【実施例1】
【0017】
図1は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の平面図である。
図2は、
図1のA−A断面図である。
図1は、主に下部電極12、上部電極16、及び付加膜18を図示している。
図1において、図の明瞭化のために、付加膜18の領域20a及び20bにハッチングを付している。
図1及び
図2を参照して、実施例1の圧電薄膜共振器100は、基板10上に下部電極12が設けられている。基板10の平坦上面と下部電極12との間にアーチ状の膨らみを有する空隙30が形成されている。アーチ状(又はブリッジ状)とは、例えば共振領域50の中央では空隙30の上面が高く、共振領域50の端部では空隙30の上面が低くなるような形状である。基板10は、例えばシリコン(Si)基板であり、その厚さは例えば100μm〜1000μmである。下部電極12は、例えばルテニウム(Ru)膜であり、その厚さは例えば30nm〜400nmである。
【0018】
基板10上及び下部電極12上に圧電膜14が設けられている。圧電膜14は、例えばc軸配向性を有する窒化アルミニウム(AlN)を主成分とし、その厚さは800nm〜1500nmである。主成分とするとは、アルミニウム原子と窒素原子の合計が50原子%以上である場合でもよいし、80原子%以上である場合でもよいし、90原子%以上である場合でもよい。
【0019】
圧電膜14を挟み下部電極12と平面視において重なるように圧電膜14上に上部電極16が設けられている。共振領域50は、圧電膜14の少なくとも一部を挟み下部電極12と上部電極16が平面視において重なる領域で規定される。共振領域50は、楕円形状を有し、厚み縦振動モードの弾性波が励振する領域である。平面視において共振領域50は空隙30に重なり、空隙30は共振領域50と同じか大きい。すなわち、平面視において共振領域50の全ては空隙30と重なる。共振領域50は、楕円形状を有する場合に限らず、四角形又は五角形等の多角形状等を有していてもよい。上部電極16は、例えばルテニウム膜であり、その厚さは30nm〜400nmである。
【0020】
上部電極16上に共振領域50を覆うように付加膜18が設けられている。付加膜18は、例えば共振領域50と略同じ大きさであるが、共振領域50を覆っていれば共振領域50よりも大きくてもよい。略同じとは製造誤差程度に同じ場合を含む。付加膜18は、例えばチタン(Ti)と窒化チタン(TiN)を含んで形成され、その厚さは例えば50nm〜200nmである。付加膜18は、平面視において共振領域50内に領域20aと領域20aよりも窒化チタン(TiN)の濃度が高い領域20bとを有する。ここでは、付加膜18は領域20aと領域20bの2つの領域で構成される場合を例に示すがこの場合に限られない。例えば付加膜18は3つの領域で構成されるとしてもよい。この場合、領域20aはチタンで形成され意図的な窒素を含まず、領域20bは窒化チタンで形成されチタンは含まず、領域20aと領域20bの間にチタンの濃度が領域20aから領域20bに向かって徐々に減少する、言い換えると窒化チタンの濃度が領域20aから領域20bに向かって徐々に増加する領域が形成されているとしてもよい。領域20aの窒素濃度は50原子%以下である場合が好ましい。領域20bの窒素濃度は50原子%以上である場合が好ましい。
【0021】
領域20aは共振領域50の中央領域52に設けられ外周領域54には設けられていない。領域20bは共振領域50の外周領域54に設けられ中央領域52には設けられていない。中央領域52は、共振領域50内の領域であって、共振領域50の中央を含む領域である。中央は幾何学的な中心でなくてもよい。外周領域54は、共振領域50内の領域であって、共振領域50の外周に沿った領域である。
【0022】
付加膜18上に密着層22が設けられている。密着層22は例えばクロム(Cr)膜である。上部電極16及び密着層22上に保護膜24が設けられている。保護膜24は、例えば付加膜18の端面、上部電極16の端面、及び圧電膜14の端面を覆い、上部電極16上から下部電極12上に延在している。保護膜24は、例えば酸化シリコン(SiO
2)膜であり、その厚さは10nm〜100nmである。
【0023】
下部電極12には犠牲層をエッチングするための導入路32が形成されている。犠牲層は空隙30を形成するための層である。導入路32の先端付近は圧電膜14で覆われておらず、下部電極12は導入路32の先端に孔部34を有する。
【0024】
基板10としては、シリコン基板以外に、サファイア基板、アルミナ基板、スピネル基板、石英基板、水晶基板、ガラス基板、セラミック基板、又はGaAs基板等を用いることができる。下部電極12及び上部電極16としては、ルテニウム以外にも、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、又はイリジウム(Ir)等の単層膜又はこれらの積層膜を用いることができる。
【0025】
圧電膜14は、窒化アルミニウム以外にも、酸化亜鉛(ZnO)、窒化ガリウム(GaN)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸鉛(PbTiO
3)等を用いることができる。また、圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、共振特性の向上又は圧電性の向上のため他の元素を含んでもよい。例えば、添加元素として、スカンジウム(Sc)、2族元素若しくは12族元素と4族元素との2つの元素、又は2族元素若しくは12族元素と5族元素との2つの元素を用いることにより、圧電膜14の圧電性が向上する。このため、圧電薄膜共振器の実効的電気機械結合係数を向上できる。2族元素は例えばカルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)であり、12族元素は例えば亜鉛(Zn)である。4族元素は例えばチタン、ジルコニウム(Zr)、又はハフニウム(Hf)である。5族元素は例えばタンタル、ニオブ(Nb)、又はバナジウム(V)である。さらに、圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、フッ素(F)又はホウ素(B)を含んでもよい。
【0026】
付加膜18は、チタンと窒化チタンを含んで形成される場合に限られず、金属元素とこの金属元素の窒化物とを含んで形成されている場合であればよい。例えば、付加膜18は、タンタルと窒化タンタルを含んで形成されている場合でもよい。実施例1においては、金属元素で形成される領域20aが共振領域50の中央領域52に設けられ、金属元素の窒化物で形成される領域20bが共振領域50の外周領域54に設けられていればよい。金属元素と、この金属元素の窒化物とは、密度及びヤング率が異なる。表1に、チタン、窒化チタン、タンタル、及び窒化タンタルの密度及びヤング率を示す。
【表1】
【0027】
金属元素と、この金属元素の窒化物とは、密度及びヤング率が異なるため、付加膜18の領域20aが共振領域50の中央領域52に設けられ、領域20bが外周領域54に設けられることで、共振領域50は中央領域52と外周領域54で音速が異なるようになる。
【0028】
密着層22としては、付加膜18と保護膜24の密着性を良好にする膜であればクロム膜以外であってもよい。保護膜24としては、酸化シリコン膜以外にも、窒化シリコン膜又は窒化アルミニウム膜等の窒化金属膜又は酸化金属膜を用いることができる。
【0029】
[製造方法]
図3(a)から
図4(c)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図である。
図3(a)を参照して、基板10上に犠牲層38をスパッタリング法、真空蒸着法、又はCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用い成膜する。犠牲層38は、例えば厚さが10nm〜100nmの酸化マグネシウム(MgO)、酸化亜鉛(ZnO)、ゲルマニウム(Ge)、又は酸化シリコン(SiO
2)等である。その後、犠牲層38をフォトリソグラフィ法及びエッチング法を用い所望の形状にパターニングする。犠牲層38の形状は、空隙30の平面形状に相当する形状である。犠牲層38及び基板10上に下部電極12をスパッタリング法、真空蒸着法、又はCVD法を用い成膜する。その後、下部電極12をフォトリソグラフィ法及びエッチング法を用い所望の形状にパターニングする。下部電極12はリフトオフ法により形成してもよい。
【0030】
図3(b)を参照して、下部電極12及び基板10上に圧電膜14をスパッタリング法又は真空蒸着法を用い成膜する。圧電膜14上に上部電極16をスパッタリング法、真空蒸着法、又はCVD法を用い成膜する。上部電極16上にスパッタリング法、真空蒸着法、又はCVD法を用い金属元素を含む金属膜である付加膜18を成膜する。
【0031】
図3(c)を参照して、付加膜18上に窒素をイオン注入するための開口を有するレジスト膜40を形成する。レジスト膜40をマスクとして付加膜18に窒素をイオン注入する。これにより、付加膜18には、領域20aと領域20aよりも金属元素の窒化物の濃度が高い領域20bとが形成される。イオン注入をした後に例えば400℃程度の熱処理を行ってもよいし、熱処理を行わなくてもよい。
【0032】
図3(d)を参照して、レジスト膜40を除去した後、付加膜18をパターニングするためのレジスト膜42を形成する。レジスト膜42の形状は、空隙30の平面形状に相当する形状である。レジスト膜42をマスクとして付加膜18をエッチングして所望の形状にパターニングする。
【0033】
図4(a)を参照して、レジスト膜42を除去する。その後、上部電極16及び圧電膜14をフォトリソグラフィ法及びエッチング法を用い所望の形状にパターニングする。
【0034】
図4(b)を参照して、密着層22をスパッタリング法、真空蒸着法、又はCVD法を用い成膜した後、密着層22をフォトリソグラフィ法及びエッチング法を用い所望の形状にパターニングする。密着層22はリフトオフ法により形成してもよい。その後、保護膜24をフォトリソグラフィ法及びエッチング法を用い所望の形状にパターニングする。保護膜24はリフトオフ法により形成してもよい。
【0035】
図4(c)を参照して、孔部34及び導入路32(
図1参照)を介し、犠牲層38のエッチング液を下部電極12の下の犠牲層38に導入して犠牲層38を除去する。下部電極12、圧電膜14、及び上部電極16を含む積層膜の応力を圧縮応力に設定しておく。これにより、犠牲層38が除去されると、下部電極12と基板10との間にアーチ状の膨らみを有する空隙30が形成される。以上により、実施例1に係る圧電薄膜共振器100が製造される。
【0036】
実施例1によれば、上部電極16上で共振領域50に付加膜18が設けられている。付加膜18は、チタンと窒化チタンを含んで形成され、平面視において共振領域50内に領域20aと領域20aよりも窒化チタンの濃度が高い領域20bとを有する。表1のように、窒化チタンはチタンよりも密度及びヤング率が高い。したがって、共振領域50内に密度及びヤング率の異なる領域を容易に設けることができる。
【0037】
実施例1では、付加膜18は、平面視において共振領域50内の中央領域52に領域20aを有し、共振領域50内の外周領域54に領域20bを有する。窒化チタンはチタンよりも密度及びヤング率が高いことから音響インピーダンスが大きい。よって、領域20aが共振領域50内の中央領域52に設けられ、領域20bが共振領域50内の外周領域54に設けられることで、共振領域50は中央領域52と外周領域54で音速が異なるようになる。このため、共振領域50の外周部で音速の変化点が生じ、弾性波のエネルギーが共振領域50の外に漏れることが抑制される。よって、Q値を向上させることができる。
【0038】
また、実施例1によれば、基板10上に下部電極12を形成し、下部電極12上に圧電膜14を形成し、圧電膜14上に圧電膜14の少なくとも一部を挟み下部電極12と平面視において重なる共振領域50が形成されるように上部電極16を形成する。上部電極16上で共振領域50に金属元素を含む付加膜18を形成する。付加膜18に窒素をイオン注入して付加膜18の金属元素を窒化させて、平面視において共振領域50内に領域20aと領域20aよりも金属元素の窒化物の濃度が高い領域20bとを形成する。これにより、共振領域50内に密度及びヤング率の異なる領域を容易に設けることができる。また、領域20bをイオン注入によって形成することで、窒素イオンの注入領域と非注入領域の境界がガウス分布に従った窒素濃度分布となるため、領域20aと領域20bで材料の不連続点が生じ難くなる。これにより、クラック等の構造上の欠陥が発生し難くなる。
【0039】
弾性波のエネルギーが共振領域50の外に漏れることを抑制するために、共振領域50の中央領域52と外周領域54で音速が大きく異なる場合が好ましい。このことから、付加膜18に含まれる金属元素とこの金属元素の窒化物とは、ヤング率が2倍以上異なる場合が好ましく、3倍以上異なる場合がより好ましく、4倍以上異なる場合が更に好ましい。表1を踏まえると、付加膜18に含まれる金属元素はチタン又はタンタルの場合が好ましい。
【0040】
付加膜18に含まれる金属元素がチタンである場合、チタンは水素を吸収することで水素化物を形成するため、付加膜18のヤング率が低下して共振特性が劣化する場合がある。しかしながら、
図1のように、付加膜18が共振領域50の外周領域54に窒化チタンを多く含む領域20bを有することで、領域20aのチタンが水素を吸収し難くなり、チタンの水素化物が形成されることが抑制される。よって、共振特性の劣化を抑制できる。チタンの水酸化物の形成を抑制するため、共振領域50の外周全周にわたって領域20bが形成されている場合が好ましい。
【0041】
共振領域50における厚み縦振動モードの弾性波の効率的な励振の点から、平面視で、領域20bの面積は、領域20aの面積の1/3以下が好ましく、1/4以下がより好ましく、1/5以下が更に好ましい。
【0042】
図5(a)は、実施例1の変形例1に係る圧電薄膜共振器の断面図、
図5(b)は、実施例1の変形例2に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図5(a)を参照して、実施例1の変形例1の圧電薄膜共振器110では、基板10の上面に窪みが形成されている。下部電極12は、基板10上に平坦に形成されている。これにより、空隙30が基板10の窪みに形成されている。空隙30は共振領域50を含むように形成されている。その他の構成は、実施例1と同じであるため説明を省略する。空隙30は、基板10を貫通するように形成されていてもよい。なお、下部電極12の下面に絶縁膜が接して形成されていてもよい。すなわち、空隙30は基板10と下部電極12に接する絶縁膜との間に形成されていてもよい。絶縁膜として例えば窒化アルミニウム膜を用いてもよい。
【0043】
図5(b)を参照して、実施例1の変形例2の圧電薄膜共振器120では、共振領域50の下部電極12下に音響反射膜60が形成されている。音響反射膜60は、音響インピーダンスの低い膜62と音響インピーダンスの高い膜64とが交互に設けられている。膜62及び64の膜厚は、例えばそれぞれほぼλ/4(λは弾性波の波長)である。膜62と膜64の積層数は任意に設定できる。音響反射膜60は、音響特性の異なる少なくとも2種類の層が間隔をあけて積層されていればよい。また、基板10が音響反射膜60の音響特性の異なる少なくとも2種類の層のうちの1層であってもよい。例えば、音響反射膜60は、基板10中に音響インピーダンスの異なる膜が一層設けられている構成でもよい。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。
【0044】
実施例1及びその変形例1のように、圧電薄膜共振器は、共振領域50において空隙30が基板10と下部電極12との間に形成されているFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)でもよい。実施例1の変形例2のように、圧電薄膜共振器は、共振領域50において下部電極12下に圧電膜14を伝播する弾性波を反射する音響反射膜60を備えるSMR(Solidly Mounted Resonator)でもよい。共振領域50を含む音響反射層は、空隙30又は音響反射膜60を含めばよい。