特開2021-175797(P2021-175797A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2021-175797樹脂組成物、ガスバリア性フィルム、燻蒸用マルチフィルム、樹脂組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-175797(P2021-175797A)
(43)【公開日】2021年11月4日
(54)【発明の名称】樹脂組成物、ガスバリア性フィルム、燻蒸用マルチフィルム、樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20211008BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20211008BHJP
   C08L 23/04 20060101ALI20211008BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20211008BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20211008BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20211008BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20211008BHJP
【FI】
   C08L77/00
   C08L29/04 S
   C08L23/04
   C08L23/26
   B32B27/28 102
   B32B27/34
   B32B27/32 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2021-72241(P2021-72241)
(22)【出願日】2021年4月22日
(31)【優先権主張番号】特願2020-77325(P2020-77325)
(32)【優先日】2020年4月24日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000206473
【氏名又は名称】大倉工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】笠木 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】山谷 幸平
(72)【発明者】
【氏名】則包 猛
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AK03A
4F100AK04A
4F100AK05
4F100AK46
4F100AK46A
4F100AK63
4F100AK69
4F100AK69A
4F100AK70
4F100AL06A
4F100AL07
4F100AT00B
4F100BA02
4F100BA07
4F100EH17
4F100GB01
4F100JD02A
4F100JD03
4F100JK03
4F100YY00A
4J002BB033
4J002BB053
4J002BB063
4J002BB123
4J002BB143
4J002BB214
4J002BB222
4J002BE032
4J002CL011
4J002CL031
4J002GA01
4J002GF00
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ガスバリア性を備える樹脂組成物であって、フィルム状に成形するのに適した樹脂組成物を提供する。
【解決手段】エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリアミド系樹脂とからなるガスバリア性樹脂分と、ポリオレフィン系樹脂分からなる樹脂組成物において、前記ガスバリア性樹脂分における前記エチレン−ビニルアルコール共重合体と前記ポリアミド系樹脂との重量割合が、エチレン−ビニルアルコール共重合体:ポリアミド系樹脂=1.0:2.0〜10.0であって、前記樹脂組成物における前記ガスバリア性樹脂分と前記ポリオレフィン系樹脂分とが、ガスバリア性樹脂分:ポリオレフィン系樹脂分=50〜85重量%:50〜15重量%の割合で混合されていることを特徴とする、樹脂組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリアミド系樹脂とからなるガスバリア性樹脂分と、ポリオレフィン系樹脂分からなる樹脂組成物において、
前記ガスバリア性樹脂分における前記エチレン−ビニルアルコール共重合体と前記ポリアミド系樹脂との重量割合が、エチレン−ビニルアルコール共重合体:ポリアミド系樹脂=1.0:2.0〜10.0であって、
前記樹脂組成物における前記ガスバリア性樹脂分と前記ポリオレフィン系樹脂分とが、ガスバリア性樹脂分:ポリオレフィン系樹脂分=50〜85重量%:50〜15重量%の割合で混合されていることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリオレフィン系樹脂分が、ポリエチレン系樹脂を主成分とすることを特徴とする請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリオレフィン系樹脂分が、変性ポリオレフィン系樹脂を含むことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の樹脂組成物からなる層を少なくとも1層備えることを特徴とするガスバリア性フィルム。
【請求項5】
請求項4記載のガスバリア性フィルムを用いることを特徴とする燻蒸用マルチフィルム。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれかに記載の樹脂組成物を製造する方法であって、
エチレン−ビニルアルコール共重合体層及び/又はポリアミド系樹脂層と、ポリオレフィン系樹脂層とからなる多層フィルムを溶融混合して弱バリア性樹脂組成物を製造する工程と、
前記弱バリア性樹脂組成物と、エチレン−ビニルアルコール共重合体及び/又はポリアミド系樹脂を混合する工程と、
を順に備えることを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至3のいずれかに記載の樹脂組成物を製造する方法であって、
エチレン−ビニルアルコール共重合体層及び/又はポリアミド系樹脂層を有する多層フィルムを溶融混合して弱バリア性樹脂組成物を製造する工程と、
ポリオレフィン系樹脂からなるフィルムを溶融して非バリア性樹脂組成物を製造する工程と、
を備えることを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガスバリア性を備える樹脂組成物に関する。また該樹脂組成物を用いたガスバリア性フィルム、燻蒸用マルチフィルム、更には樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、連作障害のリスクを低減する等の目的で、土壌の燻蒸が行われている。種子を蒔いたり苗を植えたりする前に燻蒸剤を土壌に注入し、その後、マルチフィルムで土壌を覆い燻蒸する。しかしながら一般的なマルチフィルムはポリエチレン系樹脂から成り、ガスバリア性が低いため、燻蒸剤がフィルムを透過して大気中に揮散し、十分な燻蒸効果が得られないことがあった。
【0003】
特許文献1は燻蒸用マルチフィルム(特許文献1における「燻蒸による土壌処理用のフィルム」に相当)に関する発明で、少なくとも1種のポリアミドと少なくとも1種のポリオレフィンとを含む混合物からなることを特徴とする。実施例において開示されている燻蒸用マルチフィルムは、臭化メチルの透過性が低いものの、後述する本発明の比較例4と同様に、機械的強度が不十分であると思われる。燻蒸用マルチフィルムは敷設時に引っ張られ、また燻蒸処理時に作業者に踏まれる恐れがある為、機械的強度が不足すると破損や折損が生じる。
【0004】
特許文献2も燻蒸用マルチフィルム(特許文献2における「土壌被覆用フィルム」に相当)に関する発明である。該フィルムは、基材層上に無機層状化合物を含有する樹脂組成物からなる塗工層を有することを特徴とする。実施例には、特許文献2のフィルムが燻蒸剤のバリア性に優れており、少量の燻蒸剤でも効率よく土壌を消毒することができることが開示されている。しかしながら該フィルムは、基材フィルムを製造した後、上記樹脂組成物を塗工する必要があり、製造設備や製造工程が複雑になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−121694号公報
【特許文献2】特開2004−222626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はガスバリア性を備える樹脂組成物であって、フィルム状に成形するのに適した樹脂組成物の提供を課題とする。詳しくは、押出成形法によりフィルム状に成形することが容易で、得られるフィルムがガスバリア性だけでなく、機械的強度にも優れる樹脂組成物の提供を課題とする。
併せて、該樹脂組成物を用いたガスバリア性フィルムの提供、該ガスバリア性フィルムの用途の提供、更には廃棄物を利用した樹脂組成物の製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によると、上記課題を解決する為の手段として
(1) エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリアミド系樹脂とからなるガスバリア性樹脂分と、ポリオレフィン系樹脂分からなる樹脂組成物において、前記ガスバリア性樹脂分における前記エチレン−ビニルアルコール共重合体と前記ポリアミド系樹脂との重量割合が、エチレン−ビニルアルコール共重合体:ポリアミド系樹脂=1.0:2.0〜10.0であって、前記樹脂組成物における前記ガスバリア性樹脂分と前記ポリオレフィン系樹脂分とが、ガスバリア性樹脂分:ポリオレフィン系樹脂分=50〜85重量%:50〜15重量%の割合で混合されていることを特徴とする樹脂組成物が提供される。
(2) 前記ポリオレフィン系樹脂分が、ポリエチレン系樹脂を主成分とすることを特徴とする(1)記載の樹脂組成物が提供される。
(3) 前記ポリオレフィン系樹脂分が、変性ポリオレフィン系樹脂を含むことを特徴とする(1)または(2)のいずれかに記載の樹脂組成物が提供される。
【0008】
また、
(4) (1)乃至(3)のいずれかに記載の樹脂組成物からなる層を少なくとも1層備えることを特徴とするガスバリア性フィルムが提供される。
(5) (4)記載のガスバリア性フィルムを用いることを特徴とする燻蒸用マルチフィルムが提供される。
【0009】
更に、
(6) (1)乃至(3)のいずれかに記載の樹脂組成物を製造する方法であって、エチレン−ビニルアルコール共重合体層及び/又はポリアミド系樹脂層と、ポリオレフィン系樹脂層とからなる多層フィルムを溶融混合して弱バリア性樹脂組成物を製造する工程と、前記弱バリア性樹脂組成物と、エチレン−ビニルアルコール共重合体及び/又はポリアミド系樹脂を混合する工程と、を順に備えることを特徴とする樹脂組成物の製造方法が提供される。
(7) (1)乃至(3)のいずれかに記載の樹脂組成物を製造する方法であって、エチレン−ビニルアルコール共重合体層及び/又はポリアミド系樹脂層を有する多層フィルムを溶融混合して弱バリア性樹脂組成物を製造する工程と、ポリオレフィン系樹脂からなるフィルムを溶融して非バリア性樹脂組成物を製造する工程と、を備えることを特徴とする樹脂組成物の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の樹脂組成物は、ガスバリア性樹脂分が50重量%以上である為、ガスバリア性に優れる。また該ガスバリア性樹脂分が、エチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、必要に応じ「EVOH」と略称する)とポリアミド系樹脂(以下、必要に応じ「PA」と略称する)とからなり、ガスバリア性樹脂分におけるEVOHとPAの重量割合が、EVOH:PA=1.0:2.0〜10.0であり、樹脂組成物におけるガスバリア性樹脂分とポリオレフィン系樹脂分とが、ガスバリア性樹脂分:ポリオレフィン系樹脂分=50〜85重量%:50〜15重量%の割合で混合されている為、比較的容易にフィルム状に成形することができる。更に得られるフィルムは、引裂け難く、機械的強度に優れる。
【0011】
また樹脂組成物におけるポリオレフィン系樹脂分がポリエチレン系樹脂を主成分とする場合、比較的安価で、インフレーション押出成形法による製膜が容易という効果がある。またポリオレフィン系樹脂分が変性ポリオレフィン系樹脂を含むと、ガスバリア性樹脂分とポリオレフィン系樹脂分の相溶性が改善されるため製膜性が良好で、外観に優れるフィルムを得ることができる。
また本発明の樹脂組成物を用いて製造されたガスバリア性フィルムは、ガスバリア性だけでなく、機械的強度にも優れる。よって、敷設時には強く引っ張られ、敷設後には踏まれることがある燻蒸用マルチフィルムの用途に適する。
【0012】
また、従来、EVOH層やPA層等のガスバリア層と、ポリオレフィン系樹脂層を備える多層フィルムは、各樹脂を分離回収する設備が高価である為、マテリアルリサイクルが進んでいなかった。しかしながら本発明の樹脂組成物の製造方法を利用すると、フィルムの原料として再利用することができる。
また、本発明の樹脂組成物の製造方法を利用し、上述した多層フィルムだけでなく、ポリオレフィン系樹脂からなるフィルムを再利用することも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく同様の効果を奏する範囲において種々の実施形態をとることができる。
【0014】
<ガスバリア性樹脂分>
本発明の樹脂組成物は、ガスバリア性樹脂分とポリオレフィン系樹脂分とからなり、当該ガスバリア性樹脂分はEVOHとPAとからなる。
EVOHはエチレン−酢酸ビニル共重合体をケン化することにより得られる樹脂(エチレン−ビニルアルコール共重合体)で、酸素ガスのバリア性が極めて良好な樹脂である。該共重合体のエチレンコンテント(エチレンモノマー由来成分の重量割合)は30.0〜50.0重量%であることが好ましく、特に35.0〜45.0重量%、更には37.5〜42.5重量%であることが好ましい。エチレンモノマー由来成分の割合が低下し、ビニルアルコール成分の割合が高くなるなるほど、ガスバリア性は良好となるが製膜性が低下する。尚、本発明ではケン化度やエチレンコンテントの異なる複数のEVOHを混合して用いることもできる。
【0015】
PAは、様々なガスのバリア性に優れる樹脂で、EVOHよりも湿度の影響を受けにくい。本発明ではPAとして、特に限定されることなく、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6とナイロン66の共重合体、ナイロン12、ナイロン6とナイロン66とナイロン12の三元共重合体などを用いることができる。これらの樹脂を、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。とくに、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6とナイロン66の共重合体を主成分とすれば、引張強度や衝撃耐性を向上させることができるという利点がある。
【0016】
ガスバリア性樹脂分におけるEVOHとPAの重量割合はEVOH:PA=1.0:2.0〜10.0である。EVOH1.0に対しPA2.0未満では、得られる樹脂組成物が製膜安定性に劣るものとなる。具体的には、インフレーション押出成形法により製膜する際に、フィルムに穴が開く恐れがある。一方、EVOH1.0に対しPAが10.0を超えると、本発明の樹脂組成物から得られるフィルムが裂けやすいものとなり、燻蒸用マルチフィルムの用途には適さないものとなる。また本発明の樹脂組成物におけるEVOHの割合が低くなりすぎるとガスバリア性が低下する恐れがあり、PAの割合が低くなりすぎるとガスバリア性の環境依存性が高くなる恐れがある。尚、EVOH:PAは、1.0:2.5〜9.0が好ましく、特に1.0:3.5〜8.5が好ましい。
【0017】
<ポリオレフィン系樹脂分>
ポリオレフィン系樹脂分は、例えば、エチレンの単独重合体、エチレンとα−オレフィンの共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリエチレン系樹脂や、プロピレンの単独重合体、プロピレンとエチレンのランダム共重合体、プロピレンとエチレンのブロック共重合体、プロピレンとエチレンとブテンの三元共重合体等のポリプロピレン系樹脂や、これらの重合体を変性させた変性ポリオレフィン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂から成る。
しかしながらフィルム状に成形することを考慮すると、エチレンの単独重合体、エチレンとα−オレフィンの共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリエチレン系樹脂を主成分とすることが好ましい。これらの樹脂を用いると、フィルムに柔軟性(しなやかさ)を付与することができ、またフィルムを比較的安価に製造することができる。押出成形法によりフィルム状に成形する場合は、エチレン−αオレフィン共重合体を主成分とすることが特に好ましい。
【0018】
また本発明のポリオレフィン系樹脂分は、変性ポリオレフィン系樹脂を含むことが望ましい。変性ポリオレフィンは不飽和カルボン酸やその無水物または誘導体等により変性されたポリオレフィンで、ガスバリア性樹脂分とポリオレフィン系樹脂分の相溶化剤として機能する。
ポリオレフィンを変性する不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、フラン酸、クロトン酸、酢酸ビニル、ペンテン酸等の不飽和モノカルボン酸や、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸等のα,β−不飽和ジカルボン酸またはこれらの無水物や誘導体等を例示することができるがこれに限定されるものではない。尚、入手のしやすさと相溶性を考慮すると、変性ポリオレフィンは無水マレイン酸をグラフト重合したポリエチレンであることが好ましい。ポリオレフィン系樹脂分における変性ポリオレフィン系樹脂の重量割合は、費用対効果の観点から、5〜10重量%であることが望ましい。
【0019】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、上述したガスバリア性樹脂分とポリオレフィン系樹脂分とが、ガスバリア性樹脂分:ポリオレフィン系樹脂分=50〜85重量%:50〜15重量%の割合で混合されていることを特徴とする。ガスバリア性樹脂分の配合割合が50重量%未満では十分なガスバリア性を発揮することができず、ポリオレフィン系樹脂分が15重量%未満ではフィルムに成形することが困難となる。ガスバリア性樹脂分:ポリオレフィン系樹脂分は50〜65重量%:50〜35重量%であることが好ましく、特に57〜62重量%:43〜38重量%であることが好ましい。
尚、本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の樹脂成分や各種添加剤を添加することができる。
【0020】
<ガスバリア性フィルム>
本発明のガスバリア性フィルムは、上述した樹脂組成物をフィルム状に成形することにより得られる。フィルム状に成形する方法は特に限定されるものではなく、インフレーション押出成形法、Tダイ押出成形法等の従来公知の製法により製造することができる。
【0021】
また上述した樹脂組成物と、他の熱可塑性樹脂を用いて多層フィルムとすることもできる。この場合、本発明の樹脂組成物と他の熱可塑性樹脂とを別々の押出機に供給し、インフレーション共押出法やTダイ共押出法等を用いて、多層のガスバリア性フィルムに成形することができる。他の熱可塑性樹脂としては特に限定されるものではなく、本発明の樹脂組成物に用いられるポリオレフィン系樹脂を好適に用いることができる。また、層構成は、例えば他の熱可塑性樹脂/本発明の樹脂組成物/他の熱可塑性樹脂の三層構成、他の熱可塑性樹脂/接着性樹脂層/本発明の樹脂組成物/接着性樹脂層/他の熱可塑性樹脂の五層構成などが挙げられる。層構成比は三層構成の場合であれば1/1/1〜1/10/1が好適である。
【0022】
<燻蒸用マルチフィルム>
本発明のガスバリア性フィルムは、ガスバリア性に優れ、尚且つ、機械的強度に優れるため、燻蒸用マルチフィルムの用途に適する。燻蒸用マルチフィルムのガスバリア性が不十分であると、燻蒸剤(クロルピクリン等)がマルチフィルムを透過して大気中に揮散する為、十分に土壌の防除ができない恐れがある。また燻蒸用マルチフィルムの機械的強度が不十分であると、マルチフィルムが敷設時や使用時に破れる等し、当該破れた所から燻蒸剤が揮散する恐れがある。燻蒸剤の揮散は、刺激臭や健康被害をもたらす恐れがある。
【0023】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物は、未使用のEVOHやPA、ポリオレフィン系樹脂などを混合して製造することができるが、従来、マテリアルリサイクルが難しかった(i)多層フィルムや、使用後の(ii)ポリオレフィン系樹脂からなるフィルムを利用して製造することができる為、資源の有効活用に貢献する。
【0024】
(多層フィルムの利用)
包装資材として用いられているガスバリア性フィルムは、EVOH層やPA層などのガスバリア層と、フィルムにヒートシール性を付与するポリオレフィン系樹脂層を積層した多層フィルムからなるものが多い。該多層フィルムは、各樹脂を分離回収する為に多くの費用が掛かる為、使用後は廃棄される、もしくはサーマルリサイクルされることが多い。しかしながら本発明の樹脂組成物は、EVOH、PA、ポリオレフィンの三成分を含むため、包装用のガスバリア性フィルムを樹脂別に分離せず、そのまま原料として再利用することができる。
尚、包装用のガスバリア性フィルムはその大半がポリオレフィン系樹脂層である為、そのまま溶融して、再度、フィルム状に成形しても十分なガスバリア性を発揮することができない。よって、本発明の樹脂組成物の製造方法では、(1)従来のガスバリア性フィルム等を溶融混合して弱バリア性樹脂組成物を製造し(必要に応じペレット化し)、(2)EVOHやPA等と混合する方法を提案する。
【0025】
(ポリオレフィン系樹脂からなるフィルムの利用)
また市場にはポリオレフィン系樹脂からなるフィルムが多く出回っているが、該フィルムを本発明の樹脂組成物の原料として利用することも可能である。詳しくは、(1)ポリオレフィン系樹脂からなるフィルムを溶融し非バリア性樹脂組成物を製造し(必要に応じペレット化し)、これに(2)EVOHやPA等を混合すればよい。
尚、(2)EVOHやPA等の混合には、(a)未使用のEVOHやPA原料を使用してもよく、また(b)EVOH層やPA層を有する多層フィルムを溶融混合した弱バリア性樹脂組成物を用いてもよい。また、(a)の未使用原料と(b)の弱バリア性樹脂組成物の双方を用いてもよい。
【実施例】
【0026】
以下、実施例に基づき本発明の効果を詳説する。尚、各実施例、比較例のガスバリア性フィルムの性能は以下の要領にて行った。
[製膜性]
インフレーション押出成形法によりフィルムを製造する際に、目視によりバブルの安定性を確認し、また製膜後のフィルムに穴あきが発生していないか目視で確認する。特に問題なくフィルム状に成形できたものは〇、バブルが不安定であったものやフィルムに穴あきが見られたものは×と評価する。
[酸素透過度]
JIS K 7126−1:2006 の付属書2の方法に準拠して測定する。尚、試験装置はGTRテック(株)社製GTR−10XAOR−3を用いる。試験ガスは圧力200kPa、酸素ガス99.5%以上のものを用い、測定時の圧力は158.3kPa、試験条件は室温23℃、湿度0%で行う。
[引裂強度]
JIS K 7128:1998 のエルメンドルフ引裂法に準拠して行う。試験片は半径一定試験片を用いる。尚、フィルムを製膜する際にフィルムが流れる方向(長さ方向=MD)と、それと垂直な方向(幅方向=TD)の2方向において引裂強度を測定する。
【0027】
[実施例1]
PA層/EVOH層/無水マレイン酸変性ポリエチレン層/直鎖状低密度ポリエチレン層を順に備える包装用のガスバリア性フィルムを、小さく裁断した後に溶融して、弱バリア性樹脂組成物を得た。インフレーション押出成形法にて、該弱バリア性樹脂組成物とPAとEVOHとを押出機にて溶融混練し(本発明の樹脂組成物)、厚さ20μmフィルム状に成形し、実施例1のガスバリア性フィルムを得た。該樹脂組成物における各樹脂の配合割合(重量%)と該フィルムの性能を表1に併せて記す。
【0028】
[実施例2]
実施例1と同様にして、弱バリア性樹脂組成物を得た。インフレーション押出成形法にて、該弱バリア性樹脂組成物(本発明の樹脂組成物)を厚さ20μmフィルム状に成形し、実施例2のガスバリア性フィルムを得た。該樹脂組成物における各樹脂の配合割合と該フィルムの性能を表1に併せて記す。
【0029】
[実施例3〜5]
実施例1と同様にして、弱バリア性樹脂組成物を得た。インフレーション押出成形法にて、該弱バリア性樹脂組成物とPAとを押出機にて溶融混練し(本発明の樹脂組成物)、厚さ20μmフィルム状に成形し、実施例3〜5のガスバリア性フィルムを得た。該樹脂組成物における各樹脂の配合割合(重量%)と該フィルムの性能を表1に併せて記す。
【0030】
[比較例1〜3]
実施例1と同様にして、弱バリア性樹脂組成物を得た。該弱バリア性樹脂組成物に、比較例1ではEVOHを、比較例2ではPAとEVOHを、比較例3ではポリエチレンを添加し、比較例1〜3のガスバリア性フィルム(20μm)を得た。
[比較例4]
フィルム化されていない原料(バージン原料)を表1に示す割合でドライブレンドし、比較例4のガスバリア性フィルム(20μm)を得た。
【0031】
【表1】
【0032】
実施例1〜5のガスバリア性フィルムは、いずれも安定して製膜することができた。また酸素透過度が小さく、引裂強度は十分に大きかった。よってガスバリア性、機械的強度の双方に優れる。
比較例1、2のフィルムは、ガスバリア性や機械的強度に優れるものの、得られたフィルムの一部に穴が開いているところがあった。これはEVOHに対するPAの重量割合が小さかったためと思われる。比較例3のフィルムは引裂強度が小さく、酸素透過度が大きかった。これはガスバリア性樹脂分の量が少なかったことに起因すると思われる。比較例4のフィルムは引裂強度が小さかった。特にTDは、試験片をスリット部分から真っ直ぐに裂くことができず、強度を測定することができなかった。これはEVOHが配合されていないことに起因するものと思われる。
【0033】
[実施例6〜7]
実施例5と同様にして弱バリア性樹脂組成物を得て、Tダイ押出し成形法にて、該弱バリア性樹脂組成物とPAとを押出機にて溶融混錬して(本発明の樹脂組成物)中間層にし、直鎖状低密度ポリエチレン(75wt%)と接着性樹脂(変性ポリオレフィン)(25wt%)からなる樹脂組成物(実施例6)、高密度ポリエチレン(75wt%)と接着性樹脂(変性ポリオレフィン)(25wt%)からなる樹脂組成物(実施例7)を押出機にて溶融混錬して両外層にして、厚さ40μmフィルム状に成形し、実施例6、7の三層ガスバリア性フィルムを得た。中間層の該樹脂組成物における各樹脂の配合割合(重量%)と該フィルムの構成及び性能を表2に併せて記す。
【0034】
【表2】
【0035】
実施例6〜7のガスバリア性フィルムも同様に、いずれも安定して製膜することができた。また酸素透過度が小さく、引裂強度は十分に大きかった。よってガスバリア性、機械的強度の双方に優れる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の樹脂組成物を用いると、ガスバリア性が高く、機械的強度も良好なフィルムを得ることができるため、ガスバリア性を必要とする菓子・生活用品・電子部品・医薬品等の包装用途や、燻蒸用等の各種マルチフィルム、トンネルフィルム、ハウス用フィルム等の農業用途等に広く用いることができる。