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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-169238(P2021-169238A)
(43)【公開日】2021年10月28日
(54)【発明の名称】車両制御システム
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/02 20120101AFI20211001BHJP
   B62D 7/08 20060101ALI20211001BHJP
【FI】
   B60W30/02
   B62D7/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2020-72366(P2020-72366)
(22)【出願日】2020年4月14日
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【弁理士】
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】砂原 修
【テーマコード(参考)】
3D034
3D241
【Fターム(参考)】
3D034BA02
3D034BD02
3D034BD06
3D241BA18
3D241BB07
3D241CB01
3D241CC18
3D241DA13Z
3D241DA23Z
3D241DA25Z
3D241DA32Z
3D241DA39Z
3D241DA49Z
3D241DA52Z
3D241DA54Z
3D241DB02Z
3D241DB29Z
(57)【要約】
【課題】コースティング走行時における直進安定性の向上が可能な車両制御システムを提供する。
【解決手段】車両制御システムは、車両が直進走行をしているか否かを検知する直進走行検知部である操舵角センサ11とコントローラ17の組合せと、エンジン4から駆動輪である後輪3bへの動力伝達が切れているか否かを検知する動力伝達検知部であるシフトポジションセンサ15とコントローラ17の組合せと、一対の後輪3bのトー角を制御するトー角制御部であるコントローラ17と後輪転舵機構30とを備えている。車両1が直進走行をしており、かつ、エンジンから駆動輪である後輪3bへの動力伝達が切れている場合には、トー角制御部は、一対の後輪3bをトーイン方向に制御する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両制御システムであって、
車両が直進走行をしているか否かを検知する直進走行検知部と、
エンジンから駆動輪への動力伝達が切れているか否かを検知する動力伝達検知部と、
一対の後輪のトー角を制御するトー角制御部と、
を備え、
前記トー角制御部は、車両が直進走行をしており、かつ、エンジンから駆動輪への動力伝達が切れている場合には、前記一対の後輪をトーイン方向に制御し、それ以外の場合には前記一対の後輪のトー角を維持する、
車両制御システム。
【請求項2】
車速を検知する車速センサをさらに備え、
前記トー角制御部は、車速が相対的に高いほど前記後輪のトーイン量を相対的に大きくするように制御する
請求項1に記載の車両制御システム。
【請求項3】
ブレーキが作動したか否かを検知するブレーキ作動検知部をさらに備え、
前記トー角制御部は、車両が直進走行をしており、かつ、エンジンから駆動輪への動力伝達が切れている状態でブレーキが作動した時には、前記ブレーキが作動していない場合の前記トーイン量と比べて前記トーイン量を増量補正する、
請求項1または2に記載の車両制御システム。
【請求項4】
前記ブレーキ作動検知部は、ブレーキ圧を測定することが可能であり、
前記トー角制御部は、ブレーキ圧が相対的に高いほど前記トーイン量を相対的に大きくするように制御する
請求項3に記載の車両制御システム。
【請求項5】
前記トー角制御部は、トーイン制御初期のトーイン量を初期以外のトーイン量と比較して一時的に大きくする
請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両制御システム。
【請求項6】
ドライブモードおよびニュートラルモードの切り換えが可能な変速装置を備え、
前記動力伝達検知部は、前記変速装置がニュートラルモードであるときに、前記動力伝達が切れていることを検知する、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の車両制御システム。
【請求項7】
運転手の操作により前記動力伝達の接続および切断が可能なマニュアルクラッチを備え、
前記動力伝達検知部は、前記マニュアルクラッチが切断状態である場合に前記動力伝達が切れていることを検知する、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の車両制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両制御システムとして、車両の制動時に両側の後輪をトーイン制御することにより、フロント荷重過多となり車両挙動が不安定になるのを防止する技術が特許文献1によって知られている。
【0003】
この車両制御システムは、所定の変位を与えることで車輪のトー角が調整されるトー角調整部材を有するサスペンション と、 前記トー角調整部材に外部からの指令により変位を与えるアクチュエータと、 車両が定速走行状態か加速走行状態か減速走行状態かを 検出する走行状態検出手段と、 前記走行状態検出手段により定速走行状態または加速走 行状態が検出された時にはトー角を零に維持し、走行状 態検出手段により減速走行状態が検出された時にはトー イン方向のトー角を付与する制御(すなわち、トーイン制御)の指令を前記アクチュエータに対して出力するトー角制御手段とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−193199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の車両制御システムは、エンジンから駆動輪への動力伝達を維持した通常の走行モードにおいて制動時(すなわち、減速走行時)にトーイン制御することにより、制動時の直進安定性の向上を図っている。一方、近年では、直進走行中にコ―スティング走行、すなわち、クラッチを切ってエンジンから駆動輪への動力伝達を切った状態で走行するモードに切り換えることで燃費を向上させる技術が知られているが、このような通常の走行モードとは異なるコースティング走行に移行した際には、駆動輪へ伝達される駆動力が抜けた際(すなわち、動力伝達が切れた際)に車速は変わらなくても直進安定性が悪化するという問題がある。
【0006】
本発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、コースティング走行時における直進安定性の向上が可能な車両制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の車両制御システムは、車両が直進走行をしているか否かを検知する直進走行検知部と、エンジンから駆動輪への動力伝達が切れているか否かを検知する動力伝達検知部と、一対の後輪のトー角を制御するトー角制御部と、を備え、前記トー角制御部は、車両が直進走行をしており、かつ、エンジンから駆動輪への動力伝達が切れている場合には、前記一対の後輪をトーイン方向に制御し、それ以外の場合には前記一対の後輪のトー角を維持することを特徴とする。
【0008】
かかる構成によれば、直進走行検知部が車両の直進走行を検知し、かつ、動力伝達検知部がエンジンから駆動輪への動力伝達が切れていることを検知したときには、トー角制御部は、一対の後輪をトーイン方向に制御する。これにより、直進走行中にコースティング走行に移行したときに駆動輪への駆動力が抜けた場合(すなわち、駆動輪への動力伝達が切れた場合)に後輪のトーイン制御により直進安定性を向上することが可能である。
【0009】
上記の車両制御システムにおいて、車速を検知する車速センサをさらに備え、前記トー角制御部は、車速が相対的に高いほど前記後輪のトーイン量を相対的に大きくするように制御するのが好ましい。
【0010】
車速が高いときにコースティング走行に移行すると車両の挙動が不安定になる程度が大きくなるが、上記の構成によれば、車速が相対的に高いほど後輪のトーイン量を相対的に大きくすることにより、車速が高くても車両挙動を安定化することが可能であり、かつ、減速違和感の低減も可能になる。
【0011】
上記の車両制御システムにおいて、ブレーキが作動したか否かを検知するブレーキ作動検知部をさらに備え、前記トー角制御部は、車両が直進走行をしており、かつ、エンジンから駆動輪への動力伝達が切れている状態でブレーキが作動した時には、前記ブレーキが作動していない場合の前記トーイン量と比べて前記トーイン量を増量補正するのが好ましい。
【0012】
コースティング走行中にブレーキを作動した時には車両の重心が前側にシフトして後輪が接地する力が低下して車両の直進安定性がさらに低下するので、上記の構成では、直進走行中でかつコースティング走行しているときにブレーキ作動時に後輪のトーイン量を増量補正することにより、ブレーキ作動時においても直進安定性を向上させることが可能である。
【0013】
上記の車両制御システムにおいて、前記ブレーキ作動検知部は、ブレーキ圧を測定することが可能であり、前記トー角制御部は、ブレーキ圧が相対的に高いほど前記トーイン量を相対的に大きくするように制御するのが好ましい。
【0014】
コースティング走行時においてブレーキを作動したときにブレーキ圧が相対的に高いほど車両の減速の度合い(負の加速度)が大きくなり、車両の直進安定性がより低下するので、上記の構成では、ブレーキ圧が相対的に高いほど後輪のトーイン量を相対的に大きくすることにより、ブレーキ圧が高くなっても直進安定性を向上させることが可能である。
【0015】
上記の車両制御システムにおいて、前記トー角制御部は、トーイン制御初期のトーイン量を初期以外のトーイン量と比較して一時的に大きくするのが好ましい。
【0016】
かかる構成によれば、コースティング走行に移行した直後において、トーイン制御初期のトーイン量を一時的に大きくすることによって、駆動力が抜けた直後の車両挙動をより安定化することが可能である。
【0017】
上記の車両制御システムにおいて、ドライブモードおよびニュートラルモードの切り換えが可能な変速装置を備え、前記動力伝達検知部は、前記変速装置がニュートラルモードであるときに、前記動力伝達が切れていることを検知するのが好ましい。
【0018】
かかる構成によれば、オートマチック車に搭載されている自動変速可能な変速装置においても、変速装置がニュートラルモードであるときに、動力伝達検知部が、動力伝達が切れていることを検知し、トー角制御部が一対の後輪をトーイン方向に制御する。これにより、オートマチック車においても、直進走行中にコースティング走行に移行したときにトーイン制御により直進安定性を向上することが可能である。
【0019】
上記の車両制御システムにおいて、運転手の操作により前記動力伝達の接続および切断が可能なマニュアルクラッチを備え、前記動力伝達検知部は、前記マニュアルクラッチが切断状態である場合に前記動力伝達が切れていることを検知してもよい。
【0020】
かかる構成によれば、マニュアル車に搭載されているマニュアルクラッチにおいても、マニュアルクラッチが切断状態である場合に、動力伝達検知部が動力伝達が切れていることを検知し、トー角制御部が一対の後輪をトーイン方向に制御する。これにより、マニュアル車においても、直進走行中にコースティング走行に移行したときにトーイン制御により直進安定性を向上することが可能である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の車両制御システムによれば、コースティング走行時における直進安定性の向上ができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態に係る車両制御システムが適用される車両の駆動系統を示す平面図である。
図2図1の車両に搭載された車両制御システムの電気的構成を示すブロック図である。
図3図2の車両制御システムによる後輪のトーイン制御を示すフローチャートである。
図4図3のトーイン制御における車速とトーイン量との関係を示すグラフである。
図5図3のトーイン制御におけるブレーキ圧と付加トーイン量との関係を示すグラフである。
図6図3のトーイン制御におけるトーイン量の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の一形態について詳述する。
【0024】
(車両の基本構成)
図1に示されるように、本発明の実施形態に係る車両制御システムが適用される車両1は、一例として後輪駆動(FR)で自動変速機5を搭載したオートマチック車が示されている。具体的には、車両1は、車体2の前後両側に配置された一対の前輪3aおよび一対の後輪3bと、車体2の前方側に配置されたエンジン4と、エンジン4からの回転力を変速する自動変速機5と、自動変速機5の出力側に接続されて自動変速機5の後方に延びる駆動軸6と、駆動軸6の出力端に配置されたディファレンシャルギア7と、ディファレンシャルギア7の左右両側の出力端と一対の後輪3bのそれぞれに接続された一対の車軸8と、ハンドル9と、ハンドル9の回転操作に応じて一対の前輪3aを操舵する操舵装置10と、一対の後輪3bのトー角θ(すなわち、車両前方から見た後輪3bの傾斜角)を変えるように後輪3bを転舵する後輪転舵機構30とを備えている。
【0025】
本実施形態においては、エンジン4は、ガソリンエンジンであるが、原動機としてディーゼルエンジンなどの内燃エンジンや、電力により駆動されるモータを使用することも可能である。
【0026】
(車両制御システムの構成)
さらに、車両1は、図1〜2に示されるように、操舵装置10の操舵角を検出する操舵角センサ11と、車速を検出する車速センサ12と、アクセルペダルの踏込量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ13と、ブレーキの踏込量を検出するブレーキ踏込量センサ14と、自動変速機5のシフトポジションがドライブモードおよびニュートラルモードを含む複数のモードのいずれのモードであるかを検知するシフトポジションセンサ15と、後輪3bの転舵角(具体的には、トー角θ)を検知する転舵角センサ16とを有する。これらの各センサ11〜16は、それぞれの検出信号をコントローラ(制御部)16に出力する。コントローラ17は、得られた検出信号に基づいて、車両1の駆動部分であるエンジン4、自動変速機5、およびブレーキ制御システム21を制御するとともに、後輪3bのトーイン制御のために後輪転舵機構30を制御する。
【0027】
本実施形態の後輪転舵機構30は、一対の後輪3bのそれぞれのトー角θを個別に変えるために一対のアクチュエータ31(図1参照)を備える。コントローラ17は、後述するように、車両1が直進走行をしており、かつ、エンジン4から駆動輪である後輪3bへの動力伝達が切れている場合には、一対の後輪3bの角度をトーイン方向(すなわち、それぞれの後輪3bが前方へ向かうにつれて車両1内側へ傾斜する方向(図1のθ参照)になるように、後輪転舵機構30を制御し、それ以外の場合には一対の後輪3bのトー角を初期状態の角度、例えば0度に維持する、すなわち、本実施形態では、コントローラ17と後輪転舵機構30によって本発明のトー角制御部を構成する。
【0028】
自動変速機5は、例えば、遊星ギアセットを複数備えた有段式自動変速機であり、クラッチ25(係合要素)と、ブレーキ26とを備え、クラッチ25及びブレーキ26の締結/解放の組み合わせを変更することにより所望の変速段を実現するように構成されている。この自動変速機5では、これらのクラッチ25及びブレーキ26を介してエンジン4から一対の後輪3bへ動力が伝達される。また、クラッチ25が解放されることにより、エンジン4から後輪3bへの動力伝達が遮断される。また、自動変速機5には、クラッチ25及びブレーキ26への供給油圧を制御する油圧制御弁27と、供給油圧を検出する油圧センサ28が設けられている。油圧センサ28は、検出値をコントローラ17に出力する。この油圧センサ28の検出値に基づき、クラッチ25及びブレーキ26の締結状態を判定することができる。
【0029】
ブレーキ制御システム21は、各車輪に設けられたブレーキのホイールシリンダやブレーキキャリパにブレーキ液圧を供給するシステムである。ブレーキ制御システム21は、各車輪に設けられたブレーキにおいて制動力を発生させるために必要なブレーキ液圧を生成する液圧ポンプ22と、各車輪のブレーキへの液圧供給ラインに設けられた、液圧ポンプ22から各車輪のブレーキへ供給される液圧を制御するためのバルブユニット23(具体的にはソレノイド弁)と、液圧ポンプ22から各車輪のブレーキへ供給される液圧を検出する液圧センサ24とを備えている。液圧センサ24で検出された液圧に関する検出信号もコントローラ50に出力する。
【0030】
(トーイン制御の説明)
上記のように構成された本実施形態の車両制御システムでは、図3に示されるフローチャートにしたがって、以下のような手順で一対の後輪3bのトーイン制御が行われる。
【0031】
まず、ステップS1において、車速、ブレーキ、操舵角、転舵角、およびシフトポジションを読み込む。すなわち、車速センサ12によって車速を検知し、ブレーキ踏込量センサ14によってブレーキ操作の有無を検知し、操舵角センサ11によってハンドル9の操舵角を検知し、転舵角センサ16によって後輪3bの転舵角(現時点のトー角)を検知し、シフトポジションセンサ15によって自動変速機5のシフトポジション(例えば、ドライブモードまたはニュートラルモードなど)を検知する。
【0032】
ついで、ステップS2において、コントローラ17は、操舵角センサ11によって検知されたハンドル9の操舵角などに基づいて、車両1が直進走行中であるか否か判断する。すなわち、本実施形態では、操舵角センサ11およびコントローラ17の組合せが、本発明の直進走行検知部を構成する。
【0033】
上記のステップS2において車両1が直進走行中であると判断された場合(すなわち、ステップS2でYの場合)には、ステップS3において、コントローラ17は、クラッチが切断しているか否か判断する。このステップS3では、例えば、シフトポジションセンサ15からの自動変速機5がニュートラルモードであることを検知した検知信号、および必要あれば自動変速機5の油圧センサ28によってクラッチ25が切れていることを検知した検知信号などの信号に基づいて、コントローラ17は、クラッチが切断しているか否か判断する。これにより、コントローラ17は、エンジン4から駆動輪である後輪3bへの動力伝達が切られてコースティング走行していることを判別することが可能である。
【0034】
すなわち、本実施形態では、シフトポジションセンサ15等およびコントローラ17の組合せが、本発明の動力伝達検知部を構成する。
【0035】
上記のステップS3においてクラッチ25が切れていると判断された場合(すなわち、ステップS3でYの場合)には、ステップS4において、コントローラ17は、車速に基づいて後輪3bのトーイン量を決定する。このステップS4では、例えば、図4に示される車速V1とトーイン量Q1との関係を設定するグラフに基づいて、後輪3bのトーイン量Q1(例えば、車両前後方向に対する傾斜角度)が設定される。この図4に示されるグラフでは、車速が所定の最小速度Vmin(例えば20km/h程度)までの低速の場合には、トーイン量は0に設定される。そして、車速がVminから所定の最大速度Vmax(例えば80〜100km/h程度)までの範囲では、図4に示される所定の右上がり曲線(上に凸の略円弧状の曲線)に基づいて、車速センサ12で検知される車速V1に対応するトーイン量Q1が一義的に設定される。そして、車速が最大速度Vmax以上の場合には、トーイン量は所定の最大値Q1maxを維持するように設定される。トーイン量は車両の挙動に大きな影響を与えるファクターであるので、トーイン量の最大値Q1maxは、微小な量に設定され、例えば、車両前後方向に対して0.1度程度の傾斜角度、または後輪3bの前端と後端の車幅方向のずれが2mm程度に設定される。
【0036】
この図4のグラフのように、車速が相対的に高くなるほど後輪3bのトーイン量を相対的に大きくすることにより、高い車速でコースティング走行しているときに車両の直進安定性を向上することが可能である。
【0037】
上記のようにステップS4において車速に基づく後輪3bのトーイン量を決定した後、ステップS5において、コントローラ17は、上記のブレーキ踏込量センサ14で検知されたブレーキ操作の有無に関する検知信号、および必要であればブレーキ制御システム21の液圧センサ24からのブレーキ圧の検知信号に基づいて、ブレーキがONしているか否か判断する。すなわち、本実施形態では、ブレーキ踏込量センサ14(および必要あれば液圧センサ24)およびコントローラ17の組合せが本発明のブレーキ作動検知部を構成する。
【0038】
上記のステップS5においてブレーキがONしていると判断された場合(すなわち、ステップS5でYの場合)には、ステップS6において、コントローラ17は、ブレーキ圧に基づいて後輪3bへの付加トーイン量Q2(すなわち、車速に基づくトーイン量Q1に付加されるトーイン量)を決定する。このステップS5では、例えば、図5に示されるブレーキ圧P1とトーイン量Q2との関係を設定するグラフに基づいて、後輪3bへの付加トーイン量Q2が設定される。この図5に示されるグラフでは、ブレーキ圧が所定の最小値Pminまでの低圧の場合には、付加トーイン量Q2は0に設定される。そして、ブレーキ圧がPminになった時点である所定量まで急激に立ち上がり、その後Pminから所定の最大値Pmaxまでの範囲では、図5に示される所定の右上がりの直線に基づいて、液圧センサ24で検知されるブレーキ圧P1に対応するトーイン量Q2が一義的に設定される。そして、ブレーキ圧が最大値Pmax以上の場合には、トーイン量は所定の最大値Q2maxを維持するように設定される。ブレーキ圧に基づくトーイン量Q2の最大値Q2maxは、上記の車速に基づくトーイン量の最大値Q1maxと同程度の大きさ、例えば、車両前後方向に対して0.1度程度の傾斜角度に設定される。
【0039】
この図5のグラフのように、ブレーキ圧が相対的に高くなるほど後輪3bのトーイン量を相対的に大きくすることにより、コースティング走行時に高いブレーキ圧で急ブレーキをしたときに車両の直進安定性を向上することが可能である。
【0040】
その後、ステップS7において、コントローラ17は、車速に基づくトーイン量Q1およびブレーキ圧に基づく付加トーイン量Q2の両トーイン量の合計値Q1+Q2を決定する。このトーイン量の合計値Q1+Q2の最大値、すなわち、Q1max+Q2maxは0.2度程度に設定される。
【0041】
最後に、ステップS8において、トー角制御部としてのコントローラ17および後輪転舵機構30は、一対の後輪3bが互いに車幅方向内側を向くように、上記のステップS7で算出されたトーイン量の合計値Q1+Q2になるようにトーイン制御をする。例えば、図6のトーイン量の時系列変化を表すグラフのように、トーイン量は、クラッチが切られてコースティング走行に移行した時点T1から、設定されたトーイン量Q1+Q2になるように急激に立ち上がるように制御され、それ以後は車速およびブレーキ圧が変化しない限り、一定のトーイン量Q1+Q2が維持される。
【0042】
(本実施形態の特徴)
(1)
本実施形態の車両制御システムは、車両1が直進走行をしているか否かを検知する直進走行検知部(本実施形態では、操舵角センサ11およびコントローラ17の組合せ)と、エンジン4から駆動輪である後輪3bへの動力伝達が切れているか否かを検知する動力伝達検知部(シフトポジションセンサ15等およびコントローラ17の組合せ)と、一対の後輪3bのトー角を制御するトー角制御部(コントローラ17および後輪転舵機構30の組合せ)とを備えている。トー角制御部は、車両1が直進走行をしており、かつ、エンジン4から駆動輪である後輪3bへの動力伝達が切れている場合には、一対の後輪をトーイン方向に制御し、それ以外の場合には一対の後輪3bのトー角を維持する(例えば、0度に維持する)。
【0043】
かかる構成によれば、直進走行検知部(操舵角センサ11およびコントローラ17)が車両1の直進走行を検知し、かつ、動力伝達検知部(シフトポジションセンサ15等およびコントローラ17)がエンジン4から後輪3bへの動力伝達が切れていることを検知したときには、トー角制御部(コントローラ17および後輪転舵機構30)は、一対の後輪3bをトーイン方向に制御する。これにより、直進走行中にコースティング走行に移行したときに駆動輪である後輪3bへの駆動力が抜けた場合に後輪3bのトーイン制御により直進安定性を向上することが可能である。
【0044】
(2)
本実施形態の車両制御システムは、車速を検知する車速センサ12をさらに備える。トー角制御部は、車速が相対的に高いほどトーイン量を相対的に大きくするように制御する。
【0045】
車速が高いときにコースティング走行に移行すると車両の挙動が不安定になる程度が大きくなるが、上記の構成によれば、車速が相対的に高いほど後輪3bのトーイン量を相対的に大きくすることにより、車速が高くても車両挙動を安定化することが可能であり、かつ、減速違和感の低減も可能になる。
【0046】
しかも、上記の制御を行うことにより、トーイン量を車速に応じて変更することにより、各車速で適正なトーイン量に調整することが可能である。
【0047】
(3)
本実施形態の車両制御システムは、ブレーキが作動したか否かを検知するブレーキ作動検知部(ブレーキ踏込量センサ14等およびコントローラ17の組合せ)をさらに備える。トー角制御部は、車両が直進走行をしており、かつ、エンジン4から駆動輪である後輪3bへの動力伝達が切れている状態でブレーキが作動した時には、ブレーキが作動していない場合のトーイン量と比べてトーイン量を増量補正する。
【0048】
コースティング走行中にブレーキを作動した時には車両1の重心が前側にシフトして後輪が接地する力が低下して車両1の直進安定性がさらに低下するので、上記の構成では、直進走行中でかつコースティング走行しているときにブレーキ作動時に後輪3bのトーイン量を増量補正することにより、ブレーキ作動時においても直進安定性を向上させることが可能である。
【0049】
(4)
本実施形態の車両制御システムでは、ブレーキ作動検知部(液圧センサ24およびコントローラ17の組合せ)は、ブレーキ圧を測定することが可能である。トー角制御部は、ブレーキ圧が相対的に高いほどトーイン量を相対的に大きくするように制御する。
【0050】
コースティング走行時においてブレーキを作動したときにブレーキ圧が相対的に高いほど車両の減速の度合い(負の加速度)が大きくなり、車両の直進安定性がより低下するので、上記の構成では、ブレーキ圧が相対的に高いほど後輪3bのトーイン量を相対的に大きくすることにより、ブレーキ圧が高くなっても直進安定性を向上させることが可能である。
【0051】
(5)
本実施形態の車両制御システムは、ドライブモードおよびニュートラルモードの切り換えが可能な変速装置として自動変速機5を備えている。動力伝達検知部は、自動変速機5がニュートラルモードであるときに、動力伝達が切れていることを検知する。
【0052】
かかる構成によれば、オートマチック車に搭載されている自動変速可能な変速装置、すなわち自動変速機5においても、自動変速機5がニュートラルモードであるときに、動力伝達検知部が動力伝達が切れていることを検知し、トー角制御部が一対の後輪をトーイン方向に制御する。これにより、オートマチック車においても、直進走行中にコースティング走行に移行したときにトーイン制御により直進安定性を向上することが可能である。
【0053】
(変形例)
(A)
上記実施形態で示される後輪3bのトーイン制御は、図6に示されるように、トーイン制御初期から一定のトーイン量Q1+Q2になるように設定されているが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明の変形例として、トー角制御部(コントローラ17おおよび後輪転舵機構30)は、トーイン制御初期の後輪3bのトーイン量を初期以外のトーイン量と比較して一時的に大きくするようにしてもよい。
【0054】
かかる構成によれば、コースティング走行に移行した直後において、トーイン制御初期の後輪3bのトーイン量を一時的に大きくすることによって、駆動力が抜けた直後の車両挙動をより安定化することが可能である。
【0055】
(B)
上記実施形態では、本発明の車両制御システムをオートマチック車、すなわち、自動変速機を備えた車両に適用した例が示されているが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明の車両制御システムは、マニュアル車に適用することも可能である。すなわち、マニュアル車の場合には、車両制御システムは、運転手の操作により動力伝達の接続および切断が可能なマニュアルクラッチを備え、動力伝達検知部は、マニュアルクラッチが切断状態である場合に動力伝達が切れていることを検知するようにすればよい。
【0056】
かかる構成によれば、マニュアル車に搭載されているマニュアルクラッチにおいても、マニュアルクラッチが切断状態である場合に、動力伝達検知部が動力伝達が切れていることを検知し、トー角制御部が一対の後輪をトーイン方向に制御する。これにより、マニュアル車においても、直進走行中にコースティング走行に移行したときにトーイン制御により直進安定性を向上することが可能である。
【0057】
(C)
上記実施形態では、後輪駆動(FR)の車両を例に挙げて説明しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、前輪駆動(FF)の車両にも本発明の車両制御システムを適用することが可能である。その場合も、直進走行中にコースティング走行に移行したときに後輪のトーイン制御により直進安定性を向上することが可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 車両
3b 後輪
4 エンジン
5 自動変速機(変速装置)
9 ハンドル
11 操舵角センサ
12 車速センサ
14 ブレーキ踏込量センサ
15 シフトポジションセンサ
16 コントローラ
24 液圧センサ
28 油圧センサ
30 後輪転舵機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6