(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-1670(P2021-1670A)
(43)【公開日】2021年1月7日
(54)【発明の名称】膨張弁用ボディ
(51)【国際特許分類】
F16K 27/00 20060101AFI20201204BHJP
F25B 41/335 20210101ALI20201204BHJP
【FI】
F16K27/00 A
F25B41/06 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-115874(P2019-115874)
(22)【出願日】2019年6月21日
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(72)【発明者】
【氏名】古谷 七郎
(72)【発明者】
【氏名】赤井 洋
【テーマコード(参考)】
3H051
【Fターム(参考)】
3H051AA01
3H051BB08
3H051BB09
3H051CC11
3H051DD07
3H051FF08
(57)【要約】
【課題】軽量で、かつ、耐熱性および強度に優れた膨張弁用ボディを提供する。
【解決手段】膨張弁用ボディ1は、冷媒が導入される導入口2と、冷媒を供給する供給口3と、導入口2と供給口3の間に位置し、流量調整用の弁体が組み付けられる流量調整室4とを備え、膨張弁用ボディ1は、樹脂組成物を用いて一体に成形された樹脂成形体であり、樹脂組成物は芳香族ポリアミド樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物であり、芳香族ポリアミド樹脂は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、脂肪族ジアミンを主成分とするジアミン成分とからなるポリアミド樹脂である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒が導入される導入口と、冷媒を供給する供給口と、前記導入口と前記供給口の間に位置し、流量調整用の弁体が組み付けられる流量調整室とを備える膨張弁用ボディであって、
前記膨張弁用ボディは、樹脂組成物を用いて一体に成形された樹脂成形体であり、前記樹脂組成物は芳香族ポリアミド樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物であることを特徴とする膨張弁用ボディ。
【請求項2】
前記芳香族ポリアミド樹脂は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、脂肪族ジアミンを主成分とするジアミン成分とからなるポリアミド樹脂であることを特徴とする請求項1記載の膨張弁用ボディ。
【請求項3】
前記芳香族ポリアミド樹脂は、ガラス転移温度が130℃以上であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の膨張弁用ボディ。
【請求項4】
前記樹脂組成物は、ガラス繊維および炭素繊維から選ばれる少なくとも一つの繊維状補強材を含み、該繊維状補強材を、前記樹脂組成物全体に対して10〜65質量%含むことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項記載の膨張弁用ボディ。
【請求項5】
前記樹脂成形体の各部における肉厚が3〜15mmの範囲内であり、前記樹脂成形体において、最小肉厚に対する最大肉厚の比が3.5以下であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項記載の膨張弁用ボディ。
【請求項6】
前記樹脂成形体が射出成形体であることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項記載の膨張弁用ボディ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置の冷凍サイクルなどに使用される膨張弁の膨張弁用ボディに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両用空調装置の冷凍サイクルは、冷媒を圧縮するコンプレッサと、圧縮された冷媒を凝縮するコンデンサと、冷凍サイクル内の冷媒を溜めるとともに凝縮された冷媒を気液に分離するレシーバと、分離された高温・高圧の液冷媒を絞り膨張させる膨張弁と、膨張弁で膨張された冷媒を蒸発させるエバポレータとによって構成される。従来、冷凍サイクルに使用される膨張弁として、例えば、特許文献1に記載の膨張弁が知られている。
【0003】
図4に基づいて、従来の膨張弁の一形態を説明する。
図4の縦断面図に示すように、膨張弁11は、冷媒が通過する通路が形成された膨張弁用ボディ11aに、駆動装置20および弁体16を組み付けたものである。略直方体形状の膨張弁用ボディ11aには、冷凍サイクルの冷媒経路においてレシーバからエバポレータへ向かう冷媒が通過する第1の通路R1が形成されるとともに、エバポレータからコンプレッサへ向かう冷媒が通過する第2の通路R2が形成されている。膨張弁用ボディ11aにおいて、第1の通路R1は、レシーバからの冷媒が導入される冷媒入口12と、エバポレータに冷媒を供給する冷媒出口13と、冷媒入口12に連通する流量調整室14を有する。流量調整室14と冷媒出口13の間には、冷媒を断熱膨張させるためのオリフィス15が形成されている。オリフィス15には、弁棒19が挿入されている。オリフィス15の端部には弁座が形成されており、弁座には支持部材17で支持された弁体16が、コイルバネ18によって付勢されている。
【0004】
膨張弁用ボディ11aの上端には、弁体16を駆動するための感温部を構成する駆動装置20が装着されている。駆動装置20はハウジング25内に、ダイアフラム22によって仕切られた2つの圧力作動室23、24を有する。上方の圧力作動室23には、駆動用ガスが封入されている。下方の圧力作動室24は、開口部26を介して第2の通路R2に連通されており、第2の通路R2を通過する冷媒の圧力が負荷される。ダイアフラム22の下面には、ストッパ部材21が配設され、ダイアフラム22の変位を弁棒19に伝達し、弁体16を上下に駆動させる。上方の圧力作動室23には、弁棒19などを介して第2の通路R2を通過する冷媒の温度が伝達される。この伝達された熱に対応して、駆動用ガスがガス化し、圧力をダイアフラム22の上面に負荷する。ダイアフラム22は、上面に負荷された駆動用ガスの圧力と下面に負荷された圧力との差によって、上下に変位する。この変位が弁体16に伝達され、弁体16が弁座に対して接近・離間することで、オリフィス15を流れる冷媒の流量が制御される。
【0005】
従来、このような膨張弁の膨張弁用ボディは、アルミニウム合金などの金属材を押出成形することによって形成されていた。また、特許文献1には、膨張弁用ボディの軽量化を図るため、膨張弁用ボディの押出方向の両側面の把持面を除く箇所に、凹部を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−159119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の膨張弁用ボディにあっては、アルミダイカストなどのアルミニウム合金が使われて軽量化が図られているものの、近年では、より軽量化された膨張弁用ボディが望まれている。軽量化には、膨張弁用ボディを樹脂化させることが考えられるが、単に膨張弁用ボディを樹脂化させるだけでは、膨張弁用ボディに要求される耐熱性や強度の維持が困難となるおそれがある。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、軽量で、かつ、耐熱性および強度に優れた膨張弁用ボディを提供することを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の膨張弁用ボディは、冷媒が導入される導入口と、冷媒を供給する供給口と、上記導入口と上記供給口の間に位置し、流量調整用の弁体が組み付けられる流量調整室とを備える膨張弁用ボディであって、上記膨張弁用ボディは、樹脂組成物を用いて一体に成形された樹脂成形体であり、上記樹脂組成物は芳香族ポリアミド樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物であることを特徴とする。
【0010】
上記芳香族ポリアミド樹脂は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、脂肪族ジアミンを主成分とするジアミン成分とからなるポリアミド樹脂であることを特徴とする。
【0011】
上記芳香族ポリアミド樹脂は、ガラス転移温度が130℃以上であることを特徴とする。
【0012】
上記樹脂組成物は、ガラス繊維および炭素繊維から選ばれる少なくとも一つの繊維状補強材を含み、該繊維状補強材を、上記樹脂組成物全体に対して10〜65質量%含むことを特徴とする。
【0013】
上記樹脂成形体の各部における肉厚が3〜15mmの範囲内であり、上記樹脂成形体において、最小肉厚に対する最大肉厚の比が3.5以下であることを特徴とする。
【0014】
上記樹脂成形体が射出成形体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の膨張弁用ボディは、樹脂組成物を用いて一体に成形された樹脂成形体であり、樹脂組成物は芳香族ポリアミド樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物であるので、アルミダイカストの比重(約2.6)に対して、上記樹脂組成物の比重(約1.1〜1.8)は十分に小さく、軽量化された膨張弁用ボディとなる。また、芳香族ポリアミド樹脂をベース樹脂とする成形体の強度は、他の樹脂の成形体の強度よりも高いので、膨張弁用ボディ内が高圧となっても使用することができる。これにより、軽量で、かつ、耐熱性および強度に優れた膨張弁用ボディが得られる。
【0016】
芳香族アミド樹脂は、ガラス転移温度が130℃以上であるので、耐熱性に優れており、膨張弁用ボディが使用される高温条件に耐えることができる。
【0017】
樹脂組成物は、ガラス繊維および炭素繊維から選ばれる少なくとも一つの繊維状補強材を含み、該繊維状補強材が所定量含まれるので、強度を向上させることができる。
【0018】
樹脂成形体の各部における肉厚が3〜15mmの範囲内であり、樹脂成形体において、最小肉厚に対する最大肉厚の比が3.5以下であるので、樹脂化に伴うヒケを抑制でき、寸法安定性が確保できる。
【0019】
樹脂成形体が射出成形体であるので、膨張弁用ボディの大量生産が可能となり、ひいては膨張弁用ボディの価格を低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の膨張弁用ボディの断面斜視図である。
【
図3】
図2の膨張弁用ボディを裏側から見た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の膨張弁用ボディの一例を
図1〜
図3に基づき説明する。
図1は膨張弁用ボディの断面斜視図を示し、
図2は縦断面図を示し、
図3は側面図を示す。
図1に示すように、膨張弁用ボディ1は、冷媒が導入される導入口2と、冷媒を供給する供給口3と、導入口2と供給口3の間に位置し、流量調整用の弁体(図示省略)が組み付けられる流量調整室4を備える。導入口2は円筒状の導入管2aで形成され、冷媒出口は円筒状の供給管3aで形成される。導入管2aおよび供給管3aは、軸方向の一端が閉塞された略円筒状の本体部1aから、該本体部1aと交差する方向にそれぞれ延びている。導入管2aおよび供給管3aは、互いに平行に、かつ逆方向に延びている。膨張弁用ボディ1において、本体部1a、導入管2a、および供給管3aの内部空間は連通している。
【0022】
流量調整室4と供給口3の間には、冷媒を断熱膨張させるためのオリフィス5が形成されている。オリフィス5は、流量調整室4の内壁の一部が径方向内側に張り出すことで内径が狭まった通路である。オリフィス5は、本体部1aの軸方向に沿った中心線を有している。また、オリフィス5の下部には底壁5aが設けられている。オリフィス5の流量調節室4側の端面には、環状の弁座6が設けられている。この弁座6に弁体(図示省略)が組み付けられる。弁体はコイルバネなどの弾性部材により付勢されて、弁座6に向けて支持される(
図4参照)。
【0023】
また、
図4で説明したように、弁体は弁棒を介して弁体を駆動させる駆動装置に接続される。この駆動装置の変位に応じて、弁体が駆動し、オリフィス5が開閉される。その結果、冷媒の流量が調整されて、冷凍サイクルにおいてエバポレータへ供給される冷媒の量が調整される。このような膨張弁に用いる膨張弁用ボディ(特に、オリフィスや流量調節室)には、高い寸法精度が要求される。
【0024】
本発明の膨張弁用ボディは、後述の芳香族ポリアミド樹脂組成物を用いて成形した樹脂成形体である。所定の樹脂組成物を用いることで、寸法安定性を確保している。また、ヒケの発生により寸法安定性が低下することを防止するため、膨張弁用ボディの各部における肉厚は3〜20mmの範囲内に設定することが好ましい。肉厚を20mm以下とし、過剰な肉厚としないことでヒケの発生を抑制できる。また、上記肉厚は、3〜15mmの範囲内に設定することがより好ましい。なお、膨張弁用ボディのうちリブを除く部分の肉厚は、3〜5mmであることが好ましい。
【0025】
本発明において、「肉厚」は膨張弁用ボディの内部空間を構成する内周面から反対側の端面までの長さである。例えば、各部における肉厚を
図2に示す。
図2において、T
aは導入管2aの肉厚を示し、T
bは供給管3aの肉厚を示し、T
cは本体部1aのリブの肉厚を示し、T
dはオリフィス5の肉厚を示す。導入管2aの肉厚T
aと供給管3aの肉厚T
bは略同一であることが好ましい。
【0026】
樹脂成形体の各部における肉厚は、全体で概ね一定となるように設定することが好ましい。具体的には、樹脂成形体において、最小肉厚T
minに対する最大肉厚T
maxの比が3.5以下であることが好ましい。上記比は3以下であることがより好ましく、2以下であることがさらに好ましい。なお、
図1〜
図3の構成では、最大肉厚T
maxがリブの部分であり、最小肉厚T
minがオリフィス5の底壁5aの部分となっている。また、膨張弁用ボディのうちリブを除いた部分の各部の肉厚は、そのリブを除いた部分の各部の肉厚の平均値から±20%の範囲内にあることが好ましく、±10%の範囲内にあることがより好ましい。
【0027】
本発明の膨張弁用ボディは、樹脂組成物の一体成形体であり、本体部1a、導入管2a、供給管3a、オリフィス5が一体に成形されている。そのため、例えば導入管2aや供給管3aなどを別部材で構成し、これらをねじなどによって固定した場合よりも、部品点数が少なくできる。さらに、固定箇所などから冷媒が外部に漏れることも防ぐことができる。
【0028】
図3には、膨張弁用ボディの側面図を示す。
図3に示すように、本体部1aと導入管2aの接続部分には、導入管2aの外周面に肉抜き部7が形成されている。また、本体部1aと供給管3aの接続部分には、供給管3aの外周面に肉抜き部8が形成されている。
図3のように、不必要な肉(樹脂部分)を省略した肉抜き構造とすることで、ヒケの発生をより抑え、寸法精度を確保することができる。さらに、使用する樹脂量が減ることでコストを抑えることができる。
【0029】
なお、
図1の弁座6に組み付けられる弁体としては、特に限定されず、例えばサーモスタットなどを用いることができる。サーモスタットを用いる場合、サーモスタットの取り付け部分が弁座6に直接載置される。
【0030】
以下には、本発明に用いる樹脂組成物について説明する。本発明に用いる樹脂組成物は、芳香族ポリアミド樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物である。芳香族ポリアミド樹脂は、分子中に芳香環を含んでいるポリアミド樹脂であり、モノマー単位として、芳香族ジカルボン酸および芳香族ジアミンの少なくともいずれかから誘導される部分が含まれる。
【0031】
芳香族ポリアミドのモノマー単位の具体例としては、例えば、テトラメチレンイソフタルアミド単位(PA4Iの構成単位)、ヘキサメチレンイソフタルアミド単位(PA6Iの構成単位)、ヘキサメチレンテレフタルアミド単位(PA6Tの構成単位)、2−メチルペンタメチレンテレフタルアミド単位、オクタメチレンテレフタルアミド単位(PA8Tの構成単位)、ノナメチレンテレフタルアミド単位(PA9Tの構成単位)、デカメチレンテレフタルアミド単位(PA10Tの構成単位)、ウンデカメチレンテレフタルアミド単位(PA11Tの構成単位)、ドデカメチレンテレフタルアミド単位(PA12Tの構成単位)、メタキシリレンアジパミド単位(PAMXD6の構成単位)、メタキシリレンセバカミド単位(PAMXD10の構成単位)、メタキシリレンドデカミド単位(PAMXD12の構成単位)、パラキシリレンアジパミド単位(PAPXD6の構成単位)、パラキシリレンセバカミド単位(PAPXD10の構成単位)、パラキシリレンドデカミド単位(PAPXD12の構成単位)などが挙げられる。
【0032】
本発明に用いる芳香族ポリアミド樹脂は、単一の構成単位で構成されていてもよく、他の構成単位を含む共重合ポリアミドとしてもよい。
【0033】
芳香族ポリアミド樹脂としては、芳香族ジカルボン酸を主成分とし、脂肪族ジアミンを主成分に用いることが好ましい。上記芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、これらの中でもテレフタル酸がより好ましい。上記脂肪族ジアミンとしては、1,2−エタンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、2−メチルペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,10−デカンジアミンがより好ましい。
【0034】
共重合ポリアミドとする場合、他の共重合成分として用いるジカルボン酸成分としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、上述した芳香族ジカルボン酸が挙げられる。また、他の共重合成分として用いるジアミン成分としては、上述した脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミンなどの脂環族ジアミン、キシリレンジアミンなどの芳香族ジアミンが挙げられる。また、上記ポリアミド樹脂には、カプロラクタムなどのラクタム類を共重合させてもよい。
【0035】
芳香族ポリアミド樹脂は、そのガラス転移温度が130℃以上であることが好ましい。より好ましくは140℃以上である。一般に使用される他のポリアミド樹脂(ポリアミド66樹脂(同49℃)、ポリアミド46樹脂(同78℃)よりもガラス転移温度が高いので、高温時の強度低下、寸法変化などを防止できる。なお、ガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)を用いて、不活性ガス雰囲気下で、上記芳香族ポリアミド樹脂を急冷した後、20℃/分の昇温速度で昇温した場合に現れる階段状の吸熱ピークの中点の温度(Tg)として測定できる(JIS K7121)。
【0036】
芳香族ポリアミド樹脂は、その密度(ISO 1180)が1.8g/m
3以下であることが好ましく、1.6g/m
3以下であることがより好ましい。
【0037】
ベース樹脂とする上記芳香族ポリアミド樹脂に配合する繊維状補強材としては、ガラス繊維または炭素繊維を用いることが好ましい。ガラス繊維は、SiO
2、B
2O
3、Al
2O
3、CaO、MgO、Na
2O、K
2O、Fe
2O
3などを主成分とする無機ガラスから紡糸して得られる。一般に、無アルカリガラス(Eガラス)、含アルカリガラス(Cガラス、Aガラス)などを使用できる。上記芳香族ポリアミド樹脂への影響を考慮すれば無アルカリガラスが好ましい。無アルカリガラスは、組成物中にアルカリ成分をほとんど含んでいないホウケイ酸ガラスである。アルカリ成分がほとんど入っていないので、芳香族ポリアミド樹脂への影響がほとんどなく樹脂組成物の特性が変化しない。また、炭素繊維は、ポリアクリロニトリル系(PAN系)、ピッチ系、レーヨン系、リグニン−ポバール系混合物など原料の種類によらないで使用できる。
【0038】
上記繊維状補強材は、ガラス繊維および炭素繊維から選ばれる少なくとも1つを樹脂組成物全体に対して10〜65質量%含むように配合する。好ましくは、いずれか一方のみを配合する。繊維状補強材としてガラス繊維のみを用いる場合、その配合量は、樹脂組成物全体に対して10〜65質量%とすることが好ましく、20〜50質量%がより好ましく、30〜45質量%がさらに好ましい。ガラス繊維の配合量が10質量%未満である場合、補強効果が少なく、65質量%をこえる場合は、射出成形に適した流動性が得られないおそれがある。
【0039】
繊維状補強材として炭素繊維のみを用いる場合、その配合量は、樹脂組成物全体に対して10〜40質量%とすることが好ましく、15〜30質量%がより好ましい。炭素繊維の配合量が10質量%未満である場合、補強効果が少なく、40質量%をこえる場合は、射出成形に適した流動性が得られないおそれがある。
【0040】
本発明における樹脂組成物には、強度や、耐熱性、射出成形性を損なわない範囲であれば、必要に応じて、上記繊維状補強材以外の添加剤を配合してもよい。他の添加剤として、例えば、固体潤滑剤、無機充填材、酸化防止剤、帯電防止剤、離型材などを配合できる。
【0041】
本発明に使用できる樹脂組成物としては、例えば、デカメチレンテレフタルアミド単位を構成単位として含む芳香族ポリアミド樹脂組成物である、ユニチカ社製のXecoT(登録商標)XB510A30(30質量%炭素繊維含有)や、ヘキサメチレンテレフタルアミド単位と、2−メチルペンタメチレンテレフタルアミド単位とを構成単位として含む共重合ポリアミド樹脂組成物である、ザイテル(登録商標)HTN51G45HSL(45質量%ガラス繊維含有)などが挙げられる。
【0042】
上記樹脂組成物を構成する各材料を、必要に応じて、ヘンシェルミキサー、ボールミキサー、リボンブレンダーなどにて混合した後、二軸混練押出し機などの溶融押出し機にて溶融混練し、成形用ペレットを得ることができる。なお、充填材の投入は、二軸押出し機などで溶融混練する際にサイドフィードを採用してもよい。この成形用ペレットを用いて射出成形により膨張弁用ボディを成形する。射出成形時は、樹脂温度を上述の芳香族ポリアミド樹脂の融点以上とし、金型温度を該芳香族ポリアミド樹脂のガラス転移温度未満に保持して行なう。
【0043】
本発明の膨張弁用ボディの樹脂材料とする樹脂組成物は、上述のとおり、所定の芳香族ポリアミド樹脂に所定量の繊維状補強材(ガラス繊維または炭素繊維)を配合してなるので、融点およびガラス転移温度が高く、優れた耐熱性、寸法安定性を示すとともに高い機械的性質を有する。このため、本発明の膨張弁用ボディは、膨張弁が使用される高温、高圧環境下でも長時間の使用に耐え得る膨張弁用ボディとなる。また、上記樹脂組成物は、吸水性が小さいため、冷媒との接触による吸水・吸湿による膨潤、膨張に伴う寸法変化や物性低下も抑制できる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の膨張弁用ボディは、軽量で、かつ、耐熱性および強度に優れているので、アルミニウム合金製の膨張弁用ボディの代替品として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0045】
1 膨張弁用ボディ
1a 本体部
2 導入口
2a 導入管
3 供給口
3a 供給管
4 流量調節室
5 オリフィス
5a 底壁
6 弁座
7 肉抜き部
8 肉抜き部