【実施例】
【0032】
本明細書で使用される場合、組成物及び実施例における百分率(%)は、特に断りが無い限り、重量百分率(w/w)を意味する。本文及び実施例中の用語グリセリン及びグリセロールは、同義語として使用される。
【0033】
実施例1
プロピオン酸フルチカゾンA型のナノ結晶の調製
第I相溶液の調製
2Lプロセス容器に、ポリソルベート80(Tween 80) 106.26g、ポリプロピレングリコール400(PPG 400) 963.34g、ポリエチレングリコール400(PEG 400) 324.10gを室温で加え、全ての成分が溶解するまで一緒に撹拌し、次いでプロピオン酸フルチカゾン多形1 6.3gをこの溶液に加え、透明な溶液が得られるまで撹拌した。得られた溶液を、0.8/0.2μm ポリエーテルスルホン(PES)フィルターを用いて濾過し、使用するまで2〜8℃で冷蔵保存した。
【0034】
第II相溶液の調製
8Lのプロセス容器に、精製水 約5276g(初期量)を加え、渦流が生じるようにオーバーヘッドミキサーで撹拌した。
ポリエチレングリコール40ステアラート(PEG−40ステアラート) 6.01g、塩化ベンザルコニウム(溶液10%) 5.98g、メチルセルロース15cp 24.02gを加え、メチルセルロースが完全に溶解するまで撹拌した。クエン酸緩衝液を加えてpHを3.5〜4.0に調整し、水 585.8gを加えた。第II相溶液の最終pHは3.83であった
次に、第II相を、0.8/0.2μm ポリエーテルスルホン(PES)フィルターを用いて濾過し、使用するまで2〜8℃で冷蔵保存した。
【0035】
希釈緩衝溶液の調製
20Lプロセス容器に、ポリソルベート80(Tween 80) 12.0gを導入し、精製水 5374gを加え、渦流が生じるようにオーバーヘッドミキサーで撹拌した。
リン酸二水素ナトリウム一水和物 3.24g、リン酸一水素ナトリウム二塩基二水和物 1.14g、ポリエチレングリコール40ステアラート(PEG−40ステアラート) 12.00g、塩化ベンザルコニウム(溶液10%) 0.6gを加え、完全に溶解するまで攪拌し、水 597gを加えた。緩衝溶液の最終pHは6.4であった。この溶液を、0.8/0.2μm ポリエーテルスルホン(PES)フィルターを用いて濾過し、使用するまで2〜8℃で冷蔵保存した。
【0036】
プロピオン酸フルチカゾンA型のナノ結晶の調製
第II相 480gを反応器のチャンバーに入れた。第I相 940g及び第II相 3780gを、冷却器に接続されたジャケット付き容器中で、2〜4℃の目標温度まで冷却した。
較正した蠕動ポンプを用いて、振幅が60%に設定された超音波トランスデューサ(Q Sonica Q1375 W)を取り付けた反応器を通して、第I相及び第II相をポンプで送り込んだ(第I相及び第II相のポンプの流速は、それぞれ600mL/分及び2400mL/分であった)。
反応器からの流出物(第III相:5201.7g)を、室温で清浄な容器に採取した。第III相の温度は約11℃であった。
次に、第III相を室温で約30分間、収集容器内で撹拌して、プロピオン酸フルチカゾンナノ結晶の均一な懸濁液を得た(最終第III相)。
【0037】
アニーリング方法
最終第III相を密閉容器に移した。この容器をインキュベーターに入れ、40℃で少なくとも16時間保持した。
【0038】
ナノ結晶の精製及び単離
アニールした第III相 5167gをプロセス容器に移し、希釈緩衝溶液に対する第III相の比が1:1となるように、等量の希釈緩衝溶液を加えた。得られた混合物を低せん断混合機で30分間撹拌して、ナノ結晶の均質な懸濁液(希釈第III相)を得た。
希釈第III相を遠心分離するまで2〜8℃で冷蔵保存した。
プロピオン酸フルチカゾンA型ナノ結晶を、まず希釈第III相の非連続式遠心分離により採取した。次いで、注射用水でこのナノ結晶を数回(4回の洗浄サイクル)洗浄した。
単離したナノ結晶の粒径を、レーザ散乱式粒度分布測定器(Horiba LA‐950)を用いて評価した。D
50は0.2153μm、D
90は0.6073μmであった。
XRPD及びリートベルト精密化(Rietveld refinement)により、ナノ結晶のキャラクタリゼーションを行った。
図1(XRPD)に結果を示す。同図は、プロピオン酸フルチカゾンA型の典型的なパターンを示しており、このものは、WO2013/169647において定義(リートベルト精密化から得られる極点図によって確認)されているように、強い選択配向を伴う晶癖及び表面に対して実質的に垂直なc軸を有している。
【0039】
実施例2
プロピオン酸フルチカゾンA型の無菌局所眼用水性ナノ懸濁液の調製
【表1】
工程1)ビヒクル1(グリセリンを含まないビヒクル)の調製
20Lのプロセス容器中で、注射用水 17600gを80℃で加熱し、メチルセルロース4000cp 100.0gをゆっくり加え、混合物を、メチルセルロースが溶解するまで撹拌した。
この溶液を40℃で冷却し、ホウ酸 200.0gを加え、水酸化ナトリウム(1N)によってpHを7.4に調整した。
以下の賦形剤を、特定の以下の順序:エデト酸二ナトリウム二水和物 20.0g、塩化ナトリウム 11.0g、塩化ベンザルコニウム(50%溶液) 4.0g、ポリソルベート80(Tween 80) 40.0gで加えた;各賦形剤は、次の賦形剤を加える前に完全に溶解させ、この溶液の調製は、約40℃から室温で行った。pHを試験し、場合により塩酸(1N)又は水酸化ナトリウム(1N)で7.3〜7.5に調整した;pH調整後、注射用水を加えて最終重量を19800gにした。得られた溶液を少なくとも10分間混合して均一な溶液を得、これを2〜8℃で保存した。
【0040】
工程2)2%プロピオン酸フルチカゾンナノ結晶スラリーの調製
ビヒクル1 4000gを、攪拌棒を含む10Lプロセス容器に、PES 0.2μmの濾材を通した濾過により導入し、更なる使用に備えた。
2Lビーカーに、プロピオン酸フルチカゾンA型ナノ結晶 15.04gを、幾らかのビヒクル1と共に導入した。このスラリーを均質性のために混合し、プロピオン酸フルチカゾン含有量(31.6mg/g)を分析した後、20mg/mL(2重量%スラリー)のプロピオン酸フルチカゾンの目標濃度に達するように、さらにビヒクル1で希釈した。
この濃縮したスラリーを、6000±10RPMで10分間、高剪断、高速の混合に供し、Horiba LA‐950S2 PSDアナライザを用いたレーザー回折により粒度分布を試験した。
結果は以下の通りであった:
平均値:0.856μm
モード:0.363μm
中央値:0.420μm
D
10:0.203μm
D
90:2.154μm
【0041】
工程3)ビヒクル2(1.8重量%のグリセリン含有ビヒクル)の調製
4Lビーカーに、濾過したビヒクル1 1600gを導入し、グリセリン 36gを溶解するまで撹拌しつつ加えた。
pHを試験して、水酸化ナトリウム(IN)により7.3〜7.5に調整し、ビヒクル1をさらに加えて最終重量を2000gに調整し、1.8重量%のグリセリン溶液とした。
【0042】
工程4)1%プロピオン酸フルチカゾンナノ結晶スラリーの調製
工程2)で調製した2%の濃縮スラリーを、1重量%のプロピオン酸フルチカゾンの濃度になるように、ビヒクル2でさらに希釈することによって、1%プロピオン酸フルチカゾンナノ結晶スラリーを調製した。
1重量%のプロピオン酸フルチカゾンA型ナノ結晶スラリーを、6000±10 RPMで10分間、高剪断、高速の混合に供し、Horiba LA‐950S2 PSDアナライザを用いたレーザー回折により粒度分布を試験した。
結果は以下の通りであった:
平均:0.428μm
モード:0.123μm
中央値:0.162μm
D
10:0.082μm
D
90:0.678μm
【0043】
1%濃縮スラリーのアリコートを、撹拌棒を含む500mLのガラス瓶に充填し、121.5℃で40分間オートクレーブ処理することによって滅菌した。
【0044】
工程5)ビヒクル3(0.9重量%のグリセリン含有ビヒクル)の調製
20L容器に、ビヒクル1 11200gを導入し、攪拌下でグリセリン 126gを加え、次に水酸化ナトリウムでpHを7.3〜7.5に調整し、さらにビヒクル1のアリコートを加えて最終重量を14000gに調整し、0.9重量%のグリセロール溶液とした。この溶液を、均一になるまで少なくとも10分間混合し、滅菌濾過して別の受器に入れた。
【0045】
工程6)0.1重量%のプロピオン酸フルチカゾンナノ懸濁液の調製
ISO 5環境において、工程4)の、オートクレーブ処理した無菌の1重量%のプロピオン酸フルチカゾンナノ結晶を含む瓶の内容物を、最終配合容器に無菌的に移してプールした。
この容器に移した1%プロピオン酸フルチカゾンナノ結晶スラリーの重量を記録した(1366.3g)。
無菌ビヒクル3 11774.2gを加えることによって、最終の0.1%無菌プロピオン酸フルチカゾンナノ結晶懸濁液を得た。
最終の無菌ナノ懸濁液を、15分以上攪拌プレート上で攪拌した。
Horiba LA‐950S2 PSDアナライザを用いたレーザー回折により粒度分布を試験した。
結果は以下の通りであった:
平均:0.846μm
モード:0.362μm
中央値:0.425μm
D
10:0.202μm
D
90:2.219μm
【0046】
工程4)の解凝集した1%プロピオン酸フルチカゾンナノ懸濁液を、最終プロピオン酸フルチカゾン濃度が得られるように、工程6)で開示したようにして水性ビヒクル3のアリコートで希釈することによって、0.5重量%、0.25重量%、0.20重量%、0.1重量%、0.05重量%、0.03重量%、0.01重量%及び0.005重量%などの異なる濃度のプロピオン酸フルチカゾンA型を含有する、本発明に従ったナノ懸濁液を得た。
【0047】
実施例3
実施例2のナノ懸濁液の安定性の評価
実施例2で調製したナノ懸濁液組成物を、3つの異なる温度及び湿度条件(5℃、25℃/40% RH;40℃/25% RH)で保存することにより、ナノ懸濁液を保存安定性試験に供した。ナノ懸濁液の再懸濁性、プロピオン酸フルチカゾンの含有量、粒度分布及び塩化ベンザルコニウムの含有量を、1か月及び3か月時点で評価した。
表2及び3に報告された結果は、このナノ懸濁液が製造及び保存時に物理的及び化学的に安定であったことを示している。保存時のナノ懸濁液の物理的外観の変化は認められなかった。プロピオン酸フルチカゾンの化学的アッセイは、保存時の表示量の90%〜110%の範囲内に収まっていたため、ナノ懸濁液は化学的分解の徴候を示さなかった。関連物質及び不純物の総量は、保存時に、規格した範囲である4%以内で収まっていた。
【表2】
【表3】
【0048】
実施例4(比較例)
この研究の結果は、ホウ酸を含むがグリセリンを含まないプロピオン酸フルチカゾンA型ナノ結晶のナノ懸濁液が安定でなく、凝集することを示す。
プロピオン酸フルチカゾンA型ナノ結晶を、前の実施例2と全く同じ濃度のホウ酸及びメチルセルロースを含むが、グリセロールを含まないビヒクルに懸濁した。
試験したナノ懸濁液の組成を表4に報告する。
【表4】
【0049】
プロピオン酸フルチカゾンA型ナノ結晶懸濁液の調製
プロピオン酸フルチカゾンA型ナノ結晶のある量を、0.50重量%のメチルセルロース4000cp、0.2重量%のポリソルベート80、0.10重量%のエデト酸二ナトリウム二水和物、1.0重量%のホウ酸;0.01重量%の塩化ベンザルコニウム及び全体を100重量%とするのに十分な量の水(表4参照)からなるビヒクルのアリコートに懸濁し、プロピオン酸フルチカゾンの目標濃度を得た(表4参照)。一旦ナノ結晶を懸濁した後、高速、高剪断のSilverson混合装置を用いて解凝集するために、懸濁液を500mLのガラスビーカーに注いだ。粒度分布の仕様に適合するまで懸濁液を6000RPMで混合した。このナノ懸濁液の粒度分布及び粘度を測定した。
ナノ懸濁液を40℃で安定に置き、2週間後の時点で粒度分布(PDS)及び粘度を測定した。
表5a及び表5bに報告された結果は、わずか2週間という短期間で、平均粒子径及びD
90の増加があった事を示し、ナノ懸濁液中の凝集体の形成を反映している。逆に、実施例3で報告された安定性の結果は、本発明の方法に従って調製されたナノ懸濁液が、加速条件下で3カ月まで安定であったことを示す。
【表5a】
【表5b】
【0050】
実施例5(比較例)
この研究の結果により、予め形成したホウ酸/グリセロール複合体を含有するビヒクルにプロピオン酸フルチカゾンA型ナノ結晶を加えることが残存凝集をもたらし、高速、高剪断の混合で解凝集させた2%のプロピオン酸フルチカゾンナノ結晶スラリーにグリセロールを加える本発明の方法に従ってナノ懸濁液を調製した場合には、これが観察されないことを確認した(実施例2−工程4参照)。
あらかじめ形成したホウ酸/グリセロール複合体(1.0重量%のホウ酸/0.25重量%のグリセロール及び1.0重量%のホウ酸/1.0重量%のグリセロール)を含むビヒクル中に、プロピオン酸フルチカゾンA型ナノ結晶を懸濁して解凝集し、0.25重量%のプロピオン酸フルチカゾンの最終濃度を得た。
試験した2つのナノ懸濁液のビヒクルの組成を表6に報告する。
【表6】
【0051】
プロピオン酸フルチカゾンA型ナノ結晶ナノ懸濁液の調製
プロピオン酸フルチカゾンA型ナノ結晶を、予め形成したホウ酸/グリセロール複合体を含む表6に報告した2つのビヒクルに懸濁し、磁気攪拌板上で撹拌棒を用いて一晩攪拌した。一旦ナノ結晶を懸濁した後、高速、高剪断のSilverson混合装置を用いて解凝集するために、この懸濁液を500mLのガラスビーカーに注いだ。この懸濁液を、粒度分布仕様に適合するまで6000RPMで混合した。
この2つの製剤を40℃で安定に置き、1週間後の時点で抜き取った試料について粒度分布を測定した。試料は安定チャンバーから抜き取った直後に分析した。その結果は、サンプル中の多くの凝集を示した(
図2、3参照)。
試料を冷蔵すると、凝集は部分的に可逆的であったが、依然としてかなりの残存レベルの凝集があった(
図4参照)。この熱可逆的凝集は、温度が上昇するとメチルセルロースの溶解度が低下することに関係していた。
メチルセルロース溶液は、30〜50℃の範囲では、検出可能な粒子がなく、視覚的に透明であっても、温度が上昇すると、ポリマー鎖が緩く会合したクラスターを形成し、その大きさが大きくなることが知られている。これらのクラスターが、40℃でのナノ結晶の凝集の一部に関与している可能性がある。
以上報告したように、本研究の結果は、グリセロールが、単離されたナノ結晶の凝集を防ぐ、ホウ酸との複合体を形成することによって、安定化剤として作用することを実証した。ナノ懸濁液を、あらかじめ形成したホウ酸/グリセロール複合体を含むビヒクル中にナノ結晶を懸濁して調製すると、複合体の安定化の効果は低下する。
【0052】
実施例6
インビトロ溶出試験
本発明のナノ懸濁液のプロピオン酸フルチカゾンA型ナノ結晶の溶出速度を評価し、標準的なプロピオン酸フルチカゾン1型の微粒子化した材料(標準試料)の溶出速度と比較した。
本発明の2つのナノ懸濁液のプロピオン酸フルチカゾンA型及び微粒子化したプロピオン酸フルチカゾン1型のナノ結晶の溶出プロファイルを、溶出法を用いて実施した。
プロピオン酸フルチカゾンA型ナノ結晶の粒径は0.434μm(D50−中央値)であり、プロピオン酸フルチカゾン1型の微粉化材料の粒子径は4.64μm(D50−中央値)である。
【0053】
本研究は透析膜とシンク(sink)条件を介したコンパートメント拡散分析を用いて実施した。シンク条件は、5%のHPβCDシクロデキストリンを含む30mMのリン酸緩衝液(pH7.4)を含むレセプター液の使用を介して、又、飽和点以下を維持するため、24時間毎に緩衝液を完全に置換することにより達成した。飽和点は、これらの実験条件下で5μg/gと推定され、緩衝液の置換に加えて実施した測定は、1.5μg/gの最高濃度を示した。本研究は37℃の温度で実施した。溶出試験法の詳細を以下に示す:
2つの0.1重量%のプロピオン酸フルチカゾンA型ナノ懸濁液を、製剤ビヒクル(界面活性剤を含むすべての製剤賦形剤を含むプラセボ溶液)で5倍希釈して、透析装置内部の最終濃度である0.02重量%のプロピオン酸フルチカゾンを得た。
微粒子化したプロピオン酸フルチカゾン1型を、透析システムの受容コンパートメントで使用したものと同じリン酸緩衝液に懸濁した。
プロピオン酸フルチカゾン放出は、1〜2RPMで行った(was carried)。
1mLの試料採取アリコートをあらかじめ決められた時間間隔(1、3、5、20、24、48、72時間)で抜き取り、等容量の溶出媒体で置換して、50mL管中の一定の総容量39mLを維持した。
これらのアリコートを直ちに遠心分離し、HPLCにより測定を行った
【0054】
表7〜9に報告された結果は、2つの試験試料及び参照試料が異なる粒径を有するにもかかわらず、プロピオン酸フルチカゾンA型のナノ結晶と、プロピオン酸フルチカゾン1型の微粒子化された材料の溶出プロファイルが類似していることを示している。より具体的には、プロピオン酸フルチカゾンA型ナノ結晶の粒径(D
50=0.434μm)は、微粉化したプロピオン酸フルチカゾン1型の粒径(D
50=4.64μm)よりも10倍小さい。
化合物の溶解性はしばしば、本質的に粒子径に関連しており、粒子が小さくなるにつれて、体積に対する表面積の比が増加し、溶媒との相互作用が大きくなって、溶解性の増加をもたらすことから、本研究の結果は、本発明の眼用水性プロピオン酸フルチカゾンA型ナノ結晶のユニークな特性、すなわち、一方では、小さな粒径(ナノ粒子)が、眼用製剤の快適性及び忍容性を改善し、他方では、プロピオン酸フルチカゾン有効成分の緩徐な溶出速度が、ステロイドの全身吸収に関連する望ましくない副作用に相関している、プロピオン酸フルチカゾンの速く高い吸収を回避することを可能にすることを示すものである。
【表7】
【表8】
【表9】
【0055】
実施例7
ビーグル犬における、局所眼用水性プロピオン酸フルチカゾンA型ナノ結晶懸濁液の14日間の反復投与研究
本研究の目的は、ビーグル犬の両眼の上眼瞼及び下眼瞼の縁(辺縁)への直接的局所適用を介して投与した、本発明のプロピオン酸フルチカゾンA型ナノ懸濁液(下記表10参照)の毒物動態を評価することであった。
【表10】
【0056】
方法
研究開始時点で、雌雄共に生後約5〜6ヵ月、体重5.7〜8.8kgの、未体験の(naive)ビーグル犬50匹(雄25匹、雌25匹)を、処置群(1〜4群)及びビヒクル群に割り付けた。
雄及び雌のビーグル犬に、プロピオン酸フルチカゾンを、1.6、9.6、及び32μg/日(両眼QD局所適用)、又は64μg/日(両眼BID局所適用)で、眼瞼アプリケーターを介して、両眼の上下眼瞼に直接1日1回又は2回(投与間隔は最低6時間)、14日間連続投与した。
毒物動態評価のための血液を、1日目及び14日目の選択された時点で、全動物から採取した。
処置開始前、投与の第1週及び第2週、並びに回復の最終週に、眼科学的検査を実施した。修正されたドレイズスケール(Draize scale)に従って、眼を1日1回スコア化した。
プロピオン酸フルチカゾンナノ懸濁液の効果の可逆性を、14日間の回復期間で評価した。
【0057】
結果及び結論
群平均血漿中毒物動態パラメータは、以下の表11に要約されている。
結果は、プロピオン酸フルチカゾンへの曝露量が、用量の増加に伴って用量依存的に増加したことを示す。雌雄の動物に明確な蓄積の証拠は認められなかった。また、曝露における性別に関連した識別可能な差は認められなかった。イヌでの14日間の吸入投与毒性試験における、コルチコステロイド関連所見に関連する最低観測副作用量での全身曝露量(AUC)は、イヌでの14日間の局所眼毒性試験において、0.1% QD及びBIDの眼球用量で観察された全身曝露量の14倍及び9倍であった(Advair-Diskuss-NDA-021077)。
局所毒性又は全身毒性の証拠はなかった。
【表11】
【0058】
実施例8
眼瞼炎の急性増悪の処置についての、プロピオン酸フルチカゾンA型ナノ懸濁液の有効性及び安全性の評価
この研究の目的は、本発明のプロピオン酸フルチカゾンA型ナノ懸濁液の水性眼用製剤の、眼瞼炎に罹患した被験体の徴候及び症状を軽減することにおいての有効性及び安全性を、プラセボに対して比較することであった。
【0059】
試験製剤(以下FP-Form A-NS)
0.1重量%のプロピオン酸フルチカゾンA型ナノ結晶(平均粒子径100nmから1000nm)、0.50重量%のメチルセルロース4000cp、0.2重量%のポリソルベート80、0.10重量%のエデト酸二ナトリウム二水和物、1.0重量%のホウ酸、0.9重量%のグリセリン、0.01重量%の塩化ベンザルコニウム、0.055重量%の塩化ナトリウム、pHを7.3〜7.5とするのに十分な量の、調整剤としての塩酸(1N)及び/又は水酸化ナトリウム(1N)、及び全体を100重量%とするのに十分な量の水。
【0060】
プラセボ製剤
0.50重量%のメチルセルロース4000cp、0.2重量%のポリソルベート80、0.10重量%のエデト酸二ナトリウム二水和物、1.0重量%のホウ酸、0.9重量%のグリセリン、0.01重量%の塩化ベンザルコニウム、0.055重量%の塩化ナトリウム、pHを7.3〜7.5とするのに十分な量の、調整剤としての塩酸(1N)及び/又は水酸化ナトリウム(1N)、及び全体を100重量%とするのに十分な量の水。
【0061】
研究の設計
これは、眼瞼炎の徴候及び症状の処置についての、0.1%プロピオン酸フルチカゾンA型ナノ懸濁液(1日1回)の安全性及び有効性を評価する、第II相の、多施設共同で、無作為化された、二重盲検の、プラセボを対照とする研究であった。
この研究において対象となる集団は、スクリーニング来院時及びベースライン来院時に、両眼の眼瞼縁発赤、眼瞼落屑、眼瞼不快感の其々についてスコアが最小の「1」(4段階で)と定義され、急性眼瞼炎増悪を経験している、眼瞼炎の既往歴が記録されている成人男女であった。合計で15の被験体が本研究に含まれた。被験体の年齢は55歳と80歳の間で、平均年齢は70.8歳であった。
全米の3つの臨床施設で15人の患者が無作為化された。両眼に1日1回夕方に、10名の患者がFP-Form A-NS、5人の患者がプラセボを受けた。試験の訪問は以下の通りであった:スクリーニング(−7日目〜−3日目)、ベースライン/1日目、4日目(±1日)、8日目(±1日)、11日目(±1日)、14日目(−I日目;処置最終日)、及び28日目/終了(+2日;追跡調査来院)。
試験用ナノ懸濁液(1眼あたり16μgのプロピオン酸フルチカゾン)又はプラセボを、1日1回夕方に適用した。試験薬剤は被験体が自己投与した。
【0062】
プロピオン酸フルチカゾンA型ナノ懸濁液の有効性及び安全性の評価
プロピオン酸フルチカゾンA型ナノ懸濁液(FP-Form A-NS)の有効性及び安全性を、研究期間中の各投与後来院時にプラセボと比較した。この研究では、眼瞼炎の徴候及び症状に加えて、ドライアイ疾患に特徴的な徴候及び症状(眼瞼炎を罹患した被験体でも共通して観察される)を評価した。
【0063】
有効性
表12及び13に報告した研究の結果は、プロピオン酸フルチカゾンA型ナノ懸濁液の処置は一貫して、眼瞼炎の被験体の徴候及び症状を改善し、プロピオン酸フルチカゾンA型ナノ懸濁液で処置された被験体は、ベースラインからの、またプラセボで処置された被験体と比較しての、落屑、発赤及び不快感の複合スコアの低下を示すことを実証した。
表12及び13に示した結果は、14日間の処置後に評価し、毎日の眼瞼の洗浄手順の前に実施した眼の研究(study eye)における、眼瞼炎の徴候及び症状に関連している。
以下のドライアイ症状は、被験体により視覚的アナログ尺度(Visual Analog Scales (VAS))でも評価した:眼の乾燥、灼熱感‐刺痛、異物感、かゆみ、羞明、疼痛及び霧視。表14に報告された複合VASスコア(これらの症状の個々のスコアの平均)は、ドライアイ症状の軽減に、プロピオン酸フルチカゾンA型ナノ懸濁液の処置が、プラセボに対して有効であることを実証した。
【0064】
安全性
本発明のプロピオン酸フルチカゾンA型ナノ懸濁液による処置は、非常に良好な忍容性を示し、全ての患者が処置を完了した。重篤な有害事象(SAE)は無く、特に、処置中又は処置中止後2週間までに、被験体の眼圧に臨床的に意義のある変化は観察されなかった。
この研究の結果は、本発明のプロピオン酸フルチカゾンA型ナノ懸濁液が、眼瞼炎及びドライアイの徴候及び症状の両方を軽減することができ、処置及び適用方法が安全な忍容性プロファイルを有することを実証する。
【表12】
【表13】
【表14】
【0065】
実施例9
実施例2のナノ懸濁液の安定性の評価
実施例2で調製したナノ懸濁液組成物を、ナノ懸濁液を3つの異なる温度及び湿度条件(5℃、25℃/40%RH;40℃/25%RH)で保存することによる保存安定性試験に供した。ナノ懸濁液の再懸濁性、プロピオン酸フルチカゾンの含有量、粒度分布及び塩化ベンザルコニウムの含有量を、1ヵ月及び3ヵ月の時点(実施例3及び表2及び3で報告した結果を参照)、40℃で5ヵ月の時点(表15)並びに5℃及び25℃で12ヵ月まで(表16)評価した。
表15及び16に報告した結果は、ナノ懸濁液が貯蔵時に物理的及び化学的に安定であることを示す。保存時のナノ懸濁液の物理的外観の変化は認められなかった。プロピオン酸フルチカゾンの化学的アッセイは保存時の表示量の90%〜110%の範囲内に収まっていたため、ナノ懸濁液は化学的分解の徴候を示さなかった。関連物質及び不純物の総量は、保存時に、規格した範囲である4%以内で収まっていた。
粒度分布はHoriba LA‐950装置を用いて解析した。
【表15】
【表16】