能力を評価した。このパイロット試験からの結果は、例えば、D4化合物はBT474増殖を1:1000用量で阻害する(>70%)が、1:10,000用量では阻害しないことを示した(
図32)。
【0091】
FiSSの大容量製造の自動化
足場の大規模製造の質を向上する試みにおいて、電界紡糸技術を可能にし、様々なポリマー、化学製品、および生物製剤に適合する世界初の統合機器である、適合Spraybaseシステムを使用した。Spraybaseは、FiSS技術に必要とされる使いやすさ、安全性、柔軟性、およびスケーラビリティ(scalability)を提供する。Spraybaseは、我々のニーズに応じて様々なサイズの繊維を形成するのに使用することができる。ローラードラムと組み合わせたSpraybaseは、チューモロイド技術用の大容量のFiSSマットを製造するための最良のアプローチを提供する。抗癌剤のハイスループットスクリーニングおよび高含量イメージングのための96および384マイクロウェルFiSSプレートの両方を製造可能なこのプロセスのさらなる自動化を発展させる努力も払われている。チューモロイド形成を調べるのに、製造した96ウェルFiSSマイクロプレートの潜在能力を用いて、Z’因子を計算した。Z因子は、スクリーニングアプリケーションとしてのプレートの適合性を評価するのに使用した。結果は、製造した96ウェルマイクロプレートで培養したMCF7およびBT474細胞が、それぞれZ’因子、0.87および0.846、Z因子、0.812および0.501でチューモロイドを形成することを示した。これらの結果は、FiSS−製造した製造96ウェルマイクロプレートがチューモロイド培養のウェル間変動が最小限であり、故に抗癌剤のHTSに優れていると見なされたことを示している(
図33A〜33B)。
本発明の例示的な態様を以下に記載する。
<1> 腫瘍細胞(TC)、癌関連線維芽細胞(CAF)、および上皮細胞(EC)を細胞培養培地で共培養する工程を含み、ここでTC対CAF対ECの数の比が5対1対1であり、前記細胞培養培地がある量の間葉系幹細胞培養上清を含有する、多細胞チューモロイドを形成する方法。
<2> 前記腫瘍細胞が乳癌細胞である、<1>に記載の方法。
<3> 前記乳癌細胞が対象者の腫瘍に由来する、<2>に記載の方法。
<4> 前記間葉系幹細胞培養上清が、前記細胞培養培地の総量の少なくとも約20%存在する、<1>〜<3>のいずれか一項に記載の方法。
<5> 前記間葉系幹細胞培養上清が、前記細胞培養培地の総量の少なくとも約20%〜約50%存在する、<1>〜<3>のいずれか一項に記載の方法。
<6> 前記間葉系幹細胞培養上清がVEGFを少なくとも約800pg/mL含有する、<1>〜<5>のいずれか一項に記載の方法。
<7> 前記間葉系幹細胞培養上清がIL−6を少なくとも約100pg/mL含有する、<1>〜<6>のいずれか一項に記載の方法。
<8> 前記間葉系幹細胞培養上清がTGF−β1を少なくとも約1200pg/mL含有する、<1>〜<7>のいずれか一項に記載の方法。
<9> 前記細胞培養培地が約5%〜約10%マトリゲルをさらに含む、<1>〜<8>のいずれか一項に記載の方法。
<10> 前記TC、CAF、およびECが三次元足場で共培養される、<1>〜<9>のいずれか一項に記載の方法。
<11> 前記三次元足場が繊維状誘導スマートスキャフォールドである、<10>に記載の方法。
<12> 腫瘍細胞(TC)、癌関連線維芽細胞(CAF)、および上皮細胞(EC)を細胞培養培地で共培養することを含み、ここでTC対CAF対ECの数の比が5対1対1であり、前記細胞培養培地がある量の間葉系幹細胞培養上清を含有する、多細胞チューモロイドを形成させる工程と、
前記多細胞チューモロイドをある量の抗癌剤に曝露させる工程と、
を含む、抗癌剤の有効性を決定する方法。
<13> 前記腫瘍細胞が乳癌細胞である、<12>に記載の方法。
<14> 前記乳癌細胞が 対象者の腫瘍に由来する、<13>に記載の方法。
<15> 前記乳癌細胞が標準的な乳癌細胞系由来である、<13>に記載の方法。
<16> 前記間葉系幹細胞培養上清が、前記細胞培養培地の総量の少なくとも約20%存在する、<12>〜<15>のいずれか一項に記載の方法。
<17> 前記間葉系幹細胞培養上清が、前記細胞培養培地の総量の少なくとも約20%〜約50%存在する、<12>〜<15>のいずれか一項に記載の方法。
<18> 前記間葉系幹細胞培養上清が、VEGFを少なくとも約800pg/mL、IL−6を少なくとも約100pg/mL、およびTGF−β1を少なくとも約1200pg/mL含有する、<12>に記載の方法。
<19> 前記量の前記抗癌剤に曝露後の前記多細胞チューモロイドにおけるKi−67の発現を測定する工程をさらに含む、<12>〜<18>のいずれか一項に記載の方法。
<20> 前記量の前記抗癌剤に曝露後の前記培養培地に存在するVEGFまたはIL−6の量を測定する工程をさらに含む、<12>〜<19>のいずれか一項に記載の方法。