【実施例】
【0032】
以下に実施例を挙げて本発明について更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0033】
<調製例1> (未精製品1)
緑茶由来カテキン製剤(カテキン含量90%以上、商品名「サンフェノン90」、太陽化学株式会社)3gを水400mLに溶解した。別途、茶葉3gに水100mLを加えて、粉砕し、茶粉砕物を得た。この茶粉砕物に上記のカテキン溶液400mLを合わせ、30〜35℃で3時間反応させた。反応後、篩過して、茶葉残渣物を除去した後、フリーズドライにより粉末化して、茶由来組成物を得た。HPLCで分析したところ、この茶由来組成物にはテアフラビン(TF1)が11質量%、テアフラビン−3−O−ガレート(TF2A)が8.5質量%、テアフラビン−3’−O−ガレート(TF2B)が4.9質量%、テアフラビン−3,3’−O−ジガレート(TF3)が4質量%含まれており、テアフラビン類化合物の合計含量は28.4質量%であった。また、カテキン類化合物の合計含量は7.9質量%であった。
【0034】
<調製例2> (未精製品2)
緑茶用茶葉10gに熱水400mLを添加し、撹拌した後、固液分離して緑茶抽出物を得た。別途、緑茶用茶葉3gに水100mLを加えて、粉砕し、緑茶粉砕物を得た。この緑茶粉砕物に上記の400mLを合わせ、30〜35℃で2時間反応させた。反応後、篩過して、茶葉残渣物を除去した後、フリーズドライにより粉末化して、茶由来組成物を得た。HPLCで分析したところ、この茶由来組成物にはテアフラビン(TF1)が4.1質量%、テアフラビン−3−O−ガレート(TF2A)が7.4質量%、テアフラビン−3’−O−ガレート(TF2B)が1.9質量%、テアフラビン−3,3’−O−ジガレート(TF3)が6質量%含まれており、テアフラビン類化合物の合計含量は19.4質量%であった。また、カテキン類化合物の合計含量は39.5質量%であった。
【0035】
<調製例3> (精製品1)
調製例1と同様にして緑茶由来カテキンと茶粉砕物とを反応させ、反応後の反応液を合成吸着剤「セパビーズSP−700」(商品名、三菱化学株式会社製)に通して精製を行い、フリーズドライにより粉末化して、茶由来組成物を得た。HPLCで分析したところ、この茶由来組成物にはテアフラビン(TF1)が2.5質量%、テアフラビン−3−O−ガレート(TF2A)が12.7質量%、テアフラビン−3’−O−ガレート(TF2B)が3.8質量%、テアフラビン−3,3’−O−ジガレート(TF3)が28.6質量%含まれており、テアフラビン類化合物の合計含量は47.6質量%であった。また、カテキン類化合物の合計含量は20質量%であった。
【0036】
<調製例4> (精製品2)
調製例2と同様にして緑茶由来カテキンと茶粉砕物とを反応させ、反応後の反応液を合成吸着剤「セパビーズSP−700」(商品名、三菱化学株式会社製)に通して精製を行い、フリーズドライにより粉末化して、茶由来組成物を得た。HPLCで分析したところ、この茶由来組成物にはテアフラビン(TF1)が4質量%、テアフラビン−3−O−ガレート(TF2A)が9.4質量%、テアフラビン−3’−O−ガレート(TF2B)が3質量%、テアフラビン−3,3’−O−ジガレート(TF3)が17質量%含まれており、テアフラビン類化合物の合計含量は33.4質量%であった。また、カテキン類化合物の合計含量は21.5質量%であった。
【0037】
<調製例5> (精製品3)
調製例2と同様にして緑茶由来カテキンと茶粉砕物とを反応させ、反応後の反応液をHPLC分取カラム「YMC-DispoPackAT ODS 12g」(商品名、株式会社ワイエムシィ製)に供し、精製を行い、ロータリーエバポレーターでの濃縮乾固により粉末化して、茶由来組成物を得た。HPLCで分析したところ、この茶由来組成物にはテアフラビン(TF1)が38.1質量%、テアフラビン−3−O−ガレート(TF2A)が37.0質量%、テアフラビン−3’−O−ガレート(TF2B)が11.0質量%、テアフラビン−3,3’−O−ジガレート(TF3)が12.3質量%含まれており、テアフラビン類化合物の合計含量は98.4質量%であった。また、カテキン類化合物の合計含量は0.8質量%であった。
【0038】
表1には、調製例1〜5で得られた茶由来組成物の組成をまとめて示す。
【0039】
【表1】
【0040】
以下、調製品5で調製した高純度テアフラビン類化合物を使用して、動物試験を行った。
【0041】
〔1.動物試験〕
(1.1)動物
C57BL/6J雄性マウス17週齢(株式会社チャールズリバー社製)を使用した。マウスは搬入後、16週齢から5連ケージに1匹ずつ分けて1週間、馴化期間を設けた。馴化期間中は、室温22〜25℃、明暗周期12時間(明記:7:00〜19:00、暗記:19:00〜翌7:00)、自由摂食、及び飲水の条件で飼育した。
【0042】
(1.2)飼育飼料
動物用飼料MF固形(オリエンタル酵母工業株式会社製)を使用した。
【0043】
(1.3)尾懸垂試験
マウスの尾の近位3分の2を整形外科用牽引テープで包んだうえ、水平方向の40〜45°の脊椎方向に持ち上げ、垂直方向に移動可能なブロックを備えた尾懸垂用クリップを使用して、後肢を吊り下げる一方、前肢はケージの全範囲を自由に歩き回ることができるよう、拘束範囲を調整した。
【0044】
(1.4)被験物資の投与
調製例5で調製した高純度テアフラビン類化合物を、対照溶媒(グリセロール20質量%、生理食塩水80質量%)に溶解又は分散したうえ、マウスに経口ゾンデで投与した。投与量としては、一日一回、250mg/kg/日、投与期間14日間とした。
【0045】
(1.5)試験群
1週間の馴化後、32匹のマウスを無作為に4つの群に分け、以下の試験群を設定した。
・Ground-Vehicle群:マウスを拘束せずに飼育容器内で自由に接地した状態で飼育し(Ground群)、対照溶媒を経口投与する群(Vehicle群)
・Ground-Theaflavin群:マウスを拘束せずに飼育容器内で自由に接地した状態で飼育し(Ground群)、対照溶媒に溶解又は分散させたテアフラビン類化合物を経口投与する群(Theaflavin群)
・Suspension-Vehicle群:マウスを尾懸垂状態で飼育し(Suspension群)、対照溶媒を経口投与する群(Vehicle群)
・Suspension-Theaflavin群:マウスを尾懸垂状態で飼育し(Suspension群)、対照溶媒に溶解又は分散させたテアフラビン類化合物を経口投与する群(Theaflavin群)
【0046】
(1.6)組織摘出
毎日の被験物資の投与を継続しつつ2週間の飼育を実施後、15日目にジエチルエーテル麻酔下、ペントバルビタール(50mg/kg、皮下投与)で安楽死させ、解剖して、ヒラメ筋(SOL:Soleus muscle)、長趾伸筋(EDL:Extensor digitorum longus)、及び腓腹筋(Gastrocnemius)を摘出した。組織サンプルは−80℃で保存した。また、切片の調製のために、摘出した組織を凍結包埋コンパウンド(商品名「FSC 22 Blue」、ライカ社製)でブロッキングし、ドライアイス冷却したイソペンタン中で凍結し、切片化するまで−80℃で保存した。
【0047】
(1.7)統計分析
すべてのデータは、平均±標準偏差を求めた。統計分析は、一元配置分散分析に続いてDunnet検定を使用して、試験群間の事後比較を行った。
【0048】
<試験例1> (組織学的分析)
凍結サンプルを、クリオスタット(商品名「LEICA CM1950」、ライカ社製)を使用して厚さ8μmの切片にし、ヘマトキシリンエオジン(HE)で染色したうえ、顕微鏡観察画像について画像解析ソフトで解析して、敷石状に観察される筋線維の筋束ごとの断面積を定量化した。
【0049】
図1にはヒラメ筋についての結果を示す。
【0050】
その結果、
図1に示されるように、ヒラメ筋について以下のことが明らかとなった。
(1−1)ヒラメ筋の筋線維の筋束サイズの平均値は、対照溶媒投与/接地群(Ground-Vehicle群)と比較して、対照溶媒投与/尾懸垂実施群(Suspension-Vehicle群)で著しく減少した。この変化(平均値の減少)の程度は、テアフラビン類化合物投与/尾懸垂実施群(Suspension-Theaflavin群)において減少がみられた(
図1b)。
(1−2)筋線維の筋束サイズの分布をとると、その分布ピークは、対照溶媒投与/接地群(Ground-Vehicle群)と比較して、対照溶媒投与/尾懸垂実施群(Suspension-Vehicle群)で大幅に小サイズ側にシフトした。この変化(小サイズ側へのシフト)の程度は、テアフラビン類化合物投与/尾懸垂実施群(Suspension-Theaflavin群)において減少がみられた(
図1c)。
【0051】
また、
図2に示されるように、長趾伸筋について以下のことが明らかとなった。
(1−3)長趾伸筋の筋線維の筋束サイズの平均値は、対照溶媒投与/接地群(Ground-Vehicle群)と比較して、対照溶媒投与/尾懸垂実施群(Suspension-Vehicle群)で著しく減少した。この変化(平均値の減少)の程度は、テアフラビン類化合物投与/尾懸垂実施群(Suspension-Theaflavin群)において減少がみられた(
図2b)。
(1−4)筋線維の筋束サイズの分布をとると、その分布ピークは、対照溶媒投与/接地群(Ground-Vehicle群)と比較して、対照溶媒投与/尾懸垂実施群(Suspension-Vehicle群)で大幅に小サイズ側にシフトした。この変化(小サイズ側へのシフト)の程度は、テアフラビン類化合物投与/尾懸垂実施群(Suspension-Theaflavin群)において減少がみられた(
図2c)。
【0052】
<試験例2> (ウエスタンブロッティング分析)
常法に従い、各組織サンプル(ヒラメ筋又は長趾伸筋)を、プロテアーゼ阻害剤及び還元剤(ジチオスレイトール)を含む細胞溶解バッファー中でホモジナイズし、そのタンパク質濃度を決定後、タンパク質50μg相当量を5−12%あるいは10−20%SDS−PAGEゲルに電気泳動展開したうえ、0.45μmあるいは0.2μmの孔径のポリフッ化ビニリデン膜(PVDF膜)に転写した。
【0053】
転写後のPVDF膜をブロッキング試薬(GE Healthcare社製)で1時間ブロッキングし、以下に示すウサギポリクローナル抗体を一次抗体として使用して、ブロッキング後のPVDF膜を4℃で一晩インキュベートした。
【0054】
(一次抗体)
・Akt(1:2000;ab28422、Abcam社製)
・phospho-Akt(1:1000;ab1283、Abcam社製)
・4EBP1(1:1000;#9452、Cell Signaling Technology社製)
・phospho-4EBP1(1:1000;#2855、Cell Signaling Technology社製)
・FoxO3a(1:1000;#2497、Cell Signaling Technology社製)
・phospho-FoxO3a(1:1000;#13129、Cell Signaling Technology社製)
・LC3B(1:500;#3868、Cell Signaling Technology社製)
・α-tubulin(1:1000;ab4074、Abcam社製)
・Ubiquitin(1:1000;#3933、Cell Signaling Technology社製)
【0055】
一次抗体反応後の免疫反応性を、PVDF膜を西洋ワサビペルオキシダーゼ結合二次抗体(1:10000)とともに1時間インキュベートしたうえ、化学発光検出キット(商品名「ECL SelectTM Western Blotting Reagent」、GE Healthcare社製)を使用して検出した。得られた化学発光バンド画像を画像解析ソフトで解析し、そのバンド強度を定量化した。
【0056】
その結果、
図3に示されるように、ヒラメ筋について以下のことが明らかとなった。
(2−1)タンパク質合成に関与することが知られているAktのリン酸化に有意な変化は観察されなかった。
(2−2)タンパク質合成に関与することが知られている4EBP-1のリン酸化は対照溶媒投与/接地群(Ground-Vehicle群)及びテアフラビン類化合物投与/接地群(Ground-Theaflavin群)では変化せず、対照溶媒投与/尾懸垂実施群(Suspension-Vehicle群)と比較して、テアフラビン類化合物投与/尾懸垂実施群(Suspension-Theaflavin群)で有意な増加がみられた。
(2−3)タンパク質分解に関与することが知られているFoxO3aの脱リン酸化は対照溶媒投与/接地群(Ground-Vehicle群)及びテアフラビン類化合物投与/接地群(Ground-Theaflavin群)では変化せず、対照溶媒投与/尾懸垂実施群(Suspension-Vehicle群)と比較して、テアフラビン類化合物投与/尾懸垂実施群(Suspension-Theaflavin群)で顕著に低下した。
(2−4)オートファジーに関与することが知られているLC3Bの発現レベルは対照溶媒投与/接地群(Ground-Vehicle群)及びテアフラビン類化合物投与/接地群(Ground-Theaflavin群)では変化せず、対照溶媒投与/尾懸垂実施群(Suspension-Vehicle群)と比較して、テアフラビン類化合物投与/尾懸垂実施群(Suspension-Theaflavin群)で顕著に低下した。
(2−5)タンパク質分解に関与することが知られているユビキチン(Ubiquitin)の発現レベルに有意な変化は観察されなかった。
【0057】
また、
図4に示されるように、長趾伸筋については以下のことが明らかとなった。
(2−6)タンパク質合成に関与することが知られているAktのリン酸化に有意な変化は観察されなかった。
(2−7)タンパク質合成に関与することが知られている4EBP-1のリン酸化は対照溶媒投与/接地群(Ground-Vehicle群)及びテアフラビン類化合物投与/接地群(Ground-Theaflavin群)では変化せず、対照溶媒投与/尾懸垂実施群(Suspension-Vehicle群)と比較して、テアフラビン類化合物投与/尾懸垂実施群(Suspension-Theaflavin群)では増加傾向がみられた。
(2−8)タンパク質分解に関与することが知られているFoxO3aの脱リン酸化は対照溶媒投与/接地群(Ground-Vehicle群)及びテアフラビン類化合物投与/接地群(Ground-Theaflavin群)では変化せず、対照溶媒投与/尾懸垂実施群(Suspension-Vehicle群)と比較して、テアフラビン類化合物投与/尾懸垂実施群(Suspension-Theaflavin群)で有意に減少した。
(2−9)オートファジーに関与することが知られているLC3Bの発現レベルは対照溶媒投与/接地群(Ground-Vehicle群)及びテアフラビン類化合物投与/接地群(Ground-Theaflavin群)では変化せず、対照溶媒投与/尾懸垂実施群(Suspension-Vehicle群)と比較して、テアフラビン類化合物投与/尾懸垂実施群(Suspension-Theaflavin群)で顕著に低下した。
(2−10)タンパク質分解に関与することが知られているユビキチン(Ubiquitin)の発現レベルに有意な変化は観察されなかった。
【0058】
<試験例3> (qRT−PCR分析)
常法に従い、各組織サンプル(ヒラメ筋又は腓腹筋)から総RNAを抽出・精製し、逆転写酵素によりcDNA合成してqRT−PCR分析の鋳型とした。PCRはリアルタイムPCRシステム(商品名「Step One PCR System」、Applied Biosystems社製)を使用し、初期変性を95℃で60秒、変性伸長を95℃で15秒、60℃で60秒を40サイクルの条件で行った。表2には使用したPCRプライマーを示す。β−アクチンは定量化のための内在的コントロールとして使用した。
【0059】
【表2】
【0060】
結果は、PCR定量値をMuRF1/MyoD比、又はMuRF1/PGC-1a比で表し、更に、それらを対照溶媒投与/接地群(Ground-Vehicle群)の定量値の平均値を1として規格化して、各群の平均値と標準偏差で表した(各群n=6)。群間の有意差を、一元配置分散分析とそれに続くDunnett検定により統計分析し、有意差がある場合には、グラフ中に「*:p<0.05」で表した。
【0061】
図5には、ヒラメ筋についての結果を示す。
図5に示されるように、ヒラメ筋では、対照溶媒投与/接地群(Ground-Vehicle群)及びテアフラビン類化合物投与/接地群(Ground-Theaflavin群)のMuRF1/MyoD比の場合を除き、テアフラビン類化合物を投与した試験群(Ground-Theaflavin群、Suspension-Theaflavin群)では、筋繊維分解に関与するユビキチンリガーゼをコードするMuRF1のmRNA発現量に比して、筋繊維合成に関与する筋芽細胞決定タンパク質をコードするMyoDのmRNA発現量や転写コアクチベーターをコードするPGC-1aのmRNA発現量が、相対的に増加する傾向がみられた。
【0062】
図6には、腓腹筋についての結果を示す。
図6に示されるように、腓腹筋では、いずれの試験群間の比較においても、テアフラビン類化合物を投与した試験群(Ground-Theaflavin群、Suspension-Theaflavin群)では、筋繊維分解に関与するユビキチンリガーゼをコードするMuRF1のmRNA発現量に比して、筋繊維合成に関与する筋芽細胞決定タンパク質をコードするMyoDのmRNA発現量や、転写コアクチベーターをコードするPGC-1aのmRNA発現量が、相対的に増加する傾向がみられた。