【実施例】
【0133】
以下、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
「製造例A」
(実施例1)
下記構造1で示される色素1を以下の方法で合成した。
【0134】
【化26】
【0135】
1−ブロモナフタレン(200mg),ジ(9H−フルオレン−2−イル)アミン(333mg),トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(8.8mg)、ナトリウムt−ブトキシド(92mg)、トリ−t−ブチルホスフィン(3.88mg)、脱水トルエン(3ml)を窒素雰囲気下で110℃で一昼夜攪拌して反応させた。反応溶液エチルアセテートと飽和水酸化ナトリウム水溶液を用いて抽出処理した後、有機層を取り出し、硫酸ナトリウムを用いて脱水後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル:エチルアセテート/ヘキサン;3/97vol)を用いて精製し、黄色い粉末を得た(328mg,0.70mmol,72%)。
1H NMR (DMSO-D
6, 500 MHz): δ 8.03 (d, 1 H, J = 10 Hz), 7.96 (d, 1 H, J = 10 Hz), 7.92 (d, 1 H, J = 10 Hz), 7.76-7.73 (m, 4 H), 7.59 (t, 1 H, J = 10 Hz), 7.53-7.48 (m, 3 H), 7.42 (t, 3 H, J = 10 Hz), 7.32 (t, 2 H, J = 10 Hz), 7.22 (t, 2 H, J = 10 Hz), 7.14 (s, 2 H), 7.03 (d, 1 H, J = 10 Hz), 3.78 (s, 4 H) ppm;
13C NMR (CDCl
3, 125 MHz): δ 148.20, 144.76, 143.11, 141.76, 135.94, 135.48, 131.32, 128.54, 127.20, 126.87, 126.54, 126.51, 126.37, 126.30, 125.88, 124.99, 124.58, 121.38, 120.48, 119.31, 119.06, 37.06 ppm; HRMS (m/z): [M]
+ calcd. for C
35H
25N, 471.1987; found, 471.19884; analysis (calcd., found for C
35H
25N): C (91.69, 91.82), H (5.34, 5.26), N (2.97, 2.58).
この黄色粉末を150mg、10%パラジウム炭素を150mg、重水30mlを50mlのテフロン(登録商標)容器入りのオートクレーブに入れ、250℃で4〜5MPaの条件で12時間反応させた。反応溶液を室温まで冷却した後、酢酸エチルと水を用いて抽出し、硫酸ナトリウムを用いて有機層を乾燥後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル:エチルアセテート/ヘキサン;3/97vol)を用いて精製し、色素1の粉末を得た(120mg)。1H NMRを用いて重水素化率を確認したところ95.7%であった。
【0136】
下記構造2で示されるβ−estradiol(東京化成工業社製)を99.7wt%、色素1を3wt%をガラス瓶に計り取り、220℃に加熱することでβ−estradiol中に色素1を溶解させた。その液体をホットプレート上で220℃に加熱された2枚の石英基板で挟んだ。その後室温まで急冷することで、2枚の石英基板間に材料が約10μmの厚さで挟まれた試料1を作製した。試料1の360nmの約0.04mW/cm
2のパワーにおける励起光照射停止後の0.02秒から1秒の間に観測される室温での残光の量子収率(Φ
DE t=0.02−1(RT))を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ20.3%であった。次に、360nmの定常光レーザー(UV-FN-360,100mW,CNI,China)を励起光に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を光検出器として、360nmの励起光強度を変化させて、試料1からの励起光照射停止後0.02秒から1秒の間に観測される室温での蓄光強度の変化を計測した。
【0137】
【化27】
【0138】
(比較例1)
Eu
2+とDy
3+がドープされたSrAl
2O
4(根本特殊化学社製、G300−FF)の粉末を試料2として、360nmの励起光を用いての室温大気中でのΦ
DE t=0.02−1(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ0.8%であった。次に、360nmの定常光レーザー(UV-FN-360,100mW,CNI,China)を励起光に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を光検出器として、360nmの励起光強度を変化させて、試料2からの励起光照射停止後0.02秒から1秒の間に観測される室温での蓄光強度の変化を計測した。
【0139】
(比較例2)
下記構造3で示される2,8−bis(diphenylphosphoryl)dibenzo[b,d]thiophene(PPT)(ルミネッセンステクノロジー社製)を99wt%、下記構造4で示される色素2(東京化成工業社製)を1wt%をガラス瓶に計り取り、窒素雰囲気下で250℃に加熱することでPPT中に色素2を溶解させた。その液体をホットプレート上で250℃に加熱された2枚の石英基板で挟んだ。窒素雰囲気下でエポキシ樹脂を用いてその2枚の石英基板の再度を封止し、その後室温まで急冷することで、2枚の石英基板間に材料が約10μmの厚さで挟まれた試料3を作製した。
試料3の360nmの励起光を用いての室温大気中でのΦ
DE t=0.02−1(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ0.5%であった。次に、360nmの定常光レーザー(UV-FN-360,100mW,CNI,China)を励起光に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を光検出器として、360nmの励起光強度を変化させて、試料3からの励起光照射停止後0.02秒から1秒の間に観測される室温での蓄光強度の変化を計測した。
【0140】
【化28】
【0141】
【化29】
【0142】
(比較例3)
下記構造5で示される色素3を以下の方法で合成した。
【0143】
【化30】
【0144】
1−ブロモナフタレン(200mg)、ジフェニルアミン(164mg)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(8.8mg)、ナトリウムt−ブトキシド(92mg)、トリ−t−ブチルホスフィン(3.88mg)、脱水トルエン(3ml)を窒素雰囲気下で110℃で一昼夜攪拌して反応させた。反応溶液エチルアセテートと飽和水酸化ナトリウム水溶液を用いて抽出処理した後、有機層を取り出し、硫酸ナトリウムを用いて脱水後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル:エチルアセテート/ヘキサン;2/98vol)を用いて精製し、白色粉末を得た(218mg,0.74mmol,76%)。
1H NMR (DMSO-D
6, 500 MHz): δ 8.01 (d, 1H, J = 10 Hz), 7.90 (d, 1H, J = 10 Hz), 7.85 (d, 1H, J = 10 Hz), 7.57 (d, 1H, J = 10 Hz), 7.51 (t, 1H, J = 10 Hz), 7.42 (t, 1H, J = 10 Hz), 7.35 (d, 1H, J = 10 Hz), 7.24-7.21 (m, 4H), 6.95-6.91 (m, 6H) ppm;
13C NMR (DMSO-D
6, 125 MHz): δ 147.82, 142.73, 134.95, 130.65, 129.34, 129.18, 128.58, 127.28, 126.68, 126.31, 123.47, 121.72, 121.24, 121.11 ppm; HRMS (m/z): [M]
+ calcd. for C
22H
17N, 295.1361; found, 295.13939; analysis (calcd., found for C
22H
17N): C (89.46, 89.44), H (5.80, 5.80), N (4.74, 4.76).
【0145】
β−estradiolを99.7wt%、色素3を0.3wt%をガラス瓶に計り取り、220℃に加熱することでβ−estradiol中に色素3を溶解させた。その液体をホットプレート上で220℃に加熱された2枚の石英基板で挟んだ。その後室温まで急冷することで、2枚の石英基板間に材料が約10μmの厚さで挟まれた試料4を作製した。試料4の360nmの励起光を用いての室温大気中でのΦ
DE t=0.02−1(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ1.8%であった。
【0146】
以上実施例1および比較例1から3の光物理因子を表1にまとめる。
【0147】
実施例1の室温りん光を用いた蓄光体では比較例1から3の既存の蓄光体と比較して、励起光照射停止後1秒までの発光収率(Φ
DE t=0.02−1s)が数10倍大きい。そのため、試料が同じ光吸収を示す場合、実施例1の試料は比較例1から3の試料に対して数10倍の輝度を示すことがわかる。
【0148】
【表1】
【0149】
図5に、実施例1、比較例1、2における360nmの励起光強度に対する励起光照射停止後0.02秒から1.0秒までの蓄光強度の平均の関係を表すグラフを示す。
図5に示すように、実施例1では比較例1、2と比較して、同じ吸光度を有する場合に、励起光強度の増加とともに輝度が大きく向上する。比較例1,2などの蓄光材料では、0.1mW/cm
2以上の励起光強度では輝度の向上が飽和していきほとんど輝度の増加を示さない。100mW/cm
2程度の励起光強度を用いた場合、実施例1の蓄光輝度は、比較例1、2の1000倍以上の輝度を示す。以上から既存の蓄光材料は暗闇でしかその蓄光を視認できない一方で、本発明に係る高効率の室温りん光型の蓄光材料では、明るい環境下での視認可能な蓄光の輝度が実現されることが理解されよう。
【0150】
「製造例B」
(実施例2)
β−estradiolを99.7wt%、色素1を0.3wt%をガラス瓶に計り取り、220℃に加熱することでβ−estradiol中に色素1を溶解させた。その液体をホットプレート上で220℃に加熱された2枚の石英基板で挟んだ。その後室温まで急冷することで、2枚の石英基板間に材料が約10μmの厚さで挟まれた試料5を作製した。試料5の360nmの励起光照射中のΦ
PL(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ75%であった。同じ装置を用いて、360nmの励起光下でのΦ
P(RT)を大気中で計測したところ50%であった。これらデータからΦ
F(RT)をΦ
F(RT)=Φ
PL(RT)−Φ
P(RT)を用いて25%と決定した。次に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を用いて試料5の360nmの励起光下でτ
P(RT)を計測したところ1.0秒であった。試料5に対して、絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて、360nmの励起光照射中の発光スペクトルおよび励起光照射停止直後のりん光スペクトルを測定したところ
図6の上段の通りとなり、りん光スペクトルのピーク波長(λ
P)は550nmであった。さらに励起光照射中の発光スペクトルの短波長側のスペクトルの立ち上がりのエネルギー(
図6の下段の点線)と室温りん光スペクトルの立ち上がりのエネルギー(
図6の上段の点線)の差から、E
S1−T1は0.63eVと決定された。
【0151】
次に非特許文献(I)に記載の方法により、ベンゼン中での色素1のS
1から三重項状態への室温での項間交差収率(Φ
ISC(RT))を計測したところ、89%であり、ほぼ100−Φ
F%の値とおおよそ同等であった。決定したΦ
P(RT)、Φ
ISC(RT)、τ
P(RT)を以下の式(I)に代入しりん光速度定数(k
P)を算出したところ0.63s
−1であった。
Φ
P(RT)=Φ
ISC(RT)τ
P(RT)k
P (I)
τ
P(RT)=k
P/(k
P+k
NR(RT)+k
Q(RT)) (II)
【0152】
ここでk
NR(RT)は色素のT
1からの分子内振動に由来する失活の速度定数であり、k
Q(RT)は色素のT
1からの分子間エネルギー移動による失活の速度定数である。
次に、試料5のτ
Pを77Kから400Kまで測定したところ
図7の通りとなった。次に
図7のデータとk
Pを用いてk
NR+k
Qの温度依存性をプロットしたところ
図8の通りとなった。
図8のグラフを2つの指数関数でフィッティングし、高温度域の指数関数フィッティングをk
Qに由来すると考え、低温域の指数関数フィッティング直線をk
NRに由来するものとして、k
NR(RT)とk
Q(RT)を分離したところ、それぞれ0.24s
−1と0.085s
−1であった。次に小型蛍光寿命装置(浜松ホトニクス、Quantaurus−Tau)を用いて試料5の室温での蛍光寿命(τ
F(RT))を計測したところ2.4nsであった。蛍光速度定数(k
F)をk
F=Φ
F(RT)/τ
F(RT)により決定したところ1.0×10
8s
−1であった。
【0153】
非特許文献(I):R. Huang, J. Avo, T. Northey, E. Chaning-Pearce, P. L. dos Santos, J. S. Ward, P. Data, M. K. Etherington, M. A. Fox, T. J. Penfold, M. N. Berberan-Santos, J. C. Lima, M. R. Bryce, F. B. Dias, J. Mater. Chem. C 2017, 5, 6269.
【0154】
Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、密度汎関数法(DFT)により色素1の最低一重項励起状態(S
1)での最適化構造を決定した。その後この最適化構造を用いて、アムステルダムDFT(ADF2018パッケージ)を用いて、PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いて、f
S1−S0を計算したところ0.017であった。次に、Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素1のT
1の最適化構造を計算した。次にこの最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いてHybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いてk
Pを計算したところ0.59s
−1であった。またその最適化構造を用いて(Σ
nP
n)
2とSOC
T1−S02を計算したところ、それぞれ1.12×10
−6D
2と6.29×10
−1cm
−2であった。
【0155】
また以下の構造6に示す色素1のアンテナユニットと以下構造7に示す色素1のセンターユニットの骨格に関して、Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いてS
0の最適化構造を計算し、同様の汎関数と基底関数を用いてT
1エネルギーを計算した。その結果アンテナユニットおよびセンターユニットのT
1エネルギーはそれぞれ2.90eVおよび2.62eVとなり、センターユニットのT
1エネルギーはアンテナユニットのそれよりも小さいことが確認された。
【0156】
【化31】
【0157】
【化32】
【0158】
(実施例3)
下記構造8で示される色素4を以下の方法で合成した。
【0159】
【化33】
【0160】
3−ブロモフェナントレン(200mg),ジ(9H−フルオレン−2−イル)アミン(268mg)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(7.14mg)、ナトリウムt−ブトキシド(75mg)、トリ−t−ブチルホスフィン(3.15mg)、脱水トルエン(3ml)を窒素雰囲気下で110℃で一昼夜攪拌して反応させた。反応溶液エチルアセテートと飽和水酸化ナトリウム水溶液を用いて抽出処理した後、有機層を取り出し、硫酸ナトリウムを用いて脱水後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル:エチルアセテート/ヘキサン;5/95vol)を用いて精製し、黄色い粉末を得た(323mg,0.62mmol,80%)。
1H NMR (DMSO-D
6, 500 MHz): δ 8.39-8.29 (m, 2 H), 7.99-7.70 (m, 8 H), 7.63-7.4
9 (m, 4 H), 7.45-7.32 (m, 5 H), 7.30-7.17 (m, 4 H), 3.88 (s, 4 H) ppm;
13C NMR (DMSO-D
6, 125 MHz): δ 147.38, 144.71, 142.63, 140.18, 135.21, 132.82, 131.19, 129.06, 128.67, 128.13, 127.69, 127.22, 127.11, 126.75, 126.32, 125.78, 124.79, 124.43, 124.34, 123.64, 122.91, 121.65, 120.71, 120.03, 119.58, 118.59, 36.47 ppm; HRMS (m/z): [M]
+ calcd. for C
40H
27N, 521.2143; found 521.21202; analysis (calcd., found for C
40H
27N): C (92.10, 92.13), H (5.22, 5.28), N (2.69, 2.59).
この黄色粉末を150mg、10%パラジウム炭素を100mg、重水30mlを50mlのテフロン(登録商標)容器入りのオートクレーブに入れ、250℃で4〜5MPaの条件で12時間反応させた。反応溶液を室温まで冷却した後、酢酸エチルと水を用いて抽出し、硫酸ナトリウムを用いて有機層を乾燥後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル:エチルアセテート/ヘキサン;3/97vol)を用いて精製し、色素4の粉末を得た(75mg)。1H NMRを用いて重水素化率を確認したところ87.3%であった。
【0161】
β−estradiolを99.7wt%、色素4を0.3wt%をガラス瓶に計り取り、220℃に加熱することでβ−estradiol中に色素4を溶解させた。その液体をホットプレート上で220℃に加熱された2枚の石英基板で挟んだ。その後室温まで急冷することで、2枚の石英基板間に材料が約10μmの厚さで挟まれた試料6を作製した。試料6の360nmの励起光照射中のΦ
PL(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ68%であった。同じ装置を用いて、360nmの励起光下でのΦ
P(RT)を大気中で計測したところ46%であった。これらデータからΦ
F(RT)をΦ
F(RT)=Φ
PL(RT)−Φ
P(RT)を用いて22%と決定した。次に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を用いて試料6の360nmの励起光下でτ
P(RT)を計測したところ1.4秒であった。
【0162】
試料6に対して、絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて、360nmの励起光照射中の発光スペクトルおよび励起光照射停止直後のりん光スペクトルを測定したところλ
Pは510nmであった。さらに実施例2と同様の手法を用いて、励起光照射中の発光スペクトルの短波長側のスペクトルの立ち上がりのエネルギーと室温りん光スペクトルの立ち上がりのエネルギーの差からE
S1−T1は0.58eVと決定された。
【0163】
次に非特許文献(I)に記載の方法により、ベンゼン中での色素4のΦ
ISC(RT)を計測したところ、68%であり、ほぼ100−Φ
F%の値と同等であった。決定したΦ
P(RT)、Φ
ISC(RT)、τ
P(RT)を上記式(I)に代入してk
pを算出したところ0.44s
−1であった。次に、試料6のτ
Pを77Kから400Kまで測定し、k
Pを用いてk
NR+k
Qの温度依存性のグラフを作製した。そのグラフを2つの指数関数の和でフィッティングを行い、高温度域の指数関数フィッティングをk
Qに由来すると考え、低温域の指数関数フィッティング直線をk
NRに由来するものとして、室温のk
NR(RT)とk
Q(RT)を分離したところ、それぞれ0.20s
−1と0.062s
−1であった。次に小型蛍光寿命装置(浜松ホトニクス、Quantaurus−Tau)を用いて試料6のτ
F(RT)は3.1nsと計測された。k
Fをk
F=Φ
F(RT)/τ
F(RT)により決定したところ7.1×10
7s
−1であった。
【0164】
Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素4のS
1での最適化構造を決定した。その後この最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いて、Hybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いて、f
S1−S0を計算したところ0.056であった。次に、Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素4のT
1の最適化構造を計算した。次にこの最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いてHybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いてk
Pを計算したところ0.53s
−1であった。またその最適化構造を用いて(Σ
nP
n)
2とSOC
T1−S02を計算したところ、それぞれ1.00×10
−6D
2と2.83×10
−1cm
−2であった。
【0165】
また構造6に示す色素4のアンテナユニットと以下構造9に示す色素4のセンターユニットの骨格に関して、Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いてS
0の最適化構造を計算し、同様の汎関数と基底関数を用いてT
1エネルギーを計算した。その結果アンテナユニットおよびセンターユニットのT
1エネルギーはそれぞれ2.90eVおよび2.63eVとなり、センターユニットのT
1エネルギーはアンテナユニットのそれよりも小さいことが確認された。
【0166】
【化34】
【0167】
(比較例4)
β−estradiolを99.7wt%、下記構造10で示される色素5(東京化成工業社製)を0.3wt%をガラス瓶に計り取り、220℃に加熱することでβ−estradiol中に色素5を溶解させた。その液体をホットプレート上で220℃に加熱された2枚の石英基板で挟んだ。その後室温まで急冷することで、2枚の石英基板間に材料が約10μmの厚さで挟まれた試料7を作製した。試料7の360nmの励起光照射中のΦ
PLを絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ89%であった。同じ装置を用いて、360nmの励起光下でのΦ
Pを大気中で計測したところ3.7%であった。これらデータからΦ
F(RT)をΦ
F(RT)=Φ
PL(RT)−Φ
P(RT)を用いて85%と決定した。またこの測定の中で励起光照射中の発光スペクトルおよび励起光照射停止直後のりん光スペクトルを測定したところλ
Pは526nmであった。さらに実施例2と同様の手法を用いて、励起光照射中の発光スペクトルの短波長側のスペクトルの立ち上がりのエネルギーと室温りん光スペクトルの立ち上がりのエネルギーの差から、E
S1−T1は0.59eVと決定された。次に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を用いて試料7の360nmの励起光下でτ
Pを計測したところ0.77秒であった。
【0168】
【化35】
【0169】
次に非特許文献(I)に記載の方法により、ベンゼン中での色素5のΦ
ISC(RT)を計測したところ、26%であり、ほぼ100−Φ
F%の値と同等であった。決定したΦ
P(RT)、Φ
ISC(RT)、τ
P(RT)を上記式(I)に代入してk
Pを算出したところ0.33s
−1であった。次に、試料7のτ
Pを77Kから400Kまで測定しk
Pを用いてk
NR+k
Qの温度依存性のグラフを作製した。そのグラフを2つの指数関数の和でフィッティングを行い、高温度域の指数関数フィッティングをk
Qに由来すると考え、低温域の指数関数フィッティング直線をk
NRに由来するものとして、k
NR(RT)とk
Q(RT)を分離したところ、それぞれ0.92s
−1と0.23s
−1であった。次に小型蛍光寿命装置(浜松ホトニクス、Quantaurus−Tau)を用いて試料7のτ
F(RT)は1.1nsと計測されたk
Fをk
F=Φ
F(RT)/τ
F(RT)により決定したところ77×10
7s
−1であった。
【0170】
Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素5のS
1での最適化構造を決定した。その後この最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いて、Hybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いて、f
S1−S0を計算したところ1.149であった。次に、Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素5のT
1の最適化構造を計算した。次にこの最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いてHybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いてk
Pを計算したところ0.37s
−1であった。またその最適化構造を用いて(Σ
nP
n)
2とSOC
T1−S02を計算したところ、それぞれ8.14×10
−7D
2と5.86×10
−1cm
−2であった。
【0171】
(比較例5)
β−estradiolを99.7wt%、下記構造11で示される色素6(アルドリッチ社製)を0.3wt%をガラス瓶に計り取り、220℃に加熱することでβ−estradiol中に色素6を溶解させた。その液体をホットプレート上で220℃に加熱された2枚の石英基板で挟んだ。その後室温まで急冷することで、2枚の石英基板間に材料が約10μmの厚さで挟まれた試料8を作製した。試料8の360nmの励起光照射中のΦ
PL(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ17%であった。同じ装置を用いて、360nmの励起光下でのΦ
Pを大気中で計測したところ0.91%であった。これらデータからΦ
F(RT)をΦ
F(RT)=Φ
PL(RT)−Φ
P(RT)を用いて16%と決定した。またこの測定の中で励起光照射中の発光スペクトルおよび励起光照射停止直後のりん光スペクトルを測定したところλ
Pは548nmであった。さらに実施例1と同様の手法を用いて、励起光照射中の発光スペクトルの短波長側のスペクトルの立ち上がりのエネルギーと室温りん光スペクトルの立ち上がりのエネルギーの差から、E
S1−T1は0.85eVと決定された。次に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を用いて試料8の360nmの励起光下でτ
P(RT)を計測したところ1.4秒であった。
【0172】
【化36】
【0173】
次に非特許文献(I)に記載の方法により、ベンゼン中での色素6のΦ
ISC(RT)を計測したところ、84%であり、ほぼ100−Φ
F(RT)%の値と同等であった。決定したΦ
P(RT)、Φ
ISC(RT)、τ
P(RT)を上記式(I)に代入してk
pを算出したところ8.0×10
−3s
−1であった。次に、試料8のτ
Pを77Kから400Kまで測定し、k
Pを用いてk
NR+k
Qの温度依存性のグラフを作製した。このグラフを2つの指数関数の和でフィッティングし、高温度域の指数関数フィッティングをk
Qに由来すると考え、低温域の指数関数フィッティング直線をk
NRに由来するものとして、k
NR(RT)とk
Q(RT)を分離したところ、それぞれ0.57s
−1と0.136s
−1であった。
【0174】
Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素6のS
1での最適化構造を決定した。その後この最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いて、Hybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いて、f
S1−S0を計算したところ0.166であった。次に、Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素6のT
1の最適化構造を計算した。次にこの最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いてHybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いてk
Pを計算したところ3.5×10
−3s
−1であった。またその最適化構造を用いて(Σ
nP
n)
2とSOC
T1−S02を計算したところ、それぞれ2.20×10
−10D
2と1.89×10
−1cm
−2であった。
【0175】
(比較例6)
β−estradiolを99.7wt%、下記構造12で示される色素7(アルドリッチ社製)を0.3wt%をガラス瓶に計り取り、220℃に加熱することでβ−estradiol中に色素7を溶解させた。その液体をホットプレート上で220℃に加熱された2枚の石英基板で挟んだ。その後室温まで急冷することで、2枚の石英基板間に材料が約10μmの厚さで挟まれた試料9を作製した。試料9の360nmの励起光照射中のΦ
PL(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ14%であった。同じ装置を用いて、360nmの励起光下でのΦ
P(RT)を大気中で計測したところ4.1%であった。これらデータからΦ
F(RT)をΦ
F(RT)=Φ
PL(RT)−Φ
P(RT)を用いて10%と決定した。またこの測定の中で励起光照射中の発光スペクトルおよび励起光照射停止直後のりん光スペクトルを測定したところλ
Pは548nmであった。励起光照射中の発光スペクトルの短波長側のスペクトルの立ち上がりのエネルギーと室温りん光スペクトルの立ち上がりのエネルギーの差から、E
S1−T1は0.85eVと決定された。次に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を用いて試料9の360nmの励起光下でτ
P(RT)を計測したところ4.1秒であった。
【0176】
【化37】
【0177】
次に非特許文献(I)に記載の方法により、ベンゼン中での色素7のΦ
ISC(RT)を計測したところ、90%であり、ほぼ100−Φ
F(RT)%の値と同等であった。決定したΦ
P(RT)、Φ
ISC(RT)、τ
P(RT)を上記式(I)に代入してk
pを算出したところ9.7×10
−3s
−1であった。次に、試料9のτ
Pを77Kから400Kまで測定し、k
Pを用いてk
NR+k
Qの温度依存性のグラフを作製した。このグラフを2つの指数関数の和でフィッティングし、高温度域の指数関数フィッティングをk
Qに由来すると考え、低温域の指数関数フィッティング直線をk
NRに由来するものとして、k
NR(RT)とk
Q(RT)を分離したところ、それぞれ0.20s
−1と0.003s
−1であった。
【0178】
Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素7のS
1での最適化構造を決定した。その後この最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いて、Hybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いて、f
S1−S0を計算したところ0.166であった。次に、Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素7のT
1の最適化構造を計算した。次にこの最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いてHybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いてk
Pを計算したところ3.5×10
−3s
−1であった。またその最適化構造を用いて(Σ
nP
n)
2とSOC
T1−S02を計算したところ、それぞれ2.20×10
−10D
2と1.89×10
−1cm
−2であった。
【0179】
(比較例7)
β−estradiolを99.7wt%、色素3を0.3wt%をガラス瓶に計り取り、220℃に加熱することでβ−estradiol中に色素3を溶解させた。その液体をホットプレート上で220℃に加熱された2枚の石英基板で挟んだ。その後室温まで急冷することで、2枚の石英基板間に材料が約10μmの厚さで挟まれた試料10を作製した。試料10の360nmの励起光照射中のΦ
PL(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ22%であった。同じ装置を用いて、360nmの励起光下でのΦ
P(RT)を大気中で計測したところ4%であった。これらデータからΦ
F(RT)をΦ
F(RT)=Φ
PL(RT)−Φ
P(RT)を用いて18%と決定した。またこの測定の中で励起光照射中の発光スペクトルおよび励起光照射停止直後のりん光スペクトルを測定したところλ
Pは556nmであった。励起光照射中の発光スペクトルの短波長側のスペクトルの立ち上がりのエネルギーと室温りん光スペクトルの立ち上がりのエネルギーの差から、E
S1−T1は0.80eVと決定された。次に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を用いて試料10の360nmの励起光下でτ
P(RT)を計測したところ0.52秒であった。
【0180】
次に非特許文献(I)に記載の方法により、ベンゼン中での色素3のΦ
ISC(RT)を計測したところ、95%であり、ほぼ100−Φ
F(RT)%の値とおおよそ同等であった。決定したΦ
P(RT)、Φ
ISC(RT)、τ
P(RT)を上記式(I)に代入してk
pを算出したところ0.10s
−1であった。次に、試料10のτ
Pを77Kから400Kまで測定し、k
Pを用いてk
NR+k
Qの温度依存性のグラフを作製した。このグラフを2つの指数関数の和でフィッティングし、高温度域の指数関数フィッティングをk
Qに由来すると考え、低温域の指数関数フィッティング直線をk
NRに由来するものとして、k
NR(RT)とk
Q(RT)を分離したところ、それぞれ1.6s
−1と0.31s
−1であった。次に小型蛍光寿命装置(浜松ホトニクス、Quantaurus−Tau)を用いて試料10のτ
F(RT)は3.4nsと計測されたk
Fをk
F=Φ
F(RT)/τ
F(RT)により決定したところ5.3×10
7s
−1であった。
【0181】
Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素3のS
1での最適化構造を決定した。その後この最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いて、Hybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いて、f
S1−S0を計算したところ0.020であった。次に、Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素3のT
1の最適化構造を計算した。次にこの最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いてHybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いてk
Pを計算したところ0.19s
−1であった。またその最適化構造を用いて(Σ
nP
n)
2とSOC
T1−S02を計算したところ、それぞれ3.57×10
−7D
2と5.56×10
−1cm
−2であった。
【0182】
(比較例8)
下記構造13で示される色素8を以下のように合成した。
【0183】
【化38】
【0184】
比較例3と同様にして色素3を合成した。この白色粉末を150mg、10%パラジウム炭素を100mg、重水30mlを50mlのテフロン(登録商標)容器入りのオートクレーブに入れ、250℃で4〜5MPaの条件で12時間反応させた。反応溶液を室温まで冷却した後、酢酸エチルと水を用いて抽出し、硫酸ナトリウムを用いて有機層を乾燥後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル:エチルアセテート/ヘキサン;2/98vol)を用いて精製し、色素8の粉末を得た(122mg)。1H NMRを用いて重水素化率を確認したところ89.1%であった。
【0185】
β−estradiolを99.7wt%、色素8を0.3wt%をガラス瓶に計り取り、220℃に加熱することでβ−estradiol中に色素8を溶解させた。その液体をホットプレート上で220℃に加熱された2枚の石英基板で挟んだ。その後室温まで急冷することで、2枚の石英基板間に材料が約10μmの厚さで挟まれた試料11を作製した。試料11の360nmの励起光照射中のΦ
PL(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ29%であった。同じ装置を用いて、360nmの励起光下でのΦ
P(RT)を大気中で計測したところ11%であった。これらデータからΦ
F(RT)をΦ
F(RT)=Φ
PL(RT)−Φ
P(RT)を用いて18%と決定した。またこの測定の中で励起光照射中の発光スペクトルおよび励起光照射停止直後のりん光スペクトルを測定したところλ
Pは556nmであった。励起光照射中の発光スペクトルの短波長側のスペクトルの立ち上がりのエネルギーと室温りん光スペクトルの立ち上がりのエネルギーの差から、E
S1−T1は0.80eVと決定された。次に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を用いて試料11の360nmの励起光下でτ
P(RT)を計測したところ1.6秒であった。
【0186】
次に非特許文献(I)に記載の方法により、ベンゼン中での色素8のΦ
ISC(RT)を計測したところ、97%であり、ほぼ100−Φ
F(RT)%の値に近い値を示した。
決定したΦ
P(RT)、Φ
ISC(RT)、τ
P(RT)を上記式(I)に代入してk
pを算出したところ0.10s
−1であった。次に、試料11のτ
Pを77Kから400Kまで測定し、k
Pを用いてk
NR+k
Qの温度依存性のグラフを作製した。このグラフを2つの指数関数の和でフィッティングし、高温度域の指数関数フィッティングをk
Qに由来すると考え、低温域の指数関数フィッティング直線をk
NRに由来するものとして、k
NR(RT)とk
Q(RT)を分離したところ、それぞれ0.52s
−1と0.077s
−1であった。次に小型蛍光寿命装置(浜松ホトニクス、Quantaurus−Tau)を用いて試料11のτ
F(RT)は3.3nsと計測されたk
Fをk
F=Φ
F(RT)/τ
F(RT)により決定したところ5.5×10
7s
−1であった。
【0187】
Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素8のS
1での最適化構造を決定した。その後この最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いて、Hybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いて、f
S1−S0を計算したところ0.020であった。次に、Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素8のT
1の最適化構造を計算した。次にこの最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いてHybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いてk
Pを計算したところ0.19s
−1であった。またその最適化構造を用いて(Σ
nP
n)
2とSOC
T1−S02を計算したところ、それぞれ3.57×10
−7D
2と5.56×10
−1cm
−2であった。
【0188】
(比較例9)
下記構造14で示される色素9を以下の手法により合成した。
【0189】
【化39】
【0190】
3−ブロモフェナントレン(100mg)、ジフェニルアミン(65mg)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(3.57mg)、ナトリウムt−ブトキシド(38mg)、トリ−t−ブチルホスフィン(1.58mg)、脱水トルエン(2ml)を窒素雰囲気下で110℃で一昼夜攪拌して反応させた。反応溶液エチルアセテートと飽和水酸化ナトリウム水溶液を用いて抽出処理した後、有機層を取り出し、硫酸ナトリウムを用いて脱水後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル:エチルアセテート/ヘキサン;3/97vol)を用いて精製し、白色粉末を得た(108mg,81%)。
1H NMR (DMSO-D
6, 500 MHz): δ 8.30-8.27 (m, 2 H), 7.94 (d, 1 H, J = 10 Hz), 7.90 (d, 1 H, J = 10 Hz), 7.75 (q, 1 H, J = 10 Hz), 7.60-7.52 (m, 2 H), 7.34-7.29 (m, 5 H), 7.11-7.06 (m, 6 H) ppm;
13C NMR (DMSO-D
6, 125 MHz): δ 147.29, 146.10, 131.88, 130.77, 129.90, 129.64, 128.88, 128.51, 127.61, 126.92, 126.65, 126.38, 125.34, 123.97, 123.88, 123.23, 122.44, 116.00 ppm;HRMS (m/z): [M]
+ calcd. for C
26H
19N, 345.1517; found, 345.15272; analysis (calcd., found for C
26H
19N): C (90 .40, 90.63), H (5.54, 5.48), N (4.05, 3.96).
この白色粉末を80mg、10%パラジウム炭素を100mg、重水30mlを50mlのテフロン(登録商標)容器入りのオートクレーブに入れ、250℃で4〜5MPaの条件で12時間反応させた。反応溶液を室温まで冷却した後、酢酸エチルと水を用いて抽出し、硫酸ナトリウムを用いて有機層を乾燥後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル:エチルアセテート/ヘキサン;3/97vol)を用いて精製し、色素9の粉末を得た(68mg)。1H NMRを用いて重水素化率を確認したところ99.9%であった。
【0191】
β−estradiolを99.7wt%、色素9を0.3wt%をガラス瓶に計り取り、220℃に加熱することでβ−estradiol中に色素9を溶解させた。その液体をホットプレート上で220℃に加熱された2枚の石英基板で挟んだ。その後室温まで急冷することで、2枚の石英基板間に材料が約10μmの厚さで挟まれた試料12を作製した。試料12の360nmの励起光照射中のΦ
PL(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ28%であった。同じ装置を用いて、360nmの励起光下でのΦ
P(RT)を大気中で計測したところ9.1%であった。これらデータからΦ
F(RT)をΦ
F(RT)=Φ
PL(RT)−Φ
P(RT)を用いて19%と決定した。またこの測定の中で励起光照射中の発光スペクトルおよび励起光照射停止直後のりん光スペクトルを測定したところλ
Pは510nmであった。励起光照射中の発光スペクトルの短波長側のスペクトルの立ち上がりのエネルギーと室温りん光スペクトルの立ち上がりのエネルギーの差から、E
S1−T1は0.60eVと決定された。次に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を用いて試料12の360nmの励起光下でτ
P(RT)を計測したところ3.2秒であった。
【0192】
次に非特許文献(I)に記載の方法により、ベンゼン中での色素9のΦ
ISC(RT)を計測したところ、62%であり、ほぼ100−Φ
F(RT)%の値に近い値であった。
決定したΦ
P(RT)、Φ
ISC(RT)、τ
P(RT)を上記式(I)に代入してk
pを算出したところ0.032s
−1であった。次に、試料12のτ
Pを77Kから400Kまで測定し、k
Pを用いてk
NR+k
Qの温度依存性のグラフを作製した。このグラフを2つの指数関数の和でフィッティングし、高温度域の指数関数フィッティングをk
Qに由来すると考え、低温域の指数関数フィッティング直線をk
NRに由来するものとして、k
NR(RT)とk
Q(RT)を分離したところ、それぞれ0.17s
−1と0.10s
−1であった。次に小型蛍光寿命装置(浜松ホトニクス、Quantaurus−Tau)を用いて試料12のτ
F(RT)は9.9nsと計測されたk
Fをk
F=Φ
F(RT)/τ
F(RT)により決定したところ2.0×10
7s
−1であった。
【0193】
Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素9のS
1での最適化構造を決定した。その後この最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いて、Hybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いて、f
S1−S0を計算したところ0.064であった。次に、Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素9のT
1の最適化構造を計算した。次にこの最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いてHybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いてk
Pを計算したところ0.17s
−1であった。またその最適化構造を用いて(Σ
nP
n)
2とSOC
T1−S02を計算したところ、それぞれ3.78×10
−7 D
2と1.92×10
−1cm
−2であった。
【0194】
(比較例10)
下記構造15で示されるポリメチルメタクリレート(PMMA)を99mg、下記構造16で示される色素10を1mgをクロロホルム中1mlに溶解させ、その溶液を石英基板上に滴下し、スピンコート法により、石英基板上1wt%の色素10がPMMA中に分散された薄膜を試料13として作製した。その薄膜をクライオスタット(オックスフォードインスツルメント社製、Optistat−DNV)に入れ、小型蛍光寿命装置(浜松ホトニクス、Quantaurus−Tau)を用いて試料13の真空下でのτ
P(RT)を計測したところ3ミリ秒であった。試料13の360nmの励起光照射中のΦ
PL(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ非常に小さな値であった。色素10のΦ
ISC(RT)を非特許文献(II)及び(III)で100%と報告されているため、Φ
P(RT)≒0、Φ
ISC(RT)、τ
P(RT)を用いて式(I)および(II)からk
NR(RT)とk
Q(RT)の和を3.3×10
2s
−1と決定した。この値は非特許文献(II)及び(III)の値と同等であった。非特許文献(II)ではk
NR(RT)とk
Q(RT)の値は、おおよそそれぞれ2.0×10
2s
−1と1.3×10
2s
−1と決定されている。
【0195】
【化40】
【0196】
【化41】
【0197】
非特許文献(II):K. Horie, I. Mita, Chem. Phys. Lett. 1982, 93, 61.
非特許文献(III):K. Horie, K. Morishita, I. Mita, Macromolecules 1984, 17, 1746.
【0198】
Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素10のS
1での最適化構造を決定した。その後この最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いて、Hybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いて、f
S1−S0を計算したところ6.6×10
−4であった。次に、Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素3のT
1の最適化構造を計算した。次にこの最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いてHybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いてk
Pを計算したところ27.1s
−1であった。またその最適化構造を用いて(Σ
nP
n)
2とSOC
T1−S02を計算したところ、それぞれ2.37×10
−6D
2と1.03×10
3cm
−2であった。
【0199】
(比較例11)
下記構造17で表されるbis[2−(diphenylphosphino)phenyl]etheroxid(DPEPO)と下記構造18で示される色素11を94:6 wt%の割合で石英基板上エに共蒸着法により成膜し試料14とした。試料14の360nmの励起光照射中の窒素雰囲気下でのΦ
PL(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ38%であった。次に小型蛍光寿命装置(浜松ホトニクス、Quantaurus−Tau)を用いて真空下での試料14の発光寿命を計測したところ、8.3nsとミリ秒のディケイ成分が観測された。
この短い寿命の成分のディケイと長い成分のディケイを用いて、プロンプト成分の発光量子収率(Φ
PF(RT))とディレイ成分の発光収率(Φ
DF(RT))はそれぞれ19%と19%であった。また試料14の77Kでの励起光照射停止直後に観測されるりん光スペクトルを計測したところλ
Pは492nmであった。室温での発光スペクトルの短波長側のスペクトルの立ち上がりのエネルギーと77Kでのりん光スペクトルの立ち上がりのエネルギーの差から、E
S1−T1は0.05−0.12eVと決定された。k
Fはτ
F(RT)=8.3nsをk
F=Φ
F(RT)/τ
F(RT)に代入することで2.3×10
7s
−1と決定された。
【0200】
Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素11のS
1での最適化構造を決定した。その後この最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いて、Hybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いて、f
S1−S0を計算したところ0.067であった。
【0201】
【化42】
【0202】
【化43】
【0203】
以上実施例2と3および比較例4から11の光物理因子を表2にまとめる。
【0204】
【表2】
【0205】
図9は(Σ
nP
n)
2とk
Pの関係である。良好な相関関係が確認されるため、本発明に係る好ましいk
Pの範囲を(Σ
nP
n)
2を用いて規定することの妥当性が理解されよう。
【0206】
(Φ
ISC(RT)の大きさの比較)
実施例2と3では比較例4に対してΦ
ISC(RT)が大きい。f
S1−S0はk
Fに比例し、f
S1−S0が大きくなると三重項に行く前に蛍光としてエネルギーが放出されてしまいΦ
ISC(RT)が小さくなる。実際比較例4ではf
S1−S0が大きく、実際の実験値であるk
Fも大きくなり、結果的にΦ
F(RT)大きく、その結果Φ
ISC(RT)が小さい。一方で実施例2と3ではf
S1−S0が小さく、その結果k
Fも小さくなっており、これによりΦ
F(RT)が小さくなっていることでΦ
ISC(RT)が大きい。以上からf
S1−S0を小さくする分子設計により実施例2と3では大きなΦ
ISC(RT)が得られていることが理解される。
【0207】
(アンテナユニットの有無の比較)
実施例2や3は比較例5や6と同等のτ
P(RT)を示すのに対してΦ
P(RT)は大きくなる。実施例2と3そして比較例5と6ともにΦ
ISC(RT)は大きくτ
P(RT)も数秒程度と同等である。上記式(I)と(II)に基づくと、Φ
P(RT)の違いはk
Pの違いにより説明できる。実施例2や3ではアンテナユニットがある影響でΣ
nP
nが大きくなり、実験値のk
Pが大きくなり、結果的に式(I)に基づいてΦ
P(RT)が大きくなる。一方で、比較例5や6では、アンテナユニットがないためΣ
nP
nが小さくなり、実験値のk
Pが小さくなり、結果的にΦ
P(RT)が小さくなる。この際実施例2と3および比較例5と6では、SOC
T1−S02は同等のオーダーであるため、k
NR(RT)の実験も同等である。以上からアンテナユニットの導入により、k
NR(RT)を増加させずにk
Pが向上した結果、長いτ
P(RT)を維持しながら大きなΦ
P(RT)が得られていることが理解される。
【0208】
(アンテナユニットの長さの比較)
実施例2と3は比較例7から9と同等のτ
P(RT)を示すが、実施例2と3は比較例7から9に対してアンテナ長が長いためにΦ
P(RT)が大きくなる。実施例2や3では比較例7から9と同様に大きなΦ
ISC(RT)を示すため、Φ
ISC(RT)の違いはΦ
P(RT)の違いにほとんど寄与していない。実施例2や3では比較例7から9よりアンテナユニットがより長い影響でΣ
nP
nが大きくなり、実験値のk
Pがより大きくなり、式(I)に基づきΦ
P(RT)がより大きくなっている。この際実施例と比較例では、SOC
T1−S02は同等のオーダーであるため、k
NR(RT)の実験も同等である。
以上からアンテナユニットのアンテナの拡張により、k
NR(RT)を増加させずにk
Pがより向上した結果、長いτ
P(RT)を維持しながらより大きなΦ
P(RT)が得られていることが理解される。
【0209】
(k
NR(RT)の比較)
実施例2と3と比較例10を比較すると、どちらもΦ
ISC(RT)、Σ
nP
n、そしてk
Pは大きいが、比較例10のSOC
T1−S02は実施例2と3に対して十分大きいためk
NR(RT)が大きい。比較例10ではk
Pに対してk
NR(RT)が十分大きくなるため、k
P<<<k
NR(RT)のためにΦ
P(RT)が小さくなるだけでなく、τ
P(RT)もミリ秒程度まで短くなり、蓄光機能が発現しない。以上から、ただf
S1−S0を小さくして大きなΦ
ISC(RT)を得て、さらに大きなk
Pのために大きなΣ
nP
nが得られる分子では、k
P>k
NR(RT)を得て蓄光性の高効率な室温りん光を得る上で不十分であり、小さなk
NR(RT)のためにSOC
T1−S02が抑制される分子が必要であることが理解されよう。
【0210】
(E
S1−T1の違いの比較)
実施例2と3と比較例11を比較すると、いずれもf
S1−S0が小さいためにk
Fが小さくΦ
ISC(RT)は大きいが、比較例11では蓄光性発光が得られない。比較例11ではE
S1−T1が0.1eV程度と小さい。この場合T
1が形成された後、S
1に高速で戻り遅延蛍光としてT
1のエネルギーが高速に放射されるため蓄光機能が得られない。一方で実施例2や3ではE
S1−T1十分大きいために、T
1形成後に室温ではエネルギーがS
1に戻ることはほとんど生じないため、k
P>k
NR(RT)且つSOC
T1−S02が小さいことに由来してk
NR(RT)が十分小さくなり、高効率の室温りん光が蓄光機能として放射される。以上から、E
S1−T1が小さい分子は、高効率の蓄光放射性分子としては適していないことが理解されよう。
【0211】
「製造例C」
(実施例4)
実施例1の試料1の360nmの励起光照射中のΦ
PL(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ60%であった。同じ装置を用いてΦ
P(RT)を大気中で計測したところ30%であった。Φ
F(RT)をΦ
F(RT)=Φ
PL(RT)−Φ
P(RT)を用いて30%と決定した。次に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を用いて試料1の360nmの波長の励起光照射停止後に大気中で放射されるτ
P(RT)を計測したところ1.0秒であった。
【0212】
(実施例5)
β−estradiolを99wt%、色素1を1wt%と変更する以外は、実施例1と同様に試料を作製し試料15とした。試料15の360nmの励起光照射中のΦ
PL(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ63%であった。同じ装置を用いてΦ
P(RT)を大気中で計測したところ38%であった。Φ
F(RT)をΦ
F(RT)=Φ
PL(RT)−Φ
P(RT)を用いて25%と決定した。次に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を用いて試料15の360nmの波長の励起光照射停止後に大気中で放射されるτ
P(RT)を計測したところ0.72秒であった。
【0213】
(実施例6)
β−estradiolを99.9wt%、色素1を0.1wt%と変更する以外は、実施例1と同様に試料を作製し試料16とした。試料16の360nmの励起光照射中のΦ
PL(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ71%であった。同じ装置を用いてΦ
P(RT)を大気中で計測したところ46%であった。Φ
F(RT)をΦ
F(RT)=Φ
PL(RT)−Φ
P(RT)を用いて25%と決定した。次に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を用いて試料16の360nmの波長の励起光照射停止後に大気中で放射されるτ
P(RT)を計測したところ0.61秒であった。
【0214】
(比較例12)
色素1の粉末(試料17)に360nmの励起光照射中のΦ
PL(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いてΦ
P(RT)大気中で計測したところ0%であった。
【0215】
以上実施例2および実施例4から6と比較例12のΦ
P(RT)とτ
P(RT)をデータを表3にまとめる。
実施例2および実施例4から6と比較例12を比較すると、本発明に係る分子を固体ホスト中に分散させる濃度は30%以下、より望ましくは10%以下が望ましいことが理解されよう。
【0216】
【表3】
【0217】
「製造例D」
(実施例7)
β−estradiolの代わりに下記構造19で示される(S)H
8−BINAP(アルドリッチ社製)と変更する以外は、実施例2と同様に試料を作製し試料18とした。
試料18の360nmの励起光照射中のΦ
PL(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ50%であった。同じ装置を用いてΦ
Pを大気中で計測したところ19%であった。Φ
F(RT)をΦ
F(RT)=Φ
PL(RT)−Φ
P(RT)を用いて31%と決定した。次に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を用いて試料18の360nmの波長の励起光照射停止後に大気中で放射されるτ
P(RT)を計測したところ0.67秒であった。
【0218】
【化44】
【0219】
以上実施例2および7のΦ
P(RT)とτ
P(RT)のデータを表4にまとめる。
実施例2と7を比較すると、本発明に係る分子は、さまざまな固体ホスト中で高効率且つ長寿命の室温りん光を示すことが理解されよう。
【0220】
【表4】
【0221】
「製造例E」
(実施例E1:化合物6のデータ)
下記構造で示される化合物11を以下の方法で合成した。評価結果を表5に示す。
【0222】
【化1E】
【0223】
1−ブロモナフタレン(162mg),ジ(9H−フルオレン−2−イル)アミン(123mg),トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(4.8mg)、ナトリウムt−ブトキシド(34mg)、トリ−t−ブチルホスフィン(2.8mg)、脱水トルエン(2.5ml)を窒素雰囲気下で110℃で一昼夜攪拌して反応させた。反応溶液エチルアセテートと純水を用いて抽出処理した後、有機層を取り出し、硫酸ナトリウムを用いて脱水後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル:ジクロロメタン/ヘキサン;20/80vol)を用いて精製し、黄色い粉末を得た(145mg,0.25mmol,73%)。
1H NMR (CDCl
3, 500 MHz,):δ=8.63 (d, J=10 Hz, 2H), 8.50-8.57 (m, 2H), 8.36 (s, 1H), 8.27 (d, J=10 Hz, 1H), 7.74 (t, J=10 Hz, 4H), 7.58-7.66 (m, 3H), 7.44-7.54 (m, 4H), 7.42 (s, 2H), 7.38 (t, J=7.5 Hz, 2H), 7.29 (t, J=10 Hz, 4H), 3.86 (s, 4H) ;
13C NMR (CDCl
3, 126 MHz,): δ=144.81, 143.17, 141.47, 130.08, 129.82, 129.37, 129.07, 127.27, 127.09, 126.84, 126.44, 126.11, 124.98, 124.46, 123.75, 123.63, 123.42, 123.26, 122.90, 121.53, 120.63, 119.43, 36.94;
【0224】
β−estradiolを99.7wt%、化合物6を0.3wt%をガラス瓶に計り取り、220℃に加熱することでβ−estradiol中に化合物6を溶解させた。その液体をホットプレート上で220℃に加熱された2枚の石英基板で挟んだ。その後室温まで急冷することで、2枚の石英基板間に材料が約10μmの厚さで挟まれた試料18を作製した。試料18の360nmの励起光照射中のΦ
PL(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ46%であった。同じ装置を用いて、360nmの励起光下でのΦ
P(RT)を大気中で計測したところ21%であった。これらデータからΦ
F(RT)をΦ
F(RT)=Φ
PL(RT)−Φ
P(RT)を用いて25%と決定した。次に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を用いて試料18の360nmの励起光下でτ
P(RT)を計測したところ0.53秒であった。
【0225】
試料18に対して、絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて、360nmの励起光照射中の発光スペクトルおよび励起光照射停止直後のりん光スペクトルを測定したところλ
Pは491nmであった。さらに実施例2と同様の手法を用いて、励起光照射中の発光スペクトルの短波長側のスペクトルの立ち上がりのエネルギーと室温りん光スペクトルの立ち上がりのエネルギーの差からE
S1−T1は0.54eVと決定された。
【0226】
次に非特許文献(I)に記載の方法により、ベンゼン中での化合物6のΦ
ISC(RT)を計測したところ、64%であり、ほぼ100−Φ
F%の値と同等であった。決定したΦ
P(RT)、Φ
ISC(RT)、τ
P(RT)を上記式(I)に代入してk
pを算出したところ0.52s
−1であった。次に、試料18のτ
Pを77Kから400Kまで測定し、k
Pを用いてk
NR+k
Qの温度依存性のグラフを作製した。そのグラフを2つの指数関数の和でフィッティングを行い、高温度域の指数関数フィッティングをk
Qに由来すると考え、低温域の指数関数フィッティング直線をk
NRに由来するものとして、室温のk
NR(RT)とk
Q(RT)を分離したところ、それぞれ0.39s
−1と1.0s
−1であった。次に小型蛍光寿命装置(浜松ホトニクス、Quantaurus−Tau)を用いて試料18のτ
F(RT)は3.7nsと計測された。k
Fをk
F=Φ
F(RT)/τ
F(RT)により決定したところ6.8×10
7s
−1であった。
【0227】
Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素4のS
1での最適化構造を決定した。その後この最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いて、Hybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いて、f
S1−S0を計算したところ0.063であった。次に、Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより化合物6のT
1の最適化構造を計算した。次にこの最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いてHybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いてk
Pを計算したところ1.24s
−1であった。またその最適化構造を用いて(Σ
nP
n)
2とSOC
T1−S02を計算したところ、それぞれ1.39×10
−6D
2と3.68×10
−1cm
−2であった。
【0228】
(実施例E2:化合物8のデータ)
下記構造で示される化合物8を以下の方法で合成した。評価結果を表5に示す。
【0229】
【化2E】
【0230】
コロネン(500mg),無水酢酸(10mL)を0℃で15分間攪拌した。発煙硝酸(126μL)をその溶液に滴下して加えた後0℃で3時間攪拌した。濃硫酸(196μL)をその溶液に0℃の状態が保たれるようにゆっくり滴下した。室温まで徐々に反応溶液を加熱し一昼夜0℃で攪拌したところ黄色の析出物を得た。その析出物を水、イソプロパノール、ジエチルエーテルで洗浄することで1ニトロコロネンを若干の不純物が存在する条件で得た。1ニトロコロネン(300mg)、塩化鉛(784mg)、濃塩酸(3mL)をエタノール(10mL)中で80℃の環境で6時間攪拌した。反応中、反応溶液のpHが7に保たれるように水酸化ナトリウム水溶液を適宜滴下した。反応溶液を酢酸エチルと飽和食塩水を用いて分液処理し、有機層を硫酸ナトリウムを用いて脱水した後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル:エチルアセテート/ヘキサン;20/80vol)を用いて精製し、黄色い粉末を得た(170mg,0.54mmol,62%)。
1H NMR (DMSO-D
6, 500 MHz): δ 9.20 (d, 1H, J = 10 Hz), 8.99-8.80 (m, 8H), 8.71 (d, 1H, J = 10 Hz), 8.11 (s, 1H), 6.70 (s, 2H) ppm.
13C NMR (CDCl
3, 125 MHz): δ 151.21, 148.32, 132.87, 131.96, 131.12, 130.58, 129.75, 128.37, 126.46, 124.27, 122.34, 121.14, 120.84 ppm. HRMS-ESI (m/z): [M+H]
+ calcd. for C
24H
14N, 316.1126; found 316.1149.
【0231】
1−アミノコロネン(80mg)、2−ブロモ−9H−フルオレン(130mg)トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(2.3mg)、ナトリウムt−ブトキシド(24mg)、トリ−t−ブチルホスフィン(2.0mg)、脱水トルエン(3ml)を窒素雰囲気下で110℃で一昼夜攪拌して反応させた。反応溶液エチルアセテートと飽和水酸化ナトリウム水溶液を用いて抽出処理した後、有機層を取り出し、硫酸ナトリウムを用いて脱水後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル:ジクロロメタン/ヘキサン;5/95vol)を用いて精製し、黄色い粉末を得た(108mg,0.17mmol,66%)。
1H NMR (CDCl
3,
500 MHz): δ 9.08 (d, J = 10 Hz, 1H), 8.93-8.85 (m, 7H), 8.81-8.76 (m, 3H), 7.70 (t, J = 10 Hz, 4H), 7.46 (d, J = 10 Hz, 2H), 7.41 (s, 2H), 7.36-7.32 (m, 4H), 7.24 (t, J = 10 Hz, 2H), 3.75 (s, 4H) ppm; 13C NMR (CDCl
3,
125 MHz): 148.80, 144.95, 143.13, 142.84, 141.74, 136.19, 129.70, 128.93, 128.68, 126.98, 126.89, 126.82, 126.70, 126.65, 126.39, 126.33, 126.20, 125.93, 124.99, 124.78, 123.00, 121.90, 120.73, 119.60, 119.36, 37.08 ppm; HRMS (m/z): [M]
+calcd. for C
50H
29N, 643.23000; found 643.23420 (Figure S3); analysis (calcd., found for C
50H
29N): C (93.28, 93.35), H (4.54, 4.60), N (2.18, 2.37).
【0232】
β−estradiolを99.7wt%、化合物8を0.3wt%をガラス瓶に計り取り、220℃に加熱することでβ−estradiol中に化合物8を溶解させた。その液体をホットプレート上で220℃に加熱された2枚の石英基板で挟んだ。その後室温まで急冷することで、2枚の石英基板間に材料が約10μmの厚さで挟まれた試料19を作製した。試料19の360nmの励起光照射中のΦ
PL(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ39%であった。同じ装置を用いて、360nmの励起光下でのΦ
P(RT)を大気中で計測したところ19%であった。これらデータからΦ
F(RT)をΦ
F(RT)=Φ
PL(RT)−Φ
P(RT)を用いて20%と決定した。次に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を用いて試料19の360nmの励起光下でτ
P(RT)を計測したところ1.8秒であった。
【0233】
試料19に対して、絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて、360nmの励起光照射中の発光スペクトルおよび励起光照射停止直後のりん光スペクトルを測定したところλ
Pは545nmであった。さらに実施例2と同様の手法を用いて、励起光照射中の発光スペクトルの短波長側のスペクトルの立ち上がりのエネルギーと室温りん光スペクトルの立ち上がりのエネルギーの差からE
S1−T1は0.50eVと決定された。
【0234】
次に非特許文献(I)に記載の方法により、ベンゼン中での化合物8のΦ
ISC(RT)を計測したところ、84%であり、ほぼ100−Φ
F%の値と同等であった。決定したΦ
P(RT)、Φ
ISC(RT)、τ
P(RT)を上記式(I)に代入してk
pを算出したところ0.13s
−1であった。次に、試料19のτ
Pを77Kから400Kまで測定し、k
Pを用いてk
NR+k
Qの温度依存性のグラフを作製した。そのグラフを2つの指数関数の和でフィッティングを行い、高温度域の指数関数フィッティングをk
Qに由来すると考え、低温域の指数関数フィッティング直線をk
NRに由来するものとして、室温のk
NR(RT)とk
Q(RT)を分離したところ、それぞれ0.27s
−1と0.11s
−1であった。次に小型蛍光寿命装置(浜松ホトニクス、Quantaurus−Tau)を用いて試料19のτ
F(RT)は7.1nsと計測された。k
Fをk
F=Φ
F(RT)/τ
F(RT)により決定したところ2.8×10
7s
−1であった。
【0235】
Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより化合物8のS
1での最適化構造を決定した。その後この最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いて、Hybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いて、f
S1−S0を計算したところ0.057であった。次に、Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより化合物8のT
1の最適化構造を計算した。次にこの最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いてHybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いてk
Pを計算したところ0.47s
−1であった。またその最適化構造を用いて(Σ
nP
n)
2とSOC
T1−S02を計算したところ、それぞれ1.06×10
−6D
2と4.12×10
−1cm
−2であった。
【0236】
(実施例E3:化合物9のデータ)
下記構造で示される化合物9は、次の文献を参照して合成した。Indranil Bhattacharjee, Shuzo Hirata, Highly Efficient Persistent Room‐Temperature Phosphorescence from Heavy Atom‐Free Molecules Triggered by Hidden Long Phosphorescent Antenna, Advanced Materials, 2020, 32, 2001348。評価結果を表5に示す。
【0237】
【化3E】
【0238】
β−estradiolを99.7wt%、化合物9を0.3wt%をガラス瓶に計り取り、220℃に加熱することでβ−estradiol中に化合物9を溶解させた。その液体をホットプレート上で220℃に加熱された2枚の石英基板で挟んだ。その後室温まで急冷することで、2枚の石英基板間に材料が約10μmの厚さで挟まれた試料20を作製した。試料20の360nmの励起光照射中のΦ
PL(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ35%であった。同じ装置を用いて、360nmの励起光下でのΦ
P(RT)を大気中で計測したところ12%であった。これらデータからΦ
F(RT)をΦ
F(RT)=Φ
PL(RT)−Φ
P(RT)を用いて23%と決定した。次に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を用いて試料20の360nmの励起光下でτ
P(RT)を計測したところ1.0秒であった。
【0239】
試料20に対して、絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて、360nmの励起光照射中の発光スペクトルおよび励起光照射停止直後のりん光スペクトルを測定したところλ
Pは576nmであった。さらに実施例2と同様の手法を用いて、励起光照射中の発光スペクトルの短波長側のスペクトルの立ち上がりのエネルギーと室温りん光スペクトルの立ち上がりのエネルギーの差からE
S1−T1は0.64eVと決定された。
【0240】
次に非特許文献(I)に記載の方法により、ベンゼン中での化合物9のΦ
ISC(RT)を計測したところ、64%であり、ほぼ100−Φ
F%の値と同等であった。決定したΦ
P(RT)、Φ
ISC(RT)、τ
P(RT)を上記式(I)に代入してk
pを算出したところ0.16s
−1であった。次に、試料20のτ
Pを77Kから400Kまで測定し、k
Pを用いてk
NR+k
Qの温度依存性のグラフを作製した。そのグラフを2つの指数関数の和でフィッティングを行い、高温度域の指数関数フィッティングをk
Qに由来すると考え、低温域の指数関数フィッティング直線をk
NRに由来するものとして、室温のk
NR(RT)とk
Q(RT)を分離したところ、それぞれ0.71s
−1と0.12s
−1であった。次に小型蛍光寿命装置(浜松ホトニクス、Quantaurus−Tau)を用いて試料20のτ
F(RT)は2.1nsと計測された。k
Fをk
F=Φ
F(RT)/τ
F(RT)により決定したところ1.1×10
8s
−1であった。
【0241】
Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素4のS
1での最適化構造を決定した。その後この最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いて、Hybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いて、f
S1−S0を計算したところ0.042であった。次に、Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより化合物9のT
1の最適化構造を計算した。次にこの最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いてHybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いてk
Pを計算したところ0.37s
−1であった。またその最適化構造を用いて(Σ
nP
n)
2とSOC
T1−S02を計算したところ、それぞれ4.97×10
−7D
2と3.42×10
−1cm
−2であった。
【0242】
(実施例E4:化合物10のデータ)
下記構造で示される化合物10を以下の方法で合成した。評価結果を表5に示す。
【0243】
【化4E】
【0244】
実施例E2で合成した1−アミノコロネン(200mg)、10%パラジウム炭素を150mg、重水30mlを50mlのテフロン(登録商標)容器入りのオートクレーブに入れ、250℃で4〜5MPaの条件で12時間反応させた。反応溶液を室温まで冷却した後、酢酸エチルと水を用いて抽出し、硫酸ナトリウムを用いて有機層を乾燥後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル:エチルアセテート/ヘキサン;20/80vol)を用いて精製し、重水素化1−アミノコロネンの粉末を得た(182mg)。1H NMRを用いて重水素化率を確認したところ98%であった。
HRMS-ESI (m/z): [M]
+ calcd. for C
24D
13N, 328.18; found, 327.13.
【0245】
重水素化1−アミノコロネン(90mg),ジ(9H−フルオレン−2−イル)アミン(132mg),トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(2.5mg)、ナトリウムt−ブトキシド(26mg)、トリ−t−ブチルホスフィン(2.2mg)、脱水トルエン(3ml)を窒素雰囲気下で110℃で一昼夜攪拌して反応させた。反応溶液エチルアセテートと飽和水酸化ナトリウム水溶液を用いて抽出処理した後、有機層を取り出し、硫酸ナトリウムを用いて脱水後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル:エチルアセテート/ヘキサン;3/97vol)を用いて精製し、黄色い粉末を得た(108mg,0.17mmol,59%)。
1H NMR (CDCl
3,
500 MHz): δ 9.08 (d, 0.02H, J = 10 Hz), 8.93-8.85 (m, 0.14H), 8.81-8.76 (m, 0.05H), 7.70 (t, 4H, J = 10 Hz), 7.46 (d, 2H, J = 10 Hz), 7.41 (s, 2H), 7.36-7.32 (m, 4H), 7.24 (t, 2H, J = 10 Hz), 3.75 (s, 4H) PPM.
13C NMR (CDCl
3,125 MHz): 148.34, 144.42, 142.73, 142.28, 141.18, 136.19, 129.70, 128.93, 127.99, 126.54, 126.13, 126.24, 126.70, 126.65, 126.39, 126.33, 126.20, 125.93, 124.99, 124.78, 123.00, 121.90, 120.73, 119.60, 119.36, 37.08 ppm;
1H NMR
分析によりコロネン骨格部位の重水素化率は98%であった。
【0246】
β−estradiolを99.7wt%、化合物10を0.3wt%をガラス瓶に計り取り、220℃に加熱することでβ−estradiol中に化合物10を溶解させた。その液体をホットプレート上で220℃に加熱された2枚の石英基板で挟んだ。その後室温まで急冷することで、2枚の石英基板間に材料が約10μmの厚さで挟まれた試料21を作製した。試料21の360nmの励起光照射中のΦ
PL(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ55%であった。同じ装置を用いて、360nmの励起光下でのΦ
P(RT)を大気中で計測したところ35%であった。これらデータからΦ
F(RT)をΦ
F(RT)=Φ
PL(RT)−Φ
P(RT)を用いて20%と決定した。次に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を用いて試料21の360nmの励起光下でτ
P(RT)を計測したところ2.2秒であった。
【0247】
試料21に対して、絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて、360nmの励起光照射中の発光スペクトルおよび励起光照射停止直後のりん光スペクトルを測定したところλ
Pは545nmであった。さらに実施例2と同様の手法を用いて、励起光照射中の発光スペクトルの短波長側のスペクトルの立ち上がりのエネルギーと室温りん光スペクトルの立ち上がりのエネルギーの差からE
S1−T1は0.50eVと決定された。
【0248】
次に非特許文献(I)に記載の方法により、ベンゼン中での化合物10のΦ
ISC(RT)を計測したところ、88%であり、ほぼ100−Φ
F%の値と同等であった。決定したΦ
P(RT)、Φ
ISC(RT)、τ
P(RT)を上記式(I)に代入してk
pを算出したところ0.20s
−1であった。次に、試料21のτ
Pを77Kから400Kまで測定し、k
Pを用いてk
NR+k
Qの温度依存性のグラフを作製した。そのグラフを2つの指数関数の和でフィッティングを行い、高温度域の指数関数フィッティングをk
Qに由来すると考え、低温域の指数関数フィッティング直線をk
NRに由来するものとして、室温のk
NR(RT)とk
Q(RT)を分離したところ、それぞれ0.16s
−1と0.10s
−1であった。次に小型蛍光寿命装置(浜松ホトニクス、Quantaurus−Tau)を用いて試料21のτ
F(RT)は7.1nsと計測された。k
Fをk
F=Φ
F(RT)/τ
F(RT)により決定したところ2.8×10
7s
−1であった。
【0249】
Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素4のS
1での最適化構造を決定した。その後この最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いて、Hybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いて、f
S1−S0を計算したところ0.057であった。次に、Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより化合物10のT
1の最適化構造を計算した。次にこの最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いてHybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いてk
Pを計算したところ0.47s
−1であった。またその最適化構造を用いて(Σ
nP
n)
2とSOC
T1−S02を計算したところ、それぞれ1.06×10
−6D
2と4.12×10
−1cm
−2であった。
【0250】
(実施例E5:化合物11のデータ)
下記構造1で示される化合物11を以下の方法で合成した。すなわち、上記製造例Aにおいて重水素化されていない状態の化合物を得た。
【0251】
【化5E】
【0252】
1−ブロモナフタレン(200mg),ジ(9H−フルオレン−2−イル)アミン(333mg),トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(8.8mg)、ナトリウムt−ブトキシド(92mg)、トリ−t−ブチルホスフィン(3.88mg)、脱水トルエン(3ml)を窒素雰囲気下で110℃で一昼夜攪拌して反応させた。反応溶液エチルアセテートと飽和水酸化ナトリウム水溶液を用いて抽出処理した後、有機層を取り出し、硫酸ナトリウムを用いて脱水後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル:エチルアセテート/ヘキサン;3/97vol)を用いて精製し、黄色い粉末を得た(328mg,0.70mmol,72%)。
1H NMR (DMSO-D
6, 500 MHz): δ 8.03 (d, 1 H, J = 10 Hz), 7.96 (d, 1 H, J = 10 Hz), 7.92 (d, 1 H, J = 10 Hz), 7.76-7.73 (m, 4 H), 7.59 (t, 1 H, J = 10 Hz), 7.53-7.48 (m, 3 H), 7.42 (t, 3 H, J = 10 Hz), 7.32 (t, 2 H, J = 10 Hz), 7.22 (t, 2 H, J = 10 Hz), 7.14 (s, 2 H), 7.03 (d, 1 H, J = 10 Hz), 3.78 (s, 4 H) ppm;
13C NMR (CDCl
3, 125 MHz): δ 148.20, 144.76, 143.11, 141.76, 135.94, 135.48, 131.32, 128.54, 127.20, 126.87, 126.54, 126.51, 126.37, 126.30, 125.88, 124.99, 124.58, 121.38, 120.48, 119.31, 119.06, 37.06 ppm; HRMS (m/z): [M]
+ calcd. for C
35H
25N, 471.1987; found, 471.19884; analysis (calcd., found for C
35H
25N): C (91.69, 91.82), H (5.34, 5.26), N (2.97, 2.58).
【0253】
上記した実施例E1と同様の手順で、実験値及び計算値を求め、結果を表5に示す。
【0254】
(式(11)の値の検討)
上記して合成された化合物6,8,11、及び色素10を用いて、以下の数値を算出した。基準物質として、以下の構造を有する化合物12を用いた。結果を表6に示す。表中に示すKnr(RT)は上記試験例で測定した数値である。式(11)を用いて計算する方法は、非特許文献IV:S. Hirata, I. Bhattacharjee, J. Phys. Chem. A 2021, 125, 885-894.を参照した。
【0255】
【化6E】
【0256】
(実施例E1)
非特許文献IVに記載の方法で化合物6の式(11)の値を算出したところ0.86×10
−4であった。また基準物質である化合物12の式(11)の値である0.47×10
−4と比較して1.38倍であった。
【0257】
(実施例E2)
非特許文献IVに記載の方法で化合物8の式(11)の値を算出したところ1.2×10
−4であった。また基準物質である化合物12の式(11)の値である0.47×10
−4と比較して2.55倍であった。
【0258】
(実施例E5)
非特許文献IVに記載の方法で化合物11の式(11)の値を算出したところ5.9×10
−4であった。また基準物質である化合物12の式(11)の値である0.47×10
−4と比較して12.6倍であった。
【0259】
(比較例10)
非特許文献IVに記載の方法で色素10の式(11)の値を算出したところ1.7×10
−2であった。また基準物質である化合物12の式(11)の値である0.47×10
−4と比較して362倍であった。
【0260】
(参考例)
以下、上記した化合物6,8,11、色素10について、SOC
T1−S02の数値を基準物質に対して比較した。
化合物6のSOC
T1−S02は実施例E1の通り3.68×10
−1(cm
−2)であった。また基準物質である化合物12のSOC
T1−S02も同様の手法で計算したところ3.4×10
−7(cm
−2)であった。このように化合物6のSOC
T1−S02の値は化合物12と比較して108万倍であった。
化合物8のSOC
T1−S02は実施例E2の通り4.12×10
−1(cm
−2)であった。このように化合物8のSOC
T1−S02の値は化合物12と比較して121万倍であった。
化合物11のSOC
T1−S02は実施例E3の通り6.29×10
−1(cm
−2)であった。このように化合物11のSOC
T1−S02の値は化合物12と比較して185万倍であった。
色素10のSOC
T1−S02は比較例10の通り1.03×10
3(cm
−2)であった。このように色素10のSOC
T1−S02の値は化合物12と比較して30億倍であった。
【0261】
式(11)の値を用いることで、k
nr(RT)の推定の精度が大きく向上する。例えば、表6記載の通り化合物6、8、11、色素10のk
nr(RT)はそれぞれ基準物質の化合物12の3.25倍、2.25倍、15.0倍、1670倍である。このオーダーは実施例AからDによって見積もられた基準物質の式(11)の相対値による見積もりに近い水準であり、良好な相関性がある。一方で、SOC
T1−S02の比較例AからDでの見積もりでは、化合物6、8、11、色素10のSOC
T1−S02はそれぞれ基準物質の化合物12の108万倍、121万倍、185万倍、30億倍である。それゆえ、良好な相関性を取ることができない化合物が存在する。また、式(11)の見積もりでは、より小さなk
nr(RT)の骨格の推定レベルが大きく向上する。化合物11のk
nr(RT)の値は化合物6,8に対して4.6倍から6.7倍であるが、式(11)による見積もりにおいても4.9倍から6.9倍である。このk
nr(RT)の低下により化合物6や化合物8では化合物11に対して大きなΦ
pが確認される(表5)。一方で、化合物11のSOC
T1−S02は化合物6や8の1.1倍から1.7倍である。それゆえ、式(11)を用いた手法は高効率蓄光を実現するための小さなk
nr(RT)を精度よく描写する手法であることが理解されよう。
【0262】
【表5】
【0263】
【表6】