特開2021-175804(P2021-175804A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人電気通信大学の特許一覧

<>
  • 特開2021175804-発光材料、及び蓄光材料 図000076
  • 特開2021175804-発光材料、及び蓄光材料 図000077
  • 特開2021175804-発光材料、及び蓄光材料 図000078
  • 特開2021175804-発光材料、及び蓄光材料 図000079
  • 特開2021175804-発光材料、及び蓄光材料 図000080
  • 特開2021175804-発光材料、及び蓄光材料 図000081
  • 特開2021175804-発光材料、及び蓄光材料 図000082
  • 特開2021175804-発光材料、及び蓄光材料 図000083
  • 特開2021175804-発光材料、及び蓄光材料 図000084
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-175804(P2021-175804A)
(43)【公開日】2021年11月4日
(54)【発明の名称】発光材料、及び蓄光材料
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/06 20060101AFI20211008BHJP
【FI】
   C09K11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】68
(21)【出願番号】特願2021-74894(P2021-74894)
(22)【出願日】2021年4月27日
(31)【優先権主張番号】特願2020-78341(P2020-78341)
(32)【優先日】2020年4月27日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.開催日 令和2年7月6日 第3回“光”機到来!Qコロキウムの講演にて発表 2.ウェブサイトの掲載日 令和2年8月5日 第3回“光”機到来!Qコロキウムの講演内容をウェブサイトにて発表 3.発行日 令和3年1月28日 ウェブサイトの掲載日 令和3年1月20日 The Journal of Physical Chemistry A,Vol 125,No 3にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(72)【発明者】
【氏名】平田 修造
(72)【発明者】
【氏名】バタチャージー インドラニル
(57)【要約】      (修正有)
【課題】大きな蓄光の量子収率と輝度を示す蓄光材料およびそれを用いた物品を提供する。
【解決手段】密度汎関数法において汎関数B3LYPと基底関数6−31G(d)を用いて最低励起三重項状態Tの分子構造を最適化し、最低励起三重項状態Tの最適化構造において高次一重項励起状態Sと基底状態Sの間の遷移双極子モーメント(μSn−S0)、SとTの間のスピン軌道相互作用(SOCSn−T1)、及びSとTとのエネルギー差(ESn−T1)の関係において、P=μSn−S0SOCSn−T1/ESn−T1と定義するとき、密度汎関数法において汎関数PBE0と基底関数TZPを用いて計算した(Σの範囲が4.00×10−7以上であり、密度汎関数法において汎関数PBE0と基底関数TZPを用いて計算したTとSのスピン軌道相互作用(SOCT1−S0)の2乗が1×10cm−2以下である、発光材料。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
密度汎関数法において汎関数B3LYPと基底関数6−31G(d)を用いて最低励起三重項状態Tの分子構造を最適化し、
最低励起三重項状態Tの最適化構造において高次一重項励起状態Sと基底状態Sの間の遷移双極子モーメント(μSn−S0)、SとTの間のスピン軌道相互作用(SOCSn−T1)、及びSとTとのエネルギー差(ESn−T1)の関係において、
=μSn−S0SOCSn−T1/ESn−T1と定義するとき、
密度汎関数法において汎関数PBE0と基底関数TZPを用いて計算した(Σの範囲が4.00×10−7以上であり、
密度汎関数法において汎関数PBE0と基底関数TZPを用いて計算したTとSのスピン軌道相互作用(SOCT1−S0)の2乗が1×10cm−2以下であり、
密度汎関数法において汎関数B3LYPと基底関数6−31G(d)を用いて最適化した基底状態Sの最適化構造と最低一重項励起状態Sの最適化構造のいずれかにおいて、密度汎関数法において汎関数PBE0と基底関数TZPを用いて計算したSとSの間の振動子強度(fS1−S0)が0.2以下である分子からなる、発光材料。
【請求項2】
密度汎関数法において汎関数B3LYPと基底関数6−31G(d)を用いて最低励起三重項状態Tの分子構造を最適化し、その最適化構造を用いて密度汎関数法において汎関数PBE0と基底関数TZPを用いて式(11)を計算した際の化合物(12)の値に対して100倍以下である請求項1に記載の発光材料。
【数1】

(式(11)において、QはTの最適化された構造におけるp番目の振動モードにおける分子の配置、P(T)はバイブレーション因子、FCはTとSの間のフランクコンドン因子であり、HSOは、スピン軌道相互作用に対応するハミルトニアンである。)
【化1】
【請求項3】
前記分子は、SとTのエネルギー差(ES1−T1)が0.2eV以上である、請求項1又は2に記載の発光材料。
【請求項4】
前記分子は、第2級芳香族アミン又は第3級芳香族アミンである、請求項1から3のいずれか1項に記載の発光材料。
【請求項5】
前記分子は、環上の炭素原子が窒素原子に直接結合する芳香環又は複素環を2つ又は3つ有する芳香族アミンであって、前記環上の窒素原子が窒素原子に直接結合する芳香環又は複素環のうち、少なくとも1つはアンテナユニットであり、少なくとも1つはセンターユニットであり、前記センターユニットのTエネルギーが前記アンテナユニットのTエネルギーよりも小さい、請求項1から3のいずれか1項に記載の発光材料。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の発光材料を含み、前記発光材料の濃度が0.001質量%から30質量%である、固体蓄光材料。
【請求項7】
請求項6に記載の固体蓄光材料を含む層を有する、表示媒体。
【請求項8】
請求項6に記載の固体蓄光材料を含み、直径が10μm以下である、粒子。
【請求項9】
請求項8に記載の粒子を含む、インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光材料、蓄光材料、表示媒体、インクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、励起光の照射停止後に発光が残る材料が着目されている。このような材料は、非常時に暗い環境で視認可能な非常時用の暗室用の表示灯等に用いられている。また、最近では蓄光材料の励起光照射停止後に発光が残る特徴を生かすと、周囲の蛍光体や蛍光不純物に依存しないで、低価格且つ小型の光検出器で蓄光を検出できることから偽造防止媒体や生体イメージング等への応用が検討され始めている。
【0003】
このような蓄光材料の性能を表すための代表的な3つの因子として室温での蓄光の量子収率(ΦDE)、蓄光の平均寿命(τDE)、蓄光の強度(IDE)が挙げられる。ΦDEとτDEは以下の式で表される。
【0004】
【数1】
【0005】
また励起光の照射が停止された後の蓄光を視認および検出する上では、ΦDEよりは励起光照射停止後1秒までの蓄光収率(ΦDE t=0.02−1s)が重要であり、例えば、ΦDEが大きくても、遅延の時間が長くなりΦDE t=0.02−1sの値が小さい場合は、周囲が明るい環境では蓄光が視認できなかったり、蓄光体の対象物が小さい場合はその蓄光を検出器で検出することができなくなる。
【0006】
非特許文献1にはイオンをドープした酸化物半導体におけるトラップ機構による蓄光現象を利用した材料が報告されている。このような材料では、光吸収過程で主に価電子帯から電導帯へ電子が遷移した後(図1、(1))、通常大部分は蓄光ではなく蛍光としてエネルギーが放出される(図1、(2))。その際一部電子はドープされたイオン由来のトラップ状態にトラップされる(図1、(3))。その後トラップされた電子が再び電導帯に戻りその後(図1、(4))、即座に価電子帯に戻る際に蓄光が生じる(図1、(5))。トラップ準位に滞在した時間に応じて遅延発光の時間が決定される。
【0007】
非特許文献2には同様のトラップ機構による蓄光現象はドナー性分子とアクセプター性分子の混合物からも報告がなされている。この材料では、ドナー性(D)分子もしくはアクセプター性(A)分子が光吸収した後(図2、(1))、ドナー性分子とアクセプター性分子で電荷分離状態が形成され(図2、(2))、その後即座に蓄光性を示さない発光が放射される(図2、(2))。また一部の電子またはホールが拡散し場合によってはトラップ準位にトラップされる(図2、(4))。その後再び電子もしくはホールがドナー性分子に戻り(図2、(5))、即座に蛍光を放射される(図2、(6))。拡散もしくはトラップ準位に滞在する時間に依存して、励起光照射停止後に発光が残り、蓄光機能が発現する。
【0008】
非特許文献3から5には、共役系ホスト分子中に蛍光性ドーパント分子がドープされた材料の例が報告されている。この材料では、酸素存在下で共役ホスト分子が吸収する光照射により一重項酸素が発生し(図3、(1))、一重項酸素と共役ホスト分子との化学反応により共役ジオキセタン誘導体が発生する(図3、(2))。その後共役部位の構造に応じて、ジオキセタン誘導体の分解が生じ、共役ケトンの励起状態が生じる(図3、(3))。その後共役ケトンの励起状態から、ゲスト分子へのエネルギー移動が生じ、ゲストの励起状態が形成され(図3、(4))、その後即座にゲストから蛍光が放射される(図3、(5))。共役ジオキセタン誘導体が形成された後、共役ケトンが形成されるまでの時間に応じて、遅延時間が発生し蓄光機能が発現する。非特許文献3から5には生体イメージングが提案されている。
【0009】
また、非特許文献6および特許文献1には、室温りん光を利用した蓄光現象を示す材料が報告されている。このような材料では、分子が光を吸収して最低一重項励起状態(S)が形成された後(図4、(1))、三重項状態に項間交差し、最低三重項励起状態(T)が形成される(図4、(2))。重原子を含まない化合物の多くは、Tからの輻射過程であるりん光速度が遅いため(図4、(3))、分子内振動失活の速度が遅く(図4の(4))、ホスト材料へのエネルギー移動による失活が遅いようなホストが活用された場合には(図4の(5))、低速の室温りん光が放射される。その室温りん光の速度は遅い光物理過程であるため、励起光照射停止後に長いもので数秒から10秒程度発光が残る蓄光機能が観測される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第5424172号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】K. Van den Eeckhout, P. F. Smet, D. Poelman, Materials 2010, 3, 2536.
【非特許文献2】R. Kabe, C, Adachi, Nature 2017, 550, 384.
【非特許文献3】M. Palner, K. Pu, S. Shao, J. Rao, Angew. Chem. Int. Ed. 2015, 54, 11477.
【非特許文献4】Q. Miao, C. Xie, X Zhen, Y. Lyu, H. Duan, X. Liu, J. V Jokerst, K. Pu, Nat. Biotech. 2017, 35, 1102.
【非特許文献5】J. Huang, X. Zhen, Z. Zeng, J. Li, C. Xie, Q. Miao, J. Chen, P. Chen, K. Pu, Nat. Commun. 2019, 10, 2064.
【非特許文献6】S. Hirata, K. Totani, T. Yamashita, H. Kaji, S. R. Marder, T. Watanabe, C. Adachi, Adv. Funct. Mater. 2013, 23, 3386.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、非特許文献1から5に示されるような蓄光材料は励起光照射停止後に数分から1時間以上発光を示すものが存在するが、ΦDEやΦDE t=0.02−1sが小さく輝度が出ない問題がある。それゆえ暗闇の中でのみその蓄光挙動の観測が可能であり、蛍光体とは異なり周囲が明るい状態での用途には活用されてこなかった。また、さまざまな蛍光体は励起光強度の増加とともに輝度が大きく増加するため、非常に小さな対象物からも蛍光を検出することができ、さまざまなセンサーおよび生体イメージングなどに活用されている。しかし、非特許文献1から5に示されるような蓄光材料では、励起光強度の増加とともに輝度が増加しないため、対象物が10μm以下のように小さくなると蓄光を検出することができなくなる。発光イメージングの他のイメージング技術に対する強みは高解像であることであるが、既存の蓄光体は対象物が小さくなると蓄光現象の検出ができないため、高解像イメージングには用いられてこなかった。
【0013】
また、非特許文献6や特許文献1に開示される室温りん光型の蓄光材料は、蓄光の量子収率が14%以下と小さい問題がある。
【0014】
本発明は、上記の既存発明における課題の解決を目指して為されたものであり、その目的は、大きな蓄光の量子収率と輝度を示す蓄光材料およびそれを用いた物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
密度汎関数法において汎関数B3LYPと基底関数6−31G(d)を用いて最低励起三重項状態Tの分子構造を最適化し、
最低励起三重項状態Tの最適化構造において高次一重項励起状態Sと基底状態Sの間の遷移双極子モーメント(μSn−S0)、SとTの間のスピン軌道相互作用(SOCSn−T1)、及びSとTとのエネルギー差(ESn−T1)の関係において、
=μSn−S0SOCSn−T1/ESn−T1と定義するとき、
密度汎関数法において汎関数PBE0と基底関数TZPを用いて計算した(Σの範囲が4.00×10−7以上であり、
密度汎関数法において汎関数PBE0と基底関数TZPを用いて計算したTとSのスピン軌道相互作用(SOCT1−S0)の2乗が1×10cm−2以下であり、
密度汎関数法において汎関数B3LYPと基底関数6−31G(d)を用いて最適化した基底状態Sの最適化構造と最低一重項励起状態Sの最適化構造のいずれかにおいて、密度汎関数法において汎関数PBE0と基底関数TZPを用いて計算したSとSの間の振動子強度(fS1−S0)が0.2以下である分子からなる、発光材料。
密度汎関数法において汎関数B3LYPと基底関数6−31G(d)を用いて最低励起三重項状態Tの分子構造を最適化し、その最適化構造を用いて密度汎関数法において汎関数PBE0と基底関数TZPを用いて式(11)を計算した際の化合物(12)の値に対して100倍以下である請求項1に記載の発光材料。
【数1a】

(式(11)において、QはTの最適化された構造におけるp番目の振動モードにおける分子の配置、P(T)はバイブレーション因子、FCはTとSの間のフランクコンドン因子であり、HSOは、スピン軌道相互作用に対応するハミルトニアンである。)
【化1a】
【0016】
[3]前記分子は、SとTのエネルギー差(ES1−T1)が0.2eV以上である、[1]又は[2]に記載の発光材料。
[4]前記分子は、第2級芳香族アミン又は第3級芳香族アミンである、[1]から[3]のいずれかに記載の発光材料。
[5]前記分子は、環上の炭素原子が窒素原子に直接結合する芳香環又は複素環を2つ又は3つ有する芳香族アミンであって、前記環上の窒素原子が窒素原子に直接結合する芳香環又は複素環のうち、少なくとも1つはアンテナユニットであり、少なくとも1つはセンターユニットであり、前記センターユニットのTエネルギーが前記アンテナユニットのTエネルギーよりも小さい、[1]から[3]のいずれかに記載の発光材料。
[6][1]から[5]のいずれかに記載の発光材料を含み、前記発光材料の濃度が0.001質量%から30質量%である、固体蓄光材料。
[7][6]に記載の固体蓄光材料を含む層を有する、表示媒体。
[8][6]に記載の固体蓄光材料を含み、直径が10μm以下である、粒子。
[9][8]に記載の粒子を含む、インク。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、大きな蓄光の量子収率と輝度を示す蓄光材料およびそれを用いた物品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、イオンをドープした酸化物半導体におけるトラップ機構による蓄光現象を説明する説明図である。
図2図2は、ドナー性分子(D分子)とアクセプター性分子(A分子)の混合物からなる材料の蓄光現象を説明する説明図である。
図3図3は、ホスト分子の酸素との化学反応を利用した蓄光現象を説明する説明図である。
図4図4は、室温りん光による蓄光現象を説明する説明図である。
図5図5は、実施例1、比較例1、2における励起光照射停止直後の蓄光輝度と励起光強度の関係を表すグラフである。
図6図6は、試料5の360nmの励起光照射時(上)と照射停止直後(下)の発光スペクトルである。
図7図7は、試料5のτの温度(T)依存性を表すグラフである。
図8図8は、試料5のkNR+kの温度(T)依存性を表すグラフである。
図9図9は、実施例2と3および比較例4から11における(Σとkの関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態について説明するが、以下の実施形態における例示が本発明を限定することはない。
【0020】
「発光材料」
本発明による発光材料は、Tの最適化構造において高次一重項励起状態Sと基底状態Sの間の遷移双極子モーメント(μSn−S0)、SとTの間のスピン軌道相互作用(SOCSn−T1)、及びSとTとのエネルギー差(ESn−T1)の関係において、P=μSn−S0SOCSn−T1/ESn−T1と定義するとき、(Σの範囲が4.00×10−7以上であり、かつTとSのスピン軌道相互作用(SOCT1−S0)の2乗が1×10cm−2以下であり、基底状態Sの最適化構造と最低一重項励起状態Sの最適化構造のいずれかにおいて、SとSの間の振動子強度(fS1−S0)が0.2以下である分子からなることを特徴とする。
この分子は、大きな蓄光の量子収率と輝度を示す蓄光材料およびそれを用いた物品を提供することができる。
【0021】
詳しくは、密度汎関数法において汎関数B3LYPと基底関数6−31G(d)を用いて最低励起三重項状態Tの分子構造を最適化し、密度汎関数法において汎関数B3LYPと基底関数6−31G(d)を用いて分子構造を最適化し、最低励起三重項状態Tの最適化構造において高次一重項励起状態Sと基底状態Sの間の遷移双極子モーメント(μSn−S0)、SとTの間のスピン軌道相互作用(SOCSn−T1)、及びSとTとのエネルギー差(ESn−T1)の関係において、P=μSn−S0SOCSn−T1/ESn−T1と定義するときに、以下を満たすことが好ましい。
密度汎関数法において汎関数PBE0と基底関数TZPを用いて計算した(Σの範囲が4.00×10−7以上。
密度汎関数法において汎関数PBE0と基底関数TZPを用いて計算したTとSのスピン軌道相互作用(SOCT1−S0)の2乗が1×10cm−2以下。
密度汎関数法において汎関数B3LYPと基底関数6−31G(d)を用いて最適化したSの最適化構造とSの最適化構造のいずれかにおいて、密度汎関数法において汎関数PBE0と基底関数TZPを用いて計算したSとSの間の振動子強度(fS1−S0)が0.2以下である。
本明細書において、室温は25℃を示す。また、室温状態で測定又は計算した物性値には(RT)を付して示す。
【0022】
(室温りん光型の蓄光材料におけるΦDEやτDE
室温りん光型の蓄光材料の場合、ΦDEやτDEは室温のりん光量子収率(Φ(RT))および室温りん光の寿命(τ(RT))で表現される。
Φ(RT)τ(RT)は以下の式で表される。
【0023】
【数2】
【0024】
ここでΦISC(RT)は室温での最低励起一重項状態(S)から三重項状態への項間交差の収率、kは色素のりん光速度定数、kNR(RT)は色素の室温での振動に基づく最低三重項励起状態(T)から基底状態(S)への失活の速度定数、k(RT)は室温での色素から周囲のホストへのエネルギー移動等による相互作用により失活する速度である。式3と式4から、高効率且つ寿命の長い室温りん光を得るためには、大きなΦISC(RT)とk、小さなkNR(RT)とk(RT)が必要であり、さらにk>kNR(RT)+k(RT)の関係が望ましい。ΦISC(RT)は以下の式で表される。
【0025】
【数3】
【0026】
ここでkは色素の蛍光速度定数、kIC(RT)は色素の室温での分子内振動によるSからSへの失活速度定数、kISC(RT)はSから三重項状態への項間交差の速度定数である。必要となり大きなΦISC(RT)を得るためには、少なくともkISC(RT)>kの関係が必要である。kISC(RT)の制御は、重原子を活用しない場合は複雑であるため、kを小さくすると多くの場合ΦISC(RT)を多くすることが可能である。kはfS1−S0に比例するためfS1−S0が小さくなる色素の分子設計が大きなΦISC(RT)を得る上で好適である。
【0027】
(kに関して)
は理論文献は1960年代にある。kは下記式で表される。(H. Gropper, F. Ber. Doerr, Bunsen-Ges. Phys. Chem. 1963, 67, 46.)
【0028】
【数4】
【0029】
式6の第1項Σが第2項Σ’よりも十分に大きい場合は、式6〜式8は以下のように簡略化される。
【0030】
【数5】
【0031】
計算による(Σと実験で計測されたkとの間には良好な相関があるため(図9)、式9による簡略化は統計上の意味があり、(Σの計算はkの範囲を規定する上で論理的に活用が可能である。図9は、実施例の表2において、計算による(Σと実験で計測されたkとの関係を示すグラフである。
【0032】
(kNR(RT)に関して)
NR(RT)は理論上に比例して以下のように表すことができるという理論文献は1970年代にある。(Metz, F.; Friedrich, S.; Hohlneicher, G. Chem. Phys. Lett. 1972, 16, 353-358.)
【0033】
【数6】
【0034】
FCは主にTとSのエネルギー差(りん光波長)に強く依存する項であるため、同様のりん光波長を有する分子間においては、式10から少なくとも第一項のSOCT1−S0が大きくなる分子は、kNR(RT)が大きくなるために、蓄光機能が失われる。
これより、SOCT1−S0を小さくすることで、kを大きくすることができる。
【0035】
本発明の分子は、密度汎関数法において汎関数B3LYPと基底関数6−31G(d)を用いて最低励起三重項状態Tの分子構造を最適化したTの最適化構造において
高次一重項励起状態Sと基底状態Sの間の遷移双極子モーメント(μSn−S0)、SとTの間のスピン軌道相互作用(SOCSn−T1)、及びSとTとのエネルギー差(ESn−T1)の関係において、P=μSn−S0SOCSn−T1/ESn−T1と定義するとき、密度汎関数法において汎関数PBE0と基底関数TZPを用いて計算した(Σの範囲が4.00×10−7以上であり、かつTとSのスピン軌道相互作用(SOCT1−S0)の2乗が1×10cm−2以下である。
【0036】
(Σは、4.00×10−7以上が好ましく、8.00×10−7以上がより好ましい。これによって、三重項励起状態が形成された際にりん光が放射される確率を増加させることができる。
【0037】
とSのスピン軌道相互作用(SOCT1−S0)の2乗、すなわち(SOCT1−S0は、1×10cm−2以下が好ましく、1×10cm−2以下がより好ましい。これによって、三重項励起状態が形成された際にりん光が失活する確率を低下させることでりん光の寿命を延ばし、蓄光機能を持たせることが可能になる。
【0038】
本発明の分子は、密度汎関数法において汎関数B3LYPと基底関数6−31G(d)を用いて最適化したSの最適化構造とSの最適化構造のいずれかにおいて、SとSの間の振動子強度(fS1−S0)が0.2以下である。振動子強度(fS1−S0)は、0.2以下が好ましく、0.1以下がより好ましい。これによって、三重項励起状態の形成確率を増加させることが可能になる。
【0039】
本発明の分子は、SとTのエネルギー差(ES1−T1)が0.2eV以上であることが好ましい。エネルギー差(ES1−T1)は、0.2eV以上が好ましく、0.5eV以上がより好ましい。これによって、三重項励起状態が形成された際に再び高速で一重項状態に戻り、非蓄光性の遅延蛍光が放射されるのを抑制することができる。
【0040】
(分子)
本発明の分子は、上記した特性を備えることで、室温で高輝度の蓄光性を呈することができるが、以下に分子の具体例について説明する。
【0041】
本発明の分子は、中心原子と、中心原子に結合する少なくとも1つのアンテナユニットと少なくとも1つのセンターユニットとを有することが好ましい。中心原子は、典型的には窒素原子である。
アンテナユニットは、分子の立体構造を決定し、分子のねじれの大きさに影響する。センターユニットは、発色団として機能し、発光色等の蓄光の特性に影響する。センターユニットは、典型的には蛍光材料と共通する構造を備える。
この分子において、センターユニットのTエネルギーはアンテナユニットのTエネルギーよりも小さいことが好ましい。
【0042】
本発明の分子は、芳香族アミンが好ましく、より好ましくは第2級芳香族アミン又は第3級芳香族アミンである。第2級芳香族アミン又は第3級芳香族アミンでは、窒素原子に結合する官能基として、芳香環又は複素環と、水素原子以外の官能基とを有することで、窒素原子を中心として分子にねじれが発生して、本発明のエネルギー状態を得ることができる。さらに、第2級芳香族アミンは、窒素原子に結合する官能基として、芳香環又は複素環を有する基を2つ備えることが好ましい。第3級芳香族アミンは、窒素原子に結合する官能基として、芳香環又は複素環を有する基を2つ又は3つ備えることが好ましい。
芳香族アミンは、環上の炭素原子が窒素原子に直接結合する芳香環又は複素環を有することが好ましく、芳香族アミンは、環上の炭素原子が窒素原子に直接結合する芳香環又は複素環を2つ又は3つ有することが好ましい。これによって、窒素原子を中心としたアンテナユニットとセンターユニットの間にねじれを形成させやすく、三重項励起状態の形成効率を向上させることが可能となる。さらに(SOCT1−S0を大きく増加させることなく、効果的に(Σを向上させることができ、長い寿命且つ高い効率の室温りん光が可能となる。
【0043】
芳香族アミンは、少なくとも1つのアンテナユニットと、少なくとも1つのセンターユニットとを備えることが好ましい。この場合、アンテナユニット及びセンターユニットは、それぞれ芳香環又は複素環を有する基が好ましく、環上の炭素原子が窒素原子に直接結合する芳香環又は複素環を有する基がより好ましい。
この芳香族アミンにおいて、センターユニットのTエネルギーはアンテナユニットのTエネルギーよりも小さいことが好ましい。
【0044】
芳香族アミンは、環上の炭素原子が窒素原子に直接結合する芳香環又は複素環を2つ又は3つ有する芳香族アミンであって、環上の炭素原子が窒素原子に直接結合する芳香環又は複素環のうち、少なくとも1つはアンテナユニットであり、少なくとも1つはセンターユニットであることが好ましい。
芳香族アミンは、下記分子構造を有することが好ましい。下記分子構造において、aは、アンテナユニットを構成する芳香環又は複素環を細線で示したセンターユニットであり、cは、センターユニットを構成する芳香環又は複素環を太線で示したセンターユニットである。なお、下記分子構造において芳香環又は複素環の構造は特に限定されずに概略的に示されている。
【0045】
【化1】
【0046】
(i)に示す分子構造では、窒素原子に、2つのアンテナユニット(a)と1つのセンターユニット(c)が結合する。2つのアンテナユニットは、互いに同一でも異なってもよい。
(ii)に示す分子構造では、窒素原子に、1つのアンテナユニット(a)と2つのセンターユニット(c)が結合する。2つのセンターユニットは、互いに同一でも異なってもよい。
(iii)に示す分子構造では、1つのn価のセンターユニット(c)に、n個の窒素原子が結合し、n個の窒素原子にそれぞれ2個のアンテナユニット(a)が結合する。nは整数であり、n=1〜10が好ましく、n=1〜6がより好ましく、n=1〜4がさらに好ましい。n個の一対のアンテナユニットは、全て同一であっても、一部又は全部が異なってもよい。また、一対のアンテナユニットは、互いに同一又は異なってもよい。
【0047】
本発明の分子の一例としては、下記一般式(I)で表される分子が挙げられる。
【0048】
【化2】
【0049】
一般式(I)において、nは1〜10の整数を表し、n=1の場合、R11は、センターユニットを表し、R12は、アンテナユニット、センターユニット、水素原子、又は任意の一価の基を表し、R13は、アンテナユニットを表し、n=2〜10の場合、R11は、センターユニットを表し、R12は、アンテナユニット、水素原子、又は任意の一価の基を表し、R13は、アンテナユニットを表し、センターユニットは、置換もしくは無置換のp−テルフェニル基、置換もしくは無置換のp−クアテルフェニル基、炭素数12〜80の縮合ベンゼン環を有する基、又は炭素数12〜80の縮合複素環を有する基であり、アンテナユニットは、置換もしくは無置換のビフェニル基、置換もしくは無置換のp−テルフェニル基、置換もしくは無置換のp−クアテルフェニル基、又は2環以上の縮合芳香環又は縮合複素環を有する基である。
アンテナユニットにおいて、2環以上の縮合芳香環又は縮合複素環を有する基は、後述する一般式(II)で表される基であることが好ましい。
【0050】
(アンテナユニット)
本発明の分子において、アンテナユニットは、炭素数が12〜50、好ましくは炭素数12〜40のアリール基、炭素数が12〜50、好ましくは炭素数12〜40のヘテロアリール基、芳香族に限定されない共役構造を有する基等が挙げられる。好ましくは、アリール基又はヘテロアリール基である。
【0051】
本発明の分子において、少なくとも1つのアンテナユニットは、芳香環又は複素環を備えることが好ましく、より好ましくは2個以上の芳香環、又は少なくとも1つの芳香環と少なくとも1つの複素環との組み合わせを備える。
アンテナユニットにおいて、芳香環又は複素環としては、例えば、ベンゼン環、縮合ベンゼン環、インデン環、インドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、ベンゾシロール環、フルオレン環、カルバゾール環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、シラフルオレン環、これらの誘導体、これらの中から2つ以上の環が縮合した縮合芳香環又は複素環、これらの中から2つ以上の環が単結合によって結合した多環式芳香環又は複素環等が挙げられる。
アンテナユニットは、2個以上の単環式芳香環が単結合によって結合した多環式芳香環、少なくとも1つの芳香環を含む縮合芳香環又は縮合複素環、又はこれらの誘導体を備えることが好ましく、より好ましくは、フルオレン環、カルバゾール環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、シラフルオレン環を備え、さらに好ましくはフルオレン環を備える。
【0052】
2個以上の単環式芳香環が単結合によって結合した多環式芳香環を有する基としては、ビフェニル基、p−テルフェニル基、p−クアテルフェニル基等が挙げられる。これらの多環式芳香環を有する基は、結合位置が4位であることが好ましい。また、これらの多環式芳香環を有する基は、置換又は無置換であってよい。置換基を有する場合、置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルキルオキシキ基、炭素数1〜8のアルキルアミノ基、ジフェニルアミノ基等の炭素数6〜40のアリールアミノ基等が挙げられる。置換基は、1個又は2個以上であってもよいが、1個が好ましい。
【0053】
アンテナユニットとしては、少なくとも1つの芳香環を含む縮合芳香環又は縮合複素環を有すること好ましく、より好ましくは2個以上の芳香環を含む縮合環、又は芳香環と複素環とを含む縮合環を有し、さらに好ましくはベンゼン環と5員環の芳香環又は複素環とを含む縮合環を有し、一層好ましくは2つのベンゼン環が5員環の芳香環又は複素環を介して結合する縮合環を有する。
複素環は、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、ケイ素原子等のヘテロ原子を含むことが好ましい。複素環には、これらのヘテロ原子が1個又は2個以上組み合わされて含まれてもよいが、単一のヘテロ原子を1個又は2個以上含むことが好ましく、1個のヘテロ原子を含むことがより好ましい。複素環の具体例としては、ピロール環、フラン環、チオフェン環、シロール環等が挙げられる。
【0054】
アンテナユニットとしては、例えば、下記一般式(II)で表される基を挙げることができる。
【0055】
【化3】
【0056】
一般式(II)において、Xは、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、又はケイ素原子である。Xが炭素原子、窒素原子、ケイ素原子の場合、それぞれの原子に結合する水素原子は、置換もしくは無置換であってよい。置換基を有する場合は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜8のアルキル基等が挙げられる。
及びRは、それぞれ独立的に水素原子又は一価の基であってよい。好ましくは、R及びRがともに水素原子であるか、又はRが一価の基を有し、Rが水素原子である。R及びRにおいて、一価の基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルキルオキシキ基、炭素数1〜8のアルキルアミノ基、ジフェニルアミノ基等の炭素数6〜40のアリールアミノ基等が挙げられる。
とRは芳香環又は複素環を形成してもよい。この場合、RとRとは、インデン環構造、インドール環構造、ベンゾフラン環構造、ベンゾチオフェン環構造、ベンゾシロール環構造等の環を形成することが好ましい。これらの環は、置換又は無置換であってよく、置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルキルオキシキ基、炭素数1〜8のアルキルアミノ基、ジフェニルアミノ基等の炭素数6〜40のアリールアミノ基等が挙げられる。
Lは、単結合又は二価の基である。二価の基としては、炭化水素基が好ましく、炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数6〜40のシクロアルキレン基、炭素数6〜40のアリーレン基、炭素数6〜40のヘテロアリーレン基等であってよい。Lは、好ましくは、単結合、炭素数6〜40のアリーレン基、炭素数6〜40のヘテロアリーレン基である。アリーレン基としては、フェニレン基等が挙げられる。ヘテロアリーレン基としては、フルオレン−2,7−ジイル基、カルバゾール−2,7−ジイル基、ジベンゾフラン−2,7−ジイル基、ジベンゾチオフェン−2,7−ジイル基、シラフルオレン−2,7−ジイル基等が挙げられる。これらのアリール基及びヘテロアリーレン基は、それぞれ置換又は無置換であってよい。
*は、芳香族アミンの窒素原子と結合する位置を表す。
【0057】
アンテナユニットの具体例としては、フルオレン環又はその誘導体を含む基が挙げられ、例えば、フルオレニル基、ジヒドロインデノフルオレニル基、フルオレニルフェニル基、フェニルフルオレニル基、ビフルオレニル基等が挙げられる。これらの官能基において、フルオレン環の結合位置は2位で芳香族アミンの窒素原子に結合することが好ましい。
また、これらの官能基は、置換又は無置換であってよい。置換基を有する場合、置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルキルオキシキ基、炭素数1〜8のアルキルアミノ基、ジフェニルアミノ基等の炭素数6〜40のアリールアミノ基等が挙げられる。置換基は、1個又は2個以上であってもよいが、1個が好ましい。置換基は、フルオレン環の7位の結合位置に導入されることが好ましい。
フルオレン環又はその誘導体を含む基において、フルオレン環の9位の水素原子のうち1個又は2個は、置換又は無置換であってよい。置換基を有する場合、置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜8のアルキル基等が挙げられる。
【0058】
アンテナユニットの具体例としては、シラフルオレン環又はその誘導体を含む基が挙げられ、例えば、シラフルオレニル基、ジヒドロベンゾシロールシラフルオレニル基、シラフルオレニルフェニル基、フェニルシラフルオレニル基、ビシラフルオレニル基等が挙げられる。これらの官能基において、シラフルオレン環の結合位置は2位で芳香族アミンの窒素原子に結合することが好ましい。また、これらの官能基は、置換又は無置換であってよい。置換基を有する場合、置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルキルオキシキ基、炭素数1〜8のアルキルアミノ基、ジフェニルアミノ基等の炭素数6〜40のアリールアミノ基等が挙げられる。
置換基は、1個又は2個以上であってもよいが、1個が好ましい。置換基は、シラフルオレン環の7位の結合位置に導入されることが好ましい。
シラフルオレン環又はその誘導体を含む基において、シラフルオレン環の9位の水素原子のうち1個又は2個は、置換又は無置換であってよい。置換基を有する場合、置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜8のアルキル基等が挙げられる。
【0059】
アンテナユニットの具体例としては、カルバゾール環又はその誘導体を含む基が挙げられ、例えば、カルバゾリル基、ジヒドロインドロカルバゾリル基、カルバゾリルフェニル基、フェニルカルバゾリル基、ビカルバゾリル基等が挙げられる。これらの官能基において、カルバゾール環の結合位置は2位で芳香族アミンの窒素原子に結合することが好ましい。また、これらの官能基は、置換又は無置換であってよい。置換基を有する場合、置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルキルオキシキ基、炭素数1〜8のアルキルアミノ基、ジフェニルアミノ基等の炭素数6〜40のアリールアミノ基等が挙げられる。置換基は、1個又は2個以上であってもよいが、1個が好ましい。置換基は、カルバゾール環の7位の結合位置に導入されることが好ましい。
カルバゾール環又はその誘導体を含む基において、カルバゾール環の9位の水素原子は、置換又は無置換であってよい。置換基を有する場合、置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜8のアルキル基等が挙げられる。
【0060】
アンテナユニットの具体例としては、ジベンゾフラン環又はその誘導体を含む基が挙げられ、例えば、ジベンゾフラニル基、ジヒドロベンゾフランジベンゾフラニル基、ジベンゾフラニルフェニル基、フェニルジベンゾフラニル基、ビジベンゾフラニル基等が挙げられる。これらの官能基において、ジベンゾフラン環の結合位置は2位で芳香族アミンの窒素原子に結合することが好ましい。また、これらの官能基は、置換又は無置換であってよい。置換基を有する場合、置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルキルオキシキ基、炭素数1〜8のアルキルアミノ基、ジフェニルアミノ基等の炭素数6〜40のアリールアミノ基等が挙げられる。置換基は、1個又は2個以上であってもよいが、1個が好ましい。置換基は、ジベンゾフラン環の7位の結合位置に導入されることが好ましい。
【0061】
アンテナユニットの具体例としては、ジベンゾチオフェン環又はその誘導体を含む基が挙げられ、例えば、ジベンゾチオフェニル基、ジヒドロベンゾチオフェンジベンゾチオフェニル基、ジベンゾチオフェニルフェニル基、フェニルジベンゾチオフェニル基、ビジベンゾチオフェニル基等が挙げられる。これらの官能基において、ジベンゾチオフェン環の結合位置は2位で芳香族アミンの窒素原子に結合することが好ましい。また、これらの官能基は、置換又は無置換であってよい。置換基を有する場合、置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルキルオキシキ基、炭素数1〜8のアルキルアミノ基、ジフェニルアミノ基等の炭素数6〜40のアリールアミノ基等が挙げられる。置換基は、1個又は2個以上であってもよいが、1個が好ましい。置換基は、ジベンゾチオフェン環の7位の結合位置に導入されることが好ましい。
【0062】
上記したアンテナユニットにおいて、水素原子の全部は水素原子(H)であってよいが、水素原子の一部又は全部が重水素(デューテリウムD)で置換されていてもよい。
【0063】
アンテナユニットの具体例の化学式を以下に示す。
【0064】
【化4】
【0065】
【化5】
【0066】
【化6】
【0067】
【化7】
【0068】
【化8】
【0069】
【化9】
【0070】
上記したアンテナユニットの化学式において、Rは、任意の一価の基を表し、例えば、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜8のアルキル基である。1つの基に2個以上のRが含まれる場合は、Rは全て同一であってよく、一部又は全部が異なってもよい。
また、上記したアンテナユニットの化学式において、水素原子の全部は水素原子であってよいが、水素原子の一部又は全部が重水素(デューテリウムD)で置換されていてもよい。
【0071】
(センターユニット)
本発明の分子において、センターユニットは、炭素数が12〜100、好ましくは炭素数12〜80のアリール基、炭素数が12〜50、好ましくは炭素数12〜40のヘテロアリール基、芳香族に限定されない共役構造を有する基等が挙げられる。好ましくは、アリール基又はヘテロアリール基である。
【0072】
本発明の分子において、少なくとも1つのセンターユニットは、芳香環又は複素環を備えることが好ましく、より好ましくは2個以上の芳香環、又は少なくとも1つの芳香環と少なくとも1つの複素環との組み合わせを備える。
センターユニットにおいて、芳香環又は複素環としては、例えば、ベンゼン環、縮合ベンゼン環、インデン環、インドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、ベンゾシロール環、フルオレン環、カルバゾール環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、シラフルオレン環、これらの誘導体、これらの中から2つ以上の環が縮合した縮合芳香環又は複素環、これらの中から2つ以上の環が単結合によって結合した多環式芳香環又は複素環等が挙げられる。
アンテナユニットは、2個以上の芳香環を含む縮合芳香環、2個以上の単環式芳香環が単結合によって結合した多環式芳香環、少なくとも1つの芳香環と少なくとも1つの複素環を含む縮合複素環、又はこれらの誘導体を備えることが好ましく、より好ましくは、2個以上の芳香環を含む縮合芳香環を備え、さらに好ましくは縮合ベンゼン環を備える。さらに、アンテナユニットは、これらの環状構造に単環式の芳香環又は複素環、好ましくはフェニル基が導入された基であってもよい。
【0073】
2個以上の芳香環を含む縮合芳香環を有する基としては、例えば、ナフチル基、フェナントレニル基、ベンゾフェナントレニル基(クリセニル基)、ベンゾアントラセニル基(テトラフェニル基)、トリフェニレニル基、ベンゾ[e]ピレニル基、コロネニル基、ジベンゾクリセニル基、ピレニル基、ヘキサベンゾコロネニル基等が挙げられる。
これらの官能基は、置換又は無置換であってよいが、無置換が好ましい。置換基を有する場合、置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜8のアルキル基等が挙げられる。置換基は、1個又は2個以上であってもよいが、1個が好ましい。
【0074】
2個以上の単環式芳香環が単結合によって結合した多環式芳香環を有する基としては、例えば、p−テルフェニル基、p−クアテルフェニル基等が挙げられる。縮合芳香環と単環式芳香環とを有する基としては、例えば、2,6−ジフェニルナフチル基等が挙げられる。
【0075】
センターユニットのその他の例としては、少なくとも1つの芳香環と少なくとも1つの複素環を含む縮合複素環として、フルオレン環、カルバゾール環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、シラフルオレン環等、又はこれらの誘導体を備える基が挙げられる。
センターユニットにおいて、フルオレン環又はその誘導体を有する基としては、例えば、フルオレニル基、2−フェニルフルオレニル基、7−フェニルフルオレニル基、2,7−ジフェニルフルオレニル基等が挙げられる。これらの官能基において、フルオレン環の結合位置は2位又は3位で芳香族アミンの窒素原子と結合することが好ましい。また、これらの官能基は、置換又は無置換であってよいが、無置換が好ましい。置換基を有する場合、置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜8のアルキル基等が挙げられる。置換基は、1個又は2個以上であってもよいが、1個が好ましい。置換基は、フルオレン環の2位又は7位に導入されることが好ましい。
フルオレン環又はその誘導体を含む基において、フルオレン環の9位の水素原子のうち1個又は2個は、置換又は無置換であってよい。置換基を有する場合、置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜8のアルキル基等が挙げられる。
【0076】
センターユニットにおいて、シラフルオレン環又はその誘導体を有する基としては、例えば、2−フェニルフラフルオレニル基、7−フェニルフラフルオレニル基、2,7−ジフェニルフラフルオレニル基等が挙げられる。これらの官能基において、フラフルオレン環の結合位置は2位又は3位で芳香族アミンの窒素原子と結合することが好ましい。また、これらの官能基は、置換又は無置換であってよいが、無置換が好ましい。置換基を有する場合、置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜8のアルキル基等が挙げられる。置換基は、1個又は2個以上であってもよいが、1個が好ましい。置換基は、シラフルオレン環の2位又は7位に導入されることが好ましい。
フラフルオレン環又はその誘導体を含む基において、フラフルオレン環の9位の水素原子のうち1個又は2個は、置換又は無置換であってよい。置換基を有する場合、置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜8のアルキル基等が挙げられる。
【0077】
センターユニットにおいて、カルバゾール環又はその誘導体を有する基としては、例えば、カルバゾリル基、2−フェニルカルバゾリル基、7−フェニルカルバゾリル基、2,7−ジフェニルカルバゾリル基等が挙げられる。これらの官能基において、カルバゾール環の結合位置は2位又は3位で芳香族アミンの窒素原子と結合することが好ましい。また、これらの官能基は、置換又は無置換であってよいが、無置換が好ましい。置換基を有する場合、置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜8のアルキル基等が挙げられる。置換基は、1個又は2個以上であってもよいが、1個が好ましい。置換基は、カルバゾール環の2位又は7位に導入されることが好ましい。
カルバゾール環又はその誘導体を含む基において、カルバゾール環の9位の水素原子は、置換又は無置換であってよい。置換基を有する場合、置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜8のアルキル基等が挙げられる。
【0078】
センターユニットにおいて、ジベンゾフラン環又はその誘導体を有する基としては、例えば、ジベンゾフラニル基、2−フェニルジベンゾフラニル基、7−フェニルジベンゾフラニル基、2,7−ジフェニルジベンゾフラニル基等が挙げられる。これらの官能基において、ジベンゾフラン環の結合位置は2位又は3位で芳香族アミンの窒素原子と結合することが好ましい。また、これらの官能基は、置換又は無置換であってよいが、無置換が好ましい。
置換基を有する場合、置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜8のアルキル基等が挙げられる。置換基は、1個又は2個以上であってもよいが、1個が好ましい。置換基は、ジベンゾフラン環の2位又は7位に導入されることが好ましい。
【0079】
センターユニットにおいて、ジベンゾチオフェン環又はその誘導体を有する基としては、例えば、ジベンゾチオフェニル基、2−フェニルジベンゾチオフェニル基、7−フェニルジベンゾチオフェニル基、2,7−ジフェニルジベンゾチオフェニル基等が挙げられる。これらの官能基において、ジベンゾチオフェン環の結合位置は2位又は3位で芳香族アミンの窒素原子と結合することが好ましい。また、これらの官能基は、置換又は無置換であってよいが、無置換が好ましい。置換基を有する場合、置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜8のアルキル基等が挙げられる。置換基は、1個又は2個以上であってもよいが、1個が好ましい。置換基は、ジベンゾチオフェニル環の2位又は7位に導入されることが好ましい。
【0080】
芳香族アミンが2置換体の場合、センターユニットは、芳香環及び/又は複素環を組み合わせた多環式芳香環又は複素環において、環上の炭素原子のうち2つの炭素原子が芳香族アミンの窒素原子に直接結合する二価の官能基が好ましい。2置換体の芳香族アミンは、上記分子構造(iii)においてn=2の構造を有する。
二価の縮合芳香環を有する基としては、例えば、ナフチレン基、フェナントレニレン基、ベンゾフェナントレニレン基、トリフェニレニレン基、ベンゾ[e]ピレニレン基、コロネニレン基、ピレニレン基等が挙げられる。
その他の二価の多環式芳香環を有する基としては、例えば、4,4’’−p−テルフェニレン基、4,4’’’−p−クアテルフェニレン基等が挙げられる。
これらの官能基は、置換又は無置換であってよいが、無置換が好ましい。置換基を有する場合、置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜8のアルキル基等が挙げられる。置換基は、1個又は2個以上であってもよいが、1個が好ましい。
【0081】
芳香環と複素環を有する二価の縮合複素環を有する基としては、例えば、フルオレン環、カルバゾール環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、シラフルオレン環;2,2’−ビフルオレン環、2,2’−カルバゾール環、2,2’−ジベンゾフラン環、2,2’−ジベンゾチオフェン環、2,2’−シラフルオレン環;ジヒドロインデノフルオレン環、ジヒドロインドロカルバゾール環、ジヒドロベンゾフランジベンゾフラン環、ジヒドロベンゾチオフェンジベンゾチオフェン環、ジヒドロベンゾシロールシラフルオレン環;ベンゾジフラン環、ベンゾジチオフェン環等、又はこれらの誘導体において、環上の炭素原子のうち2つの炭素原子が芳香族アミンの窒素原子に直接結合する二価の官能基が好ましい。
これらの官能基は、置換又は無置換であってよいが、無置換が好ましい。置換基を有する場合、置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜8のアルキル基等が挙げられる。置換基は、1個又は2個以上であってもよいが、1個が好ましい。
【0082】
芳香族アミンが3置換体の場合、センターユニットは、芳香環及び/又は複素環を組み合わせた多環式芳香環又は複素環において、環上の炭素原子のうち3つの炭素原子が芳香族アミンの窒素原子に直接結合する三価の官能基が好ましい。3置換体の芳香族アミンは、上記分子構造(iii)においてn=3の構造を有する。
芳香環及び/又は複素環を有する三価の基は、例えば、ナフタレン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、コロネン環、トルキセン環、10,15−ジヒドロ−5H−ジインドロ[3,2−a:3’,2’−c]カルバゾール環、10,15−ジヒドロ−5H−ジベンゾシロール[3,2−a:3’,2’−c]シラフルオレン環等、又はこれらの誘導体において、環上の炭素原子のうち3つの炭素原子が芳香族アミンの窒素原子に直接結合する三価の官能基が好ましい。
これらの官能基は、置換又は無置換であってよいが、無置換が好ましい。置換基を有する場合、置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜8のアルキル基等が挙げられる。置換基は、1個又は2個以上であってもよいが、1個が好ましい。
【0083】
芳香族アミンが4以上の置換体の場合、センターユニットは、芳香環及び/又は複素環を組み合わせた多環式芳香環又は複素環において、環上の炭素原子のうち4つ以上の炭素原子が芳香族窒素原子に直接結合する四価以上の基が好ましく、縮合芳香環を有する四価以上の基が好ましい。例えば、4置換体の芳香族アミンは、上記分子構造(iii)においてn=4の構造を有する。
芳香環を有する四価以上の基は、例えば、コロネン環、ヘキサベンゾベンゼン環等の環状構造を有することが好ましい。
これらの官能基は、置換又は無置換であってよいが、無置換が好ましい。置換基を有する場合、置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜8のアルキル基等が挙げられる。置換基は、1個又は2個以上であってもよいが、1個が好ましい。
【0084】
上記したセンターユニットにおいて、水素原子の全部は水素原子であってよいが、水素原子の一部又は全部が重水素(デューテリウムD)で置換されていてもよい。
【0085】
本発明の分子において、センターユニットの具体例を以下に示す。
【0086】
【化10】
【0087】
【化11】
【0088】
以下、2置換体の芳香族アミンにおけるセンターユニットの具体例を示す。
【化12】
【0089】
【化13】
【0090】
以下、3置換体の芳香族アミンにおけるセンターユニットの具体例を示す。
【化14】
【0091】
以下、4置換体の芳香族アミンにおけるセンターユニットの具体例を示す。
【化15】
【0092】
上記したセンターユニットの化学式において、Rは、任意の一価の基を表し、例えば、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜8のアルキル基である。1つの基に2個以上のRが含まれる場合は、Rは全て同一であってよく、一部又は全部が異なってもよい。
また、上記したセンターユニットの化学式において、水素原子の全部は水素原子であってよいが、水素原子の一部又は全部が重水素(デューテリウムD)で置換されていてもよい。
【0093】
本発明の分子としては、具体的には、上記したアンテナユニットの中から選択される少なくとも1種と、上記したセンターユニットの中から選択される少なくとも1種とが窒素原子に直接結合する芳香族アミンであることが好ましい。中でも、2個のアンテナユニットと1個のセンターユニットが窒素原子に直接結合する芳香族アミンが好ましい。
アンテナユニットとしては、フルオレン環、カルバゾール環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、シラフルオレン環、又はこれらの誘導体を有し、これらの環上の2位の炭素原子が窒素原子に直接結合する基を好ましく用いることができる。
センターユニットとしては、ベンゼン環のみからなる縮合芳香環が好ましく、2環又は3環の縮合芳香環がより好ましく、より具体的には1−ナフチル基、3−フェナントレン基が好ましい。
【0094】
好ましくは、本発明の分子は、以下の一般式(III)で表される。
【化16】
【0095】
より好ましくは、本発明の分子は、以下の一般式(IV)で表される。
【化17】
【0096】
さらに好ましくは、本発明の分子は、以下の一般式(V)で表される。
【化18】
【0097】
一般式(III)〜(V)において、X、R、R、Lは、上記一般式(I)及び一般式(II)と共通する部位であり、上記で説明した通りである。X’、R1’、R2’、L’もまた、上記一般式(I)及び一般式(II)と共通する部位であり、上記で説明した通りである。
centreは、センターユニットを表す基であり、上記したセンターユニットから選択することができる。Rcentreの好ましい一例は、1−ナフチル基、又は3−フェナントレン基である。
一般式(III)及び(V)において、X、R、R、LとX’、R1’、R2’、L’は、互いに同一であっても異なってもよい。一般式(IV)において、Rは、水素原子又は任意の一価の基であり、任意の一価の基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜8のアルキル基が好ましい。一般式(IV)において、Rは、全て同一でもよく、一部又は全てが異なってもよい。
上記した一般式(III)〜(V)において、水素原子の全部は水素原子であってよいが、水素原子の一部又は全部が重水素(デューテリウムD)で置換されていてもよい。
【0098】
本発明の分子としては、より具体的には、下記構造式(VI)から構造式(X)で表される化合物を挙げることができる。これらの化合物において、水素原子の全部は水素原子であってよいが、水素原子の一部又は全部が重水素(デューテリウムD)で置換されていてもよい。
【0099】
【化19A】

【化19B】
【0100】
本発明の分子の合成方法は特に制限されない。本発明の分子の合成は、既知の合成法や条件を適宜組み合わせることにより行うことができる。
例えば、アンテナユニットを有する化合物と、センターユニットを有する化合物とを反応させて合成することができる。より詳しくは、アンテナユニットのハロゲン化物と、センターユニットを有するアミン化合物とを反応させて合成することができる。センターユニットを有するアミン化合物は、1個のセンターユニットを有する第1級アミンであってもよいし、2個のセンターユニットを有する第2級アミンであってもよい。
例えば、本発明の分子として、上記した一般式(I)においてn=1の場合の分子は、下記化学式によって合成することが可能である。
【0101】
【化20】
【0102】
上記式において、R11は、センターユニットを表し、R12は、アンテナユニット、センターユニット、水素原子、又は任意の一価の基を表し、R13は、アンテナユニットを表す。R11、R12、及びR13は、上記した一般式(I)においてn=1の場合に対応する基であり、詳細については上記で説明した通りである。
Zは、フッ素原子以外のハロゲン原子を表し、Cl、Br、又はIが好ましい。
【0103】
反応に際しては、触媒等の添加剤を用いてもよい。また、反応は、これに限定されないが、80〜180℃で、1〜74時間かけて行うことができる。任意的に、得られた化合物を重水によって処理して重水素化することができる。
【0104】
「畜光材料」
本発明による蓄光材料は、上記した発光材料を含むことが好ましい。発光材料は、蓄光材料全量に対し、0.001質量%から30質量%であることが好ましい。この蓄光材料は、固体蓄光材料が好ましく、例えば、固体媒体に発光材料が分散して配合された固体蓄光材料が好ましい。蓄光材料には、発光材料が単独で、又は2種以上を組み合わされて含まれてもよい。
【0105】
蓄光材料は、発光材料とホスト材料とを含むことができる。蓄光材料は、発光材料と、残部としてホスト材料を含むことが好ましい。なお、蓄光材料には、発光材料及びホスト材料に加えて、その他の添加剤が含まれてもよい。
【0106】
本発明の蓄光材料が高い蓄光効率を発現するためには、発光材料に生成した三重項励起子を、発光材料中に閉じ込めることが重要である。従って、蓄光材料中に発光材料に加えてホスト材料を用いることが好ましい。ホスト材料としては、Tエネルギーが本発明の発光材料のTエネルギーよりも高い値を有する有機化合物を用いることができる。その結果、本発明の発光材料に生成した三重項励起子を、本発明の発光材料の分子中に閉じ込めることが可能となり、その発光材料の蓄光効率を十分に引き出すことが可能となる。もっとも、ホスト材料のTエネルギーが本発明の発光材料と同等であっても、ホスト材料三重項励起子拡散能の小さい場合も、本発明の発光材料に生成した三重項励起子を、本発明の発光材料の分子中に閉じ込めることが可能となり、特に制約なく本発明に用いることができる。
【0107】
ホスト材料を用いる場合、発光材料は、蓄光材料全量に対し0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上がさらに好ましく、また、30質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、3質量%以下がさらに好ましい。
蓄光材料におけるホスト材料としては、正孔輸送能、電子輸送能を有し、かつ発光の長波長化を防ぎ、なおかつ高いガラス転移温度を有する有機化合物であることが好ましい。
【0108】
ホスト材料として用いることができる化合物の具体例を以下に挙げる。これらの中から、大気中からの酸素が入り込みにくく、k(RT)が小さくなり蓄光機能をより十分に得ることができることから、(H1)又は(H5)の化合物が好ましい。
【0109】
【化21】
【0110】
本発明の蓄光材料は、各種の用途に用いることができる。例えば、夜間又は暗所の表示灯、偽造防止等のセキュリティ媒体、バイオイメージング等が挙げられる。
本発明の表示媒体は、上記した本発明の蓄光材料を含む層を有する。本発明の蓄光材料を含む層が形成された表示媒体は、励起光を照射することで発光し、励起光を照射後も室温で高輝度に発光を続ける。そのため、偽造防止等のセキュリティ用途に好ましく用いることができる。また、壁紙等の建材を加飾する用途にも用いることができる。
【0111】
本発明の粒子は、上記した本発明の蓄光材料を含み、平均粒子径が10μm以下であることが好ましい。粒子状の蓄光材料は、上記した通り、発光材料及びホスト材料を含む固体蓄光材料であることが好ましい。この粒子状の蓄光材料は、粉末として提供されてもよいし、水性媒体又は油性媒体中に分散させて組成物として提供されてもよい。粒子状の蓄光材料の用途としては、インク等が挙げられる。
本発明の蓄光材料を用いたインクは、蓄光材料を媒体に分散させた組成物であることが好ましい。このインクを用いて、基材に加飾を施すことで、蓄光を呈する画像を形成することができる。さらに、本発明の粒子状の蓄光材料は、バイオイメージングの用途に好ましく用いることができる。
【0112】
「新規化合物」
本発明は、下記一般式(III)で表される新規化合物を提供することができる。
【化22】
【0113】
一般式(I)において、Xは、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、又はケイ素原子である。Xが炭素原子、窒素原子、ケイ素原子の場合、それぞれの原子に結合する水素原子は、置換もしくは無置換であってよい。置換基を有する場合は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜8のアルキル基等が挙げられる。
及びRは、それぞれ独立的に水素原子又は一価の基であってよい。好ましくは、R及びRがともに水素原子であるか、又はRが一価の基を有し、Rが水素原子である。R及びRにおいて、一価の基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルキルオキシキ基、炭素数1〜8のアルキルアミノ基、ジフェニルアミノ基等の炭素数6〜40のアリールアミノ基等が挙げられる。
とRは芳香環又は複素環を形成してもよい。この場合、RとRとは、インデン環構造、インドール環構造、ベンゾフラン環構造、ベンゾチオフェン環構造、ベンゾシロール環構造等の環を形成することが好ましい。これらの環は、置換又は無置換であってよく、置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルキルオキシキ基、炭素数1〜8のアルキルアミノ基、ジフェニルアミノ基等の炭素数6〜40のアリールアミノ基等が挙げられる。
Lは、単結合又は二価の基である。二価の基としては、炭化水素基が好ましく、炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数6〜40のシクロアルキレン基、炭素数6〜40のアリーレン基、炭素数6〜40のヘテロアリーレン基等であってよい。Lは、好ましくは、単結合、炭素数6〜40のアリーレン基、炭素数6〜40のヘテロアリーレン基である。アリーレン基としては、フェニレン基等が挙げられる。ヘテロアリーレン基としては、フルオレン−2,7−ジイル基、カルバゾール−2,7−ジイル基、ジベンゾフラン−2,7−ジイル基、ジベンゾチオフェン−2,7−ジイル基、シラフルオレン−2,7−ジイル基等が挙げられる。これらのアリール基及びヘテロアリーレン基は、それぞれ置換又は無置換であってよい。
X’、R1’、R2’、L’は、それぞれ上記したX、R、R、Lと同様であり、X、R、R、LとX’、R1’、R2’、L’は、互いに同一であっても異なってもよい。
centreは、センターユニットを表す基であり、置換もしくは無置換のp−テルフェニル基、置換もしくは無置換のp−クアテルフェニル基、炭素数12〜80の縮合ベンゼン環を有する基、又は炭素数12〜80の縮合複素環を有する基である。Rcentreは、好ましくは、炭素数12〜80の縮合ベンゼン環を有する基であり、より好ましくは、炭素数12〜4−の縮合ベンゼン環を有する基であり、さらに好ましくは、1−ナフチル基、又は3−フェナントレン基である。
上記した一般式(III)において、水素原子の全部は水素原子であってよいが、水素原子の一部又は全部が重水素(デューテリウムD)で置換されていてもよい。
【0114】
より好ましくは、本発明の新規化合物は、以下の一般式(IV)で表される。
【化23】
【0115】
一般式(IV)において、R、R、R1’、R2’、及びRcentreは、それぞれ上記一般式(III)と共通する基であり、上記した通りである。Rは、水素原子又は任意の一価の基であり、任意の一価の基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜8のアルキル基が好ましい。一般式(IV)において、Rは、全て同一でもよく、一部又は全てが異なってもよい。Rは、重水素(デューテリウムD)又は重水素で置換された基であってもよい。
【0116】
さらに好ましくは、本発明の新規化合物は、以下の一般式(V)で表される。
【化24】
【0117】
一般式(V)において、Rcentreは、上記一般式(III)と共通する基であり、上記した通りである。
【0118】
本発明の新規化合物としては、より具体的には、下記構造式(VI)から構造式(X)で表される化合物を挙げることができる。これらの化合物において、水素原子の全部は水素原子であってよいが、水素原子の一部又は全部が重水素(デューテリウムD)で置換されていてもよい。
【0119】
【化24A】

【化24B】
【0120】
本発明の新規化合物は、室温での残光の輝度が高い発光材料及びこれを用いた蓄光材料に好ましく用いることができる。
本発明の新規化合物は、以下の特性を備えることが好ましい。
本発明の新規化合物は、最低励起三重項状態Tの最適化構造において高次一重項励起状態Sと基底状態Sの間の遷移双極子モーメント(μSn−S0)、SとTの間のスピン軌道相互作用(SOCSn−T1)、及びSとTとのエネルギー差(ESn−T1)の関係において、P=μSn−S0SOCSn−T1/ESn−T1と定義するとき、(Σが4.00×10−7以上であることが好ましい。この定義において、本発明の新規化合物は、TとSのスピン軌道相互作用(SOCT1−S0)の2乗が1×10cm−2以下であることが好ましい。
【0121】
本発明の新規化合物は、基底状態Sの最適化構造と最低一重項励起状態Sの最適化構造のいずれかにおいて、SとSの間の振動子強度(fS1−S0)が0.2以下であることが好ましい。
本発明の新規化合物は、SとTのエネルギー差(ES1−T1)が0.2eV以上であることが好ましい。
【0122】
「その他の実施形態」
本発明の発光材料は、上記した通り、(Σが4.00×10−7以上であり、TとSのスピン軌道相互作用(SOCT1−S0)の2乗が1×10cm−2以下であり、基底状態Sの最適化構造と最低一重項励起状態Sの最適化構造のいずれかにおいて、SとSの間の振動子強度(fS1−S0)が0.2以下であることが好ましい。
さらに、本発明の発光材料は、上記した分子構造を備えることが好ましい。
【0123】
本発明の発光材料は、TとSのスピン軌道相互作用(SOCT1−S0)の2乗が1×10cm−2以下であることで、knr(RT)が小さくなり、蓄光効率を改善することができる。このSOCT1−S0の2乗は、上記した分子構造において、水素原子を重水素に置換することによってより小さくすることができる。なお、本発明の発光材料は、上記した分子構造において、重水素によって置換されていない化合物であっても、SOCT1−S0の2乗は十分に小さい。
【0124】
本発明の発光材料であって、重水素によって置換されている化合物の具体例としては、上記した構造式(VI)〜(X)において、水素原子の一部又は全部が重水素に置換されたものが挙げられる。重水素は、アンテナユニット及びセンターユニットのうち少なくとも一方に含まれればよく、アンテナユニット及びセンターユニットの両方に重水素が含まれてもよい。例えば、アンテナユニット及びセンターユニットの水素原子が全て重水素に置換されていてもよく、アンテナユニットの水素原子が全て重水素に置換されセンターユニットは重水素を含まなくもよく、センターユニットの水素原子が全て重水素に置換されアンテナユニットは重水素を含まなくてもよい。
【0125】
本発明の他の側面において、発光材料は、密度汎関数法において汎関数B3LYPと基底関数6−31G(d)を用いて最低励起三重項状態Tの分子構造を最適化し、その最適化構造を用いて密度汎関数法において汎関数PBE0と基底関数TZPを用いて式(11)を計算した際の化合物(12)の値に対して100倍以下であることが好ましい。
【数7】

【化25A】
【0126】
式(11)において、QはTの最適化された構造におけるp番目の振動モードにおける分子の配置、P(T)はバイブレーション因子、FCはTとSの間のフランクコンドン因子であり、HSOは、スピン軌道相互作用に対応するハミルトニアンである。より詳細には、式(11)は、非特許文献IV:S. Hirata, I. Bhattacharjee, J. Phys. Chem. A 2021, 125, 885-894.の通り定義される。
【0127】
上記式(11)を用いることで、重水素化されていない分子構造において、SOCT1−S0の2乗が1×10cm−2以下によることによるknr(RT)の推定と比較して、より精度よくknr(RT)の値を推定することが可能となり、蓄光効率が高い分子構造を特定することができる。すなわち、式(11)を計算した際の値が化合物(12)の値に対して100倍以下である発光材料は、より高い蓄光効率を示す。より好ましくは、式(11)を計算した際の値が化合物(12)の値に対して50倍以下、20倍以下、10倍以下、5倍以下、又は3倍以下がより好ましい。
【0128】
このような化合物としては、上記した分子構造の中から、下記に示すセンターユニットの構造を備えるものである化合物を挙げることができる。芳香族アミンにおいて、下記のセンターユニットと組み合わせられるアンテナユニットは特に限定されず、上記したアンテナユニットの構造のいずれであってもよい。
【化25B】
【0129】
より好ましいセンターユニットの構造を以下に示す。
【化25C】
【0130】
式(11)を計算した際の値が化合物(12)の値に対して100倍以下である化合物としては、より具体的には、下記化合物を挙げることができる。より好ましいは、下記構造(VIII)又は(IX)で表される化合物である。
【0131】
【化25D】
【0132】
さらに本発明の他の側面において、発光材料は、上記式(11)を計算した際の値が化合物(12)の値に対して100倍以下である化合物において、水素原子の一部又は全部が重水素(デューテリウムD)で置換されている化合物からなることが好ましい。
上記した通り、重水素で非置換の場合において、上記式(11)を計算した際の値が化合物(12)の値に対して100倍以下である化合物は、蓄光効率を改善することができるが、さらにこの化合物が重水素化されていることで、より蓄光効率を改善することができる。
【実施例】
【0133】
以下、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
「製造例A」
(実施例1)
下記構造1で示される色素1を以下の方法で合成した。
【0134】
【化26】
【0135】
1−ブロモナフタレン(200mg),ジ(9H−フルオレン−2−イル)アミン(333mg),トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(8.8mg)、ナトリウムt−ブトキシド(92mg)、トリ−t−ブチルホスフィン(3.88mg)、脱水トルエン(3ml)を窒素雰囲気下で110℃で一昼夜攪拌して反応させた。反応溶液エチルアセテートと飽和水酸化ナトリウム水溶液を用いて抽出処理した後、有機層を取り出し、硫酸ナトリウムを用いて脱水後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル:エチルアセテート/ヘキサン;3/97vol)を用いて精製し、黄色い粉末を得た(328mg,0.70mmol,72%)。
1H NMR (DMSO-D6, 500 MHz): δ 8.03 (d, 1 H, J = 10 Hz), 7.96 (d, 1 H, J = 10 Hz), 7.92 (d, 1 H, J = 10 Hz), 7.76-7.73 (m, 4 H), 7.59 (t, 1 H, J = 10 Hz), 7.53-7.48 (m, 3 H), 7.42 (t, 3 H, J = 10 Hz), 7.32 (t, 2 H, J = 10 Hz), 7.22 (t, 2 H, J = 10 Hz), 7.14 (s, 2 H), 7.03 (d, 1 H, J = 10 Hz), 3.78 (s, 4 H) ppm; 13C NMR (CDCl3, 125 MHz): δ 148.20, 144.76, 143.11, 141.76, 135.94, 135.48, 131.32, 128.54, 127.20, 126.87, 126.54, 126.51, 126.37, 126.30, 125.88, 124.99, 124.58, 121.38, 120.48, 119.31, 119.06, 37.06 ppm; HRMS (m/z): [M]+ calcd. for C35H25N, 471.1987; found, 471.19884; analysis (calcd., found for C35H25N): C (91.69, 91.82), H (5.34, 5.26), N (2.97, 2.58).
この黄色粉末を150mg、10%パラジウム炭素を150mg、重水30mlを50mlのテフロン(登録商標)容器入りのオートクレーブに入れ、250℃で4〜5MPaの条件で12時間反応させた。反応溶液を室温まで冷却した後、酢酸エチルと水を用いて抽出し、硫酸ナトリウムを用いて有機層を乾燥後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル:エチルアセテート/ヘキサン;3/97vol)を用いて精製し、色素1の粉末を得た(120mg)。1H NMRを用いて重水素化率を確認したところ95.7%であった。
【0136】
下記構造2で示されるβ−estradiol(東京化成工業社製)を99.7wt%、色素1を3wt%をガラス瓶に計り取り、220℃に加熱することでβ−estradiol中に色素1を溶解させた。その液体をホットプレート上で220℃に加熱された2枚の石英基板で挟んだ。その後室温まで急冷することで、2枚の石英基板間に材料が約10μmの厚さで挟まれた試料1を作製した。試料1の360nmの約0.04mW/cmのパワーにおける励起光照射停止後の0.02秒から1秒の間に観測される室温での残光の量子収率(ΦDE t=0.02−1(RT))を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ20.3%であった。次に、360nmの定常光レーザー(UV-FN-360,100mW,CNI,China)を励起光に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を光検出器として、360nmの励起光強度を変化させて、試料1からの励起光照射停止後0.02秒から1秒の間に観測される室温での蓄光強度の変化を計測した。
【0137】
【化27】
【0138】
(比較例1)
Eu2+とDy3+がドープされたSrAl(根本特殊化学社製、G300−FF)の粉末を試料2として、360nmの励起光を用いての室温大気中でのΦDE t=0.02−1(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ0.8%であった。次に、360nmの定常光レーザー(UV-FN-360,100mW,CNI,China)を励起光に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を光検出器として、360nmの励起光強度を変化させて、試料2からの励起光照射停止後0.02秒から1秒の間に観測される室温での蓄光強度の変化を計測した。
【0139】
(比較例2)
下記構造3で示される2,8−bis(diphenylphosphoryl)dibenzo[b,d]thiophene(PPT)(ルミネッセンステクノロジー社製)を99wt%、下記構造4で示される色素2(東京化成工業社製)を1wt%をガラス瓶に計り取り、窒素雰囲気下で250℃に加熱することでPPT中に色素2を溶解させた。その液体をホットプレート上で250℃に加熱された2枚の石英基板で挟んだ。窒素雰囲気下でエポキシ樹脂を用いてその2枚の石英基板の再度を封止し、その後室温まで急冷することで、2枚の石英基板間に材料が約10μmの厚さで挟まれた試料3を作製した。
試料3の360nmの励起光を用いての室温大気中でのΦDE t=0.02−1(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ0.5%であった。次に、360nmの定常光レーザー(UV-FN-360,100mW,CNI,China)を励起光に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を光検出器として、360nmの励起光強度を変化させて、試料3からの励起光照射停止後0.02秒から1秒の間に観測される室温での蓄光強度の変化を計測した。
【0140】
【化28】
【0141】
【化29】
【0142】
(比較例3)
下記構造5で示される色素3を以下の方法で合成した。
【0143】
【化30】
【0144】
1−ブロモナフタレン(200mg)、ジフェニルアミン(164mg)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(8.8mg)、ナトリウムt−ブトキシド(92mg)、トリ−t−ブチルホスフィン(3.88mg)、脱水トルエン(3ml)を窒素雰囲気下で110℃で一昼夜攪拌して反応させた。反応溶液エチルアセテートと飽和水酸化ナトリウム水溶液を用いて抽出処理した後、有機層を取り出し、硫酸ナトリウムを用いて脱水後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル:エチルアセテート/ヘキサン;2/98vol)を用いて精製し、白色粉末を得た(218mg,0.74mmol,76%)。
1H NMR (DMSO-D6, 500 MHz): δ 8.01 (d, 1H, J = 10 Hz), 7.90 (d, 1H, J = 10 Hz), 7.85 (d, 1H, J = 10 Hz), 7.57 (d, 1H, J = 10 Hz), 7.51 (t, 1H, J = 10 Hz), 7.42 (t, 1H, J = 10 Hz), 7.35 (d, 1H, J = 10 Hz), 7.24-7.21 (m, 4H), 6.95-6.91 (m, 6H) ppm; 13C NMR (DMSO-D6, 125 MHz): δ 147.82, 142.73, 134.95, 130.65, 129.34, 129.18, 128.58, 127.28, 126.68, 126.31, 123.47, 121.72, 121.24, 121.11 ppm; HRMS (m/z): [M]+ calcd. for C22H17N, 295.1361; found, 295.13939; analysis (calcd., found for C22H17N): C (89.46, 89.44), H (5.80, 5.80), N (4.74, 4.76).
【0145】
β−estradiolを99.7wt%、色素3を0.3wt%をガラス瓶に計り取り、220℃に加熱することでβ−estradiol中に色素3を溶解させた。その液体をホットプレート上で220℃に加熱された2枚の石英基板で挟んだ。その後室温まで急冷することで、2枚の石英基板間に材料が約10μmの厚さで挟まれた試料4を作製した。試料4の360nmの励起光を用いての室温大気中でのΦDE t=0.02−1(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ1.8%であった。
【0146】
以上実施例1および比較例1から3の光物理因子を表1にまとめる。
【0147】
実施例1の室温りん光を用いた蓄光体では比較例1から3の既存の蓄光体と比較して、励起光照射停止後1秒までの発光収率(ΦDE t=0.02−1s)が数10倍大きい。そのため、試料が同じ光吸収を示す場合、実施例1の試料は比較例1から3の試料に対して数10倍の輝度を示すことがわかる。
【0148】
【表1】
【0149】
図5に、実施例1、比較例1、2における360nmの励起光強度に対する励起光照射停止後0.02秒から1.0秒までの蓄光強度の平均の関係を表すグラフを示す。
図5に示すように、実施例1では比較例1、2と比較して、同じ吸光度を有する場合に、励起光強度の増加とともに輝度が大きく向上する。比較例1,2などの蓄光材料では、0.1mW/cm以上の励起光強度では輝度の向上が飽和していきほとんど輝度の増加を示さない。100mW/cm程度の励起光強度を用いた場合、実施例1の蓄光輝度は、比較例1、2の1000倍以上の輝度を示す。以上から既存の蓄光材料は暗闇でしかその蓄光を視認できない一方で、本発明に係る高効率の室温りん光型の蓄光材料では、明るい環境下での視認可能な蓄光の輝度が実現されることが理解されよう。
【0150】
「製造例B」
(実施例2)
β−estradiolを99.7wt%、色素1を0.3wt%をガラス瓶に計り取り、220℃に加熱することでβ−estradiol中に色素1を溶解させた。その液体をホットプレート上で220℃に加熱された2枚の石英基板で挟んだ。その後室温まで急冷することで、2枚の石英基板間に材料が約10μmの厚さで挟まれた試料5を作製した。試料5の360nmの励起光照射中のΦPL(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ75%であった。同じ装置を用いて、360nmの励起光下でのΦ(RT)を大気中で計測したところ50%であった。これらデータからΦ(RT)をΦ(RT)=ΦPL(RT)−Φ(RT)を用いて25%と決定した。次に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を用いて試料5の360nmの励起光下でτ(RT)を計測したところ1.0秒であった。試料5に対して、絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて、360nmの励起光照射中の発光スペクトルおよび励起光照射停止直後のりん光スペクトルを測定したところ図6の上段の通りとなり、りん光スペクトルのピーク波長(λ)は550nmであった。さらに励起光照射中の発光スペクトルの短波長側のスペクトルの立ち上がりのエネルギー(図6の下段の点線)と室温りん光スペクトルの立ち上がりのエネルギー(図6の上段の点線)の差から、ES1−T1は0.63eVと決定された。
【0151】
次に非特許文献(I)に記載の方法により、ベンゼン中での色素1のSから三重項状態への室温での項間交差収率(ΦISC(RT))を計測したところ、89%であり、ほぼ100−Φ%の値とおおよそ同等であった。決定したΦ(RT)、ΦISC(RT)、τ(RT)を以下の式(I)に代入しりん光速度定数(k)を算出したところ0.63s−1であった。
Φ(RT)=ΦISC(RT)τ(RT)k (I)
τ(RT)=k/(k+kNR(RT)+k(RT)) (II)
【0152】
ここでkNR(RT)は色素のTからの分子内振動に由来する失活の速度定数であり、k(RT)は色素のTからの分子間エネルギー移動による失活の速度定数である。
次に、試料5のτを77Kから400Kまで測定したところ図7の通りとなった。次に図7のデータとkを用いてkNR+kの温度依存性をプロットしたところ図8の通りとなった。図8のグラフを2つの指数関数でフィッティングし、高温度域の指数関数フィッティングをkに由来すると考え、低温域の指数関数フィッティング直線をkNRに由来するものとして、kNR(RT)とk(RT)を分離したところ、それぞれ0.24s−1と0.085s−1であった。次に小型蛍光寿命装置(浜松ホトニクス、Quantaurus−Tau)を用いて試料5の室温での蛍光寿命(τ(RT))を計測したところ2.4nsであった。蛍光速度定数(k)をk=Φ(RT)/τ(RT)により決定したところ1.0×10−1であった。
【0153】
非特許文献(I):R. Huang, J. Avo, T. Northey, E. Chaning-Pearce, P. L. dos Santos, J. S. Ward, P. Data, M. K. Etherington, M. A. Fox, T. J. Penfold, M. N. Berberan-Santos, J. C. Lima, M. R. Bryce, F. B. Dias, J. Mater. Chem. C 2017, 5, 6269.
【0154】
Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、密度汎関数法(DFT)により色素1の最低一重項励起状態(S)での最適化構造を決定した。その後この最適化構造を用いて、アムステルダムDFT(ADF2018パッケージ)を用いて、PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いて、fS1−S0を計算したところ0.017であった。次に、Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素1のTの最適化構造を計算した。次にこの最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いてHybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いてkを計算したところ0.59s−1であった。またその最適化構造を用いて(ΣとSOCT1−S0を計算したところ、それぞれ1.12×10−6と6.29×10−1cm−2であった。
【0155】
また以下の構造6に示す色素1のアンテナユニットと以下構造7に示す色素1のセンターユニットの骨格に関して、Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いてSの最適化構造を計算し、同様の汎関数と基底関数を用いてTエネルギーを計算した。その結果アンテナユニットおよびセンターユニットのTエネルギーはそれぞれ2.90eVおよび2.62eVとなり、センターユニットのTエネルギーはアンテナユニットのそれよりも小さいことが確認された。
【0156】
【化31】
【0157】
【化32】
【0158】
(実施例3)
下記構造8で示される色素4を以下の方法で合成した。
【0159】
【化33】
【0160】
3−ブロモフェナントレン(200mg),ジ(9H−フルオレン−2−イル)アミン(268mg)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(7.14mg)、ナトリウムt−ブトキシド(75mg)、トリ−t−ブチルホスフィン(3.15mg)、脱水トルエン(3ml)を窒素雰囲気下で110℃で一昼夜攪拌して反応させた。反応溶液エチルアセテートと飽和水酸化ナトリウム水溶液を用いて抽出処理した後、有機層を取り出し、硫酸ナトリウムを用いて脱水後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル:エチルアセテート/ヘキサン;5/95vol)を用いて精製し、黄色い粉末を得た(323mg,0.62mmol,80%)。
1H NMR (DMSO-D6, 500 MHz): δ 8.39-8.29 (m, 2 H), 7.99-7.70 (m, 8 H), 7.63-7.4
9 (m, 4 H), 7.45-7.32 (m, 5 H), 7.30-7.17 (m, 4 H), 3.88 (s, 4 H) ppm; 13C NMR (DMSO-D6, 125 MHz): δ 147.38, 144.71, 142.63, 140.18, 135.21, 132.82, 131.19, 129.06, 128.67, 128.13, 127.69, 127.22, 127.11, 126.75, 126.32, 125.78, 124.79, 124.43, 124.34, 123.64, 122.91, 121.65, 120.71, 120.03, 119.58, 118.59, 36.47 ppm; HRMS (m/z): [M]+ calcd. for C40H27N, 521.2143; found 521.21202; analysis (calcd., found for C40H27N): C (92.10, 92.13), H (5.22, 5.28), N (2.69, 2.59).
この黄色粉末を150mg、10%パラジウム炭素を100mg、重水30mlを50mlのテフロン(登録商標)容器入りのオートクレーブに入れ、250℃で4〜5MPaの条件で12時間反応させた。反応溶液を室温まで冷却した後、酢酸エチルと水を用いて抽出し、硫酸ナトリウムを用いて有機層を乾燥後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル:エチルアセテート/ヘキサン;3/97vol)を用いて精製し、色素4の粉末を得た(75mg)。1H NMRを用いて重水素化率を確認したところ87.3%であった。
【0161】
β−estradiolを99.7wt%、色素4を0.3wt%をガラス瓶に計り取り、220℃に加熱することでβ−estradiol中に色素4を溶解させた。その液体をホットプレート上で220℃に加熱された2枚の石英基板で挟んだ。その後室温まで急冷することで、2枚の石英基板間に材料が約10μmの厚さで挟まれた試料6を作製した。試料6の360nmの励起光照射中のΦPL(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ68%であった。同じ装置を用いて、360nmの励起光下でのΦ(RT)を大気中で計測したところ46%であった。これらデータからΦ(RT)をΦ(RT)=ΦPL(RT)−Φ(RT)を用いて22%と決定した。次に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を用いて試料6の360nmの励起光下でτ(RT)を計測したところ1.4秒であった。
【0162】
試料6に対して、絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて、360nmの励起光照射中の発光スペクトルおよび励起光照射停止直後のりん光スペクトルを測定したところλは510nmであった。さらに実施例2と同様の手法を用いて、励起光照射中の発光スペクトルの短波長側のスペクトルの立ち上がりのエネルギーと室温りん光スペクトルの立ち上がりのエネルギーの差からES1−T1は0.58eVと決定された。
【0163】
次に非特許文献(I)に記載の方法により、ベンゼン中での色素4のΦISC(RT)を計測したところ、68%であり、ほぼ100−Φ%の値と同等であった。決定したΦ(RT)、ΦISC(RT)、τ(RT)を上記式(I)に代入してkを算出したところ0.44s−1であった。次に、試料6のτを77Kから400Kまで測定し、kを用いてkNR+kの温度依存性のグラフを作製した。そのグラフを2つの指数関数の和でフィッティングを行い、高温度域の指数関数フィッティングをkに由来すると考え、低温域の指数関数フィッティング直線をkNRに由来するものとして、室温のkNR(RT)とk(RT)を分離したところ、それぞれ0.20s−1と0.062s−1であった。次に小型蛍光寿命装置(浜松ホトニクス、Quantaurus−Tau)を用いて試料6のτ(RT)は3.1nsと計測された。kをk=Φ(RT)/τ(RT)により決定したところ7.1×10−1であった。
【0164】
Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素4のSでの最適化構造を決定した。その後この最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いて、Hybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いて、fS1−S0を計算したところ0.056であった。次に、Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素4のTの最適化構造を計算した。次にこの最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いてHybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いてkを計算したところ0.53s−1であった。またその最適化構造を用いて(ΣとSOCT1−S0を計算したところ、それぞれ1.00×10−6と2.83×10−1cm−2であった。
【0165】
また構造6に示す色素4のアンテナユニットと以下構造9に示す色素4のセンターユニットの骨格に関して、Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いてSの最適化構造を計算し、同様の汎関数と基底関数を用いてTエネルギーを計算した。その結果アンテナユニットおよびセンターユニットのTエネルギーはそれぞれ2.90eVおよび2.63eVとなり、センターユニットのTエネルギーはアンテナユニットのそれよりも小さいことが確認された。
【0166】
【化34】
【0167】
(比較例4)
β−estradiolを99.7wt%、下記構造10で示される色素5(東京化成工業社製)を0.3wt%をガラス瓶に計り取り、220℃に加熱することでβ−estradiol中に色素5を溶解させた。その液体をホットプレート上で220℃に加熱された2枚の石英基板で挟んだ。その後室温まで急冷することで、2枚の石英基板間に材料が約10μmの厚さで挟まれた試料7を作製した。試料7の360nmの励起光照射中のΦPLを絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ89%であった。同じ装置を用いて、360nmの励起光下でのΦを大気中で計測したところ3.7%であった。これらデータからΦ(RT)をΦ(RT)=ΦPL(RT)−Φ(RT)を用いて85%と決定した。またこの測定の中で励起光照射中の発光スペクトルおよび励起光照射停止直後のりん光スペクトルを測定したところλは526nmであった。さらに実施例2と同様の手法を用いて、励起光照射中の発光スペクトルの短波長側のスペクトルの立ち上がりのエネルギーと室温りん光スペクトルの立ち上がりのエネルギーの差から、ES1−T1は0.59eVと決定された。次に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を用いて試料7の360nmの励起光下でτを計測したところ0.77秒であった。
【0168】
【化35】
【0169】
次に非特許文献(I)に記載の方法により、ベンゼン中での色素5のΦISC(RT)を計測したところ、26%であり、ほぼ100−Φ%の値と同等であった。決定したΦ(RT)、ΦISC(RT)、τ(RT)を上記式(I)に代入してkを算出したところ0.33s−1であった。次に、試料7のτを77Kから400Kまで測定しkを用いてkNR+kの温度依存性のグラフを作製した。そのグラフを2つの指数関数の和でフィッティングを行い、高温度域の指数関数フィッティングをkに由来すると考え、低温域の指数関数フィッティング直線をkNRに由来するものとして、kNR(RT)とk(RT)を分離したところ、それぞれ0.92s−1と0.23s−1であった。次に小型蛍光寿命装置(浜松ホトニクス、Quantaurus−Tau)を用いて試料7のτ(RT)は1.1nsと計測されたkをk=Φ(RT)/τ(RT)により決定したところ77×10−1であった。
【0170】
Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素5のSでの最適化構造を決定した。その後この最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いて、Hybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いて、fS1−S0を計算したところ1.149であった。次に、Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素5のTの最適化構造を計算した。次にこの最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いてHybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いてkを計算したところ0.37s−1であった。またその最適化構造を用いて(ΣとSOCT1−S0を計算したところ、それぞれ8.14×10−7と5.86×10−1cm−2であった。
【0171】
(比較例5)
β−estradiolを99.7wt%、下記構造11で示される色素6(アルドリッチ社製)を0.3wt%をガラス瓶に計り取り、220℃に加熱することでβ−estradiol中に色素6を溶解させた。その液体をホットプレート上で220℃に加熱された2枚の石英基板で挟んだ。その後室温まで急冷することで、2枚の石英基板間に材料が約10μmの厚さで挟まれた試料8を作製した。試料8の360nmの励起光照射中のΦPL(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ17%であった。同じ装置を用いて、360nmの励起光下でのΦを大気中で計測したところ0.91%であった。これらデータからΦ(RT)をΦ(RT)=ΦPL(RT)−Φ(RT)を用いて16%と決定した。またこの測定の中で励起光照射中の発光スペクトルおよび励起光照射停止直後のりん光スペクトルを測定したところλは548nmであった。さらに実施例1と同様の手法を用いて、励起光照射中の発光スペクトルの短波長側のスペクトルの立ち上がりのエネルギーと室温りん光スペクトルの立ち上がりのエネルギーの差から、ES1−T1は0.85eVと決定された。次に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を用いて試料8の360nmの励起光下でτ(RT)を計測したところ1.4秒であった。
【0172】
【化36】
【0173】
次に非特許文献(I)に記載の方法により、ベンゼン中での色素6のΦISC(RT)を計測したところ、84%であり、ほぼ100−Φ(RT)%の値と同等であった。決定したΦ(RT)、ΦISC(RT)、τ(RT)を上記式(I)に代入してkを算出したところ8.0×10−3−1であった。次に、試料8のτを77Kから400Kまで測定し、kを用いてkNR+kの温度依存性のグラフを作製した。このグラフを2つの指数関数の和でフィッティングし、高温度域の指数関数フィッティングをkに由来すると考え、低温域の指数関数フィッティング直線をkNRに由来するものとして、kNR(RT)とk(RT)を分離したところ、それぞれ0.57s−1と0.136s−1であった。
【0174】
Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素6のSでの最適化構造を決定した。その後この最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いて、Hybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いて、fS1−S0を計算したところ0.166であった。次に、Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素6のTの最適化構造を計算した。次にこの最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いてHybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いてkを計算したところ3.5×10−3−1であった。またその最適化構造を用いて(ΣとSOCT1−S0を計算したところ、それぞれ2.20×10−10と1.89×10−1cm−2であった。
【0175】
(比較例6)
β−estradiolを99.7wt%、下記構造12で示される色素7(アルドリッチ社製)を0.3wt%をガラス瓶に計り取り、220℃に加熱することでβ−estradiol中に色素7を溶解させた。その液体をホットプレート上で220℃に加熱された2枚の石英基板で挟んだ。その後室温まで急冷することで、2枚の石英基板間に材料が約10μmの厚さで挟まれた試料9を作製した。試料9の360nmの励起光照射中のΦPL(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ14%であった。同じ装置を用いて、360nmの励起光下でのΦ(RT)を大気中で計測したところ4.1%であった。これらデータからΦ(RT)をΦ(RT)=ΦPL(RT)−Φ(RT)を用いて10%と決定した。またこの測定の中で励起光照射中の発光スペクトルおよび励起光照射停止直後のりん光スペクトルを測定したところλは548nmであった。励起光照射中の発光スペクトルの短波長側のスペクトルの立ち上がりのエネルギーと室温りん光スペクトルの立ち上がりのエネルギーの差から、ES1−T1は0.85eVと決定された。次に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を用いて試料9の360nmの励起光下でτ(RT)を計測したところ4.1秒であった。
【0176】
【化37】
【0177】
次に非特許文献(I)に記載の方法により、ベンゼン中での色素7のΦISC(RT)を計測したところ、90%であり、ほぼ100−Φ(RT)%の値と同等であった。決定したΦ(RT)、ΦISC(RT)、τ(RT)を上記式(I)に代入してkを算出したところ9.7×10−3−1であった。次に、試料9のτを77Kから400Kまで測定し、kを用いてkNR+kの温度依存性のグラフを作製した。このグラフを2つの指数関数の和でフィッティングし、高温度域の指数関数フィッティングをkに由来すると考え、低温域の指数関数フィッティング直線をkNRに由来するものとして、kNR(RT)とk(RT)を分離したところ、それぞれ0.20s−1と0.003s−1であった。
【0178】
Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素7のSでの最適化構造を決定した。その後この最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いて、Hybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いて、fS1−S0を計算したところ0.166であった。次に、Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素7のTの最適化構造を計算した。次にこの最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いてHybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いてkを計算したところ3.5×10−3−1であった。またその最適化構造を用いて(ΣとSOCT1−S0を計算したところ、それぞれ2.20×10−10と1.89×10−1cm−2であった。
【0179】
(比較例7)
β−estradiolを99.7wt%、色素3を0.3wt%をガラス瓶に計り取り、220℃に加熱することでβ−estradiol中に色素3を溶解させた。その液体をホットプレート上で220℃に加熱された2枚の石英基板で挟んだ。その後室温まで急冷することで、2枚の石英基板間に材料が約10μmの厚さで挟まれた試料10を作製した。試料10の360nmの励起光照射中のΦPL(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ22%であった。同じ装置を用いて、360nmの励起光下でのΦ(RT)を大気中で計測したところ4%であった。これらデータからΦ(RT)をΦ(RT)=ΦPL(RT)−Φ(RT)を用いて18%と決定した。またこの測定の中で励起光照射中の発光スペクトルおよび励起光照射停止直後のりん光スペクトルを測定したところλは556nmであった。励起光照射中の発光スペクトルの短波長側のスペクトルの立ち上がりのエネルギーと室温りん光スペクトルの立ち上がりのエネルギーの差から、ES1−T1は0.80eVと決定された。次に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を用いて試料10の360nmの励起光下でτ(RT)を計測したところ0.52秒であった。
【0180】
次に非特許文献(I)に記載の方法により、ベンゼン中での色素3のΦISC(RT)を計測したところ、95%であり、ほぼ100−Φ(RT)%の値とおおよそ同等であった。決定したΦ(RT)、ΦISC(RT)、τ(RT)を上記式(I)に代入してkを算出したところ0.10s−1であった。次に、試料10のτを77Kから400Kまで測定し、kを用いてkNR+kの温度依存性のグラフを作製した。このグラフを2つの指数関数の和でフィッティングし、高温度域の指数関数フィッティングをkに由来すると考え、低温域の指数関数フィッティング直線をkNRに由来するものとして、kNR(RT)とk(RT)を分離したところ、それぞれ1.6s−1と0.31s−1であった。次に小型蛍光寿命装置(浜松ホトニクス、Quantaurus−Tau)を用いて試料10のτ(RT)は3.4nsと計測されたkをk=Φ(RT)/τ(RT)により決定したところ5.3×10−1であった。
【0181】
Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素3のSでの最適化構造を決定した。その後この最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いて、Hybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いて、fS1−S0を計算したところ0.020であった。次に、Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素3のTの最適化構造を計算した。次にこの最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いてHybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いてkを計算したところ0.19s−1であった。またその最適化構造を用いて(ΣとSOCT1−S0を計算したところ、それぞれ3.57×10−7と5.56×10−1cm−2であった。
【0182】
(比較例8)
下記構造13で示される色素8を以下のように合成した。
【0183】
【化38】
【0184】
比較例3と同様にして色素3を合成した。この白色粉末を150mg、10%パラジウム炭素を100mg、重水30mlを50mlのテフロン(登録商標)容器入りのオートクレーブに入れ、250℃で4〜5MPaの条件で12時間反応させた。反応溶液を室温まで冷却した後、酢酸エチルと水を用いて抽出し、硫酸ナトリウムを用いて有機層を乾燥後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル:エチルアセテート/ヘキサン;2/98vol)を用いて精製し、色素8の粉末を得た(122mg)。1H NMRを用いて重水素化率を確認したところ89.1%であった。
【0185】
β−estradiolを99.7wt%、色素8を0.3wt%をガラス瓶に計り取り、220℃に加熱することでβ−estradiol中に色素8を溶解させた。その液体をホットプレート上で220℃に加熱された2枚の石英基板で挟んだ。その後室温まで急冷することで、2枚の石英基板間に材料が約10μmの厚さで挟まれた試料11を作製した。試料11の360nmの励起光照射中のΦPL(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ29%であった。同じ装置を用いて、360nmの励起光下でのΦ(RT)を大気中で計測したところ11%であった。これらデータからΦ(RT)をΦ(RT)=ΦPL(RT)−Φ(RT)を用いて18%と決定した。またこの測定の中で励起光照射中の発光スペクトルおよび励起光照射停止直後のりん光スペクトルを測定したところλは556nmであった。励起光照射中の発光スペクトルの短波長側のスペクトルの立ち上がりのエネルギーと室温りん光スペクトルの立ち上がりのエネルギーの差から、ES1−T1は0.80eVと決定された。次に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を用いて試料11の360nmの励起光下でτ(RT)を計測したところ1.6秒であった。
【0186】
次に非特許文献(I)に記載の方法により、ベンゼン中での色素8のΦISC(RT)を計測したところ、97%であり、ほぼ100−Φ(RT)%の値に近い値を示した。
決定したΦ(RT)、ΦISC(RT)、τ(RT)を上記式(I)に代入してkを算出したところ0.10s−1であった。次に、試料11のτを77Kから400Kまで測定し、kを用いてkNR+kの温度依存性のグラフを作製した。このグラフを2つの指数関数の和でフィッティングし、高温度域の指数関数フィッティングをkに由来すると考え、低温域の指数関数フィッティング直線をkNRに由来するものとして、kNR(RT)とk(RT)を分離したところ、それぞれ0.52s−1と0.077s−1であった。次に小型蛍光寿命装置(浜松ホトニクス、Quantaurus−Tau)を用いて試料11のτ(RT)は3.3nsと計測されたkをk=Φ(RT)/τ(RT)により決定したところ5.5×10−1であった。
【0187】
Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素8のSでの最適化構造を決定した。その後この最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いて、Hybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いて、fS1−S0を計算したところ0.020であった。次に、Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素8のTの最適化構造を計算した。次にこの最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いてHybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いてkを計算したところ0.19s−1であった。またその最適化構造を用いて(ΣとSOCT1−S0を計算したところ、それぞれ3.57×10−7と5.56×10−1cm−2であった。
【0188】
(比較例9)
下記構造14で示される色素9を以下の手法により合成した。
【0189】
【化39】
【0190】
3−ブロモフェナントレン(100mg)、ジフェニルアミン(65mg)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(3.57mg)、ナトリウムt−ブトキシド(38mg)、トリ−t−ブチルホスフィン(1.58mg)、脱水トルエン(2ml)を窒素雰囲気下で110℃で一昼夜攪拌して反応させた。反応溶液エチルアセテートと飽和水酸化ナトリウム水溶液を用いて抽出処理した後、有機層を取り出し、硫酸ナトリウムを用いて脱水後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル:エチルアセテート/ヘキサン;3/97vol)を用いて精製し、白色粉末を得た(108mg,81%)。
1H NMR (DMSO-D6, 500 MHz): δ 8.30-8.27 (m, 2 H), 7.94 (d, 1 H, J = 10 Hz), 7.90 (d, 1 H, J = 10 Hz), 7.75 (q, 1 H, J = 10 Hz), 7.60-7.52 (m, 2 H), 7.34-7.29 (m, 5 H), 7.11-7.06 (m, 6 H) ppm; 13C NMR (DMSO-D6, 125 MHz): δ 147.29, 146.10, 131.88, 130.77, 129.90, 129.64, 128.88, 128.51, 127.61, 126.92, 126.65, 126.38, 125.34, 123.97, 123.88, 123.23, 122.44, 116.00 ppm;HRMS (m/z): [M]+ calcd. for C26H19N, 345.1517; found, 345.15272; analysis (calcd., found for C26H19N): C (90 .40, 90.63), H (5.54, 5.48), N (4.05, 3.96).
この白色粉末を80mg、10%パラジウム炭素を100mg、重水30mlを50mlのテフロン(登録商標)容器入りのオートクレーブに入れ、250℃で4〜5MPaの条件で12時間反応させた。反応溶液を室温まで冷却した後、酢酸エチルと水を用いて抽出し、硫酸ナトリウムを用いて有機層を乾燥後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル:エチルアセテート/ヘキサン;3/97vol)を用いて精製し、色素9の粉末を得た(68mg)。1H NMRを用いて重水素化率を確認したところ99.9%であった。
【0191】
β−estradiolを99.7wt%、色素9を0.3wt%をガラス瓶に計り取り、220℃に加熱することでβ−estradiol中に色素9を溶解させた。その液体をホットプレート上で220℃に加熱された2枚の石英基板で挟んだ。その後室温まで急冷することで、2枚の石英基板間に材料が約10μmの厚さで挟まれた試料12を作製した。試料12の360nmの励起光照射中のΦPL(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ28%であった。同じ装置を用いて、360nmの励起光下でのΦ(RT)を大気中で計測したところ9.1%であった。これらデータからΦ(RT)をΦ(RT)=ΦPL(RT)−Φ(RT)を用いて19%と決定した。またこの測定の中で励起光照射中の発光スペクトルおよび励起光照射停止直後のりん光スペクトルを測定したところλは510nmであった。励起光照射中の発光スペクトルの短波長側のスペクトルの立ち上がりのエネルギーと室温りん光スペクトルの立ち上がりのエネルギーの差から、ES1−T1は0.60eVと決定された。次に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を用いて試料12の360nmの励起光下でτ(RT)を計測したところ3.2秒であった。
【0192】
次に非特許文献(I)に記載の方法により、ベンゼン中での色素9のΦISC(RT)を計測したところ、62%であり、ほぼ100−Φ(RT)%の値に近い値であった。
決定したΦ(RT)、ΦISC(RT)、τ(RT)を上記式(I)に代入してkを算出したところ0.032s−1であった。次に、試料12のτを77Kから400Kまで測定し、kを用いてkNR+kの温度依存性のグラフを作製した。このグラフを2つの指数関数の和でフィッティングし、高温度域の指数関数フィッティングをkに由来すると考え、低温域の指数関数フィッティング直線をkNRに由来するものとして、kNR(RT)とk(RT)を分離したところ、それぞれ0.17s−1と0.10s−1であった。次に小型蛍光寿命装置(浜松ホトニクス、Quantaurus−Tau)を用いて試料12のτ(RT)は9.9nsと計測されたkをk=Φ(RT)/τ(RT)により決定したところ2.0×10−1であった。
【0193】
Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素9のSでの最適化構造を決定した。その後この最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いて、Hybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いて、fS1−S0を計算したところ0.064であった。次に、Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素9のTの最適化構造を計算した。次にこの最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いてHybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いてkを計算したところ0.17s−1であった。またその最適化構造を用いて(ΣとSOCT1−S0を計算したところ、それぞれ3.78×10−7 と1.92×10−1cm−2であった。
【0194】
(比較例10)
下記構造15で示されるポリメチルメタクリレート(PMMA)を99mg、下記構造16で示される色素10を1mgをクロロホルム中1mlに溶解させ、その溶液を石英基板上に滴下し、スピンコート法により、石英基板上1wt%の色素10がPMMA中に分散された薄膜を試料13として作製した。その薄膜をクライオスタット(オックスフォードインスツルメント社製、Optistat−DNV)に入れ、小型蛍光寿命装置(浜松ホトニクス、Quantaurus−Tau)を用いて試料13の真空下でのτ(RT)を計測したところ3ミリ秒であった。試料13の360nmの励起光照射中のΦPL(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ非常に小さな値であった。色素10のΦISC(RT)を非特許文献(II)及び(III)で100%と報告されているため、Φ(RT)≒0、ΦISC(RT)、τ(RT)を用いて式(I)および(II)からkNR(RT)とk(RT)の和を3.3×10−1と決定した。この値は非特許文献(II)及び(III)の値と同等であった。非特許文献(II)ではkNR(RT)とk(RT)の値は、おおよそそれぞれ2.0×10−1と1.3×10−1と決定されている。
【0195】
【化40】
【0196】
【化41】
【0197】
非特許文献(II):K. Horie, I. Mita, Chem. Phys. Lett. 1982, 93, 61.
非特許文献(III):K. Horie, K. Morishita, I. Mita, Macromolecules 1984, 17, 1746.
【0198】
Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素10のSでの最適化構造を決定した。その後この最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いて、Hybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いて、fS1−S0を計算したところ6.6×10−4であった。次に、Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素3のTの最適化構造を計算した。次にこの最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いてHybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いてkを計算したところ27.1s−1であった。またその最適化構造を用いて(ΣとSOCT1−S0を計算したところ、それぞれ2.37×10−6と1.03×10cm−2であった。
【0199】
(比較例11)
下記構造17で表されるbis[2−(diphenylphosphino)phenyl]etheroxid(DPEPO)と下記構造18で示される色素11を94:6 wt%の割合で石英基板上エに共蒸着法により成膜し試料14とした。試料14の360nmの励起光照射中の窒素雰囲気下でのΦPL(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ38%であった。次に小型蛍光寿命装置(浜松ホトニクス、Quantaurus−Tau)を用いて真空下での試料14の発光寿命を計測したところ、8.3nsとミリ秒のディケイ成分が観測された。
この短い寿命の成分のディケイと長い成分のディケイを用いて、プロンプト成分の発光量子収率(ΦPF(RT))とディレイ成分の発光収率(ΦDF(RT))はそれぞれ19%と19%であった。また試料14の77Kでの励起光照射停止直後に観測されるりん光スペクトルを計測したところλは492nmであった。室温での発光スペクトルの短波長側のスペクトルの立ち上がりのエネルギーと77Kでのりん光スペクトルの立ち上がりのエネルギーの差から、ES1−T1は0.05−0.12eVと決定された。kはτ(RT)=8.3nsをk=Φ(RT)/τ(RT)に代入することで2.3×10−1と決定された。
【0200】
Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素11のSでの最適化構造を決定した。その後この最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いて、Hybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いて、fS1−S0を計算したところ0.067であった。
【0201】
【化42】
【0202】
【化43】
【0203】
以上実施例2と3および比較例4から11の光物理因子を表2にまとめる。
【0204】
【表2】
【0205】
図9は(Σとkの関係である。良好な相関関係が確認されるため、本発明に係る好ましいkの範囲を(Σを用いて規定することの妥当性が理解されよう。
【0206】
(ΦISC(RT)の大きさの比較)
実施例2と3では比較例4に対してΦISC(RT)が大きい。fS1−S0はkに比例し、fS1−S0が大きくなると三重項に行く前に蛍光としてエネルギーが放出されてしまいΦISC(RT)が小さくなる。実際比較例4ではfS1−S0が大きく、実際の実験値であるkも大きくなり、結果的にΦ(RT)大きく、その結果ΦISC(RT)が小さい。一方で実施例2と3ではfS1−S0が小さく、その結果kも小さくなっており、これによりΦ(RT)が小さくなっていることでΦISC(RT)が大きい。以上からfS1−S0を小さくする分子設計により実施例2と3では大きなΦISC(RT)が得られていることが理解される。
【0207】
(アンテナユニットの有無の比較)
実施例2や3は比較例5や6と同等のτ(RT)を示すのに対してΦ(RT)は大きくなる。実施例2と3そして比較例5と6ともにΦISC(RT)は大きくτ(RT)も数秒程度と同等である。上記式(I)と(II)に基づくと、Φ(RT)の違いはkの違いにより説明できる。実施例2や3ではアンテナユニットがある影響でΣが大きくなり、実験値のkが大きくなり、結果的に式(I)に基づいてΦ(RT)が大きくなる。一方で、比較例5や6では、アンテナユニットがないためΣが小さくなり、実験値のkが小さくなり、結果的にΦ(RT)が小さくなる。この際実施例2と3および比較例5と6では、SOCT1−S0は同等のオーダーであるため、kNR(RT)の実験も同等である。以上からアンテナユニットの導入により、kNR(RT)を増加させずにkが向上した結果、長いτ(RT)を維持しながら大きなΦ(RT)が得られていることが理解される。
【0208】
(アンテナユニットの長さの比較)
実施例2と3は比較例7から9と同等のτ(RT)を示すが、実施例2と3は比較例7から9に対してアンテナ長が長いためにΦ(RT)が大きくなる。実施例2や3では比較例7から9と同様に大きなΦISC(RT)を示すため、ΦISC(RT)の違いはΦ(RT)の違いにほとんど寄与していない。実施例2や3では比較例7から9よりアンテナユニットがより長い影響でΣが大きくなり、実験値のkがより大きくなり、式(I)に基づきΦ(RT)がより大きくなっている。この際実施例と比較例では、SOCT1−S0は同等のオーダーであるため、kNR(RT)の実験も同等である。
以上からアンテナユニットのアンテナの拡張により、kNR(RT)を増加させずにkがより向上した結果、長いτ(RT)を維持しながらより大きなΦ(RT)が得られていることが理解される。
【0209】
(kNR(RT)の比較)
実施例2と3と比較例10を比較すると、どちらもΦISC(RT)、Σ、そしてkは大きいが、比較例10のSOCT1−S0は実施例2と3に対して十分大きいためkNR(RT)が大きい。比較例10ではkに対してkNR(RT)が十分大きくなるため、k<<<kNR(RT)のためにΦ(RT)が小さくなるだけでなく、τ(RT)もミリ秒程度まで短くなり、蓄光機能が発現しない。以上から、ただfS1−S0を小さくして大きなΦISC(RT)を得て、さらに大きなkのために大きなΣが得られる分子では、k>kNR(RT)を得て蓄光性の高効率な室温りん光を得る上で不十分であり、小さなkNR(RT)のためにSOCT1−S0が抑制される分子が必要であることが理解されよう。
【0210】
(ES1−T1の違いの比較)
実施例2と3と比較例11を比較すると、いずれもfS1−S0が小さいためにkが小さくΦISC(RT)は大きいが、比較例11では蓄光性発光が得られない。比較例11ではES1−T1が0.1eV程度と小さい。この場合Tが形成された後、Sに高速で戻り遅延蛍光としてTのエネルギーが高速に放射されるため蓄光機能が得られない。一方で実施例2や3ではES1−T1十分大きいために、T形成後に室温ではエネルギーがSに戻ることはほとんど生じないため、k>kNR(RT)且つSOCT1−S0が小さいことに由来してkNR(RT)が十分小さくなり、高効率の室温りん光が蓄光機能として放射される。以上から、ES1−T1が小さい分子は、高効率の蓄光放射性分子としては適していないことが理解されよう。
【0211】
「製造例C」
(実施例4)
実施例1の試料1の360nmの励起光照射中のΦPL(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ60%であった。同じ装置を用いてΦ(RT)を大気中で計測したところ30%であった。Φ(RT)をΦ(RT)=ΦPL(RT)−Φ(RT)を用いて30%と決定した。次に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を用いて試料1の360nmの波長の励起光照射停止後に大気中で放射されるτ(RT)を計測したところ1.0秒であった。
【0212】
(実施例5)
β−estradiolを99wt%、色素1を1wt%と変更する以外は、実施例1と同様に試料を作製し試料15とした。試料15の360nmの励起光照射中のΦPL(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ63%であった。同じ装置を用いてΦ(RT)を大気中で計測したところ38%であった。Φ(RT)をΦ(RT)=ΦPL(RT)−Φ(RT)を用いて25%と決定した。次に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を用いて試料15の360nmの波長の励起光照射停止後に大気中で放射されるτ(RT)を計測したところ0.72秒であった。
【0213】
(実施例6)
β−estradiolを99.9wt%、色素1を0.1wt%と変更する以外は、実施例1と同様に試料を作製し試料16とした。試料16の360nmの励起光照射中のΦPL(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ71%であった。同じ装置を用いてΦ(RT)を大気中で計測したところ46%であった。Φ(RT)をΦ(RT)=ΦPL(RT)−Φ(RT)を用いて25%と決定した。次に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を用いて試料16の360nmの波長の励起光照射停止後に大気中で放射されるτ(RT)を計測したところ0.61秒であった。
【0214】
(比較例12)
色素1の粉末(試料17)に360nmの励起光照射中のΦPL(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いてΦ(RT)大気中で計測したところ0%であった。
【0215】
以上実施例2および実施例4から6と比較例12のΦ(RT)とτ(RT)をデータを表3にまとめる。
実施例2および実施例4から6と比較例12を比較すると、本発明に係る分子を固体ホスト中に分散させる濃度は30%以下、より望ましくは10%以下が望ましいことが理解されよう。
【0216】
【表3】
【0217】
「製造例D」
(実施例7)
β−estradiolの代わりに下記構造19で示される(S)H−BINAP(アルドリッチ社製)と変更する以外は、実施例2と同様に試料を作製し試料18とした。
試料18の360nmの励起光照射中のΦPL(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ50%であった。同じ装置を用いてΦを大気中で計測したところ19%であった。Φ(RT)をΦ(RT)=ΦPL(RT)−Φ(RT)を用いて31%と決定した。次に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を用いて試料18の360nmの波長の励起光照射停止後に大気中で放射されるτ(RT)を計測したところ0.67秒であった。
【0218】
【化44】
【0219】
以上実施例2および7のΦ(RT)とτ(RT)のデータを表4にまとめる。
実施例2と7を比較すると、本発明に係る分子は、さまざまな固体ホスト中で高効率且つ長寿命の室温りん光を示すことが理解されよう。
【0220】
【表4】
【0221】
「製造例E」
(実施例E1:化合物6のデータ)
下記構造で示される化合物11を以下の方法で合成した。評価結果を表5に示す。
【0222】
【化1E】
【0223】
1−ブロモナフタレン(162mg),ジ(9H−フルオレン−2−イル)アミン(123mg),トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(4.8mg)、ナトリウムt−ブトキシド(34mg)、トリ−t−ブチルホスフィン(2.8mg)、脱水トルエン(2.5ml)を窒素雰囲気下で110℃で一昼夜攪拌して反応させた。反応溶液エチルアセテートと純水を用いて抽出処理した後、有機層を取り出し、硫酸ナトリウムを用いて脱水後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル:ジクロロメタン/ヘキサン;20/80vol)を用いて精製し、黄色い粉末を得た(145mg,0.25mmol,73%)。
1H NMR (CDCl3, 500 MHz,):δ=8.63 (d, J=10 Hz, 2H), 8.50-8.57 (m, 2H), 8.36 (s, 1H), 8.27 (d, J=10 Hz, 1H), 7.74 (t, J=10 Hz, 4H), 7.58-7.66 (m, 3H), 7.44-7.54 (m, 4H), 7.42 (s, 2H), 7.38 (t, J=7.5 Hz, 2H), 7.29 (t, J=10 Hz, 4H), 3.86 (s, 4H) ; 13C NMR (CDCl3, 126 MHz,): δ=144.81, 143.17, 141.47, 130.08, 129.82, 129.37, 129.07, 127.27, 127.09, 126.84, 126.44, 126.11, 124.98, 124.46, 123.75, 123.63, 123.42, 123.26, 122.90, 121.53, 120.63, 119.43, 36.94;
【0224】
β−estradiolを99.7wt%、化合物6を0.3wt%をガラス瓶に計り取り、220℃に加熱することでβ−estradiol中に化合物6を溶解させた。その液体をホットプレート上で220℃に加熱された2枚の石英基板で挟んだ。その後室温まで急冷することで、2枚の石英基板間に材料が約10μmの厚さで挟まれた試料18を作製した。試料18の360nmの励起光照射中のΦPL(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ46%であった。同じ装置を用いて、360nmの励起光下でのΦ(RT)を大気中で計測したところ21%であった。これらデータからΦ(RT)をΦ(RT)=ΦPL(RT)−Φ(RT)を用いて25%と決定した。次に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を用いて試料18の360nmの励起光下でτ(RT)を計測したところ0.53秒であった。
【0225】
試料18に対して、絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて、360nmの励起光照射中の発光スペクトルおよび励起光照射停止直後のりん光スペクトルを測定したところλは491nmであった。さらに実施例2と同様の手法を用いて、励起光照射中の発光スペクトルの短波長側のスペクトルの立ち上がりのエネルギーと室温りん光スペクトルの立ち上がりのエネルギーの差からES1−T1は0.54eVと決定された。
【0226】
次に非特許文献(I)に記載の方法により、ベンゼン中での化合物6のΦISC(RT)を計測したところ、64%であり、ほぼ100−Φ%の値と同等であった。決定したΦ(RT)、ΦISC(RT)、τ(RT)を上記式(I)に代入してkを算出したところ0.52s−1であった。次に、試料18のτを77Kから400Kまで測定し、kを用いてkNR+kの温度依存性のグラフを作製した。そのグラフを2つの指数関数の和でフィッティングを行い、高温度域の指数関数フィッティングをkに由来すると考え、低温域の指数関数フィッティング直線をkNRに由来するものとして、室温のkNR(RT)とk(RT)を分離したところ、それぞれ0.39s−1と1.0s−1であった。次に小型蛍光寿命装置(浜松ホトニクス、Quantaurus−Tau)を用いて試料18のτ(RT)は3.7nsと計測された。kをk=Φ(RT)/τ(RT)により決定したところ6.8×10−1であった。
【0227】
Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素4のSでの最適化構造を決定した。その後この最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いて、Hybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いて、fS1−S0を計算したところ0.063であった。次に、Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより化合物6のTの最適化構造を計算した。次にこの最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いてHybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いてkを計算したところ1.24s−1であった。またその最適化構造を用いて(ΣとSOCT1−S0を計算したところ、それぞれ1.39×10−6と3.68×10−1cm−2であった。
【0228】
(実施例E2:化合物8のデータ)
下記構造で示される化合物8を以下の方法で合成した。評価結果を表5に示す。
【0229】
【化2E】
【0230】
コロネン(500mg),無水酢酸(10mL)を0℃で15分間攪拌した。発煙硝酸(126μL)をその溶液に滴下して加えた後0℃で3時間攪拌した。濃硫酸(196μL)をその溶液に0℃の状態が保たれるようにゆっくり滴下した。室温まで徐々に反応溶液を加熱し一昼夜0℃で攪拌したところ黄色の析出物を得た。その析出物を水、イソプロパノール、ジエチルエーテルで洗浄することで1ニトロコロネンを若干の不純物が存在する条件で得た。1ニトロコロネン(300mg)、塩化鉛(784mg)、濃塩酸(3mL)をエタノール(10mL)中で80℃の環境で6時間攪拌した。反応中、反応溶液のpHが7に保たれるように水酸化ナトリウム水溶液を適宜滴下した。反応溶液を酢酸エチルと飽和食塩水を用いて分液処理し、有機層を硫酸ナトリウムを用いて脱水した後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル:エチルアセテート/ヘキサン;20/80vol)を用いて精製し、黄色い粉末を得た(170mg,0.54mmol,62%)。
1H NMR (DMSO-D6, 500 MHz): δ 9.20 (d, 1H, J = 10 Hz), 8.99-8.80 (m, 8H), 8.71 (d, 1H, J = 10 Hz), 8.11 (s, 1H), 6.70 (s, 2H) ppm. 13C NMR (CDCl3, 125 MHz): δ 151.21, 148.32, 132.87, 131.96, 131.12, 130.58, 129.75, 128.37, 126.46, 124.27, 122.34, 121.14, 120.84 ppm. HRMS-ESI (m/z): [M+H]+ calcd. for C24H14N, 316.1126; found 316.1149.
【0231】
1−アミノコロネン(80mg)、2−ブロモ−9H−フルオレン(130mg)トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(2.3mg)、ナトリウムt−ブトキシド(24mg)、トリ−t−ブチルホスフィン(2.0mg)、脱水トルエン(3ml)を窒素雰囲気下で110℃で一昼夜攪拌して反応させた。反応溶液エチルアセテートと飽和水酸化ナトリウム水溶液を用いて抽出処理した後、有機層を取り出し、硫酸ナトリウムを用いて脱水後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル:ジクロロメタン/ヘキサン;5/95vol)を用いて精製し、黄色い粉末を得た(108mg,0.17mmol,66%)。
1H NMR (CDCl3, 500 MHz): δ 9.08 (d, J = 10 Hz, 1H), 8.93-8.85 (m, 7H), 8.81-8.76 (m, 3H), 7.70 (t, J = 10 Hz, 4H), 7.46 (d, J = 10 Hz, 2H), 7.41 (s, 2H), 7.36-7.32 (m, 4H), 7.24 (t, J = 10 Hz, 2H), 3.75 (s, 4H) ppm; 13C NMR (CDCl3, 125 MHz): 148.80, 144.95, 143.13, 142.84, 141.74, 136.19, 129.70, 128.93, 128.68, 126.98, 126.89, 126.82, 126.70, 126.65, 126.39, 126.33, 126.20, 125.93, 124.99, 124.78, 123.00, 121.90, 120.73, 119.60, 119.36, 37.08 ppm; HRMS (m/z): [M]+calcd. for C50H29N, 643.23000; found 643.23420 (Figure S3); analysis (calcd., found for C50H29N): C (93.28, 93.35), H (4.54, 4.60), N (2.18, 2.37).
【0232】
β−estradiolを99.7wt%、化合物8を0.3wt%をガラス瓶に計り取り、220℃に加熱することでβ−estradiol中に化合物8を溶解させた。その液体をホットプレート上で220℃に加熱された2枚の石英基板で挟んだ。その後室温まで急冷することで、2枚の石英基板間に材料が約10μmの厚さで挟まれた試料19を作製した。試料19の360nmの励起光照射中のΦPL(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ39%であった。同じ装置を用いて、360nmの励起光下でのΦ(RT)を大気中で計測したところ19%であった。これらデータからΦ(RT)をΦ(RT)=ΦPL(RT)−Φ(RT)を用いて20%と決定した。次に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を用いて試料19の360nmの励起光下でτ(RT)を計測したところ1.8秒であった。
【0233】
試料19に対して、絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて、360nmの励起光照射中の発光スペクトルおよび励起光照射停止直後のりん光スペクトルを測定したところλは545nmであった。さらに実施例2と同様の手法を用いて、励起光照射中の発光スペクトルの短波長側のスペクトルの立ち上がりのエネルギーと室温りん光スペクトルの立ち上がりのエネルギーの差からES1−T1は0.50eVと決定された。
【0234】
次に非特許文献(I)に記載の方法により、ベンゼン中での化合物8のΦISC(RT)を計測したところ、84%であり、ほぼ100−Φ%の値と同等であった。決定したΦ(RT)、ΦISC(RT)、τ(RT)を上記式(I)に代入してkを算出したところ0.13s−1であった。次に、試料19のτを77Kから400Kまで測定し、kを用いてkNR+kの温度依存性のグラフを作製した。そのグラフを2つの指数関数の和でフィッティングを行い、高温度域の指数関数フィッティングをkに由来すると考え、低温域の指数関数フィッティング直線をkNRに由来するものとして、室温のkNR(RT)とk(RT)を分離したところ、それぞれ0.27s−1と0.11s−1であった。次に小型蛍光寿命装置(浜松ホトニクス、Quantaurus−Tau)を用いて試料19のτ(RT)は7.1nsと計測された。kをk=Φ(RT)/τ(RT)により決定したところ2.8×10−1であった。
【0235】
Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより化合物8のSでの最適化構造を決定した。その後この最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いて、Hybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いて、fS1−S0を計算したところ0.057であった。次に、Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより化合物8のTの最適化構造を計算した。次にこの最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いてHybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いてkを計算したところ0.47s−1であった。またその最適化構造を用いて(ΣとSOCT1−S0を計算したところ、それぞれ1.06×10−6と4.12×10−1cm−2であった。
【0236】
(実施例E3:化合物9のデータ)
下記構造で示される化合物9は、次の文献を参照して合成した。Indranil Bhattacharjee, Shuzo Hirata, Highly Efficient Persistent Room‐Temperature Phosphorescence from Heavy Atom‐Free Molecules Triggered by Hidden Long Phosphorescent Antenna, Advanced Materials, 2020, 32, 2001348。評価結果を表5に示す。
【0237】
【化3E】
【0238】
β−estradiolを99.7wt%、化合物9を0.3wt%をガラス瓶に計り取り、220℃に加熱することでβ−estradiol中に化合物9を溶解させた。その液体をホットプレート上で220℃に加熱された2枚の石英基板で挟んだ。その後室温まで急冷することで、2枚の石英基板間に材料が約10μmの厚さで挟まれた試料20を作製した。試料20の360nmの励起光照射中のΦPL(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ35%であった。同じ装置を用いて、360nmの励起光下でのΦ(RT)を大気中で計測したところ12%であった。これらデータからΦ(RT)をΦ(RT)=ΦPL(RT)−Φ(RT)を用いて23%と決定した。次に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を用いて試料20の360nmの励起光下でτ(RT)を計測したところ1.0秒であった。
【0239】
試料20に対して、絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて、360nmの励起光照射中の発光スペクトルおよび励起光照射停止直後のりん光スペクトルを測定したところλは576nmであった。さらに実施例2と同様の手法を用いて、励起光照射中の発光スペクトルの短波長側のスペクトルの立ち上がりのエネルギーと室温りん光スペクトルの立ち上がりのエネルギーの差からES1−T1は0.64eVと決定された。
【0240】
次に非特許文献(I)に記載の方法により、ベンゼン中での化合物9のΦISC(RT)を計測したところ、64%であり、ほぼ100−Φ%の値と同等であった。決定したΦ(RT)、ΦISC(RT)、τ(RT)を上記式(I)に代入してkを算出したところ0.16s−1であった。次に、試料20のτを77Kから400Kまで測定し、kを用いてkNR+kの温度依存性のグラフを作製した。そのグラフを2つの指数関数の和でフィッティングを行い、高温度域の指数関数フィッティングをkに由来すると考え、低温域の指数関数フィッティング直線をkNRに由来するものとして、室温のkNR(RT)とk(RT)を分離したところ、それぞれ0.71s−1と0.12s−1であった。次に小型蛍光寿命装置(浜松ホトニクス、Quantaurus−Tau)を用いて試料20のτ(RT)は2.1nsと計測された。kをk=Φ(RT)/τ(RT)により決定したところ1.1×10−1であった。
【0241】
Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素4のSでの最適化構造を決定した。その後この最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いて、Hybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いて、fS1−S0を計算したところ0.042であった。次に、Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより化合物9のTの最適化構造を計算した。次にこの最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いてHybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いてkを計算したところ0.37s−1であった。またその最適化構造を用いて(ΣとSOCT1−S0を計算したところ、それぞれ4.97×10−7と3.42×10−1cm−2であった。
【0242】
(実施例E4:化合物10のデータ)
下記構造で示される化合物10を以下の方法で合成した。評価結果を表5に示す。
【0243】
【化4E】
【0244】
実施例E2で合成した1−アミノコロネン(200mg)、10%パラジウム炭素を150mg、重水30mlを50mlのテフロン(登録商標)容器入りのオートクレーブに入れ、250℃で4〜5MPaの条件で12時間反応させた。反応溶液を室温まで冷却した後、酢酸エチルと水を用いて抽出し、硫酸ナトリウムを用いて有機層を乾燥後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル:エチルアセテート/ヘキサン;20/80vol)を用いて精製し、重水素化1−アミノコロネンの粉末を得た(182mg)。1H NMRを用いて重水素化率を確認したところ98%であった。
HRMS-ESI (m/z): [M]+ calcd. for C24D13N, 328.18; found, 327.13.
【0245】
重水素化1−アミノコロネン(90mg),ジ(9H−フルオレン−2−イル)アミン(132mg),トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(2.5mg)、ナトリウムt−ブトキシド(26mg)、トリ−t−ブチルホスフィン(2.2mg)、脱水トルエン(3ml)を窒素雰囲気下で110℃で一昼夜攪拌して反応させた。反応溶液エチルアセテートと飽和水酸化ナトリウム水溶液を用いて抽出処理した後、有機層を取り出し、硫酸ナトリウムを用いて脱水後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル:エチルアセテート/ヘキサン;3/97vol)を用いて精製し、黄色い粉末を得た(108mg,0.17mmol,59%)。
1H NMR (CDCl3, 500 MHz): δ 9.08 (d, 0.02H, J = 10 Hz), 8.93-8.85 (m, 0.14H), 8.81-8.76 (m, 0.05H), 7.70 (t, 4H, J = 10 Hz), 7.46 (d, 2H, J = 10 Hz), 7.41 (s, 2H), 7.36-7.32 (m, 4H), 7.24 (t, 2H, J = 10 Hz), 3.75 (s, 4H) PPM. 13C NMR (CDCl3,125 MHz): 148.34, 144.42, 142.73, 142.28, 141.18, 136.19, 129.70, 128.93, 127.99, 126.54, 126.13, 126.24, 126.70, 126.65, 126.39, 126.33, 126.20, 125.93, 124.99, 124.78, 123.00, 121.90, 120.73, 119.60, 119.36, 37.08 ppm; 1H NMR
分析によりコロネン骨格部位の重水素化率は98%であった。
【0246】
β−estradiolを99.7wt%、化合物10を0.3wt%をガラス瓶に計り取り、220℃に加熱することでβ−estradiol中に化合物10を溶解させた。その液体をホットプレート上で220℃に加熱された2枚の石英基板で挟んだ。その後室温まで急冷することで、2枚の石英基板間に材料が約10μmの厚さで挟まれた試料21を作製した。試料21の360nmの励起光照射中のΦPL(RT)を絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて計測したところ55%であった。同じ装置を用いて、360nmの励起光下でのΦ(RT)を大気中で計測したところ35%であった。これらデータからΦ(RT)をΦ(RT)=ΦPL(RT)−Φ(RT)を用いて20%と決定した。次に、時間分解2次元光検出器(浜松ホトニクス、PMA−12)を用いて試料21の360nmの励起光下でτ(RT)を計測したところ2.2秒であった。
【0247】
試料21に対して、絶対PL量子収率装置(浜松ホトニクス、C9920−02G)を用いて、360nmの励起光照射中の発光スペクトルおよび励起光照射停止直後のりん光スペクトルを測定したところλは545nmであった。さらに実施例2と同様の手法を用いて、励起光照射中の発光スペクトルの短波長側のスペクトルの立ち上がりのエネルギーと室温りん光スペクトルの立ち上がりのエネルギーの差からES1−T1は0.50eVと決定された。
【0248】
次に非特許文献(I)に記載の方法により、ベンゼン中での化合物10のΦISC(RT)を計測したところ、88%であり、ほぼ100−Φ%の値と同等であった。決定したΦ(RT)、ΦISC(RT)、τ(RT)を上記式(I)に代入してkを算出したところ0.20s−1であった。次に、試料21のτを77Kから400Kまで測定し、kを用いてkNR+kの温度依存性のグラフを作製した。そのグラフを2つの指数関数の和でフィッティングを行い、高温度域の指数関数フィッティングをkに由来すると考え、低温域の指数関数フィッティング直線をkNRに由来するものとして、室温のkNR(RT)とk(RT)を分離したところ、それぞれ0.16s−1と0.10s−1であった。次に小型蛍光寿命装置(浜松ホトニクス、Quantaurus−Tau)を用いて試料21のτ(RT)は7.1nsと計測された。kをk=Φ(RT)/τ(RT)により決定したところ2.8×10−1であった。
【0249】
Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより色素4のSでの最適化構造を決定した。その後この最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いて、Hybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いて、fS1−S0を計算したところ0.057であった。次に、Gaussian09を用いて、B3LYPを汎関数に6−31G(d)を基底関数に用いて、DFTにより化合物10のTの最適化構造を計算した。次にこの最適化構造を用いて、ADF2018パッケージを用いてHybrid−PBE0を汎関数にTZPを基底関数に用いてkを計算したところ0.47s−1であった。またその最適化構造を用いて(ΣとSOCT1−S0を計算したところ、それぞれ1.06×10−6と4.12×10−1cm−2であった。
【0250】
(実施例E5:化合物11のデータ)
下記構造1で示される化合物11を以下の方法で合成した。すなわち、上記製造例Aにおいて重水素化されていない状態の化合物を得た。
【0251】
【化5E】
【0252】
1−ブロモナフタレン(200mg),ジ(9H−フルオレン−2−イル)アミン(333mg),トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(8.8mg)、ナトリウムt−ブトキシド(92mg)、トリ−t−ブチルホスフィン(3.88mg)、脱水トルエン(3ml)を窒素雰囲気下で110℃で一昼夜攪拌して反応させた。反応溶液エチルアセテートと飽和水酸化ナトリウム水溶液を用いて抽出処理した後、有機層を取り出し、硫酸ナトリウムを用いて脱水後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル:エチルアセテート/ヘキサン;3/97vol)を用いて精製し、黄色い粉末を得た(328mg,0.70mmol,72%)。
1H NMR (DMSO-D6, 500 MHz): δ 8.03 (d, 1 H, J = 10 Hz), 7.96 (d, 1 H, J = 10 Hz), 7.92 (d, 1 H, J = 10 Hz), 7.76-7.73 (m, 4 H), 7.59 (t, 1 H, J = 10 Hz), 7.53-7.48 (m, 3 H), 7.42 (t, 3 H, J = 10 Hz), 7.32 (t, 2 H, J = 10 Hz), 7.22 (t, 2 H, J = 10 Hz), 7.14 (s, 2 H), 7.03 (d, 1 H, J = 10 Hz), 3.78 (s, 4 H) ppm; 13C NMR (CDCl3, 125 MHz): δ 148.20, 144.76, 143.11, 141.76, 135.94, 135.48, 131.32, 128.54, 127.20, 126.87, 126.54, 126.51, 126.37, 126.30, 125.88, 124.99, 124.58, 121.38, 120.48, 119.31, 119.06, 37.06 ppm; HRMS (m/z): [M]+ calcd. for C35H25N, 471.1987; found, 471.19884; analysis (calcd., found for C35H25N): C (91.69, 91.82), H (5.34, 5.26), N (2.97, 2.58).
【0253】
上記した実施例E1と同様の手順で、実験値及び計算値を求め、結果を表5に示す。
【0254】
(式(11)の値の検討)
上記して合成された化合物6,8,11、及び色素10を用いて、以下の数値を算出した。基準物質として、以下の構造を有する化合物12を用いた。結果を表6に示す。表中に示すKnr(RT)は上記試験例で測定した数値である。式(11)を用いて計算する方法は、非特許文献IV:S. Hirata, I. Bhattacharjee, J. Phys. Chem. A 2021, 125, 885-894.を参照した。
【0255】
【化6E】
【0256】
(実施例E1)
非特許文献IVに記載の方法で化合物6の式(11)の値を算出したところ0.86×10−4であった。また基準物質である化合物12の式(11)の値である0.47×10−4と比較して1.38倍であった。
【0257】
(実施例E2)
非特許文献IVに記載の方法で化合物8の式(11)の値を算出したところ1.2×10−4であった。また基準物質である化合物12の式(11)の値である0.47×10−4と比較して2.55倍であった。
【0258】
(実施例E5)
非特許文献IVに記載の方法で化合物11の式(11)の値を算出したところ5.9×10−4であった。また基準物質である化合物12の式(11)の値である0.47×10−4と比較して12.6倍であった。
【0259】
(比較例10)
非特許文献IVに記載の方法で色素10の式(11)の値を算出したところ1.7×10−2であった。また基準物質である化合物12の式(11)の値である0.47×10−4と比較して362倍であった。
【0260】
(参考例)
以下、上記した化合物6,8,11、色素10について、SOCT1−S0の数値を基準物質に対して比較した。
化合物6のSOCT1−S0は実施例E1の通り3.68×10−1(cm−2)であった。また基準物質である化合物12のSOCT1−S0も同様の手法で計算したところ3.4×10−7(cm−2)であった。このように化合物6のSOCT1−S0の値は化合物12と比較して108万倍であった。
化合物8のSOCT1−S0は実施例E2の通り4.12×10−1(cm−2)であった。このように化合物8のSOCT1−S0の値は化合物12と比較して121万倍であった。
化合物11のSOCT1−S0は実施例E3の通り6.29×10−1(cm−2)であった。このように化合物11のSOCT1−S0の値は化合物12と比較して185万倍であった。
色素10のSOCT1−S0は比較例10の通り1.03×10(cm−2)であった。このように色素10のSOCT1−S0の値は化合物12と比較して30億倍であった。
【0261】
式(11)の値を用いることで、knr(RT)の推定の精度が大きく向上する。例えば、表6記載の通り化合物6、8、11、色素10のknr(RT)はそれぞれ基準物質の化合物12の3.25倍、2.25倍、15.0倍、1670倍である。このオーダーは実施例AからDによって見積もられた基準物質の式(11)の相対値による見積もりに近い水準であり、良好な相関性がある。一方で、SOCT1−S0の比較例AからDでの見積もりでは、化合物6、8、11、色素10のSOCT1−S0はそれぞれ基準物質の化合物12の108万倍、121万倍、185万倍、30億倍である。それゆえ、良好な相関性を取ることができない化合物が存在する。また、式(11)の見積もりでは、より小さなknr(RT)の骨格の推定レベルが大きく向上する。化合物11のknr(RT)の値は化合物6,8に対して4.6倍から6.7倍であるが、式(11)による見積もりにおいても4.9倍から6.9倍である。このknr(RT)の低下により化合物6や化合物8では化合物11に対して大きなΦが確認される(表5)。一方で、化合物11のSOCT1−S0は化合物6や8の1.1倍から1.7倍である。それゆえ、式(11)を用いた手法は高効率蓄光を実現するための小さなknr(RT)を精度よく描写する手法であることが理解されよう。
【0262】
【表5】
【0263】
【表6】

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9