【解決手段】羊膜由来幹細胞の維持培地は、形質転換増殖因子β阻害剤を含む。前記形質転換増殖因子β阻害剤がSB−431542であってもよい。羊膜由来幹細胞の維持培地用サプリメントは、形質転換増殖因子β阻害剤を備える。羊膜由来幹細胞の維持培養方法は、羊膜由来幹細胞を、前記維持培地を用いて培養する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞は、再生医療への応用を目的として、近年、活発に研究開発が進められている。幹細胞としては、胚性幹細胞(ES細胞)やiPS細胞等の全能性を有するものや、骨髄や脂肪組織から採取される間葉系成体幹細胞(体性幹細胞ともいう)が挙げられる。しかしながら、これらの幹細胞には、臨床応用の観点から、それぞれ越えるべき課題が存在する。受精卵から作製されるES細胞には、倫理的な問題があり、iPS細胞についても未だ安全性や作製方法の検討が続いており、安価に量産できる状況ではない。さらにこれらの全能性を有する細胞を培養し、臨床で求められる機能を有する細胞に分化させる方法は未だ確立されていない。一方、体性幹細胞のうちいくつかについてはすでに臨床応用が行われているが、組織あたりの絶対量が少ないため、少量の細胞で治療可能な疾患にしか適用できず、大量の細胞が必要な場合には、治療に先立って長期の継代培養が必要となる。また、体性幹細胞は通常分化することができる細胞の種類が限定されている。
【0003】
発明者らは、これらの課題を解決できる幹細胞として、新生児組織である胎盤、その中でも羊膜由来の幹細胞に着目し、ヒト胎盤から分離された羊膜上皮細胞が幹細胞様の多分化能を有することを明らかにしている(例えば、非特許文献1参照)。
羊膜由来幹細胞は、本来医療廃棄物である胎盤から分離できることからES細胞で問題となる倫理的な問題がない。また、一つの胎盤から比較的簡単且つ大量に分離できることから、間葉系成体幹細胞のような量的問題もないと考えられる。さらに、新生児の細胞であることから、加齢や環境によるDNA損傷も少なく、iPS細胞のような人工的な遺伝子改変による発がんリスクもない。また、採取が容易であるため、細胞バンクを構築すれば、臨床応用の際にそれぞれの患者と免疫型の一致した細胞を供給することも可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、羊膜由来幹細胞は、分離抽出後の培養時に上皮間葉転換(Epithelial−Mesenchymal Transition;EMT)により中胚葉への自発的な分化が進み、外胚葉系幹細胞としての特性を保持したまま培養増殖することができない。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、上皮間葉転換の進行を阻害できる羊膜由来幹細胞の維持培地、維持培地用サプリメント及び維持培養方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
(1) 形質転換増殖因子β阻害剤を含む、羊膜由来幹細胞の維持培地。
(2) 前記形質転換増殖因子β阻害剤がSB−431542である、(1)に記載の維持培地。
(3) 前記羊膜由来幹細胞がヒト由来である、(1)又は(2)に記載の維持培地。
(4) 形質転換増殖因子β阻害剤を備える、羊膜由来幹細胞の維持培地用サプリメント。
(5) 前記形質転換増殖因子β阻害剤がSB−431542である、(4)に記載の維持培地用サプリメント。
(6) 前記羊膜由来幹細胞がヒト由来である、(4)又は(5)に記載の維持培地用サプリメント。
(7) 羊膜由来幹細胞を、(1)〜(3)のいずれか一つに記載の維持培地を用いて培養する、羊膜由来幹細胞の維持培養方法。
【発明の効果】
【0008】
上記態様の羊膜由来幹細胞の維持培地、維持培地用サプリメント及び維持培養方法によれば、上皮間葉転換の進行を阻害できる羊膜由来幹細胞の維持培地、維持培地用サプリメント及び維持培養方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<羊膜>
羊膜は、胎盤の最内層を覆う膜状組織であり、羊水を介して胎児を包んでいる。羊膜は、羊水に接する単層の上皮細胞(羊膜上皮細胞)と、その下にラミニンやタイプIVコラーゲンよりなる基底膜と、さらにその下に間葉系細胞が点在する間質層と、からなる。発生学的には、胚盤胞における内部細胞塊が、胚盤葉上層及び下層に分かれた後、上層がさらに外胚葉、中胚葉及び内胚葉の三胚葉と、羊膜上皮細胞の元となる羊膜芽細胞とに分かれ、発生する。また、間葉系細胞は中胚葉のうち、胚外壁側中胚葉より形成される。このように羊膜及び羊膜を構成する細胞は、胚性幹細胞が分化した組織に由来しており、胎児由来の組織である。そのため、羊膜由来の幹細胞は、胚性幹細胞と同等の全能性(多分化能)が保持されている。
【0011】
<羊膜由来幹細胞>
羊膜由来幹細胞としては、例えば、羊膜上皮由来幹細胞、羊膜間葉系幹細胞等が挙げられる。本実施形態の維持培地、サプリメント及び維持培養方法の適用対象となる幹細胞としては、羊膜上皮由来幹細胞が好ましい。上述したように、羊膜の間質層や胎盤の他の組織は栄養外胚葉や胚盤葉下層由来の細胞からなる。これに対して、羊膜上皮由来幹細胞は、胎児の生体を構成する細胞と同様に胚盤葉上層(エピブラスト)から発生するため、外胚葉、中胚葉及び内胚葉の三胚葉いずれにも分化し得る多分化能が保持されている。羊膜上皮由来幹細胞は、参考文献1(Miki T, et al., “Isolation of amniotic epithelial stem cells.”, Curr Protoc Stem Cell Biol., 2010; Chapter 1:Unit 1E 3.)に記載の方法等、公知の方法を用いて胎盤から単離することで得られる。
【0012】
<羊膜由来幹細胞の維持培地>
本実施形態の羊膜由来幹細胞の維持培地(以下、単に「本実施形態の維持培地」と称する場合がある)は、形質転換増殖因子β(TGFβ)阻害剤を含む。
【0013】
発明者らは、上皮間葉転換(EMT)がTGFβファミリーに属する各種因子によって誘導されることに着目し、TGFβによるシグナル伝達を阻害する作用を有するTGFβ阻害剤を用いて、羊膜由来幹細胞を培養することで、EMTの進行を阻害できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0014】
本実施形態の維持培地によれば、羊膜由来幹細胞におけるEMTの進行を阻害し、羊膜由来幹細胞の分化能を安定的に保持させながら継代維持することができる。
【0015】
[TGFβ阻害剤]
TGFβ阻害剤としては、TGFβによるシグナル伝達を阻害する作用を有するものであればよく、例えば、A83−01(CAS番号:909910−43−6)、SB−431542(CAS番号:301836−41−9)、SB−505124(CAS番号:694433−59−5)、SB−525334(CAS番号:356559−20−1)、LY364947(CAS番号:396129−53−6)、SD−208(CAS番号:627536−09−8)、SJN2511(CAS番号:446859−33−2)等が挙げられる。これらTGFβ阻害剤を1種単独で含んでもよく、2種以上組み合わせて含んでもよい。中でも、SB−431542が好ましい。
【0016】
TGFβ阻害剤(好ましくは、SB−431542)の含有量の下限値は、維持培地の総容量に対して、0.1μMが好ましく、0.5μMがより好ましく、1μMがさらに好ましく、10μMが特に好ましい。一方、TGFβ阻害剤(好ましくは、SB−431542)の含有量の上限値は、維持培地の総容量に対して、100μMが好ましく、50μMがより好ましく、40μMがさらに好ましく、20μMが特に好ましい。すなわち、TGFβ阻害剤(好ましくは、SB−431542)の含有量は、維持培地の総容量に対して、0.1μM以上100μM以下が好ましく、0.5μM以上50μM以下がより好ましく、1μM以上40μM以下がさらに好ましく、10μM以上20μMが特に好ましい。TGFβ阻害剤(好ましくは、SB−431542)の含有量が上記下限値以上であることで、TGFβシグナルをより効果的に阻害し、EMTの進行をより効果的に阻害し、多分化能を保持することができる。また、羊膜由来幹細胞の増殖をより効果的に促進することができる。一方、上記上限値以下であることで、細胞毒性をより効果的に抑えることができる。
【0017】
[成長因子]
本実施形態の維持培地は、成長因子を含んでいてもよく、含まなくてもよいが、少なからずEMTの進行を促す作用を有することから、成長因子を実質的に含まない態様とすることもできる。ここでいう「成長因子を実質的に含まない」とは、維持培地が成長因子を全く含まない(維持培地の総容量に対して0ng/mL)、又は、EMTの進行を促さない程度の極微量、例えば、維持培地の総容量に対して10ng/mL以下(好ましくは5ng/mL以下、より好ましくは1ng/mL以下)の濃度しか含まないことを意味する。また、成長因子の濃度とは、2種以上の成長因子を含む場合にはその合計濃度を意味する。
【0018】
成長因子としては、例えば、上皮成長因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝細胞増殖因子(HGF)等が挙げられる。中でも、本実施形態の維持培地は、EGFを実質的に含まない態様とすることができる。
【0019】
[基本培地]
本実施形態の維持培地は、基本培地に上述した各成分を添加して調製することができる。基本培地としては、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、基礎培地(MEM)、ノックアウト−DMEM(KO−DMEM)、グラスゴー基本培地(G−MEM)、イーグル基礎培地(BME)、DMEM/ハムF12、Advanced DMEM/ハムF12(Advanced DMEM/F12)、イスコフ改変ダルベッコ培地、ハムF−10、ハムF−12、199培地、RPMI1640培地等を用いることができ、これらに限定されない。
【0020】
好ましい基本培地としては、ウシ胎児血清(FBS)、非必須アミノ酸、L−グルタミン、2−メルカプトエタノール及びペニシリン/ストレプトマイシンが添加された、D−グルコース濃度が3000mg/L以上5000mg/L以下(好ましくは、4500mg/L)程度の高濃度であるDMEM等が挙げられる。D−グルコース以外の各成分の含有量は、技術常識に基づいて当業者であれば適宜設定することができる。
【0021】
<羊膜由来幹細胞の維持培地用サプリメント>
本実施形態の羊膜由来幹細胞の維持培地用サプリメント(以下、単に「本実施形態のサプリメント」と称する場合がある)は、TGFβ阻害剤を備える。
【0022】
本実施形態のサプリメントは、各種幹細胞培養用の基本培地に添加して用いることができ、羊膜由来幹細胞におけるEMTの進行を阻害し、羊膜由来幹細胞の分化能を安定的に保持させながら継代維持することができる。なお、ここでいう基本培地としては、上記「維持培地」において例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0023】
TGFβ阻害剤としては、上記「維持培地」において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、SB−431542が好ましい。
【0024】
本実施形態の維持培地用サプリメントは、成長因子を含んでいてもよく、含まなくてもよいが、少なからずEMTの進行を促す作用を有することから、成長因子を含まない態様とすることもできる。
【0025】
成長因子としては、上記「維持培地」において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、本実施形態の維持培地用サプリメントは、EGFを含まない態様とすることができる。
【0026】
本実施形態の維持培地用サプリメントは、基本培地と共に、羊膜由来幹細胞の維持培養用キットとすることもできる。
すなわち、一実施形態において、本発明は、容器に収容された上記維持培地用サプリメントと、容器に収容された上記基本培地と、を備える、羊膜由来幹細胞の維持培養用キットを提供する。
【0027】
本実施形態のキットによれば、キットに含まれる基本培地に、含有量が上記範囲内となるようにTGFβ阻害剤等の各種成分を添加することで、羊膜由来幹細胞の維持培地として用いることができる。
【0028】
基本培地としては、上記「維持培地」において例示されたものと同様のものが挙げられる。また、本実施形態のキットは、上記「維持培地」において例示された基本培地に含まれる各種成分を粉末状又は液体状の形態で備えることもできる。
【0029】
<羊膜由来幹細胞の維持培養方法>
本実施形態の羊膜由来幹細胞の維持培養方法(以下、単に「本実施形態の維持培養方法」と称する場合がある)は、羊膜由来幹細胞を、上記維持培地を用いて培養することを含む、方法である。
【0030】
本実施形態の維持培養方法によれば、羊膜由来幹細胞におけるEMTの進行を阻害し、羊膜由来幹細胞の分化能を安定的に保持させながら継代維持することができる。
【0031】
培養条件としては、動物細胞の培養において一般に採用されている条件とすることができる。例えば30℃以上40℃以下程度(好ましくは、37℃程度)の温度、5%程度のCO
2濃度条件下で行なうことができる。
【0032】
培養時間は細胞数や細胞の状態等に応じて、適宜調整することができる。
従来の幹細胞用の培地を用いた培養方法では、羊膜由来幹細胞の分化能を安定的に保持させながら維持培養することができない。これに対して、本実施形態の維持培養方法では、例えば、1週間以上、3ヶ月以上の長期間においても、羊膜由来幹細胞の分化能を安定的に保持させながら維持培養することができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
[実施例1]
1.ヒト羊膜上皮由来幹細胞の分離
ヒト羊膜上皮由来幹細胞は、参考文献1(Miki T, et al. Isolation of amniotic epithelial stem cells. Curr Protoc Stem Cell Biol. 2010;Chapter 1:Unit 1E 3.)に記載の方法を用いて単離した。
具体的には、以下に示す手順で単離した。発明者らが所属する日本大学医学部附属板橋病院の、産婦人科に入院中の健常妊産婦を対象として胎盤試料を収集した。医学部倫理委員会の承認のもと、患者に書面で同意を得た上で、予定帝王切開手術の際に摘出された胎盤を収集した。絨毛膜層から羊膜を剥がし、十分に洗浄した。羊膜片は0.25w/v%トリプシン溶液及び0.05w/v%トリプシン溶液を用いて二度トリプシン処理をした。得られた細胞調整物はハンクス平衡塩溶液(HBSS)で洗浄し、100μmフィルターでろ過した。羊膜湿潤組織1gあたり10
7個程度の羊膜上皮由来幹細胞を得た。得られた羊膜上皮由来幹細胞は使用するまで凍結保存した。
【0035】
2.ヒト羊膜上皮由来幹細胞の培養
次いで、「1.」で単離したヒト羊膜上皮由来幹細胞を解凍し、12ウェルプレートに5×10
5細胞/ウェル播種して、37℃、5%CO
2環境下で1日間又は7日間培養した。培地としては、10質量%ウシ胎児血清(FBS)、各100μM(1質量%) 非必須アミノ酸、2mM L−グルタミン、55μM 2−メルカプトエタノール、120units/mL(1質量%) ペニシリン、及び100μg/mL(1質量%) ストレプトマイシンを含むダルベッコ改変イーグル高グルコース(4.5g/L)培地(DMEM high glucose)に、終濃度10μMとなるように、TGFβ阻害剤であるSB−431542を添加した培地を用いた(以下、当該培地で培養した細胞群を「SB−431542群」と称する場合がある)。また、対照1として、SB−431542を添加していない培地で培養したもの(以下、当該培地で培養した細胞群を「ネガティブコントロール(NC)群」と称する場合がある)を、対照2として、SB−431542の代わりにTGFβ(終濃度:10ng/mL)を添加した培地で培養したもの(以下、当該培地で培養した細胞群を「TGFβ群」と称する場合がある)を準備した。培地交換は、2〜3日に1回の頻度で行った。
【0036】
3.幹細胞マーカーの発現の確認
1日間又は7日間の培養後、各細胞群を回収し、全RNAを抽出した。対照として、培養開始直後の細胞についても回収し、全RNAを抽出した。次いで、間葉系組織由来幹細胞マーカーであるN−cadherin及び胚性幹細胞マーカーであるNANOGそれぞれに特異的なプライマーセットを用いて、QuantStudio(登録商標)3リアルタイムPCRシステム(Thermo Fisher Scientific社製)でRT−PCRを行った。逆転写酵素としては、iScript(BioRad社製)、qPCR試薬としては、iQ SYBR(登録商標) Green Supermix(BioRad社製)を用いた。結果を
図1(N−cadherin)及び
図2(NANOG)に示す。
図1及び
図2における各遺伝子の発現量は、培養開始直後の細胞での各遺伝子の発現量に対する相対量で表されている。
【0037】
図1及び
図2に示すように、TGFβ群では、7日間の培養で、N−cadherinの発現の上昇が観察されたが、NANOGの発現はほとんど上昇しなかった。このことから、TGFβ群では、EMTが進行し中胚葉への分化が進んだものと推察された。一方で、SB−431542群では、培養7日後においても、N−cadherinの発現の上昇がみられず、一方でNANOGの発現の顕著な上昇がみられた。このことから、SB−431542の添加によって、EMTの進行が阻害され、幹細胞の多分化能が保持されたことが明らかとなった。
【0038】
[実施例2]
1.ヒト羊膜上皮由来幹細胞の培養
実施例1の「1.」で単離したヒト羊膜上皮由来幹細胞を解凍し、12ウェルプレートに5×10
5細胞/ウェル播種して、37℃、5%CO
2環境下で7日間培養した。培地としては、10質量%ウシ胎児血清(FBS)、各100μM(1質量%) 非必須アミノ酸、2mM L−グルタミン、55μM 2−メルカプトエタノール、120units/mL(1質量%) ペニシリン、及び100μg/mL(1質量%) ストレプトマイシンを含むDMEM(high glucose)に、終濃度0、1、10、又は100μMとなるように、TGFβ阻害剤であるSB−431542を添加した培地を用いた。培地交換は、2〜3日に1回の頻度で行った。
【0039】
2.幹細胞マーカーの発現の確認
培養後の各細胞群を回収し、全RNAを抽出した。対照として、培養開始直後の細胞についても回収し、全RNAを抽出した。次いで、実施例1の「3.」と同様の方法を用いて、間葉系組織由来幹細胞マーカーであるN−cadherin及び胚性幹細胞マーカーであるNANOGのmRNA発現量を調べた。結果を
図3(N−cadherin)及び
図4(NANOG)に示す。
図3及び
図4における各遺伝子の発現量は、培養開始直後の細胞での各遺伝子の発現量に対する相対量で表されている。
【0040】
図3及び
図4に示すように、SB−431542の濃度依存的にN−cadherinのmRNA発現量は減少し、一方で、NANOGのmRNA発現量は上昇した。
【0041】
3.細胞毒性試験
実施例1の「1.」で単離したヒト羊膜上皮由来幹細胞を解凍し、96ウェルプレートに2×10
4細胞/ウェル播種して、37℃、5%CO
2環境下で7日間培養した。培地としては、10質量%ウシ胎児血清(FBS)、各100μM(1質量%) 非必須アミノ酸、2mM L−グルタミン、55μM 2−メルカプトエタノール、120units/mL(1質量%) ペニシリン、及び100μg/mL(1質量%) ストレプトマイシンを含むDMEM(high glucose)に、終濃度0、10、20、40、50、80、又は100μMとなるように、TGFβ阻害剤であるSB−431542を添加した。培地交換は、2〜3日に1回の頻度で行った。
次いで、7日間培養後の各細胞群について、Cell Couting Kit−8(CCK−8)(同仁化学研究所製)を用いて生細胞数を測定した。具体的には、培地中に規定量のCCK−8溶液を添加し、60分間又は120分間インキュベートした。次いで、マイクロプレートリーダーで450nmの吸光度を測定した。結果を
図5(インキュベート時間60分間)及び
図6(インキュベート時間120分間)に示す。
図5及び
図6において、細胞生存率(%)は以下の式により算出した。
【0042】
細胞生存率(%) ={(As−Ab)/(Ac−Ab)}/100
As:10、20、40、50、80、又は100μM条件下での450nmの吸光度
Ab:0μMのSB−431542条件下での450nmの吸光度
Ac:ブランク吸光度
【0043】
図5及び
図6に示すように、SB−431542濃度が10μM以上50μM以下では、0μMと同程度以上の細胞生存率であり、50μM超では、濃度依存的に細胞生存率が低下する傾向がみられた。また、SB−431542濃度が10μM以上40μM以下では、細胞増殖率が特に良好であることが明らかとなった。