特開2021-175970(P2021-175970A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-175970(P2021-175970A)
(43)【公開日】2021年11月4日
(54)【発明の名称】検査チップ、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/08 20060101AFI20211008BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20211008BHJP
【FI】
   G01N35/08 A
   G01N37/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2021-1630(P2021-1630)
(22)【出願日】2021年1月7日
(31)【優先権主張番号】特願2020-79845(P2020-79845)
(32)【優先日】2020年4月28日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100195556
【弁理士】
【氏名又は名称】柿沼 公二
(72)【発明者】
【氏名】文珠 卓也
(72)【発明者】
【氏名】須摩 基樹
【テーマコード(参考)】
2G058
【Fターム(参考)】
2G058CC09
2G058DA07
2G058EA14
(57)【要約】
【課題】発色ムラが有意に抑制された検査チップを提供する。
【解決手段】シート状の検査チップであって、表面側の第1層と、裏面側の第2層とを備え、前記第1層及び前記第2層は隣接し、前記第1層又は前記第2層のいずれか一方が、液受入部Aを有し、前記第1層は、少なくとも、検出確認部Bを有し、前記第2層は、少なくとも、前記検出確認部Bに隣接する液流通部Dと、前記液流通部Dに接続された液流路Eとを有し、前記第1層が液受入部Aを有する場合、前記液受入部Aは、前記検出確認部Bから離隔し、被検査液を前記液受入部Aに滴下したときに当該被検査液が、毛細管現象により、前記液受入部A、前記液流路E及び前記液流通部Dをこの順で経由して、前記検出確認部Bまで流通するように構成されている、ことを特徴とする、検査チップ。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の検査チップであって、
表面側の第1層と、裏面側の第2層とを備え、
前記第1層及び前記第2層は隣接し、
前記第1層又は前記第2層のいずれか一方が、液受入部Aを有し、
前記第1層は、少なくとも、検出確認部Bを有し、
前記第2層は、少なくとも、前記検出確認部Bに隣接する液流通部Dと、前記液流通部Dに接続された液流路Eとを有し、
前記第1層が液受入部Aを有する場合、前記液受入部Aは、前記検出確認部Bから離隔し、
被検査液を前記液受入部Aに滴下したときに当該被検査液が、毛細管現象により、前記液受入部A、前記液流路E及び前記液流通部Dをこの順で経由して、前記検出確認部Bまで流通するように構成されており、
前記第1層が1枚のシート状素材の一方の面に形成され、前記第2層が当該シート状素材の他方の面に形成されてなる、ことを特徴とする、検査チップ。
【請求項2】
シート状の検査チップであって、
表面側の第1層と、裏面側の第2層とを備え、
前記第1層及び前記第2層は隣接し、
前記第1層又は前記第2層のいずれか一方が、液受入部Aを有し、
前記第1層は、少なくとも、検出確認部Bを有し、
前記第2層は、少なくとも、前記検出確認部Bに隣接する液流通部Dと、前記液流通部Dに接続された液流路Eとを有し、
前記第1層が液受入部Aを有する場合、前記液受入部Aは、前記検出確認部Bから離隔し、
被検査液を前記液受入部Aに滴下したときに当該被検査液が、毛細管現象により、前記液受入部A、前記液流路E及び前記液流通部Dをこの順で経由して、前記検出確認部Bまで流通するように構成されており、
前記液流通部Dが、内側に液非流通部D’が形成された環状構造である、ことを特徴とする、検査チップ。
【請求項3】
シート状の検査チップであって、
表面側の第1層と、裏面側の第2層とを備え、
前記第1層及び前記第2層は隣接し、
前記第1層又は前記第2層のいずれか一方が、液受入部Aを有し、
前記第1層は、少なくとも、検出確認部Bを有し、
前記第2層は、少なくとも、前記検出確認部Bに隣接する液流通部Dと、前記液流通部Dに接続された液流路Eとを有し、
前記第1層が液受入部Aを有する場合、前記液受入部Aは、前記検出確認部Bから離隔し、
被検査液を前記液受入部Aに滴下したときに当該被検査液が、毛細管現象により、前記液受入部A、前記液流路E及び前記液流通部Dをこの順で経由して、前記検出確認部Bまで流通するように構成されており、
前記第2層が、前記液流路Eを複数本有する、ことを特徴とする、検査チップ。
【請求項4】
前記液流路Eのうちの少なくとも2本が、互いに対向するように前記液流通部Dに接続された、請求項3に記載の検査チップ。
【請求項5】
前記液流路Eのうちの少なくとも2本が、略同一の形状を有する、請求項3又は4に記載の検査チップ。
【請求項6】
前記第1層が、前記検出確認部Bから離隔した前記液受入部Aを有し、
前記第2層は、前記液受入部Aに隣接する液流通部Cを有し、
被検査液を前記液受入部Aに滴下したときに当該被検査液が、毛細管現象により、前記液受入部A、前記液流通部C、前記液流路E及び前記液流通部Dをこの順で経由して、前記検出確認部Bまで流通するように構成されている、請求項1〜5のいずれかに記載の検査チップ。
【請求項7】
前記第1層が、前記検出確認部Bから離隔した前記液受入部Aを有し、更に、前記液受入部Aに接続された液流路Fを有し、
被検査液を前記液受入部Aに滴下したときに当該被検査液が、毛細管現象により、前記液受入部A、前記液流路F、前記液流路E及び前記液流通部Dをこの順で経由して、前記検出確認部Bまで流通するように構成されている、請求項1〜5のいずれかに記載の検査チップ。
【請求項8】
前記第2層が前記液受入部Aを有する、請求項1〜5のいずれかに記載の検査チップ。
【請求項9】
前記液受入部A、任意の前記液流通部C、任意の前記液流路F、前記液流路E、前記液流通部D、及び前記検出確認部Bは、毛細管現象により被検査液の流通が発現される素材Mでできており、
前記素材M以外の部分は、前記素材Mに疎水性材料を含浸させてなる、被検査液の流通が発現されない素材M’でできている、請求項1〜8のいずれかに記載の検査チップ。
【請求項10】
前記素材Mが、ろ紙である、請求項9に記載の検査チップ。
【請求項11】
前記素材M’における、前記素材Mへの前記疎水性材料の含浸率が14%以上32%以下である、請求項9又は10に記載の検査チップ。
【請求項12】
前記第1層の厚みに対する前記第2層の厚みの比(第2層の厚み/第1層の厚み)が、0.56以上2.2以下である、請求項1〜11のいずれかに記載の検査チップ。
【請求項13】
検出対象物質に起因した発色反応が前記検出確認部Bで起こる、請求項1〜12のいずれかに記載の検査チップ。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の検査チップの製造方法であって、
疎水性材料を用い、第1基板上に第1疎水性膜を形成し、第2基板上に第2疎水性膜を形成する膜形成工程と、
前記第1基板上の第1疎水性膜を用い、検査チップの第1層の反転デザインとなるように第1犠牲基材に印刷する第1印刷工程と、
前記第2基板上の第2疎水性膜を用い、検査チップの第2層の反転デザインとなるように第2犠牲基材に印刷する第2印刷工程と、
1枚のシート状素材の一方の面に、第1印刷工程後の第1疎水性膜を、転写し、前記シート状素材に含浸させる第1転写工程と、
前記1枚のシート状素材の他方の面に、第2印刷工程後の第2疎水性膜を、転写し、前記シート状素材に含浸させる第2転写工程と、
を備える、ことを特徴とする、検査チップの製造方法。
【請求項15】
前記第1疎水性膜の厚みに対する前記第2疎水性膜の厚みの比(第2疎水性膜の厚み/第1疎水性膜の厚み)が、0.56以上2.2以下である、請求項14に記載の検査チップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査チップ、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
患者等のすぐそばで行える診断(その場診断)が重要であるという考えが、臨床現場において普及しつつある。このような考えの下、シート状基材上にマイクロサイズの流路及び反応スポットを設けることで、実用に即した分析を可能にする検査チップが開発されている。
【0003】
上記の検査チップの一例は、抗原等の対象物質を含有する被検査液を導入した場合に、当該被検査液が流路を流れ、あらかじめ仕込んでおいた抗体等の標識媒体と対象物質とが反応して、顕色(発色)によって対象物質の存在を確認する、という機構を有するものである。妊娠検査薬などがその代表例である。
【0004】
上述したような検査チップとしては、紙を基材とし、ワックスプリンター又はインクジェットプリンターを用いて紙上に流路や反応スポットを形成させたマイクロ流体デバイスが既に報告されている(非特許文献1)。かかるデバイスは、「μ−PADs(microfluidic paper-based analytical devices)」とも称され、(1)安価、(2)ポンプレス、(3)大がかりな装置不要、(4)廃棄が容易などといった、多くの利点を有するものである。そして、このようなμ−PADsについて、改良のための研究が世界的に進められている。
【0005】
例えば、特許文献1は、上述したような流路や反応スポットの外縁を紫外線硬化性インクで紙上に印刷し、紫外線を照射して当該インクを硬化させることにより、簡単で且つ低コストで検査チップを製造できることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2012/160857号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Whitesideら, Analytical Chemistry, Vol. 82, No. 1, January 1, 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した特許文献1の技術を含む従来の検査チップは、顕色(発色)のムラが生じ易く、検査結果にばらつきが生じる(再現性が十分でない)虞があった。その一例として、発色が検出エリアの端部近傍で生じることにより、その目視が困難となる問題があった。かかる問題は、重要な疾病の診断等に悪影響を及ぼし得る。そのため、従来の検査チップは、発色ムラの抑制の点で、改良の余地があった。
【0009】
また、上述したμ−PADs等の検査チップに対しては、検出対象物質の存在の有無を確認することに加えて、その定量化の実現も期待されている。この点、上述したような顕色(発色)のムラが抑制できれば、検査チップ中で顕色した部分の面積を特定し、画素解析技術を応用することで、定量化の実現も可能なものとなる。かかる観点からも、発色ムラの抑制は望まれている。
【0010】
本発明は、従来における上記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、被検査液に含有される対象物質とあらかじめ仕込んでおいた標識媒体とが反応し、当該反応による発色によって当該対象物質の存在を確認するための検査チップにおいて、発色ムラが有意に抑制された検査チップを提供することを目的とする。また、本発明は、上述した検査チップを簡便に、高精度に、且つ低コストで製造することが可能な、検査チップの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記問題への解決に当たり、まず本発明者らは、発色が検出エリアの端部近傍で生じるという従来の検査チップにおける問題が、検出エリアに到達する液流の勢いに起因していることを突き止めた。
【0012】
そして、本発明者らは、鋭意検討を重ね、検出エリアへの液の到達をシートの厚み方向から行えるよう、液流路の適正化を図ることにより、発色を検出エリアの中央付近で生じさせられることを見出し、本発明をするに至った。
【0013】
前記目的を達成するための手段としては以下の通りである。
【0014】
<1>シート状の検査チップであって、
表面側の第1層と、裏面側の第2層とを備え、
前記第1層及び前記第2層は隣接し、
前記第1層又は前記第2層のいずれか一方が、液受入部Aを有し、
前記第1層は、少なくとも、検出確認部Bを有し、
前記第2層は、少なくとも、前記検出確認部Bに隣接する液流通部Dと、前記液流通部Dに接続された液流路Eとを有し、
前記第1層が液受入部Aを有する場合、前記液受入部Aは、前記検出確認部Bから離隔し、
被検査液を前記液受入部Aに滴下したときに当該被検査液が、毛細管現象により、前記液受入部A、前記液流路E及び前記液流通部Dをこの順で経由して、前記検出確認部Bまで流通するように構成されており、
前記第1層が1枚のシート状素材の一方の面に形成され、前記第2層が当該シート状素材の他方の面に形成されてなる、ことを特徴とする、検査チップ。
【0015】
<2>シート状の検査チップであって、
表面側の第1層と、裏面側の第2層とを備え、
前記第1層及び前記第2層は隣接し、
前記第1層又は前記第2層のいずれか一方が、液受入部Aを有し、
前記第1層は、少なくとも、検出確認部Bを有し、
前記第2層は、少なくとも、前記検出確認部Bに隣接する液流通部Dと、前記液流通部Dに接続された液流路Eとを有し、
前記第1層が液受入部Aを有する場合、前記液受入部Aは、前記検出確認部Bから離隔し、
被検査液を前記液受入部Aに滴下したときに当該被検査液が、毛細管現象により、前記液受入部A、前記液流路E及び前記液流通部Dをこの順で経由して、前記検出確認部Bまで流通するように構成されており、
前記液流通部Dが、内側に液非流通部D’が形成された環状構造である、ことを特徴とする、検査チップ。
【0016】
<3>シート状の検査チップであって、
表面側の第1層と、裏面側の第2層とを備え、
前記第1層及び前記第2層は隣接し、
前記第1層又は前記第2層のいずれか一方が、液受入部Aを有し、
前記第1層は、少なくとも、検出確認部Bを有し、
前記第2層は、少なくとも、前記検出確認部Bに隣接する液流通部Dと、前記液流通部Dに接続された液流路Eとを有し、
前記第1層が液受入部Aを有する場合、前記液受入部Aは、前記検出確認部Bから離隔し、
被検査液を前記液受入部Aに滴下したときに当該被検査液が、毛細管現象により、前記液受入部A、前記液流路E及び前記液流通部Dをこの順で経由して、前記検出確認部Bまで流通するように構成されており、
前記第2層が、前記液流路Eを複数本有する、ことを特徴とする、検査チップ。
【0017】
<4>前記液流路Eのうちの少なくとも2本が、互いに対向するように前記液流通部Dに接続された、<3>に記載の検査チップ。
【0018】
<5>前記液流路Eのうちの少なくとも2本が、略同一の形状を有する、<3>又は<4>に記載の検査チップ。
【0019】
<6>前記第1層が、前記検出確認部Bから離隔した前記液受入部Aを有し、
前記第2層は、前記液受入部Aに隣接する液流通部Cを有し、
被検査液を前記液受入部Aに滴下したときに当該被検査液が、毛細管現象により、前記液受入部A、前記液流通部C、前記液流路E及び前記液流通部Dをこの順で経由して、前記検出確認部Bまで流通するように構成されている、<1>〜<5>のいずれかに記載の検査チップ。
【0020】
<7>前記第1層が、前記検出確認部Bから離隔した前記液受入部Aを有し、更に、前記液受入部Aに接続された液流路Fを有し、
被検査液を前記液受入部Aに滴下したときに当該被検査液が、毛細管現象により、前記液受入部A、前記液流路F、前記液流路E及び前記液流通部Dをこの順で経由して、前記検出確認部Bまで流通するように構成されている、<1>〜<5>のいずれかに記載の検査チップ。
【0021】
<8>前記第2層が前記液受入部Aを有する、<1>〜<5>のいずれかに記載の検査チップ。
【0022】
<9>前記液受入部A、任意の前記液流通部C、任意の前記液流路F、前記液流路E、前記液流通部D、及び前記検出確認部Bは、毛細管現象により被検査液の流通が発現される素材Mでできており、
前記素材M以外の部分は、前記素材Mに疎水性材料を含浸させてなる、被検査液の流通が発現されない素材M’でできている、<1>〜<8>のいずれかに記載の検査チップ。
【0023】
<10>前記素材Mが、ろ紙である、<9>に記載の検査チップ。
【0024】
<11>前記素材M’における、前記素材Mへの前記疎水性材料の含浸率が14%以上32%以下である、<9>又は<10>に記載の検査チップ。
【0025】
<12>前記第1層の厚みに対する前記第2層の厚みの比(第2層の厚み/第1層の厚み)が、0.56以上2.2以下である、<1>〜<11>のいずれかに記載の検査チップ。
【0026】
<13>検出対象物質に起因した発色反応が前記検出確認部Bで起こる、<1>〜<12>のいずれかに記載の検査チップ。
【0027】
<14><1>〜<13>のいずれかに記載の検査チップの製造方法であって、
疎水性材料を用い、第1基板上に第1疎水性膜を形成し、第2基板上に第2疎水性膜を形成する膜形成工程と、
前記第1基板上の第1疎水性膜を用い、検査チップの第1層の反転デザインとなるように第1犠牲基材に印刷する第1印刷工程と、
前記第2基板上の第2疎水性膜を用い、検査チップの第2層の反転デザインとなるように第2犠牲基材に印刷する第2印刷工程と、
1枚のシート状素材の一方の面に、第1印刷工程後の第1疎水性膜を、転写し、前記シート状素材に含浸させる第1転写工程と、
前記1枚のシート状素材の他方の面に、第2印刷工程後の第2疎水性膜を、転写し、前記シート状素材に含浸させる第2転写工程と、
を備える、ことを特徴とする、検査チップの製造方法。
【0028】
<15>前記第1疎水性膜の厚みに対する前記第2疎水性膜の厚みの比(第2疎水性膜の厚み/第1疎水性膜の厚み)が、0.56以上2.2以下である、<14>に記載の検査チップの製造方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、被検査液に含有される対象物質とあらかじめ仕込んでおいた標識媒体とが反応し、当該反応による発色によって当該対象物質の存在を確認するための検査チップにおいて、発色ムラが有意に抑制された検査チップを提供することができる。また、本発明によれば、上述した検査チップを簡便に、高精度に、且つ低コストで製造することが可能な、検査チップの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1A】本発明の一例の検査チップの概略斜視図である。
図1B図1Aの検査チップの概略斜視図である。
図2図1Aの検査チップの、表面及び裏面の概略平面図である。
図3図1Aの検査チップの概略断面図である。
図4】本発明の一実施形態の検査チップを模式的に分解した図である。
図5】本発明の一例の検査チップの、表面及び裏面の概略平面図である。
図6図5の検査チップの概略断面図である。
図7】本発明の一例の検査チップの、表面及び裏面の概略平面図である。
図8図7の検査チップの概略断面図である。
図9】本発明の一例の検査チップの、表面及び裏面の概略平面図である。
図10】本発明の一例の検査チップの、表面及び裏面の概略平面図である。
図11】本発明の一例の検査チップの、表面及び裏面の概略平面図である。
図12】本発明の一例の検査チップの、表面及び裏面の概略平面図である。
図13】本発明の一例の検査チップの、表面及び裏面の概略平面図である。
図14】本発明の一例の検査チップの、表面及び裏面の概略平面図である。
図15】本発明の一例の検査チップの概略断面図である。
図16】一比較例の検査チップの、表面及び裏面の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を、実施形態に基づき詳細に説明する。
【0032】
(検査チップ)
本発明の検査チップは、シート状の検査チップであって、
表面側の第1層と、裏面側の第2層とを備え、
前記第1層及び前記第2層は隣接し、
前記第1層又は前記第2層のいずれか一方が、液受入部Aを有し、
前記第1層は、少なくとも、検出確認部Bを有し、
前記第2層は、少なくとも、前記検出確認部Bに隣接する液流通部Dと、前記液流通部Dに接続された液流路Eとを有し、
前記第1層が液受入部Aを有する場合、前記液受入部Aは、前記検出確認部Bから離隔し、
被検査液を前記液受入部Aに滴下したときに当該被検査液が、毛細管現象により、前記液受入部A、前記液流路E及び前記液流通部Dをこの順で経由して、前記検出確認部Bまで流通するように構成されている、ことを基本的特徴とする。
【0033】
また、本発明の一実施形態の検査チップは、上記の基本的特徴に加え、上記液流通部Dが、内側に液非流通部D’が形成された環状構造である、ことを更なる特徴とする。この特徴の詳細については、後述する。
【0034】
また、本発明の別の実施形態の検査チップは、上記の基本的特徴に加え、上記第2層が、上記液流路Eを複数本有する、ことを更なる特徴とする。この特徴の詳細については、後述する。
【0035】
また、本発明のまた別の実施形態の検査チップは、上記の基本的特徴に加え、上記第1層が1枚のシート状素材の一方の面に形成され、上記第2層が当該シート状素材の他方の面に形成されてなる、ことを更なる特徴とする。この特徴の詳細については、後述する。
【0036】
これらの検査チップによれば、発色ムラを有意に抑制することができる。
【0037】
なお、本発明の検査チップにおいて、液受入部Aは、被検査液が滴下される部位である。また、本発明の検査チップにおいて、検出確認部Bは、液受入部Aに滴下された被検査液中に抗原等の対象物質が存在するか否かが、発色の有無により確認される部位である。そのため、本発明の検査チップ1は、検出対象物質と反応する媒体、及び/又は、検出対象物質に起因して発色反応を起こす標識媒体を適所に備えることができる。また、好適には、本発明の検査チップ1は、検出対象物質に起因した発色反応が、検出確認部Bで起こる。
【0038】
本発明の検査チップが共通して有する上記基本的特徴の態様としては、より具体的には、液受入部Aが第1層に設けられるとともに、第2層が液流通部Cを有する態様(第1態様)、液受入部Aが第1層に設けられるとともに、第1層が更に上記液受入部Aに接続された液流路Fを有する態様(第2実施態様)、及び、液受入部Aが第2層に設けられる態様(第3態様)が挙げられる。
【0039】
<基本的特徴の第1態様>
図1A及び図1Bは、それぞれ、第1態様を有する検査チップ1の概略斜視図である。上記検査チップ1は、表面側、即ち、使用時に検査する人が検査結果を視認する面側の第1層10と、その裏面側の第2層20とを備える。図1Aは、検査チップ1の表面を上側にしたときの斜視図であり、図1Bは、検査チップ1の裏面を上側にしたときの斜視図である。図1A及び図1Bに示すように、検査チップ1は、シート状である。また、検査チップ1における第1層10及び第2層20は、間に介在するものが存在せず、互いに隣接している。なお、検査チップ1の平面視の形状は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、図1A及び図1Bに示すように矩形であってもよく、或いは、円形、楕円形等であってもよい。
【0040】
図2は、上記検査チップ1の表面及び裏面の概略平面図であり、その構造は、図1A及び図1Bに示す検査チップ1に対応する。図2に示すように、検査チップ1は、表面側に配置される第1層10に、液受入部A及び検出確認部Bが設けられている。これら液受入部A及び検出確認部Bは、検査チップ1の第1層10中で離隔している。
【0041】
更に、検査チップ1の第1層10には、液受入部A及び検出確認部B以外の部位として、液非流通部Xが設けられている。そして、液受入部A及び検出確認部Bは、例えば、毛細管現象により被検査液の流通が発現される素材Mでできている。また、液非流通部Xは、例えば、被検査液の流通が発現されない素材M’でできている。
【0042】
また、図2に示すように、検査チップ1は、裏面側に配置される第2層20に、液流通部Cと、液流通部Dと、液流路Eとが設けられている。液流路Eは、液流通部Dに接続されているとともに、液流通部Cにも接続されている。更に、検査チップ1の第2層20には、液流通部C、液流路E及び液流通部D以外の部位として、液非流通部Yが設けられている。そして、液流通部C、液流路E及び液流通部Dは、例えば、上述した液受入部A及び検出確認部Bと同様、毛細管現象により被検査液の流通が発現される素材Mでできている。また、液非流通部Yは、例えば、上述した液非流通部Xと同様、被検査液の流通が発現されない素材M’でできている。
【0043】
図2の検査チップ1をa−a’線で切断した際の概略断面図を、図3に示す。図3に示すように、第1態様を有する検査チップ1においては、第1層10の液受入部Aと第2層20の液流通部Cとが隣接しており、また、第1層10の検出確認部Bと第2層20の液流通部Dとが隣接している。即ち、第1態様を有する検査チップ1においては、液受入部A、液流通部C、液流路E、液流通部D及び検出確認部Bが、この順で隣接し又は接続されている。換言すると、第1態様を有する検査チップ1は、被検査液を液受入部Aに滴下したときに、当該被検査液が、毛細管現象により、液受入部A、液流通部C、液流路E、液流通部Dをこの順で経由して、最終的に検出確認部Bに流通するように構成されている。
【0044】
ここで、従来の検査チップは、基材上で液受入部と検出確認部(検出エリア)とを流路で単純に接続させているため、被検査液を液受入部に滴下したときには、基材の面方向に進んで検出エリアに到達する液流の勢いに起因して、発色が検出エリアの端部近傍(特に、液受入部から遠い方の端部近傍)に偏在してしまうという発色ムラの問題があった。その一方で、上記検査チップ1においては、上述した構成を有するため、液受入部Aに滴下された被検査液が、最終的に、検査チップ1の厚み方向(液流通部Dから検出確認部Bに向かう方向)に向かって、検出確認部Bに到達することができる。そのため、第1態様を有する検査チップ1においては、発色箇所を検出確認部Bの中央付近に留めることができるので、発色ムラを有意に抑制することができる。
【0045】
上述の通り、第1層10における液受入部A及び検出確認部B、並びに第2層20における液流通部C、液流通部D及び液流路Eは、例えば、毛細管現象により被検査液の流通が発現される素材Mでできている。一方、第1層10における液非流通部X及び第2層20における液非流通部Yは、例えば、上記素材Mに疎水性材料を含浸させてなる、被検査液の流通が発現されない素材M’でできている。
【0046】
図1A及び図1Bの検査チップ1を模式的に分解した図を、図4に示す。図4の左側に示すように、検査チップ1は、模式的には、上記素材Mと、第1層10のデザインを有した疎水性材料50からなるプレ第1層10’と、第2層20のデザインを有した疎水性材料50からなるプレ第2層20’とからなる。また、検査チップ1は、図4の左側に示すように、プレ第1層10’及びプレ第2層20’が、素材Mに対して両面から含浸した構成を有する。そして、検査チップ1は、図4の右側に示すように、素材の観点からは、例えば、素材Mと、当該素材Mに疎水性材料50を含浸させてなる素材M’とからなる。
【0047】
上記素材Mとしては、毛細管現象を生じさせるものであれば、特に限定されず、例えば、ろ紙等の紙、不織布、ニトロセルロース、ポリプロピレン等が挙げられる。これらの中でも、より簡便に、且つ低コストで検査チップを作製できる観点から、上記素材Mは、ろ紙であることが好ましい。また、素材Mの厚み及び目付量(密度)は、被検査液の粘度等を考慮して、適宜選択することができる。
【0048】
上記疎水性材料としては、素材Mに含浸することができ、且つ、素材Mにおける毛細管現象を阻害するものであれば、特に限定されず、例えば、ワックス又はそれを含有する組成物等が挙げられる。また、疎水性材料は、製造容易性の観点から、融点が90℃以下であることが好ましい。
【0049】
上記検査チップにおいて、表面側における液非流通部Xの素材M’は、検査する人が表面側の液受入部A及び検出確認部Bを容易に視認できるようにするため、着色されていることが好ましい。一方、上記検査チップの裏面側における液非流通部Yの素材M’は、着色されていてもよく、また、白色又は透明であるか、或いは着色されていなくてもよい。
【0050】
素材M’の着色は、例えば、疎水性材料に加えて着色剤を素材Mに含浸させることで、達成することができる。かかる着色剤としては、疎水性であることが好ましく、例えば、カーボンブラック(黒色顔料)をはじめとする顔料が挙げられる。また、着色剤としては、検査チップに用いる試薬に悪影響を及ぼさないものを選択することが好ましい。
【0051】
液受入部Aの平面視の形状は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、図2に示すように円形であってもよく、また、楕円形、矩形等であってもよい。
【0052】
検出確認部Bの平面視の形状は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、図2に示すように円形であってもよく、また、楕円形、矩形等であってもよい。
【0053】
液流通部Cの平面視の形状は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができるが、液受入部Aと同一形状であることが好ましい。また、液流通部Cは、検査チップの平面視で液受入部Aと実質的に一致する形状を有することが好ましい。
【0054】
液流通部Dの平面視の形状は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができるが、検出確認部Bと同一形状であることが好ましい。また、液流通部Dは、検査チップの平面視で検出確認部Bと実質的に一致する形状を有することが好ましい。
【0055】
本発明の検査チップの厚みは、特に限定されないが、例えば、100〜300μmとすることができる。
【0056】
本発明の検査チップは、図示しないが、検出確認部B、液流通部D及び液流路Eの組み合わせを、複数セット有することもできる。この場合には、複数の検出対象物質の有無の確認を、1回の検査で同時に行うことができる。
【0057】
<基本的特徴の第2態様>
図5は、第2態様を有する検査チップ1の表面及び裏面の概略平面図である。図5に示すように、検査チップ1は、表面側に配置される第1層10に、液受入部A及び検出確認部Bが設けられている。これら液受入部A及び検出確認部Bは、検査チップ1の第1層10中で離隔している。また、検査チップ1は、表面側に配置される第1層10に、液受入部Aに接続された液流路Fを有する。
【0058】
更に、検査チップ1の第1層10には、液受入部A、検出確認部B及び液流路F以外の部位として、液非流通部Xが設けられている。そして、液受入部A、検出確認部B及び液流路Fは、例えば、毛細管現象により被検査液の流通が発現される素材Mでできている。また、液非流通部Xは、例えば、被検査液の流通が発現されない素材M’でできている。
【0059】
また、図5に示すように、検査チップ1は、裏面側に配置される第2層20に、液流通部Dと、液流路Eとが設けられている。液流路Eは、液流通部Dに接続されている。更に、検査チップ1の第2層20には、液流路E及び液流通部D以外の部位として、液非流通部Yが設けられている。そして、液流路E及び液流通部Dは、例えば、上述した液受入部A、検出確認部B及び液流路Fと同様、毛細管現象により被検査液の流通が発現される素材Mでできている。また、液非流通部Yは、例えば、上述した液非流通部Xと同様、被検査液の流通が発現されない素材M’でできている。
【0060】
図5の検査チップ1をb−b’線で切断した際の概略断面図を、図6に示す。図6に示すように、第2態様を有する検査チップ1においては、第1層10の検出確認部Bと第2層20の液流通部Dとが隣接しており、また、第1層10の液流路Fと第2層20の液流路Eとが接続されている。即ち、第2態様を有する検査チップ1においては、液受入部A、液流路F、液流路E、液流通部D及び検出確認部Bが、この順で隣接し又は接続されている。換言すると、第2態様を有する検査チップ1は、被検査液を液受入部Aに滴下したときに、当該被検査液が、毛細管現象により、液受入部A、液流路F、液流路E、液流通部Dをこの順で経由して、最終的に検出確認部Bに流通するように構成されている。そのため、第2態様を有する検査チップ1においては、第1態様と同様、液受入部Aに滴下された被検査液が、最終的に、検査チップ1の厚み方向(液流通部Dから検出確認部Bに向かう方向)に向かって、検出確認部Bに到達することができる。そのため、第2態様を有する検査チップ1においても、発色箇所を検出確認部Bの中央付近に留めることができるので、発色ムラを有意に抑制することができる。
【0061】
上述の通り、第1層10における液受入部A、検出確認部B及び液流路F、並びに第2層20における液流通部D及び液流路Eは、例えば、毛細管現象により被検査液の流通が発現される素材Mでできている。一方、第1層10における液非流通部X及び第2層20における液非流通部Yは、例えば、上記素材Mに疎水性材料を含浸させてなる、被検査液の流通が発現されない素材M’でできている。
【0062】
上記検査チップにおいて、表面側における液非流通部Xの素材M’は、検査する人が表面側の液受入部A及び検出確認部Bを容易に視認できるようにするため、着色されていることが好ましい。一方、上記検査チップの裏面側における液非流通部Yの素材M’は、着色されていてもよく、また、白色又は透明であるか、或いは着色されていなくてもよい。
【0063】
上記以外で、第1態様と共通する事項については、説明を省略する。
【0064】
<基本的特徴の第3態様>
図7は、第3態様を有する検査チップ1の表面及び裏面の概略平面図である。図7に示すように、検査チップ1は、表面側に配置される第1層10に、検出確認部Bが設けられており、液受入部Aは設けられていない。
【0065】
更に、検査チップ1の第1層10には、検出確認部B以外の部位として、液非流通部Xが設けられている。そして、検出確認部Bは、例えば、毛細管現象により被検査液の流通が発現される素材Mでできている。また、液非流通部Xは、例えば、被検査液の流通が発現されない素材M’でできている。
【0066】
また、図7に示すように、検査チップ1は、裏面側に配置される第2層20に、液受入部Aと、液流通部Dと、液流路Eとが設けられている。液流路Eは、液流通部Dに接続されているとともに、液受入部Aにも接続されている。更に、検査チップ1の第2層20には、液受入部A、液流路E及び液流通部D以外の部位として、液非流通部Yが設けられている。そして、液受入部A、液流路E及び液流通部Dは、例えば、上述した検出確認部Bと同様、毛細管現象により被検査液の流通が発現される素材Mでできている。また、液非流通部Yは、例えば、上述した液非流通部Xと同様、被検査液の流通が発現されない素材M’でできている。
【0067】
図7の検査チップ1をc−c’線で切断した際の概略断面図を、図8に示す。図8に示すように、第3態様を有する検査チップ1においては、第1層10の検出確認部Bと第2層20の液流通部Dとが隣接している。即ち、第3態様を有する検査チップ1においては、液受入部A、液流路E、液流通部D及び検出確認部Bが、この順で隣接し又は接続されている。換言すると、第3態様を有する検査チップ1は、被検査液を液受入部Aに滴下したときに、当該被検査液が、毛細管現象により、液受入部A、液流路E、液流通部Dをこの順で経由して、最終的に検出確認部Bに流通するように構成されている。そのため、第3態様を有する検査チップ1においては、第1態様と同様、液受入部Aに滴下された被検査液が、最終的に、検査チップ1の厚み方向(液流通部Dから検出確認部Bに向かう方向)に向かって、検出確認部Bに到達することができる。そのため、第3態様を有する検査チップ1においても、発色箇所を検出確認部Bの中央付近に留めることができるので、発色ムラを有意に抑制することができる。
【0068】
上述の通り、第1層10における検出確認部B、並びに第2層20における液受入部A、液流通部D及び液流路Eは、例えば、毛細管現象により被検査液の流通が発現される素材Mでできている。一方、第1層10における液非流通部X及び第2層20における液非流通部Yは、例えば、上記素材Mに疎水性材料を含浸させてなる、被検査液の流通が発現されない素材M’でできている。
【0069】
上記検査チップにおいて、表面側における液非流通部X及び裏面側における液非流通部Yの素材M’は、検査する人が表面側の液受入部A及び検出確認部Bを容易に視認できるようにするため、着色されていることが好ましい。
【0070】
第3態様を有する検査チップは、例えば、フェールセーフの観点から、液受入部Aと検出確認部Bとを異なる面に配置したい場合などに、特に有用である。
【0071】
上記以外で、第1態様と共通する事項については、説明を省略する。
【0072】
更に、本発明の検査チップは、後述する特徴を適宜有することができる。以下、基本的特徴として上述した第1態様を有する場合をベースにして説明するが、いずれの特徴も、第2態様及び第3態様を有する場合に対して適用可能である。
【0073】
図9は、一実施形態の検査チップ1の、表面及び裏面の概略平面図である。図9に示す検査チップ1は、裏面側に配置される第2層20に設けられた液流通部Dが、環状構造であり、内側に液非流通部D’が形成されているという特徴を有する点以外は、図2と同様である。かかる検査チップ1においては、液非流通部D’の存在により、被検査液が液流通部Dから検出確認部Bに向かって進んだ際に、検出確認部Bにおいて外側から中央に向かう液流を形成させることができる。そのため、発色箇所をより一層検出確認部Bの中央付近に留めることができるので、発色ムラをより一層有意に抑制することができる。
【0074】
上述したような検査チップ1において、環状構造である液流通部Dは、円形、楕円形、矩形等の任意の輪郭形状を有することができるが、検査チップの平面視で検出確認部Bと実質的に一致する輪郭形状を有することが好ましい。また、液非流通部D’は、検査チップの平面視で液流通部Dの輪郭形状を縮尺した形状を有することが好ましい。更に、液非流通部D’は、検出確認部Bにおける発色の確認を阻害しないようにするため、白色又は透明であるか、或いは着色されていないことが好ましい。
【0075】
図10は、別の実施形態の検査チップ1の、表面及び裏面の概略平面図である。図10に示す検査チップ1は、裏面側に配置される第2層20が、液流路Eを複数本(図10ではE1及びE2の2本)有するという特徴を有する点以外は、図2と同様である。かかる検査チップ1においては、液流路Eが複数本存在することにより、被検査液が液流通部Dから検出確認部Bに向かって進む際に、各液流路Eからの液流の勢いが相殺して、検査チップ1の厚み方向の液流を促進することができる。そのため、発色箇所をより一層検出確認部Bの中央付近に留めることができるので、発色ムラをより一層有意に抑制することができる。
【0076】
上記の特徴に関し、第2態様を有する検査チップの場合には、液流路Eの数だけ液流路Fを複数本設け、第1層10の複数本の液流路Fと第2層20の複数本の液流路Eとをそれぞれ接続させることができる。
【0077】
図11は、別の実施形態の検査チップ1の、表面及び裏面の概略平面図である。図11に示す検査チップ1は、図9で示される特徴及び図10で示される特徴を組み合わせたものである。かかる検査チップ1においても、発色ムラをより一層有意に抑制することができる。
【0078】
図12は、別の実施形態の検査チップ1の、表面及び裏面の概略平面図である。図12に示す検査チップ1は、裏面側に配置される第2層20が、液流路Eを3本(E1及びE2に加え、E3)有するという特徴を有する点以外は、図11と概ね同様である。その際、図12に示す検査チップ1においては、3本の液流路Eを、互いに対向するように液流通部Dに接続させている。かかる検査チップ1においても、発色ムラをより一層有意に抑制することができる。
【0079】
図13は、別の実施形態の検査チップ1の、表面及び裏面の概略平面図である。図13に示す検査チップ1は、液流路E3が2本(E31及びE32)に分岐して、液流通部Dに接続されているという特徴を有する点以外は、図12と概ね同様である。かかる検査チップ1においても、発色ムラをより一層有意に抑制することができる。
【0080】
図14は、別の実施形態の検査チップ1の、表面及び裏面の概略平面図である。図14に示す検査チップ1は、液流路E1及び液流路E2に加えて、更に液流路Eを2本(E3及びE4)有するという特徴を有する点以外は、図11と概ね同様である。その際、図14に示す検査チップ1においては、4本の液流路Eを、互いに対向するように液流通部Dに接続させている。かかる検査チップ1においても、発色ムラをより一層有意に抑制することができる。
【0081】
上述したような検査チップ1において、液流路E(及び第2態様を有する場合における液流路F)の本数は、検査に必要な被検査液量の増大を抑制する観点から、4本以下であることが好ましく、3本以下であることがより好ましく、2本であることが更に好ましい。また、液流通部Dへの液流路Eの接続箇所の数は、4つ以下であることが好ましく、3つ以下であることがより好ましく、2つであることが更に好ましい。
【0082】
また、上述したような検査チップ1においては、図10図14に示すように、複数本の液流路Eのうちの少なくとも2本が、互いに対向するように前記液流通部Dに接続されていることが好ましい。これにより、被検査液が液流通部Dから検出確認部Bに向かって進む際に、各液流路Eからの液流が液流通部Dの中央付近に集まるとともに、検査チップ1の厚み方向の液流を促進することができる。そのため、発色箇所をより一層検出確認部Bの中央付近に留めることができるので、発色ムラをより一層有意に抑制することができる。
【0083】
また、上述したような検査チップ1においては、図10図14に示すように、複数本の液流路Eのうちの少なくとも2本が、略同一の形状を有することが好ましい。この場合、当該液流路Eを流通する液が、液流通部D及び検出確認部Bにほぼ同時に到達できるので、偏流を回避して、発色ムラをより一層有意に抑制することができる。
【0084】
上述した検査チップ1が、素材M(毛細管現象により被検査液の流通が発現される素材)と、素材M’(素材Mに疎水性材料を含浸させてなる、被検査液の流通が発現されない素材)とでできている場合、上記素材M’においては、上記素材Mへの疎水性材料の含浸率が、14%以上32%以下の範囲内であることが好ましい。上記含浸率が14%以上となるように検査チップを製造することで、被検査液の流路壁面(素材Mと素材M’との界面)が十分に均一となり、液受入部Aから検出確認部Bまでの液の流通をよりスムーズなものとすることができる。また、上記含浸率が32%以下となるように検査チップを製造することで、素材Mに疎水性材料を含浸させる際の閉塞などの不具合を十分に回避し、所望の流路構造を有する検査チップをより確実に得ることができる。
【0085】
なお、上記含浸率は、検査チップ1のうち、厚み方向全体に亘って素材M’でできている領域における当該素材M’に関する含浸率を指すものとする。
また、上記含浸率は、十分に低粘度となるように加熱した(例えば、120℃に加熱した)疎水性材料に素材Mを浸漬させ、温度を保持して十分な時間(例えば、3分間)放置して得られる素材M’については、100%と見なすことができる。より具体的に、上記含浸率は、実施例に記載の方法により求めることができる。
そして、上記含浸率の調整は、例えば、含浸させる疎水性材料の量(疎水性膜の厚みなど)の調節により行うことができる。
【0086】
上述したような検査チップ1においては、第1層10の厚み(t)に対する第2層20(t)の厚みの比(第2層の厚み/第1層の厚み)、即ちt/tが、0.56以上2.2以下であることが好ましい。t/tが0.56以上2.2以下となるように検査チップを製造することで、得られる検査チップに所望の流路構造をより確実に形成することができる。特に、後述する検査チップの製造方法により検査チップを製造する場合には、t/tが0.56以上2.2以下となるように検査チップを製造することで、シート状素材に疎水性材料を含浸させる際の閉塞などの不具合を十分に回避し、液受入部Aから検出確認部Bまでの液の流通の速度及び/又は速度安定性を効果的に高めることができる。同様の観点から、t/tは、1.0超である、即ち、図15に示すように、第2層20の厚みtが第1層10の厚みtよりも大きいことがより好ましく、1.3以上であることが更に好ましく、1.8以上であることが一層好ましい。また、t/tは、特に限定されず、3.0以下とすることができる。
【0087】
なお、上述した検査チップ1は、例えば、シート状素材に所定の部位(検出確認部Bなど)を形成して第1層10を作製するとともに、別のシート状素材に所定の部位(液流通部Dなど)を形成して第2層20を作製し、これら2枚のシート状素材を積層することで製造することができる。或いは、上述した検査チップ1は、1枚のシート状素材の一部に所定の部位を形成して第1層10を作製するとともに、当該1枚のシート状素材の別の一部に所定の部位を形成して第2層20を作製し、当該1枚のシート状素材を、第1層及び第2層の位置調整をしつつ折り畳むことで製造することもできる。しかし、本実施形態の検査チップ1は、1枚のシート状素材の一方の面側に第1層を形成し、他方の面側に第2層を形成して作製することが好ましい。このような、1枚のシート状素材の両面に第1層及び第2層がそれぞれ形成されてなる本実施形態の検査チップは、(1)積層(又は折り畳み)の手間及びコストを回避できる、(2)第1層及び第2層の間で、毛細管現象による被検査液の流通が確実になされる、(3)シート状素材の積層(又は折り畳み)を保持するための治具等が不要であるため、廃棄が容易である、等の様々な利点を有する。
なお、1枚のシート状素材の両面に第1層及び第2層がそれぞれ形成されてなる検査チップ1は、例えば、後述する検査チップの製造方法により、製造することができる。
【0088】
(検査チップの製造方法)
本発明の一実施形態の検査チップの製造方法は、上述した検査チップの製造方法であって、
疎水性材料を用い、第1基板上に第1疎水性膜を形成し、第2基板上に第2疎水性膜を形成する膜形成工程と、
前記第1基板上の第1疎水性膜を用い、検査チップの第1層の反転デザインとなるように第1犠牲基材に印刷する第1印刷工程と、
前記第2基板上の第2疎水性膜を用い、検査チップの第2層の反転デザインとなるように第2犠牲基材に印刷する第2印刷工程と、
1枚のシート状素材の一方の面に、第1印刷工程後の第1疎水性膜を、転写し、前記シート状素材に含浸させる第1転写工程と、
上記1枚のシート状素材の他方の面に、第2印刷工程後の第2疎水性膜を、転写し、前記シート状素材に含浸させる第2転写工程と、
を備える、ことを特徴とする。
かかる製造方法によれば、上述した検査チップを簡便に、高精度に、且つ低コストで製造することができる。
【0089】
<膜形成工程>
膜形成工程では、疎水性材料を用い、第1基板上に第1疎水性膜を形成し、第2基板上に第2疎水性膜を形成する。
【0090】
疎水性材料には、着色剤を配合することができる。また、疎水性材料には、粘度調整成分(例えば、樹脂等)、分散助剤、フィラー等を適宜配合することができる。なお、疎水性材料及び着色剤については、検査チップに関して既述した通りである。
【0091】
上述した疎水性材料は、膜を形成するに当たり、加熱して溶融させておくことが好ましい。加熱温度は、疎水性材料や粘度調整成分の融点を考慮して、適宜設定することができる。また、疎水性材料の溶融時の粘度は、のちに使用するシート状素材の厚みや目付量(密度)等を考慮し、所望通りにシート状素材に含浸させることができるよう、適宜選択することができる。
【0092】
疎水性材料の粘度としては、特に限定されないが、含浸させる際の閉塞などの不具合を十分に回避する観点から、140℃、せん断速度3000s−1における粘度が、100mPa・s以下であることが好ましく、50mPa・s以下であることがより好ましく、30mPa・s以下であることが更に好ましい。
【0093】
第1基板及び第2基板は、最終的に得られる検査チップの構成部材ではなく、検査チップの製造のために用いられる部材の一つである。第1基板及び第2基板としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステルや、ポリフェニレンサルファイド(PPS)や、セロハン等でできたフィルムを用いることができる。第1基板及び第2基板は、リボン状、フィルム状など、任意の形状を有していてもよい。また、第1基板及び第2基板としては、同一の基板を用いてもよい。
【0094】
膜形成工程では、上述した疎水性材料を塗布することにより、第1基板上及び第2基板上に疎水性膜を形成することができる。なお、塗布の際には、第1基板及び第2基板をあらかじめ加熱保持しておくことが好ましい。また、形成する第1疎水性膜及び第2疎水性膜の厚みは、のちに使用するシート状素材の厚み等を考慮して、適宜選択することができる。
【0095】
特には、第1疎水性膜の厚み(t’)に対する第2疎水性膜の厚み(t’)の比(第2疎水性膜の厚み/第1疎水性膜の厚み)、即ちt’/t’が、0.56以上2.2以下であることが好ましい。t’/t’を0.56以上2.2以下とすることで、後工程でシート状素材に疎水性材料を含浸させる際の閉塞などの不具合を十分に回避し、液受入部Aから検出確認部Bまでの液の流通の速度及び/又は速度安定性を十分に高めることができる。同様の観点から、t’/t’は、1.0超であることがより好ましく、1.3以上であることが更に好ましく、1.8以上であることが一層好ましい。また、t’/t’は、特に限定されず、3.0以下とすることができる。
【0096】
<第1印刷工程及び第2印刷工程>
第1印刷工程では、上記第1基板上に形成した第1疎水性膜を用い、第1犠牲基材に印刷する。また、第2印刷工程では、上記第2基板上に形成した第2疎水性膜を用い、第2犠牲基材に印刷する。
【0097】
第1犠牲基材及び第2犠牲基材は、最終的に得られる検査チップの構成部材ではなく、検査チップの製造のために用いられる部材の一つである。第1犠牲基材及び第2犠牲基材としては、汎用的であって、印刷が高精度に行えるものであることが好ましく、例えば、上質紙、コート紙、合成紙等が挙げられる。第1犠牲基材及び第2犠牲基材としては、同一の基材を用いてもよい。
【0098】
第1犠牲基材への印刷及び第2犠牲基材への印刷には、特に限定されないが、例えば、事務用品として汎用されるラベルライターを好適に用いることができる。そして、第1印刷工程では、第1基板上の第1疎水性膜を用い、検査チップの第1層の反転デザインとなるように第1犠牲基材に印刷する。また、第2印刷工程では、第2基板上の第2疎水性膜を用い、検査チップの第2層の反転デザインとなるように第2犠牲基材に印刷する。この点、図2に示す検査チップの製造を例に挙げると、第1犠牲基材に印刷されるデザインは、液受入部A及び検出確認部Bに対応する印刷膜を有するデザインである。また、第2犠牲基材に印刷されるデザインは、液流通部C、液流通部D及び液流路Eに対応する印刷膜を有するデザインである。
【0099】
なお、印刷するデザインは、例えば、パソコン等によりあらかじめ作成し、そのデータを印刷装置に取り込むことができる。また、第1印刷工程及び第2印刷工程は、同時に行ってもよい。
【0100】
<第1転写工程及び第2転写工程>
第1転写工程では、1枚のシート状素材の一方の面に、第1印刷工程後の第1疎水性膜を、転写し、当該シート状素材に含浸させる。また、第2転写工程では、上記1枚のシート状素材の他方の面に、第2印刷工程後の第2疎水性膜を、転写し、当該シート状素材に含浸させる。これにより、第1疎水性膜に由来する第1層及び第2疎水性膜に由来する第2層が形成される。
【0101】
疎水性膜の転写には、ラミネーター等の転写装置を用いてもよい。また、第1基板上の第1疎水性膜の転写及び第2基板上の第2疎水性膜の転写の際には、所望する検査チップのデザインに従って、それぞれの転写位置を適宜調整することが好ましい。
【0102】
シート状素材については、素材Mに関して既述した通りである。
【0103】
シート状素材への疎水性膜の含浸は、例えば、加熱により達成することができる。この点に関し、例えば、加熱可能なラミネーター等の転写装置を用いれば、疎水性膜の転写及び含浸の両方を行うことができる。
【0104】
ここで、第1転写工程及び第2転写工程では、上記含浸により、第1基板上から転写した第1疎水性膜及び第2基板上から転写した第2疎水性膜の少なくとも一部が、素材M中で接触するようにする。換言すると、シート状素材のうち、厚み方向で見て両面に疎水性膜が転写された箇所においては、厚み方向全体に亘って疎水性膜が含浸するようにする。一方、シート状素材のうち、厚み方向で見て一方の表面にのみ疎水性膜が転写された箇所においては、他方の表面にまで含浸しないようにする。このような調節は、例えば、上述した疎水性材料の粘度、シート状素材の厚み、疎水性膜の厚み等を適宜調整することで行うことができる。
【0105】
第1転写工程及び第2転写工程では、転写した疎水性膜を全てシート状素材に含浸させることができる。その場合、シート状素材の厚みは、第1転写工程及び第2転写工程の前後で、ほとんど変化しない(但し、ラミネーター等の圧縮の影響による厚み低下の可能性は考えられる)。
【0106】
第1転写工程は、第2転写工程の前に行ってもよく、第2転写工程の後に行ってもよい。或いは、第1転写工程及び第2転写工程は、同時に一括で行ってもよい。その場合には、シート状素材を、第1基板と第2基板とで、疎水性膜が当該シート状素材に接触するように挟持することができる。
【0107】
なお、第1転写工程及び第2転写工程の条件が同等であれば、含浸後に形成される第1層及び第2層の厚みの比(t/t)は、含浸前の各疎水性膜の厚みの比(t’/t’)から維持される。
【0108】
第1転写工程及び第2転写工程の後には、適宜、第1基板及び第2基板を剥離することができる。こうして、最終的に本実施形態の検査チップを得ることができる。
【0109】
本実施形態の検査チップの製造方法では、上述した所定の印刷工程及び転写工程を行うため、例えば市販のろ紙等の比較的粗い面を有するシート状素材を用いたとしても、転写不良やボイドの発生が少なく、検査チップをより高精度に製造することができる。
【0110】
また、本実施形態の検査チップの製造方法では、金型等を用いることなく、所望のデザインを有する第1層及び第2層を形成できるので、オンデマンドに基づく製造が可能である。
【0111】
また、本実施形態の検査チップの製造方法では、検査チップを1枚のシート状素材の両面に第1層及び第2層をそれぞれ形成して製造できるため、例えば2枚のシート状素材を用いて製造する場合(或いは1枚のシート状素材を折り畳んで製造する場合)に比べ、(1)積層(又は折り畳み)の手間及びコストを回避できる、(2)得られる検査チップの第1層及び第2層の間で、毛細管現象による被検査液の流通が確実になされる、(3)積層(又は折り畳み)を保持するための治具等が不要であるため、得られる検査チップの廃棄が容易である、等の様々な利点を有する。
【実施例】
【0112】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に制限されるものではない。
【0113】
(実験1)
まず、検査チップの第1層及び第2層のデザイン(流路構造)が色ムラに及ぼす影響について検討した。
【0114】
<検査チップの製造>
疎水性材料としてのパラフィンワックス(日本精鑞株式会社製、「Paraffin Wax -155」)48質量部、疎水性材料としての合成ワックス(三菱ケミカル株式会社製、「ダイヤカルナ(登録商標)80」)48質量部、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(東ソー株式会社製、「ウルトラセン(登録商標)681」)2質量部、及び着色剤としてのカーボンブラック(三菱ケミカル株式会社製、「MA−100」)2質量部を配合し、100℃で溶融混合した。その際、サンドミルを用いて各成分の分散を図った。このようにして、疎水性材料を調製した。
【0115】
120℃に保持したホットプレート上に、基板(東レ株式会社製、「ルミラー(登録商標)♯5A−F531」、ポリエステルフィルム、片面を耐熱処理済)を、耐熱処理が施されていない面を上にして配置した。次いで、上記基板上に、120℃で溶融状態を維持した上述の疎水性材料を、メイヤーバーにより、厚み約6〜12μmとなるように塗布し、リボン状の疎水性膜(第1疎水性膜及び第2疎水性膜)を形成した。
【0116】
次いで、ラベルライター(株式会社キングジム製、「テプラ SR750」)を用い、第1犠牲基材としての上質紙に対し、パソコン上であらかじめ作成した所望のデザインとなるよう、上述した疎水性膜を印刷した。同様に、第2犠牲基材としての上質紙に対し、パソコン上であらかじめ作成した所望のデザインとなるよう、上述した疎水性膜を印刷した。上質紙に印刷した上記の2つのデザインは、最終的に得られる検査チップの表面(第1層)及び裏面(第2層)のデザインを反転したものにそれぞれ対応する。なお、印刷後の上質紙は、のちの工程において特に使用しない。
【0117】
ここで、比較例1では、表面(第1層)のデザイン及び裏面(第2層)のデザインを、図16の通りとした。即ち、比較例1は、表面において液受入部A及び検出確認部Bが液流路で接続されており、表面及び裏面のデザインを略同一としたものである。また、実施例1−1〜1−7では、表面(第1層)のデザイン及び裏面(第2層)のデザインを、それぞれ図2、9、10、11、12、13、14の通りとした。
【0118】
次いで、上記印刷後の基板を用い、シート状の素材Mとしてのろ紙(Whatman グレード41)を、疎水性膜がろ紙に接触するようにして、適宜位置調整をしながら挟持した。そして、90℃に保持したラミネーターを用い、疎水性膜をろ紙の両面に一括で転写させた。各疎水性膜は、ろ紙に対して両面からほぼ完全に含浸し、直下にあるろ紙部分を疎水化した。これにより、所定のデザインを有する第1層が、ろ紙の表面側に形成され、所定のデザインを有する第2層が、ろ紙の裏面側に形成された。なお、ろ紙のうち、厚み方向で見て両面に疎水性膜が転写された箇所においては、厚み方向全体に亘って疎水性膜を含浸させるようにし、また、厚み方向で見て一方の表面にのみ疎水性膜が転写された箇所においては、他方の表面にまで含浸を到達させないようにした。
その後、両面の基板を剥離し、最終的に検査チップを得た。なお、いずれの例における第1層及び第2層も、同一の疎水性膜に由来しているので、厚みは同じであった。
【0119】
<色ムラの評価>
得られた各検査チップについて、表面(第1層)を上側にして配置し、検出確認部Bの中央に、水性タイプの赤色蛍光ペンで印を付けた。そして、液受入部Aに対して蒸留水をスポイトで3滴滴下して、水の流動による赤色印の変化を観察した。
【0120】
その結果、比較例1(図16)では、検出確認部Bの中央にあった赤色印が、検出確認部Bの外周(特に、液受入部Aから遠い方)に移動し、赤色を目視で確認することが困難であった。従って、比較例1の検査チップは、発色ムラが生じると認められ、そのため、定量分析には不向きである。
【0121】
これに対し、実施例1−1〜1−7(図2、9〜14)では、検出確認部Bの中央にあった蛍光ペンの印が、検出確認部Bの外周よりも内側に留まっていた。特に、実施例1−2〜1−7(図9〜14)では、検出確認部Bの中央にあった蛍光ペンの印が、検出確認部Bのより中央付近に留まっていた。これは、比較例1と比較して、ろ紙内で水が3次元的に流通できるように、液流路の適正化が図れているためであると考えられる。従って、実施例1−1〜1−7の検査チップは、発色ムラが有意に抑制されると認められ、そのため、定量分析も期待できる。
【0122】
(実験2)
次に、良好な液流通性を担保し得る第1層及び第2層の厚みの関係性について、検討した。
【0123】
表1に示す配合処方にて、疎水性材料(インク)を調製した。
【表1】
【0124】
*1 パラフィンワックス:日本精鑞株式会社製、「Paraffin Wax -135」
*2 合成ワックス:三菱ケミカル株式会社製、「ダイヤカルナ(登録商標)30」
*3 カーボンブラック:三菱ケミカル株式会社製、「MA−100」
*4 樹脂:東ソー株式会社製、「ウルトラセン(登録商標)722」
【0125】
疎水性材料としてインク1又はインク2を用い、ろ紙(素材M)としてWhatman グレード41(ろ紙♯41)又はWhatman グレード40(ろ紙♯40)を用い、ラミネーターの温度を適宜調整したこと以外は、上記と概ね同様のやり方で、検査チップを得た。その際、第1層及び第2層のデザインは、図11の通りとした。また、その際、第1層の形成に用いる第1疎水性膜及び第2層の形成に用いる第2疎水性膜の厚み(第1層及び第2層の厚みの比に対応する。)を、適宜変更した。
【0126】
得られた各検査チップについて、表面(第1層)を上側にして配置した。次いで、液受入部Aに対し、水性蛍光インクを蒸留水に溶かした液をスポイトで約0.3mL滴下し、滴下開始から、液が検出確認部Bに到達するまでの時間(流通時間)を測定した。同様の測定を8回行い、その平均値及び標準偏差を算出した。結果を、疎水性材料及びろ紙の組み合わせごとに、表2−表5に示す。
【0127】
【表2】
【0128】
【表3】
【0129】
【表4】
【0130】
【表5】
【0131】
表2−表5の例はいずれも、液流通性が良好といえる。このことから、第1層の厚みに対する第2層の厚みの比(第2層の厚み/第1層の厚み)については、少なくとも0.56〜2.2の範囲内であれば、良好な液流通性を担保し得ると考えることができる。
【0132】
(実験3)
次に、良好な液流通性を担保し得る疎水性材料の含浸率について、検討した。
【0133】
実験2で用いたものと同じろ紙(ろ紙♯41又はろ紙♯40)を5cm×2cmのサイズに切り取り、120℃で3分間乾燥し、乾燥質量M0(g)を測定した。次いで、当該ろ紙を、実験2で用いたものと同じ疎水性材料(インク1又はインク2)に浸漬させ、120℃で3分間放置した。浸漬後のろ紙を、同種のろ紙及びスライドガラスで挟持し、100gfの荷重下、120℃で1分間放置して、過剰な疎水性材料を除去した。その後、ろ紙の質量M1(g)を測定した。そして、(M1−M0)×1000より、単位面積当たりの最大含浸量Pmax(g/m)を算出した。
【0134】
表2−表5の各表において、第1疎水性膜及び第2疎水性膜の合計厚みが最小及び最大である実施例をそれぞれ選択するとともに、表1に記載のインクの密度を用いて、選択した実施例における単位面積当たりの実際の含浸量P(g/m)を算出した。そして、(P/Pmax)×100より、ろ紙への疎水性材料の含浸率(%)を算出した。結果を表6に示す。
【0135】
【表6】
【0136】
表6より、疎水性材料の含浸率については、少なくともおよそ14%〜32%の範囲内であれば、良好な液流通性を担保し得ると考えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明によれば、被検査液に含有される対象物質とあらかじめ仕込んでおいた標識媒体とが反応し、当該反応による発色によって当該対象物質の存在を確認するための検査チップにおいて、発色ムラが有意に抑制された検査チップを提供することができる。また、本発明によれば、上述した検査チップを簡便に、高精度に、且つ低コストで製造することが可能な、検査チップの製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0138】
1 検査チップ
10 第1層
10’ プレ第1層
20 第2層
20’ プレ第2層
50 疎水性材料
A 液受入部
B 検出確認部
C、D 液流通部
D’ 液非流通部
E、E1、E2、E3、E4、E31、E32 液流路
F 液流路
M 被検査液の流通が発現される素材
M’ 被検査液の流通が発現されない素材
X、Y 液非流通部
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16