【実施例1】
【0020】
図1は、実施例1に係るフィルタ装置の斜視図である。
図2(a)は、実施例1に係るフィルタ装置の平面図、
図2(b)は、
図2(a)のA−A断面図である。
図3は、実施例1に係るフィルタ装置の解体斜視図である。積層方向をZ方向、平面方向のうち複数の導電体ポストの配列方向をX方向およびY方向とする。
【0021】
図1から
図3に示すように、複数の誘電体層12aから12dが積層されている。誘電体層12a下、誘電体層12aから12dの間および誘電体層12d上にそれぞれ導電体層14aから14eが設けられている。誘電体層12bおよび12cは誘電体層12aおよび12dより厚い。このように、複数の誘電体層12aから12dの少なくとも1つの誘電体層の厚さは他の誘電体層の厚さと異なる。
【0022】
導電体層14aから14eは開口からなる窓18aから18eをそれぞれ有する。窓18aから18eの平面形状は略円形であり、互いの大きさ(直径)は略同じである。窓18aから18eの中心は、平面視において互いに略重なる。窓18aおよび18eにはパッド20aおよび20eが設けられている。パッド20aおよび20eの平面形状は略円形であり、互いの大きさ(直径)は略同じである。窓18aおよび18eの中心とパッド20aおよび20eの中心とは平面視において略重なる。
【0023】
誘電体層12aから12dおよび導電体層14aから14eをZ方向に貫通する複数の導電体ポスト16が設けられている。導電体ポスト16は、誘電体層12aから12dを貫通する導電体ポスト16aから16dを各々有する。導電体ポスト16aから16dは、各々上下の導電体層14aから14eを電気的に接続する。導電体ポスト16がX方向に配列するポスト群30aおよび30bとY方向に配列するポスト群30cから30dとを有する。ポスト群30aと30bとはY方向に対向し、ポスト群30cと30dとはX方向に対向する。ポスト群30aから30dで囲まれた空間の平面形状は略正方形である。導電体ポスト16aから16dに各々囲まれた空間の平面形状は互いに略一致している。
【0024】
導電体層14a、14bおよび導電体ポスト16aで囲まれた誘電体層12a内の空間15aは共振器10aを形成する。導電体層14b、14cおよび導電体ポスト16bで囲まれた誘電体層12b内の空間15bは共振器10bを形成する。導電体層14c、14dおよび導電体ポスト16cで囲まれた誘電体層12c内の空間15cは共振器10cを形成する。導電体層14d、14eおよび導電体ポスト16dで囲まれた誘電体層12d内の空間15dは共振器10dを形成する。
【0025】
窓18bは共振器10aと共振器10bとの間を高周波信号が伝搬する接続窓として機能する。窓18cおよび18dも同様に隣接する共振器を高周波信号が伝搬する接続窓として機能する。窓18aおよび18eは高周波信号を外部に出力または外部から入力する入出力窓として機能する。窓18aから18eは誘電体層12aから12dにより埋め込まれている。窓18aから18eは誘電体層12aから12dに埋め込まれていなくてもよい。
【0026】
各共振器10aから10dは、誘電体層12aから12d内では高周波信号が伝搬するZ方向に電界が一様なTE(Transverse Electric Wave)モード(TE
110モード)において共振する。共振周波数における波長は、ポスト群30cと30dの内側間の距離Lxおよびポスト群30aと30cの内側間の距離Lyの略2倍となる。
【0027】
誘電体層12aから12dは、例えば樹脂層またはセラミックス等の絶縁層である。導電体層14aから14eは例えば銅層等の金属層である。導電体ポスト16は例えば銅ポスト等の金属ポストである。
【0028】
[実施例1の製造方法]
図4(a)から
図4(c)は、実施例1に係るフィルタ装置の製造方法を示す図である。
図4(a)に示すように、誘電体層12a´から12d´の上面にそれぞれ導電体層14bから14eが貼り付けられたプリント基板を準備する。誘電体層12a´から12d´の下面にそれぞれ接着剤13aから13dを塗布する。
【0029】
図4(b)に示すように、誘電体層12a´から12d´の下面と導電体層14aから14dの上面をそれぞれ接着剤13aから13dを用い接着する。窓18bから18d内は接着剤13aから13dが埋め込まれる。誘電体層12a´から12d´と接着剤13aから13dとの比誘電率を略同じとする。これにより、誘電体層12a´から12d´と接着剤13aから13dは、それぞれ誘電体層12aから12dとして機能する。
【0030】
図4(c)に示すように、誘電体層12aから12dおよび導電体層14aから14eを貫通する導電体ポスト16を形成する。これにより、実施例1に係るフィルタ装置が製造される。
【0031】
[シミュレーション1]
実施例1に係るフィルタ装置の通過特性をシミュレーションした。誘電体層12a´から12d´の比誘電率を3.66、接着剤13aから13dの比誘電率を3.7とした。誘電体層12aから12dの厚さをそれぞれ439μm、1218μm、1201μmおよび439μmとした。導電体層14aから14eを銅層とし、厚さを18μmとした。導電体ポスト16を銅ポストとし、直径を450μmとした。距離LxおよびLyを4.145mmとした。
【0032】
図5は、シミュレーション1におけるフィルタの通過特性を示す図である。
図5において、実線はインピーダンス整合前、破線はインピーダンス整合後を示す。
【0033】
図5に示すように、インピーダンス整合前において、矢印54のように、各共振器10aから10dが結合して発生する共振周波数に対応するピークが形成される。インピーダンス整合後のように、入出力インピーダンスを適切に整合させることにより、ピークの間の落ち込んでいる部分の整合が取れ、均一な通過帯域55が形成される。
【0034】
図6(a)および
図6(b)は、シミュレーション1における誘電体層内の電界分布を示す平面図および断面図であり、共振器10dの共振周波数27.8GHzにおける誘電体層12d内の電界分布を示す。印加電圧は1Vとした。
【0035】
図6(a)および
図6(b)に示すように、パッド20e付近にはパッド20eに起因した電界の集中が生じている。導電体ポスト16d近くでは、Z方向の電界強度はほぼ同じとなる。このように、共振周波数において誘電体層12d内のモードはTEモードであり、TE
110モードとなる。なお、TE
110の110はZ方向の電界が一様であるモードであることを示している。
【0036】
[シミュレーション2]
Z方向に隣接する共振器における誘電体層の厚さを最適化するためシミュレーション2を行った。
図7は、シミュレーション2を行った構造を示す断面図である。
図7に示すように、導電体層14a(第1導電体層)上に誘電体層12a(第1誘電体層)が設けられ、誘電体層12a上に導電体層14b(第2導電体層)が設けられ、導電体層14b上に誘電体層12b(第2誘電体層)が設けられ、誘電体層12b上に導電体層14c(第3導電体層)が設けられている。誘電体層12aを貫通し導電体層14aと14bとを接続する複数の導電体ポスト16a(第1導電体ポスト)が設けられ、誘電体層12bを貫通し導電体層14bと14cとを接続する複数の導電体ポスト16b(第2導電体ポスト)が設けられている。
【0037】
共振器10a(第1共振器)は、導電体層14aと14bと複数の導電体ポスト16aとにより囲まれた誘電体層12a内の空間15a(第1空間)を有する。共振器10b(第2共振器)は、導電体層14bと14cと複数の導電体ポスト16bとにより囲まれた誘電体層12b内の空間15b(第2空間)を有する。空間15aと15bとは平面視において略一致しており、窓18b(接続窓)は空間15aと15bとを接続する。なお、空間15aと15bとが平面視において略一致とは、導電体ポスト16aおよび16bのうち最も大きい直径程度のずれを許容する範囲で一致していることを示す。
【0038】
導電体層14aおよび14cの窓18aおよび18cが入出力窓となり、導電体層14bの窓18bが接続窓となる。窓18aおよび18c内にパッド20aおよび20cがそれぞれ設けられている。誘電体層12aおよび12bの厚さをそれぞれh1およびh2とする。厚さh1およびh2以外はシミュレーション1と同じ条件を用いた。
【0039】
図8は、シミュレーション2における通過特性を示す図である。
図8では、厚さh2を0.4mmに固定し、厚さh1を0.4mmから1.3mmまで変えている。
【0040】
図8に示すように、h1=0.4mmでは、通過帯域55より高周波側の減衰極50は1つであり減衰量は約−40dBである。h1=0.9mmでは、減衰極50の減衰量は大きくなり約−55dBである。h1=1.0mmでは、減衰極50のピークが急峻になり減衰量は−90dBと急激に大きくなる。h1=1.1mmでは、減衰極51と52の2つの減衰極が形成される。2つの減衰極51および52の減衰量は−70〜−80dBであり、h1=0.9の減衰極50の減衰量より大きい。h1=1.3mmでは、h1=1.1mmと同様に2つの減衰極51および52が形成される。
【0041】
図9は、シミュレーション2におけるh2/h1に対する減衰極の減衰量を示す図である。
図9に示すように、h2/h1を1から小さくしていくと減衰極50の減衰量は大きくなる。h2/h1=0.4において減衰極50の減衰量は急激に大きくなる。h2/h1が0.4より小さくなると減衰極51と52が形成され減衰量は小さくなるが、h2/h1が0.4のときの減衰極50の減衰量より大きい。また。減衰極51と52が形成されるため、減衰域を広くできる。
【0042】
図10は、シミュレーション2における通過特性を示す図である。
図10では、h1=h2=0.4mm、0.7mmおよび1.0mmのサンプルとh1=0.4mmおよびh2=1.0mmのサンプルについてシミュレーションしている。
【0043】
図10に示すように、h1=h2を大きくすると、減衰極50の減衰量は大きくなる。しかし、h1=h2=1.0mmとしても、h1=0.4mmおよびh2=1.0mmの減衰極50のように急峻な減衰極は形成されない。このように、減衰極50の減衰量の増加および減衰極51および52の形成はh2/h1を変えた場合に生じる現象と考えられる。この現象が生じる原因は明確ではないが、例えば厚さh1とh2の差が大きくなることで、ある特定の周波数においてインピーダンスの不整合が大きくなり、共振器10aと10bとの間において高周波信号の反射が大きくなるためと考えられる。
【0044】
実施例1によれば、隣接する共振器10aおよび10bの導電体層14aおよび14bの厚さの比h2/h1≦0.4とする。これにより、
図8および
図9のように、減衰特性を改善できる。h2/h1<0.4が好ましく、h2/h1≦0.36がより好ましく、h2/h1≦0.33がさらに好ましい。これにより、
図8のように、減衰極51および52が形成され減衰域を広くできる。
【0045】
空間15aから15dの平面形状は、略長方形等の多角形、略円形または略楕円形でもよいが、略正方形であることが好ましい。これにより、X方向とY方向とで共振周波数が略等しくなる。よって、不要な共振の発生を抑制できる。なお、略正方形とは、距離LxとLyとにおいて、導電体ポスト16aから16dのうち最も大きい直径程度のずれを許容する範囲で一致していることを示す。
【0046】
複数の導電体ポスト16aから16dは誘電体層12aから12d毎に別々に形成してもよい。
図4(c)のように、誘電体層12aから12dに同時に導電体ポスト16を形成する。これにより、導電体ポスト16aから16dを別々に形成する方法に比べ、製造工程を簡略化できる。このように製造したフィルタ装置では、複数の導電体ポスト16aから16dとの平面視における位置は略一致する。なお、略一致とは、導電体ポスト16aから16dのうち最も大きい直径程度のずれを許容する範囲で一致していることを示す。
【0047】
誘電体層12aと12bとの比誘電率は略一致する。これにより、誘電体層12aと12bとの界面における高周波信号の反射を抑制できる。なお、略一致とは、例えば誘電体層12aの比誘電率と12bの比誘電率との差が±10%以下であることを許容する。すなわち、誘電体層12aおよび12bの比誘電率をそれぞれεaおよびεbとしたとき、例えば2×|εa−εb|/(εa+εb)≦0.1である。
図4(a)における接着剤13aから13dの比誘電率と誘電体層12aから12dの比誘電率の差も同様に例えば±10%以下である程度に略一致することが好ましい。
【0048】
図6(a)および
図6(b)のように、通過帯域55を形成する共振モードは、TEモードである。これにより、h2/h1を0.4以下とすることで減衰特性を向上できる。
【0049】
窓18aから18eの平面形状は略円形である。これにより、窓18aから18eにおける高周波信号の反射を抑制できる。なお、窓18aから18eの平面形状は円形以外に多角形または楕円形状でもよい。高周波信号の反射を抑制するためには、窓18aから18eの平面形状は、5角形以上の略正多角形または略円形であることが好ましい。
【0050】
窓18aから18e内に誘電体層12aから12dのいずれかが設けられていることが好ましい。これにより、窓18aから18eにおける高周波信号の反射を抑制することができる。
【0051】
図1から
図3のように、複数の共振器10aから10dは、一対の導電体層と、一対の導電体層に挟まれた誘電体層と、誘電体層を貫通し一対の導電体層の間を接続する複数の導電体ポストと、を各々備え、一対の導電体層と複数の導電体ポストとにより囲まれた誘電体層12aから12d内の空間15aから15dを各々有する。隣接する共振器において、一対の導電体層の一方を共有し、空間は平面視において略一致し、共有する導電体層は、隣接する共振器の空間を接続する接続窓を有する。このように、共振器10aから10dを3以上積層することで、
図5のように、各共振器10aから10dの共振周波数を異ならせ、通過帯域55を広帯域にすることができる。
【0052】
複数の共振器10aから10dのうち最外の共振器10aおよび10dの最外の導電体層14aおよび14eは最外の共振器の空間15aおよび15dに接続する窓18aおよび18eとなる開口を有する。開口内にパッド20aおよび20eが設けられている。窓18aおよび18bとパッド20aおよび20eの大きさを変えることにより、同軸線路と同様にインピーダンスを制御できる。
【0053】
[実施例1の変形例1]
図11(a)は、実施例1の変形例1に係るフィルタ装置の断面図である。
図11(a)に示すように、実施例1の変形例1では、窓18bから18dの大きさWbからWdが互いに異なっている。このように、窓18bから18dの少なくとも1つの窓は他の窓とサイズが異なる。これにより、上下の空間15aから15dの電磁界の結合を変えることができる。電磁界結合を変えることで、帯域幅を制御することができる。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0054】
[実施例1の変形例2]
図11(b)は、実施例1の変形例2に係るフィルタ装置の断面図である。
図11(b)に示すように、実施例1の変形例2では、窓18aと18eの大きさWaおよびWeが互いに異なっている。また、パッド20aと20eの大きさWAおよびWEが互いに異なっている。このように、2つの開口である窓18aおよび18eのサイズは互いに異なる、および/または2つのパッド20aおよび20eのサイズは互いに異なる。これにより、フィルタ装置の上下に接続する回路に対応し入出力インピーダンスを設定することができる。