【解決手段】本発明のエアロゲルパウダー組成物は、少なくともエアロゲルパウダーを含有するエアロゲルパウダー組成物であって、前記エアロゲルパウダーは、シラン化合物の加水分解縮合物であるエアロゲルからなり、前記シラン化合物が、4官能シラン化合物、3官能シラン化合物および2官能シラン化合物の質量百分率を、それぞれQx、Tx、Dxとするとき、0≦Qx≦70、30≦Tx≦100、0≦Dx<30(ただしQx+Tx+Dx=100)であり、前記エアロゲルパウダーは、破壊率(%)=(破壊量(g)/破壊前のエアロゲルパウダーの質量(g))×100で定める破壊率が10%以下である。
少なくともエアロゲルパウダーを含有するエアロゲルパウダー組成物であって、前記エアロゲルパウダーは、シラン化合物の加水分解縮合物であるエアロゲルからなり、前記シラン化合物が、4官能シラン化合物、3官能シラン化合物および2官能シラン化合物の質量百分率を、それぞれQx、Tx、Dxとするとき、0≦Qx≦70、30≦Tx≦100、0≦Dx<30(ただしQx+Tx+Dx=100)であり、
前記エアロゲルパウダーは、下記式(1)で定める破壊率が10%以下である、エアロゲルパウダー組成物。
破壊率(%)=(破壊量(g)/破壊前のエアロゲルパウダーの質量(g))×100・・(1)
ここで「破壊量」とは、篩で粒径250μm〜1000μmの範囲に調整したエアロゲルパウダー3mlを、万能試験機により圧縮断面積1.34cm2、最大荷重500N,圧縮応力371.2N/m2の条件で圧縮し、圧縮後、目開き250μmの篩にかけ、篩を通過した、破壊されたエアロゲルパウダーの合計質量(g)を意味する。
前記シラン化合物が、0<Qx≦50、40≦Tx<100、0≦Dx<30(ただしQx+Tx+Dx=100)であり、前記エアロゲルパウダーは、前記破壊率が6%以下である、請求項1記載のエアロゲルパウダー組成物。
前記エアロゲルパウダー組成物が、前記エアロゲルパウダーを分散質として、液体状の分散媒に分散させたエアロゲルパウダー分散物である、請求項1〜5のいずれかに記載のエアロゲルパウダー組成物。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。
(1)エアロゲルパウダー組成物
(1−1)エアロゲル
本発明のエアロゲルパウダー組成物は、少なくともエアロゲルパウダーを含有するエアロゲルパウダー組成物であって、エアロゲルパウダーは、シラン化合物の加水分解縮合物であるエアロゲルからなり、該シラン化合物が、4官能シラン化合物、3官能シラン化合物および2官能シラン化合物の質量百分率を、それぞれQx、Tx、Dxとするとき、0≦Qx≦70、30≦Tx≦100、0≦Dx<30(ただしQx+Tx+Dx=100)であり、エアロゲルパウダーは、下記式(1)で定める破壊率が10%以下である、エアロゲルパウダー組成物であることを特徴とする。
破壊率(%)=(破壊量(g)/破壊前のエアロゲルパウダーの質量(g))×100・・(1)
【0013】
ここで「破壊量」とは、篩で粒径250μm〜1000μmの範囲に調整したエアロゲルパウダー3mlを、万能試験機により圧縮断面積1.34cm
2、最大荷重500N,圧縮応力371.2N/m
2の条件で圧縮し、圧縮後、目開き250μmの篩にかけ、篩を通過した、破壊されたエアロゲルパウダーの合計質量(g)を意味する。
【0014】
そして、上記の構成を満たす本発明のエアロゲルパウダー組成物は、その中に含有するエアロゲルパウダーが、下記(2)式で定める変形率を大きくすることができ、例えば15%以上とすることができる。
変形率(%)={変形変化量(mm)/変形前のエアロゲルの充填高さ(mm)}×100・・(2)
ここで、「変形変化量」とは、底面積1.34cm
2を有する円筒状のシリンダー容器内に、高さ16mmの位置まで前記エアロゲルパウダーを充填した状態で、ピストンを用いて10Nで圧縮したときの充填高さの変化量(mm)を意味し、変形前のエアロゲルの充填高さは16mmである。
【0015】
加水分解縮合するシラン化合物の組成を0≦Qx≦70、30≦Tx≦100、0≦Dx<30とし、かつ破壊率を10%以下とすることによって、柔軟性と難破壊性の双方に優れたエアロゲルパウダーを得ることができる。
【0016】
また、エアロゲルの変形量は、エアロゲルの骨格に依るため、エアロゲル骨格の構成を左右するQx、Tx、Dxの比と関係がある。Qxが増えるほど、エアロゲルは柔軟性を失い変形しにくくなる。このため、Qxが70%を超えると、本発明のエアロゲル組成物に含有するエアロゲルパウダーを構成するエアロゲル特有のしなやかさ(柔軟性)を失い、変形量が小さくなってしまう。
【0017】
一方、Dxを増やした配合にすると柔軟性を増し、変形しやすくなるが、Dxが30%以上になると、ゲル化しにくくなるなどの製造上の問題が生じる。
【0018】
また、本発明の好適な実施形態のエアロゲルパウダー組成物は、少なくともエアロゲルパウダーを含有するエアロゲルパウダー組成物であって、エアロゲルパウダーは、シラン化合物の加水分解縮合物であるエアロゲルからなり、シラン化合物が、4官能シラン化合物、3官能シラン化合物および2官能シラン化合物の質量百分率を、0<Qx≦50、40≦Tx<100、0≦Dx<30(ただしQx+Tx+Dx=100)であり、エアロゲルパウダーは、破壊率が6%以下であることが好ましい。この構成を採用することによって、エアロゲルパウダーは、破壊率が6%以下となって難破壊性がより一層向上するとともに、変形率を、例えば20%以上となるため、柔軟性もより一層向上させることができる。
【0019】
さらに、本発明の好適な実施形態のエアロゲルパウダー組成物は、前記シラン化合物が、4官能シラン化合物、3官能シラン化合物および2官能シラン化合物の質量百分率を、0<Qx<50、50≦Tx<100、0≦Dx<30(ただしQx+Tx+Dx=100)であり、エアロゲルパウダーは、破壊率が4%以下であることが好ましい。この構成を採用することによって、エアロゲルパウダーは、破壊率が4%以下となって難破壊性がより一層向上するとともに、変形率を、例えば25%以上となるため、柔軟性もより一層向上させることができる。
【0020】
本発明者らは、本発明のエアロゲルの構造が、固体
29Si−NMR(DD−MAS法)により同定できること、すなわち、固体
29Si−NMR(DD−MAS法)によって測定されるQ成分、T成分およびD成分に由来するシグナル面積積分値から算出されるQ成分、T成分およびD成分の存在割合は、それぞれ、上述したエアロゲルパウダーを構成するエアロゲルの作製のための主原料となる、4官能シラン化合物、3官能シラン化合物および2官能シラン化合物の質量百分率Qx、TxおよびDxの割合と実質的に一致することを確認した。
【0021】
29Si−NMRの測定条件は以下の通りである。
機器:固体NMR装置(日本電子株式会社製JNM−ECA400)
条件:プロトン共鳴周波数:390MHz、時間:750秒/回、積算回数:48回、総測定時間:10時間:マジック角回転法(DD)、および双極子デカップリング法(Magic Angle Spinning、Dipolar Dephasing法)を使用。
【0022】
本発明のエアロゲルパウダー組成物は、エアロゲルを粉砕することによって得られるエアロゲルパウダーだけで構成することができるが、機能性付与、外観向上、装飾性付与等を意図して添加剤をさらに含む混合物や分散物として構成することもできる。エアロゲルパウダー組成物に含有するエアロゲルパウダーの含有量は、エアロゲルパウダー組成物全体の80体積%以上が好ましく、より好ましくは85体積%以上であり、さらに好ましくは90体積%以上であり、より好適には95体積%以上である。
【0023】
エアロゲルパウダー組成物に含有させる添加剤としては、特に限定はしないが、例えば、シリカ粒子等の無機充填剤、帯電防止剤、潤滑剤、無機顔料、有機顔料、無機染料、有機染料等が挙げられる。
【0024】
ここで、4官能シラン化合物とは、シロキサン結合数(シリコン原子1個に結合する酸素原子の数)が4個であるシラン化合物のことであり、3官能シラン化合物とは、シロキサン結合数が3個であるシラン化合物のことであり、そして、2官能シラン化合物とは、シロキサン結合数が2個であるシラン化合物のことである。
【0025】
4官能シラン化合物としては、例えばテトラアルコキシシラン、テトラアセトキシシランが挙げられる。テトラアルコキシシランの望ましい実施態様としては、アルコキシ基の炭素数が1〜9のものが挙げられる。
【0026】
例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシランなどが挙げられる。これらのシラン化合物は、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。本発明では、4官能シラン化合物として、特にテトラメトキシシラン(TMOS)を用いることが好ましい。
【0027】
3官能シラン化合物としては、例えばトリアルコキシシラン、トリアセトキシシランが挙げられる。トリアルコキシシランの望ましい実施態様としては、アルコキシ基の炭素数が1〜9のものが挙げられる。
【0028】
例えば、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0029】
これら化合物は、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。本発明では、3官能シラン化合物として、特にメチルトリメトキシシラン(MTMS)を用いることが好ましい。
【0030】
2官能シラン化合物としては、例えばジアルコキシシラン、ジアセトキシシランがある。ジアルコキシシランの望ましい実施態様としては、アルコキシ基の炭素数が1〜9のものが挙げられる。
【0031】
具体的には、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシランなどが挙げられる。これら化合物は、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。本発明では、2官能シラン化合物として、特にジメチルジメトキシシラン(DMDMS)を用いることが好ましい。
【0032】
(1−2)エアロゲルパウダー
本発明のエアロゲルパウダー組成物に含有するエアロゲルパウダーは、エアロゲルを機械的に粉砕した粉粒体であり、その粒径は5nm〜10mmであり、この粉砕したエアロゲルパウダーは、篩や風力等通常の手段を使用して分級することができる。
【0033】
分級したエアロゲルパウダーの平均粒径は、その使用目的により適宜調整、選択することができるが、例えば充填剤とする場合は20μm〜3mmであることが好ましく、50μm〜1mmであることがより好ましい。また、エアロゲルパウダーを分散質として、塗料等の液体状の分散媒に分散させてエアロゲルパウダー分散物とする場合は、エアロゲルパウダーの平均粒径は、5〜100μmであることが好ましく、5〜50μmであることがより好ましい。
【0034】
ここで平均粒径は、レーザ回折式粒子径分布測定装置SALD―2300((株)島津製作所製)によって測定した平均粒径をいう。
【0035】
エアロゲルパウダーは、例えば充填率を上げるために、分級した平均粒径の異なる複数種類のエアロゲルパウダーを混合して使用することができる。
【0036】
エアロゲルパウダーの形状は、粉砕工程を経ることから通常不定形となるが、球状、板状、フレーク状、繊維状などの特定の形状にすることができる。形状は、SEMにより直接観察することができる。
【0037】
エアロゲルパウダーの弾性率は、2.00〜15.00MPaであることが好ましく、3.00〜10.00MPaであることがより好ましい。ここで弾性率は、微小圧縮試験機((株)島津製作所製)によって測定した23℃、50%RH雰囲気下で測定した弾性率をいう。
【0038】
エアロゲルパウダーは、上記範囲の弾性率を有することから、加工時の圧力や高いシェアによって過剰の粉砕がされることなく所定の容器に高充填することができ、また断熱性塗料等に混練した場合、設計通りの断熱性を得ることができる。
【0039】
(1−3)エアロゲルパウダーの特性
本発明のエアロゲルパウダー組成物は、少なくともエアロゲルパウダーを含有するエアロゲルパウダー組成物であって、破壊率が10%以下であり、好ましくは6%以下であり、より好適には4%以下である。さらに、本発明のエアロゲルパウダー組成物は、例えば、同体積の数平均分子量200のポリエチレングリコールと混合した際に、均一で濁度の低い混合物または分散物であることが好ましい。
【0040】
本発明のエアロゲルパウダーの材料であるエアロゲルは、その構造を微視的に観察した場合、固形物が満たされたバルク部(骨格部)と、バルク部内に3次元ネットワーク状に貫通した気孔部とで主に構成されている。
【0041】
この構造が、パウダーとしての圧縮力に顕著な効果を発揮していると推測している。また、数平均分子量200ポリエチレングリコールとの相溶性にも関与していると推測している。
【0042】
バルク部は、固形物がシロキサン結合による三次元ネットワークを形成した連続体から構成される。三次元ネットワークは、ネットワークの最小単位である格子を、立方体で近似したときの一辺の平均長さは、2nm以上25nm以下である。
【0043】
なお、一辺の平均長さは、2nm以上、5nm以上、7nm以上、10nm以上であり、かつ、25nm以下、20nm以下、15nm以下であることが好ましい。
【0044】
また、気孔部は、上記バルク部内を貫通するチューブ状をなし、気孔をチューブで近似し、チューブの内径を円で近似したときの平均内径は、5nm以上100nm以下である。なお、気孔の平均内径は、5nm以上、7nm以上、10nm以上、20nm以上、30nm以上、50nm以上であり、かつ、100nm以下、90nm以下、80nm以下、70nm以下であることが好ましい。
【0045】
ここで、上記チューブの内径は、空気を構成する元素分子の大気圧における平均自由行程(MFP)以下の寸法となっている。
【0046】
また、エアロゲルの気孔率、すなわちエアロゲル全体の体積に占める気孔部の体積の割合は、70%以上である。気孔率の一例としては、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上であってもよい。
【0047】
本発明のエアロゲルは、物理特性を充足する限りにおいて、上記したバルク部、気孔部以外の構造を含んでもよい。一例として、上述した気孔部とは異なる空隙(ボイド)を含んでもよい。
【0048】
また、別の一例として、後述する物理特性を充足する限りにおいて、製造上不可避成分として残存する水、有機溶剤、界面活性剤、触媒およびこれらの分解物を含むことができる。さらに、他の一例として、製造上不可避成分として製造空間や製造装置から混入する塵埃を含むことができる。
【0049】
本発明のエアロゲルは、密度が0.15g/cm
3以下であることが好ましい。ここで密度は、水銀圧入法により求められるものである。本発明のエアロゲルは、密度が0.15g/cm
3以下であるため、熱伝導率が0.015W/m・K以下と小さく、優れた断熱性を有する。
【0050】
本発明のエアロゲルパウダー組成物は、エアロゲルパウダーと他の粉粒体(例えば顔料、染料等)との混合物であって
本発明のエアロゲルパウダー分散物は、均一な分散状態をもよい。また、本発明のエアロゲルパウダー組成物は、エアロゲルパウダーを分散質として、液体状の分散媒に分散させたエアロゲルパウダー分散物とすることができる(以下、単に「エアロゲルパウダー分散物」という場合がある)。分散媒とする液体としては、水、エチルアルコール、エチレングリコール、酢酸エチル、トルエン等の通常の塗料、接着剤等に使用される溶媒を使用することができる。エアロゲルパウダーは、顔料、染料等が既に分散されている塗料に分散させることもできる。
【0051】
本発明のエアロゲルパウダー分散物は、均一な分散状態を安定して維持することができる。例えば、エアロゲルパウダーを、同体積の数平均分子量200のポリエチレングリコールに混合分散してエアロゲルパウダー分散物とし、その後、エアロゲルパウダー分散物を30分静置したとき、本発明のエアロゲルパウダー組成物であるエアロゲルパウダー分散物は、均一な分散状態を維持し、かつ濁度が300度以下である。
【0052】
ここで、エアロゲルパウダー分散物において、「均一な分散状態」とは、エアロゲルパウダーが、分散媒中に均一に分散している状態であって、かつエアロゲルパウダー分散物を収容する容器の底に沈殿していない状態であることをいう。
【0053】
また、ここでいう「濁度」は、濁度を測定する試料液(エアロゲルパウダー分散物)とホルマジン濁度標準液とを、目視または透過散乱法による濁度計で対比することによって容易に知ることができる。濁度が300に近いところでは、濁度計によって対比することができる。試料液の分散媒である、数平均分子量200のポリエチレングリコールとしては、数平均分子量180〜220である市販品を使用することができる。
【0054】
上述したエアロゲルパウダー分散物は、均一な分散状態を維持し、かつ濁度が300度以下であることから、分散質としてのエアロゲルパウダーが、数平均分子量200であるポリエチレングリコールと特有の相溶性を有していることを示している。これによって、本発明のエアロゲルパウダー組成物に含有するエアロゲルパウダーは、溶剤塗料等への良好な分散性が発揮できる。
【0055】
(2)エアロゲルパウダー組成物の製造方法
(2−1)エアロゲルの製造方法
まず、本発明エアロゲルパウダーの材料であるエアロゲルの製造方法について説明する。
【0056】
本発明のエアロゲルの製造方法は、酸触媒を含む水溶液にシリコン化合物を添加し、加水分解することによってゾルを生成させるゾル生成工程を含むエアロゲルの製造方法であって、前記シリコン化合物が、4官能シラン化合物、3官能シラン化合物および2官能シラン化合物のうち、少なくとも3官能シラン化合物を含む。
【0057】
本発明のエアロゲルパウダーの具体的な製造方法としては、例えば、ゾル生成工程、ウェットゲル生成・成形工程、溶媒交換工程および乾燥工程をこの順で行う場合が挙げられる。以下、各工程について詳細に説明する。
【0058】
(2−2)ゾル生成工程
ゾル生成工程は、所定の溶液中に、シリコン化合物(主原料)を含む各種原料を添加し、撹拌して混合する工程を含むものであって、これによって、ゾルを生成する。
【0059】
(2−2−1)シロキサン結合構成材料(主原料)
本発明のエアロゲルの製造方法は、エアロゲルを作製するための主原料となるシリコン化合物として、4官能シラン化合物、3官能シラン化合物および2官能シラン化合物のうち、少なくとも3官能シラン化合物を、所定の割合(質量百分率)で混合するゾル生成工程を含むこと、より具体的には、4官能シラン化合物、3官能シラン化合物および2官能シラン化合物のそれぞれの質量百分率を、Qx、Tx、Dxとするとき、0≦Qx≦70、30≦Tx≦100、0≦Dx<30を満たす割合、好ましくは0<Qx≦50、40≦Tx<100、0≦Dx<30を満たす割合、より好ましくは0<Qx<50、50≦Tx<100、0≦Dx<30を満たす割合(ただしQx+Tx+Dx=100)で混合するゾル生成工程を含むことが必要である。
【0060】
(2−2−2)主原料の混合割合(質量百分率)
ゾル生成工程では、主原料となるシリコン化合物が、4官能シラン化合物、3官能シラン化合物および2官能シラン化合物のうち、少なくとも3官能シラン化合物を、所定の割合(質量百分率)で混合するゾル生成工程を含むこと、より具体的には、4官能シラン化合物、3官能シラン化合物および2官能シラン化合物のそれぞれの質量百分率を、Qx、Tx、Dxとするとき、0≦Qx≦70、30≦Tx≦100、0≦Dx<30を満たす割合、好ましくは0<Qx≦50、40≦Tx<100、0≦Dx<30を満たす割合、より好ましくは0<Qx<50、50≦Tx<100、0≦Dx<30を満たす割合(ただしQx+Tx+Dx=100)である。
【0061】
図1は、本発明のエアロゲルの製造方法の混合工程において混合した、好ましい4官能シラン化合物、3官能シラン化合物および2官能シラン化合物のそれぞれの質量百分率であるQx、TxおよびDxの適正範囲について、Qx、TxおよびDxを座標軸とする三角図に示したものである。なお、
図1中に示される2つの「○(白抜き丸)」を直線で結んだ線分(0≦Qx≦40、30≦Tx≦70、Dx=30%)は、破線で示してあるが、かかる破線は、本発明の適正範囲(領域I)ならび好適範囲(領域IIおよび領域III)のいずれにも含まれない。
【0062】
図1中に示す領域I(右上がり傾斜でハッチング)は、本発明の適正範囲、すなわち、0≦Qx≦70、30≦Tx≦100、0≦Dx<30で囲まれた領域(ただしQx+Tx+Dx=100)を示したものであり、また、領域II(右下がり傾斜でハッチング)は、本発明の好適範囲、すなわち、0<Qx≦50、40≦Tx<100、0≦Dx<30で囲まれた範囲(ただしQx+Tx+Dx=100)を示したものであって、かかる領域Iおよび領域IIの範囲を満たす質量百分率でシリコン化合物を混合することによって、割れ等の欠陥が少なく、かつ密度が0.15g/cm
3以下となるエアロゲルの作製が可能になり、領域Iおよび領域IIの混合割合で作製し、10%以下の破壊率を有するエアロゲルパウダーは、優れた柔軟性と難破壊性を有する。特に、
図1に示す領域Iは、破壊率が10%以下でかつ変形率が15%以上のエアロゲルパウダーが得られる領域であり、また、領域IIは、破壊率が6%以下でかつ変形率が20%以上のエアロゲルパウダーが得られる領域である。さらに、
図1に示す領域III(水平線のハッチング)は、本発明のさらなる好適範囲、すなわち0<Qx<50、50≦Tx<100、0≦Dx<30で囲まれた範囲(ただしQx+Tx+Dx=100)を満たす質量百分率でシリコン化合物を混合すれば、破壊率が4%以下でかつ変形率が25%以上のエアロゲルパウダーを得ることもまた可能である。
【0063】
(2−2−3)ゾル生成工程の副材料およびゾル生成条件
ゾル生成工程では、主原料として、4官能シラン化合物、3官能シラン化合物、2官能シラン化合物を上述の所定混合比で混合し、水、界面活性剤を含む溶液に添加する。この調製により、シラン化合物が加水分解され縮合し、シロキサン結合を含むゾルが生成する。なお、調製する溶液に、酸、窒素化合物、有機溶剤、有機化合物(例えば糖類)および/または無機化合物(例えば塩)を含んでもよい。
【0064】
界面活性剤は、ゾル生成過程において、ミクロ相分離構造を形成し、後述するエアロゲルを構成するバルク部と気孔部とを形成することに寄与する。エアロゲルの製造に用いることのできる界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤などを用いることができる。
【0065】
イオン性界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤などを例示することができる。界面活性剤は、特に非イオン性界面活性剤を用いることが好ましい。
【0066】
調製する溶液に対する界面活性剤の添加量は、シラン化合物の種類や混合比、界面活性剤の種類にもよるが、主原料であるシラン化合物の総量100質量部に対し、0.001〜100質量部の範囲であることが好ましく、0.01〜90質量部の範囲であることがより好ましく、さらに好ましくは0.1〜80質量部の範囲である。
【0067】
酸は、加水分解時に触媒として作用し、加水分解の反応速度を加速することができる。具体的な酸の例としては、無機酸、有機酸、有機酸塩が挙げられる。
【0068】
無機酸としては、塩酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、フッ酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、臭素酸、塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸などが挙げられる。
【0069】
有機酸としては、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、クエン酸、リンゴ酸、アジピン酸、アゼライン酸などのカルボン酸類が挙げられる。
【0070】
有機酸塩としては、酸性リン酸アルミニウム、酸性リン酸マグネシウム、酸性リン酸亜鉛などが挙げられる。これらの酸は、単独、あるいは2種類以上を混合したものを用いてもよい。本発明では、酸として、有機酸である酢酸を用いることが好ましい。
【0071】
また、調製する溶液全体に対する酸の添加濃度としては、0.0001mol/L〜0.1mol/Lの範囲であることが好ましく、0.0005mol/L〜0.05mol/Lの範囲であることがより好ましく、さらに好ましくは0.001mol/L〜0.01mol/Lの範囲である。
【0072】
窒素化合物は、ウェットゲル生成・成形工程における加熱の際に、塩基性触媒を発生する化合物としても用いることができる。具体的には、尿素、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド化合物、ヘキサメチレンテトラミン等の複素環化合物などを挙げることができる。特に尿素は、エアロゲルの微細空間構造の形成に寄与し、均質なゲル化を実現する点で好適に用いることができる。
【0073】
窒素化合物の添加量は、特に限定されないが、例えば、主原料であるシラン化合物の総量100質量部に対して、窒素化合物の添加量を1〜200質量部の範囲とすることが好ましく、2〜150質量部の範囲とすることがより好適である。
【0074】
有機溶剤としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノールなどのアルコール類を用いることができる。これらは単独あるいは2種類以上を混合したものを用いてもよい。また、調製する溶液に対する有機溶剤の添加量としては、相溶性の観点から、主原料であるシリコン化合物の総量1molに対し、0〜10molの範囲、特に0〜9molの範囲とすることがより好ましく、さらに好ましくは0〜8molの範囲である。
【0075】
ゾル生成工程に必要な溶液温度、および時間は、混合溶液中のシラン化合物、界面活性剤、水、酸、窒素化合物、有機溶剤などの種類および量に左右されるが、例えば0℃〜70℃の温度環境下で、0.05時間〜48時間の範囲であればよく、20〜50℃の温度環境下で0.1時間〜24時間の処理とすることが好ましい。
【0076】
なお、窒素化合物として尿素が既に添加されている場合には、尿素をゲル化触媒として発揮させるため、ゾル生成工程における溶液温度は、尿素の加水分解(約50℃以上でアンモニアと二酸化炭素を放出する反応が進行)を抑制する観点から、40℃未満で行うことが好ましい。
【0077】
このような条件で行なうゾル生成工程によって、シラン化合物が加水分解され、全体として液体ゾルを生成することができる。なお、ゾル生成工程で使用する副材料および/または副材料の分解物は、製造したエアロゲルにおいて、不可避成分として混入しうる。
【0078】
(2−3)ウェットゲル生成・成形工程
ウェットゲル生成・成形工程は、上述したゾル生成工程において製造した液体ゾルに対し塩基性触媒を添加する工程と、所望の形状を得るための型に、液体ゾルを流し込む工程と、型の内部で流し込んだ液体ゾルを養生することにより、ウェットゲルを生成する工程とに大別することができる。なお、ゾル生成工程において、塩基性触媒を発生する化合物として既に窒素化合物を添加している場合には、液体ゾルに対し塩基性触媒を添加する工程は省略することもできる。
【0079】
塩基性触媒としては、水酸化アンモニウム、フッ化アンモニウム、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム(異性体を含む。)、テトラブチルアンモニウム(異性体を含む。)等のアンモニウム化合物、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物、メタ燐酸ナトリウム、ピロ燐酸ナトリウム、ポリ燐酸ナトリウム等の塩基性燐酸ナトリウム塩、アリルアミン、ジアリルアミン、トリアリルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、3−エトキシプロピルアミン、ジイソブチルアミン、3−(ジエチルアミノ)プロピルアミン、ジ−2−エチルヘキシルアミン、3−(ジブチルアミノ)プロピルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、t−ブチルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、3−(メチルアミノ)プロピルアミン、3−(ジメチルアミノ)プロピルアミン、3−メトキシアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の脂肪族アミン類、モルホリン、N−メチルモルホリン、2−メチルモルホリン、ピペラジンおよびその誘導体、ピペリジンおよびその誘導体、イミダゾールおよびその誘導体等の含窒素複素環状化合物類などが挙げられる。塩基性触媒は単独であるいは2種類以上を混合して用いてもよい。
【0080】
塩基性触媒の添加量は、主原料の総量100質量部に対し、0.001〜5質量部とすることが好ましく、0.01〜4質量部とすることが特に好適である。添加量を0.001質量部未満とすると、ゾルからウェットゲルへ反応が十分に促進されない傾向があり、また、5質量部超では、形成されたシロキサン結合が切断され、ゲル化時間の遅延と共に不均質性がもたらされることがある。特に、テトラメチルアンモニウム水溶液は、触媒としての反応促進効果が高く、ゾルからウェットゲルへの反応を短時間、かつ欠陥を少なく形成できる点で好ましい。
【0081】
塩基性触媒を添加した溶液を型に流し込む工程は、所望のエアロゲル製品の形状を得るための工程である。型は、金属、合成樹脂、木、紙のいずれかを用いることができるが、形状の平面性と離形性を兼ね備える点で、合成樹脂を用いることが好ましい。合成樹脂としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、シリコーン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が挙げられる。
【0082】
型は、所望のエアロゲル製品の形状を得るためであるから、所望のエアロゲル製品の形状の凹凸に対応した凸凹形状を有している。例えば、所望のエアロゲル製品の形状が板状(直方体)である場合、一端開口の凹型トレイを型として用いることができる。また、型は、いわゆる射出成形金型のように、複数の型からなる組み合わせ型であってもよい。
【0083】
一例として、凹型と凸型を対向して用いる2枚組み合わせ型があり、凹型の内面と、凸型の外面とが、所定の間隔で離隔した位置関係となる組み合わせ型であってもよい。この結果、溶液(ゾルおよび塩基性触媒からなる溶液)は、組み合わせ型の内部空間に流し込まれ、所定時間の間、密閉されてもよい。
【0084】
また、一端開口の凹型トレイを型として用いた場合、凹型トレイの開放(平)面の全面を覆う平板(プレート)を第2の型として用意し、凹型トレイの開放面と第2の型とが対向するように2枚組み合わせ型として用いてもよい。この結果、溶液(ゾルおよび塩基性触媒からなる溶液)は、組み合わせ型の内部に流し込まれ、所定時間の間、密閉されてもよい。
【0085】
塩基性触媒を添加した溶液を型に充填する工程に続き、型の内部で溶液の架橋反応を進め、ウェットゲルを生成するとともに、養生するエージング工程がある。
【0086】
養生は、所定のエネルギーを、所定の時間をかけて、ウェットゲルの架橋反応を進めるものである。エネルギーの一例としては、熱(温度)であり、30〜90℃、望ましくは40〜80℃の加熱が用いられる。加熱は、ヒータ加熱であっても、水または有機溶剤による蒸気加熱であってもよい。
【0087】
また、エネルギーの別の一例としては、赤外線、紫外線、マイクロ波、ガンマ線等の電磁波の印加、電子線の印加などが挙げられる。これらエネルギーは、単独で用いられても、複数の手段を併用して用いてもよい。
【0088】
養生に要する時間は、シリコン化合物の構成や、界面活性剤、水、酸、窒素化合物、有機溶剤、塩基性触媒などの種類および量、さらにはエネルギーの種類や密度に左右されるが、0.01時間〜7日間の間の期間である。塩基性触媒の種類とエネルギーの種類とを最適化した場合、0.01時間〜24時間でゲル化が完了することがあり得る。
【0089】
また養生は、熱(温度)と時間とを、多段階に変化させる養生であってもよい。なお、ウェットゲル生成・成形工程で使用する材料、および/または材料の分解物は、製造したエアロゲルにおいて、不可避成分として混入しうる。
【0090】
(2−4)ゲル粉砕工程
ゲル粉砕工程では、上記工程で得られたゲルを所定のサイズに粉砕する。上記ゲルは、例えばヘンシャルミキサーにより適当な条件(回転数および時間)で粉砕することができる。
【0091】
ミキサー内でゲルを生成し、そのまま粉砕してもよい。その他密閉可能な容器内でゲルを生成し、シェイカー等の振盪装置を用いることもできる。粒子径の調整のために、ジェットミル、ローラーミル、ビーズミルを使用することもできる。粉砕したゲルは、未反応物、副生成物等の不純物を低減するために、洗浄してもよい。
【0092】
(2−5)溶媒交換工程
溶媒交換工程は、ウェットゲルの表面および内部に存在する水および/または有機溶剤を、常圧で乾燥可能な有機溶媒に交換してエアロゲルを作製する本発明のエアロゲルの製造方法では必須の工程であって、Young-Laplaceの式で表現される毛細管力を可能な限り低減させ乾燥によるゲルの収縮を抑えるために、低表面エネルギーの有機溶媒(炭化水素溶媒)への置換を行なう工程である。また、溶媒交換工程は、上述の型から取り出してから行ってもよいし、型内で行ってもよい。
【0093】
溶媒交換に用いる炭化水素溶媒は、水と混和しないので、溶媒交換工程では、まず、ウェットゲルの表面および内部に存在する水および/または有機溶剤を、炭化水素溶媒と混和するアルコールのような中間溶媒に交換し、その後、この中間溶媒を、低表面エネルギーの有機溶媒(炭化水素溶媒)に交換する。
【0094】
中間溶媒に用いるアルコールとしては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール(IPA)、ブタノールが挙げられる。
【0095】
溶媒交換工程では、その後に行われる乾燥工程におけるゲルの収縮ダメージを抑えるため、ウェットゲルの表面および内部の水(または有機溶剤)を、20℃における表面張力が45mN/m以下の有機溶剤に置き換える。
【0096】
例えば、ジメチルスルホキシド(43.5mN/m)、シクロヘキサン(25.2mN/m)、イソプロピルアルコール(21mN/m)、ヘプタン(20.2mN/m)、ペンタン(15.5mN/m)等が挙げられる。
【0097】
溶媒交換工程に用いる有機溶剤は、20℃における表面張力が、45mN/m以下、40mN/m以下、35mN/m以下、30mN/m以下、25mN/m以下、20mN/m以下、15mN/m以下、であってよく、5mN/m以上、10mN/m以上、15mN/m以上、20mN/m以上であってよい。
【0098】
これらの中で、特に20℃における表面張力が18〜40mN/mの範囲である脂肪族炭化水素を含む有機溶剤を用いることが好適である。有機溶剤は、単独または2種類以上混合して用いることができる。
【0099】
溶媒交換工程に使用される溶媒の量は、溶剤交換する温度や装置(容器)にもよるが、湿潤ゲルの容量に対し、2〜100倍の量を使用することが望ましい。溶媒交換は1回に限らず、複数回行ってもよい。また、溶剤交換の方法としては、全置換、部分置換、循環置換のいずれの方法であってもよい。
【0100】
また、溶媒交換を複数回行う場合において、各回について、有機溶剤の種類や、温度、処理時間を独立に設定してよい。なお、溶媒交換工程で使用する材料、および/または材料の分解物は、製造したエアロゲルにおいて、不可避成分として混入しうる。
【0101】
溶媒交換工程は、その具体的な実施形態の一例として、以下のような手順で行うことができる。まず、ウェットゲルは、ウェットゲル体積の5倍量に相当するメタノール(MeOH)溶液中に浸漬して、60℃で8時間の条件下で溶媒交換を行う。MeOH溶液を用いた溶媒交換は、好適には複数回(例えば5回)繰り返す。MeOH溶液を用いた溶媒交換の目的は、ウェットゲル中の水分や原料の未反応成分および副反応生成分を取り除くことにある。
【0102】
次いで、MeOH溶液を用いて溶媒交換を行なった後のウェットゲルは、イソプロピルアルコール(IPA)とヘプタン(Hep)を1:4〜1:3の体積比で混合した、ウェットゲル体積の5倍量に相当するIPA/Hep混合溶液中に浸漬して、60℃で8時間の条件下でさらに溶媒交換を行う。MeOHは、直接Hepと混合しないので、IPA/Hep混合溶液を用いて、ウェットゲル中のMeOHを取り除くことができる。
【0103】
その後、IPA/Hep混合溶液を用いて溶媒交換を行なったウェットゲルは、ウェットゲル体積の5倍量に相当するHep溶液に浸漬して、60℃で8時間の条件下でさらに溶媒交換を行う。Hep溶液を用いた溶媒交換は、好適には複数回(例えば2回)繰り返す。Hep溶液を用いた溶媒交換の目的は、ウェットゲル中の溶媒を、全て乾燥溶媒であるHep溶液に置き換えるためである。
【0104】
(2−6)乾燥工程
乾燥工程は、上述した溶媒交換したウェットゲルを乾燥させて、所定性状のエアロゲルを得る工程である。乾燥の手法としては特に制限されないが、超臨界乾燥法は、設備が大型化すると共に、製造コストが著しく高価であり、大量生産が困難という課題があることから、本発明の乾燥工程では、超臨界乾燥法は適用せず、大気圧乾燥法、凍結乾燥法を用いること、特に大気圧乾燥法が好ましい。この乾燥方法を使用することにより、超臨界乾燥法よりも圧縮破壊率の低いエアロゲルパウダーを得ることができる。
【0105】
なお、大気圧とは、地表気圧である300hPa〜1100hPaを指し、地表である限り、本発明を実施する標高に制限はないものである。言い換えれば、乾燥方法としては、300hPa程度まで減圧して乾燥させることも、本発明に含まれる。
【0106】
以上のことから、上述した(2−1)〜(2−6)の各工程を経ることによって、本発明のエアロゲルは、弾性率の高いエアロゲルを低密度(0.15g/cm
3以下)で製造することができる。
【0107】
(2−7)最終粉砕工程
エアロゲルパウダーの平均粒径を調整するために、最終粉砕工程を設けることもできる。最終粉砕工程での粉砕は、(2−4)工程で使用した装置を使用し、適宜粉砕条件を定めることによりすることができる。篩や風力による分級もすることが好ましい。(2−4)ゲル粉砕工程を省略し、この工程だけで粉砕してもよい。
【0108】
(2−8)エアロゲルパウダー組成物調整工程
前工程で得られたエアロゲルパウダーに、必要な添加剤を適宜追加してエアロゲルパウダー組成物を製造することができる。
【0109】
(2−9)エアロゲルパウダー組成物の用途
本発明のエアロゲルパウダー組成物は、例えば、断熱窓、断熱建材(塗料、断熱ボード)等へ充填することにより、多用途に適用することが可能である。
【0110】
上述したところは、この発明の実施形態の例を示したにすぎず、請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0111】
以下、本発明の実施例について、具体的に説明する。なお評価は、特に断りの無い限り23℃、50%RHの雰囲気下で行った。
【0112】
<実施例1〜11>
非イオン性界面活性剤(プルロニックPE9400、BASF社製)3.28gを、0.005mol/L酢酸水溶液28.96gに溶解させた後、さらに加水分解性化合物として尿素(ナカライテスク社製)4.00gを加えて溶解させた。この水溶液に、主原料であるシリコン化合物10.00gを添加した後、室温で60分攪拌混合し、シリコン化合物の加水分解反応を行なわせ、ゾルを生成させた(ゾル生成工程)。
【0113】
シリコン化合物は、4官能シラン化合物であるテトラメトキシシラン(多摩化学工業株式会社製の正珪酸メチル、以下「TMOS」と略記する場合がある。)、3官能シラン化合物であるメチルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社製のDOWSIL Z−6366 Silane、以下「MTMS」と略記する場合がある。)および2官能シラン化合物であるジメチルジメトキシシラン(東京化成工業株式会社製,製品コード:D1052、以下「DMDMS」と略記する場合がある。)から選択し、表1に示す、4官能シラン化合物の質量百分率Qx、3官能シラン化合物の質量百分率Tx、および2官能シラン化合物の質量百分率Dxで添加した。
【0114】
なお、TMOSおよびMTMSは、いずれも使用する前に、減圧蒸留で精製した。その後、生成させたゾルを、密閉容器内にて60℃で静置し、ゲル化させた。その後、続けて96時間静置することにより、ウェットゲルを熟成させた(ウェットゲル生成・成形工程)。
【0115】
ウェットゲルをその体積の5倍量に相当するメタノール(MeOH)溶液中に浸漬して、60℃で8時間の条件下で溶媒交換を繰返し5回行なった後に、イソプロピルアルコール(IPA)とヘプタン(Hep)を1:4〜1:3の体積比で混合した、ウェットゲル体積の5倍量に相当するIPA/Hep混合溶液中に浸漬して、60℃で8時間の条件下でさらに溶媒交換を行い、その後、ウェットゲル体積の5倍量に相当するHep溶液に浸漬して、60℃で8時間の条件下でさらに溶媒交換を繰返し2回行った。
【0116】
なお、溶媒交換に使用したメタノールとイソプロパノールは、いずれもナカライテスク製のものを用いた。
【0117】
以下の方法により、ウェットゲルを大気圧下で乾燥(大気圧乾燥)させた。
低表面張力溶媒として、ヘプタン(ナカライテスク製)を用い、ウェットゲル中の溶媒を、低表面張力溶媒と交換(置換)した。
【0118】
ウェットゲルが十分に浸漬される量の低表面張力溶媒に、ウェットゲルを入れ、沸点の55℃付近まで加熱し、8時間還流を行った。還流後、室温まで冷却した後に容器中の低表面張力溶媒を取り除き、新鮮な低表面張力溶媒に入れ替え還流をさらに行なった。この作業を3回以上繰り返し、低表面張力溶媒への溶媒交換を終了した(溶媒交換工程)。
【0119】
次に、ウェットゲル中の溶媒を低表面張力溶媒に交換(置換)した後、蒸発速度を制御できる容器(乾燥機)に入れ、乾燥を開始した。ゲル質量が一定になった時点で乾燥を終了し、エアロゲルを作製した(乾燥工程)。
【0120】
得られたエアロゲルをヘンシェルミキサーで粉砕することによって、実施例1〜11のエアロゲルパウダーを得た。この際、Dxが0でない水準は、目視ではパウダーの粒径がより均一であった。また、実施例1〜11のエアロゲルパウダーの弾性率は、いずれも2.00〜15.00MPaの範囲であった(最終粉砕工程)。
【0121】
参考のため、比較例1は、本発明の適正範囲(
図1の領域I)外の質量百分率で、4官能シラン化合物と2官能シラン化合物からなる主原料を用いて、実施例1と同様の製造方法によってエアロゲルパウダーを作製したものであり、また、比較例2は、超臨界法によって乾燥させてエアロゲルパウダーを作製したものである。
【0122】
得られたエアロゲルパウダーについて、下記に示す圧縮破壊試験における破壊率(%)および圧縮変形試験における変形率(%)の評価を行った。評価は、特に断りの無い限り23℃、50%RHの雰囲気下で行った。評価結果を表1に示す。
【0123】
(評価方法)
【0124】
<圧縮破壊試験>
作製したエアロゲルパウダーを、目開き250μm及び目開き1000μmの篩にかけ、250μm〜1000μmの範囲の粒径をもつエアロゲルパウダーだけを採集した。この採集したエアロゲルパウダーを3ml計り取り、計り取ったエアロゲルパウダーを、
図2に示す万能試験機(圧縮破壊試験機)により圧縮した。圧縮断面積1.34cm
2、最大荷重500N,圧縮応力371.2N/m
2とした。圧縮後、目開き250μmの篩にかけ、篩を通過した破壊されたパウダーの量(破壊量)を測定し、測定した破壊量(g)を下記の式(1)に代入して破壊率(%)を算出した。そして、この破壊率(%)の数値から、難破壊性(砕けにくい特性)を評価した。
破壊率(%)=(破壊量(g)/破壊前のエアロゲルパウダーの質量(g))×100・・(1)
【0125】
<圧縮変形試験>
作製したエアロゲルパウダーを、底面積1.34cm
2を有する円筒状のシリンダー容器内に、高さ16mmの位置まで充填した状態で、底面積とほぼ同面積のピストンを用いて、このピストンによって10N荷重で圧縮したときの充填高さの変化量(mm)を測定した。変形前のエアロゲルの充填高さは16mmである。装置は、圧縮破壊試験で用いたのと同じ、万能試験機を使用した。測定後、下記式(2)によって変形量を測定し、測定した変形量を下記の式に代入して変形率を算出した。そして、この変形率の数値から、柔軟性を評価した。
変形率(%)={変形変化量(mm)/変形前のエアロゲルの充填高さ(mm)}×100・・(2)
【0126】
【表1】
【0127】
<分散性評価:均一性および濁度>
モノリス状エアロゲルを破砕し、平均粒径が50〜60μmになるようにエアロゲルパウダーを篩で分級調整した。こうして調整した5mlエアロゲルパウダーを、分散媒としてポリエチレングリコール200の5mlに添加、撹拌し、エアロゲルパウダー分散物を調製した。その後30分静置し、その時の分散物の均一状態を目視で確認し、濁度は、濁度300のホルマジン標準液と目視で対比した。ポリエチレングリコール200には、富士フイルム和光純薬(株)1級品を使用した。
【0128】
本発明の実施例1〜11および比較例1のエアロゲルパウダーを用いて調整したエアロゲルパウダー分散物は、分散状態が均一であり、濁度も低かったが、比較例2のエアロゲルパウダーを用いて調整したエアロゲルパウダー分散物は、分散状態が不均一であり、濁度が高かった。また、実施例1〜11のエアロゲルパウダーは、いずれも分散媒中での撹拌時に破壊することはなかった。
【0129】
上記の通り、本発明のエアロゲルパウダー組成物に含有するエアロゲルパウダーは、圧縮力に対する、柔軟性および難破壊性に優れ、また、平均分子量200のポリエチレングリコール等の分散媒中での分散状態が均一で安定しており、また、濁度が低く、相溶性が良好であることが分かる。