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特開2021-167434セルロースナノファイバー濃縮・乾燥品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-167434(P2021-167434A)
(43)【公開日】2021年10月21日
(54)【発明の名称】セルロースナノファイバー濃縮・乾燥品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/06 20060101AFI20210924BHJP
【FI】
   C08B15/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【公開請求】
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2021-125276(P2021-125276)
(22)【出願日】2021年7月30日
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】500360116
【氏名又は名称】西光エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112427
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 芳洋
(72)【発明者】
【氏名】渡部 啓吾
(72)【発明者】
【氏名】村松 利一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸治
(72)【発明者】
【氏名】岡村 邦康
【テーマコード(参考)】
4C090
【Fターム(参考)】
4C090AA05
4C090BA34
4C090BB53
4C090BB77
4C090BB99
4C090BC01
4C090BD14
4C090CA05
4C090CA23
4C090CA34
(57)【要約】
【課題】濃縮・乾燥前のCNF分散液と同等程度の粘度特性および透明度を有する再分散液を得ることができるCNF濃縮・乾燥品を与える、安心安全で生産性に優れる濃度10〜30重量%のセルロースナノファイバー濃縮・乾燥品の製造方法を提供する。
【解決手段】固形分濃度が3〜5重量%のTEMPO酸化セルロースナノファイバー分散液を原料として使用し、前記分散液に向けてマイクロ波を照射して減圧下で低温乾燥させる濃縮・乾燥工程を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
濃度3〜5重量%のTEMPO酸化セルロースナノファイバー分散液を原料として使用し、前記分散液に向けてマイクロ波を照射して減圧下で低温乾燥させる濃縮・乾燥工程を含む
濃度10〜30重量%のセルロースナノファイバー濃縮・乾燥品の製造方法。
【請求項2】
前記マイクロ波の出力は、1000〜4000Wである、請求項1に記載のセルロースナノファイバー濃縮・乾燥品の製造方法。
【請求項3】
前記セルロースナノファイバー濃縮・乾燥品を濃度1重量%に再分散させたときの、再分散液の透明度が80%以上である、請求項1又は2に記載のセルロースナノファイバー濃縮・乾燥品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバー(以下「CNF」ともいう)の分散液に対してマイクロ波を照射することにより乾燥し、セルロースナノファイバーの濃縮・乾燥品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にCNFは水に安定的に分散させた状態で製造され、通常は製造された所定濃度のCNF分散液のまま工業材料あるいは食品や化粧品の添加物材料として各種用途に使用されている。
そして、このCNFの状態を安定的に保つためには、CNFの数十倍程度の水分が必要になり、この水分の多さがCNFの包装、保管、輸送等のコストアップにつながるため、該水分の減少(濃縮)と除去(乾燥)がCNFの普及を図る上で欠かすことのできない技術とされていた。
【0003】
一方、CNF分散液を濃縮・乾燥して得られたCNF濃縮・乾燥品を使用するには、水に再分散させて再び使用に適した所定濃度のCNF再分散液に調製しなければならないが、調製したCNF再分散液が濃縮・乾燥前のCNF分散液の有する粘度特性(チキソトロピー性)を大きく下回るようでは、上記各種用途にCNF再分散液を使用できなくなってしまう。
そこで、上記CNF再分散液の粘度特性を当初のCNF分散液の粘度特性と同等程度まで高めるための技術が必要であり、当該粘度特性を高めるための技術が下記の特許文献1〜5に開示されている。
【0004】
具体的には、特許文献1ではCNFに所定重量%の水溶性高分子を含有後、脱水させて乾燥させる技術が開示されており、特許文献2ではCNFの水性懸濁液のpHを9〜11に調整後脱水させて乾燥させる技術が開示されている。
また、特許文献3ではCNF分散液を乾燥させてCNFの乾燥固形物を生成後、熱水で処理し、溶媒に分散させてCNF再分散液を得る技術が開示されており、特許文献4では酸化セルロース繊維を解繊することでCNF分散液を得、還元剤を含む反応液中で還元後、乾燥させる技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献5ではCNF分散液にヒドロキシ酸類を含有させた後、乾燥させる技術が開示されている。
そして、これら特許文献1〜5に開示されている技術を実行することによって再分散性に優れ、当初のCNF分散液と同等の粘度特性等が得られるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017−8176号公報
【特許文献2】特開2017−8175号公報
【特許文献3】特開2017−2136号公報
【特許文献4】特開2017−2135号公報
【特許文献5】特開2017−2138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜5では、CNF分散液を熱風乾燥等により加熱して濃縮・乾燥させているが、CNF分散液を熱風乾燥等によって加熱して濃縮・乾燥させると、CNFの表面同士が強く水素結合してしまって、再び水を加えても元のCNFの状態に復元できず、CNFの有する優れた特性が発揮できなくなってしまう。具体的には、濃縮・乾燥させたCNF濃縮、乾燥品を再分散させて当初の濃度にした時、撹拌や剪断力を加えると粘度が下がる特性であるチキソトロピー性を含む粘度特性がCNF再分散液では低下してしまう。
また、熱風乾燥は、被乾燥物の表層部で乾燥が過剰になる一方、被乾燥物の中心部では乾燥が不十分になることから、低温での長時間乾燥が余儀無くされる。また、真空凍結乾燥(フリーズドライ)では、氷からの昇華速度が遅いため乾燥に時間が掛かり、冷却手段と加熱手段の両方が必要なため設備コストが増大してしまう。
【0008】
これに対し、上記特許文献1〜5に開示されている技術によれば、上記乾燥時間や設備コストの増大を招くことなく、粘度特性の低下が抑えられて当初のCNF分散液と同等の粘度特性が得られるとしている。
しかし、上記5つの技術は、いずれもCNFに薬品を入れたり、他の処理を施したりすることによって再分散性を向上させる技術であり、薬品の種類によっては食品添加物等には使えないものもあって用途が限定されてしまう。
また、CNF再分散液の生成に際して、薬品の注入、混合や他の処理という新たな工程が必要になるため、CNF再分散液の生産性も悪化し、上述した乾燥に要する時間の短縮も図れない。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、CNF分散液を濃縮・乾燥してCNF濃縮・乾燥品を製造し、その後再分散させてCNF再分散液を生成するに際して、CNF濃縮・乾燥品やCNF分散液に薬品等を含有させることなく、濃縮・乾燥前のCNF分散液と同等程度の粘度特性および透明度を有する再分散液を得ることができるCNF濃縮・乾燥品を与える、安心安全で生産性に優れるセルロースナノファイバー濃縮・乾燥品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、CNFの分散液に対して、マイクロ波を照射して減圧下で低温乾燥させることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明は、以下を提供する。
(1) 濃度3〜5重量%のTEMPO酸化セルロースナノファイバー分散液を原料として使用し、前記分散液に向けてマイクロ波を照射して減圧下で低温乾燥させる濃縮・乾燥工程を含む濃度10〜30重量%のセルロースナノファイバー濃縮・乾燥品の製造方法。
(2) 前記マイクロ波の出力は、1000〜4000Wである、(1)に記載のセルロースナノファイバー濃縮・乾燥品の製造方法。
(3) 前記セルロースナノファイバー濃縮・乾燥品を濃度1重量%に再分散させたときの、再分散液の透明度が80%以上である、(1)又は(2)に記載のセルロースナノファイバー濃縮・乾燥品の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、濃縮・乾燥前のCNF分散液と同等程度の粘度特性および透明度を有する再分散液を得ることができるCNF濃縮・乾燥品を与える、安心安全で生産性に優れるセルロースナノファイバー濃縮・乾燥品の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のセルロースナノファイバー濃縮・乾燥品の製造方法で使用するマイクロ波減圧乾燥機の一例を示す概略図である。
図2】参考例の光学顕微鏡観察結果の画像である。
図3】実施例1の光学顕微鏡観察結果の画像である。
図4】実施例2の光学顕微鏡観察結果の画像である。
図5】実施例3の光学顕微鏡観察結果の画像である。
図6】比較例1の光学顕微鏡観察結果の画像である。
図7】参考例、実施例1〜3、及び比較例1のずり速度と粘度の関係を示すグラフである。
図8】参考例、実施例1〜3、及び比較例1の角周波数と損失正接の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。本発明において「〜」は端値を含む。すなわち「X〜Y」はその両端の値XおよびYを含む。
【0015】
本発明の濃度10〜30重量%のセルロースナノファイバー濃縮・乾燥品の製造方法は、濃度が3〜5重量%のTEMPO酸化セルロースナノファイバー分散液を原料として使用し、前記分散液に向けてマイクロ波を照射して減圧下で低温乾燥させる濃縮・乾燥工程を含む。
【0016】
(TEMPO酸化セルロースナノファイバー)
本発明で用いる、TEMPO酸化セルロースナノファイバーは、セルロース原料をTEMPO酸化して得られた酸化セルロースを解繊処理することにより得られる微細繊維であり、微細繊維の平均繊維長と平均繊維径は、酸化処理、解繊処理により調整することができる。
本発明に用いる酸化セルロースナノファイバーの平均繊維長は、特に限定されないが、好ましくは100nm〜1μm、より好ましくは100nm〜400nmである。また、本発明に用いる酸化セルロースナノファイバーの平均繊維径は3nm〜10nm、好ましくは3nm〜8nmである。
【0017】
なお、酸化セルロースナノファイバーの平均繊維長及び平均繊維径は、電界放出型走査電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて、各繊維を観察した結果から得られる繊維長及び繊維径を平均することによって得ることができる。
酸化セルロースナノファイバーの平均アスペクト比は、通常50以上である。上限は特に限定されないが、通常は1000以下である。平均アスペクト比は、下記の式により算出することができる:
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
【0018】
(セルロース原料)
酸化セルロースナノファイバーの原料であるセルロース原料の由来は、特に限定されないが、例えば、植物(例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、古紙等)、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物等が挙げられる。本発明で用いるセルロース原料は、これらのいずれかであってもよいし2種類以上の組み合わせであってもよいが、好ましくは植物又は微生物由来のセルロース原料(例えば、セルロース繊維)であり、より好ましくは植物由来のセルロース原料(例えば、セルロース繊維)である。
【0019】
セルロース原料の数平均繊維径は特に制限されないが、一般的なパルプである針葉樹クラフトパルプの場合は30〜60μm程度、広葉樹クラフトパルプの場合は10〜30μm程度である。その他のパルプの場合、一般的な精製を経たものは50μm程度である。例えばチップ等の数cm大のものを精製したものである場合、リファイナー、ビーター等の離解機で機械的処理を行い、50μm程度に調整することが好ましい。
【0020】
(酸化)
酸化によりセルロース原料を変性して得られる酸化セルロース又はセルロースナノファイバーの絶乾重量に対するカルボキシル基の量は、0.5mmol/g以上、好ましくは0.8mmol/g以上、より好ましくは1.0mmol/g以上である。上限は、3.0mmol/g以下、好ましくは2.5mmol/g以下、より好ましくは2.0mmol/g以下である。すなわち、本発明に用いる酸化セルロースナノファイバーは、カルボキシル基の量が0.5mmol/g〜3.0mmol/gであり、0.8mmol/g〜2.5mmol/gが好ましく、1.0mmol/g〜2.0mmol/gがより好ましい。
【0021】
本発明においては、酸化する方法として、N−オキシル化合物、及び、臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物からなる群より選択される物質の存在下で酸化剤を用いて水中でセルロース原料を酸化する。この方法によれば、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、アルデヒド基、カルボキシル基、及びカルボキシレート基からなる群より選ばれる基が生じる。反応時のセルロース原料の濃度は特に限定されないが、5重量%以下が好ましい。
【0022】
N−オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。ニトロキシルラジカルとしては例えば、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシル(TEMPO)が挙げられる。N−オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。
N−オキシル化合物の使用量は、原料となるセルロースを酸化できる触媒量であれば特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.01mmol以上が好ましく、0.02mmol以上がより好ましい。上限は、10mmol以下が好ましく、1mmol以下がより好ましく、0.5mmol以下が更に好ましい。従って、N−オキシル化合物の使用量は絶乾1gのセルロースに対して、0.01〜10mmolが好ましく、0.01〜1mmolがより好ましく、0.02〜0.5mmolがさらに好ましい。
【0023】
臭化物とは臭素を含む化合物であり、例えば、臭化ナトリウム等の、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属が挙げられる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、例えば、ヨウ化アルカリ金属が挙げられる。臭化物又はヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択すればよい。臭化物及びヨウ化物の合計量は絶乾1gのセルロースに対して、0.1mmol以上が好ましく、0.5mmol以上がより好ましい。上限は、100mmol以下が好ましく、10mmol以下がより好ましく、5mmol以下が更に好ましい。従って、臭化物及びヨウ化物の合計量は絶乾1gのセルロースに対して、0.1〜100mmolが好ましく、0.1〜10mmolがより好ましく、0.5〜5mmolがさらに好ましい。
【0024】
酸化剤は、特に限定されないが例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸、それらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などが挙げられる。中でも、安価で環境負荷が少ないことから、次亜ハロゲン酸又はその塩が好ましく、次亜塩素酸又はその塩がより好ましく、次亜塩素酸ナトリウムが更に好ましい。酸化剤の使用量は、絶乾1gのセルロースに対して、0.5mmol以上が好ましく、1mmol以上がより好ましく、3mmol以上が更に好ましい。上限は、500mmol以下が好ましく、50mmol以下がより好ましく、25mmol以下が更に好ましい。従って、酸化剤の使用量は絶乾1gのセルロースに対して、0.5〜500mmolが好ましく、0.5〜50mmolがより好ましく、1〜25mmolがさらに好ましく、3〜25mmolが最も好ましい。N−オキシル化合物を用いる場合、酸化剤の使用量はN−オキシル化合物1molに対して1mol以上が好ましい。上限は、40molが好ましい。従って、酸化剤の使用量はN−オキシル化合物1molに対して1〜40molが好ましい。
【0025】
酸化反応時のpH、温度等の条件は特に限定されず、一般に、比較的温和な条件であっても酸化反応は効率よく進行する。反応温度は4℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましい。上限は40℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。従って、温度は4〜40℃が好ましく、15〜30℃程度、すなわち室温であってもよい。反応液のpHは、8以上が好ましく、10以上がより好ましい。上限は、12以下が好ましく、11以下がより好ましい。従って、反応液のpHは、好ましくは8〜12、より好ましくは10〜11程度である。通常、酸化反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHは低下する傾向にある。そのため、酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを上記の範囲に維持することが好ましい。酸化の際の反応媒体は、取扱い性の容易さや、副反応が生じにくいこと等の理由から、水が好ましい。
【0026】
酸化反応における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常は0.5時間以上である。上限は通常は6時間以下、好ましくは4時間以下である。従って、酸化における反応時間は通常0.5〜6時間、例えば0.5〜4時間程度である。
【0027】
酸化は、2段階以上の反応に分けて実施してもよい。例えば、1段目の反応終了後に濾別して得られた酸化セルロースを、再度、同一又は異なる反応条件で酸化させることにより、1段目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、効率よく酸化させることができる。
【0028】
(解繊)
酸化セルロース原料の解繊は、セルロース原料に変性処理を施す前に行ってもよいし、後に行ってもよい。また、解繊は、一度に行ってもよいし、複数回行ってもよい。複数回の場合それぞれの解繊の時期はいつでもよい。
解繊に用いる装置は特に限定されないが、例えば、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などのタイプの装置が挙げられ、高圧又は超高圧ホモジナイザーが好ましく、湿式の高圧又は超高圧ホモジナイザーがより好ましい。装置は、セルロース原料又は変性セルロース(通常は分散液)に強力なせん断力を印加できることが好ましい。装置が印加できる圧力は、9MPa以上が好ましく、50MPa以上がより好ましく、さらに好ましくは100MPa以上であり、特に好ましくは140MPa以上である。これらの圧力を印加することができる湿式の高圧又は超高圧ホモジナイザーを用いることにより、解繊を効率的に行うことができる
【0029】
セルロース原料の分散体に対して解繊を行う場合、分散体中のセルロース原料の固形分濃度は、通常は0.1重量%以上、好ましくは0.2重量%以上、より好ましくは0.3重量%以上である。これにより、セルロース繊維原料の量に対する液量が適量となり効率的である。上限は通常10重量%以下、好ましくは6重量%以下である。これにより流動性を保持することができる。
解繊(好ましくは高圧ホモジナイザーでの解繊)、又は必要に応じて解繊前に行う分散処理に先立ち、必要に応じて予備処理を行ってもよい。予備処理は、高速せん断ミキサーなどの混合、撹拌、乳化、分散装置を用いて行えばよい。
【0030】
本発明においては、固形分の濃度が3〜5重量%の酸化セルロースナノファイバー分散液を原料として、濃縮・乾燥工程に供する。
【0031】
(濃縮・乾燥工程)
本発明の濃縮・乾燥工程では、CNF分散液にマイクロ波を照射して減圧下で低温乾燥させるマイクロ波減圧乾燥機を用いることができる。
【0032】
本発明で用いるマイクロ波減圧乾燥機の一例を、図1を用いて説明する。図1は、マイクロ波減圧乾燥機の断面を示す概略図である。なお、本発明に用いるマイクロ波減圧乾燥機は、図1に示すものに限られるものではない。
【0033】
図1に示すマイクロ波減圧乾燥機2には、被乾燥物となるCNF分散液A1を収容する乾燥室本体4と、乾燥室本体4の上面に取り付けられるマイクロ波照射装置6と、乾燥室本体4内の気圧を減圧する真空ポンプ8が備えられている。また、乾燥室本体4の上部のマイクロ波照射装置6の近傍には、マイクロ波を撹拌するためのスタラファン10と、濃縮・乾燥中のCNF分散液A1の温度を計測する赤外温度計12とが配置されている。また、乾燥室本体4の底板の上部には、シールド構造14によって乾燥室本体4の内部空間と遮蔽された状態で歪みケージ式荷重変換器であるロードセル16が配置されており、その上に設けられた載置板20にCNF分散液A1が収容された合成樹脂製の容器本体18が載置されている。なお、図1に示すマイクロ波減圧乾燥機2では、一例として3基のロードセル16を使用している。
【0034】
本発明の濃縮・乾燥工程を行う場合には、固形分濃度が3〜5重量%のTEMPO酸化CNF分散液A1を所定量、容器本体18内に入れて乾燥室本体4内の載置板20上に設置する。次に、真空ポンプ8を起動して乾燥室本体4内の気圧を所定の気圧、例えば−80〜−97kPaに減圧する。次に、マイクロ波照射装置6とスタラファン10を起動する。マイクロ波照射装置から照射されるマイクロ波は、一例としてマイクロ波周波数が2450MHz、マイクロ波出力が1000〜4000Wであり、該マイクロ波を容器本体18に収容されているCNF分散液A1に向けて、該CNF分散液A1の量に応じた所定時間照射し、CNF分散液A1を所定の濃度になるまで濃縮・乾燥させる。蒸発した水分は真空ポンプ8により吸引され外部へ排出される。
なお、濃縮・乾燥時のCNF分散液A1の温度が、例えば30〜45℃となるように設定する。
【0035】
濃縮・乾燥時のCNF分散液A1の濃度は、載置板20の下に配置されたロードセル16によって計測されるCNF分散液A1の重量変化から求めることができ、CNF分散液A1の濃度が所定の濃度になったら、マイクロ波の照射を停止する。
【0036】
マイクロ波照射装置6、スタラファン10及び真空ポンプ8を停止し、載置板20上に載置されているCNF濃縮・乾燥品A2が入った容器本体18を乾燥室本体4外に取り出す。
【0037】
マイクロ波の出力は、生産性良く、高濃度まで処理できる観点から、好ましくは1000〜4000Wであり、より好ましくは1000〜3000Wであり、さらに好ましくは1000〜2000Wである。マイクロ波出力が上記上限値より高すぎる場合は、濃縮・乾燥品の外側と内側の濃度ムラが大きくなりすぎる、着色・焦げが生じる等の問題が生じる虞がある。
【0038】
本発明の濃縮・乾燥工程により、濃度10〜30重量%、好ましくは10〜25重量%、より好ましくは10〜20重量%まで濃縮・乾燥したCNF濃縮・乾燥品を得ることができる。
【0039】
(再分散工程)
本発明の濃縮・乾燥工程により得られたCNF濃縮・乾燥品は、水等の溶媒を加えて再分散させる再分散工程を経ることにより、使用に適した所定濃度に戻して、CNF再分散液A3を得ることができる。
【0040】
CNF濃縮・乾燥品を再分散させる方法は、特に限定されないが、例えば一般的な撹拌機、インラインミキサーを用いる方法等が挙げられる。
【0041】
本発明においては、濃度1%に再分散させたときのCNF再分散液A3の透明度が、透明性が求められる用途での使用に適する観点から、好ましくは80%以上であり、より好ましくは82%以上である。
本明細書において、透明度は、酸化CNFを固形分1%(w/v)の水分散体とした際の、波長660nmの光の透過率をいうものとする。酸化CNFの透明度の測定方法は、以下の通りである:
CNF分散体(固形分1%(w/v)、分散媒:水)を調製し、UV−VIS分光光度計UV−1800(島津製作所製)を用い、光路長10mmの角型セルを用いて、660nm光の透過率を測定する。
【0042】
本発明においては、濃度1%に再分散させたときのCNF再分散液A3の、60rpm、25℃の条件におけるB型粘度が、増粘性が求められる用途での使用に適する観点から、好ましくは1900mPa・s以上、より好ましくは2200mPa・s以上である。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0044】
(分散性の評価方法)
参考例、実施例、比較例で得られた固形分濃度1%のCNF再分散液1gに墨滴(株式会社呉竹製、固形分10%)を2適垂らし、ボルテックスミキサー(IUCHI社製、機器名:Automatic Lab−mixer HM-10H)の回転数の目盛りを最大に設定して1分間撹拌した。次に、墨滴を含有するCNF分散液の膜厚が0.15mmになるように二枚のガラス板に挟み、光学顕微鏡(デジタルマイクロスコープKH−8700(株式会社ハイロックス製))を用いて倍率100倍で観察した。結果を図2図6に示した。
【0045】
実施例および比較例で得られた画像を観察し、画像中にみられる白い塊(ゲル粒)の大きさや量が、参考例で得られた画像と近い様相かどうかを比較することにより分散性を判断した。参考例に近い様相であれば、分散性が良いといえる。結果を表1に示した。
【0046】
(透明度の測定方法)
参考例、実施例、比較例で得られた固形分濃度1%のCNF再分散液に対して、UV−VIS分光光度計 UV−1800(島津製作所製)を用い、光路長10mmの角型セルを用いて、660nm 光の透過率を測定した。結果を表1に示した。
【0047】
(B型粘度の測定方法)
参考例、実施例、比較例で得られた固形分濃度1%のCNF再分散液300mLをプライミクス社製撹拌機にて3000rpmで1分撹拌直後に、B型粘度計(英弘精機社製)を用いて、25℃の条件にて、回転数60rpmで3分後の粘度を測定した。結果を表1に示した。
【0048】
(ずり速度と粘度の関係)
参考例、実施例、比較例で得られた固形分濃度1%のCNF再分散液に対して、粘弾性レオメータ(アントンパール社製、MCR301)を用いて、25℃の条件にて、ずり速度を0.001〜1000(1/s)まで変化させたときの粘度の値を測定した。結果を図7に示した。なお、参考例と同程度に戻ったか否かで、復元性を判断することができる。
【0049】
(角周波数と損失正接の関係)
参考例、実施例、比較例で得られた固形分濃度1%のCNF再分散液に対して、粘弾性レオメータ(アントンパール社製、MCR301)を用いて、25℃の条件にて、角周波数を0.1〜100(1/s)まで変化させたときの損失正接の値を測定した。結果を図8に示した。なお、参考例と同程度に戻ったか否かで、復元性を判断することができる。
【0050】
(製造例1)
(TEMPO酸化CNFの調製)
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)5.00g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)39mg(絶乾1gのセルロースに対し0.05mmol)と臭化ナトリウム514mg(絶乾1gのセルロースに対し1.0mmol)を溶解した水溶液500mLに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を次亜塩素酸ナトリウムが5.5mmol/gになるように添加し、室温にて酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物をガラスフィルターで濾過してパルプを分離し、パルプを十分に水洗することで酸化されたパルプ(カルボキシル化セルロース)を得た。この時のパルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は90分、カルボキシル基量は1.6mmol/gであった。これを水で3%(w/v)に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、150Mpa)で3回処理して、TEMPO酸化CNFの水分散液を得た。得られたTEMPO酸化CNFの平均繊維径は3nm、平均繊維長は300nmであった。
【0051】
(参考例)
製造例1で得られた固形分濃度3%のTEMPO酸化CNF水分散液に水を加え、ホモディスパー(PRIMIX社製)を使用して3000rpmの条件で30分間撹拌することにより固形分濃度1%まで希釈した。このCNF再分散液の透明度は87.5%、B型粘度は1920mPa・sであった。
【0052】
(実施例1)
(濃縮・乾燥)
製造例1で得られた固形分濃度3%のTEMPO酸化CNF水分散液500gを、マイクロ波減圧乾燥機を用いて、乾燥機内の気圧を−90kPaに減圧し、マイクロ波周波数2450MHz、マイクロ波出力1000Wで25分間マイクロ波を照射することにより、13.2%の濃縮・乾燥TEMPO酸化CNFを得た。なお、乾燥時のサンプル品温度は、40℃であった。
【0053】
(再分散)
上記で得られた濃縮・乾燥TEMPO酸化CNFに水を加え、ホモディスパー(PRIMIX社製)を使用して3000rpmの条件で30分間撹拌することにより固形分濃度1%まで希釈した。このCNF再分散液の透明度は85.0%、B型粘度は2330mPa・sであった。
【0054】
(実施例2)
マイクロ波出力を1500Wとしたこと、及び照射時間を20分間に変更したこと以外は実施例1と同様にして、15.2%の濃縮・乾燥TEMPO酸化CNFを得た。また、実施例1と同様に1%まで希釈し、再分散させてCNF再分散液を得た。このCNF再分散液の透明度は86.1%、B型粘度は2500mPa・sであった。なお、乾燥時のサンプル品温度は39℃であった。
【0055】
(実施例3)
マイクロ波出力を2000Wとしたこと、及び照射時間を15分間に変更したこと以外は実施例1と同様にして、22.7%の濃縮・乾燥TEMPO酸化CNFを得た。また、実施例1と同様に1%まで希釈し、再分散させてCNF再分散液を得た。このCNF再分散液の透明度は84.0%、B型粘度は2250mPa・sであった。なお、乾燥時のサンプル品温度は42℃であった。
【0056】
(比較例1)
マイクロ波出力を4000Wとしたこと、及び照射時間を20分間に変更したこと以外は実施例1と同様にして、39.9%の濃縮・乾燥TEMPO酸化CNFを得た。また、実施例1と同様に1%まで希釈し、再分散させてCNF再分散液を得た。このCNF再分散液の透明度は60.2%、B型粘度は1290mPa・sであった。なお、乾燥時のサンプル品温度は40℃であった。
【0057】
【表1】
【0058】
分散性に関しては、実施例1〜3では、ゲル粒の大きさや量は参考例に近い様相であり、分散性が良いものであった。一方、比較例1では、参考例よりも大きなゲル粒が多数みられ、参考例に近い様相であるとはいえず、分散性は悪いものであった。
【0059】
また、ずり速度と粘度の関係(図7)および角周波数と損失正接の関係(図8)に関して、実施例1〜3では、参考例と同程度に戻っており、復元性があると判断できるものであった。一方、比較例1では、ずり速度と粘度の関係(図7)および角周波数と損失正接の関係(図8)に関して、いずれも参考例と同程度には戻らなかったため、復元性が無いと判断できる。
【0060】
本発明の、濃度が3〜5重量%のTEMPO酸化セルロースナノファイバー分散液を原料として使用し、前記分散液に向けてマイクロ波を照射して減圧下で低温乾燥させる濃縮・乾燥工程を含むセルロースナノファイバー濃縮・乾燥品の製造方法によれば、濃縮・乾燥前のCNF分散液と同等程度の粘度特性および透明度を有する再分散液を与えるCNF濃縮・乾燥品を得ることができた。
【符号の説明】
【0061】
2…マイクロ波減圧乾燥機、4…乾燥室本体、6…マイクロ波照射装置、8…真空ポンプ、10…スタラファン、12…赤外温度計、14…シールド構造、16…ロードセル、18…容器本体、20…載置板、A1…セルロースナノファイバー(CNF)分散液
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8