特開2021-172620(P2021-172620A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特開2021172620-口腔ケア剤 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-172620(P2021-172620A)
(43)【公開日】2021年11月1日
(54)【発明の名称】口腔ケア剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/97 20170101AFI20211004BHJP
   A61K 8/99 20170101ALI20211004BHJP
   A61K 8/35 20060101ALI20211004BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20211004BHJP
【FI】
   A61K8/97
   A61K8/99
   A61K8/35
   A61Q11/00
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-78048(P2020-78048)
(22)【出願日】2020年4月27日
(71)【出願人】
【識別番号】520148172
【氏名又は名称】A LAVENDER.COM株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100158229
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 恒雄
(72)【発明者】
【氏名】吉田 直人
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA031
4C083AA032
4C083AA111
4C083AA112
4C083AB312
4C083AB321
4C083AB322
4C083AB331
4C083AB332
4C083AB341
4C083AB342
4C083AC102
4C083AC122
4C083AC132
4C083AC302
4C083AC471
4C083AC472
4C083AD092
4C083AD532
4C083AD551
4C083AD552
4C083AD642
4C083AD662
4C083BB41
4C083BB48
4C083CC41
4C083DD23
4C083DD27
4C083EE32
4C083EE33
(57)【要約】      (修正有)
【課題】口内の細菌叢バランスを良好に保つことにより虫歯、歯肉炎、歯周炎等の予防を行う、長期保存にも安定な口腔ケア剤を提供する。
【解決手段】基剤と殺菌・抗菌剤に細菌叢バランス調整剤を加えた口腔ケア剤であって、少なくとも、水、グリセリン、ヒノキチオールと柿タンニンを含む基剤と、植物性ミネラル(フルボ酸)と、熟成ニンニクエキスと、ヨモギエキスと、ラベンダー蒸留水と、レモングラス蒸留水と、植物の二次代謝産物と、有用微生物群の微生物培養エキスと、を組成成分に含むことを特徴とする口腔ケア剤である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基剤と殺菌・抗菌剤に、細菌叢バランス調整剤を含むことを特徴とする口腔ケア剤。
【請求項2】
前記基剤は、湿潤剤、発泡剤、粘結剤と香料剤を含むこと、
前記殺菌・抗菌剤は、ヒノキチオールと柿タンニンを含むこと、
前記細菌叢バランス調整剤は、フルボ酸と、熟成ニンニクエキスと、ヨモギエキスと、植物の二次代謝産物と、有用微生物群の微生物培養エキスと、ラベンダー芳香蒸留水と、レモングラス芳香蒸留水を含むこと、
を特徴とする請求項1に記載の口腔ケア剤。
【請求項3】
前記ラベンダー芳香蒸留水は、真正ラベンダーの花芽を蒸留していること、
を特徴とする請求項2に記載の口腔ケア剤。
【請求項4】
前記植物の二次代謝産物は、スギ抽出物、ヒノキ抽出物、アスナロ抽出物、モミ抽出物、モウソウチク抽出物、カエデ抽出物、クヌギ抽出物、イチョウ抽出物、シラカバ抽出物、モウソウチク葉抽出物、マツ抽出物、カキ葉抽出物、サクラ葉抽出物、ナンテン抽出物、クワ抽出物、クスノキ抽出物、ユーカリ抽出物、キリ抽出物、ビワ抽出物、ヒマワリ種子抽出物、マルメロ葉抽出物、フキ葉抽出物、フキ茎抽出物、チャ抽出物、ホップ抽出物、カミツレ抽出物、ヨモギ抽出物、ドクダミ抽出物、ユズ抽出物、レモン果皮油抽出物のいずれか1以上の抽出物であること、
を特徴とする請求項1に記載の口腔ケア剤。
【請求項5】
前記微生物培養エキスは、乳酸菌、酵母と光合成細菌を発酵させる糖蜜及び酵母エキスであること、を特徴とする請求項1に記載の口腔ケア剤。
【請求項6】
前記微生物培養エキスは、さらに粗製海水塩化マグネシウムとサンゴカルシウムと
食塩を含んでいること、
を特徴とする請求項5に記載の口腔ケア剤。
【請求項7】
柿タンニンの量の合計が3wt%となるように、前記基材に含まれる柿タンニンの量にさらに柿タンニンを追加して加えること、を特徴とする請求項1に記載の口腔ケア剤。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔ケア剤の組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトには腸・口腔・鼻腔・皮膚・膣などにそれぞれ固有のヒトマイクロバイオーム(微生物)の常在菌が存在し、ヒトの器官と共生している。
【0003】
最近の研究で、マイクロバイオームの構成の変化によって健康と疾患に影響することが知られてきた。腔感染症を誘因とする全身疾患を見ると常在菌と生体との関係から理解できる。その背景としては、(1)口腔感染症は常在細菌による内因性の感染症で、主な原因は宿主側にあること、(2)生体防御能の主役である免疫担当細胞は、血液により口腔組織内を含む体内を循環すること、(3)口腔は消化器官の一部であり、健康と免疫機能維持に重要な食物は全て口腔から摂取されることである。多くの研究から、細菌学的にも、免疫学的にも、「口腔の情報は全身に伝わり、全身の情報は口腔に伝わる」ことが証明されている。
【0004】
口腔内には700種(同定)の細菌が口腔常在菌(口腔フローラ)として存在し、その細菌叢の乱れ(ディスバイオレンス)による様々な口腔疾患との関連が解明されている。
化学療法は病原菌のみならず常在菌まで排除してしまうが、植物精油を構成する芳香分子は病原菌を正常な常在菌の生態系を壊す侵入者とみなし、排除するよりは健全な微生物フローラを甦ることに役割をもつ。
【0005】
口腔細菌に起因する誤嚥性肺炎は、例えば、東京健康安全研究センターの人口動態統計によると誤嚥性肺炎の死亡者は2030年には男77,000人、女52,000人になっている。2016年の厚生労働省の統計では肺炎死亡者は119,300人で80歳以上の高齢者の死亡原因は3位となっている。
【0006】
特許文献1には、抗菌作用又は静菌作用を有する薬効成分が開示されている。薬効成分としては、乳酸、クエン酸、グルコン酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸等の有機酸類や、フラボノイド、カテキン、タンニン、カルノソール、クルクミン、クマリン等のポリフェノール類や、ペリルアルデヒド、ピネン、ヒノキチオール等のモノテルペン、ジンギビレン等のセスキテルペン、ジテルペン等のテルペン類や、アリルイソチオシアネート等のイソチオシアネート類や、アリシン等の硫化アリル類や、ロニセリン等のサポニン類等が開示されている。さらに、カプサイシン、メントール、ピぺリン、シンナムアルデヒド、安息香酸、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸カルシウム、プロピオン酸、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸カルシウム、次亜塩素酸カルシウム、パラオキシ安息香酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、デヒドロ酢酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、グリセリン脂肪酸エステル、キトサン、ペクチン分解物、グリシン、ε−ポリリジン、アルギン酸、キシリトール、カゼイン、ラクトフェリン、プロタミン、リゾチーム、ナイシン等が開示されている。
【0007】
また、天然由来の薬効成分も開示されており、柿抽出物、月桂樹抽出物、マスティック抽出物、茶抽出物、ワサビ抽出物、カラシ抽出物、ショウガ抽出物、コショウ抽出物、ミョウガ抽出物、トウガラシ抽出物、柑橘類抽出物、グレープフルーツ種子抽出物、キウイ抽出物、リンゴ抽出物、オオバ抽出物、エゴノキ抽出物、カワラヨモギ抽出物、ホオノキ抽出物、レンギョウ抽出物、スイカズラ抽出物、ニンニク抽出物、ネギ抽出物、ウコン抽出物、クミン抽出物、クローブ抽出物、コリアンダー抽出物、ローズマリー抽出物、シナモン抽出物、モウソウチク抽出物、クマザサ抽出物、マッシュルーム抽出物、レンコン抽出物、ホップ抽出物、マツ抽出物、高麗人参抽出物、ニーム抽出物、ベイ油、オレガノ油、アニス油、タイム油、レモングラス油、ガーリック油、ウイキョウ油、ケイヒ油、ペパーミント油、スペアミント油、ユーカリ油、プロポリス、乳酸菌等である。
【0008】
歯磨剤等の口腔用組成物として、例えばヒノキチオールは、殺菌作用や組織収斂作用を有することが知られており、口内炎又は歯肉炎における症状の消退や、歯周病、カンジタの治療等を目的として使用されている。しかしながら、ヒノキチオールは本来昇華性の物質であること、さらに光によって分解されるため、口腔用組成物として配合すると、抗菌活性が低下し、保存安定性に劣り、長期保存すると経時的に変色や相分離が生じるという問題があった。
【0009】
特許文献2には、ヒノキチオールの上記問題に対して、ヒノキチオールを含有する口腔用組成物に、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、エデト酸二カリウム二水塩、エデト酸四ナトリウム二水塩から選ばれる1種又は2種以上のエデト酸塩と、エタノールと、水とを適当な割合で配合することを開示している。これによりヒノキチオールの製剤中での安定性が高まり、高い抗菌活性が発揮される上、長期保存しても変色がほとんど生じることがなく、相液分離安定性に優れ、経時での保存安定性に優れた製剤が得られる。
【0010】
特許文献3には、ヒノキチオールの殺菌作用が比較的低く、口腔内の病原菌数を十分に低減できないという知見から、(a)ヒノキチオール、(b)アルカリ金属のフッ化物、フルオロリン酸、及びフルオロリン酸の塩よりなる群から選択される少なくとも1種のフッ素化合物、(c)メントールを含有させ、更に(a)ヒノキチオール1重量部当たり、(b)フッ素化合物を1.25重量部以上、且つ(c)メントールを7.5重量部以上含有させることによって、ヒノキチオールの殺菌作用が飛躍的に向上することが開示されている。
【0011】
特許文献4には、柿渋抽出物から得られる純度が30%以上の柿タンニンと、非発酵性の四糖類以下の少糖類で構成した口腔内病原性細菌殺菌剤が開示されている。タンパク成分と結合力の高いカキタンニンは、病原性細菌を吸着し、反応して除去(破壊)する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2018−197207号公報
【特許文献2】特開2010−150155号公報
【特許文献3】特開2015−127305号公報
【特許文献4】特開2006−298827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来、口腔内における殺菌、抗菌作用を有する様々な種類の歯磨剤が提案されているが、さらなる抗菌作用の向上により、虫歯予防、歯肉炎、歯周炎予防を行うことや長期保存に対する安定性が主な目的であった。
【0014】
近年、分子生物学の進展によるヒトマイクロバイオームの研究で、ヒトは疾患を引き起こす微生物である病原体を保持していることが明らかになったが、病原体は健康な人に疾患を引き起こすことはなく、単に宿主や人体に生存する微生物の集合体である微生物群ゲノムと共存している。この集合体のバランスが崩れて集合菌に変動が起こると病原体はヒトに害を与えることが判明した。つまり、常在菌の生理作用が発揮される機構は1種類の病原菌が一つの感染症を成立させる機構とは異なっている。従来の細菌を悪玉にした殺戮戦から、これからの医療は共生(Symbiosis)に基づいた生体に生存する常在菌のバランスをいかに保つかが求められている。
【0015】
高等植物精油は優れた消毒・抗菌作用の創傷、治療効果、抗炎症作用を有しており、欧米では医薬品として使用され、新国際標準化機構規則に登録されている。植物精油を臨床応用することで、口腔感染症の原因となる口腔フローラのコンセンサス効果が期待できる。その作用機序は、植物精油のバイオフィルム(歯垢)抑制は植物精油によるバイオフィルム内細菌のクオラムセンシングシグナルへの影響、バイオフィルムの菌体外マトリックス破壊、良好なバイオフィルム内への浸透性などが考えられる。
【0016】
口腔フローラにおける歯周病の主たる原因菌であるPorphyromonas gingivalis(Pg)菌やその他の歯周病菌に対しても同じ解釈ができると考えられ、口腔の慢性疾患である歯周病は勿論、Candida症や口内炎にも治療効果がある。
【0017】
これに対して、本発明の目的は菌を無くすことではなく、バランスの取れた細菌叢にすることである。口内の細菌叢バランスを良好に保つことにより、虫歯、歯肉炎、歯周炎等の予防行い、かつ長期保存にも安定な口腔ケアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
(1)本発明による口腔ケア剤は、基剤と殺菌・抗菌剤に、細菌叢バランス調整剤を含むことを特徴とする口腔ケア剤である。
(2)前記基剤は、湿潤剤、粘結剤と香料剤を含むこと、前記殺菌・抗菌剤は、ヒノキチオールと柿タンニンを含むこと、前記細菌叢バランス調整剤は、フルボ酸と、熟成ニンニクエキスと、ヨモギエキスと、植物の二次代謝産物と、有用微生物群の微生物培養エキスと、ラベンダー芳香蒸留水と、レモングラス芳香蒸留水を含むこと、を特徴とする。
【0019】
(3)前記ラベンダー芳香蒸留水は、真正ラベンダーの花芽を蒸留していること、が好ましい。
【0020】
(4)前記植物の二次代謝産物は、スギ抽出物、ヒノキ抽出物、アスナロ抽出物、モミ抽出物、モウソウチク抽出物、カエデ抽出物、クヌギ抽出物、イチョウ抽出物、シラカバ抽出物、モウソウチク葉抽出物、マツ抽出物、カキ葉抽出物、サクラ葉抽出物、ナンテン抽出物、クワ抽出物、クスノキ抽出物、ユーカリ抽出物、キリ抽出物、ビワ抽出物、ヒマワリ種子抽出物、マルメロ葉抽出物、フキ葉抽出物、フキ茎抽出物、チャ抽出物、ホップ抽出物、カミツレ抽出物、ヨモギ抽出物、ドクダミ抽出物、ユズ抽出物、レモン果皮油抽出物のいずれか1以上の抽出物であること、が好ましい。
【0021】
(5)前記微生物培養エキスは、乳酸菌、酵母と光合成細菌を発酵させる糖蜜及び酵母エキスであること、が好ましい。
【0022】
(6)前記微生物培養エキスは、さらに粗製海水塩化マグネシウムとサンゴカルシウムと、食塩を含んでいること、が好ましい。
【0023】
(7)本発明の口腔ケア剤は、柿タンニンの量の合計が3wt%となるように、前記基剤に含まれる柿タンニンの量にさらに柿タンニンを追加して加えること、が好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の口腔ケア剤は、口腔内の細菌叢バランスを良好に保つことにより、虫歯、歯肉炎、歯周炎、口腔カンジダ等の予防作用と長期保存安定性に効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明による口腔ケア剤構成成分を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
口腔内には、球菌、桿菌、ラセン菌など様々な形態をした微生物が存在し、固定された約700種類の細菌が生息している。歯垢(デンタルプラーク)はこれらの細菌の塊で、1g中に10億個の細菌が存在すると言われている。歯の表面、歯周ポケット、舌などに1億個に近い細菌が住み着き、う蝕、歯周病、口内炎、口臭などの各種疾患を誘発し、歯周疾患歯の歯周ポケット内には10億個を超える細菌が生息している。
【0027】
10億個に近い細菌を大まかに分けると、善玉菌、悪玉菌と日和見菌の3種類に分類される。善玉菌には、乳酸菌、乳酸や酢酸を作り出すビフィズス菌、酢酸や酪酸を作り出すルミノコッカス・コプロコッカスなどがある。悪玉菌には、虫歯の原因とされるミュータンス菌と歯周病の原因とされるPorphyromonas gingivalis菌などがある。日和見菌は、善玉菌にも悪玉菌にも属さないが、善玉菌と悪玉菌の優勢な方に作用する。この細菌叢の理想的なバランスは、日和見菌を含む善玉菌が9割、悪玉菌が1割と言われている。
【0028】
ヒトが健康を保つためには、細胞生命システムの活性化と細胞の代謝活動に必要なビタミンやミネラルなどの栄養素の補給が欠かせない。
【0029】
口腔を健康に保つには、口腔内細菌叢のバランスを保つことが重要であり、口腔環境の悪化によって悪玉菌が増加し、細菌叢のバランスが崩れ、歯周ポケット内の嫌気性菌(悪玉菌)が増殖すると、歯周炎や歯周病が進行し、最悪には歯を失う結果になる。本発明の口腔ケア剤は抗菌作用があり、口腔細菌のバランスを調整する天然素材を厳選調合した。
【0030】
口腔ケア剤(オーラルジェル)はヒトマイクロバイオームに着目し、近年の抗生物質濫用による薬剤耐性菌が社会問題にもなっている。合成薬剤、抗生物質による薬害・耐性菌の対処として植物から放出する抗菌性物質を主成分にした人体にやさしい口腔ケアの製剤を考案した。
【0031】
図1は、本発明による口腔ケア剤の構成成分を示す図である。基剤12に殺菌・抗菌剤14を添加し、さらに細菌叢バランス調整剤16が添加されている。
【0032】
(基剤)
口腔ケア剤の主剤は、薬効成分の他、湿潤剤、粘結剤と香料剤を基本成分としている。湿潤剤は、口腔ケア剤に適度の湿り気と可塑性を与える。粘結剤は、粉体と液体成分を結合させ、保形性及び適度の粘度を与える。香料剤は、香味の調和を図り、爽快感や香りをつけ、使いやすくする。また、本剤を構成する植物エキスの芳香分子のもつ薬理作用によって口腔疾患の予防や治療に奏功する。その他、甘味剤、着色料等を含有させてもよい。
【0033】
湿潤剤としては、例えば、グリセリン、ソルビトール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、キシリトール、マルチトール、ラクトール、エリスリトール、ペンチレングリコール、ヘキシレングリコール、オクチレングリコール、1、3−ブチレングリコール、グリセリン等がある。
【0034】
粘結剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、トラガカントガム、カラヤガム、アラビアガム、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、ビーガム、ラポナイト等がある。
【0035】
香料剤としては、メントール、アネトール、カルボン、オイゲノール、リモネン、n−デシルアルコール、シトロネロール、α−テルピネオール、シトロネリルアセテート、シネオール、リナロール、エチルリナロール、ワニリン、チモール、スペアミント油、ペパーミント油、レモン油、オレンジ油、セージ油、ローズマリー油、桂皮油、ピメント油、桂葉油、シソ油、冬緑油、丁字油、ユーカリ油等がある。また、本剤にはラベンダーフローラルウォーターおよびレモングラスフローラルウォーターを含む。
【0036】
保存剤としては、安息香酸ナトリウムやパラベン類がある。また、防腐剤としては、ブチルパラベン、エチルパラベン、パラオキシ安息香酸エステル、安息香酸ナトリウム等があるが、本剤はヒノキチオール、柿タンニン、フィトンチッド等の植物エキスがその役目を果たす。甘味剤としては、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、ステビオサイド、ステビアエキス、パラメトキシシンナミックアルデヒド、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、ペリラルチン等がある。なお、本剤は、研磨剤を含まない口腔ケア剤である。
【0037】
抗菌剤14は、虫歯の原因とされるミュータンス菌と歯周病の原因とされるPorphyromonas gingivalis菌等の悪玉菌の抑制・抗菌を目的として添加されている。例えば、ヒノキチオールや柿タンニン、熟成ニンニク、レモングラス、ヨモギエキスがある。
【0038】
ヒノキチオールの化学構造式はC1012で、初めて発見された不飽和七員環化合物(単環式モノテルペン)であり、芳香族化合物の一つである。ヒノキチオールは、1936年に台湾に自生するタイワンヒノキの精油から、台湾帝国大学に赴任していた野副教授により発見された物質である。
【0039】
ヒノキチオールは殺菌作用や組織収斂作用を有し、歯肉の出血、腫れ、痛み、口のねばり、口臭などの、歯肉炎又は歯周病における諸症状の緩和や、口内炎の治療等を目的として歯磨剤等の口腔用組成物に配合して広く使用されている。
【0040】
ヒノキチオールは、台湾ヒノキ、青森ヒバ、北米産のウエスタンレッドシダーなどに含まれている。ヒノキチオールの製造法としては従来から種々の方法が知られているが、ヒノキチオールの抽出、生成については、天然のヒバ油から抽出する方法とジシクロペンタジエン等から化学的に合成する方法がある。天然のヒノキチオールについては、含有量が1番多いのが青森ヒバで、約0.006%程度である。ヒノキチオールは、ヒバ油から抽出する場合、1tの材木から約10kgのビバ油が取れ、その約1%である100g程度がヒノキチオールである。
【0041】
ヒノキチオールを安価に安定して製造可能な化学的に合成する方法は、入手が容易なシクロペンタジエンを原料に、イソプロピルシクロペンタジエンを得、これにジクロロケテンを付加させ、この付加体を加溶媒分解することによって得る方法が知られている。イソプロピルシクロペンタジエンは、1−イソプロピルシクロペンタジエン、2−イソプロピルシクロペンタジエンと5−イソプロピルシクロペンタジエンの異性体3種から成るが、ヒノキチオールは、1−イソプロピルシクロペンタジエンからのみ生成することが知られている。
【0042】
カキタンニンは、抗酸化・抗菌作用があるとして知られているポリフェノールの一種で、分子量は11000〜15000程度と高分子であり、官能基であるフェノール性水酸基(−OH)が多い。カキタンニンは、タンパク成分との結合力が強く、このため、病原性細菌の細胞膜含まれるタンパク成分と強く結合するため、病原性細菌を吸着しやすく、強い抗菌効果、および止血効果を示す。
【0043】
カキタンニンは、例えば、渋柿から抽出される。渋柿の未成熟な果実を破砕し、適量の水を加えた後、発酵させる、破砕時にカキタンニンと強固に吸着する糖、ペクチンなどの果実成分を発酵酵母により分解してカキタンニンを精製する。高濃度のカキタンニンを得るには、1〜3年以上かかる場合が多い。このため、アルコール、リン酸二カリウム、アルカロイドによって分別・沈殿させて高濃度のカキタンニン成分を回収する方法もある。
【0044】
(細菌叢バランス調整剤)
細菌叢バランス調整剤16としては、フルボ酸、ニンニクエキス、ヨモギエキス、植物の二次代謝産物、有用微生物群の微生物培養エキスを含んでいる。細菌叢バランス調整剤16は、抗菌作用とともに口腔内細菌叢のバランスを保つ
【0045】
フルボ酸は、森林や土壌の中に存在する有機酸の一つで、植物にミネラルを補給する機能を有し、ミネラルなどの微量養分を運び、体内で循環する、即ちイオン交換する効果がある。口腔内では、食べ物からの植物性ミネラルを、フルボ酸が掴んで永続的にイオン交換する。このイオン交換の働きで、活性酸素やフリーラジカルの分子構造を分離し、その活動を抑制する。また、フルボ酸は、酸・アルカリ反応の変化を緩めて安定化させることで、ストレスをかけにくくする。分子量も小さいため口腔内吸収にも優れ、効率よく酸素を取り込み、生態活動を活発化させる。
【0046】
フルボ酸は栄養分として吸収される一方で、口腔内のミネラルバランスを一定に保とうとする能力が働き、栄養分を吸収すると同時に、余剰で不必要な栄養分をデトックスする。このようにフルボ酸は、吸収と排出という両方を併せ持つ。フルボ酸により植物ミネラルを含む約70種類以上のミネラルが、体内酵素を活性化さることで、細胞や血流を改善し、口腔内細菌叢バランスが整える。歯周病等を駆逐する能力はないものの、健全な口腔内細菌叢バランスを作り上げることで歯周病原菌の増殖を抑え込み、細胞のホメオスタシスを高め自然治癒力を促進させる。
【0047】
熟成ニンニク抽出液には、アリシン、アリイン、メチイン、シクロアリインと呼ばれる含硫アミノ酸や、ガンマ−グルタミル−S−アリルシステイン、ガンマ−グルタミル−S−1−プロペニルシステインと呼ばれるペプチド、そしてフロスタノールサポニンとよばれるステロイド系化合物と糖の複合物質がある。ニンニクエキスは、血液の状態を改善し、善玉コレステロールの数を増やし、悪玉コレステロールの数を減らす作用を有している。ニンニクエキスを摂取することで血液に含まれる脂肪の状態を改善する。さらに強い抗酸化作用があり、悪玉コレステロールによって引き起こされる酸化ダメージを修復する。ニンニクエキスは天然の抗生物質とも呼ばれ、ニンニクに含まれるアリシンの抗菌作用は、歯肉炎を改善、軽減し、歯肉出血の止血に有効で、歯周病への効果がある。
【0048】
実際に、歯肉に炎症を持つ被験者40人に、1カ月間、熟成ニンニク抽出液を摂取するようにしたところ、程度の差はあるものの、ほとんどの被験者に炎症の軽減が見られた。さらに時間の経過とともに効果が表れ、3か月間経過した時点では大きな改善効果が確認できた。歯周出血症状の被験者は、ほぼ半分にまで出血症状が改善されたことも確認できた。
【0049】
ヨモギエキスは、2000年以上前より、漢方薬として使用されてきた成分でおり、ビタミン遊離抑制による消炎作用、収斂作用、AGEs減少による抗老化及び消臭作用がある。また、解熱作用・利胆作用・抗菌作用・抗ウイルス作用・抗真菌作用・脂質降下作用・降圧作用などの薬効がある。ヨモギエキスの有効成分としは、タンニン、フラボノイド、精油(βーピネン、カピレンなど)などが入っており、この成分は、特に消炎、抗菌に効果がある。
【0050】
植物の二次代謝産物は、スギ抽出物、ヒノキ抽出物、アスナロ抽出物、モミ抽出物、モウソウチク抽出物、カエデ抽出物、クヌギ抽出物、イチョウ抽出物、シラカバ抽出物、モウソウチク葉抽出物、マツ抽出物、カキ葉抽出物、サクラ葉抽出物、ナンテン抽出物、クワ抽出物、クスノキ抽出物、ユーカリ抽出物、キリ抽出物、ビワ抽出物、ヒマワリ種子抽出物、マルメロ葉抽出物、フキ葉抽出物、フキ茎抽出物、チャ抽出物、ホップ抽出物、カミツレ抽出物、ヨモギ抽出物、ドクダミ抽出物、ユズ抽出物、レモン果皮油抽出物のいずれか1以上の抽出物であることが好ましい。
【0051】
植物の二次代謝産物としては、フィットンチッドがあり、微生物の活動を抑制する作用により、殺菌性や抗酸化性を備えている。フィトンチッドは、微生物培養エキスの一例であり、植物の精油に含まれるテルペノイドなどには殺菌力を持つ成分が数多く含まれ、α−カジノール、カンファー、シトラール、チモール、テレピン油、ボルネオール、リモネン等が含まれている。
【0052】
植物の一次代謝物が植物体の細胞成長、発生、生殖において必須な化合物であるという定義に対して、二次代謝物はそれ以外で定義され、自然界における生存において必要な化合物である。生物活性を有するものが多く、栄養欠乏条件下における代謝異常ストレスになど対しても重要な役割を果たしている場合が多い。フィットンチッドは、殺菌、抗炎症作用、抗真菌作用の他、防腐効果、安らぎ効果とともに、細胞の新陳代謝を正常化する働きがあり、口腔内細菌叢バランス保つのに有効である。
【0053】
微生物培養エキスは、醗酵の力を最大限に引き出して、有用成分を体のすみずみまで届くサイズに分解したものであり、口腔内細菌叢バランス保つ効果を備えている。微生物培養エキスは、3種類の善玉菌である光合成細菌、乳酸菌、酵母が中心となり、発酵を繰り返して、成分を菌が細かく分解して、口腔内のすみずみまで届けられる。
【0054】
光合成細菌は、光エネルギーによる同化を行う細菌であり、分類群としては紅色細菌(無硫黄)、紅色硫黄細菌、緑色硫黄細菌に属する。植物における光合成と異なる特徴は、同化色素として、植物でのジヒドロポルフィン環よりも1段だけ還元されたテトラヒドロポルフィン環より成るバクテリオクロロフィルをもつことと、二酸化炭素の同化のために水を電子供与体とするのではなく、水素、有機化合物の水素、硫黄およびその化合物などを電子供与体としている点である。
【0055】
乳酸菌は、糖を分解して乳酸をつくる反応によってエネルギーを獲得する細菌の総称である。多数の属にわたる多様な種を含む。球菌もしくは杆(かん)菌で、グラム陽性。代表的なものとして、ビフィズス菌がある。糖類のある口腔内に存在する。数種の連鎖球菌を除いて体には無害で、かえって感染防御の役割を果たす。
【0056】
酵母は、真菌類に属する単細胞の生きている菌の塊で、パンの製造やビール、ぶどう酒醸造などに用いられる。細胞は楕円形で出芽によって増殖する。蛋白質を多く含み、ビタミン、酵素類に富んでいる
【0057】
さらに、微生物培養エキスには、粗製海水塩化マグネシウム、サンゴカルシウムを含んでいることが好ましい。
【0058】
ラベンダーフローラルウォーターは、真性ラベンダーの花芽を蒸留して得られる。真正ラベンダーは、具体的にはイングリッシュラベンダーを使用している。真正ラベンダーは、リナリルアセテートという鎮静作用成分が含まれた他成分系で、リナロール、α−テルピネオール、クマリン、テルピネン−4−オール、ボルネオール、ゲラニオール等を成分としている。
【0059】
鎮痛、鎮静、神経強壮、抗炎症作用があり、口唇潰瘍の治療にも使われている。最近の研究で、ボルネオールはモノテルペンアルコールの化合物、脳の入り口には限られた物質以外は通過することのできない(血液脳関門BBB)仕組みがあるが、ボルネオールはその扉を開くアロマ物質として注目されている。扉を開くことでアルツハイマー型認知症の治療薬を脳に届けられる可能性が期待される。
【0060】
ラベンダーフローラルウォーターの製造は、まず、自社で農薬に依存しない自然栽培の真正ラベンダーの花芽のみを蒸留した希少な素材で、揮発したオイル成分はラベンダーの中を通り抜けた蒸気と一緒に、冷却槽で冷やされ、蒸留水と混ざった状態で出てくるので、それを油水分離槽でオイルと芳香蒸留水に分けて、ラベンダーオイルとラベンダー芳香蒸留水ができる。
【0061】
ラベンダー芳香蒸留水は、揮発したオイル成分が溶けた飽和蒸留水である。その分析結果は、1,4−Cineol、1,8−Cineole、5−Methyl−3−heptanone、〇cten−l−ol,acetate、Hexyl formate、3−Octanol、Camphor、Linalool acetate、Borneol、.alpha.−Terpineol、.alpha.−Methyl−.alpha.−[4−methyl−3−pentenyl]oxiranemethanol、(−)−4−Terpineol、cis−3−Hexenyl iso−butyrate、6,6−Dimethyl−2−(3−oxobutyl)bicyclo[3.1.1]heptan−3−one、である。
【0062】
レモングラスは口腔微生物に対する抗菌性やバイオフィルム形成抑制効果が高いことが実証されている。レモングラスのアルデヒド類であるゲラニアール、ネラールの含有量が他の植物精油より多く、抗菌効果が消毒用エタノール使用濃度の185分の1の濃度となり、消毒薬と比較しても抗菌効果が顕著である。
【0063】
また、口臭抑制効果の臨床実験においても、化学薬品を用いた製品よりも天然成分のレモングラス製剤が高い結果が出た。レモングラス芳香蒸留水の製造は、ラベンダーフローラルウォーターと同じ製法である。
【0064】
〔実施例〕
本発明の口腔ケア剤として実施した実施例は、基剤を従来の歯磨剤として、細菌叢バランス調整剤を追加している。従来の歯磨剤には殺菌、抗菌作用を目的としたヒノキチオールと柿タンニンが含まれている。以下に、実施例の口腔ケア剤における組成成分を示す。
【0065】
・基剤 :精製水
湿潤剤 :濃グリセリン(6%)
プロピレングリコール(0.3%)
海藻エキス(1%)
ブチレングリコール(1%)
粘結剤 :ポリアクリル酸ナトリウム(2%)
甘味剤 :キシリトール(1%)
pH調整剤:乳酸ナトリウム液(0.3%)
炭酸カリウム(0.3%)
着香剤 :香料(0.3%)
清涼剤 :l−メントール(0.02%)
抗酸化剤:テトラ2−ヘキシルデカン酸アスコルビル(0.01%)、
d−δ−トコフェロール(0.01%)
トコフェロール(0.01%)
エタノール0.01%)
香味剤 :ハッカ油(0.01%)
殺菌剤 :ヒノキチオール(0.05%)
柿タンニン(2%)
・細菌叢バランス調整剤
植物性ミネラル(フルボ酸)(4%)
黒ニンニクエキス(Kolic:登録商標)(1%):熟成ニンニク抽出液
EM−X GOLD(商品名)(1%):微生物培養エキス
糖蜜、酵母エキス、粗製海水塩化マグネシウム、サンゴカルシウム、食塩
ヨモギエキス(0.5%)
フィットンチッドエキス(PT―150 Cys xl0:商品名)(1%)
ラベンダー芳香蒸留水およびレモングラス芳香蒸留水の混合水(18%)
柿タンニン(1%):基剤に含まれる柿タンニンと合わせて3%としている。
【0066】
本剤の組成物には、多成分素の植物精油をブレンドすることで、複数の有効成分を配合することによる相乗効果が表れ、歯科臨床における口内炎、歯周病、口腔カンジタ症等の治療や予防に応用し、有用性が確認できた。
【0067】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はその目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に、上記の実施形態による限定は受けない。
【符号の説明】
【0068】
10 口腔ケア剤構成成分
12 基剤
14 殺菌・抗菌剤
16 細菌叢バランス調整剤


図1