【実施例】
【0085】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0086】
<活性炭と正極用バインダとの親和性試験>
正極用バインダとして、後述する実施例1で用いたポリグルタミン酸ナトリウム、および、後述する比較例1で用いたアルギン酸マグネシウムを、それぞれ3gずつ用意した。これに対し、後述する硫黄を担持した活性炭0.007gをそれぞれ添加し、遊星攪拌機を用いて20分撹拌した。撹拌後、前記活性炭の前記正極用バインダに対する分散状態を、目視により観察した。観察結果に基づき、前記活性炭と、前記正極用バインダとの親和性を判断した。
【0087】
<90度剥離強度試験>
実施例および比較例で用いた正極用バインダを使用して正極シートを作製し、90度剥離強度試験を、JIS K 6854−1:1999に記載の方法で実施した。具体的には、以下の方法で試験を実施した。
【0088】
前記正極用バインダを用いて、後述する方法で正極用スラリーを作製した。次いで、前記正極用スラリーを、正極合材中に含まれる硫黄重量が、集電体の単位面積当たり1.9mg/cm
2となるようにアルミニウム箔に塗布し、厚さ30μm、100mm×200mmサイズの正極シートを作製した。前記正極シートは、オーブンを用いて40℃で1時間乾燥させた。なお、前記正極シートは、前記正極用バインダ1種類あたり3つずつ作製した。
【0089】
続いて、つかみ移動速度を60mm/minとして、JIS K 6854−1:1999に基づき、前記各正極シートの剥離強度を測定し、平均剥離強度を算出した。
【0090】
なお、引張試験機としては、自動縦型サーボスタンド(JISC Corp.,JSV−H1000)およびデジタルフォースゲージ(ハンディデジタルフォースゲージ HFシリーズ、Japan Instrumentation System Corp.,Ltd)を用いて90度剥離強度試験を行った。
【0091】
電極表面に張り付ける剥離用テープとしては、幅15mmのナイスタック(NICHIBAN Corp.,NW−15)を用い、60mm/min、測定範囲50mmで、前記剥離強度の測定を行った。
【0092】
<リチウム硫黄二次電池の正極用材料と集電箔との接着強度試験>
実施例および比較例で用いた正極用バインダを用いて、後述する方法で正極用スラリーを作製した。次いで、アルミニウム箔に対する正極用スラリーの塗布量を増やすことにより、厚さを50〜100μmとした正極シート(以下、「厚塗り試料」と称する)を作製した。前記厚塗り試料を、ホットプレートを用いて40℃で20分乾燥した後、リチウム硫黄二次電池の正極用材料とアルミニウム箔との結着状態を、目視により観察した。
【0093】
<正極用スラリーの粘度測定>
純水で粘度を調整した正極用スラリーの粘度を、振動式粘度計(VISCOMATE VM−10A SECONIC社製)を用いて測定した。
【0094】
<交流インピーダンスの測定>
実施例および比較例にて作製したリチウム硫黄二次電池の交流インピーダンスを、電気化学測定システム S1 1280B(Solartron製)を用いて測定した。具体的には、前記リチウム硫黄二次電池を、電圧範囲1〜3Vで1サイクルおよび20サイクル作動させて充放電し、1時間緩和させた後、振幅幅10mV、周波数範囲500kHz〜10mHzの条件で交流インピーダンスを測定した。
【0095】
<サイクル特性試験>
充放電レートを0.1/0.1Cとし、1−100サイクルの充放電を行った。各サイクル目での放電容量が高いほど、優れたリチウム硫黄二次電池とする。
【0096】
なお、容量維持率を、下記式で求めた。
・容量維持率(%)=(20サイクル目放電容量/2サイクル目放電容量)×100、および
・容量維持率(%)=(100サイクル目放電容量/20サイクル目放電容量)×100
<充放電試験>
実施例および比較例にて作製したリチウム硫黄二次電池の正極を作用極とし、BTS2400W(Nagano社製)を用いて、定電流充放電試験を行った。充電時のモードをC.C.法(「C.C.」はconstant currentの略称である。)とし、放電時のモードをC.C.モードとした。設定電流密度は167.2mA/gとした(電流密度1672mA/gを1Cと定義する。以下、167.2mA/gを0.1Cと示す。)。カットオフ電圧は、下限値を1.0V、上限値を3.0Vとした。試験は25℃の環境にて行った。
【0097】
なお、充電容量および放電容量は、硫黄の重量を基準とし、単位をmA・h(g sulfur)
−1と定義した。
【0098】
<走査型電子顕微鏡を用いた充放電後の正極の表面観察>
実施例および比較例にて作製したリチウム硫黄二次電池につき、1サイクル、10サイクル、および20サイクル充放電させた後、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ SU−1500 Hitachi HIgh−Technologies社製)を用いて、正極の表面観察を行った。
【0099】
具体的には、前記各サイクルを経た正極を、導電性カーボンテープを用いてアルミニウム製の試料台に貼り付け、当該試料台をチャンバー内に取り付けた。チャンバー内を真空にした後、Working distanceを15mm、加速電圧を15kVとして、前記正極の表面を観察した。
【0100】
<光学顕微鏡を用いた充放電後の正極の表面観察>
実施例および比較例にて作製したリチウム硫黄二次電池を、1サイクル充放電させた後、光学顕微鏡(SELMIC.,SE−MP−L)を用いて、正極の表面観察を行った。具体的には、前記正極をウェット状態のまま可視セルに移動させた後、倍率を270倍にして前記正極の表面を観察した。
【0101】
〔実施例1〕
(硫黄を担持した活性炭の作製)
重量比が43:57となるように、活性炭と、硫黄華(Wako pure chemical社製、純度99%超)とを、メノウ乳鉢を用いて混合し、混合物を得た。前記混合物を耐熱性金属容器に移し、これをマッフル炉に投入して、大気中で加熱処理を行った。
【0102】
前記活性炭の細孔の体積は0.8cc/gであり、比表面積は1709cm
2/gであった。
【0103】
具体的には、前記金属容器を炉内に投入した後、炉内を155℃まで昇温させ、この温度を5時間保持し、硫黄を融解させた。前記硫黄は、毛細管現象によって前記活性炭の細孔内に吸着された。
【0104】
次いで、5℃/minの速度で300℃まで昇温させ、この温度を2時間保持し、前記活性炭の表面に残留した硫黄を昇華させた。その後、炉内を室温まで十分に空冷して、炉内から金属容器を取り出し、硫黄を担持した活性炭を得た。
【0105】
前記活性炭の硫黄の担持量は、以下の方法により測定した。すなわち、前記硫黄を担持した活性炭をアルミナセルに入れ、島津製作所社製、DTG−60AHを用いて、熱重量分析(TGA)を行った。測定は、測定ガスAr、ガス流量50ml/min、昇温速度5℃/min、および上限温度600℃の条件下で行った。前記硫黄の担持量は、硫黄を担持した活性炭全体の重量を基準として、51〜52重量%であった。
【0106】
(バインダ溶液の調製)
バインダとして、ポリグルタミン酸ナトリウムを純水に溶解させ、ポリグルタミン酸ナトリウムの濃度が6重量%のバインダ溶液を調製した。
【0107】
(リチウム硫黄二次電池の正極用スラリーの作製)
前記バインダ溶液に、導電助剤であるアセチレンブラックを添加し、次いで前記硫黄を担持した活性炭を添加することにより、正極用スラリーを調製した。得られた正極用スラリーの粘度は、0.13Pa・sであった。前記硫黄を担持した活性炭と、アセチレンブラックと、バインダ(ポリグルタミン酸ナトリウム)との重量比は90:5:5とした。
【0108】
(リチウム硫黄二次電池用正極の作製)
リチウム硫黄二次電池用正極として、2極式フラットセル用正極およびラミネートセル用正極を作製した。
【0109】
2極式フラットセル用正極は、以下の方法によって作製した。まず、前記正極用スラリーを、正極合材中に含まれる硫黄重量が、集電体の単位面積当たり1.9mg/cm
2となるように、アルミニウム箔(集電体)に塗布し、大気圧下、オーブンを用いて40℃で1時間乾燥させた。次に、乾燥した集電体を、ロールプレス機を用いて圧延した後、直径12mmサイズに打ち抜き、成形体を得た。前記成形体を、50℃のベルジャーを用いて、さらに12時間真空乾燥させて、2極式フラットセル用正極を作製した。2極式フラットセル用正極の厚さは約30μmであった。
【0110】
ラミネートセル用正極は、以下の方法によって作製した。まず、前記正極用スラリーを、正極合材中に含まれる硫黄重量が、集電体の単位面積当たり7.3mg/cm
2以上8.8mg/cm
2以下となるように、3Dアルミニウム集電体(住友電工株式会社製 セルメット)に充填し、大気圧下、オーブンを用いて40℃で1時間乾燥させた。次に、乾燥した集電体を、ロールプレス機を用いて圧延した後、24mm×24mmのサイズに挟みを用いてカットし、成形体を得た。前記成形体を、50℃のベルジャーを用いて、さらに12時間真空乾燥させて、ラミネートセル用正極を作製した。ラミネートセル用正極の厚さは約250μmであった。
【0111】
(リチウム硫黄二次電池用負極の作製)
リチウム硫黄二次電池用負極として、2極式フラットセル用負極およびラミネートセル用負極を作製した。
【0112】
2極式フラットセル用負極は、露点−40℃以下の大気雰囲気中において、厚さ20〜30μmのリチウム箔を直径16mmサイズに打ち抜くことによって調製した。
【0113】
ラミネートセル用負極は、露点−40℃以下の大気雰囲気中において、厚さ30μmのリチウム箔を30mm×35mmのサイズに挟みを用いてカットすることによって調製した。
【0114】
(リチウム硫黄二次電池の電解液の調製)
リチウム含有電解質として、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(以下、LiTFSIと称する)を用いた。また、非水溶媒として、フルオロエチレンカーボネート(以下、FECと称する)と1,1,2,2−テトラフルオロ−3−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)−プロパン(以下、HFEと称する)とを混合した混合溶媒を用いた。
【0115】
電解液の調製方法を、さらに具体的に記載する。FECおよびHFEを、体積比で1:1になるように混合し、混合溶媒とした。次いで、LiTFSIを、1.0mol/LのLiTFSI/FEC:HFEとなるように前記混合溶媒に溶解させ、溶液を調製した。次に、ビニレンカーボネート(VC)を、90Volume%の前記溶液に対して10Volume%添加し、リチウム硫黄二次電池の電解液とした。
【0116】
(リチウム硫黄二次電池の作製)
露点−40℃以下の大気雰囲気中において、前記(リチウム硫黄二次電池用正極の作製)により作製した正極、前記(リチウム硫黄二次電池用負極の作製)により作製した負極、前記(リチウム硫黄二次電池の電解液の調製)により調製した電解液、およびセパレータとしてのポリプロピレン系微多孔膜を用い、以下の手順でリチウム硫黄二次電池を作製した。
【0117】
リチウム硫黄二次電池のセルとしては、2極式フラットセル(塗布電極)およびラミネートセル(3Dアルミニウム集電体)を用いた。まず、前記セル内に、正極、セパレータ、および負極がこの順に積層するように収容した。次に、前記セル内に前記電解液を注入し、リチウム硫黄二次電池を作製した。
【0118】
〔実施例2〕
(バインダ溶液の調製)において、バインダとして、ポリグルタミン酸ナトリウムの代わりに、ポリグルタミン酸ナトリウムとアルギン酸マグネシウムとの重量比が80:20である混合物を純水に溶解させ、バインダの濃度が4重量%のバインダ溶液を調製した。この点以外は実施例1と同様の方法により、リチウム硫黄二次電池を作製した。
【0119】
〔実施例3〕
(バインダ溶液の調製)において、バインダとして、ポリグルタミン酸ナトリウムの代わりに、ポリグルタミン酸ナトリウムとアルギン酸マグネシウムとの重量比が50:50である混合物を純水に溶解させ、バインダの濃度が4重量%のバインダ溶液を調製した。この点以外は実施例1と同様の方法により、リチウム硫黄二次電池を作製した。
【0120】
〔実施例4〕
(バインダ溶液の調製)において、バインダとして、ポリグルタミン酸ナトリウムの代わりに、ポリグルタミン酸ナトリウムとアルギン酸マグネシウムとの重量比が40:60である混合物を純水に溶解させ、バインダの濃度が4重量%の正極用スラリーを調製した。この点以外は実施例1と同様の方法により、リチウム硫黄二次電池を作製した。
【0121】
〔実施例5〕
(バインダ溶液の調製)において、バインダとして、ポリグルタミン酸ナトリウムの代わりに、ポリグルタミン酸ナトリウムとアルギン酸マグネシウムとの重量比が30:70である混合物を純水に溶解させ、バインダの濃度が4重量%の正極用スラリーを調製した。この点以外は実施例1と同様の方法により、リチウム硫黄二次電池を作製した。
【0122】
〔実施例6〕
(バインダ溶液の調製)において、バインダとして、ポリグルタミン酸ナトリウムの代わりに、ポリグルタミン酸ナトリウムとアルギン酸マグネシウムとの重量比が20:80である混合物を純水に溶解させ、バインダの濃度が4重量%の正極用スラリーを調製した。この点以外は実施例1と同様の方法により、リチウム硫黄二次電池を作製した。
【0123】
〔実施例7〕
(バインダ溶液の調製)において、バインダとして、ポリグルタミン酸ナトリウムの代わりに、ポリグルタミン酸ナトリウムとアルギン酸ナトリウムとポリアクリル酸との重量比が20:60:20である混合物を純水に溶解させ、バインダの濃度が3重量%の正極用スラリーを調製した。この点以外は実施例1と同様の方法により、リチウム硫黄二次電池を作製した。
【0124】
〔比較例1〕
(バインダ溶液の調製)において、バインダとして、ポリグルタミン酸ナトリウムの代わりにアルギン酸マグネシウムを純水に溶解させ、バインダの濃度が4重量%の正極用スラリーを調製した。この点以外は実施例1と同様の方法により、リチウム硫黄二次電池を作製した。前記正極用スラリーの粘度は、0.59Pa・sであった。
【0125】
〔結果〕
(1.活性炭と正極用バインダとの親和性試験)
図1に、硫黄を担持した活性炭と、実施例1および比較例1で用いたリチウム硫黄二次電池の正極用バインダとの親和性試験の結果を示す。
【0126】
図1より、実施例1と、比較例1とでは、硫黄を担持した活性炭の分散の程度は同等であることが分かる。すなわち、ポリグルタミン酸ナトリウムは、硫黄を担持した活性炭に対し、アルギン酸マグネシウムと同程度の親和性を有することが分かった。
【0127】
(2.90度剥離強度試験)
図2および
図3に、実施例1および比較例1で作製したリチウム硫黄二次電池の正極用バインダの90度剥離強度試験の結果を示す。
【0128】
図2の「実施例1」は、実施例1で調製した正極用スラリーを用いて3つ作製した正極シートそれぞれの剥離強度を示し、前記正極シートの平均剥離強度が3.0N/mmであったことを示している。
【0129】
図2の「比較例1」は、比較例1で調製したバインダ溶液を用いること以外は、実施例1と同様にして作製した正極用スラリーを用い、3つ作製した正極シートそれぞれの剥離強度を示している。また、
図2の「比較例1」は、前記正極シートの平均剥離強度が2.0N/mmであったことを示している。
【0130】
図3は、
図2に示す平均剥離強度を棒グラフ化したものである。
【0131】
図2および
図3より、実施例1で用いたバインダ(ポリグルタミン酸ナトリウム)は、比較例1で用いたバインダ(アルギン酸マグネシウム)に比して、平均剥離強度が大きいことが分かる。また、図示していないが、90度剥離強度試験を実施した後の正極シートの表面には、アルミニウム箔の露出は見られなかった。
【0132】
よって、前記平均剥離強度は、正極用スラリーに含有されている正極用材料(硫黄を担持した活性炭およびアセチレンブラック)と集電体との間の剥離強度ではなく、正極用材料と正極用材料との間の剥離強度を意味している。
【0133】
すなわち、正極用バインダとしてのポリグルタミン酸ナトリウムは、アルギン酸マグネシウムよりも、正極用材料を結着する力が大きいことが分かった。
【0134】
(3.リチウム硫黄二次電池の正極用材料と集電箔との接着強度)
図4に、実施例1および比較例1で作製した正極用バインダを用いた正極シートを用い、リチウム硫黄二次電池の正極用材料と集電箔との接着強度を検討した結果を示す。ここでは、前記正極用材料と集電箔との剥離が起こり易い条件とするため、正極用スラリーの塗布量を意図的に増やして調製した前記厚塗り試料を用いている。
【0135】
図4に示すように、比較例1では、厚塗り試料に剥離が見られた。一方、実施例1は、厚塗り試料の剥離が見られなかった。この結果より、正極用バインダとしてのポリグルタミン酸ナトリウムは、アルギン酸マグネシウムよりも、正極用材料(硫黄を担持した活性炭およびアセチレンブラック)と集電箔とを結着する力も大きいことが分かった。
【0136】
(4.3Dアルミニウム集電体への充填性について)
図5に、実施例1および比較例1で作製したラミネートセル用正極の表面観察の結果を示す。なお、
図5中、前記ラミネートセル用正極を図の左上隅に示し、丸枠で囲んだ箇所を拡大して観察したものを図の中央部に示す。
【0137】
図5に示すように、実施例1は、比較例1に比して、ラミネートセル用正極の表面において、空隙および合材が密になっている箇所が少なかった。なお、前記合材とは正極用スラリーに含有されている固形分である。
【0138】
図5に示す結果より、ポリグルタミン酸ナトリウムを含有するリチウム硫黄二次電池の正極用スラリーは、低粘度であるため流動性が高く、3Dアルミニウム集電体の孔に、均一に充填できることが分かった。
【0139】
(5.交流インピーダンス)
図6に、実施例1および比較例1で作製したリチウム硫黄二次電池の交流インピーダンスを測定した結果を示す。図中、「1cyc.」は1サイクル充放電した場合の結果を示し、「20cyc.」は20サイクル充放電した場合の結果を示す。
図6の右上側に示す図は、
図6の左上側に示す図の拡大図である。
【0140】
1サイクル目および20サイクル目とも、いずれのリチウム硫黄二次電池についても2つの半円成分が観察されたが、実施例1の方が、比較例1よりも、どちらの半円成分についても低抵抗となった。つまり、正極用バインダとしてのポリグルタミン酸ナトリウムは、アルギン酸マグネシウムよりも、正極用材料間の電子抵抗および集電体の電子抵抗等を低いまま保持することができることが明らかとなった。
【0141】
(6.サイクル特性、充放電試験)
図7に、実施例1および比較例1で作製したリチウム硫黄二次電池の1〜100サイクルのサイクル特性試験の結果を示す。当該リチウム硫黄二次電池の正極としては、2極式フラットセル用正極を用いた。また、表1に、前記サイクル特性試験の結果および容量維持率を示す。
【0142】
【表1】
【0143】
図7に示すように、比較例1で作製したリチウム硫黄二次電池では、約20サイクル目までに放電容量が大きく低下した。一方、実施例1で作製したリチウム硫黄二次電池では約20サイクル目までの放電容量の低下が比較例1よりも大幅に改善されていた。
【0144】
また、表1に示すように、実施例1で作製したリチウム硫黄二次電池は、比較例1で作製したリチウム硫黄二次電池を大きく上回る容量維持率を示した。
【0145】
図8に、実施例1および比較例1で作製したリチウム硫黄二次電池における充放電後の正極の表面状態を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した結果を示す。
【0146】
図8に示すように、1サイクル目では、実施例1で用いた正極および比較例1で用いた正極のいずれにも、表面に割れが見られた。しかし、
図7に示す放電容量に差が見られ始める10サイクル目以降を比較すると、実施例1で用いた正極の方が表面の割れが少なかった。
【0147】
すなわち、正極用バインダとしてのポリグルタミンナトリウム酸は、アルギン酸マグネシウムよりも結着力の強いバインダであることが分かった。
【0148】
図9は、実施例1および比較例1で作製したリチウム硫黄二次電池における充放電後の正極の表面状態を、光学顕微鏡を用いて観察した結果を示す。この観察は、
図8に示した正極表面の割れが、正極を洗浄した後の乾燥、走査型電子顕微鏡による観察時の真空引き等によって生じたものであるか否かを確認することを目的として行った。それゆえ、1サイクル充放電させたリチウム硫黄二次電池の正極を、ウェット状態のまま可視セルに移動させ、観察している。
【0149】
図9に示すように、実施例1で用いた正極は、比較例1で用いた正極に比して、表面の割れが少なかった。すなわち、
図8で観察された充放電後の正極の表面に形成された割れが、前記乾燥および前記真空引きに由来するものでないことが分かった。
【0150】
図10に、実施例1および比較例1で作製したリチウム硫黄二次電池の充放電曲線を示す。当該リチウム硫黄二次電池の正極としては、ラミネートセル用正極を用いた。
【0151】
図10に示すように、実施例1のリチウム硫黄二次電池は、比較例1のリチウム硫黄二次電池に対して、100サイクル目における放電容量の向上が見られた。さらに、
図11および表2に示すように、実施例1のリチウム硫黄二次電池は、比較例1のリチウム硫黄二次電池に比して、高サイクルまで寿命を維持することができ、かつ、高い容量維持率特性を示した。
【0152】
図11に、実施例1および比較例1で作製したリチウム硫黄二次電池のサイクル特性試験の結果を示す。実施例1で作製したリチウム硫黄二次電池については1〜250サイクルの結果を示す。比較例1で作製したリチウム硫黄二次電池については1〜125サイクルの結果となっているが、これは、当該リチウム硫黄二次電池が125サイクルで短絡を起こしたためである。また、表2に、前記サイクル特性試験の結果および容量維持率を示す。
【0153】
【表2】
【0154】
図11に示すように、実施例1では放電容量の低下が比較例1よりも改善されていた。
【0155】
また、比較例1で作製したリチウム硫黄二次電池は、125サイクル目で短絡が生じてしまい、以降の放電容量を測定することができなかった。一方、実施例1で作製したリチウム硫黄二次電池は、約二倍の250サイクル目まで、高い放電容量のまま、安定して稼働した。
【0156】
図11に示す結果は、正極用バインダとしてのポリグルタミン酸ナトリウムによって、正極用スラリーが集電体にむらなく均一に塗布されたため、充放電の電流の分布のバラつきが少なくなり、デンドライトの発生が抑制されたことによると考えられる。
【0157】
また、表2に示すように、実施例1で作製したリチウム硫黄二次電池は、比較例1で作製したリチウム硫黄二次電池に比して、2サイクル目から20サイクル目まで、および20サイクル目から100サイクル目までのいずれにおいても、高い容量維持率を示した。
【0158】
表2に示す結果は、正極用バインダとしてのポリグルタミン酸ナトリウムが強い接着性を示したことによって、合材の割れが抑制されたことによると考えられる。
【0159】
図12は、実施例1〜6および比較例1で作製したリチウム硫黄二次電池について、バインダを構成するポリグルタミン酸ナトリウムとアルギン酸マグネシウムとの重量比と、100サイクル目の放電容量との関係を示す。前記リチウム硫黄二次電池の正極としては、2極式フラットセル用正極を用いた。
【0160】
図12の下部の横軸はバインダを構成するポリグルタミン酸ナトリウムの重量比を示し、上部の横軸はバインダを構成するアルギン酸マグネシウムの重量比を示す。
図12の縦軸は、リチウム硫黄二次電池の100サイクル目の放電容量を示す。
【0161】
前記2極式フラットセル用正極としては、実施例1の(リチウム硫黄二次電池用正極の作製)において説明した2極式フラットセル用正極の作製法において、前記正極用スラリーを、正極合材中に含まれる硫黄重量が、集電体の単位面積当たり2.0mg/cm
2となるようにアルミニウム箔に塗布して作製した、厚さ約35μmの2極式フラットセル用正極を用いた。すなわち、電極の割れが生じやすいように、意図的に正極用スラリーを厚塗りした2極式フラットセル用正極を用いた。
【0162】
図12に示すように、ポリグルタミン酸ナトリウムを含有するリチウム硫黄二次電池の正極用バインダを用いた場合、ポリグルタミン酸ナトリウムを含有していないリチウム硫黄二次電池の正極用バインダを用いた場合と比較して、リチウム硫黄二次電池の100サイクル目の放電容量が増加することが分かる。なお、前記放電容量は、ポリグルタミン酸ナトリウムとアルギン酸マグネシウムとの重量比が50:50のときに最も高くなった。
【0163】
図13は、実施例1、4、6および比較例1で作製したリチウム硫黄二次電池のサイクル特性試験の結果を示す図である。前記リチウム硫黄二次電池の正極としては、実施例1の(リチウム硫黄二次電池用正極の作製)において説明したラミネートセル用正極を用いた。
【0164】
図13より、ラミネートセル用正極を用いた場合、放電容量は、ポリグルタミン酸ナトリウムとアルギン酸マグネシウムとの重量比が40:60である実施例4が最も高く、前記重量比が100:0である実施例1がこれに続き、前記重量比が20:80である実施例6は前記重量比が0:100である比較例1とあまり変わらない結果となった。
【0165】
図14は、実施例7で作製したリチウム硫黄二次電池および比較例1で作製したリチウム硫黄二次電池の充放電曲線を示す図である。実施例7では、ポリグルタミン酸ナトリウムとアルギン酸ナトリウムとポリアクリル酸との重量比が20:60:20であるバインダを用い、比較例1ではアルギン酸マグネシウムのみをバインダとして用いている。前記リチウム硫黄二次電池の正極としては、実施例1の(リチウム硫黄二次電池用正極の作製)において説明したラミネートセル用正極を用いた。
【0166】
図14に示すように、実施例7のリチウム硫黄二次電池と、比較例1のリチウム硫黄二次電池とでは、放電容量の差が見られなかった。しかし、比較例1で作製したリチウム硫黄二次電池については1〜125サイクルの結果となっているが、これは、当該リチウム硫黄二次電池が125サイクルで短絡を起こし、以降の放電容量を測定することができなかったためである。
【0167】
一方、実施例7で作製したリチウム硫黄二次電池は、159サイクル目まで、安定して稼働した。すなわち、実施例7で用いたリチウム硫黄二次電池の正極用バインダは、リチウム硫黄二次電池のサイクル寿命を延ばす効果を有する。
【0168】
本発明の一実施形態に係るリチウム硫黄二次電池の正極用バインダは、実施例に示したように、リチウム硫黄二次電池の正極用材料の剥離を抑制するとともに、結着強度を向上させ、かつ、正極の割れを抑制することができる。その結果、充放電特性に優れたリチウム硫黄二次電池を提供することができる。
【0169】
前記リチウム硫黄二次電池は、高い容量維持率を有し、安定した充放電特性を発揮することができるため、今後のリチウム硫黄二次電池の実用化に大きく寄与することができると考えられる。