【解決手段】新たな症状が経時的に増大または重症化する場合、これは、「進行」型のMSと称される。発作の間に、症状は完全に消失し得るが、とりわけ疾患が進むにつれて、恒久的な神経学的問題が生じることが多い。進行型のMSを有する患者は、再発寛解型を有する患者よりも臨床的見通しが著しく悪い。本発明は、進行型のMSの処置、より詳細には二次性進行型(SP)および一次性進行型(PP)のMSの処置のための医薬組成物に関する。経口のアンドログラホリド240mg/日は、ヒト患者における進行型の多発性硬化症に有意な利益を与えることが示された最初の処置である。
【背景技術】
【0006】
多発性硬化症(MS)は、主として20代または40代の若年成人が罹患する中枢神経系(CNS)の慢性神経炎症性脱髄障害であり、若年および中年者の間で非外傷性障害の最も一般的な原因の1つである。MSに関連する医療費は、米国で毎年100億ドル、全世界で150億ドルを超えると推定される。
【0007】
2008年現在、世界的に200万から250万人の間の人々が罹患しており、比率は、世界の異なる地域において、また異なる集団間で大きく変動する。MSは、米国で350,000人、全世界で250万人を超える人々が罹患している。米国では、推定有病率は、人口100,000人当たりおおよそ90人である。
【0008】
MSの症状は、10歳から80歳の間のいずれかの年齢で開始し得るが、通常は20歳から40歳の間に始まり、平均年齢は32歳である。女性の数が男性の数を2〜3対1の比で上回るが、一次性進行型MS(PPMS)では、その比は等比に近くなる。
【0009】
多発性硬化症という名称は、特に脳および脊髄の白質における瘢痕(硬化(sclerae)−斑または病変としての方がよく知られている)を指す。MSの病因は不明である。これは、身体の免疫系がそれ自身の組織を攻撃する自己免疫疾患であると考えられている。MSにおいて、この過程は、脳および脊髄内の神経線維を覆い、保護する脂肪性物質であるミエリンを破壊する。ミエリンが損傷を受けると、その神経に沿って伝わる情報が減速または遮断され得る。MSは、CNS全体に散在する脱髄斑領域によって特徴付けられ、視神経、脊髄、脳室周囲白質(WM)、脳梁、ならびに皮質および皮質下灰白質(GM)に好発する。
【0010】
疾患経過の後期に、障害の緩やかな進行が観察される。障害の明らかな進行(二次性進行型MS)は、進行中の不可逆的な組織傷害が、それを超えると神経系が代償することができなくなる臨界閾値を上回ったときに生じる。この時点で、疾患は、本質的に変性過程となり、進行中の炎症とは独立した神経学的退行を伴う。
【0011】
多発性硬化症は、「散在性硬化症」または「散在性脳脊髄炎」としても公知である。これは、脳および脊髄内の神経細胞の絶縁被覆が損傷を受ける炎症性疾患である。この損傷は、神経系の部分が情報伝達する能力を妨害して、身体的、精神的および時には精神医学的問題を含む広範な徴候および症状を生じさせる。
【0012】
原因は不明であるが、根底にある機序は、免疫系による破壊またはミエリン産生細胞の機能不全のいずれかであると考えられている。この提案されている原因は、遺伝学および環境因子、例えば感染を含む。MSは、通常は、主な徴候および症状ならびに裏付けとなる医学的検査の結果に基づいて診断される。
【0013】
MSは、経時的な症状の重症度の比較によって分類することができる。新たな症状が単独の発作として生じる場合、これは、「再発寛解」型のMSと称される。再発寛解型(RRMS)は、最も一般的な疾患型であり(患者の85%)、その症状は、数日間から数週間現れ、その後、通常は自然に消散する。
【0014】
新たな症状が経時的に増大または重症化する場合、これは、「進行」型のMSと称される。発作の間に、症状は完全に消失し得るが、とりわけ疾患が進むにつれて、恒久的な神経学的問題が生じることが多い。進行型のMSを有する患者は、再発寛解型を有する患者よりも臨床的見通しが著しく悪い。本発明は、進行型のMSの処置、より詳細には二次性進行型(SP)および一次性進行型(PP)のMSの処置のための医薬組成物に関する。
【0015】
多発性硬化症に対する公知の治療法は存在しない。処置は、発作後に機能を改善し、新たな発作を防止することを試みる。MSを処置するのに使用される薬物療法は、穏やかな有効性を示すが、有害作用を有し、忍容性が不良であり得る。多くの人々が、有効性の証拠がないにもかかわらず、代替処置を求めている。長期アウトカムを予測することは困難である。平均余命は、非罹患集団よりも5から10年短い。平均を上回るアウトカムは、女性、若年期に疾患を発症する者、および最初に経験した発作が少ない者においてより多く見られる。以下の段落では、MSに対する様々な先行技術の処置についての臨床試験において、これまでに評価されている8種の薬物を分析する。
【0016】
組織損傷が長年にわたり蓄積した後、RRMS患者の50%は、典型的には、進展して二次性進行型MS(SPMS)を示し、既存の神経学的欠損が経時的に緩やかに悪化し、標準的なMS療法に応答しなくなる。これまでに、この型のMSを阻止または回復させるのに利用可能な免疫調節処置は存在しない。
【0017】
一次性進行型(PPMS)は、MS患者の約15%が罹患し、これらの患者は、臨床的再発を伴わずに発病時から緩やかに悪化する症候を有し、PPMSを有する患者は、高齢であり、脳MRIでの異常が少なく、一般に標準的なMS療法に応答しない傾向がある。患者の約15%は、発病時からPPMSを有する。これまでに、この型のMSを阻止または回復させるのに利用可能な免疫調節処置は存在しない。
【0018】
進行性再発型(PRMS)は、発病時からの緩やかな神経学的悪化およびそれに続く重畳的再発を伴う。PPMSは、初回再発が認識されなかった、忘れられた、または臨床的に無症状であったSPMSである疑いがある。
【0019】
インターフェロンベータ1a、インターフェロンベータ1bおよびグラチラマー酢酸塩は、障害進行の減速において有効性を実証しなかった。ミトキサントロン、メトトレキサート、アザチオプリンおよびシクロホスファミドなどの療法は、両方のRRMS患者がSPおよびPPMS患者とともに評価される不十分な方法論的臨床研究を有し、障害の進行の減少を示さない。最後に、ナタリズマブ、フィンゴリモドおよびテリフルノミドには証拠が存在しないが、公開されていないデータは、進行型に対する効果がないことを示唆する。したがって、RRMSに使用される疾患修飾薬を含む現在の利用可能な薬物は、SPおよびPPMSの型の進行性障害を回復させ、抑止し、またはさらに減速することができない。
【0020】
インターフェロンベータ−1a(IFNB−1a)は、二次性進行型MS(SPMS)における有効性について検査されている。この検査は、2つの臨床試験を含んでいた。IMPACT研究は、2年間毎週のIFNB−1a(筋肉内)またはプラセボを受けるようにランダム化された再発を伴う二次性進行型MSを有する合計436名の対象を含んでいた。IMPACTデータは、IFNB−1aの群において、MSFC低減(40.4%、p=0.033)、より少ない再発(33%、p=0.008)、11のMS生活の質スケールのうち8つにおけるより良好なアウトカムおよびより低いMRI活動性(p<0.001)の点で有意な利益を示した。
【0021】
SPECTRIMS研究は、3年間IFNB−1a(毎週3回)またはプラセボを受けた再発を伴う二次性進行型MSを有する合計618名の患者を含んでいた。データは、IFNB−1aが障害進行に有意な影響を及ぼさなかった(p=0.146)が、有意な処置の利益が再発率(年間0.71から0.50に減少、p<0.001)およびMRIアウトカムに対して観察されたことを示した。
【0022】
インターフェロンベータ−1b(IFNB−1b)もまた、2つの臨床試験において二次性進行型MSにおける有効性について検査されている。EUSPMSでは、二次性進行型MSを有する合計718名の患者がIFNB−1bまたはプラセボにランダム化され、処置継続期間は最大3年であった。EUSPMSデータは、総合障害度スケール(Expanded Disability Status Scale)(EDSS)による確認された1.0ポイントの進行までの期間が遅延し(p=0.007)、2.0EDSSポイントの進行が27%低かったことを示した。
【0023】
NASPMS研究は、プラセボまたはIFNB−1bのいずれかにランダム化された再発を伴う二次性進行型MSを有する939名の対象を含んでいた。NASPMSデータは、確認された障害進行までの期間に対する処置の利益を示さなかったが、再発およびMRIに関連するアウトカムは、有意な利益を示した。EUSPMSおよびNASPMS試験の両方の組合せ分析は、より顕著な障害進行および継続的な再発活動性を有する患者が処置から利益を得やすい可能性があることを示す。
【0024】
一次性進行型MS(PPMS)について、コクランシステマティックレビューは、2つのランダム化対照試験(合計123名の患者を伴う)を含んでおり、PPSMを有する患者においてインターフェロン処置とプラセボとを比較した。このレビューは、疾患の進行を有する患者の割合に関して差を示さず(RR0.89、95%CI0.55から1.43)、より高頻度の処置に関連する有害事象を伴った(RR1.90、95%CI1.45〜2.48)。試験の1つは、インターフェロン部門において、2年時点でより少数の活動性MRI病変を示した(差−1.3、95%CI−2.15から−0.45、P=0.003)。
【0025】
グラチラマー酢酸塩は、PPMSを有する合計943名の患者がランダム化された対照臨床試験において検査された(Wolinsky、2007年)。データは、持続的な蓄積した障害までの期間に有意でない遅延が存在したことを示した(ハザード比、0.87[95%信頼区間、0.71〜1.07];p=0.1753)。
【0026】
La Mantia、2010年(コクランシステマティックレビュー)において、一次性進行型MSを有する1049名の患者のデータがメタ分析に用いられた。SPMSおよびPPMS患者における利益は示されなかった。重度の毒性は見られなかった。最も一般的な全身性有害事象は、潮紅、胸部絞扼感、発汗、動悸、および不安の一過性の自己限定的なパターンの反応であった。グラチラマー酢酸塩で処置された患者の最大半数において局所注射部位反応が観察され、したがって、アウトカムの盲検判定に問題があった。
【0027】
ミトキサントロンは、悪化するRRMSまたは再発を伴うSPMSを有する194名の患者の対照臨床試験を記載しているHartung(2002年)において評価された。患者はプラセボまたはミトキサントロンに割り当てられ、188名の患者がプロトコールを完了し、24カ月時点で判定することができた。24カ月時点で、ミトキサントロン群は、異なる臨床的尺度によりプラセボ群と比較して利益を受け(差0.3[95%CI0.17〜0.44];p<0.001)、障害の進行および臨床的増悪を減少させた。
【0028】
同様に、Martinelli(2005年)、コクランシステマティックレビューは、RRMS、PRMSおよび再発を伴うSPMSを有する合計270名の患者が参加する4つの臨床試験のメタ分析を提供している。メタ分析は、ミトキサントロンが2年の追跡時点で障害の進行を減少させたことを示した(6カ月の確認された障害進行を有する患者の割合:オッズ比0.3、p=0.05)。しかしながら、これらの結果は、薬物投与量および組み入れ基準の点で異質な試験に基づく。
【0029】
シクロホスファミドは、La Mantia(2007年)、コクランシステマティックレビューにおいてメタ評価された。メタ分析は、合計152名の参加者を伴う、シクロホスファミドをプラセボまたは無処置と比較する4つのRCTを含んでいた。メタ分析は、シクロホスファミドが、EDSSスコアの次の段階への進展として定義される長期(12、18、24カ月)の臨床的障害進行を防止しなかったことを示した。しかしながら、障害の平均変化(最終障害をベースラインから引いたもの)は、12カ月時点(効果サイズ−0.21、95%信頼区間−0.25から−0.17)および18カ月時点(−0.19、95%信頼区間−0.24から−0.14)では処置群の方が有意に良好であったが、24カ月時点では対照群の方が良好であった(0.14、CI0.07から0.21)。
【0030】
メトトレキサートは、60名の進行型MS患者のみによる試験において研究された。Gray(2006年)からの結果は、持続的なEDSS進行および再発回数の有意でない減少が存在し、メトトレキサート療法の方が良好であったことを示す。再発率に関するデータは存在せず、最初の再発までの期間に差は存在しなかった。メトトレキサート(87.1%)およびプラセボ群(89.7%)の両方において軽度の副作用が報告されたが、重度の副作用は存在しなかった。
【0031】
リツキシマブは、静脈内リツキシマブまたはプラセボにランダム化された439名のPPMS患者において研究された。Hawker(2009年)からのデータは、リツキシマブとプラセボとの間の確認された疾患進行までの期間の差が有意性に達しなかったことを示した(96週間の比率:プラセボ38.5%、リツキシマブ30.2%;p=0.14)。ベースラインから96週目まで、リツキシマブ患者は、T2病変体積の増加がより少なく(p<0.001)、脳体積変化は、プラセボと類似していた(p=0.62)。有害事象は、群間で同程度であった。
【0032】
アザチオプリンのコクランシステマティックレビュー(Casetta(2007年))は、全ての臨床型のMSを有する698名のランダム化された患者を含んでいた。プールされたデータは、アザチオプリンが、1年目の処置の間(相対リスク減少[RRR]=20%;95%CI=5%から33%)、2年(RRR=23%;95%CI=12%から33%)および3年(RRR=18%;95%CI=7%から27%)の追跡時点で再発した患者の数を減少させたことを示した。これらの結果は、感度分析において一貫していた。研究間の異質性は存在しなかった。最初の2から3年の間に進行した患者の数を計算するためには、合計87名の患者による3つの小規模試験のみからのデータが利用可能であった。3年の追跡時点でアザチオプリン療法の統計的に有意な利益が存在し(RRR=42%;95%CI=7%から64%)、この結果は、感度分析後も頑健であった。
【0033】
このように、先行技術は、MSに対する多くの潜在的療法を教示している。しかしながら、当該技術はまた、ある特定の型のMSが、現在公知の療法に依然として耐性を示すことを教示している。
【0034】
アンドログラホリド(特許請求された化合物)およびある特定の類似化合物は、Juan Luis HANCKEら、米国特許証第8080495号によって教示されている。同特許はまた、「リウマチ性疾患、乾癬、全身性皮膚筋炎(dermatomycocytis)、多発性硬化症[および]エリテマトーデス」を含む自己免疫疾患を教示している。1頁:29〜39行目を参照されたい。多発性硬化症に関して、同特許は、「実施例9に記載されたアンドログラホリドの混合物を使用すると、本発明の組成物の3カ月の処置後に、疾患の症状の正常化が生じる。加えて、本組成物は、他の処置を妨げない。」と記載している。18頁:10〜15行目を参照されたい。同特許は、あいにく、そこで研究された多発性硬化症の型を明示的に記載していない。しかしながら、「他の処置」についての言及は、そこで研究されたMSの型が、「他の処置」を実際に有する唯一の型、すなわち、再発寛解型のMSであったはずであることを意味する。したがって、この特許は、進行型のMSを処置するためのアンドログラホリドの使用を、明示的にも黙示的にも教示していない。
【0035】
さらに、当該技術は、再発寛解型MSに対する他の全ての処置が、進行型のMSに無効であることを教示している。上記を参照されたい。したがって、この先行技術特許は、特許請求された化合物を進行型のMSに使用することに成功する合理的期待を当業者に提供しなかった。
【0036】
公開されたPCT出願WO2013/096423は、特許請求された化合物が、多発性硬化症の処置におけるインターフェロンの有効性を相乗的に改善することを教示している。2頁の概要、8頁の第7段落を参照されたい。しかしながら、当該技術は、インターフェロンが、進行型のMSの処置に全く有効でないことを教示している。上記を参照されたい。したがって、当業者は、WO2013/096423を読んで、進行型のMSではなく、再発寛解型のMSを処置するために、インターフェロンを特許請求された化合物と組み合わせることを教示したと思われる。同様に、当業者は、WO2013/096423を読んで、インターフェロンがMS療法の不可欠な部分であることを教示したと思われる。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明者らの臨床研究の詳細は、参照により本明細書に組み込まれる米国仮特許出願第62/347218号(2016年6月8日出願)に記載されている。その研究は24カ月の研究としてデザインされたが、わずか12カ月の処置後の中間結果は、統計的に有意な有効性を示す。本発明者らの中間結果は、二次性進行型(SP)および一次性進行型(PP)の多発性硬化症(MS)の処置において、アンドログラホリドクラスの化合物の経口投与によって再ミエリン化、および神経発生が刺激されることを示す。
【0051】
多発性硬化症機能複合(MSFC)疾患活動性指数には、脚の機能、腕の機能および認知機能という3つの構成要素が存在する。対応する検査は、25フィート(7.6m)歩行、9ホールピン検査および定速聴覚的連続加算検査3(PASAT3)である。各来院の際に、各検査を複数回試行する。MSFCスコアおよび3つのサブスケールのスコアならびに基礎値からの変化を、各来院の際に記録する。
【0052】
進行型MSの疾患重症度の一尺度は、総合障害度スケール(EDSS)である。EDSSは、MSにおける神経学的障害を決定するためのスケールであり、疾患の進行を確認するのに使用される。これは、2つの部分の系からなる。第1の部分は、8つの機能別障害度(functional system)(FS)を測定する。第2の部分は、障害を1から10のスケールにより測定し、0は障害なしであり、10はMSによる死亡である。
【0053】
文献は、無処置のMS患者において、EDSSによる障害の評価が、2年の追跡後に対象の15%において1ポイント増加することを示している(Kragtら、2010年)。このパラメータの50%の減少を評価するためのサンプルサイズは、介入群において、対象の7.5%が障害スケールで1ポイント増加すると期待される。0.05の有意水準および0.80の検出力で差を見出すためには、1群当たり28名の対象を評価することが必要となる。各対照につき1名の介入対象および20%の脱落率も考慮して、評価する対象の合計数は、68名である。0.05の有意水準および0.80の検出力で差を見出すためには、1群当たり28名の対象を評価することが必要である。各対照につき1名の介入対象および20%の「脱落」も考慮して、評価する合計数は、68名である。
【0054】
本発明者らの12カ月の処置の結果を
図6に示す。
図6は、処置がプラセボに対する改善をもたらし、改善は、9カ月の処置によって統計的に有意となり、12カ月の処置によってさらに有意となることを示す。
【0055】
9ホールピン検査(9HPT)は、MS機能複合(MSFC)スコアの構成要素である。9HPTは、9本のピンのそれぞれを厚板の9個の穴に挿入するのに要する時間(秒)を測定する計時検査である。この検査は、右腕および左腕のそれぞれについて行う。この検査は、目と手の協調および微細な筋肉制御を測定する。本発明者らの12カ月の処置の結果を
図7に示す。右手検査(9HPT−R)の結果は、処置が検査を完了するのに要する時間の改善(減少)をもたらし、この改善は、12カ月の処置によって統計的に有意となることを示す。左手検査(9HPT−L)のデータは、この改善を確実にするが、興味深いことに、改善がほぼ直ちに統計的に有意となり、12カ月にわたり有意性が増すことを示す。左手および右手のデータを比較する際には、左手検査の縦(時間)の目盛りが圧縮されていることに留意されたい。この理由は、左手は一般に非利き手であり、したがって、完了に体系的により長い時間を要するからである。
【0056】
協調の別の尺度は、25フィート歩行検査(25FWT)である。25FWTは、7.6メートル(25フィート)の距離を歩行するのに要する時間(秒)を測定する。文献は、無処置のMS患者において、時間(秒)(患者が25フィートの距離を進むのに必要とする時間)によって評価される障害が、対象の45%において1ポイント増加することを示している(Kragtら、2010年)。このパラメータの50%の減少を評価するために、サンプルサイズを計算した(つまり、介入群において、対象の22.5%が障害スケールで1ポイント増加すると期待される)。0.05の有意水準および0.80の検出力で差を見出すためには、1群当たり68名の対象を評価することが必要である。各対照につき1名の介入対象および20%の脱落も考慮して、評価する対象の合計数は、68名である。0.05の有意水準および0.43の検出力で差を見出すためには、1群当たり28名の対象を評価することが必要である。各対照につき1名の介入対象および20%の脱落も考慮して、評価する合計対象は、68名である。
【0057】
図8における本発明者らの予備データは、処置が検査を完了するのに要する時間のプラセボに対する改善(減少)をもたらし、この改善は、処置の開始後直ちに統計的に有意となり、12カ月の処置の間持続することを示す。
【0058】
したがって、本発明の一目的は、1種または複数の薬学的に許容される賦形剤および/または担体を任意選択で含む、アンドログラホリドおよび/またはその類似体の経口投与を含む(compromising)、二次性進行型(SP)および一次性進行型(PP)の多発性硬化症(MS)の処置のための医薬組成物を提供することである。
【0059】
したがって、本発明の別の目的は、SPMSおよびPPMSならびに/または別の脱髄疾患を患っている対象を処置する方法であって、本発明の医薬組成物を、対象に、再ミエリン化および神経発生を生じるのに有効な量で十分な期間投与することからなる方法を提供することである。
【0060】
本発明は、SPMSおよびPPMSの型ならびに/または他の脱髄疾患の処置のための医薬組成物であって、式(I)
【化1】
[式中、
R
1は、水素、アルキルまたはヒドロキシルからなる群から選択され、
R
2は、ヒドロキシアルキルまたはアルキル−O−L
1(式中、L
1は、炭水化物部分である)からなる群から選択され、
R
3は、水素またはヒドロキシルからなる群から選択され、
Xは、C(=CH
2)、CH(OH)、または2,2−ジメチルオキシランからなる群から選択され、
Zは、CH
2、CH(OH)またはC(=O)からなる群から選択され、
R
4は、任意選択で置換されているL
2−アルキルまたはL
2−アルケニル(L
2は、任意選択で置換されている3−フラニルまたは3−フラ−3−エニル部分である)からなる群から選択される]
の化合物または薬学的に許容されるその塩、エステル、エーテルもしくはプロドラッグと、1種または複数の薬学的に許容される賦形剤および/または担体とを含む、医薬組成物を提供する。
【0061】
一実施形態では、R
1は、メチルである。
【0062】
別の実施形態では、R
2は、ヒドロキシメチルまたはCH
2−O−Glc(式中、Glcは、グリコシド形成性グルコース部分である)である。
【0063】
別の実施形態では、R
4は、任意選択で置換されている3−(3−フラニル)−プロピル、3−(3−フラニル)−プロパ−1−エニル、3−(3−フラニル)−プロパ−2−エニル、3−(3−フラ−3−エニル)−プロピルまたは3−(3−フラ−3−エニル)−プロパ−1−エニルであり、ここで、3−フラニルまたは3−フラ−3−エニル部分は、さらに任意選択で置換されている。
【0064】
一実施形態では、R
1、R
2、R
3、XおよびZは、上記のものであり、R
4は、
【化2】
[式中、
R
5は、水素またはヒドロキシルからなる群から選択され、
R
6およびR
7は、独立して、水素、ヒドロキシル、もしくはアルキルオキシからなる群から選択されるか、またはR
6およびR
7は、*によって表される炭素原子間の直接単結合によって同時に置き換えられることにより、式(I)の2つの単量体分子の二量体を形成し、R
8およびR
9は、独立して、水素、ヒドロキシルまたはアルキルオキシからなる群から選択される]
からなる群から選択される。
【0065】
一実施形態では、R
6、R
7、R
8またはR
9は、独立して、メトキシであり得る。
【0066】
好ましい実施形態では、式(I)の化合物は、アンドログラホリド、ネオアンドログラホリド、14−デオキシアンドログラホリド、14−デオキシ−11,12−ジデヒドロアンドログラホリド、アンドログラフィシド、アンドログラパニン、14−デオキシ−11−オキソ−アンドログラホリド、14−デオキシ−11−ヒドロキシ−アンドログラホリド、14−デオキシ−12−ヒドロキシ−アンドログラホリド、3,14−ジデオキシアンドログラホリド、3−オキソ−14−デオキシアンドログラホリド、8,17−エポキシ−14−デオキシアンドログラホリド、14−デオキシ−17−ベータ−ヒドロキシアンドログラホリド、12−ヒドロキシアンドログラホリド、ビスアンドログラホリドA、3−オキソ−14−デオキシ−11,12−ジデヒドロアンドログラホリド、7−ヒドロキシ−14−デオキシアンドログラホリド、15−メトキシ−3,19−ジヒドロキシ−8(17)11,13−ent−ラムダ−トリエン−16,15−オリド、アンドロパノリド、14−デオキシ−12−メトキシ−アンドログラホリド、14−epi−アンドログラホリド、19−ヒドロキシ−ent−ラムダ−8(17),13−ジエン−15,16−オリド、3,13,14,19−テトラヒドロキシ−ent−ラムダ−8(17),11−ジエン−16,15−オリド、3,19−ジヒドロキシ−15−メトキシ−ent−ラムダ−8(17),11,13−トリエン−16,15−オリド、および3,19−ジヒドロキシ−ent−ラムダ−8(17),12−ジエン−16,15−オリドからなる群から選択される。
【0067】
例えば、本発明は、アンドログラホリドをインターフェロンを伴わずに投与することによって、進行型のMSを処置することを伴う。あるいは、アンドログラホリドをインターフェロンと組み合わせてもよい。
【0068】
アンドログラホリド(またはAP)は、アジア諸国、例えば中国、インド、マレーシアにおいて感冒、赤痢、発熱、扁桃炎、肝疾患の処置に伝統的に使用される薬用植物であるAndrographis paniculataに起因する生物学的活性の大部分に関与する主要活性成分である(Panossian、Davtyanら、2002年;C.
Patarapanich、2007年;S. K. Mishra、2007年)。Andrographis paniculataの伝統的な使用および薬理学的研究は、以前に文献で十分裏付けられている(Nemoto、2008年)。
【化3】
【0069】
APは、主に葉に存在し、比較的簡単に抽出されるジテルペンラクトンであり、その分子構造は決定されている(A. B. Smith III、1982年)。この化合物は、腫瘍細胞における細胞毒性効果、抗血管新生、抗炎症および免疫調節効果を含む多様な生物学的効果を有する。APは、異なる種類の腫瘍細胞の増殖を選択的に阻害し(Cheung、Cheungら、2005年;Kim、Hwiら、2005年;Zhou、Zhangら、2006年;Geethangili、Raoら、2008年;Shi、Linら、2008年;Wang、2008年;Zhao、Heら、2008年;Zhou、Luら、2008年;Yang、Wuら、2009年)、これは、アポトーシス、ネクローシスの誘導、細胞周期または細胞分化の停止ならびに血管新生因子、例えば血管内皮成長因子(VEGF)およびメタロプロテイナーゼ阻害因子(TIMP−1)の抑制によって、アポトーシス、ネクローシスを誘導することによる(Sheeja、Guruvayoorappanら、2007年)。この理由から、APは、処置(Rajagopal、Kumarら、2003年;Jada、Suburら、2007年)およびHIV感染(Calabrese、Bermanら、2000年)用の薬剤としての潜在性を有する。臨床的に、APは、関節リウマチ(Burgos、Hanckeら、2009年)、一部の種類のがん(Masonら、2002年参照)および感冒(Caceres、Hanckeら、1997年)における有効性を実証している。
【0070】
APの強力な効果の1つは、その抗炎症および免疫調節活性である。APは、感染性および発がん性因子に対するin vivoでの防御免疫応答の有意な刺激を誘導する能力を有する(Puri、Saxenaら、1993年;Kumar、Srideviら、2004年;Khan、2007年)。抗炎症効果の中には、反応性酸素分子の産生の低減、炎症促進性酵素、例えばCOX−2およびiNOS酵素の発現の阻害(Chiou、Linら、1998年;Chiou、Chenら、2000年)ならびに転写因子NF−κBの活性化の阻害(Wang、Liuら、2004年;Xia、Yeら、2004年;Hidalgo、Romeroら、2005年;Iruretagoyena、Tobarら、2005年)が存在する。
【0071】
マウスモデルにおいて、本発明者らは、APが、1)転写因子NF−kBの活性化を妨げて、樹状細胞の成熟およびT細胞に抗原を提示するその能力を低減すること(Hidalgo、Romeroら、2005年);2)転写因子NFATおよびシグナル伝達経路MAPK−Erk1/2の活性化の阻害によってJurkat細胞株(T細胞リンパ腫(lymphom))の活性化過程を低減すること(Carretta、Alarconら、2009年)を以前に実証している。加えて、APは、ミクログリア内の反応性酸素種、TNF−α、一酸化窒素およびプロスタグランジンE
2を減少させることから、APは、炎症によって媒介される神経変性に対する効果を有する可能性がある(Wang、Liuら、2004年)。APの抗炎症および免疫調節は、関節炎(Burgos、Hanckeら、2009年)、ループスおよび喘息(Kalergis、Iruretagoyenaら、2009年)などの異なるモデルにおいて、in vivoで炎症性疾患において実証されている。EAEモデルにおいて、本発明者らは、APの予防的投与が、ミエリン抗原に対するTおよびB細胞応答の阻害によってEAEの発症を防止することを報告している(Iruretagoyena、Tobarら、2005年)。多くの臨床研究が、APは忍容性が良好であり、安全であることを示している。
【0072】
APの抗炎症および免疫調節の前例ならびにMSの炎症過程の根底にある分子基盤を考慮して、本発明者らは、この化合物がMSに対する潜在的処置であることを前提としている。
【0073】
本明細書における開示を踏まえて、当業者は、その変形形態を容易に導くことができる。例えば、
図9は、アンドログラホリドの考えられる作用機序および細胞レベルの結合部位の模式図を示す。したがって、当業者は、類似の作用機序を提供するアンドログラホリドの類似体を用いて、類似の効果を生じることができる。あるいは、当業者は、投与量を変動させて、同等の治療効果をもたらすことができる。本発明者らの実際の実験では固形錠剤を使用したが、硬ゼラチンカプセル剤、液状エキス剤および他の経口剤形は、同等に機能すると期待される。したがって、本発明者らは、本特許の法的範囲が、その具体例によってではなく、特許庁が承認する本明細書に添付した法に基づく特許請求の範囲、および法的に認められるその均等物によって規定されることを意図している。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
式(I)
【化4】
[式中、
R
1は、水素、アルキルまたはヒドロキシルからなる群から選択され、
R
2は、ヒドロキシアルキルまたはアルキル−O−L
1(式中、L
1は、炭水化物部分である)からなる群から選択され、
R
3は、水素またはヒドロキシルからなる群から選択され、
Xは、C(=CH
2)、CH(OH)、または2,2−ジメチルオキシランからなる群から選択され、
Zは、CH
2、CH(OH)またはC(=O)からなる群から選択され、
R
4は、
【化5】
(式中、
R
5は、水素またはヒドロキシルからなる群から選択され、
R
6およびR
7は、独立して、水素、ヒドロキシル、もしくはアルキルオキシからなる群から選択されるか、またはR
6およびR
7は、*によって表される炭素原子間の直接単結合によって同時に置き換えられることにより、式(I)の2つの単量体分子の二量体を形成し、
R
8およびR
9は、独立して、水素、ヒドロキシルまたはアルキルオキシからなる群から選択される)
からなる群から選択される]
の化合物または薬学的に許容されるその塩もしくはエステルを含む経口剤形であって、
進行型多発性硬化症と診断されたヒト患者における進行型の多発性硬化症の進行を減速するのに有効な量の前記式Iの化合物を提供する経口剤形。
(項目2)
前記有効な量が、1日当たり約240mgの前記化合物を含む、項目1に記載の経口剤形。
(項目3)
前記有効な量が、総合障害度スケール、9ホールピン検査、25フィート歩行検査および多発性硬化症機能複合指数からなる群から選択されるアッセイを含むアッセイを使用して測定される前記進行型の多発性硬化症の進行を減速するのに有効である、項目1に記載の経口剤形。
(項目4)
前記進行型の多発性硬化症が、一次性進行型多発性硬化症、二次性進行型多発性硬化症および進行性再発型多発性硬化症からなる群から選択される、項目1に記載の経口剤形。(項目5)
前記式(I)の化合物が、アンドログラホリド、ネオアンドログラホリド、14−デオキシアンドログラホリド、14−デオキシ−11,12−ジデヒドロアンドログラホリド、アンドログラフィシド、アンドログラパニン、14−デオキシ−11−オキソ−アンドログラホリド、14−デオキシ−11−ヒドロキシ−アンドログラホリド、14−デオキシ−12−ヒドロキシ−アンドログラホリド、3,14−ジデオキシアンドログラホリド、3−オキソ−14−デオキシアンドログラホリド、8,17−エポキシ−14−デオキシアンドログラホリド、14−デオキシ−17−ベータ−ヒドロキシアンドログラホリド、12−ヒドロキシアンドログラホリド、ビスアンドログラホリドA、3−オキソ−14−デオキシ−11,12−ジデヒドロアンドログラホリド、7−ヒドロキシ−14−デオキシアンドログラホリド、15−メトキシ−3,19−ジヒドロキシ−8(17)11,13−ent−ラムダ−トリエン−16,15−オリド、アンドロパノリド、14−デオキシ−12−メトキシ−アンドログラホリド、14−epi−アンドログラホリド、19−ヒドロキシ−ent−ラムダ−8(17),13−ジエン−15,16−オリド、3,13,14,19−テトラヒドロキシ−ent−ラムダ−8(17),11−ジエン−16,15−オリド、3,19−ジヒドロキシ−15−メトキシ−ent−ラムダ−8(17),11,13−トリエン−16,15−オリドおよび3,19−ジヒドロキシ−ent−ラムダ−8(17),12−ジエン−16,15−オリドからなる群から選択される化合物を含む、項目1に記載の経口剤形。
(項目6)
ヒト患者を処置する方法であって、
a.前記ヒト患者において進行型の多発性硬化症を診断することと、次いで、
b.項目1に記載の経口剤形を投与することと
を含む方法。
(項目7)
前記患者にインターフェロンを投与することをさらに含む、項目6に記載の方法。