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特開2021-172699多孔質体形成用組成物、多孔質体、多孔質体の製造方法及びペン先
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-172699(P2021-172699A)
(43)【公開日】2021年11月1日
(54)【発明の名称】多孔質体形成用組成物、多孔質体、多孔質体の製造方法及びペン先
(51)【国際特許分類】
   C08L 75/04 20060101AFI20211004BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20211004BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20211004BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20211004BHJP
   B43K 1/00 20060101ALI20211004BHJP
【FI】
   C08L75/04
   C08L29/04 B
   C08K5/053
   C08L77/00
   B43K1/00 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-75469(P2020-75469)
(22)【出願日】2020年4月21日
(71)【出願人】
【識別番号】510229474
【氏名又は名称】株式会社エー・ジー・エス
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100199808
【弁理士】
【氏名又は名称】川端 昌代
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(74)【代理人】
【識別番号】100208708
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 健志
(74)【代理人】
【識別番号】100215371
【弁理士】
【氏名又は名称】古茂田 道夫
(74)【代理人】
【識別番号】230116643
【弁護士】
【氏名又は名称】田中 厳輝
(72)【発明者】
【氏名】和田 博
(72)【発明者】
【氏名】野中 敬三
【テーマコード(参考)】
2C350
4J002
【Fターム(参考)】
2C350GA04
2C350HA16
2C350NA00
2C350NC02
2C350NC28
4J002BE022
4J002CK041
4J002CK051
4J002CL051
4J002EC056
4J002FD206
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】水性液体の吸収速度に優れる多孔質体を形成することができる多孔質体形成用組成物、多孔質体、多孔質体の製造方法及びペン先を提供する。
【解決手段】ペンタエリスリトール粉末と、ポリビニルアルコールと、熱可塑性エラストマーとを含有し、上記熱可塑性エラストマーが、ウレタン系熱可塑性エラストマー又はポリアミド系熱可塑性エラストマーである多孔質体形成用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペンタエリスリトール粉末と、
ポリビニルアルコールと、
熱可塑性エラストマーと
を含有し、
上記熱可塑性エラストマーが、ウレタン系熱可塑性エラストマー又はポリアミド系熱可塑性エラストマーである多孔質体形成用組成物。
【請求項2】
上記ペンタエリスリトール粉末の平均粒子径が25μm以下である請求項1に記載の多孔質体形成用組成物。
【請求項3】
上記熱可塑性エラストマーのショアD硬度が40以上である請求項1又は請求項2に記載の多孔質体形成用組成物。
【請求項4】
上記ペンタエリスリトール粉末及び上記ポリビニルアルコールの合計含有量が、上記熱可塑性エラストマー100質量部に対して、200質量部以上400質量部以下である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の多孔質体形成用組成物。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の多孔質体形成用組成物により形成される多孔質体。
【請求項6】
気孔率が60%以上73%以下である請求項5に記載の多孔質体。
【請求項7】
表面に0.02mLの水滴を滴下した時の水滴吸収時間が15秒以下である請求項5又は請求項6に記載の多孔質体。
【請求項8】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の多孔質体形成用組成物からペンタエリスリトール及びポリビニルアルコールを溶出させる工程
を備える多孔質体の製造方法。
【請求項9】
請求項5、請求項6又は請求項7に記載の多孔質体を備えるペン先。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質体形成用組成物、多孔質体、多孔質体の製造方法及びペン先に関する。
【背景技術】
【0002】
インク等の液体を内蔵し、放出することができる連続気泡多孔質体が知られている。連続気泡多孔質体の多くは、エラストマーに気孔形成材を混練し、成形後に、エラストマーは溶解せず気孔形成材は溶解する液体に浸漬し、気孔形成剤を溶出することにより製造される。
【0003】
特許文献1には、不溶性で、ポリマーと反応しない粒径2〜450μmの乾燥粒状個体(気孔形成材)をポリマー物質と2.5:1〜10:1の乾燥粒状個体:ポリマー物質の質量比で混合し、個体およびポリマー物質を予備可塑化して個体/ポリマー複合物を形成させ、該複合物を注型、押出成形、射出工程、またはスクリュートランスファー成形し、これに製品表面上に一層緻密な表皮部分を形成し、個体が溶解する溶剤を製品に添加する工程からなる多孔性製品の製法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、ポリアミド系ブロックエラストマー、ポリイミド系ブロックエラストマーおよびポリエステル系ブロックエラストマーよりなる群から選ばれた少なくとも1種の熱可塑性ブロックエラストマーを骨格材とし、インク含有基材として必要な大きさの孔および空隙率を有する連続微細多孔質体に、疎水性の液状インクが含浸されてなるインク含浸体が開示されている。
【0005】
特許文献3には、粒状気孔形成材と水溶性高分子とを、前記水溶性高分子の少なくとも一部が溶融し、前記粒状気孔形成材が溶融しない温度で混練することによって、粒状混練物を形成させる第1混練工程と、前記粒状混練物と、非水溶性熱可塑性高分子とを、前記非水溶性熱可塑性高分子の少なくとも一部が溶融し、前記粒状混練物が溶融しない温度で混練する第2混練工程と、前記第2混練工程によって得られた混練物を、前記非水溶性熱可塑性高分子の少なくとも一部が溶融し、前記粒状混練物が溶融しない温度で、所定の形状に成形する成形工程と、前記成形工程によって得られた充実成形体を水に接触させることによって、前記充実成形体から前記粒状混練物を水中に溶出させる溶出工程を備える多孔体の製造方法が開示されている。
【0006】
筆ペン先やリキッドアイライナーの筆先には、繊維の収束体が使用されている。繊維の収束体とは、ポリエステル、ナイロン、PP、PEなどの有機繊維を収束して束状にして、繊維間を部分的に熱可塑樹脂で接着したものである。収束体は先が変形してしまう問題があった。また、繊維の収束体をアイライナーの筆先に使用した場合、繊維の太さによっては、皮膚刺激性があり、痛みを感じることもあった。エラストマーの多孔質体は柔軟性と変形後の復元性があり、皮膚刺激性も少ない利点があるが、ライナーリキッドの吸収速度が遅いという問題があった。リキッドアイライナーの場合、インクを含浸していない筆先をケース本体に組み込んだ後、リキッドカートリッジを組み込み、筆先の自己液体吸収性により、筆先にリキッドを含浸させる。つまり、筆先へのリキッド含浸工程に吸引とか加圧とかの特別な操作をしないで、多孔質体の自己吸収能によりリキッドが含浸されるので、数分でリキッドカートリッジから筆先にリキッドが含浸される必要がある。リキッドの吸収性が遅いと、組み立てラインで製品が完成出来ず、品質管理に支障をきたす。リキッドは水性の場合が殆どなので、多孔質体には、表面張力の高い水の吸収性(速い吸収速度)が要求される。この速い水の吸収速度の指標としては、例えば多孔体表面に水滴を滴下した時の水滴の滴下速度が、水滴の容量を0.02ccとした時、15秒以下であることが要求される。また、リキッド吸収性が悪い場合には、リキッドカートリッジからのリキッド供給速度が遅くなり、リキッド枯れを起こすという問題が起こる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭55−115433号公報
【特許文献2】特開昭59−146884公報
【特許文献3】特開2011−161639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、水性液体の吸収速度に優れる多孔質体を形成することができる多孔質体形成用組成物、多孔質体、多孔質体の製造方法及びペン先を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた発明は、ペンタエリスリトール粉末と、ポリビニルアルコールと、熱可塑性エラストマーとを含有し、上記熱可塑性エラストマーが、ウレタン系熱可塑性エラストマー又はポリアミド系熱可塑性エラストマーである多孔質体形成用組成物である。
【0010】
上記課題を解決するためになされた別の発明は、当該多孔質体形成用組成物により形成される多孔質体である。
【0011】
上記課題を解決するためになされたさらに別の発明は、当該多孔質体形成用組成物からペンタエリスリトール及びポリビニルアルコールを溶出させる工程を備える多孔質体の製造方法である。
【0012】
上記課題を解決するためになされたさらに別の発明は、当該多孔質体を備えるペン先である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の多孔質体形成用組成物及び多孔質体の製造方法によれば、水性液体の吸収速度に優れる多孔質体を形成することができる。本発明の多孔質体は水性液体の吸収速度に優れる。したがって、本発明のペン先は、筆ペン先やリキッドアイライナーの筆先として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の多孔質体形成用組成物、多孔質体、多孔質体の製造方法及びペン先について詳説する。
【0015】
<多孔質体形成用組成物>
当該多孔質体形成用組成物は、ペンタエリスリトール粉末と、ポリビニルアルコールと、熱可塑性エラストマーとを含有する。当該多孔質体形成用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲においてその他の成分を含有していてもよい。
【0016】
当該多孔質体形成用組成物では、ポリビニルアルコールがペンタエリスリトール粉末の熱可塑性エラストマー中への分散安定剤として作用し、ペンタエリスリトール粒子の表面にポリビニルアルコールが吸着する形で熱可塑性エラストマー中にペンタエリスリトールが安定に分散されている。当該多孔質体形成用組成物を用いることにより、連続気泡の多孔質体を形成することができる。
【0017】
[ペンタエリスリトール粉末]
ペンタエリスリトール粉末の平均粒子径の上限としては、25μm以下が好ましい。本明細書において、平均粒子径とは、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用い、湿式法で測定したメジアン径をいう。上記平均粒子径の下限としては、5μmが好ましい。平均粒子径が25μmを超えると、水滴の吸収性が低下するおそれがある。また、平均粒子径が5μm未満であると、材料組成の均一性が低下するおそれがあり、また、得られる多孔質体の孔径が小さくなり、顔料インク等を含浸して使用する場合に目詰まり等の不具合を招くおそれがある。
【0018】
ペンタエリスリトール粉末は1種又は2種以上を用いることができる。ペンタエリスリトール粉末を2種以上用いる場合、ブレンドした粉末の平均粒子径が25μm以下となるように、ブレンド比を調整することが好ましい。
【0019】
[ポリビニルアルコール]
ポリビニルアルコールは、熱可塑性エラストマーへのペンタエリスリトール粉末の分散性を助け、成形時の流動性を改善し、ペンタエリスリトールと共に溶出され、多孔質体の安定的な製造に寄与する成分である。
【0020】
ポリビニルアルコールとしては、熱安定性に優れる熱溶融成形用のポリビニルアルコールが好ましい。熱溶融成形用のポリビニルアルコールの融点は160〜180℃である。
【0021】
ポリビニルアルコールのけん化度の下限としては、65モル%が好ましく、70モル%がより好ましい。上記けん化度の上限としては、90モル%が好ましく、80モル%がより好ましい。
【0022】
ポリビニルアルコールの重合度の下限としては、500が好ましく、700がより好ましい。上記重合度の上限としては、1500が好ましく、1200がより好ましい。
【0023】
[熱可塑性エラストマー]
当該多孔質体形成用組成物において用いる熱可塑性エラストマーは、ウレタン系熱可塑性エラストマー又はポリアミド系熱可塑性エラストマーである。熱可塑性エラストマーとしては、ウレタン系及びポリアミド系以外にもポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリ塩化ビニル系等があるが、これらの熱可塑性エラストマーを用いた場合、水性液体の吸収速度に優れる多孔質体は得られない。
【0024】
ウレタン系熱可塑性エラストマー及ポリアミド系熱可塑性エラストマーは、いわゆるハードセグメントとソフトセグメントとから構成され、このセグメントの比率を変えることによって硬度が調整される。ハードセグメントが多いとエラストマーの硬度や弾性率(モデュラス)が大きくなり、極性も高くなり、水との接触角が小さくなり、多孔質体となった場合の水滴吸収性が良好となる。
【0025】
熱可塑性エラストマーのショアD硬度の下限としては、40°が好ましい。ショア硬度が40°未満であると、水滴吸収性が低下してしまうおそれがある。上記ショアD硬度の上限としては、60°が好ましい。ショアD硬度が60°を越えると、エラストマー弾性が劣り、多孔質体の柔軟性が悪くなるおそれがある。なお、本明細書において、ショアD硬度は、ISO868に準拠して測定された圧接後15秒経過後の硬度である。
【0026】
ウレタン系熱可塑性エラストマーを構成するソフトセグメントとしては、ポリテトラメチレンエーテルグリコ−ル、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートジオール等が挙げられる。これらの中でも、耐加水分解性に優れるポリエーテルグリコール又はポリカーボネートジオールが好ましい。ハードセグメントとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等とジオールとが反応して得られるポリウレタンなどが挙げられる。
【0027】
ポリアミド系熱可塑性エラストマーを構成するソフトセグメントとしては、例えばポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)、ポリエチレングリコ−ル(PEG)等が挙げられる。より柔軟性や弾性に優れたエラストマーを得る観点からは、PTMGが好ましい。ハードセグメントとして、例えばナイロン11、ナイロン12、ナイロン6等が挙げられる。融点の低いエラストマーを得る観点からは、ナイロン12又はナイロン11が好ましい。PTMGをソフトセグメントとし、ナイロン12をハードセグメントとしたポリアミド系エラストマーとしては、ショアD硬度25〜75のグレードが市販されている。
【0028】
当該多孔質体形成用組成物における上記ペンタエリスリトール粉末及び上記ポリビニルアルコールの合計含有量の下限としては、上記熱可塑性エラストマー100質量部に対して、200質量部が好ましく、250質量部がより好ましい。上記合計含有量の上限としては、400質量部が好ましく、350質量部がより好ましい。
【0029】
当該多孔質体形成用組成物が含有するその他の成分としては、例えば滑剤、離型剤等が挙げられる。滑剤は、樹脂を加工する際の樹脂と機械との間の摩擦の低減や、樹脂粒子同士の摩擦を低減することを目的として添加されるものであり、樹脂と機械との摩擦を低減する滑剤を外部滑剤、樹脂粒子同士の摩擦を低減する滑剤を内部滑剤と呼ぶ。
【0030】
滑剤としては、例えば炭化水素系(流動パラフィン、パラフィンワックス、合成ポリエチレンワックスなど)、脂肪酸系、高級アルコール系(ステアリン酸やステアリルアルコールなど)、脂肪族アミド系(ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミドの脂肪酸アミドと、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドのアルキレン脂肪酸アミドに大別できる)、金属石鹸系(ステアリン酸鉛・ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム・ステアリン酸マグネシウムなど)、エステル系(ステアリン酸モノグリセリドやステアリルステアレート、硬化油など)等が挙げられる。
【0031】
離型剤としては、例えばシリコンオイル、シリコン系離型剤、フッ素系離型剤等が挙げられる。
【0032】
当該多孔質体形成用組成物におけるその他の添加剤の含有量としては、熱可塑エラストマー100質量部に対して0〜0.5質量部以下とすることが好ましい。添加量が多すぎると、添加剤が多孔質対体を構成する熱可塑性エラストマー表面にブルームして、表面張力を下げ、水滴吸収性が損なわれてしまうことがあるので、注意が必要である。
【0033】
当該多孔質体形成用組成物は、ペンタエリスリトール粉末、ポリビニルアルコール及び熱可塑性エラストマーを混練することにより調製することができる。混練方法としては特に制限されず、通常の樹脂の混練手段により行うことができる。例えば、1軸又は2軸の押出混練装置、2本ロール(加熱可能)、ニーダー等を用いた混練方法が挙げられる。2軸混練装置を用いる場合、ペンタエリスリトール粉末、ポリビニルアルコール及び熱可塑性エラストマーをそれぞれ計量し、スーパーミキサーで混合後、材料を押出機に供給しながら連続混練される。また、ポリビニルアルコールと熱可塑性エラストマーとを混合し、2軸押出機に投入して溶融混練しておき、サイドフィーダーを用いてペンタエリスリトール粉末を定量供給しながら、混練してもよい。
【0034】
得られた多孔体成形用組成物はインジェクション成形、トランスファー成形、押出成形、プレス成型(圧縮成形)等の成型手段により、所望の形状に加工される。この場合の成型温度は、少なくとも熱可塑性エラストマーの融点以上の温度で行うことが好ましい。
【0035】
[多孔質体の製造方法]
当該多孔質体の製造方法は、上述の当該多孔質体形成用組成物からペンタエリスリトール及びポリビニルアルコールを溶出させる工程(以下、「溶出工程」ともいう)を備える。
【0036】
溶出工程では、上述の多孔質体形成用組成物を溶出溶媒に浸漬することにより、ペンタエリスリトールとポリビニルアルコールとが溶出されて、連続気泡の多孔質体となる。
【0037】
溶出工程において用いる溶出溶媒は水であることが好ましく、温水であることがより好ましい。温水を用いる場合、その温度の下限としては、40℃が好ましく、60℃がより好ましい。上記温度の上限としては、100℃が好ましく、80℃がより好ましい。上記下限に満たない場合、ペンタエリスリトールとポリビニルアルコールの溶出速度が遅く、溶出に時間がかかるおそれがある。
【0038】
溶出時間は、製品の厚みや大きさ、形状、溶出成分の比率、エラストマーの種類等に応じて適宜決定することができる。
【0039】
[多孔質体]
当該多孔質体は、上述の当該多孔質体形成用組成物から形成される。具体的な製造方法については、上述の当該多孔質体の製造方法として説明している。
【0040】
当該多孔質体は、連続気泡を有する多孔質体である。当該多孔質体の気孔率の下限としては、60%が好ましい。上記気孔率の上限としては、73%が好ましい。上記気孔率を上記範囲とすることにより、水性液体の吸収速度をより向上させることができる。なお、本明細書において、気孔率は、多孔質体の厚み及び縦横幅の寸法を測定して体積を求め、質量を測定し、下記式により算出される値である。
気孔率={(多孔質体の体積)−(多孔質体の質量/熱可塑性エラストマーの比重)}/(多孔質体の体積)×100
【0041】
当該多孔質体は、その表面に0.02mLの水滴を滴下した時の水滴吸収時間が15秒以下であることが好ましい。
【0042】
当該多孔質体は、上述の熱可塑性エラストマーから構成される多孔質体であるので、柔軟で感触がよい。したがって、例えばアイライナー用の筆ペン等に使用しても、皮膚への刺激性の少ない。また、アイライナーの組み立てにおいても、要求される自己吸収時間(数分でリキッドを吸収できる)を満足することができる。よって、当該多孔質体は、筆ペン、リキッドアイライナー等のペン先として好適に用いることができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
実施例及び比較例で用いた材料を下記表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
上記表1中、ショアD硬度はISO868に準拠して測定した圧接後15秒経過後の硬度であり、平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置((株)堀場製作所製の「LA−920」)を用い、湿式法で測定したメジアン値であり、融点・軟化点はDSCで測定した値である。
【0047】
<多孔質体形成用組成物の調製>
下記表2に示す各成分を計量し、3インチの2本ロールで混練を行った。混練時の混練温度は実施例3を除き185℃一定として行った。実施例3は190℃で行った。まず、ロールに熱可塑性エラストマーを投入し、溶融させて、巻き付かせた。次いでポリビニルアルコールを添加し、溶融させて均一化した。次いでペンタエリスリトール粉末を徐々に添加し、混練を行った。均一に混練が出来た時点で、混練物をロールナイフで掻き取って、ロールから取り外すことにより、多孔質体形成用組成物を調製した。下記表2における各成分の配合量の単位は質量部である。
【0048】
【表2】
【0049】
<多孔質体の調製>
上記得られた多孔質体形成用組成物を用い、以下の方法で多孔質体を調製した。上記多孔質体形成用組成物の混練物をプレス成形して2mmシートを成形した。シート成形は、10mm厚の金属板−テフロン(登録商標)シート−2mm耳枠(枠内に混練物を置く)−テフロン(登録商標)シート−10mm厚金属板をセットし、プレスの熱盤に挟んでプレス成形した。なお、成形前に、金属板はあらかじめ、プレスの熱盤に挟んで余熱しておいた。プレス熱盤の温度は上記表2に示す温度に設定して行った。プレス時間は5分とした。プレス後、金属板を取り出し、テフロン(登録商標)シート−「2mm耳枠+プレス成形物」−テフロン(登録商標)シートを金属板から取りだし、低温の金属板に挟んで冷却した。冷却後、テフロン(登録商標)シートを剥がし、耳枠から成型物を取り外して、成形物を得た。成形物は、5Lの温水浴中に浸漬し、緩やかに攪拌しながら、温水温度80℃でペンタエリスリトールとポリビニルアルコールの溶出を行った。なお、温水用の水はイオン交換水を用いた。溶出中は5回水を交換した。溶出は、23時間行なった。溶出試料は60℃の熱風オーブンで24時間乾燥して、多孔質体を得た。
【0050】
<評価>
得られた多孔質体について、下記の方法に従って、気孔率、水滴の吸収時間及びインクの吸い上げ速度を評価した。結果を下記表3に示す。
【0051】
[気孔率]
多孔質体の厚み、縦横幅の寸法を測定して体積を求め、質量を測定し、下記式により気孔率を算出した。
気孔率={(多孔質体の体積)−(多孔質体の質量/熱可塑性エラストマーの比重)}/(多孔質体の体積)×100
【0052】
[水滴の吸収時間]
水は蒸留水を用いた。乾燥され、1日大気中に放置された多孔質体の表面にハンディーピペッターを用いて、0.02ccの水滴を滴下した直後から水滴が完全に多孔質体に吸収されるまでの時間をストップウォッチを用いて計測した。2枚のシートの裏と表についてそれぞれ3回測定し、2×3×2=12点のデータを平均して、水滴吸収時間とした。
【0053】
[インクの吸い上げ速度]
2mm×4mm×49mmの多孔体シートを固定して、インク容器にシート先端が軽く触れるようにセットした。次いで、容器にインク((株)呉竹の「墨汁書道液BB1−18」)を流し込み、時間経過とともに写真撮影し、吸い上げ高さ(単位:mm)を写真から読み取った。
【0054】
【表3】
【0055】
表3の結果から明らかなように、実施例の多孔質体形成用組成物により形成された多孔質体は、比較例の多孔質体形成用組成物により形成された多孔質体と比較して、水滴吸収時間が短く、インクの吸い上げ速度が速いことが分かった。