(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-171710(P2021-171710A)
(43)【公開日】2021年11月1日
(54)【発明の名称】陽イオン交換樹脂再生液
(51)【国際特許分類】
B01J 49/53 20170101AFI20211004BHJP
C02F 1/42 20060101ALI20211004BHJP
B01J 39/05 20170101ALI20211004BHJP
B01J 39/19 20170101ALI20211004BHJP
【FI】
B01J49/53
C02F1/42 A
B01J39/05
B01J39/19
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-77795(P2020-77795)
(22)【出願日】2020年4月24日
(71)【出願人】
【識別番号】000175272
【氏名又は名称】三浦工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099841
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 恒彦
(72)【発明者】
【氏名】宮内 佑子
(72)【発明者】
【氏名】松友 伸司
【テーマコード(参考)】
4D025
【Fターム(参考)】
4D025AA03
4D025AB19
4D025BA09
4D025BA22
4D025BB12
4D025DA05
4D025DA10
(57)【要約】
【課題】水道水に含まれる硬度分をナトリウムイオンとの交換により分離可能な陽イオン交換樹脂について、再生用の処理液の使用量を抑えて再生率を高める。
【解決手段】水道水に含まれる硬度分をナトリウムイオンとの交換により分離可能な陽イオン交換樹脂の再生液は、水および当該水に溶解した塩化ナトリウムと有機酸塩とを含む。有機酸塩は、硬度分に対して配位し得るリンゴ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムまたは乳酸ナトリウムなどであり、濃度が少なくとも0.01mol/Lに設定されている。陽イオン交換樹脂をその体積の0.5〜2倍の再生液で処理すると、当該陽イオン交換樹脂が高率で再生される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水道水に含まれる硬度分をナトリウムイオンとの交換により分離可能な陽イオン交換樹脂の再生液であって、
水および前記水に溶解した塩化ナトリウムと硬度分に対して配位し得る有機酸塩とを含み、
前記有機酸塩の濃度が少なくとも0.01mol/Lである、
陽イオン交換樹脂再生液。
【請求項2】
前記有機酸塩は、カルシウムイオンに対する錯体の安定度定数が1.0を超える有機酸の塩である、請求項1に記載の陽イオン交換樹脂再生液。
【請求項3】
前記有機酸塩がリンゴ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムおよび乳酸ナトリウムからなる群から選択された少なくとも一つである、請求項2に記載の陽イオン交換樹脂再生液。
【請求項4】
前記塩化ナトリウムの濃度が20質量%以上である、請求項1から3のいずれかに記載の陽イオン交換樹脂再生液。
【請求項5】
水道水に含まれる硬度分をナトリウムイオンとの交換により分離可能な陽イオン交換樹脂の再生方法であって、
請求項1から4のいずれかに記載の陽イオン交換樹脂再生液を用いて前記陽イオン交換樹脂を処理する工程を含み、
前記陽イオン交換樹脂再生液の使用量を前記陽イオン交換樹脂の体積の0.5〜2倍に設定する、
陽イオン交換樹脂の再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽イオン交換樹脂の再生液、特に、水道水に含まれる硬度分をナトリウムイオンとの交換により分離可能な陽イオン交換樹脂の再生液に関する。
【背景技術】
【0002】
水道水に含まれる硬度分、すなわち、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンは浴室などの水回りに付着する水垢の原因となることが知られているが、肌荒れや皮膚炎などの皮膚障害の原因ともなり得ることも報告されている。そこで、今日、水道水から硬度分を分離するための家庭用の軟水器が上市され、関心を持たれている。
【0003】
家庭用の軟水器は、陽イオン交換樹脂を充填した容器に水道水を通水し、水道水中の硬度分を陽イオン交換樹脂のナトリウムと交換することで分離するものである。しかし、陽イオン交換樹脂は、水道水の処理量が累積するに従って硬度分の分離能が劣化することから、適時に再生が必要となる。この再生は、陽イオン交換樹脂を食塩水で処理し、陽イオン交換樹脂に捕捉された硬度分を食塩水中のナトリウムイオンと交換するものである。
【0004】
しかし、再生時の食塩水中においてナトリウムイオンとともに陽イオン交換樹脂から遊離した硬度分が混在することから、食塩水中のイオン環境におけるナトリウムイオンの割合が再生の進行に従って漸次低下することになり、それに伴ってナトリウムイオンの利用効率が低下する。この結果、陽イオン交換樹脂の再生に限界が生じ、再生率がある程度の段階以上に高まりにくくなる。陽イオン交換樹脂に対して食塩水を連続的に通水することで陽イオン交換樹脂側の硬度分を徐々にナトリウムイオンに交換すれば、再生率を高めることができるが、この場合は大量の食塩水が必要となる。
【0005】
陽イオン交換樹脂の再生は、上述のように食塩水によるのが一般的であるが、理論的には酸の溶液を使用することもできる。例えば、特許文献1は、食塩、クエン酸やリンゴ酸などの有機酸およびコハク酸アルカリ塩を含むイオン交換樹脂の回生剤を食塩の濃度が10%程度になるよう溶解した水溶液を用いた場合、除鉄、すなわちイオン交換樹脂に沈積した鉄分の除去と同時に再生が行われることを記載している。しかし、この水溶液は、除鉄を主目的としたものであることから食塩濃度が制限されており、それに伴ってイオン交換樹脂の再生に寄与するナトリウムイオン濃度も制限されることから、食塩水を用いる場合よりもイオン交換樹脂の再生率を高める点においてやはり限界が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭44−17731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、水道水に含まれる硬度分をナトリウムイオンとの交換により分離可能な陽イオン交換樹脂について、再生用の処理液の使用量を抑えて再生率を高めようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、水道水に含まれる硬度分をナトリウムイオンとの交換により分離可能な陽イオン交換樹脂の再生液に関するものである。この再生液は、水および当該水に溶解した塩化ナトリウムと硬度分に対して配位し得る有機酸塩とを含み、有機酸塩の濃度が少なくとも0.01mol/Lである。
【0009】
再生液に含まれる有機酸塩は、通常、カルシウムイオンに対する錯体の安定度定数が1.0を超える有機酸の塩である。このような有機酸塩は、例えば、リンゴ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムおよび乳酸ナトリウムからなる群から選択された少なくとも一つである。
【0010】
また、再生液は、通常、塩化ナトリウムの濃度が20質量%以上であるものが好ましい。
【0011】
他の観点に係る本発明は、水道水に含まれる硬度分をナトリウムイオンとの交換により分離可能な陽イオン交換樹脂の再生方法に関するものである。この再生方法は、本発明に係る陽イオン交換樹脂再生液を用いて陽イオン交換樹脂を処理する工程を含む。ここでは、陽イオン交換樹脂再生液の使用量を陽イオン交換樹脂の体積の0.5〜2倍に設定する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の再生液は、水および当該水に溶解した塩化ナトリウムと硬度分に対して配位し得る所定濃度の有機酸塩とを含むものであることから、水道水に含まれる硬度分をナトリウムイオンとの交換により分離可能な陽イオン交換樹脂の再生率を使用量を抑えて高めることができる。
【0013】
本発明の再生方法は、本発明の再生液を用いることから、水道水に含まれる硬度分をナトリウムイオンとの交換により分離可能な陽イオン交換樹脂の再生率を再生液の使用量を抑えて高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の再生液は、水道水に含まれる硬度分をナトリウムイオンとの交換により分離可能な陽イオン交換樹脂を再生するために用いられるものであり、水および当該水に溶解した塩化ナトリウムと有機酸塩とを含む。
【0015】
ここで用いられる水は、特に限定されるものではなく、水道水であってもよいし、蒸留水、イオン交換水または逆浸透膜や限外濾過膜などの濾過膜を用いた処理水などの精製水であってもよい。
【0016】
また、ここで用いられる有機酸塩は、硬度分、すなわちカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンに対して配位し得るものである。このような有機酸塩は、例えば、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、コハク酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルコン酸またはピリジン−2−カルボン酸などのアルカリ金属塩である。特に、陽イオン交換樹脂の再生に寄与するナトリウムイオンを再生液中に供給可能なことから、ナトリウム塩が好ましい。有機酸が多塩基酸の場合、その塩は、塩を形成する官能基(典型的にはカルボキシ基。)の全てが塩を形成していてもよいし、一部のみが塩を形成していてもよい。また、有機酸塩は、水和物であってもよい。有機酸塩は、二種類以上のものを併用することもできる。
【0017】
有機酸塩は、カルシウムイオンに対する錯体の安定度定数が1.0を超える有機酸の塩、例えば、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルコン酸またはピリジン−2−カルボン酸の塩を用いるのが好ましい。特に、リンゴ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムまたは乳酸ナトリウムを用いるのが好ましい。このような有機酸塩を用いると、陽イオン交換樹脂の再生効率をより高めることができ、塩化ナトリウムの使用量を抑えて陽イオン交換樹脂の再生効率を高めることのできる場合がある。
【0018】
カルシウムイオンに対する有機酸の錯体の安定度定数とは、カルシウムイオンと有機酸とにより生成する金属錯体の安定度を示す平衡定数をいう。具体的には、カルシウムイオンMと有機酸Aとが段階的に反応してMA
nのような錯体を生成する場合において、次の式により定義される。
【0020】
カルシウムイオンに対する有機酸の錯体の安定度定数の具体的な例は、坂口武一、上野景平著、金属キレート[III](南江堂)によると表1のとおりである。
【0022】
なお、食品添加物として認められている乳酸、グルタミン酸、グルコン酸またはアスパラギン酸のような有機酸のナトリウム塩を用いた場合、再生後の陽イオン交換樹脂を用いたイオン交換水は、飲用としても特に安全性に優れている。また、水中の溶解度が高い有機酸塩、好ましくは20℃の溶解度が3g/100g水以上の有機酸塩、例えば、乳酸塩、グルタミン酸塩またはグルコン酸塩を用いた場合、再生液において有機酸塩を高濃度化することができることから、陽イオン交換樹脂上における有機酸塩の析出や固着を抑制でき、陽イオン交換樹脂の再生率を高めやすくなる。また、陽イオン交換樹脂の再生時に発生する廃液による固着汚れ、例えば、家庭用軟水器を浴室に設置した場合に想定される、浴室床面に固着しやすい廃水痕の発生を抑えることができる。これらの観点から、有機酸塩として乳酸塩、特に、乳酸ナトリウムを用いるのが特に好ましい。
【0023】
本発明の再生液は、水に塩化ナトリウムと上述の有機酸塩とを溶解することで調製することができる。この際、水に対して塩化ナトリウムと有機酸塩とを別々に添加することで再生液を調製してもよいし、塩化ナトリウムと有機酸塩とを含む再生剤を調製し、この再生剤を水に添加することで再生液を調製してもよい。
【0024】
塩化ナトリウムに対する有機酸塩の使用量は、陽イオン交換樹脂の再生効率を高めやすいことから、通常、塩化ナトリウムに対するモル比で0.002以上に設定するのが好ましく、0.01以上に設定するのがより好ましく、0.02以上に設定するのが特に好ましい。有機酸塩の使用量の上限は特に設定されるものではないが、通常は再生液の経済的観点に照らして設定するのが好ましい。
【0025】
再生液における有機酸塩の濃度は、陽イオン交換樹脂の再生効率を効果的に高める観点から、少なくとも0.01mol/Lになるよう設定するのが好ましく、0.05mol/L以上になるよう設定するのがより好ましく、0.08mol/L以上になるよう設定するのが特に好ましい。有機酸塩の濃度の上限は、特に限定されるものではないが、再生液の経済性の観点から、通常は3mol/Lに設定するのが好ましい。
【0026】
また、再生液における塩化ナトリウムの濃度は、再生液の使用量を抑えて陽イオン交換樹脂の効率的な再生を図る観点から、10質量%以上になるよう設定するのが好ましく、15質量%以上に設定するのがより好ましく、20質量%以上になるよう設定するのが特に好ましい。塩化ナトリウムの濃度の上限は、塩化ナトリウムの飽和濃度である。
【0027】
塩化ナトリウムおよび有機酸塩を上述の濃度範囲で含む再生液は、通常、そのpHが水道水基準(水道法第4条の規定を受けた「水質基準に関する省令」に規定する水質基準)の5.8〜8.6になり得る。したがって、この再生液は、飲用や浴用の軟水を生成する家庭用軟水器の陽イオン交換樹脂の再生用として安全に用いることができる。
【0028】
再生液は、塩化ナトリウムと有機酸塩以外の成分を含んでいてもよい。この場合、これらの他の成分の種類および含有量は、それぞれ上述のpH範囲を維持可能な範囲で選択および設定するのが好ましい。
【0029】
再生液を用いた陽イオン交換樹脂の再生では、再生液により陽イオン交換樹脂を処理する。再生液による処理方法は、陽イオン交換樹脂と再生液とを接触させることのできる方法であれば特に限定されるものではなく、通常は陽イオン交換樹脂を充填した容器に再生液を通過させ、それによって当該容器内に充填された陽イオン交換樹脂と再生液とを接触させる方法をとることができる。
【0030】
再生液を用いた陽イオン交換樹脂の処理において、陽イオン交換樹脂に捕捉された硬度分は再生液に含まれるナトリウムと交換される。これにより、陽イオン交換樹脂が再生される。この際、陽イオン交換樹脂から遊離した少なくとも一部の硬度分に対して有機酸塩が配位し、陽イオン交換樹脂に接触する再生液中のイオン環境は硬度分に対してナトリウムイオンが相対的に豊富な状態となることから再生液中のナトリウムイオンの利用効率が高まり、硬度分とナトリウムとの交換が促進される。この結果、陽イオン交換樹脂は、効率的に再生され、再生率が高まる。
【0031】
再生液の使用量は、多く設定するほど陽イオン交換樹脂の再生率を高めることができるが、再生液に含まれる有機酸塩のためにナトリウムイオンの利用効率が高まることから、陽イオン交換樹脂の体積の0.5〜2倍の少量に設定しても60%以上の再生率を期待することができる。特に、塩化ナトリウムの濃度が20質量%以上の再生液を用いた場合、再生液の使用量を少量に抑えて陽イオン交換樹脂の再生率を高めやすい。
【0032】
上述の再生方法では、必要量の再生液を調製した後に当該再生液を一度にまたは徐々に陽イオン交換樹脂へ供給することで処理してもよいし、再生液を連続的に調製しながら陽イオン交換樹脂へ供給することで処理してもよい。
【実施例】
【0033】
[比較例1、実施例1〜4]
表2に示す組成の再生剤を調製した。
【0034】
【表2】
【0035】
調製した再生剤を塩化ナトリウム濃度が10質量%になるよう蒸留水に個別に溶解し、1.5Lの再生液を調製した。調製した再生液における各成分の濃度を表3に示す。未使用(新品)のポリスチレンスルホン酸ナトリウム型陽イオン交換樹脂1Lに対して水道水を通水することで完全に破過させ、この陽イオン交換樹脂に対して調製した再生液の全量を58mL/分の流速で通液し、再生処理した。再生処理後の陽イオン交換樹脂について再生率を調べた結果を表3に示す。再生率は、次の計算式により求めたものである。
【0036】
【数2】
【0037】
【表3】
【0038】
[実施例5〜11]
表4に示す組成の再生剤を調製した。
【0039】
【表4】
【0040】
調製した再生剤および比較例1の再生剤を表5に示す濃度になるよう蒸留水に個別に溶解し、再生液を調製した。未使用(新品)のポリスチレンスルホン酸ナトリウム型陽イオン交換樹脂1Lに対して水道水を通水することで完全に破過させ、この陽イオン交換樹脂に対して調製した再生液を150mL/分〜200mL/分の流速で通液し、再生処理した。陽イオン交換樹脂の体積に対する再生液の使用量比は、表5に示すように設定した。再生処理後の陽イオン交換樹脂について再生率を調べた結果を表5に示す。再生率の求め方は既述のとおりである。
【0041】
【表5】