【解決手段】第1電極1aと母材2との間に第1アーク3aを発生させて母材表面から窪んだ溶融池を形成し、第1アーク3aを消弧した後に、第2電極1bと母材2との間に第2アーク3bを発生させて窪んだ溶融池に溶融金属を充填して溶接部を形成するアークスポット溶接装置において、第1アーク3aが消弧した時点から第2アーク3bが点弧するまでの間隔時間を検出する間隔時間検出部TDCと、間隔時間が許容時間範囲から外れているときは報知する報知部ARと、を備えている。第1アーク3aは非消耗電極アークであり、第2アーク3bは消耗電極アークである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術のアークスポット溶接方法では、第1電極と母材との間に第1アークを発生させて母材表面から窪んだ溶融池を形成し、第1アークを消弧した後に、第2電極と母材との間に第2アークを発生させて窪んだ溶融池に溶融金属を充填して溶接部を形成する。この溶接方法では、第1アークで形成された溶融池が適度の凝固状態になったときに、第2アークを点弧することによって良好な溶接ビードを形成することができる。
【0005】
しかし、第2アークの点弧タイミングが変動すると、第1アークによって形成された溶融池の凝固状態が適度でなくなり、溶接ビード形状が悪くなるという問題が発生する。第2アークの点弧タイミングの変動は、前回の溶接に伴う溶接ワイヤ突き出し長さの変動、アーク点弧の失敗等によって生じる。
【0006】
そこで、本発明では、第1アーク及び第2アークによるアークスポット溶接において、不良な溶接ビードの発生を監視することができるアークスポット溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
第1電極と母材との間に第1アークを発生させて前記母材表面から窪んだ溶融池を形成し、
前記第1アークを消弧した後に、第2電極と前記母材との間に第2アークを発生させて前記窪んだ溶融池に溶融金属を充填して溶接部を形成するアークスポット溶接装置において、
前記第1アークが消弧した時点から前記第2アークが点弧するまでの間隔時間を検出する間隔時間検出部と、
前記間隔時間が許容時間範囲から外れているときは報知する報知部と、
を備えたことを特徴とするアークスポット溶接装置である。
【0008】
請求項2の発明は、
前記第1アークが非消耗電極アークであり、前記第2アークが消耗電極アークである、
ことを特徴とする請求項1に記載のアークスポット溶接装置である。
【0009】
請求項3の発明は、
前記第1アークがプラズマアークであり、前記第2アークが消耗電極アークである、
ことを特徴とする請求項1に記載のアークスポット溶接装置である。
【0010】
請求項4の発明は、
前記第1アークが非消耗電極アークであり、前記第2アークがフィラワイヤを添加する非消耗電極アークである、
ことを特徴とする請求項1に記載のアークスポット溶接装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、第1アーク及び第2アークによるアークスポット溶接において、不良な溶接ビードの発生を監視することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係るアークスポット溶接装置のブロック図である。同図において、プラズマアークを発生させるためのパイロットアーク回路については、記載を簡潔にするために省略している。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0015】
破線で囲まれた溶接トーチWTは、非消耗電極1aと、それを取り囲むプラズマガスノズル4と消耗電極である溶接ワイヤ1bに給電する給電チップ10と、プラズマガスノズル4及び給電チップ10の両方を取り囲むシールドガスノズル5と、を備えている。非消耗電極1aには、タングステン電極等が使用される。
【0016】
プラズマガスノズル4内をプラズマガス7が流れる。また、シールドガスノズル5内をシールドガス9が流れる。プラズマガス7にはアルゴンガスが使用されることが多い。シールドガス9にはアルゴンガス80体積%+炭酸ガス20体積%の混合ガスが使用されることが多い。
【0017】
プラズマアーク3aは非消耗電極1aと母材2との間に発生する。消耗電極アーク3bは溶接ワイヤ1bと母材2との間に発生する。プラズマアーク3aは、非消耗電極1aが負極となり、母材2が正極となって発生する。消耗電極アーク3bは、溶接ワイヤ1bが正極となり、母材2が負極となって発生する。母材2は、鋼材等を複数枚重ねたものである。
【0018】
起動回路ONは、溶接を開始するときにHighレベルとなる起動信号Onを出力する。起動回路ONは、溶接ロボット(図示は省略)を使用する場合には溶接ロボット制御装置(図示は省略)内に設けられる場合もある。
【0019】
シーケンス制御回路SCは、上記の起動信号Onを入力として、以下の処理を行い、シーケンス制御信号Scを出力する。
1)Sc=0の初期状態において、起動信号OnがHighレベルに変化すると、予め定めたプリフロー期間中はSc=1を出力する。
2)その後の予め定めたプラズマアーク期間中はSc=2を出力する。
3)その後の予め定めた休止期間中はSc=3を出力する。
4)その後の予め定めた消耗電極アーク期間中はSc=4を出力する。
5)その後の予め定めたアフターフロー期間中はSc=5を出力する。
6)アフターフロー期間が終了すると、Sc=0にリセットされる。
【0020】
プラズマガス流量設定回路FRは、上記のシーケンス制御信号Scを入力として、シーケンス制御信号Sc=0〜3(プリフロー期間、プラズマアーク期間)のときは予め定めた第1流量となり、シーケンス制御信号Sc=3(休止期間)のときに第1流量から予め定めた第2流量へと増加し、シーケンス制御信号Sc=4(消耗電極アーク期間)のときは第2流量となり、シーケンス制御信号Sc=5(アフターフロー期間)のときは第1流量となるプラズマガス流量設定信号Frを出力する。ここで、第2流量は第1流量よりも大である。
【0021】
プラズマガス電磁弁GPは、上記のシーケンス制御信号Scを入力として、シーケンス制御信号Sc=1〜5のときに開状態となり、プラズマガスボンベ6からのプラズマガス7が流れる。
【0022】
プラズマガス流量調整器FPは、上記のプラズマガス流量設定信号Frによって定まる値にプラズマガス7の流量を調整する。
【0023】
シールドガス流量調整器FSは、シールドガスボンベ8からのシールドガス9の流量を調整する。流量の調整は、シールドガス流量調整器FSの本体の回転ツマミを手動で操作することによって行う。シールドガス9の流量は、例えば10リットル/分に調整される。
【0024】
シールドガス電磁弁GSは、上記のシーケンス制御信号Scを入力として、シーケンス制御信号Sc=1〜5のときは開状態となり、シールドガスボンベ8からのシールドガス9が流れる。
【0025】
プラズマアーク用電源PSAは、上記のシーケンス制御信号Scを入力として、シーケンス制御信号Sc=2(プラズマアーク期間)のときは出力状態となり、プラズマアーク電流Iaを通電してプラズマアーク3aを発生させる。プラズマアーク用電源PSAは、定電流特性又は垂下特性を有する電源である。プラズマアーク溶接が第1アークに相当する。第1アークは非消耗電極アークであれば良いので、ティグ溶接でも良い。
【0026】
消耗電極アーク用電源PSBは、上記のシーケンス制御信号Scを入力として、シーケンス制御信号Sc=4(消耗電極アーク期間)のときは出力状態となり、消耗電極アーク電流Ibを通電して消耗電極アーク3bを発生させる。消耗電極アーク用電源PSBは、定電圧特性を有する電源である。消耗電極アーク溶接が第2アークに相当する。第2アークは溶融池に溶融金属を充填できるものであれば良いので、マグ溶接、炭酸ガスアーク溶接、フィラワイヤを添加する非消耗電極アーク溶接等である。
【0027】
送給機WMは、上記のシーケンス制御信号Scを入力として、シーケンス制御信号Sc=4(消耗電極アーク期間)のときは溶接ワイヤ1bを送給する。
【0028】
プラズマアーク電流判別回路IADは、上記のプラズマアーク電流Iaの通電を判別するとHighレベルとなるプラズマアーク電流判別信号Iadを出力する。
【0029】
消耗電極アーク電流判別回路IBDは、上記の消耗電極アーク電流Ibの通電を判別するとHighレベルとなる消耗電極アーク電流判別信号Ibdを出力する。
【0030】
間隔時間検出回路TDCは、上記のプラズマアーク電流判別信号Iad及び上記の消耗電極アーク電流判別信号Ibdを入力として、プラズマアーク電流判別信号IadがHighレベルからLowレベルに変化した時点(プラズマアークの消弧時点)から消耗電極アーク電流判別信号IbdがLowレベルからHighレベルに変化した時点(消耗電極アークの点弧時点)までの間隔時間Tdを検出して、間隔時間検出信号Tdcを出力する。
【0031】
報知回路ARは、上記の間隔時間検出信号Tdcを入力として、間隔時間Tdが予め定めた許容時間範囲から外れているときは報知する。許容時間範囲は、プラズマアーク3aによって形成された溶融池が適度の凝固状態となる時間範囲である。間隔時間Tdが許容時間範囲内にあるときは、溶接ビードが良好となる。報知手段は、報知信号を外部装置に出力する報知、音による報知、表示による報知等である。
【0032】
図2は、
図1の溶接装置における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は起動信号Onの時間変化を示し、同図(B)はシーケンス制御信号Scの時間変化を示し、同図(C)はプラズマガス流量Fp[リットル/分]の時間変化を示し、同図(D)はシールドガス流量Fs[リットル/分]の時間変化を示し、同図(E)はプラズマアーク電流Iaの時間変化を示し、同図(F)は消耗電極アーク電流Ibの時間変化を示す。以下、同図及び
図1を参照して動作について説明する。
【0033】
溶接トーチWTのシールドガスノズル5の先端を母材2の表面に押し付けた状態にし、時刻t1において、同図(A)に示すように、起動信号OnがHighレベルに変化すると、アークスポット溶接が開始される。母材2としては、複数枚の鋼材を重ねたものである。起動信号Onは時刻t7においてLowレベルに戻る。
【0034】
時刻t1において、起動信号OnがHighレベルに変化すると、同図(B)に示すように、シーケンス制御信号Scの値が0から5まで自動的に変化する。ここでは、シーケンス制御信号Scの変化を数値として表示している。シーケンス制御信号Scは、時刻t1以前は0であり、時刻t1〜t2の予め定めたプリフロー期間中は1となり、時刻t2〜t3の予め定めたプラズマアーク期間中は2となり、時刻t3〜t4の予め定めた休止期間中は3となり、時刻t4〜t5の予め定めた消耗電極アーク期間中は4となり、時刻t5〜t6の予め定めたアフターフロー期間中は5となり、時刻t6において0に戻る。例えば、プリフロー期間は0.5秒に設定され、アフターフロー期間は1秒に設定される。その他の期間は母材2の重ね枚数、各板厚、材質等に応じて適正値に設定される。例えば、母材2が、0.8mm、1.2mm及び1.6mmの3枚の鋼材を重ねたものであるときは、プラズマアーク期間は0.5秒に設定され、休止期間は1秒に設定され、消耗電極アーク期間は3秒に設定される。また、プラズマアーク電流Iaは220Aに設定され、消耗電極アーク電流Ibは150Aに設定される。
【0035】
同図(D)に示すように、シールドガス流量Fsは、時刻t1においてシーケンス制御信号Scが1に変化すると、予め定めた流量での放流を開始し、時刻t6においてシーケンス制御信号Scが0になると放流を停止する。例えば、流量は10リットル/分に設定される。
【0036】
同図(C)に示すように、プラズマガス流量Fpは、時刻t1においてシーケンス制御信号Scが1に変化すると、予め定めた第1流量での放流を開始する。シーケンス制御信号Sc=3(休止期間)になると、プラズマガス流量Fpは、第1流量から予め定めた第2流量へと増加する。その後に、シーケンス制御信号Sc=5(アフターフロー期間)になると、プラズマガス流量Fpは第1流量に減少する。時刻t6においてシーケンス制御信号Scが0になると、プラズマガス流量Fpは0となり放流を停止する。第2流量は第1流量よりも大である。例えば、第1流量は1.5リットル/分に設定され、第2流量は4リットル/分に設定される。
【0037】
時刻t2においてシーケンス制御信号Scが2に変化すると、プラズマアーク用電源PSAが出力を開始しプラズマアーク3aが点弧して、同図(E)に示すように、プラズマアーク電流Iaが通電する。時刻t3においてシーケンス制御信号Scが3に変化すると、プラズマアーク用電源PSAが出力を停止しプラズマアーク3aが消弧して、プラズマアーク電流Iaの通電が停止する。プラズマアーク3aを点弧するためにパイロットアークが先に発生するが、パイロットアークについては、本発明の記載を簡潔にするために省略している。したがって、プラズマアーク3aは、時刻t2〜t3のプラズマアーク期間中のみ発生している。
【0038】
時刻t4においてシーケンス制御信号Scが4に変化すると、消耗電極アーク用電源PSBが出力を開始し溶接ワイヤ1bが送給されて、時刻t41に消耗電極アーク3bが点弧する。時刻t41に消耗電極アーク3bが点弧すると、同図(F)に示すように、消耗電極アーク電流Ibが通電する。時刻t4の消耗電極アーク用電源PSBの出力開始と、時刻t41の消耗電極アーク3bの点弧とにズレがあるのは、溶接ワイヤ1bが母材2と接触するまでに時間が必要なためである。時刻t3にプラズマアーク3aが消弧してから時刻t41に消耗電極アーク3bが点弧するまでの間隔時間Tdが
図1の間隔時間検出回路TDCによって検出される。時刻t5においてシーケンス制御信号Scが5に変化すると、消耗電極アーク用電源PSBが出力を停止し消耗電極アーク3bが消弧して、消耗電極アーク電流Ibの通電が停止する。したがって、消耗電極アーク3bは、時刻t4〜t5の消耗電極アーク期間中の時刻t41〜t5の期間に発生している。
【0039】
以下、本実施の形態の作用効果について説明する。第1の工程は、アーク発生予定空間を大気から遮蔽するためにプラズマガス7及びシールドガス9を流すプリフロー期間である。第2の工程は、プラズマアーク3aを点弧させて母材2の表面から窪んだ溶融池を形成するプラズマアーク期間である。第3の工程は、プラズマアーク3aが消弧してから消耗電極アーク3bが点弧するまでの休止期間である。この休止期間中に、溶接ワイヤ1bの狙い位置がプラズマアーク3aによって形成された溶融池の中心になるように溶接トーチWTを移動させる場合もある。この休止期間中に、プラズマアーク3aによって形成された溶融池が適度な凝固状態となる。また、この休止期間中に、プラズマガス7の流量を第1流量から第2流量に増加させる。第4の工程は、消耗電極アーク3bを点弧させて上記の窪んだ溶融池に溶融金属を充填して溶接部を形成する消耗電極アーク期間である。第5の工程は、溶接ビードを大気から遮蔽するためにプラズマガス7及びシールドガス9を流すアフターフロー期間である。これらの工程によって、1回のアークスポット溶接が完了する。
【0040】
プラズマアーク3aの消弧時点から消耗電極アーク3bの点弧時点までの間隔時間Tdは、上述したように、消耗電極アーク3bの点弧タイミングが変動するために変動する。消耗電極アーク3bの点弧タイミングの変動は、前回の溶接に伴うワイヤ突き出し長さの変動、アーク点弧の失敗等によって生じる。間隔時間Tdが許容時間範囲から外れると、プラズマアーク3aによって形成された溶融池の凝固状態が適度でなくなり、最終的な溶接ビードが不良となる。本実施の形態では、間隔時間Tdが許容時間範囲から外れると報知される。これにより、溶接ビードの不良の発生を確実に検出することができる。
【0041】
本実施の形態に係るアークスポット溶接装置は、第1アークが消弧した時点から第2アークが点弧するまでの間隔時間を検出する間隔時間検出部と、間隔時間が許容時間範囲から外れているときは報知する報知部と、を備えている。このために、本実施の形態では、第1アーク及び第2アークによるアークスポット溶接において、不良な溶接ビードの発生を監視することができる。
【0042】
さらに、本実施の形態において、第1アークが非消耗電極アークであり、第2アークが消耗電極アークであることが望ましい。
【0043】
さらに、本実施の形態において、第1アークがプラズマアークであり、第2アークが消耗電極アークであることが望ましい。
【0044】
さらに、本実施の形態において、第1アークが非消耗電極アークであり、第2アークがフィラワイヤを添加する非消耗電極アークであることが望ましい。