特開2021-16975(P2021-16975A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 第一高周波工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開2021016975-金属管内面樹脂被覆層の分離方法 図000003
  • 特開2021016975-金属管内面樹脂被覆層の分離方法 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-16975(P2021-16975A)
(43)【公開日】2021年2月15日
(54)【発明の名称】金属管内面樹脂被覆層の分離方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 17/02 20060101AFI20210118BHJP
【FI】
   B29B17/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-133471(P2019-133471)
(22)【出願日】2019年7月19日
(71)【出願人】
【識別番号】000208695
【氏名又は名称】第一高周波工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100066
【弁理士】
【氏名又は名称】愛智 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100100365
【弁理士】
【氏名又は名称】増子 尚道
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 修也
(72)【発明者】
【氏名】岩本 盛男
(72)【発明者】
【氏名】宮原 健太
(72)【発明者】
【氏名】白井 裕太
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA09
4F401AC20
4F401AD07
4F401CA48
4F401CA69
4F401CB05
4F401EA41
4F401FA01Y
(57)【要約】
【課題】金属管内面に形成されている樹脂被覆層を当該内面から容易に分離できる分離方法を提供すること。
【解決手段】金属管11の内部を窒素雰囲気とし、高周波誘導加熱手段20のコイル23を、金属管11の上端部を囲むように位置させて金属管11の上端部を誘導加熱し、上端部における金属管11の外面温度が樹脂被覆層16の構成樹脂の熱分解温度を超えた後、金属管11の外面温度が熱分解温度以上に維持されるよう誘導加熱を継続しながら、コイル23を、金属管11の下端部を囲む位置まで移動させることにより、金属管11と樹脂被覆層16の界面近傍における構成樹脂を金属管11の上端側から下端側に向けて順次熱分解させるとともに、界面近傍以外における構成樹脂を金属管11の上端側から下端側に向けて順次熱溶融させ、溶融状態の構成樹脂を金属管11の下端側の開口から排出する工程を含む。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属管の内面に形成されている樹脂被覆層を前記内面から分離する方法であって、
前記金属管の内部を不活性ガス雰囲気とし、
高周波誘導加熱手段を構成するコイルを、前記金属管の一端部を囲むように位置させて前記金属管の前記一端部を誘導加熱し、
前記一端部における前記金属管の外面温度が前記樹脂被覆層の構成樹脂の熱分解温度を超えた後、
前記コイルの長さ方向の中心と対向する前記金属管の外面温度が前記熱分解温度以上に維持されるよう誘導加熱を継続しながら、前記金属管の他端部を囲む位置まで前記コイルを移動させることにより、前記金属管と前記樹脂被覆層の界面近傍における前記構成樹脂を前記金属管の一端側から他端側に向けて順次熱分解させるとともに、前記界面近傍以外における前記構成樹脂を前記金属管の一端側から他端側に向けて順次熱溶融させ、溶融状態の前記構成樹脂を前記金属管の他端側の開口から排出する工程を含むことを特徴とする金属管内面樹脂被覆層の分離方法。
【請求項2】
前記金属管の前記一端部が上端部となり前記他端部が下端部となるように、前記金属管を起立または傾斜させることにより、溶融状態の前記構成樹脂を、その自重を利用して、前記金属管の下端側の前記開口から排出することを特徴とする請求項1に記載の金属管内面樹脂被覆層の分離方法。
【請求項3】
前記金属管の内部を不活性ガス雰囲気とするために、前記金属管の一端側から他端側に向けて管内に不活性ガスを流通させ、この不活性ガスの流れを利用して、溶融状態の前記構成樹脂を前記金属管の他端側の前記開口から排出することを特徴とする請求項1または2に記載の金属管内面樹脂被覆層の分離方法。
【請求項4】
前記樹脂被覆層の構成樹脂がポリエチレンであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の金属管内面樹脂被覆層の分離方法。
【請求項5】
金属管の内面に形成されていた樹脂被覆層の80質量%以上を、前記金属管の他端側の開口から排出させて回収することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の金属管内面樹脂被覆層の分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属管の内面に形成されている樹脂被覆層を、当該内面から分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、金属管内面に形成されている樹脂被覆層を貼り替える際において、当該樹脂被覆層を剥離する方法として、金属管の一端で樹脂被覆層を剥がして掴み代を作り、金属管内に挿入した把持・牽引手段にその掴み代を連結すると共にその掴み代を反転させ、剥離前線近傍の管体を、誘導加熱手段によって接着強度が一過的に低下するように加熱し、誘導加熱手段を管軸方向に順次移動させて加熱位置を順次移動させながら把持・牽引手段を金属管の他端に向かって引き抜き、樹脂被覆層を反転させながら剥がして行く方法が、本出願人によって紹介されている(下記の特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載されているような方法では、剥がされた後の樹脂被覆層は、加熱により軟化して強度が低下しているため、引張力により途中で破断してしまうことがある。
【0004】
また、金属管内面に形成されている樹脂被覆層を剥離する他の方法として、樹脂被覆層の表面を水冷しながら、金属管と樹脂被覆層との界面を当該樹脂被覆層を構成する樹脂の熱分解温度以上の温度で加熱することにより、界面近傍における構成樹脂を熱分解させる第1工程と、金属管の内面から樹脂被覆層を剥離除去する第2工程とを含む方法が、本出願人によって紹介されている(下記の特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載されているような方法では、第1工程の終了後、樹脂被覆層が金属管の内面に再固着することがあり、このように再固着した樹脂を、第2工程において剥離することはきわめて困難である。
【0006】
また、小径(例えば、外径が27.2〜114.3mm)の金属管の内面に形成された樹脂被覆層を手指や治具により剥離することはきわめて困難である。
【0007】
ところで、原子力管理区域内で使用されていた金属管の内面に形成された樹脂被覆層は、その表面が放射性物質などにより汚染されている可能性があるため、そのような汚染物質を樹脂被覆層の表面近傍を構成する樹脂とともに確実に回収することが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−210937号公報
【特許文献2】特開2018−202797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は以上のような事情に基いてなされたものである。
本発明の目的は、金属管の内面に形成されている樹脂被覆層を、当該内面から容易かつ確実に分離することができる新規な分離方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、界面近傍以外における樹脂被覆層の構成樹脂が、金属管の内面に再固着するようなことがない分離方法を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、金属管の内面に形成されている樹脂被覆層を、手指や剥離治具を使用することなく、前記内面から分離することができる分離方法を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、樹脂被覆層の表面が放射性物質などによって汚染されている場合に、そのような汚染物質を樹脂被覆層の構成樹脂とともに確実に回収することができる分離方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の分離方法は、金属管の内面に形成されている樹脂被覆層を、前記内面から分離する方法であって、
前記金属管の内部を不活性ガス雰囲気とし、
高周波誘導加熱手段を構成するコイルを、前記金属管の一端部を囲むように位置させて前記金属管の前記一端部を誘導加熱し、
前記一端部における前記金属管の外面温度が前記樹脂被覆層の構成樹脂の熱分解温度を超えた後、
前記コイルの長さ方向の中心と対向する前記金属管の外面温度が前記熱分解温度以上に維持されるよう誘導加熱を継続しながら、前記コイルを、前記金属管の外面に沿って前記金属管の他端部を囲む位置まで移動させることにより、前記金属管と前記樹脂被覆層の界面近傍における前記構成樹脂を前記金属管の一端側から他端側に向けて順次熱分解させるとともに、前記界面近傍以外における前記構成樹脂を前記金属管の一端側から他端側に向けて順次熱溶融させ、溶融状態の前記構成樹脂を前記金属管の他端側の開口から排出する工程を含むことを特徴とする。
【0011】
このような分離方法によれば、金属管との界面近傍における樹脂被覆層の構成樹脂が、金属管の一端側から他端側に向けて順次熱分解するとともに、界面近傍以外における樹脂被覆層の構成樹脂が、金属管の一端側から他端側に向けて順次熱溶融し、溶融状態の構成樹脂が金属管内面から分離(剥離)されて他端方向に流動し、他端側の開口から排出されるので、界面近傍以外における樹脂被覆層の構成樹脂が、金属管の内面に再固着するようなことはない。
また、溶融状態の構成樹脂は、手指や剥離治具を使用しなくても金属管内面から容易に分離することができる。
【0012】
(2)本発明の金属管内面樹脂被覆層の分離方法において、前記金属管の前記一端部が上端部となり前記他端部が下端部となるように、前記金属管を起立または傾斜させることにより、溶融状態の前記構成樹脂を、その自重を利用して、前記金属管の下端側の前記開口から排出することが好ましい。
【0013】
このような分離方法によれば、溶融状態の構成樹脂(界面近傍以外における樹脂被覆層の構成樹脂)を下端方向に流動させて、金属管の下端側開口から容易に排出させることができる。
【0014】
(3)本発明の金属管内面樹脂被覆層の分離方法において、前記金属管の内部を不活性ガス雰囲気とするために、前記金属管の一端側から他端側に向けて管内に不活性ガスを流通させ、この不活性ガスの流れを利用して、溶融状態の前記構成樹脂を前記金属管の他端側の前記開口から排出してもよい。
【0015】
このような分離方法によっても、溶融状態の構成樹脂を他端方向に流動させ、金属管の他端側開口から容易に排出させることができる。
【0016】
(4)本発明の金属管内面樹脂被覆層の分離方法において、前記樹脂被覆層の構成樹脂がポリエチレンであることが好ましい。
【0017】
(5)本発明の金属管内面樹脂被覆層の分離方法において、金属管の内面に形成されていた樹脂被覆層の80質量%以上を、前記金属管の他端側の開口から排出させて回収することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の分離方法によれば、金属管の内面に形成されている樹脂被覆層を、当該金属管の内面から容易かつ確実に分離することができる。
また、樹脂被覆層の分離作業を手指や剥離治具を使用することなく行うことができる。 また、界面近傍以外における樹脂被覆層の構成樹脂が、金属管の内面に再固着するようなこともない。
更に、樹脂被覆層の表面近傍を構成していた樹脂を、金属管の他端側の開口から排出して確実に回収することができる。この結果、樹脂被覆層の表面が放射性物質などによって汚染されていた場合に、放射性物質などの汚染物質を、排出された樹脂とともに回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態を示す模式図である。
図2】本発明の他の実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の分離方法は、金属管の内面に形成(ライニング)されている樹脂被覆層を当該内面から分離(剥離)する方法である。
【0021】
<第1実施形態>
図1は、本発明の分離方法の一実施形態を示す一部破断模式図である。
図1において11は金属管であり、起立した状態で配置されている。
金属管11の内面には樹脂被覆層16が形成されている。
【0022】
金属管11としては、各種鋼管、銅管などを例示することができる。
金属管11の外径としては、通常27.2〜114.3mmとされ、好適な一例を示せば60.5mm(呼び径50A)とされる。
金属管11の肉厚としては、通常2.9〜6.0mmとされ、好適な一例を示せば3.9mmとされる。
【0023】
樹脂被覆層16を構成する樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、フッ素樹脂などの熱可塑性樹脂を例示することができ、本発明の分離方法は、特に、ポリエチレンからなる被覆樹脂層16の分離方法として好適である。
樹脂被覆層16の厚さとしては、通常0.5〜3mmとされ、好適な一例を示せば2mmとされる。
【0024】
本実施形態の分離方法は、高周波誘導加熱装置20と、不活性ガス供給手段30と、集塵装置40と、回収容器50とを使用して実施される。
【0025】
高周波誘導加熱装置20は、高周波電源21と、金属管11の外面を囲むようにして、移動(昇降)することができるコイル23を備えている。
【0026】
不活性ガス供給手段30は、金属管11の内部に不活性ガスを供給するために、金属管11の上端側に接続されている。
ここに、不活性ガスとしては、誘導加熱時における樹脂の発火を防止できるガスであればよく、窒素ガスを好適に使用することができる。
【0027】
集塵装置40は、不完全燃焼に伴う黒煙などを吸引して回収するために、金属管11の下端側に接続されている。
【0028】
この実施形態の分離方法では、先ず、不活性ガス供給手段30からの不活性ガスを供給して、金属管11の内部を不活性ガス雰囲気とする。
その後、図1(A)に示すように、高周波誘導加熱装置20を構成するコイル23を、金属管11の上端部の外面を囲むように位置させて、金属管11の上端部を誘導加熱する。
誘導加熱により、金属管11の上端部における外面温度が樹脂被覆層16の構成樹脂の熱分解温度を超えた後、コイル23を、金属管11の下端方向へ移動(下降)させる。
【0029】
ここに、構成樹脂の熱分解温度とは、窒素雰囲気下で熱分析(TG/DTA)を行った場合に当該樹脂の重量が5%減少したときの温度をいい、ポリエチレン樹脂の熱分解温度は400〜450℃とされる。
また、金属管11の外面温度は、例えば、放射温度計、サーモテープ、接触温度計などにより測定することができる。
【0030】
高周波誘導加熱装置20による誘導加熱において、周波数としては2〜30kHzであることが好ましく、好適な一例を示せば20kHzである。
また、投入電力としては5〜120kWであることが好ましく、好適な一例を示せば10kWである。
金属管11の上端部における外面の昇温速度は1℃/秒以上であることが好ましく、好適な一例を示せば10℃/秒とされる。
【0031】
金属管11の上端部の誘導加熱を開始してからコイル23の下降を開始するまでの時間(定置加熱時間)としては、通常1〜60秒間とされ、好適な一例を示せば8秒間である。
【0032】
定置加熱時間が短過ぎると、金属管11の上端部に供給する熱量が不足して、その外面を十分に昇温させることができず、金属管11との界面近傍における樹脂被覆層16の構成樹脂を十分に熱分解できなくなることがあり、かかる場合には、金属管11の上端部において樹脂被覆層16の分離が困難となる。
【0033】
他方、定置加熱時間が長すぎると、金属管11の上端部に供給する熱量が過剰となって、その外面温度が過大となり、界面近傍以外における樹脂被覆層16の構成樹脂まで熱分解されることがあり、かかる場合には、金属管11の上端部に形成されている樹脂被覆層16の構成樹脂を十分に回収することができない。
【0034】
定置加熱時間の経過後、コイル23を、その長さ方向の中心と対向している金属管11の外面温度が、構成樹脂の熱分解温度以上に維持されるように誘導加熱を継続しながら、金属管11の外面に沿って、図1(B)に示すような、金属管11の下端部の外面を囲む位置まで移動(下降)させる。
【0035】
コイル23の長さ方向の中心と対向している金属管11の外面温度は、投入電力およびコイル23の移動速度(コイル送り速度)を適宜調整することにより制御する(構成樹脂の熱分解温度以上に維持する)ことができる。
【0036】
ここに、コイル23の移動速度(コイル送り速度)としては、投入電力によっても異なるが、1〜30mm/秒であることが好ましく、好適な一例を示せば3mm/秒とされる。
【0037】
コイル送り速度が速すぎると、移動中のコイル23から金属管11に供給される熱量が不足して、金属管11の外面温度を構成樹脂の熱分解温度以上に維持することができず、金属管11との界面近傍における樹脂被覆層16の構成樹脂を十分に熱分解できなくなることがあり、かかる場合には、金属管11の内面からの樹脂被覆層16の分離が困難となる。
【0038】
他方、コイル送り速度が遅すぎると、移動中のコイル23から金属管11に供給される熱量が過剰となって、金属管11の外面温度が過大となり、金属管11との界面近傍以外における樹脂被覆層16の構成樹脂まで熱分解されることになり、かかる場合には、樹脂被覆層16を樹脂として回収する際の効率が低下する。
【0039】
移動中のコイル23の長さ方向の中心と対向している金属管11の外面温度は、樹脂被覆層16の構成樹脂の熱分解温度以上とされ、好ましくは、構成樹脂の熱分解温度以上であって構成樹脂の熱分解温度+100℃以下とされる。
【0040】
ここに、金属管11の肉厚が15.9mm程度またはそれ以下であれば、誘導加熱中における金属管11と樹脂被覆層16の界面温度は、金属管11の外面温度と略等しくなるため、そのような金属管11の外面温度を樹脂被覆層16の構成樹脂の熱分解温度以上に維持することによって、金属管11との界面近傍における構成樹脂を熱分解させることができる。
【0041】
他方、樹脂被覆層16の構成樹脂(例えばポリエチレン)の熱伝導率は、金属管11の構成金属(例えば鋼管)の熱伝導率と比較して格段に小さいため、金属管11の外面温度を樹脂被覆層16の構成樹脂の熱分解温度以上(例えば、熱分解温度+100℃程度)としても、金属管11との界面近傍以外における構成樹脂は、その溶融温度を超えるものの、その熱分解温度以上にはならない。
【0042】
従って、コイル23の長さ方向の中心と対向する金属管11の外面温度が、構成樹脂の熱分解温度以上、特に、構成樹脂の熱分解温度以上であって熱分解温度+100℃以下に維持されるように誘導加熱を継続しながら、当該コイル23を下降させることにより、金属管11との界面近傍における樹脂被覆層16の構成樹脂が、金属管11の上端側から下端側に向けて順次熱分解されるとともに、熱分解温度に到達していない界面近傍以外における構成樹脂が、金属管11の上端側から下端側に向けて順次熱溶融される。
ここに、金属管11との「界面近傍」における樹脂被覆層16の構成樹脂とは、例えば樹脂被覆層16の厚さをtとするとき、金属管11との界面から厚さ方向に0.3t以内、好ましくは0.1t以内の範囲に存在する構成樹脂をいう。
【0043】
金属管11との界面近傍における構成樹脂が順次熱分解されることにより、界面近傍以外における構成樹脂の金属管11の内面に対する固着強度が消失する。
また、界面近傍以外における構成樹脂が順次熱溶融されることにより、当該構成樹脂は、その自重によって金属管11の内面を流下し、金属管11の下端側の開口から排出されて回収容器50に収容される。
なお、本発明において、界面近傍以外における構成樹脂の全体が流動性を有していれば、界面近傍以外における構成樹脂の一部(例えば、表面近傍における構成樹脂)が熱溶融されていなくてもよい。
【0044】
この実施形態の分離方法によれば、金属管11との界面近傍における樹脂被覆層16の構成樹脂が金属管11の上端側から下端側に向けて順次熱分解されるとともに、界面近傍以外における樹脂被覆層16の構成樹脂が、金属管11の上端側から下端側に向けて順次熱溶融し、溶融状態の構成樹脂が直ちに流下して開口から排出されるので、手指や剥離治具を使用しなくても、界面近傍以外における樹脂被覆層16の構成樹脂を、金属管11の内面から容易かつ確実に分離することができ、当該構成樹脂が再固着することもない。
また、界面近傍以外における樹脂被覆層16の構成樹脂を確実に回収することができるので、樹脂被覆層16の表面が放射性物質によって汚染されていた場合には、当該放射性物質を、排出された樹脂とともに確実に回収することができる。
【0045】
<第2実施形態>
図2は、本発明の分離方法の他の実施形態を示す模式図である。
この実施形態では、金属管11を傾斜させた状態で配置していること以外は上記の実施形態と同様である。
この実施形態のように金属管11を傾斜させることによっても、溶融状態の構成樹脂を、当該金属管11の下端側開口から排出することができる。
ここに、傾斜角度(α)としては30°以上であることが好ましい。
なお、傾斜状態を維持しながら、金属管11を、その管軸を中心に回転させてもよい。
【0046】
また、図示していないが、更に他の実施形態として、金属管11を水平に載置し、この金属管の一端側に接続されている不活性ガス供給手段30から供給される不活性ガスの流れを利用して、溶融状態の構成樹脂を、他端方向へ流動させて、金属管11の他端側開口から排出することもできる。
なお、水平状態を維持しながら、金属管11を、その管軸を中心に回転させてもよい。
【実施例】
【0047】
外径60.5mm(呼び径50A)、肉厚3.9mm、長さ390mmの鋼管(11)の内面にポリエチレンからなる膜厚1.7mm以上の樹脂被覆層(16)が形成されてなるポリエチレンライニング鋼管について、第1実施形態の方法により、下記条件に従って、鋼管(11)の内面からの樹脂被覆層(16)を分離した。分離操作後の鋼管(11)の内面を観察したところ、樹脂被覆層(16)は完全に除去されていた。
分離操作前後の(ライニング)鋼管の重量と、回収した樹脂の重量から、樹脂被覆層の構成樹脂の回収率を求めた。
【0048】
(条件)
・不活性ガス:窒素ガス
・誘導加熱における周波数および投入電力:20kHz、10kW
・上端部における定置加熱時間:8秒間
・定置加熱時間経過時の上端部における外面温度:450℃
・コイル送り速度:3mm/秒
・移動中のコイル(23)の長さ方向の中心と対向している金属管の外面温度:400〜500℃
【0049】
(結果)
・分離操作前のライニング鋼管の重量(W1):1802g
・分離操作後の鋼管の重量(W2) :1704g
・回収した樹脂の重量(W3) : 88g
・回収率(W3/(W1−W2))×100 : 90%
【0050】
上記の結果から、ポリエチレンからなる樹脂被覆層のうち、界面近傍の構成樹脂(10%)が熱分解され、界面近傍以外の構成樹脂(90%)を回収できた。
【符号の説明】
【0051】
11 金属管
16 樹脂被覆層
20 高周波誘導加熱装置
21 高周波電源
23 コイル
30 不活性ガス供給手段
40 集塵装置
50 回収容器
図1
図2