【解決手段】コイル部品1は、基体と、基体内に設けられたコイル導体25と、基体の表面に設けられた外部電極21、22と、を備える。基体は、Fe、Si及びCrを含む合金から成る複数の金属磁性粒子と、隣り合う2つの前記金属磁性粒子の双方に接するように設けられた粒界絶縁層と、を含む。粒界絶縁層の厚さ方向の中心領域において、Fe、Si、及びCrの存在量の合計に対するFeの存在量の比率は0.24未満である。
Fe、Si、及びCrを含む合金から成る複数の金属磁性粒子、及び、隣り合う2つの前記金属磁性粒子の双方に接するように設けられ、その厚さ方向の中心領域においてFe、Si、及びCrの存在量の合計に対するFeの存在量の比率が0.24未満である粒界絶縁層を含む基体と、
前記基体内に設けられたコイル導体と、
前記基体の表面に設けられ前記コイル導体に電気的に接続された外部電極と、を含むコイル部品。
前記第3工程において、隣り合う2つの前記金属磁性粒子の双方に接するように、厚さ方向の中心領域においてFe、Si、及びCrの存在量の合計に対するFeの存在量の比率が0.24未満である粒界絶縁層が形成される、請求項5から7のいずれか1項に記載のコイル部品の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、適宜図面を参照し、本発明の様々な実施形態を説明する。なお、複数の図面において共通する構成要素には当該複数の図面を通して同一の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。
【0016】
図1〜
図3を参照して、本発明の一実施形態に係るコイル部品1の概要について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るコイル部品1の斜視図であり、
図2は、
図1のコイル部品1の分解斜視図である。
図3は、
図1のI−I線に沿ったコイル部品1の断面を模式的に示す図である。
図3においては、基体10に含まれる各磁性体層を一部省略している。
図1〜
図3には、コイル部品1の一例として、様々な回路で受動素子として用いられる積層インダクタが示されている。積層インダクタは、本発明を適用可能な積層コイル部品の一例である。本発明は、積層インダクタ以外にも、例えば、圧縮成形又は薄膜成型によって作成されたコイル部品にも適用可能である。また、本発明は、コアに導線が巻回された巻線型のコイル部品にも適用可能である。本発明は、電源ラインに組み込まれるパワーインダクタ及びそれ以外の様々なコイル部品に適用することができる。
【0017】
図示の実施形態におけるコイル部品1は、複数の金属磁性粒子を含む基体10と、積層体10の内部に設けられ、コイル軸Axの周りに巻回されたコイル導体25と、当該コイル導体25の一端と電気的に接続された外部電極21と、コイル導体25の他端と電気的に接続された外部電極22と、を備える。外部電極21及び外部電極22は、例えばめっき法により形成される。一又は複数の実施形態において、基体10は、10
6Ω・cm以上の比抵抗を有する。基体の比抵抗が小さいと、外部電極21及び外部電極22をめっき法により形成する際のめっき伸びに起因するショート不良が発生する恐れがある。基体10の比抵抗を10
6Ω・cm以上とすることにより、めっき伸びに起因するショート不良の発生を防止又は抑制することができる。基体10は、磁性材料から成る磁性体層が積層されることによって構成されている。コイル導体25は、複数の導体パターンC11〜C16を有している。複数の導体パターンC11〜C16は、コイル軸Axに直交する平面方向に沿って延びると共に、コイル軸Axの方向において互いに離間している。導体パターンC11〜C16の各々は、後述するビアV1〜V5を介して隣接する導体パターンと電気的に接続されている。このように、コイル導体25は、導体パターンC11〜C16及びビアV1〜V5によって構成されている。導体パターンC11は外部電極21と電気的に接続され、導体C16は外部電極22と電気的に接続される。
【0018】
図示のように、本発明の一実施形態において、基体10は例えば直方体状に形成される。基体10は、第1の主面10e、第2の主面10f、第1の端面10a、第2の端面10c、第1の側面10b、及び第2の側面10dを有する。基体10は、これらの6つの面によってその外面が画定される。第1の主面10eと第2の主面10fとは互いに対向し、第1の端面10aと第2の端面10cとは互いに対向し、第1の側面10bと第2の側面10dとは互いに対向している。基体10が直方体形状に形成される場合には、第1の主面10eと第2の主面10fとは平行であり、第1の端面10aと第2の端面10cとは平行であり、第1の側面10bと第2の側面10dとは平行である。
【0019】
図1の実施形態において、第1の主面10eは基体10の上側にあるため、本明細書において第1の主面10eを「上面」と呼ぶことがある。同様に、第2の主面10fを「下面」と呼ぶことがある。コイル部品1は、第2の主面10fが回路基板(不図示)と対向するように配置されるので、本明細書において第2の主面10fを「実装面」と呼ぶこともある。また、コイル部品1の上下方向に言及する際には、
図1の上下方向を基準とする。
【0020】
本明細書においては、文脈上別に理解される場合を除き、コイル部品1の「長さ」方向、「幅」方向、及び「厚さ」方向はそれぞれ、
図1の「L軸」方向、「W軸」方向、及び「T軸」方向とする。L軸、W軸、及びT軸は互いに直交している。コイル軸Axは、T方向に沿って延びている。W方向及びL方向を含む面が延伸する方向が平面方向にあたる。
【0021】
本発明の一実施形態において、コイル部品1は、長さ寸法(L軸方向の寸法)が0.2〜6.0mm、幅寸法(W軸方向の寸法)が0.1〜4.5mm、厚さ寸法(T軸方向の寸法)が0.1〜4.0mmとなるように形成される。これらの寸法はあくまで例示であり、本発明を適用可能なコイル部品1は、本発明の趣旨に反しない限り、任意の寸法を取ることができる。一実施形態において、コイル部品1は、低背に形成される。例えば、コイル部品1は、その幅寸法が厚さ寸法よりも大きくなるように形成される。
【0022】
図2は、
図1のコイル部品1の分解斜視図である。
図2においては、図示の便宜上、外部電極21及び外部電極22を省略している。
図2に示されるように、基体10は、本体部20、当該本体部20の上面に設けられた上部カバー層18、及び本体部20の下面に設けられた下部カバー層19を備える。本体部20は、積層された磁性体層11〜16を含んでおり、
図2の上から下に向かって、上部カバー層18、磁性体層11、磁性体層12、磁性体層13、磁性体層14、磁性体層15、磁性体層16、磁性体層17、下部カバー層19の順に積層されている。
【0023】
上部カバー層18は、4枚の磁性体層18a〜18dを含む。この上部カバー層18においては、
図2の下から上に向かって、磁性体層18a、磁性体層18b、磁性体層18c、磁性体層18dの順に積層されている。
【0024】
下部カバー層19は、4枚の磁性体層19a〜19dを含む。この下部カバー層19においては、
図2の上から下に向かって、磁性体層19a、磁性体層19b、磁性体層19c、磁性体層19dの順に積層されている。
【0025】
本体部20を構成する磁性体層11〜16、上部カバー層18を構成する磁性体層18a〜18d、及び下部カバー層19を構成する磁性体層19a〜19dは、複数の金属磁性粒子と、絶縁性を有する樹脂材料と、を含む。本発明に適用可能な金属磁性粒子は、酸化されていない金属部分において磁性が発現する材料であり、例えば、酸化されていない金属粒子や合金粒子を含む粒子である。本発明の一又は複数の実施形態において、金属磁性粒子として、例えば、Fe、Si、及びCrを含む合金の粒子が用いられ得る。本発明の一又は複数の実施形態において、金属磁性粒子の平均粒径は、例えば、1μm〜50μmとされる。金属磁性粒子は、互いに平均粒径の異なる2種類以上の金属磁性粒子が混合された混合粒子であってもよい。磁性基体に含まれる金属磁性粒子の平均粒径は、当該磁性基体をその厚さ方向(T方向)に沿って切断して断面を露出させ、当該断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により2000倍〜5000倍の倍率で撮影した写真に基づいて粒度分布を求め、この粒度分布に基づいて定められる。例えば、SEM写真に基づいて求められた粒度分布の50%値を金属磁性粒子の平均粒径とすることができる。各磁性体層に含まれる樹脂材料としては、例えば、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂、エチルセルロース樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、又はアクリル樹脂が挙げられる。磁性体層11〜磁性体層16、磁性体層18a〜磁性体層18d、及び磁性体層19a〜磁性体層19dに含まれる樹脂は、絶縁性に優れた熱硬化性樹脂を用いることもできる。熱硬化性樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂、高密度ポリエチレン(HDPE)樹脂、ポリオキシメチレン(POM)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリフッ化ビニルデン(PVDF)樹脂、フェノール(Phenolic)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、又はポリベンゾオキサゾール(PBO)樹脂を用いることができる。
【0026】
コイル部品1は、磁性体層11〜磁性体層16、磁性体層18a〜磁性体層18d、及び磁性体層19a〜磁性体層19d以外にも、必要に応じて、任意の数の磁性体層を含むことができる。磁性体層11〜磁性体層16、磁性体層18a〜磁性体層18d、及び磁性体層19a〜磁性体層19dの一部は、適宜省略することができる。
【0027】
磁性体層11〜16の各々には、対応する導体パターンC11〜C16が埋め込まれている。磁性体層11〜16を積層する前の状態では、導体パターンC11〜C16の上面は、それぞれ磁性体層11〜16の上面から露出している。各導体パターンC11〜C16は、コイル軸Axの周りに延伸するように形成される。図示の実施形態において、コイル軸Axは、T軸方向に延伸しており、磁性体層11〜磁性体層16の積層方向と一致する。
【0028】
磁性体層11〜磁性体層15の所定の位置には、ビアV1〜V5がそれぞれ形成される。ビアV1〜V5は、磁性体層11〜15の所定の位置に、当該磁性体層11〜15をT軸方向に貫く貫通孔を形成し、当該貫通孔に金属材料を埋め込むことにより形成される。
【0029】
導体パターンC11〜C16及びビアV1〜V5は、導電性に優れた金属を含むように形成され、例えば、Ag、Pd、Cu、Al、又はこれらの合金から形成される。
【0030】
一実施形態において、外部電極21は、基体10の第1の端面10aに設けられ、外部電極22は、基体10の第2の端面10cに設けられる。外部電極21及び外部電極22は、図示のように、基体10の上面10e、下面10f、第1の側面10b、及び第2の側面10dまで延伸しても良い。この場合、外部電極21は、基体10の第1の端面10aの全体と、上面10e、下面10f、第1の側面10b、及び第2の側面10dの各々の一部を覆うように設けられ、外部電極22は、基体10の第2の端面10cの全体と、上面10e、下面10f、第1の側面10b、及び第2の側面10dの各々の一部を覆うように設けられる。外部電極21及び外部電極22の形状は特に限定されず、適宜変更可能である。例えば、外部電極21は、第1の端面10a及び下面10fの各々の一部を覆うL字形状であってもよいし、下面10fの一部を覆う板状であってもよい。同様に、外部電極22は、第2の端面10c及び下面10fの各々の一部を覆うL字形状であってもよいし、下面10fの一部を覆う板状であってもよい。
【0031】
上記のように、基体10は、複数の金属磁性粒子を含んでいる。
図4を参照して、基体10含まれる金属磁性粒子及びその粒界絶縁層について更に詳細に説明する。
図4は、基体10の断面の一部をTEM(透過型電子顕微鏡)により観察したTEM像の模式図を示す。
図4(a)は、基体10の切断面における領域AにおけるTEM像を示しており、
図4(b)は、領域Aの一部である領域50におけるTEM像を示している。後述するEDSマッピングによる分析のために、領域50は、粒界が視野内に含まれるように選択される。
【0032】
図示のように、領域50には、2つの金属磁性粒子31a、31b及びこれらの2つの金属磁性粒子31a、31bの間にある粒界絶縁層32が含まれている。粒界絶縁層32は、隣り合う2つの金属磁性粒子31a、31bの間に、当該金属磁性粒子31a、31bの双方と接するように設けられている。粒界絶縁層32は、絶縁性に優れた絶縁膜である。本発明の一又は複数の実施形態において、粒界絶縁層32は、コイル部品1の製造過程の熱処理によって金属磁性粒子31を構成する材料が酸化されることで形成された絶縁性に優れた酸化皮膜である。粒界絶縁層32は、厚さHを有する。本発明の一又は複数の実施形態において、粒界絶縁層32の厚さは、10nm以上24nm以下である。粒界絶縁層32の厚さHは、基体10の断面において、当該粒界絶縁層32を挟む隣り合う二つの金属磁性粒子31a、31bの中心同士を結ぶ仮想的な直線Lに沿う方向の寸法を意味してもよい。金属磁性粒子31の中心とは、例えば基体10の断面における金属磁性粒子31の幾何中心である。粒界絶縁層32の厚さHは、金属磁性粒子31と粒界絶縁層32との界面に垂直な方向に沿う粒界絶縁層32の厚さを意味してもよい。
【0033】
本発明の一又は複数の実施形態において、粒界絶縁層32の厚さ方向において、粒界絶縁層32の厚さ方向の中心領域RにおけるFe存在率は、0.24未満である。粒界絶縁層32の厚さ方向は、例えば、直線Lに沿う方向である。本発明の一又は複数の実施形態において、粒界絶縁層32の厚さ方向の中心領域Rは、粒界絶縁層32の厚さ方向における中心Cから粒界絶縁層32の厚さ方向の両側に厚さHの10%の長さだけ拡がる領域をいう。言い換えると、粒界絶縁層32の厚さ方向の中心領域Rは、中心Cを含み金属磁性粒子31a、31bの中心を結ぶ仮想線L上において0.2Hの寸法を有する領域である。Fe存在率とは、粒界絶縁層32の厚さ方向の中心領域RにおけるFe、Si、及びCrの存在量の合計に対するFeの存在量の比率である。すなわち、Fe存在率は、Fe存在量/(Fe存在量+Cr存在量+Si存在量)によって算出される値(ただし、Fe存在量、Cr存在量、及びSi存在量は、粒界絶縁層32の厚さ方向の中心領域におけるFe、Cr、Si元素の存在量をat%で表したもの)である。
【0034】
Feの存在量、Crの存在量、及びSiの存在量は、例えばエネルギー分散型X線分析(EDS:Energy Dispersive X−ray Spectroscopy)分析により求められる。Feの存在量、Crの存在量、及びSiの存在量の具体的な測定方法の例は以下のとおりである。まず、領域50のTEM像においてエネルギー分散型X線分析(EDS)を行ってFe元素、Cr元素、Si元素のマッピングデータをそれぞれ得る。次に、このFe元素、Cr元素、Si元素のマッピングデータを、金属磁性粒子31a、31bの中心を結ぶ仮想線Lに沿って再構築する。この仮想線Lに沿って再構築されたマッピングデータにより、仮想線L上の中心領域RにおけるFe元素、Cr元素、及びSi元素の各々の存在量のラインプロファイルがそれぞれ得られる。ラインプロファイルは、仮想線L上の中心領域Rの各検出位置におけるFe元素、Cr元素、及びSi元素のカウント値のグラフとして表される。Fe元素、Cr元素、及びSi元素のカウント値は、Fe元素、Cr元素、及びSi元素の検出強度を示す。
【0035】
次に、コイル部品1の製造方法の一例を説明する。まず、上部カバー層18となる上部積層体、中間積層体、及び下部カバー層19となる下部積層体を形成する。上部積層体は、磁性体層18a〜18dとなる複数の磁性体シートを積層することによって形成される。同様に、下部積層体は、磁性体層19a〜19dとなる複数の磁性体シートを積層することによって形成される。磁性体シートは、例えば、プラスチック製のベースフィルムの表面に金属磁性体ペーストを塗布して乾燥させ、乾燥後の金属磁性体ペーストを所定のサイズに切断することで得られる。金属磁性体ペーストは、例えば金属磁性粒子31を含む樹脂材料に溶剤を加えて作成される。樹脂材料としては、例えば、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂、エポキシ樹脂等の絶縁性に優れた樹脂材料が用いられ得る。
【0036】
中間積層体は、導体パターン、磁性体層、及び絶縁材を含む複数のシートを積層することによって形成される。それぞれのシートの作成に際しては、まず、ベースフィルム上にグリーンシートを形成する。このとき、当該グリーンシートを積層方向に貫通し、ビアが形成される貫通孔を形成する。次に、スクリーン印刷等によりグリーンシート上に、導電性に優れた金属又は合金から成る導電ペーストをスクリーン印刷法により印刷することにより、焼成後にそれぞれ導体パターンC11〜C16となる未焼成の導体パターンを形成する。この導電ペーストの材料としては、Ag、Pd、Cu、Al又はこれらの合金を用いることができる。導電ペーストは、貫通孔内に埋め込まれ、未焼成のビアとなる。次に、導体パターンC11〜C16となる未焼成導体パターンが形成されたグリーンシートを積層する。このようにして、コイル導体(コイル導体25となる未焼成の導体パターン)と金属磁性体ペーストとを含む中間積層体が形成される。
【0037】
次に、上記のように作成された中間積層体を上下から上部積層体及び下部積層体で挟み込み、この上部積層体及び下部積層体を中間積層体に熱圧着して本体積層体を得る。次に、ダイシング機又はレーザ加工機等切断装置を用いて当該本体積層体を所望のサイズに個片化することで、基体10に相当する成型体が得られる。
【0038】
次に、成型体に以下のように熱処理することで、金属磁性粒子31の表面に、金属磁性粒子31中の元素が酸化した粒界絶縁層32が形成される。成型体を熱処理する工程では、まず窒素雰囲気で成型体を熱処理(第1熱処理)し、次に第1熱処理後の成型体に脱脂処理を行い、次に脱脂処理が行われた成型体に例えば200ppm〜800ppmの濃度の酸素を含む雰囲気で熱処理(第2熱処理)を行う。第1熱処理と脱脂処理とは同時に行われても良い。窒素雰囲気での熱処理は、550℃〜850℃で行われる。このように窒素雰囲気において第一段階目の加熱を行い、その後に酸素を含む雰囲気において第二段階目の加熱を行うことで、第一段階目の加熱において金属磁性粒子31から粒界部へ主にCr及びSiが拡散し、次に第二段階目の加熱においてFeが粒界部へ拡散する。このため、第一段階目の加熱において粒界部においてCr及びSiが濃縮されているため、第二段階目の加熱においてFeの粒界部への拡散が抑制される。この二段階の加熱処理により、金属磁性粒子31の間の粒界部に形成される粒界絶縁層32におけるFeの存在比率を低くすることができる。より具体的には、この二段階の加熱により、粒界絶縁層32におけるFe存在率を0.24未満とすることができる。
【0039】
次に、熱処理された成型体の両端部に外部電極21及び外部電極22を形成する。外部電極21及び外部電極22は、例えばめっき法により形成される。以上の工程により、コイル部品1が得られる。
【0040】
上述したように、本発明は、圧縮成型により作製されるコイル部品にも適用することができる。本発明の一又は複数の実施形態における圧縮成型によるコイル部品の製造方法について説明する。まず、金属磁性粒子と樹脂とを混合して金属磁性体ペーストを作製する。この金属磁性体ペーストは、金属磁性粒子と樹脂との混合物である。金属磁性体ペーストに含まれる金属磁性粒子として、例えばFe、Si、及びCrを含む合金の粒子が用いられ得る。金属磁性粒子の平均粒径は、例えば、1μm〜50μmとされる。金属磁性粒子は、例えば、上述した金属磁性粒子31である。金属磁性体ペーストに含まれる樹脂として、例えば、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂、エポキシ樹脂等の絶縁性に優れた樹脂材料が用いられ得る。
【0041】
次に、成形金型に予め準備したコイル導体を設置し、このコイル導体が設置された成形金型内に上記の金属磁性体ペーストを入れ、成形圧力を加えることで、内部にコイル導体を含む成形体が得られる。この成型体は、コイル導体と、コイル導体を覆う金属磁性体ペーストを含む。
【0042】
次に成型体に以下のように熱処理することで、金属磁性粒子31の表面に、金属磁性粒子31中の元素が酸化した粒界絶縁層32が形成される。成型体を熱処理する工程では、まず窒素雰囲気で成型体を熱処理(第1熱処理)し、次に第1熱処理後の成型体に脱脂処理を行い、次に脱脂処理が行われた成型体に例えば200ppm〜800ppmの濃度の酸素を含む雰囲気で成型体を熱処理(第2熱処理)を行う。第1熱処理と脱脂処理とは同時に行われても良い。窒素雰囲気での熱処理は、550℃〜850℃で行われる。
【0043】
次に、熱処理された成型体の両端部に第1外部電極及び第2外部電極を形成する。第1外部電極及び第2外部電極は、例えばめっき法により形成される。以上の工程により、圧縮成型プロセスにより、本発明の一又は複数の実施形態によるコイル部品が得られる。
【0044】
続いて、本発明の一又は複数の実施形態における巻線型のコイル部品の製造方法について説明する。巻線型のコイル部品は、ドラムコアと、当該ドラムコアの周囲に巻回された導電性材料から成る導線と、当該導線の一端に接続された第1外部電極と、当該導線の他端に接続された第2外部電極と、を備える。導線は、螺旋形状を有する。ドラムコアは、柱状の巻芯と、当該巻芯の両端に設けられた一組のフランジと、を有する。
【0045】
本発明の一又は複数の実施形態における巻線型のコイル部品の製造工程においては、まず、ドラムコアを作製する。ドラムコアを作製するために、まず、金属磁性粒子と樹脂とを混合して金属磁性体ペーストを作製する。この金属磁性体ペーストは、金属磁性粒子と樹脂との混合物である。金属磁性体ペーストに含まれる金属磁性粒子として、例えばFe、Si、及びCrを含む合金の粒子が用いられ得る。金属磁性粒子の平均粒径は、例えば、1μm〜50μmとされる。金属磁性粒子は、例えば、上述した金属磁性粒子31である。金属磁性体ペーストに含まれる樹脂として、例えば、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂、エポキシ樹脂等の絶縁性に優れた樹脂材料が用いられ得る。
【0046】
次に、成形金型内に上記の金属磁性体ペーストを入れ、成形圧力を加えることで、ドラムコアの形状を有する成形体が得られる。
【0047】
次に、成型体に以下のように熱処理することでドラムコアが得られる。ドラムコアの内部では、金属磁性粒子31の表面に、金属磁性粒子31中の元素が酸化した粒界絶縁層32が形成される。成型体を熱処理する工程では、まず窒素雰囲気で成型体を熱処理(第1熱処理)し、次に第1熱処理後の成型体に脱脂処理を行い、次に脱脂処理が行われた成型体に例えば200ppm〜800ppmの濃度の酸素を含む雰囲気で成型体を熱処理(第2熱処理)する。第1熱処理と脱脂処理とは同時に行われても良い。窒素雰囲気での熱処理は、550℃〜850℃で行われる。
【0048】
次に、ドラムコアに、金属材料からなる導線と、第1外部電極と、第2外部電極と、を設ける。導線は、導電性に優れた金属材料から成る。導線用の金属材料としては、例えば、Cu(銅)、Al(アルミニウム)、Ni(ニッケル)及びAg(銀)のうちの1以上の金属又はこれらの金属のいずれかを含む合金が用いられ得る。導線の周囲は、絶縁被膜で被覆されてもよい。導線は、例えば、ドラムコアの巻芯に巻回される。第1外部電極及び第2外部電極は、例えば、ドラムコアのフランジに形成される。以上の工程により、本発明の一又は複数の実施形態による巻線型のコイル部品が得られる。
【0049】
次に、本発明の実施例について説明する。評価対象とする試料を以下のようにして作製した。まず、組成がFe−3.5wt%Si−1.5wt%Crで表される金属磁性粒子を準備した。金属磁性粒子の平均粒径は、約4nmであった。次に、金属磁性粒子をPVB樹脂及び有機溶剤と混合して金属磁性体ペーストとし、この金属磁性体ペーストをプラスチック製のベースフィルムの表面に塗布して乾燥させ、乾燥後の金属磁性体ペーストを50μm〜100μmのシート状に切断することで、磁性体シートを作製した。次に、作製した磁性体シートを積層して6ton/cm
2の圧力で圧着して積層体を作製した。次に、この積層体を打ち抜いて、外径10mm、内径5mmのトロイダルコア状の成型体を作製した。このトロイダルコアに表1に示される条件で熱処理を行うことで試料No.1〜6,8〜12の各試料を作製した。具体的には、上記のようにして作製されたトロイダルコア状の成型体に対して、大気中において350℃で2時間加熱し、その後10〜1200ppmの酸素濃度の雰囲気中において800℃で1時間加熱して試料No.1〜4のトロイダルコアを得た。同様に、トロイダルコア状の成型体に表1に記載された熱処理条件で二段階の加熱を行うことによって、試料No.5〜No.6及びNo.8〜No.12を得た。また、樹脂及び有機溶剤を加えずに上記の金属磁性粒子のみを金型に充填し、6ton/cm
2の圧力で外径10mm、内径5mmのトロイダルコア状に成型すること試料No.7を作製した。
【表1】
【0050】
試料No.1〜12の各々に銅製の巻線を20ターン巻回した。この巻線が巻回された試料No.1〜12の各々について、Agillent Technologies社製のAgillent 4294を用いて、100kHzの周波数における透磁率を測定した。
【0051】
試料No.1〜12の各々に銀電極を形成した。この銀電極が形成された試料No.1〜12の各々について抵抗計を用いて比抵抗を測定した。
【0052】
試料No.1〜12の各々を切断して断面を露出させ、この断面のうち
図4(b)に例示されているように2つの金属磁性粒子を含む領域のTEM像を得た。このTEM像において、各試料の粒界酸化層の厚みを測定した。粒界酸化層の厚みは、隣接する金属磁性粒子31の中心を結ぶ仮想線に沿う方向における当該粒界酸化層の寸法を意味する。粒界酸化層の厚みの測定は、市販の画像処理ソフトを用いて行った。また、このTEM像において、粒界絶縁層32の中心領域RにEDSを行って、この中心領域RおけるFe元素、Si元素、及びCr元素の各々の存在量をEDSにより算出した。EDSによる各元素の存在量の測定は、日本電子製の原子分解能分析電子顕微鏡JEM−ARM200Fを使用し、加速電圧は200kVに設定して行った。そして、EDSにより測定されたFe元素、Si元素、及びCr元素の各々の存在量を用いてFe存在率を算出した。
【0053】
上記のようにして測定又は算出された試料No.1〜12の各々の粒界酸化層の厚み、Fe存在率、透磁率、比抵抗を示す。また、表2に基づいて、粒界絶縁層の厚さと透磁率との関係を示すグラフ、粒界絶縁層の厚さと基体の比抵抗との関係を示すグラフ、及び基体の比抵抗とFe存在率との関係を示すグラフを作成し、それぞれ
図5〜
図7に示す。
【表2】
【0054】
表2及び
図5から、試料No.7〜No.12では、粒界絶縁層の厚さが10nm〜24nmの範囲内で薄く形成されており、透磁率40.0以上が実現されていることが分かる。試料No.6の一部の金属磁性粒子については、隣接する他の金属磁性粒子と粒界絶縁層を介さずに直接結合していた。このため、渦電流損失が大きく、100kHzでの透磁率がほぼ1となった。このため、
図5のグラフには、試料No.6の測定結果はプロットしていない。
図5から、隣接する金属磁性粒子間の距離が小さくなるほど(つまり、粒界絶縁層の厚みが小さくなるほど)、透磁率が高くなることが分かる。これは、磁性粒子間の距離が狭くなることで反磁界が減少することが主な要因と考えられる。
【0055】
表2及び
図6から、試料No.1〜No.6に関しては、粒界絶縁層の厚みが小さくなるほど比抵抗が小さくなることが確認できた。試料No.6については、上記のとおり、一部の金属磁性粒子が隣接する他の金属磁性粒子と粒界絶縁層を介さずに直接結合しているため、比抵抗著しく小さくなった。このため、
図6のグラフにおいて、試料No.6のプロットは省略した。試料No.7は、熱処理を行っていないため、金属磁性粒子の表面の粒界絶縁層の厚さが著しく薄く、このため他の試料と比べて比抵抗も著しく小さくなっている。試料No.8〜No.12はいずれも、めっき伸び不良に起因するショート不良を抑制することができる10
6Ω・cm以上の比抵抗を有することが分かった。
【0056】
以上のとおり、概ね粒界絶縁層の厚みと比抵抗との間には正の相関が見られるものの、試料No.1と試料No.11及び試料No.12とを比較すると、粒界絶縁層の厚みはほとんど同じであるにもかかわらず、試料No.1の比抵抗はめっき伸び不良に起因するショート不良を抑制するための比抵抗の基準である10
6Ω・cmを下回っている一方で、試料No.11及び試料No.12の比抵抗はいずれも10
6Ω・cmを上回っている。この違いに関して、本発明者は、粒界絶縁層におけるFe存在率fに着目した。検討の結果、
図7に示されているように、粒界絶縁層におけるFe存在率fが小さい場合に、比抵抗の値がめっき伸び不良に起因するショート不良を抑制することができる10
6Ω・cmよりも大きくなることが分かった。これは、粒界絶縁層におけるFe存在率fが小さい場合には、粒界絶縁層32において導電性を有するFe
3O
4(マグネタイト)の存在量が低減されているためと考えられる。
【0057】
以上の結果から、Fe存在率fが0.24未満である試料No.8〜No.12については、粒界絶縁層の厚みが24nm以下の薄さであっても、めっき伸び不良に起因するショート不良を抑制することができる10
6Ω・cmよりも大きい比抵抗を確保できることが分かった。また、試料No.8〜No.12については、粒界絶縁層の厚みが薄いことから、コイル部品の特性として期待される40以上の透磁率を有することが分かった。
【0058】
以上説明したように、本発明の一実施形態に係るコイル部品1の基体10は、2つの金属磁性粒子31の間に形成された粒界絶縁層32を含み、粒界絶縁層32の厚さ方向の中心領域Rにおいて、Fe、Si、及びCrの存在量の合計に対するFeの存在量の比率(すなわち、Fe存在比率)は0.24未満である。このように、粒界絶縁層32の中心におけるFe存在比率を0.24未満とすることにより、粒界絶縁層32の比抵抗を高めることができる。したがって、基体10の絶縁性を保ちつつ、粒界絶縁層32の厚さHを薄くすることができる。すなわち、コイル部品1においては、基体10の絶縁性を保ちつつ、高い透磁率を実現することができる。特に、粒界絶縁層32の中心におけるFe存在比率を0.24未満とすることにより、めっき伸び不良に起因するショート不良を抑制することができる10
6Ω・cmよりも大きな比抵抗を実現することができる。
【0059】
本発明の一又は複数の実施形態に係るコイル部品の製造方法は、成型体を熱処理する際に、550℃〜850℃の窒素雰囲気で成型体を熱処理した後、酸素を含む雰囲気で成型体を熱処理する。このように、酸素を含む雰囲気で熱処理を行う前に窒素雰囲気で成型体を熱処理することにより、窒素雰囲気での熱処理の段階で金属磁性粒31に含まれるCrやSiが粒界絶縁層32内に拡散され、酸素を含む雰囲気での熱処理の際のFeの粒界絶縁層32への拡散を抑制することができる。これにより、粒界絶縁層32において導電性を有するFe
3O
4(マグネタイト)の存在量を低減することができ、粒界絶縁層32の比抵抗を高くすることができる。特に、粒界絶縁層32の中心領域Rにおいては、Fe存在率fを0.24未満とすることができるので、粒界絶縁層32の比抵抗を高めることができる。したがって、基体10の絶縁性を保ちつつ、粒界絶縁層32の厚さHを薄くすることができる。よって、基体10の絶縁性を保ちつつ高い透磁率を有するコイル部品1を製造することができる。
【0060】
前述の様々な実施形態で説明された各構成要素の寸法、材料及び配置は、それぞれ、各実施形態で明示的に説明されたものに限定されず、当該各構成要素は、本発明の範囲に含まれ得る任意の寸法、材料及び配置を有するように変形することができる。また、本明細書において明示的に説明していない構成要素を、上述の各実施形態に付加することもできるし、各実施形態において説明した構成要素の一部を省略することもできる。