特開2021-172746(P2021-172746A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ デクセリアルズ株式会社の特許一覧

特開2021-172746熱伝導性樹脂組成物及びこれを用いた熱伝導性シート
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-172746(P2021-172746A)
(43)【公開日】2021年11月1日
(54)【発明の名称】熱伝導性樹脂組成物及びこれを用いた熱伝導性シート
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/04 20060101AFI20211004BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20211004BHJP
   C08L 83/10 20060101ALI20211004BHJP
   C08K 3/28 20060101ALI20211004BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20211004BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20211004BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20211004BHJP
【FI】
   C08L83/04
   C08K5/13
   C08L83/10
   C08K3/28
   C08K3/22
   C08K7/06
   H01L23/36 D
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2020-78248(P2020-78248)
(22)【出願日】2020年4月27日
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113424
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 信博
(74)【代理人】
【識別番号】100185845
【弁理士】
【氏名又は名称】穂谷野 聡
(72)【発明者】
【氏名】松島 昌幸
【テーマコード(参考)】
4J002
5F136
【Fターム(参考)】
4J002CP04X
4J002CP14W
4J002CP17Y
4J002CP18Y
4J002DA019
4J002DE078
4J002DE148
4J002DF018
4J002EJ016
4J002EJ026
4J002EJ036
4J002EV047
4J002FA049
4J002FD018
4J002FD019
4J002FD076
4J002FD077
4J002FD208
4J002FD209
4J002FD20Y
4J002GQ00
5F136BC07
5F136FA16
5F136FA25
5F136FA53
5F136FA63
5F136FA82
(57)【要約】
【課題】高い熱伝導性を維持できる熱伝導性樹脂組成物及びこれを用いた熱伝導性シートの提供。
【解決手段】熱伝導性樹脂組成物は、付加反応型シリコーン樹脂と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤と、チオール系酸化防止剤と、親水性の官能基とシリコーン鎖とを有する分散剤と、熱伝導性充填剤とを含有し、熱伝導性充填剤を65〜90体積%含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
付加反応型シリコーン樹脂と、
ヒンダードフェノール系酸化防止剤と、
チオール系酸化防止剤と、
親水性の官能基とシリコーン鎖とを有する分散剤と、
熱伝導性充填剤とを含有し、
上記熱伝導性充填剤を65〜90体積%含有する、熱伝導性樹脂組成物。
【請求項2】
上記ヒンダードフェノール系酸化防止剤が下記式1で表される構造を有する、請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物;
(式1)
【化1】
式1中、
及びRがt−ブチル基を表し、Rが水素原子を表すか、
がメチル基を表し、Rがt−ブチル基を表し、Rが水素原子を表すか、
が水素原子を表し、Rがt−ブチル基を表し、Rがメチル基を表す。
【請求項3】
上記ヒンダードフェノール系酸化防止剤が、エステル結合を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤である、請求項1又は2に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項4】
上記分散剤が、ポリエーテル変性シリコーン系、ポリグリセリン変性シリコーン系、ポリエーテルアクリル変性シリコーン系、ポリグリセリンアクリル変性シリコーン系及びアクリルシリコーン系から選択されるシリコーン化合物を少なくとも1種含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項5】
上記熱伝導性充填剤が、窒化アルミニウムを含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項6】
上記熱伝導性充填剤が、窒化アルミニウム、金属水酸化物、金属酸化物及び炭素繊維の少なくとも1種を含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項7】
上記熱伝導性充填剤が、窒化アルミニウムとアルミナと酸化マグネシウムとの混合物である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項8】
付加反応型シリコーン樹脂と、
ヒンダードフェノール系酸化防止剤と、
チオール系酸化防止剤と、
親水性の官能基とシリコーン鎖とを有する分散剤と、
熱伝導性充填剤とを含有し、
硬化後の熱伝導率が2.5W/m・K以上を示す、熱伝導性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物の硬化物からなる、熱伝導性シート。
【請求項10】
熱伝導率が4.5W/m・K以上である、請求項9に記載の熱伝導性シート。
【請求項11】
200℃、24時間の条件でエージングしたときの下記式2で示す熱伝導率の維持率が70%以上である、請求項9又は10に記載の熱伝導性シート。
式2:(エージング処理後の熱伝導性シートの熱伝導率/エージング処理前の熱伝導性シートの熱伝導率)×100
【請求項12】
発熱体と放熱部材との間に、請求項1〜8のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物の硬化物が挟持されている、放熱構造。
【請求項13】
発熱体と放熱部材との間に、請求項9〜11のいずれか1項に記載の熱伝導性シートが挟持されている、放熱構造。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の放熱構造を備える、物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、熱伝導性樹脂組成物及びこれを用いた熱伝導性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスのパワー密度上昇に伴い、デバイスに使用される材料には、より高度な放熱特性が求められている。より高度な放熱特性を実現するために、サーマルインターフェースマテリアルと呼ばれる、半導体素子から発生する熱を、ヒートシンクまたは筐体等に逃がす経路の熱抵抗を緩和するための材料が、シート状、ゲル状、グリース状など多様な形態で用いられている。
【0003】
一般に、サーマルインターフェースマテリアルは、例えば、エポキシ樹脂やシリコーン樹脂に、熱伝導性充填材を分散した複合材料(熱伝導性樹脂組成物)が挙げられる。熱伝導性充填材としては、金属酸化物や金属窒化物が多く用いられている。また、樹脂の一例であるシリコーン樹脂は、耐熱性や柔軟性の観点から、広く用いられている。
【0004】
近年、半導体素子等の高密度実装や発熱量の増大により、熱伝導性シートには、高い熱伝導率が求められている。この課題に対して、例えば、熱伝導性樹脂組成物中の熱伝導性充填剤の添加量を増やすことが考えられる。
【0005】
しかし、例えば、付加反応型シリコーン樹脂をバインダ成分とした熱伝導性樹脂組成物において、熱伝導性充填剤中の不純物(例えば、イオン成分、N,P,S等の元素を含む有機化合物、Sn,Pb,Hg,Sb,Bi,As等の金属)により、付加反応型シリコーン樹脂の付加反応に用いる触媒(例えば白金触媒)が阻害されやすい。
【0006】
そのため、付加反応型シリコーン樹脂をバインダ成分とした熱伝導性樹脂組成物中の熱伝導性充填剤の含有量が増加すると、付加反応型シリコーン樹脂の硬化が十分に進まない傾向にあることに加えて、付加反応型シリコーン樹脂の含有量が相対的に減少するため、高温状態では付加反応型シリコーン樹脂の酸化作用が進みやすくなる。この酸化作用により、例えば熱伝導性樹脂組成物を用いた熱伝導性シートでは、高温下での長期使用時に初期の柔軟性が失われ、熱源との接触面の密着性も低下しやすくなる結果、接触抵抗が増大し、熱伝導性シートとしての本来の機能が低下してしまうおそれがある。
【0007】
したがって、付加反応型シリコーン樹脂をバインダ成分とした熱伝導性樹脂組成物において、高温状態での付加反応型シリコーン樹脂の酸化作用を抑制しつつ、シート状にしたときの柔軟性を維持するためには、熱伝導性樹脂組成物中の熱伝導性充填剤の含有量の上限は、熱伝導性樹脂組成物の硬化物からなる熱伝導性シートの熱伝導率が3W/m・K程度を示す程度に制限されてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2017/002474号
【特許文献2】特許6008706号
【特許文献3】特許6194861号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本技術は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、高い熱伝導性を維持できる熱伝導性樹脂組成物及びこれを用いた熱伝導性シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本件発明者が鋭意検討したところ、付加型シリコーン樹脂と熱伝導性充填剤とを含有する熱伝導性樹脂組成物において、特定の構造の酸化防止剤と特定の構造の分散剤とを併用することで、上述した課題を解決できることを見出した。
【0011】
本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、付加反応型シリコーン樹脂と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤と、チオール系酸化防止剤と、親水性の官能基とシリコーン鎖とを有する分散剤と、熱伝導性充填剤とを含有し、熱伝導性充填剤を65〜90体積%含有する。
【0012】
本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、付加反応型シリコーン樹脂と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤と、チオール系酸化防止剤と、親水性の官能基とシリコーン鎖とを有する分散剤と、熱伝導性充填剤とを含有し、硬化後の熱伝導率が2.5W/m・K以上を示す。
【0013】
本技術に係る熱伝導性シートは、上記熱伝導性樹脂組成物の硬化物からなる。
【発明の効果】
【0014】
本技術によれば、高い熱伝導性を維持できる熱伝導性樹脂組成物及びこれを用いた熱伝導性シートを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<熱伝導性樹脂組成物>
本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、付加反応型シリコーン樹脂と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤と、チオール系酸化防止剤と、親水性の官能基とシリコーン鎖とを有する分散剤と、熱伝導性充填剤とを含有し、熱伝導性充填剤を65〜90体積%含有する。
【0016】
<付加反応型シリコーン樹脂>
本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、成形加工性及び耐候性に優れるとともに、電子部品に対する密着性及び追従性が良好である理由から、バインダ樹脂としてシリコーン樹脂を用いる。特に、成形加工性、耐候性、密着性を良好にする観点から、液状シリコーンゲルの主剤と、硬化剤とから構成されるシリコーン樹脂を用いることが好ましい。そのようなシリコーン樹脂としては、例えば、付加反応型シリコーン樹脂、過酸化物を加硫に用いる熱加硫型ミラブルタイプのシリコーン樹脂(ミラブルゴム)等が挙げられる。特に、熱伝導性樹脂組成物を、発熱体と放熱部材との間に挟持される熱伝導性シートに適用する場合には、例えば、電子部品の発熱面とヒートシンク面との密着性が要求されるため、付加反応型シリコーン樹脂(付加反応型液状シリコーン樹脂)が好ましい。
【0017】
付加反応型シリコーン樹脂としては、例えば、(i)アルケニル基を有するシリコーンを主成分とし、(ii)硬化触媒を含有する主剤と、(iii)ヒドロシリル基(Si−H基)を有する硬化剤とからなる、2液型の付加反応型シリコーン樹脂が挙げられる。
【0018】
(i)アルケニル基を有するシリコーンとしては、例えば、ビニル基を有するポリオルガノシロキサンを用いることができる。(ii)硬化触媒は、(i)アルケニル基を有するシリコーン中のアルケニル基と、(iii)ヒドロシリル基を有する硬化剤中のヒドロシリル基との付加反応を促進するための触媒である。(ii)硬化触媒としては、ヒドロシリル化反応に用いられる触媒として周知の触媒が挙げられ、例えば、白金族系硬化触媒、例えば白金、ロジウム、パラジウムなどの白金族金属単体や塩化白金などを用いることができる。(iii)ヒドロシリル基を有する硬化剤としては、例えば、ヒドロシリル基を有するポリオルガノシロキサンを用いることができる。
【0019】
付加反応型シリコーン樹脂としては、熱硬化性樹脂組成物を硬化させた硬化物の有する硬度などを考慮して、所望の市販品を用いることができる。例えば、CY52−276、CY52−272、EG−3100、EG−4000、EG−4100、527(以上、東レ・ダウコーニング社製)、KE−1800T、KE−1031、KE−1051J(以上、信越化学工業社製)などが挙げられる。付加反応型シリコーン樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
<酸化防止剤>
本技術に係る熱硬化性樹脂組成物は、酸化防止剤として、一次酸化防止剤としてのヒンダードフェノール系酸化防止剤と、二次酸化防止剤としてのチオール系酸化防止剤とを併用する。ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、例えば、ラジカル(パーオキシラジカル)を捕捉して、付加反応型シリコーン樹脂の酸化劣化を防止する。チオール系酸化防止剤は、例えば、ヒドロオキサイドラジカルを分解して、付加反応型シリコーン樹脂の酸化劣化を抑制する。
【0021】
<ヒンダードフェノール系酸化防止剤>
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール骨格として下記式1で表される構造を有するものが挙げられる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、下記式1で表される骨格を1つ以上有することが好ましく、下記式1で表される骨格を2つ以上有していてもよい。
【0022】
(式1)
【化1】
【0023】
式1中、R及びRがt−ブチル基を表し、Rが水素原子を表す場合(ヒンダードタイプ)、Rがメチル基を表し、Rがt−ブチル基を表し、Rが水素原子を表す場合(セミヒンダードタイプ)、Rが水素原子を表し、Rがt−ブチル基を表し、Rがメチル基を表す場合(レスヒンダードタイプ)が好ましい。高温環境下での長期熱安定性の観点からは、セミヒンダードタイプ又はヒンダードタイプが好ましい。また、ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、1分子中に、上述した式1で表される骨格を3つ以上有し、3つ以上の式1で表される骨格が、炭化水素基、又は、炭化水素基と−O−と−CO−との組み合わせからなる基で連結された構造であることが好ましい。炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれであってもよい。炭化水素基の炭素数は、例えば3〜8とすることができる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の分子量は、例えば300〜850とすることができ、500〜800とすることもできる。
【0024】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、その構造中に、エステル結合を有するものも好ましい。エステル結合を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤を用いることにより、付加反応型シリコーン樹脂の酸化をより効果的に防止することができる。このようなフェノール系酸化防止剤としては、3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリル、テトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール、2,2’−ジメチル−2,2’−(2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン−3,9−ジイル)ジプロパン−1,1’−ジイル=ビス[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロパノアート]などが挙げられる。また、ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、その構造中に、エステル結合を有しないもの、例えば1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタンなどを用いることもできる。
【0025】
フェノール系酸化防止剤の市販品としては、アデカスタブAO−30、アデカスタブAO−50、アデカスタブAO−60、アデカスタブAO−80(以上、ADEKA社製)、イルガノックス1010、イルガノックス1035、イルガノックス1076、イルガノックス1135(以上、BASF社製)などが挙げられる。フェノール系酸化防止剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
フェノール系酸化防止剤の含有量の下限値は、例えば、付加反応型シリコーン樹脂100重量部に対して、0.1重量部以上とすることができ、好ましくは0.5重量部以上である。また、フェノール系酸化防止剤の含有量の上限値は、例えば、付加反応型シリコーン樹脂100重量部に対して、10重量部以下とすることができ、好ましくは5重量部以下である。フェノール系酸化防止剤を2種以上併用するときは、その合計量が上記含有量の範囲を満たすことが好ましい。
【0027】
<チオール系酸化防止剤>
チオール系酸化防止剤としては、チオエーテル骨格を有するタイプや、ヒンダードフェノール骨格を有するタイプなどが挙げられる。例えば、チオール系酸化防止剤としては、3,3’−チオビスプロピオン酸ジトリデシル、テトラキス[3−(ドデシルチオ)プロピオン酸]ペンタエリトリトール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール等が挙げられる。
【0028】
チオール系酸化防止剤の市販品としては、アデカスタブAO−412S、アデカスタブAO−503、アデカスタブAO−26(以上、ADEKA社製)、スミライザーTP−D(住友化学社製)、Irganox1520L(BASFジャパン社製)などが挙げられる。これらのチオール系酸化防止剤の中でも、より硬化阻害が少ない点から、テトラキス[3−(ドデシルチオ)プロピオン酸]ペンタエリトリトール(市販品:アデカスタブAO−412S、スミライザーTP−D(住友化学社製)、Irganox1520Lが好ましい。チオール系酸化防止剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
熱硬化性樹脂組成物中のチオール系酸化防止剤の含有量は、フェノール系酸化防止剤と同量程度とするか、フェノール系酸化防止剤よりも多くすることが好ましい。例えば、チオール系酸化防止剤の含有量の下限値は、例えば、付加反応型シリコーン樹脂100重量部に対して、0.1重量部以上とすることができる。また、チオール系酸化防止剤の含有量の上限値は、例えば、付加反応型シリコーン樹脂100重量部に対して、20重量部以下とすることができ、好ましくは10重量部以下である。チオール系酸化防止剤を2種以上併用するときは、その合計量が上記含有量の範囲を満たすことが好ましい。
【0030】
<分散剤>
本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、親水性の官能基とシリコーン鎖とを有する分散剤(以下、「特定構造の分散剤」ともいう。)を含有する。このような特定構造の分散剤は、シランカップリング剤やシラン剤などの分散剤として用いられる一般的なシリコーン化合物(例えば、アルキルアルコキシシラン)と比較して、熱伝導性シートの酸化をより効果的に抑制することができ、熱伝導性シートの耐熱性への寄与が大きくなる。
【0031】
特定構造の分散剤としては、シリコーン鎖(シリコーン骨格)と、親水性の官能基とを有する共重合体であるシリコーン化合物や、シリコーン鎖と、親水性の官能基とを有するシリコーン化合物の変性物などが挙げられる。特定構造の分散剤は、カルボキシ基、エポキシ基、カルボニル基、水酸基、エーテル基等の親水性の官能基を有していてもよいし、親水性官能基を含む構造(親水性構造)を有していてもよい。親水性官能基を含む構造としては、例えばポリグリセリン鎖、ポリエーテル鎖などが挙げられる。シリコーン鎖は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。
【0032】
特定構造の分散剤としては、例えば、ポリエーテル変性シリコーン系、ポリグリセリン変性シリコーン系、ポリエーテルアクリル変性シリコーン系、ポリグリセリンアクリル変性シリコーン系、アクリルシリコーン系などのシリコーン化合物が挙げられる。これらの特定構造の分散剤の中でも、分散性並びに熱硬化性樹脂組成物を熱伝導性シートとしたときの耐熱性寄与の点でポリグリセリン変性シリコーン系及びアクリルシリコーン系の化合物が好ましい。ポリグリセリン変性シリコーン系の化合物としては、例えば、ポリグリセリル−3ポリジメチルシロキシエチルジメチコンが挙げられる。アクリルシリコーン系の化合物としては、例えば、アクリルポリマーとジメチルポリシロキサンからなるグラフト共重合体、ステアリル変性アクリレートシリコーン、アクリル酸アルキル共重合体メチルポリシロキサンエステルなどが挙げられる。特定構造の分散剤の市販品としては、KP−541、KP−561P、KP−574、KP−578、KF−6106(以上、信越シリコーン社製)、サイマック(登録商標)US−350(東亞合成社製)などが挙げられる。特定構造の分散剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
特定構造の分散剤の含有量の下限値は、例えば、熱伝導性充填剤100重量部に対して0.1重量部以上とすることができ、好ましくは0.3重量部以上である。また、特定構造の分散剤の含有量の上限値は、例えば、熱伝導性充填剤100重量部に対して、2重量部以下とすることができ、好ましくは1重量部以下である。特定構造の分散剤を2種以上併用するときは、その合計量が上記含有量の範囲を満たすことが好ましい。
【0034】
<熱伝導性充填剤>
熱伝導性充填剤は、所望とする熱伝導率や充填性を鑑み、公知の物から選択することができ、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物、アルミニウム、銅、銀などの金属、アルミナ、酸化マグネシウムなどの金属酸化物、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化珪素などの金属窒化物、カーボンナノチューブ、金属シリコン、繊維フィラー(ガラス繊維、炭素繊維)が挙げられる。熱伝導性充填剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、例えば良好な難燃性を実現する点から、熱伝導性充填剤として窒化物を含有することが好ましい。窒化物としては、金属窒化物が好ましく、窒化アルミニウムがより好ましい。また、本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、熱伝導性充填剤として、窒化アルミニウム、金属水酸化物、金属酸化物及び炭素繊維の少なくとも1種を含有してもよい。金属水酸化物及び金属酸化物としては、水酸化アルミニウム、アルミナ、窒化アルミニウム、酸化マグネシウムなどが挙げられる。例えば、熱伝導性充填剤としては、アルミナのみ、窒化アルミニウムのみ又は炭素繊維のみを用いてもよい。特に、本技術に係る熱伝導性樹脂組成物では、熱伝導性充填剤として、難燃性と熱伝導性の観点から、窒化アルミニウムとアルミナと酸化マグネシウムとの混合物を用いることが好ましく、この混合物に炭素繊維をさらに含有させたものを用いてもよい。
【0036】
熱伝導性樹脂組成物中の熱伝導性充填剤の含有量は、所望の熱伝導率などに応じて適宜決定することができ、熱伝導性樹脂組成物中における体積含有量として65〜90体積%とすることができる。熱伝導性樹脂組成物中の熱伝導性充填剤の含有量が65体積%未満であると、十分な熱伝導率を得るのが難しい傾向にある。また、熱伝導性樹脂組成物中の熱伝導性充填剤の含有量が90体積%を超えると、熱伝導性充填剤の充填が難しい傾向にある。熱伝導性樹脂組成物中の熱伝導性充填剤の含有量は、70体積%以上とすることもでき、85体積%以下とすることもできる。熱伝導性充填剤を2種以上併用するときは、その合計量が上記含有量の範囲を満たすことが好ましい。
【0037】
また、熱伝導性充填剤が窒化アルミニウムを含有する場合、熱伝導性充填剤中の窒化アルミニウムの含有量は、1〜100体積%とすることができる。
【0038】
以上のように、本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、付加反応型シリコーン樹脂と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤と、チオール系酸化防止剤と、特定構造の分散剤と、熱伝導性充填剤とを含有し、熱伝導性充填剤を65〜90体積%含有する。このように、付加反応型シリコーン樹脂と、親水性の官能基とシリコーン鎖とを有する分散剤と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤と、チオール系酸化防止剤とを併用することにより、その相乗効果で付加反応型シリコーン樹脂の酸化劣化をより効果的に防止することができ、熱伝導性シートとしたときに高い熱伝導性を維持することができる。また、本技術に係る熱伝導性樹脂組成物では、熱伝導性樹脂組成物中に熱伝導性充填剤を65〜90体積%含有しても、高温状態での付加反応型シリコーン樹脂の酸化作用を抑制しつつ、シート状にしたときの柔軟性を維持することができる。
【0039】
また、本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、付加反応型シリコーン樹脂と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤と、チオール系酸化防止剤と、親水性の官能基とシリコーン鎖とを有する分散剤と、熱伝導性充填剤とを含有し、硬化後の熱伝導率が2.5W/m・K以上を示すものであってもよい。このような態様でも、本技術の効果を奏することができる。
【0040】
なお、本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、本技術の効果を損なわない範囲で、上述した成分以外の他の成分をさらに含有してもよい。例えば、本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、酸化防止剤として、上述したチオール系酸化防止剤以外に、リン系酸化防止剤を含有することができる。しかし、リン系酸化防止剤は、熱伝導性樹脂組成物中に熱伝導性充填剤を高充填したときに、付加反応型シリコーン樹脂の硬化反応を阻害しやすい傾向にある。そのため、本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、リン系酸化防止剤を実質的に含有しないことが好ましく、例えば、リン系酸化防止剤の含有量が1質量%以下であることが好ましい。
【0041】
本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、例えば、上述した各成分を混錬機(遊星式混錬機、ボールミル、ヘンシェルミキサーなど)を用いて混錬して得ることができる。なお、バインダ樹脂である付加反応型シリコーン樹脂として、2液型の付加反応型シリコーン樹脂を用いる場合は、主剤と硬化剤と熱伝導性充填剤を一度に混合するのではなく、熱伝導性充填剤の所要量を主剤と硬化剤それぞれに分割して混合しておき、使用時に主剤を含む成分と硬化剤を含む成分とを混合するようにしてもよい。
【0042】
<熱伝導性シート>
本技術に係る熱伝導性シートは、上述した熱伝導性樹脂組成物の硬化物からなる。本技術に係る熱伝導性シートは、上述した熱硬化性樹脂組成物を用いることで、熱伝導率を4.5W/m・K以上とすることもでき、3.0W/m・K以上とすることもでき、3.5W/m・K以上とすることもでき、4.0W/m・K以上とすることもでき、4.5W/m・K以上とすることもでき、5.0W/m・K以上とすることもできる。熱伝導性シートの熱伝導率の上限値は、特に限定されないが、例えば、7.0W/m・K以下とすることができる。
【0043】
また、本技術に係る熱伝導性シートは、例えば、200℃、24時間の条件でエージングしたときの下記式2で示す熱伝導率の維持率を70%以上とすることができ、75%以上とすることもでき、80%以上とすることもでき、90%以上とすることもできる。
式2:(エージング処理後の熱伝導性シートの熱伝導率/エージング処理前の熱伝導性シートの熱伝導率)×100
【0044】
本技術に係る熱伝導性シートは、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、ポリオレフィン、ポリメチルペンテン、グラシン紙等から形成された剥離フィルム上に、熱伝導性樹脂組成物を所望の厚みで塗布し、加熱することで、バインダ樹脂(付加反応型シリコーン樹脂)を硬化させて得られる。熱伝導性シートの厚みは、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、0.05〜5mmとすることができる。
【0045】
以上のように、本技術に係る熱伝導性シートは、上述した熱伝導性樹脂組成物からなるため、付加反応型シリコーン樹脂と、親水性の官能基とシリコーン鎖とを有する分散剤と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤と、チオール系酸化防止剤との相乗効果で付加反応型シリコーン樹脂の酸化劣化をより効果的に防止することができ、高い熱伝導性を維持することができる。また、本技術に係る熱伝導性シートは、熱伝導性充填剤を65〜90体積%含有する熱伝導性樹脂組成物からなるものであっても、高温状態での付加反応型シリコーン樹脂の酸化作用を抑制しつつ、柔軟性を維持することができる。
【0046】
本技術に係る放熱構造は、発熱体と放熱部材との間に、上述した熱伝導性樹脂組成物の硬化物、例えば熱伝導性シートが挟持されている。発熱体としては、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、フラッシュメモリなどの集積回路素子、トランジスタ、抵抗器など、電気回路において発熱する電子部品等が挙げられる。また、発熱体には、通信機器における光トランシーバー等の光信号を受信する部品も含まれる。放熱部材としては、例えば、ヒートシンクやヒートスプレッダなど、集積回路素子やトランジスタ、光トランシーバー筐体などと組み合わされて用いられるものが挙げられる。また、電気回路が収納されている筐体そのものを放熱部材としてもよい。本技術に係る放熱構造は、例えば、集積回路素子とヒートスプレッダとの間、ヒートスプレッダとヒートシンクとの間の各々に、上述した熱硬化性樹脂組成物の硬化物、特に熱伝導性シートが挟持されていてもよい。
【0047】
本技術に係る物品は、上述した放熱構造を備える。このような放熱構造を備える物品としては、例えば、パーソナルコンピュータ、サーバ機器、携帯電話、無線基地局、自動車等輸送機械のエンジン、動力伝達系、操舵系、エアコンなど電装品の制御に用いられるECU(Electronic Control Unit)が挙げられる。
【実施例】
【0048】
以下、本技術の実施例について説明する。本実施例では、表1に示す原料からなる熱伝導性樹脂組成物を得た。そして、熱伝導性樹脂組成物から得られた熱伝導性シートについて、表1,2に示す試験を実施した。なお、本技術は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
<熱伝導性樹脂組成物の作製>
本実施例で用いた原料は、以下の通りである。
【0050】
[付加型シリコーン樹脂]
シリコーン樹脂A(製品名:CY52−276A(東レ・ダウコーニング社製))
シリコーン樹脂B(製品名:CY52−276B(東レ・ダウコーニング社製))
【0051】
[分散剤]
アクリルポリマーとジメチルポリシロキサンからなるグラフト共重合体(製品名:KP−561P(信越シリコーン社製))
アクリルポリマーとジメチルポリシロキサンからなるグラフト共重合体(製品名:KP−578(信越シリコーン社製))
シリコーン鎖が分岐したポリグリセリン変性シリコーン界面活性剤(製品名:KF−6106(信越シリコーン社製))
アルキルトリアルコキシシラン(製品名:Z−6210(東レ・ダウコーニング社製))
【0052】
[酸化防止剤]
フェノール系酸化防止剤(製品名:AO−80(ADEKA社製))
フェノール系酸化防止剤(製品名:AO−30(ADEKA社製))
硫黄系酸化防止剤(製品名:SUMILIZER(登録商標) TP−D(住友化学社製))
硫黄系酸化防止剤(製品名:Irganox 1520L(BASFジャパン社製))
【0053】
[熱伝導性充填剤]
窒化アルミニウムとアルミナ(球状アルミナ)と酸化マグネシウムとの混合物
【0054】
<実施例1〜3、比較例1〜8>
熱伝導性充填剤として、窒化アルミニウム、アルミナ、酸化マグネシウムの混合量は、シリコーン樹脂100重量部に対してそれぞれ550重量部、365重量部、650重量部とし、シリコーン樹脂に一種ずつ添加しては攪拌した。攪拌には遊星撹拌機を用い、回転数は1200rpmとした。しかる後、バーコーターを用いて熱伝導性樹脂組成物を厚み2mmとなるように塗布し、80℃で6時間加熱して熱伝導性シートを得た。
【0055】
<実施例4〜6>
実施例4〜6では、酸化防止剤の量を変更したこと以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを得た。
【0056】
<実施例7>
実施例7では、熱伝導性充填剤として、窒化アルミニウム、アルミナ、酸化マグネシウムの混合量を、シリコーン樹脂100重量部に対してそれぞれ330重量部、220重量部、385重量部とし、シリコーン樹脂に一種ずつ添加しては攪拌したこと以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを得た。
【0057】
<実施例8>
実施例8では、熱伝導性充填剤として、窒化アルミニウム、アルミナ、酸化マグネシウムの混合量を、シリコーン樹脂100重量部に対してそれぞれ219重量部、146重量部、255重量部とし、シリコーン樹脂に一種ずつ添加しては攪拌したこと以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを得た。
【0058】
<実施例9>
実施例9では、熱伝導性充填剤として、窒化アルミニウム、アルミナ、酸化マグネシウムの混合量を、シリコーン樹脂100重量部に対してそれぞれ742重量部、495重量部、866重量部とし、シリコーン樹脂に一種ずつ添加しては攪拌したこと以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを得た。
【0059】
<実施例10,11>
実施例10,11では、酸化防止剤の種類を変更したこと以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを得た。
【0060】
[分散性]
熱伝導性充填剤を除く成分を混合した熱伝導性樹脂組成物中に、熱伝導性充填剤を一種ずつ添加して攪拌した。攪拌には、市販の自転公転撹拌機(自公転式真空撹拌脱泡ミキサー(装置名:V−mini 300、EME社製)を用い、回転数を1200rpmとした。熱伝導性樹脂組成物中に熱伝導性充填剤が分散するまでの時間について評価した。結果を表1に示す。
A:2分以内
B:2分超、4分以内
C:4分超、6分以内
D:6分超、10分未満
E:10分以上攪拌しても全く混合できず
【0061】
[初期熱伝導率]
ASTM−D5470に準拠した熱抵抗測定装置を用いて、荷重1kgf/cmをかけて熱伝導性シートの厚み方向の初期熱伝導率(W/m・K)を測定した。測定時のシート温度は45℃であった。結果を表1,2に示す。
【0062】
[200℃、24時間エージング後の熱伝導率]
200℃、24時間のエージング(超加速試験)処理後の熱伝導性シートの厚み方向の熱伝導率(W/m・K)を測定した。結果を表1,2に示す。表中、「−」は評価ができなかったことを表す。
【0063】
[初期熱伝導率維持率]
エージング処理により熱伝導性シートが劣化すると、熱伝導性シートが硬くなり、シート表面の接触抵抗が大きくなるため、見かけ上の熱伝導率が低下する。そのため、熱伝導性シートの熱伝導性及び柔軟性の観点から、初期熱伝導率維持率が高いことが重要である。初期熱伝導率維持率(%)は、下記式2で示すように、エージング処理前の熱伝導性シートの熱伝導率(初期熱伝導率)と、エージング処理後の熱伝導性シートの熱伝導率とから求めた。結果を表1,2に示す。表中、「−」は評価ができなかったことを表す。
式2:(エージング処理後の熱伝導性シートの熱伝導率/エージング処理前の熱伝導性シートの熱伝導率(初期熱伝導率))×100
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
実施例1〜11では、付加反応型シリコーン樹脂と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤と、チオール系酸化防止剤と、親水性の官能基とシリコーン鎖とを有する分散剤と、熱伝導性充填剤を65〜90体積%とを含有する熱伝導性樹脂組成物を用いたため、初期熱伝導率維持率が良好な熱伝導性シートが得られることが分かった。このように、実施例1〜11で得られた熱伝導性シートは、高温環境下であっても、高い熱伝導性及び柔軟性を維持することが可能であることが分かった。
【0067】
特に、熱伝導性樹脂組成物中の熱伝導性充填剤の含有量が80体積%以上であり、熱伝導性シートの初期熱伝導率が4.5W/m・K以上を示す実施例1〜6,9〜11でも、熱伝導性シートの初期熱伝導率維持率が良好であることが分かった。
【0068】
一方、比較例1では、ヒンダードフェノール系酸化防止剤と、チオール系酸化防止剤と、親水性の官能基とシリコーン鎖とを有する分散剤とを含有しない熱伝導性樹脂組成物を用いため、組成物の分散性が良好ではなく、熱伝導性シートとするのが難しいことが分かった。
【0069】
比較例2では、ヒンダードフェノール系酸化防止剤と、チオール系酸化防止剤と、親水性の官能基とシリコーン鎖とを有する分散剤とを含有しない熱伝導性樹脂組成物を用いため、初期熱伝導率維持率が良好ではないことが分かった。
【0070】
比較例3では、ヒンダードフェノール系酸化防止剤と、チオール系酸化防止剤とを含有しない熱伝導性樹脂組成物を用いため、初期熱伝導率維持率が良好ではないことが分かった。
【0071】
比較例4では、チオール系酸化防止剤を含有しない熱伝導性樹脂組成物を用いため、初期熱伝導率維持率が良好ではないことが分かった。
【0072】
比較例5では、チオール系酸化防止剤と、親水性の官能基とシリコーン鎖とを有する分散剤とを含有しない熱伝導性樹脂組成物を用いため、初期熱伝導率維持率が良好ではないことが分かった。
【0073】
比較例6では、親水性の官能基とシリコーン鎖とを有する分散剤を含有しない熱伝導性樹脂組成物を用いため、初期熱伝導率維持率が良好ではないことが分かった。
【0074】
比較例7では、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含有しない熱伝導性樹脂組成物を用いため、初期熱伝導率維持率が良好ではないことが分かった。
【0075】
比較例8では、ヒンダードフェノール系酸化防止剤と、親水性の官能基とシリコーン鎖とを有する分散剤とを含有しない熱伝導性樹脂組成物を用いため、初期熱伝導率維持率が良好ではないことが分かった。
【手続補正書】
【提出日】2021年4月5日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0019
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0019】
付加反応型シリコーン樹脂としては、熱伝導性樹脂組成物を硬化させた硬化物の有する硬度などを考慮して、所望の市販品を用いることができる。例えば、CY52−276、CY52−272、EG−3100、EG−4000、EG−4100、527(以上、東レ・ダウコーニング社製)、KE−1800T、KE−1031、KE−1051J(以上、信越化学工業社製)などが挙げられる。付加反応型シリコーン樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0020
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0020】
<酸化防止剤>
本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、酸化防止剤として、一次酸化防止剤としてのヒンダードフェノール系酸化防止剤と、二次酸化防止剤としてのチオール系酸化防止剤とを併用する。ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、例えば、ラジカル(パーオキシラジカル)を捕捉して、付加反応型シリコーン樹脂の酸化劣化を防止する。チオール系酸化防止剤は、例えば、ヒドロオキサイドラジカルを分解して、付加反応型シリコーン樹脂の酸化劣化を抑制する。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0029
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0029】
熱伝導性樹脂組成物中のチオール系酸化防止剤の含有量は、フェノール系酸化防止剤と同量程度とするか、フェノール系酸化防止剤よりも多くすることが好ましい。例えば、チオール系酸化防止剤の含有量の下限値は、例えば、付加反応型シリコーン樹脂100重量部に対して、0.1重量部以上とすることができる。また、チオール系酸化防止剤の含有量の上限値は、例えば、付加反応型シリコーン樹脂100重量部に対して、20重量部以下とすることができ、好ましくは10重量部以下である。チオール系酸化防止剤を2種以上併用するときは、その合計量が上記含有量の範囲を満たすことが好ましい。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0032
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0032】
特定構造の分散剤としては、例えば、ポリエーテル変性シリコーン系、ポリグリセリン変性シリコーン系、ポリエーテルアクリル変性シリコーン系、ポリグリセリンアクリル変性シリコーン系、アクリルシリコーン系などのシリコーン化合物が挙げられる。これらの特定構造の分散剤の中でも、分散性並びに熱伝導性樹脂組成物を熱伝導性シートとしたときの耐熱性寄与の点でポリグリセリン変性シリコーン系及びアクリルシリコーン系の化合物が好ましい。ポリグリセリン変性シリコーン系の化合物としては、例えば、ポリグリセリル−3ポリジメチルシロキシエチルジメチコンが挙げられる。アクリルシリコーン系の化合物としては、例えば、アクリルポリマーとジメチルポリシロキサンからなるグラフト共重合体、ステアリル変性アクリレートシリコーン、アクリル酸アルキル共重合体メチルポリシロキサンエステルなどが挙げられる。特定構造の分散剤の市販品としては、KP−541、KP−561P、KP−574、KP−578、KF−6106(以上、信越シリコーン社製)、サイマック(登録商標)US−350(東亞合成社製)などが挙げられる。特定構造の分散剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0042
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0042】
<熱伝導性シート>
本技術に係る熱伝導性シートは、上述した熱伝導性樹脂組成物の硬化物からなる。本技術に係る熱伝導性シートは、上述した熱伝導性樹脂組成物を用いることで、熱伝導率3.0W/m・K以上とすることもでき、3.5W/m・K以上とすることもでき、4.0W/m・K以上とすることもでき、4.5W/m・K以上とすることもでき、5.0W/m・K以上とすることもできる。熱伝導性シートの熱伝導率の上限値は、特に限定されないが、例えば、7.0W/m・K以下とすることができる。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0046
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0046】
本技術に係る放熱構造は、発熱体と放熱部材との間に、上述した熱伝導性樹脂組成物の硬化物、例えば熱伝導性シートが挟持されている。発熱体としては、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、フラッシュメモリなどの集積回路素子、トランジスタ、抵抗器など、電気回路において発熱する電子部品等が挙げられる。また、発熱体には、通信機器における光トランシーバー等の光信号を受信する部品も含まれる。放熱部材としては、例えば、ヒートシンクやヒートスプレッダなど、集積回路素子やトランジスタ、光トランシーバー筐体などと組み合わされて用いられるものが挙げられる。また、電気回路が収納されている筐体そのものを放熱部材としてもよい。本技術に係る放熱構造は、例えば、集積回路素子とヒートスプレッダとの間、ヒートスプレッダとヒートシンクとの間の各々に、上述した熱伝導性樹脂組成物の硬化物、特に熱伝導性シートが挟持されていてもよい。