特開2021-173629(P2021-173629A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-173629(P2021-173629A)
(43)【公開日】2021年11月1日
(54)【発明の名称】定量方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 31/00 20060101AFI20211004BHJP
   G01N 31/22 20060101ALI20211004BHJP
【FI】
   G01N31/00 T
   G01N31/22 122
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2020-77334(P2020-77334)
(22)【出願日】2020年4月24日
(71)【出願人】
【識別番号】000175272
【氏名又は名称】三浦工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】田中 達也
(72)【発明者】
【氏名】大崎 和隆
(72)【発明者】
【氏名】松友 伸司
(72)【発明者】
【氏名】高井 政貴
【テーマコード(参考)】
2G042
【Fターム(参考)】
2G042AA01
2G042BC07
2G042CA02
2G042CB03
2G042DA06
2G042DA08
2G042EA03
2G042FA06
2G042FA14
2G042FB02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】液状の発色試薬を用いて、簡易にマンガンの含有量を定量することが可能な定量方法を提供する。
【解決手段】検水中に含まれるマンガンの含有量を定量する定量方法であって、陽イオン交換能を持つ吸着体にマンガンを吸着させる吸着工程と、マンガンの錯体を形成するキレート剤及び抽出剤としてのアルカリ金属塩を含む抽出薬液を用いて、吸着体に吸着させたマンガンを抽出する抽出工程と、抽出工程において回収した抽出液に対し、マンガンの発色試薬を添加し発色させる発色工程と、比色法により、含有量を定量する定量工程と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検水中に含まれるマンガンの含有量を定量する定量方法であって、
マンガン吸着能を持つ吸着体に前記マンガンを吸着させる吸着工程と、
マンガンとの錯体を形成するキレート剤及び抽出剤としてのアルカリ金属塩を含む抽出薬液を用いて、前記吸着体に吸着させた前記マンガンを抽出する抽出工程と、
前記抽出工程において回収した抽出液に対し、前記マンガンの発色試薬を添加し発色させる発色工程と、
比色法により、前記含有量を定量する定量工程と、を有する定量方法。
【請求項2】
前記抽出薬液として、前記吸着させた前記マンガンを濃縮回収できる量の前記抽出薬液を用いる、請求項1に記載の定量方法。
【請求項3】
前記発色試薬は過ヨウ素酸塩である、請求項1又は請求項2に記載の定量方法。
【請求項4】
前記キレート剤はクエン酸又はその塩、及び二リン酸塩の少なくともいずれか1種を含む、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の定量方法。
【請求項5】
前記吸着体は陽イオン交換樹脂である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の定量方法。
【請求項6】
前記アルカリ金属塩は硝酸塩である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の定量方法。
【請求項7】
検水中に含まれるマンガンの含有量を定量する定量装置であって、
マンガン吸着能を持つ吸着体に前記マンガンを吸着させ、マンガンとの錯体を形成するキレート剤及び抽出剤としてのアルカリ金属塩を含む抽出薬液を用いて、前記吸着体に吸着させた前記マンガンを抽出する濃縮ユニットと、
前記マンガンを抽出する際に回収した抽出液に対し、前記マンガンの発色試薬を添加し発色させ、比色法により、前記含有量を定量する比色ユニットと、
を備える定量装置。




【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検水中に含まれるマンガンの含有量を定量する定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
専用水道により供給される水は水質基準に適合しなければならない。また、食品工場、機械工場、化学工場等の、特に食品製造に供される原料用水、製品処理水、洗浄用水、冷却用水などには衛生的で安全である事が求められる。これらの水質基準を定める水道法や食品衛生法には、例えば鉄やマンガンの水質基準が有り定期的な水質検査が必要である。
【0003】
しかし原水に鉄やマンガンを含む場合も多く、それを専用水道や食品製造用水として用いる為には、除鉄除マンガン装置を設置することにより、鉄およびマンガンを除去することが多い。例えば、特許文献1に記載の技術は、除鉄除マンガン装置の上流側において、原水に含まれる鉄を不溶性の鉄化合物(酸化水酸化鉄(III)等)に酸化させるために、原水に次亜塩素酸ナトリウムを添加する。そして、不溶性の鉄化合物は、除鉄除マンガン装置のろ材によってろ過することで除去される。また、除鉄除マンガン装置に供給される原水に含まれるマンガンは、除鉄除マンガン装置のろ材と接触したときに、次亜塩素酸ナトリウムによる酸化作用とろ材の触媒作用によりろ材表面で酸化され、不溶性のマンガンとなって吸着され、除去される。
【0004】
しかし、除鉄除マンガン装置において、原水中のマンガンを完全に除去することができず、除鉄除マンガン装置から特にマンガンがリークした場合には、それが数十ppbという微量であっても、塩素によって微量のマンガンが着色されることに起因する黒水障害が発生したり、後段に設置されたフィルタ等を閉塞したりする。そのため、除鉄除マンガン装置からの供給水を水道水や食品製造用水として用いる場合には、マンガンのリークを高精度に定量できる手法が求められている。
【0005】
この点、非特許文献1に開示される技術は、水中に溶存する数十ppbレベルのマンガンを、現場で目視比色定量する方法として、溶存マンガンをIOによって紅色のMnOに酸化し、ベンゼトニウムイオン(Ben)を添加してナイロン製メンブランフィルター表面に濃縮する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−173101号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「メンブランフィルター上に捕集されるイオン会合体相への抽出を利用する低濃度溶存マンガンのオンサイト目視比色定量」村居景太、本多宏子、奥村浩、岡内完治(分析化学(BUNSEKI KAGAKU), Vol.60,No.6,pp.507−514(2011))
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1で開示される方法においては、粉末状の混合発色試薬をポリエチレンチューブ内に封入した器具を用いている。しかし、供給水へのマンガンのリークの自動的な検知を実現しようとした場合、液体の試薬を用いれば一定量の試薬を自動的に滴下することが可能であるところ、粉末状の混合発色試薬を用いた場合、一定量の試薬を自動的に分取することが困難であった。仮に、粉末状の混合発色試薬を水等の液体に溶解させることにより、試薬を液状にしたとしても、混合発色試薬に含まれる化合物同士が反応してしまうため、粉末状の混合発色試薬を液体に溶かして用いることはできなかった。
【0009】
また、低濃度のマンガンを測定する為に、非特許文献1ではマンガンを析出させてメンブランフィルター上に濃縮させている。これは、マンガンを比色法で測定する場合、水中に含まれる様々な夾雑物等による外乱を受ける為である。即ち、測定感度を上げる為に光路長を長くしても、比色法では低濃度のマンガンを精度良く測定する事ができない。
【0010】
本発明は、液状の発色試薬を用いて、簡易に低濃度のマンガンを定量することが可能な定量方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、検水中に含まれる低濃度のマンガンを定量する定量方法であって、マンガン吸着能を持つ吸着体に前記マンガンを吸着させる吸着工程と、前記マンガンとの錯体を形成するキレート剤及び抽出剤としてのアルカリ金属塩を含む抽出薬液を用いて、前記吸着体に吸着させた前記マンガンを抽出する抽出工程と、前記抽出工程において回収した前記抽出液に対し、前記マンガンの発色試薬を添加し発色させる発色工程と、比色法により、前記含有量を定量する定量工程と、を有する定量方法に関する。
【0012】
また、上記の定量方法において、前記抽出薬液として、前記吸着させた前記マンガンを濃縮抽出できる量の前記抽出薬液を用いることが好ましい。
【0013】
また、上記の定量方法において、前記発色試薬は過ヨウ素酸塩であることが好ましい。
【0014】
また、上記の定量方法において、前記キレート剤はクエン酸又はその塩、二リン酸塩の少なくともいずれか1種を含むことが好ましい。
【0015】
また、上記の定量方法において、前記吸着体は陽イオン交換樹脂であることが好ましい。
【0016】
また、上記の定量方法において、前記アルカリ金属塩は硝酸塩であることが好ましい。
【0017】
また、本発明は、検水中に含まれるマンガンの含有量を定量する定量装置であって、マンガン吸着能を持つ吸着体に前記マンガンを吸着させ、マンガンとの錯体を形成するキレート剤及び抽出剤としてのアルカリ金属塩を含む抽出薬液を用いて、前記吸着体に吸着させた前記マンガンを抽出する濃縮ユニットと、前記マンガンを抽出する際に回収した抽出液に対し、前記マンガンの発色試薬を添加し発色させ、比色法により、前記含有量を定量する比色ユニットと、を備える定量装置に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、液状の発色試薬を用いて、簡易に低濃度のマンガンを定量することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る定量方法を実現する定量装置の全体構成の例を示す図である。
図2】本発明の実施形態に係る定量方法の例を示すフローチャートである。
図3】ICP発光分光分析装置によるマンガン濃度の測定値と、本発明の実施形態に係る定量装置の試験機による同一測定水中のマンガン濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔1 実施形態の構成〕
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係るマンガンの含有量を定量する定量方法を説明する。図1は、本発明の実施形態に係る定量方法を実現する定量装置の全体構成の例を示す図である。
【0021】
図1に示すように、本実施形態に係る定量方法を実現する定量装置1は、濃縮ユニット10と、吸着用ポンプ11と、抽出薬液タンク12と、抽出用ポンプ13と、比色ユニット20と、発色試薬タンク21と、発色用ポンプ22と、電磁弁30と、制御装置50とを備える。
【0022】
また、定量装置1は、ラインとして、測定水ラインL1と、抽出薬液ラインL2と、抽出液ラインL3と、発色試薬ラインL4と、排水ラインL5とを備える。「ライン」とは、流路、経路、管路等の流体の流通が可能なラインの総称である。
【0023】
測定水ラインL1は、測定水W1が流通するラインである。測定水ラインL1は、吸着用ポンプ11を備える。測定水ラインL1の下流側の端部は、濃縮ユニット10に接続されている。
【0024】
吸着用ポンプ11は、測定水W1を、濃縮ユニット10まで圧送するポンプである。
【0025】
抽出薬液ラインL2は、抽出薬液W2が流通するラインである。抽出薬液ラインL2は、抽出用ポンプ13を備える。抽出薬液ラインL2の上流側の端部は、抽出薬液タンク12に接続されており、下流側の端部は、濃縮ユニット10に接続されている。
【0026】
抽出薬液タンク12は、抽出薬液W2を収容するタンクである。ここで、「抽出薬液」は、マンガンの錯体を形成するキレート剤、及び抽出剤としてのアルカリ金属塩を含む。
キレート剤は、クエン酸又はその塩、及び二リン酸塩の少なくともいずれか1種を含むことが好ましいが、抽出したマンガンの析出を防止できるキレート剤であればこれらに限定されるものでは無い。
【0027】
また、用いる抽出薬液の量は、後述の方法により、濃縮ユニット10で、吸着体に吸着させたマンガンを、濃縮抽出できる量であることが好ましい。即ち、マンガンを濃縮出来れば良い事から、抽出に用いた抽出薬液の全てを回収して比色定量する必要は無い。
【0028】
抽出用ポンプ13は、抽出薬液W2を、抽出薬液タンク12から濃縮ユニット10まで圧送するポンプである。
【0029】
濃縮ユニット10は、測定水W1に含まれるマンガンを吸着体に吸着させた後、抽出薬液W2を用いて、吸着体に吸着させたマンガンを抽出することにより、マンガンが濃縮された抽出液W3を生成する装置である。濃縮ユニット10において用いられる吸着体は、マンガンを吸着可能な吸着体であれば良く、各種の陽イオン交換体やキレート樹脂等を用いる事ができるが、陽イオン交換樹脂であることがより好ましい。
【0030】
抽出液ラインL3は、抽出液W3が流通するラインである。抽出液ラインL3の上流側の端部は濃縮ユニット10に接続されており、下流側の端部は比色ユニット20に接続されている。
【0031】
発色試薬ラインL4は、発色試薬W4が流通するラインである。発色試薬ラインL4は、発色用ポンプ22を備える。発色試薬ラインL4の上流側の端部は、発色試薬タンク21に接続されており、下流側の端部は、比色ユニット20に接続されている。
【0032】
発色試薬タンク21は、発色試薬W4を格納するタンクである。ここで、「発色試薬」は、例えば、過ヨウ素酸カリウム等の過ヨウ素酸塩、ホルムアルドキシム、アセトアルドキシムを用いる事ができるが、マンガンを酸化して発色させる酸化剤である過ヨウ素酸塩であることがより好ましい。
【0033】
発色用ポンプ22は、発色試薬W4を、発色試薬タンク21から比色ユニット20まで圧送するポンプである。
【0034】
比色ユニット20は、比色法により、抽出液W3中のマンガン濃度を求める装置である。
比色ユニット20において、発色試薬W4として過ヨウ素酸カリウムを用いる場合には、マンガンを過ヨウ素酸カリウム溶液で酸化し、生成した過マンガン酸イオンの赤紫色の吸光度を、吸光光度分析法により波長545nm付近で測定し、マンガン濃度を求める。この場合の定量範囲は、例えば光路長10mmセルを用いた場合には0.4〜5.0mg/Lである。
【0035】
発色試薬W4としてホルムアルドキシムを用いる場合には、アルカリ溶液中でマンガンイオンをホルムアルドキシムと反応させ、生成した化合物の橙赤色の吸光度を吸光光度分析法により波長430nm付近で測定し、マンガン濃度を求める。この場合の定量範囲は、例えば光路長10mmセルを用いた場合には0.1〜5.0mg/Lである。
【0036】
発色試薬W4としてアセトアルドキシムを用いる場合には、アルカリ溶液中でマンガンイオンをアセトアルドキシムと反応させ、生成した化合物の橙赤色の吸光度を吸光光度分析法により波長460〜520nm付近で測定し、マンガン濃度を求める。この場合の定量範囲は、例えば光路長10mmセルを用いた場合には0.5〜4.0mg/Lである。
【0037】
排水ラインL5は、比色ユニット20において、比色法によりマンガン濃度を求めた後の排水W5を系外に排出するラインである。排水ラインL5は、電磁弁30を備える。
【0038】
電磁弁30は、制御装置50からの信号に基づいて排水ラインL5の開閉を行う電磁弁である。
【0039】
定量装置1においては、濃縮ユニット10において、測定水W1中のマンガンを濃縮した上で、比色ユニット20において、比色法によりマンガン濃度を測定する。この濃縮により、例えば、測定水W1を300mLとし、抽出液W2を3mLとする事ができ、マンガンが濃縮された抽出液W2には測定水W1に含有されるマンガン濃度の100倍の濃度のマンガンを存在させることができる。またこの時、濃縮された抽出液に含まれるマンガンの比色測定を阻害する成分は、マンガン濃度に比して低濃度となる様に精製する事ができる。
【0040】
これにより、比色法を用いながら、数十ppbレベルのマンガンが測定可能になる。 即ち、測定水W1中のマンガン濃度が、水道水基準である0.05mg/Lに達したか否かを判定するため、例えば0.01mg/L単位でのマンガン濃度の測定が可能となる。
【0041】
〔2 実施形態の動作〕
図2は、定量装置1に係る定量方法の例を示すフローチャートである。以下、図2を参照することにより、定量装置1に係る定量方法の例について説明する。
【0042】
ステップS1において、吸着用ポンプ11を駆動すると共に、電磁弁30を開くことにより、測定水W1を濃縮ユニット10及び比色ユニット20に流す。これにより、測定水W1中のマンガンを、濃縮ユニット10の吸着体に吸着させながら、比色ユニット20のセル内の残液を、排水ラインL5に押し出す。
【0043】
ステップS2において、吸着用ポンプ11を駆動させたままの状態で、電磁弁30を閉じることにより、濃縮ユニット10に流した測定水W1を、抽出液ラインL3を経て比色ユニット20内に貯留させる。これにより、測定水W1中のマンガンを、濃縮ユニット10の吸着体に吸着させながら、比色ユニット20内に貯留される測定水W1により、比色ユニット20のセルを洗浄する。
【0044】
ステップS3において、吸着用ポンプ11を駆動させたままとすることにより、測定水W1を濃縮ユニット10に流した状態で、電磁弁30を開く。これにより、測定水W1中のマンガンを濃縮ユニット10の吸着体に吸着させながら、比色ユニット20内に貯留された、セルの洗浄用の測定水W1の全量を排水する。
【0045】
これらのステップS1〜S3を通じて、測定水W1中のマンガンを濃縮ユニット10の吸着体に吸着させる。例として、この間に濃縮ユニット10に流された測定水W1の量は、300mLである。
【0046】
ステップS4において、吸着用ポンプ11を停止し、抽出用ポンプ13を駆動することにより、抽出薬液W2を濃縮ユニット10に流し込む。これと共に、電磁弁30を開くことで、濃縮ユニット10内に残留していた測定水W1を、濃縮ユニット10から押し出す。ステップS4は、濃縮ユニット10と、抽出液ラインL3と、比色ユニット20に残留していた測定水W1の全量を排水ラインL5から排出するまで行われる。
【0047】
ステップS5において、抽出用ポンプ13を駆動したままの状態で、電磁弁30を閉じた後、抽出薬液W2を濃縮ユニット10に流し込むことで、濃縮ユニット10の吸着体に吸着されたマンガンが抽出された抽出液W3を、抽出液ラインL3を経由して、比色ユニット20内に貯留する。また、比色ユニット20に備わるLEDを点灯させる。以降ステップS9まで、LEDは点灯させたままの状態とする。
【0048】
これらのステップS4〜S5を通じて、濃縮ユニット10の吸着体に吸着されていたマンガンが抽出液W3内に抽出される。例として、抽出薬液W2の量は3mLであり、これは濃縮ユニット10の吸着体に吸着されたマンガンを濃縮回収できる量である。これにより、抽出液W3に抽出されるマンガンの濃度は、測定水W1に含有されるマンガンの濃度の100倍に濃縮される。
【0049】
ステップS6において、比色ユニット20に備わるLEDを点灯させて、比色ユニット20に貯留された抽出液W3を透過する光の吸光度を測定することにより、ブランク測定をする。
【0050】
ステップS7において、抽出用ポンプ13を駆動させたままの状態で発色用ポンプ22を駆動することにより、発色試薬W4を、発色試薬ラインL4を経由させることで、比色ユニット20に滴下する。
【0051】
ステップS8において、抽出用ポンプ13及び発色用ポンプ22を停止し、抽出液W3中のマンガンと発色試薬W4とを反応させる。例として、ステップS8は2分30秒の期間実行する。
【0052】
ステップS9において、比色ユニット20に備わるLEDを点灯させて、比色ユニット20のセル内に貯留された抽出液W3を透過する透過光の吸光度を測定する。例として、ステップS9は1分00秒の期間実行する。
【0053】
これらのステップS6〜S9により、抽出液W3に含有されるマンガンの濃度を測定する。
【0054】
ステップS10において、電磁弁30を開くことにより、比色ユニット20のセル内に貯留された抽出液W3の全量を、排水ラインL5から排水W5として排出する。
【0055】
ステップS11において、抽出用ポンプ13を駆動することにより、濃縮ユニット10に、抽出薬液ラインL2を経由して抽出薬液W2を流すことで、濃縮ユニット10中の吸着体を完全に再生させる。なお、この際、電磁弁30を開くことにより、濃縮ユニット10に流入した抽出薬液W2は、抽出液ラインL3と比色ユニット20を経て、排水ラインL5から系外に排出される。
【0056】
なお、上記のフローにおいては、ステップS4において、抽出薬液W2を濃縮ユニット10に流し込むことで、濃縮ユニット10の吸着体に吸着していたマンガンが抽出され、抽出されたマンガンを含む抽出液W3が、排水ラインL5から排出される。すなわち、上記のフローでは、抽出液W3の全量を回収するわけではない。本実施形態では、抽出液W3のマンガン濃度が安定したタイミングでマンガン濃度の測定を行うことで精度のよい測定を行える。しかしながら、本発明の実施形態はこれには限定されない。すなわち、比色ユニット20に抽出液W3の全量を貯留し、マンガン濃度の測定を行ってもよい。
【0057】
〔3 実施形態が奏する効果〕
本発明の実施形態に係る定量方法は、検水中に含まれるマンガンの含有量を定量する定量方法であって、マンガン吸着能を持つ吸着体に前記マンガンを吸着させる吸着工程と、マンガンとの錯体を形成するキレート剤及び抽出剤としてのアルカリ金属塩を含む抽出薬液を用いて、前記吸着体に吸着させた前記マンガンを抽出する抽出工程と、前記抽出工程において回収した抽出液に対し、前記マンガンの発色試薬を添加し発色させる発色工程と、比色法により、前記含有量を定量する定量工程と、を有する。
【0058】
これにより、発色試薬とキレート剤とを、一液内で混合するのではなく、抽出薬液と発色試薬とに分割することで、発色試薬とキレート剤とが共存する悪影響を排除すると共に、発色試薬とキレート剤の保存安定性が高まる。また、pH調整剤を用いる必要も発生しない。
【0059】
また、抽出薬液として、吸着させたマンガンを濃縮回収できる量の抽出薬液を用いてもよい。
【0060】
これにより、マンガンを濃縮回収出来さえすればよい事から、抽出に用いた抽出薬液の全てを回収して比色定量する必要はない。
【0061】
また、発色試薬は過ヨウ素酸塩であってもよい。
【0062】
これにより、発色試薬として過ヨウ素酸塩を用いることで、2価のマンガンを7価のマンガンに酸化し、発色することが可能となる。
【0063】
また、キレート剤はクエン酸又はその塩、及び二リン酸塩の少なくともいずれか1種を含んでもよい。
【0064】
これにより、例えばクエン酸をキレート剤として用いた場合には、マンガン/クエン酸錯体を生成せしめる事ができ、結果として抽出された2価のマンガンを安定に保持できる。その結果、マンガンと発色試薬が容易に反応する。即ち、例えば発色試薬として過ヨウ素酸を用いる場合においては、常温で酸化し、発色させることが可能となる。
【0065】
また、吸着体は陽イオン交換樹脂であってよい。
【0066】
これにより、マンガンの吸着体として陽イオン交換樹脂を用いることで、簡易にマンガンを濃縮することが可能となる。
【0067】
また、アルカリ金属塩は硝酸塩であってよい。
【0068】
これにより、抽出剤としてナトリウム塩又はカリウム塩が含まれることで、繰り返しの測定が可能となる。また、特に硝酸塩を用いる事の利点としては、硫酸塩の様に陽イオン交換樹脂から抽出されたアルカリ土類金属の析出物を生成する事が無く、また、塩化物の様に発色試薬として過ヨウ素酸を用いる場合に過ヨウ素酸を消費させる原因になる事が無い事等が挙げられる。
【0069】
また、本発明の実施形態に係る定量装置は、検水中に含まれるマンガンの含有量を定量する定量装置であって、マンガン吸着能を持つ吸着体に前記マンガンを吸着させ、マンガンとの錯体を形成するキレート剤及び抽出剤としてのアルカリ金属塩を含む抽出薬液を用いて、前記吸着体に吸着させた前記マンガンを抽出する濃縮ユニットと、前記マンガンを抽出する際に回収した抽出液に対し、前記マンガンの発色試薬を添加し発色させ、比色法により、前記含有量を定量する比色ユニットと、を備える。
【0070】
これにより、発色試薬とキレート剤とを、一液内で混合するのではなく、抽出薬液と発色試薬とに分割することで、発色試薬とキレート剤とが共存する悪影響を排除すると共に、発色試薬とキレート剤の保存安定性が高まる。また、pH調整剤を用いる必要も発生しない。
【0071】
定量装置1においては、濃縮ユニット10において、測定水W1中のマンガンを濃縮した上で、比色ユニット20において、比色法によりマンガン濃度を測定する。これにより、測定水W1中のマンガン濃度が、水道水基準である0.05mg/Lに達したか否かを判定するため、0.01mg/L単位でのマンガン濃度の測定が可能となる。
【0072】
〔4 実施例〕
図3は、低濃度マンガンを測定する従来技術としてのICP発光分光分析装置を用いて、測定水中のマンガン濃度(mgMn/L)を測定した測定値と、上記の実施形態に従う試験機を用いて測定した、同一の測定水中のマンガン濃度(mgMn/L)の測定値との関係を示す。
【0073】
なお、上記の実施形態に従う試験機において、濃縮ユニット10が備えるカラムの内径は10mm、ろ材量は7.85mLであるとする。また、測定水W1の流量は、25mL/min、線速度は15m/h、空間速度は150/hであるとする。また、抽出薬液W2の流量は、2mL/min、線速度は1.2m/h、空間速度は12/hであるとする。また、マンガンの濃度の濃縮倍率は40倍であり、比色ユニット20で光路長100mmセルを用いるとする。
【0074】
図3に示されるように、各測定点は、点線で示される、ICP発光分光分析装置による測定値と、実施形態に従う試験機を用いて測定した測定値とが一致するライン上にあり、本実施形態に係る、濃縮比色法によるマンガン濃度の監視装置でも、ICP発光分光分析装置とほぼ同一の精度で、マンガン濃度を測定することが可能であることが示された。
【符号の説明】
【0075】
1 定量装置
10 濃縮ユニット
11 吸着用ポンプ
12 抽出薬液タンク
13 抽出用ポンプ
20 比色ユニット
21 発色試薬タンク
22 発色用ポンプ
30 電磁弁
50 制御装置
L1 測定水ライン
L2 抽出薬液ライン
L3 抽出液ライン
L4 発色試薬ライン
L5 排水ライン
W1 測定水
W2 抽出薬液
W3 抽出液
W4 発色試薬
W5 排水
図1
図2
図3