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特開2021-166244電気化学デバイス用電解液および電気化学デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-166244(P2021-166244A)
(43)【公開日】2021年10月14日
(54)【発明の名称】電気化学デバイス用電解液および電気化学デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01G 11/64 20130101AFI20210917BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20210917BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20210917BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20210917BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20210917BHJP
   H01G 11/60 20130101ALI20210917BHJP
   H01G 11/62 20130101ALI20210917BHJP
   H01M 10/052 20100101ALN20210917BHJP
【FI】
   H01G11/64
   H01M10/0569
   H01M10/0568
   H01M10/0567
   H01G11/06
   H01G11/60
   H01G11/62
   H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2020-69022(P2020-69022)
(22)【出願日】2020年4月7日
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】続木 武男
(72)【発明者】
【氏名】加納 幸司
【テーマコード(参考)】
5E078
5H029
【Fターム(参考)】
5E078AA09
5E078AB06
5E078DA04
5E078DA06
5E078DA14
5H029AJ02
5H029AJ04
5H029AM03
5H029AM07
5H029HJ01
5H029HJ10
(57)【要約】
【課題】電気化学デバイスの低温特性と高温信頼性の両方を改善することができる電気化学デバイス用電解液、及びそれを備えた電気化学デバイスを提供する。
【解決手段】電気化学デバイス用電解液は、溶媒に電解質が溶解した電解液であって、溶媒は環状カーボネートと鎖状カーボネートとを含み、電解質はイミド系リチウム塩と非イミド系リチウム塩とを含み、ジフルオロリン酸リチウム、オキサラトリン酸リチウム塩、及びオキサラトホウ酸リチウム塩を含む添加剤が電解液に添加され、電解液における添加剤の濃度が0.5wt%以上2.0wt%以下であり、ジフルオロリン酸リチウムの重量と、オキサラトリン酸リチウム塩とオキサラトホウ酸リチウム塩とを合わせた重量との比が1:9〜3:7であり、オキサラトリン酸リチウム塩オキサラトホウ酸リチウム塩の各重量の比が1:1〜3:1であることを特徴とする。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒に電解質が溶解した電解液であって、
前記溶媒は、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを含み、
前記電解質は、イミド系リチウム塩と非イミド系リチウム塩とを含み、
前記電解液に、ジフルオロリン酸リチウム、オキサラトリン酸リチウム塩、及びオキサラトホウ酸リチウム塩を含む添加剤が添加され、
前記電解液における前記添加剤の濃度が0.5wt%以上2.0wt%以下であり、
前記ジフルオロリン酸リチウムの重量と、前記オキサラトリン酸リチウム塩と前記オキサラトホウ酸リチウム塩とを合わせた重量との比が1:9〜3:7であり、
前記オキサラトリン酸リチウム塩の重量と、前記オキサラトホウ酸リチウム塩の重量との比が1:1〜3:1であることを特徴とする電解液。
【請求項2】
前記オキサラトリン酸リチウム塩は、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム又はテトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムであることを特徴とする請求項1に記載の電気化学デバイス用電解液。
【請求項3】
前記オキサラトホウ酸リチウム塩は、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム又はジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウムであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電気化学デバイス用電解液。
【請求項4】
前記環状カーボネートは、プロピレンカーボネート又はエチレンカーボネートであり、前記鎖状カーボネートは、エチルメチルカーボネート又はジエチルカーボネートであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電気化学デバイス用電解液。
【請求項5】
前記イミド系リチウム塩はリチウムビスフルオロスルホニルイミドであり、前記非イミド系リチウム塩はリチウムヘキサフルオロホスフェートであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の電気化学デバイス用電解液。
【請求項6】
正極及び負極がセパレータを介して積層された蓄電素子を備え、
前記正極の活物質及び前記負極の活物質、又は前記セパレータに、請求項1〜5のいずれか一項に記載の電気化学デバイス用電解液が含浸されていることを特徴とする電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学デバイス用電解液および電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解液を用いた電気二重層キャパシタやリチウムイオンキャパシタ等の電気化学デバイスは、非水溶媒の電気分解電圧が高いため耐電圧を高くすることができ、大きなエネルギを蓄えることが可能である。
【0003】
近年、電気化学デバイスは、低温時における内部抵抗の低減や高温状態における信頼性の確保が求められている。低温特性に関しては、電解液中の電解質の解離が起こりにくくなったり、非水電解液の粘度が高くなったりすることで内部抵抗が上昇すると考えられている。
【0004】
また、高温信頼性に関しては、電解質であるPF等のアニオンが分解してフッ化水素等の分解物が発生したり、非水電解液が負極近傍で還元分解して高抵抗な被膜を形成したりすることが原因で、セルの諸特性が悪化していると考えられている。
【0005】
上記問題を解決するために、例えば特許文献1では、イミド構造を有したイミド系リチウム塩を用い、ハンセンの溶解度パラメータに基づくRED(Relative Energy Difference)値が1よりも大きくなるようなポリマーを含むバインダーを用いたリチウムイオンキャパシタが提案されている。
【0006】
また、特許文献2では、イミド系リチウム塩とLiPFとを非水系有機溶媒に加えた電解液に複数の添加剤を添加したリチウムイオン二次電池が提案されている。
【0007】
そして、特許文献3では、鎖状カーボネートと環状カーボネートとの混合溶媒に、LiPFとLiBFのいずれか一方とLiFSIとを加えた電解液に、特定の添加剤を加えたリチウムイオンキャパシタが提案されている。
【0008】
更に、特許文献4では、電解液にイミド系リチウム塩、アルキルスルホン酸リチウム塩、ジフルオロリン酸リチウム塩、リチウムオキサラトホウ酸塩、および炭酸ビニレンを添加することにより、高温保存後の電気抵抗を抑えたリチウムイオン二次電池が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2017−17299号公報
【特許文献2】特表2016−503571号公報
【特許文献3】WO2016/006632号公報
【特許文献4】特開2019−175578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1では、イミド系リチウム塩としてLiFSIを用い、ハンセンの溶解度パラメータに基づくRED値が1よりも大きくなるようなポリマーを含むバインダーを用いることで、85℃程度の高温におけるリチウムイオンキャパシタのフロート信頼性が良好になることが記載されている。しかしながら、低温特性に関しては、電解質の析出の有無やイオン電導度の値から議論しているものの、具体的にセルでの評価は行っていない。
【0011】
特許文献2では、非水系有機溶媒にイミド系リチウム塩とLiPFとを加えた電解液に、リチウムジフルオロオキサレートホスフェート、トリメチルシリルプロピルホスフェート、1,3−プロペンスルトン、およびエチレンスルフェートからなる群から1種類以上を添加することで、低温(−30℃)と高温(60℃)での出力特性が改善されることが記載されている。しかしながら、高温側は60℃までしか評価しておらず、85℃のような高い温度にも耐えられるかは不明である。
【0012】
特許文献3では、エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)のいずれかと、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、及びエチルメチルカーボネート(EMC)のいずれかとを混合してなる混合溶媒を使用している。そして、この混合溶媒に、LiPFとLiBFのいずれか一方とLiFSIとを電解質として加えて電解液を作製している。更に、この電解液に、鎖状エーテル、フッ素化鎖状エーテル、及びプロピオン酸エステルのいずれかの化合物を添加するか、又はスルトン化合物、環状ホスファゼン、含フッ素環状カーボネート、環状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル、及び環状酸無水物のいずれかの化合物を加えることが特許文献3に記載されている。これにより、−30℃におけるリチウムイオンキャパシタの出力特性が向上し、かつリチウムイオンキャパシタを60℃で貯蔵したときのガスの発生が抑制されることが特許文献3に記載されている。しかしながら、高温側は60℃までしか評価しておらず、85℃のような高い温度にも耐えられるかは不明である。
【0013】
特許文献4では、非水系有機溶媒にLiPFとイミド系リチウム塩とを加えた電解液にトリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウム、(オキサラト)ホウ酸リチウム、および炭酸ビニレンを添加することで、80℃で48時間保存した後でも−20℃における抵抗上昇率が低減できるリチウムイオン二次電池が開示されている。しかしながら、高温に保存する時間は48時間だけであり、1000時間のような長期間高温で保存してもリチウムイオン二次電池の特性が悪化するかは不明である。
【0014】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、電気化学デバイスの低温特性と高温信頼性の両方を改善することができる電気化学デバイス用電解液、及びそれを備えた電気化学デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る電気化学デバイス用電解液は、溶媒に電解質が溶解した電解液であって、前記溶媒は、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを含み、前記電解質は、イミド系リチウム塩と非イミド系リチウム塩とを含み、前記電解液に、ジフルオロリン酸リチウム、オキサラトリン酸リチウム塩、及びオキサラトホウ酸リチウム塩を含む添加剤が添加され、前記電解液における前記添加剤の濃度が0.5wt%以上2.0wt%以下であり、前記ジフルオロリン酸リチウムの重量と、前記オキサラトリン酸リチウム塩と前記オキサラトホウ酸リチウム塩とを合わせた重量との比が1:9〜3:7であり、前記オキサラトリン酸リチウム塩の重量と、前記オキサラトホウ酸リチウム塩の重量との比が1:1〜3:1であることを特徴とする。
【0016】
上記電気化学デバイス用電解液において、前記オキサラトリン酸リチウム塩は、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム又はテトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムであってもよい。
【0017】
上記電気化学デバイス用電解液において、前記オキサラトホウ酸リチウム塩は、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム又はジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウムであってもよい。
【0018】
上記電気化学デバイス用電解液において、前記環状カーボネートは、プロピレンカーボネート又はエチレンカーボネートであり、前記鎖状カーボネートは、エチルメチルカーボネート又はジエチルカーボネートであってもよい。
【0019】
上記電気化学デバイス用電解液において、前記イミド系リチウム塩はリチウムビスフルオロスルホニルイミドであり、前記非イミド系リチウム塩はリチウムヘキサフルオロホスフェートであってもよい。
【0020】
本発明に係る電気化学デバイスは、正極及び負極がセパレータを介して積層された蓄電素子を備え、前記正極の活物質及び前記負極の活物質、又は前記セパレータに、上記いずれかの電気化学デバイス用電解液が含浸されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、電気化学デバイスの低温特性と高温信頼性の両方を改善することができる電気化学デバイス用電解液、及びそれを備えた電気化学デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】リチウムイオンキャパシタの分解図である。
図2】リチウムイオンキャパシタの正極、負極およびセパレータの積層方向の断面図である。
図3】リチウムイオンキャパシタの分解図である。
図4】リチウムイオンキャパシタの外観図である。
図5】実施例と比較例の各々の試験条件を示す図である。
図6】実施例と比較例の各々の試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
(実施形態)
まず、電気化学デバイスの一例として、リチウムイオンキャパシタについて説明する。図1は、リチウムイオンキャパシタ100の分解図である。図1で例示するように、リチウムイオンキャパシタ100は、正極10および負極20がセパレータ30を介して捲回された構造を有する蓄電素子50を備える。蓄電素子50は、略円柱形状を有している。正極10には、引出端子41が接続されている。引出端子42は、負極20に接続されている。
【0024】
図2は、正極10、負極20およびセパレータ30の積層方向の断面図である。図2で例示するように、正極10は、正極集電体11の一面に正極電極層12が積層された構造を有している。正極10の正極電極層12上に、セパレータ30が積層されている。セパレータ30上に、負極20が積層されている。負極20は、負極集電体21の正極10側の面に負極電極層22が積層された構造を有している。負極20の負極集電体21上に、セパレータ30が積層されている。蓄電素子50においては、これらの正極10、セパレータ30、負極20およびセパレータ30の積層単位が捲回されている。なお、正極電極層12は、正極集電体11の両面に設けられていてもよい。負極電極層22は、負極集電体21の両面に設けられていてもよい。
【0025】
図3で例示するように、蓄電素子50と略同一の径を有する略円柱形状の封口ゴム60の2つの貫通孔に引出端子41および引出端子42がそれぞれ挿入されている。また、蓄電素子50は、有底の略円筒形状の容器70内に収容されている。
【0026】
図4で例示するように、封口ゴム60が容器70の開口周辺でかしめられている。それにより、蓄電素子50の密封性が保たれている。非水電解液は、容器70内に封入され、正極10の活物質および負極20の活物質、またはセパレータ30に含浸されている。
【0027】
(正極)
正極集電体11は、金属箔であり、例えばアルミニウム箔などである。このアルミニウム箔は、孔空き箔であってもよい。正極電極層12は、電気二重層キャパシタやレドックスキャパシタの電極層に用いられる公知の材質及び構造を有していればよく、例えばポリアセン(PAS)、ポリアニリン(PAN)、活性炭、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ等の活物質を含有し、電気二重層キャパシタ等の電極層に用いられる導電助剤やバインダー等の他の成分も必要に応じて含有している。
【0028】
(負極)
負極集電体21は、金属箔であり、例えば銅箔などである。この銅箔は、孔空き箔であってもよい。負極電極層22は、例えば易黒鉛化炭素、グラファイト、錫酸化物、珪素酸化物等の活物質を含有し、カーボンブラックや金属粉末等の導電助剤や、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリフッ化ビニリデン(PVDF)やスチレンブタジエンゴム(SBR)等のバインダーも必要に応じて含有している。
【0029】
(セパレータ)
セパレータ30は、例えば、正極10と負極20との間に設けられることにより、これら両電極の接触に伴う短絡を防止する。セパレータ30は、空孔内に非水電解液を保持することにより、電極間の導電経路を形成する。セパレータ30の材質としては、例えば、多孔性の、セルロース、ポリプロピレン、ポリエチレン、フッ素系樹脂等を用いることができる。
【0030】
なお、蓄電素子50と非水電解液を容器70内に封入する際に、リチウム金属シートを負極20と電気的に接続する。これにより、リチウム金属シートのリチウムが非水電解液内に溶解するとともに、リチウムイオンが負極20の負極電極層22にプレドープされる。これにより、充電前の状態で負極20の電位が正極10の電位に比べて例えば3V程度低くなる。
【0031】
また、本実施形態においては、リチウムイオンキャパシタ100は、捲回構造の蓄電素子50が円筒型の容器70に封入された構造を有しているが、それに限られない。例えば、蓄電素子50は、積層構造を有していてもよい。また、この場合の容器70は、角型の缶等であってもよい。
【0032】
(非水電解液)
非水電解液は、以下のように非水溶媒に電解質を溶解させ、これに添加剤を加えて作製する。
【0033】
(非水溶媒)
非水溶媒として、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを用いる。環状カーボネートは、例えば環状炭酸エステルであるプロピレンカーボネート(PC)やエチレンカーボネート(EC)である。環状炭酸エステルは、高い誘電率を有しているため、リチウム塩を良く溶かす性質を有している。また、環状炭酸エステルを非水溶媒に用いた非水電解液は、高いイオン電導度を有している。したがって、環状カーボネートを非水溶媒として用いると、リチウムイオンキャパシタ100の初期特性が良好となる。また、環状カーボネートを非水溶媒として用いた場合、負極20上に被膜が形成された後は、リチウムイオンキャパシタ100の動作時の十分な電気化学的安定性が実現される。
【0034】
一方、鎖状カーボネートは、例えば鎖状炭酸エステルであるエチルメチルカーボネート(EMC)やジエチルカーボネート(DEC)である。
【0035】
本実施形態では、非水溶媒における環状カーボネートと鎖状カーボネートとの割合を、体積比で40:60〜20:80とする。鎖状カーボネートの割合の下限を60としたのは、これよりも鎖状カーボネートが少ないと低温特性が極端に悪化するためである。また、鎖状カーボネートの割合の上限を80としたのは、これよりも鎖状カーボネートが多いと高温信頼性が極端に悪化するためである。更に、非水溶媒における環状カーボネートと鎖状カーボネートとの割合は、体積比で35:65〜25:75であるのが好ましい。
【0036】
(電解質)
電解質としては、イミド系リチウム塩と非イミド系リチウム塩とを混合したものを用いる。
【0037】
このうち、イミド系リチウム塩は、例えばLiFSI(リチウムビスフルオロスルホニルイミド)である。LiFSIは、低温におけるリチウムイオンキャパシタ100の容量やDCRを改善する。
【0038】
一方、非イミド系リチウム塩は、例えばLiPF(リチウムヘキサフルオロホスフェート)である。LiPFは、汎用的なリチウム塩の中でも高い解離度を有しているため、リチウムイオンキャパシタ100の良好な初期特性(容量およびDCR)を実現する。
【0039】
本実施形態では、電解質におけるイミド系リチウム塩と非イミド系リチウム塩のモル比を40:60〜99.9:0.1とする。イミド系リチウム塩のモル比の下限を40としたのは、これよりもイミド系リチウム塩が少ないと低温特性が極端に悪化するためである。また、非イミドリチウム塩のモル比の下限を0.1としたのは、イミド系リチウム塩のみからなる電解質では高温信頼性が悪化するためである。更に、電解質におけるイミド系リチウム塩と非イミド系リチウム塩のモル比は60:40〜99.5:0.5であるのが好ましく、70:30〜99.0:1.0であるのがより好ましい。
【0040】
なお、非水溶媒における電解質の濃度は、0.7mol/L〜1.5mol/Lが好ましい。電解質の濃度の下限を0.7mol/Lとしたのは、電解質の濃度をこれよりも低くすると有効に作用するイオンが少なくなることが原因で内部抵抗が上昇するためである。また、電解質の濃度の上限を1.5mol/Lとしたのは、電解質の濃度をこれよりも高くすると非水電解液の粘度が高くなることが原因で内部抵抗が上昇するためである。
【0041】
(第1添加剤)
リチウムイオンキャパシタ100の内部抵抗を低減するために、非水電解液に第1添加剤としてジフルオロリン酸リチウム(LiDFP(LiPO))を添加する。
【0042】
第1添加剤の効果を十分に得るために、第1添加剤の濃度に下限を設けることが好ましい。一方、電解液における第1添加剤の濃度が高すぎると、リチウムイオンキャパシタ100の高温時のフロート信頼性が低下するおそれがある。そこで、電解液における第1添加剤の濃度に上限を設けることが好ましい。本実施形態においては、電解液における第1添加剤の濃度を0.1wt%〜0.4wt%とする。
【0043】
(第2添加剤)
リチウムイオンキャパシタ100の内部抵抗を低減し、かつ高温時のフロート信頼性を高めるために、非水電解液に第2添加剤としてオキサラトリン酸リチウム塩を添加する。そのようなオキサラトリン酸リチウム塩としては、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム(LiDFBOP(LiP(C))又はテトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウム(LiTFOP(LiP(C)F4))がある。
【0044】
第2添加剤の効果を十分に得るために、第2添加剤の濃度に下限を設けることが好ましい。一方、電解液における第2添加剤の濃度が高すぎると、リチウムイオンキャパシタ100の内部抵抗が上昇したり、高温時のフロート信頼性が低下したりするおそれがある。そこで、電解液における第2添加剤の濃度に上限を設けることが好ましい。本実施形態においては、電解液における第2添加剤の濃度を0.2wt%〜1.2wt%とする。
【0045】
(第3添加剤)
リチウムイオンキャパシタ100の高温時のフロート信頼性を高めるために、非水電解液に第3添加剤としてオキサラトホウ酸リチウム塩を添加する。そのようなオキサラトホウ酸リチウム塩としては、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBOB(LiB(C))又はジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiDFOB(LiB(C)F))がある。
【0046】
第3添加剤の効果を十分に得るために、第3添加剤の濃度に下限を設けることが好ましい。一方、電解液における第3添加剤の濃度が高すぎると、リチウムイオンキャパシタ100の内部抵抗が上昇するおそれがある。そこで、電解液における第3添加剤の濃度に上限を設けることが好ましい。本実施形態においては、電解液における第3添加剤の濃度を0.2wt%〜0.4wt%とする。
【0047】
また、本実施形態では、非水電解液において第1添加剤、第2添加剤、及び第3添加剤を合わせた濃度を0.5wt%以上2.0wt%以下とする。更に、第1添加剤の重量と、第2添加剤と第3添加剤とを合わせた重量との比を1:9〜3:7とする。そして、第2添加剤の重量と第3添加剤の重量との比を1:1〜3:1とする。これにより、リチウムイオンキャパシタ100の低温時の内部抵抗が低減し、かつ高温時のフロート信頼性を高めることができ、リチウムイオンキャパシタ100の低温特性と高温信頼性の両方を改善することができる。
【0048】
なお、本実施形態においては、電気化学デバイスとしてリチウムイオンキャパシタの電解液に着目したが、それに限られない。例えば、本実施形態に係る非水電解液を、電気二重層キャパシタなどの他の電気化学デバイスの電解液として用いることもできる。
【実施例】
【0049】
上記実施形態に従って、リチウムイオンキャパシタを作製し、特性について調べた。
図5は、実施例と比較例の各々の試験条件を示す図である。
【0050】
(実施例1)
正極10の活物質として、活性炭を用いた。カルボキシメチルセルロース及びスチレンブタジエンゴムをバインダーとしてスラリを調製し、調製されたスラリを孔空き加工の施されたアルミ箔上に塗布してシート状に作製した。負極20の活物質として、易黒鉛化炭素を用いた。カルボキシメチルセルロース及びスチレンブタジエンゴムをバインダーとしてスラリを調製し、調製されたスラリを孔空き加工の施された銅箔上に塗布してシート状に作製した。これらの電極10、20間にセルロース系のセパレータ30を挟み、超音波溶接により引出端子41を正極集電体11に取り付け、引出端子42を負極集電体21に取り付けてからこれらを捲回し、ポリイミドの粘着テープで蓄電素子50を固定した。作製した蓄電素子50に封口ゴム60を取付けて約180℃で真空乾燥した後、負極20にリチウム箔を貼りつけ、蓄電素子50を容器70に入れた。
【0051】
その後、PCとEMCとを体積比で3:7の割合で混合した非水溶媒に、LiFSIとLiPFとをモル比で7:3の割合で混合した電解質を溶解した非水電解液を作製した。その非水電解液における電解質の濃度は1.0mol/Lとした。更に、非水電解液に第1添加剤としてジフルオロリン酸リチウム(LiPO)を0.1wt%の濃度で添加し、第2添加剤としてジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム(LiP(C)を0.6wt%の濃度で添加し、第3添加剤としてビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiB(C)を0.3wt%の濃度で添加した。そして、この非水電解液を容器70に注入した後、封口ゴム60の部分をかしめてリチウムイオンキャパシタ100を作製した。
【0052】
(実施例2)
実施例2では、第2添加剤の濃度を0.5wt%とし、第3添加剤の濃度を0.4wt%とした。その他の条件は実施例1と同様とした。
【0053】
(実施例3)
実施例3では、第1添加剤の濃度を0.2wt%とし、第2添加剤の濃度を0.6wt%とし、第3添加剤の濃度を0.2wt%とした。その他の条件は実施例1と同様とした。
【0054】
(実施例4)
実施例4では、第2添加剤の濃度を0.5wt%とし、第3添加剤の濃度を0.3wt%とした。その他の条件は実施例3と同様とした。
【0055】
(実施例5)
実施例5では、第2添加剤の濃度を0.4wt%とし、第3添加剤の濃度を0.4wt%とした。その他の条件は実施例3と同様とした。
【0056】
(実施例6)
実施例6では、第1添加剤の濃度を0.3wt%とし、第2添加剤の濃度を0.5wt%とし、第3添加剤の濃度を0.2wt%とした。その他の条件は実施例1と同様とした。
【0057】
(実施例7)
実施例7では、第2添加剤の濃度を0.4wt%とし、第3添加剤の濃度を0.3wt%とした。その他の条件は実施例6と同様とした。
【0058】
(実施例8)
実施例8では、第1添加剤の濃度を0.1wt%とし、第2添加剤の濃度を0.2wt%とし、第3添加剤の濃度を0.2wt%とした。その他の条件は実施例1と同様とした。
【0059】
(実施例9)
実施例9では、第1添加剤の濃度を0.2wt%とし、第2添加剤の濃度を0.9wt%とし、第3添加剤の濃度を0.4wt%とした。その他の条件は実施例1と同様とした。
【0060】
(実施例10)
実施例10では、第1添加剤の濃度を0.4wt%とし、第2添加剤の濃度を1.2wt%とし、第3添加剤の濃度を0.4wt%とした。その他の条件は実施例1と同様とした。
【0061】
(比較例1)
比較例1では、第2添加剤の濃度を0.7wt%とし、第3添加剤の濃度を0.2wt%とした。その他の条件は実施例1と同様とした。
【0062】
(比較例2)
比較例2では、第2添加剤の濃度を0.4wt%とし、第3添加剤の濃度を0.5wt%とした。その他の条件は実施例1と同様とした。
【0063】
(比較例3)
比較例3では、第2添加剤の濃度を0.7wt%とし、第3添加剤の濃度を0.1wt%とした。その他の条件は実施例3と同様とした。
【0064】
(比較例4)
比較例4では、第2添加剤の濃度を0.3wt%とし、第3添加剤の濃度を0.5wt%とした。その他の条件は実施例3と同様とした。
【0065】
(比較例5)
比較例5では、第2添加剤の濃度を0.6wt%とし、第3添加剤の濃度を0.1wt%とした。その他の条件は実施例6と同様とした。
【0066】
(比較例6)
比較例6では、第2添加剤の濃度を0.3wt%とし、第3添加剤の濃度を0.4wt%とした。その他の条件は実施例6と同様とした。
【0067】
(比較例7)
比較例7では、第1添加剤の濃度を0.4wt%とし、第2添加剤の濃度を0.3wt%とし、第3添加剤の濃度を0.3wt%とした。その他の条件は実施例1と同様とした。
【0068】
(比較例8)
比較例8では、第1添加剤の濃度を0.05wt%とし、第2添加剤の濃度を0.1wt%とし、第3添加剤の濃度を0.1wt%とした。その他の条件は実施例1と同様とした。
【0069】
(比較例9)
比較例9では、第1添加剤の濃度を0.5wt%とし、第2添加剤の濃度を1.5wt%とし、第3添加剤の濃度を0.5wt%とした。その他の条件は実施例1と同様とした。
【0070】
(比較例10)
比較例10では、第2添加剤の濃度を0.5wt%とし、第3添加剤の濃度を0.5wt%とした。なお、電解液に第1添加剤は添加しなかった。その他の条件は実施例1と同様とした。
【0071】
(比較例11)
比較例11では、第1添加剤の濃度を0.3wt%とし、第3添加剤の濃度を0.7wt%とした。なお、電解液に第2添加剤は添加しなかった。その他の条件は実施例1と同様とした。
【0072】
(比較例12)
比較例12では、第1添加剤の濃度を0.3wt%とし、第2添加剤の濃度を0.7wt%とした。なお、電解液に第3添加剤は添加しなかった。その他の条件は実施例1と同様とした。
【0073】
(評価方法)
実施例1〜10と比較例1〜12の各々のリチウムイオンキャパシタ100を作製した。その後、初期特性として、室温(25℃)におけるDCR(内部抵抗)を測定した。
【0074】
低温特性は、セルを−40℃で2時間放置した後、−40℃でDCRを測定し、この値の25℃からの変化率に基づいて評価した。
【0075】
また、高温信頼性を評価するために、85℃の恒温槽中において3.5Vの電圧で1000時間連続充電するフロート試験を行った。フロート試験後、セルを室温(25℃)まで放冷し、DCRを測定し、試験前後の値の変化率を算出した。実施例と比較例の各々の試験結果を図6に示す。
【0076】
(低温特性)
−40℃での低温特性の良否の判定基準は、抵抗上昇率が1500%以内とし、この基準が満たされない場合には不良と判定した。なお、抵抗上昇率は、25℃のときを基準としたときの内部抵抗の上昇率である。また、図6には、この基準を満たさない欄にハッチングを掛けてある。
【0077】
実施例1〜7及び比較例1〜7、10〜12の結果から明らかなように、低温特性に最も影響を及ぼすのは第3添加剤のビス(オキサラト)ホウ酸リチウムであり、その添加量が増えるほど低温特性が悪化する傾向が確認された。また、第1添加剤のジフルオロリン酸リチウムの添加量が増えると、低温特性は良くなる傾向が見られた。
【0078】
一方、実施例8〜10及び比較例8〜9の結果によれば、第1添加剤、第2添加剤、及び第3添加剤のそれぞれの濃度の合計が2.0wt%よりも高いと低温特性の判定基準を満たさないことが確認された。
【0079】
(高温信頼性)
高温信頼性の良否の判断基準は、抵抗上昇率が200%以内とし、この基準が満たされない場合には不良と判定した。抵抗上昇率は、フロート試験の前後における内部抵抗の上昇率である。なお、図6には、この基準を満たさない欄にハッチングを掛けてある。
【0080】
実施例1〜7及び比較例1〜7、10〜12の結果から明らかなように、第3添加剤のビス(オキサラト)ホウ酸リチウムの添加量が増えるほど高温信頼性は良くなるものの、その添加量が多すぎるとかえって高温信頼性が悪化することが確認された。また、第1添加剤のジフルオロリン酸リチウムの添加量が増えると、高温信頼性は悪化する傾向が見られた。
【0081】
一方、実施例8〜10及び比較例8〜9の結果によれば、第1添加剤、第2添加剤、及び第3添加剤のそれぞれの濃度の合計が0.5wt%〜2.0wt%の範囲を外れると、高温信頼性が悪化することが確認された。なお、比較例11に示されるように、電解液に第2添加剤のジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムが含まれていないと、高温信頼性が悪いだけでなく、低温特性も悪化する結果が得られた。
【0082】
また、図6によれば、低温特性と高温信頼性の両方の判定基準を満たす実施例1〜10においては、第1添加剤、第2添加剤、及び第3添加剤のそれぞれの濃度の合計が0.5wt%以上2.0wt%以下であり、第1添加剤の重量と、第2添加剤と第3添加剤とを合わせた重量との比が1:9〜3:7であり、第2添加剤の重量と第3添加剤の重量との比が1:1〜3:1である。
【0083】
よって、低温特性と高温信頼性を両立するためには、第1添加剤、第2添加剤、及び第3添加剤のそれぞれの濃度の合計を0.5wt%以上2.0wt%以下とし、第1添加剤の重量と、第2添加剤と第3添加剤とを合わせた重量との比を1:9〜3:7とし、第2添加剤の重量と第3添加剤の重量との比を1:1〜3:1とするのが有効であることが確認された。
【符号の説明】
【0084】
10 正極
11 正極集電体
12 正極電極層
20 負極
21 負極集電体
22 負極電極層
30 セパレータ
41、42 引出端子
50 蓄電素子
60 封口ゴム
70 容器
100 リチウムイオンキャパシタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6