【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための第1の手段は、細胞培養システムであって、
培養液を貯留する気密性のタンクと、
気体の供給源と、
前記供給源と前記タンクとを接続している第1配管と、
前記タンクと前記気体の排出部とを接続している第2配管と、
前記第1配管に設けられ、前記供給源から供給される前記気体の流量を調節する流量調節部と、
前記第2配管に設けられ、前記排出部へ排出される前記気体の流量を制限する絞り部と、
前記培養液と細胞とを収納する培養槽と、
前記タンクに貯留された前記培養液の中と前記培養槽とを接続している送液配管と、
前記タンクから前記送液配管を介して前記培養液を前記培養槽へ送液する際に、前記タンクの内部の圧力を平衡させた状態における前記供給源から供給される前記気体の流量と前記タンクの内部の圧力との所定の相関関係に基づいて、前記タンクの内部の目標圧力に対応する目標流量の前記気体が供給されるように前記流量調節部を制御した状態で前記タンクの内部の圧力を平衡させる制御部と、
を備える。
【0007】
上記構成によれば、気密性のタンクは培養液を貯留する。第1配管は、気体の供給源とタンクとを接続している。第2配管は、タンクと気体の排出部とを接続している。流量調節部は、第1配管に設けられ、気体の供給源から供給される気体の流量を調節する。絞り部は、第2配管に設けられ、排出部へ排出される気体の流量を制限する。このため、流量調節部により気体の供給源から供給される気体の流量を調節し、絞り部により排出部へ排出される気体の流量を制限することにより、気密性のタンクの内部の圧力を制御することができる。そして、培養槽は、培養液と細胞とを収納する。送液配管は、タンクに貯留された培養液の中と培養槽とを接続している。このため、タンクに気体を供給してタンクの内部の圧力を上昇させることにより、タンクから送液配管を介して培養液を培養槽の細胞へ送液することができる。
【0008】
ここで、制御部は、タンクから送液配管を介して培養液を培養槽へ送液する際に、タンクの内部の圧力を平衡させた状態における供給源から供給される気体の流量とタンクの内部の圧力との所定の相関関係に基づいて、タンクの内部の目標圧力に対応する目標流量の気体が供給されるように流量調節部を制御した状態でタンクの内部の圧力を平衡させる。このため、タンクの内部の圧力を目標圧力に平衡させた状態で培養液を培養槽へ送液することができ、目標流量の培養液を送液する場合と比較して、より生体に近い状態で培養液を培養槽の細胞へ送液することができる。さらに、タンクの内部の圧力を平衡させた状態では、後述するように、タンクの内部の圧力と供給源から供給される気体の流量とは、温度の影響が小さい相関関係を有している。したがって、培養液の送液状態が周囲温度による外乱の影響を受けることを抑制することができる。
【0009】
第2の手段は、細胞培養システムであって、
培養液を貯留する気密性のタンクと、
気体の供給源と、
前記供給源と前記タンクとを接続している第1配管と、
前記タンクと前記気体の排出部とを接続している第2配管と、
前記第1配管に設けられ、前記供給源から供給される前記気体の流量を調節する流量調節部と、
前記第2配管に設けられ、前記排出部へ排出される前記気体の流量を制限する絞り部と、
前記培養液と細胞とを収納する培養槽と、
前記タンクに貯留された前記培養液の中と前記培養槽とを接続している送液配管と、
前記タンクの内部の圧力を平衡させた状態における前記供給源から供給される前記気体の流量と前記タンクの内部の圧力との所定の相関関係に基づいて、前記タンクの内部の目標圧力に対応する目標流量の前記気体が供給されるように前記流量調節部を制御した状態で前記タンクの内部の圧力を平衡させて、前記タンクから前記送液配管を介して前記培養液を前記培養槽へ送液させる制御部と、
を備える。
【0010】
上記構成によっても、タンクの内部の圧力を目標圧力に平衡させた状態で培養液を培養槽へ送液することができ、目標流量の培養液を送液する場合と比較して、より生体に近い状態で培養液を培養槽の細胞へ送液することができる。さらに、培養液の送液状態が周囲温度による外乱の影響を受けることを抑制することができる。
【0011】
一般に、Pv≦1.89Paである亜音速の圧力条件では、以下の式(1)が成立する。
【0012】
Qr=226.4S√{Pa(Pv−Pa)}・√(273/T) ・・・(1)
上記式(1)において、Qr[L/min]は排出部へ排出される気体の流量、S[mm^2]は絞り部の有効断面積、Pa[MPaA]は大気の絶対圧力、Pv[MPaA]はタンクの内部の絶対圧力、T[K]は気体の絶対温度である。なお、「mm^2」は「mm」の2乗を表す。ここで、気体の絶対温度T[K]は、通常の環境において298[K]程度であり、その場合に√(273/T)=0.957となり、略1としても影響は小さい。また、気体の供給源から供給される気体の流量をQ1[L/min]として、タンクの内部の圧力を平衡させた状態では、Qr=Q1となる。このため、√(273/T)=1、Qr=Q1として、式(1)から以下の式(2)を導くことができる。
【0013】
Q1=226.4S√{Pa(Pv−Pa)} ・・・(2)
そこで、第2の手段のように、前記供給源から供給される前記気体の流量をQ1[L/min]とし、前記絞り部の有効断面積をS[mm^2]とし、大気圧をPa[MPaA]とし、前記タンクの内部の圧力をPv[MPaA]として、前記所定の相関関係は、Q1=226.4S√{Pa(Pv−Pa)}である、といった構成を採用することができる。
【0014】
上記構成によれば、タンクの内部の圧力Pv[MPaA]に目標圧力を当てはめることにより、気体の供給源から供給される気体の流量Q1[L/min]としての目標流量を、容易に算出することができる。さらに、タンクの内部の圧力Pv[MPaA]と供給源から供給される気体の流量Q1[L/min]とは、温度の影響を受けにくく、式(2)の相関関係を有している。したがって、培養液の送液状態が周囲温度による外乱の影響を受けることを抑制することができる。
【0015】
気体の供給源から気体を供給し始めてから、タンクの内部の圧力を平衡させるまでの時間は、タンクの容積が大きいほど、絞り部の有効断面積が大きいほど、タンクの内部の目標圧力が高いほど、長くなる。この点、血管を有する組織培養等では、10[mmHg]以下の微圧で培養槽へ培養液を送液する必要があるため、タンクの内部の目標圧力を非常に低く設定することができる。なお、圧力の単位において、絶対圧力と表記しない場合は、ゲージ圧力を表すものとする。
【0016】
したがって、第4の手段のように、前記目標圧力は、10[mmHg]以下であり、前記供給源から前記気体を供給し始めてから、前記タンクの内部の圧力を平衡させるまでの時間は、5[S]以下である、といった構成を採用することができる。こうした構成によれば、5[S]以下の短時間でタンクの内部の圧力を平衡させることができ、培養液を目標圧力で速やかに培養槽へ送液することができる。なお、目標圧力が10[mmHg]以下であれば、気体の供給源から気体を供給し始めてから、タンクの内部の圧力を平衡させるまでの時間を、3[S]以下や、1[S]以下にすることもできる。
【0017】
第5の手段では、複数の前記タンクと、複数の前記培養槽と、複数の前記送液配管と、気密性のバッファタンクと、各タンクと前記バッファタンクとを接続する第3配管と、を備え、前記第1配管は、前記バッファタンク及び各第3配管を介して前記供給源と各タンクとを接続している。
【0018】
上記構成によれば、細胞培養システムは、複数の培養液のタンクと、複数の培養槽と、複数の送液配管と、を備えている。そして、第1配管は、気密性のバッファタンク及び各第3配管を介して、気体の供給源と各タンクとを接続している。このため、バッファタンクに気体を供給して、バッファタンクの内部の圧力を制御することにより、複数のタンクの内部の圧力を等しい目標圧力に制御することができる。したがって、複数のタンクから複数の培養槽へ、等しい目標圧力で培養液を容易に送液することができる。
【0019】
供給源から供給される気体が乾燥していると、タンク内の培養液の蒸発を助長するおそれがある。
【0020】
この点、第6の手段では、前記バッファタンクは水を貯留し、前記水を加熱するヒータを備える。したがって、バッファタンクの内部において、気体に水分を加える(加湿する)ことができ、タンク内の培養液の蒸発を抑制することができる。さらに、複数のタンクへ供給される気体に、バッファタンクにおいてまとめて水分を加えることができる。
【0021】
第7の手段では、水を貯留する気密性のバッファタンクと、前記タンクと前記バッファタンクとを接続する第3配管と、前記水を加熱するヒータと、を備え、前記第1配管は、前記バッファタンク及び前記第3配管を介して前記供給源と前記タンクとを接続している。
【0022】
上記構成によっても、バッファタンクの内部において、気体に水分を加えることができ、タンク内の培養液の蒸発を抑制することができる。
【0023】
第8の手段では、前記培養液を圧送するポンプと、前記タンクと前記ポンプとを接続している供給配管と、前記供給配管に設けられ、前記ポンプから前記タンクへの前記培養液の流通を許容し、前記タンクから前記ポンプへの前記培養液の流通を禁止する逆止弁と、を備え、前記供給配管は、前記タンクにおいて前記培養液の液面よりも低く、且つ前記送液配管の下端よりも高い位置に接続されている。
【0024】
上記構成によれば、細胞培養システムは、培養液を圧送するポンプと、タンクとポンプとを接続している供給配管とを備えている。このため、供給配管を介して、タンクに培養液を補充することができる。そして、供給配管は、タンクにおいて培養液の液面よりも低く、且つ送液配管の下端よりも高い位置に接続されている。このため、供給配管がタンクにおいて培養液の液面よりも高い位置に接続されている場合と比較して、培養液が液面に落下して気泡が発生することを抑制することができる。また、供給配管がタンクにおいて送液配管の下端よりも低い位置に接続されている場合と比較して、培養液に混入した気泡が送液配管に取り込まれることを抑制することができる。さらに、ポンプからタンクへの培養液の流通を許容し、タンクからポンプへの培養液の流通を禁止する逆止弁が、供給配管に設けられている。したがって、供給配管がタンクにおいて培養液の液面よりも低い位置に接続されることで供給配管に培養液の圧力がかかっても、タンクからポンプへ培養液が逆流することを抑制することができる。
【0025】
第9の手段は、細胞培養方法であって、
培養液を貯留する気密性のタンクと、
気体の供給源と、
前記供給源と前記タンクとを接続している第1配管と、
前記タンクと前記気体の排出部とを接続している第2配管と、
前記第1配管に設けられ、前記供給源から供給される前記気体の流量を調節する流量調節部と、
前記第2配管に設けられ、前記排出部へ排出される前記気体の流量を制限する絞り部と、
前記培養液と細胞とを収納する培養槽と、
前記タンクに貯留された前記培養液の中と前記培養槽とを接続している送液配管と、
前記流量調節部を制御する制御部と、
を備える細胞培養システムによる細胞培養方法であって、
前記制御部は、前記タンクから前記送液配管を介して前記培養液を前記培養槽へ送液する際に、前記タンクの内部の圧力を平衡させた状態における前記供給源から供給される前記気体の流量と前記タンクの内部の圧力との所定の相関関係に基づいて、前記タンクの内部の目標圧力に対応する目標流量の前記気体が供給されるように前記流量調節部を制御した状態で前記タンクの内部の圧力を平衡させる。
【0026】
第10の手段は、細胞培養方法であって、
培養液を貯留する気密性のタンクと、
気体の供給源と、
前記供給源と前記タンクとを接続している第1配管と、
前記タンクと前記気体の排出部とを接続している第2配管と、
前記第1配管に設けられ、前記供給源から供給される前記気体の流量を調節する流量調節部と、
前記第2配管に設けられ、前記排出部へ排出される前記気体の流量を制限する絞り部と、
前記培養液と細胞とを収納する培養槽と、
前記タンクに貯留された前記培養液の中と前記培養槽とを接続している送液配管と、
前記流量調節部を制御する制御部と、
を備える細胞培養システムによる細胞培養方法であって、
前記制御部は、前記タンクの内部の圧力を平衡させた状態における前記供給源から供給される前記気体の流量と前記タンクの内部の圧力との所定の相関関係に基づいて、前記タンクの内部の目標圧力に対応する目標流量の前記気体が供給されるように前記流量調節部を制御した状態で前記タンクの内部の圧力を平衡させて、前記タンクから前記送液配管を介して前記培養液を前記培養槽へ送液させる。
【0027】
上記方法によれば、第1,第2の手段と同様の作用効果を奏することができる。